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百鬼夜行抄 二次創作

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伶(蝸牛):絹の父・八重子の夫 覚:絹の兄・長男 斐:絹の姉・長女 洸:絹の兄・次男 環:絹の姉・次女 開:絹の兄・三男 律:絹の子 司:覚の子 晶:斐の子

1

「おう、久しぶりだなぁ」
街で柳本に出会った。
コイツは昔のなじみでヤミ金をしている。
「どうしてんだ? 最近。儲かってんのか?」
「それがなぁ、過払いとかなんだとかうるさくてよぉ」
「ああ、よくCMしてるな」
「そうだ、兄ィ。いい話があるんだ」
事務所に来てくれ、と言われ着いて行った。
「咲田ちゃんじゃないの、久しぶりだネ」
「おやっさん。ご無沙汰してます」
「へへ、この間の新野のレコの件、兄ィにと思いやして、どうでしょう」
「いいんじゃないの~、咲田ちゃん好きそうだものネ、ああいう子」
実は、とおやっさんから説明を受ける。
どうやら女遊びで金を借りた男が先日死んだらしい。
利息が膨れ上がり1200万。
家屋敷を売り払っても古屋敷に土地代では足りるわけもなく。
嫁を風呂に沈めたところで歳が歳、そう稼げないという事のようだ。
俺が女込みで買うなら800万で手を打つと。
「どんな女だい?」
「今から行きやしょうぜ」
柳本の舎弟が誘いをかける。
「行っといでよ、きっと咲田ちゃん好きになるヨ」
おやっさんに押し出されるように車に乗り込む。
女の家に行くまでに説明を求めると舎弟がべらべら話し出した。
「歳は41、年増っすね。家で若い女相手になんか教えてるらしいっす」
「センセイ様か」
「あんなに若い女がいるのに風俗に使っちゃうんだからバカっすよねー」
「そりゃあおめえ、好みってもんがあるだろうよ」
下卑た笑いに包まれる。
家に着くと和風建築。確かに古い。
柳本が訪いを告げて上がりこむ。
疲れた顔をしているが女は美人だった。
色喪服と思われる行儀小紋が静かで良い。
「まだ用意できてないんですの…。お願いしますから風俗だけは…」
「そいつはこの人次第だ」
女はハッとこちらを見上げる。
「それはどういう…?」
「この人がなぁ、あんたを気に入ればあんたごと買って下さるとよ。良かったなぁ」
「そ、そんな!」
「良いじゃねぇか風俗で知らねえ男のちんぽ何百と舐めたり入れたりしなくていいんだぜ」
「うっ…」
がっくりとした様子で可哀想になるが美しい。
「おい、自己紹介しねぇか」
「…新野良介の妻、静江と申します」
そこで止まってしまったので聞いてやることにした。
「何か先生をしているそうだが?」
「あ、はい、お茶とお花を教えております」
「そうか。手伝いは居るのか? 一人でやってるのか?」
「いえ、一人で…」
じっくりと観察する。挙措動作。品は良い。
しばらく眺めてから脱ぐように言った。
「えっ、そんな、出来ません」
「出来ませんじゃねえだろ、買ってもらうんだ、どうせ見られるんだぜ」
「お前ら後ろ向いてろ。俺の女にするんだ、お前らが見て良いと思うか?」
「おっとそりゃあ悪かった、おい!」
「へい」
女に隣の部屋へ行くよう促し、ふすまを閉める。
覚悟は決まらないようで解く手が止まるのを宥めたりすかしたりで脱がせた。
歳の割りにたるんでいない。
普段から着物なのか寸胴気味で胸はたれているがなかなか悪くない。
「気に入った。着ても良いぞ」
そう言って隣室に戻り柳本と買う話を本決めにした。
「おやっさんに口座番号を聞いてくれ」
その場で携帯から振込みを行う。
すぐに入金の確認をしてくれてこれで契約成立だ。
「へへ、やっぱり兄ィに言ってよかった」
「回収できねぇからどうしようかって思ってやしたよ」
「俺は女ともうチョイ話をしていくからお前ら先に帰って良いぜ」
「兄ィもうヤッちまうのは早くねぇか?」
「まだヤんねぇよ、話だ話し」
追い返して少しすると着替え終わったようで戻ってきた。
お茶と茶菓子を持って。
「あの、お茶を…どうぞ」
ちょうど喉が渇いていたので頂く。
少しぬるめ。うまい。
「私、これからどうしたらいいんでしょうか…」
「これまではどういう生活をしていた?」
「え?」
「毎日いつ起きて、何をしていたか言って見なさい」
4時半に起きて庭と玄関の手入れ、茶室の支度を整え弁当を作り朝飯を食わせ送り出し。
朝稽古、昼稽古、夕飯の支度、食事、風呂、団欒、就寝と日々の生活を聞き出した。
「そうか、だったら…」
カレンダーを確かめる。よし、火曜だ。
「火曜の夕方。とりあえず私の分の夕飯も作ってくれ」
「あ、はい」
「泊まるから」
「……はい」
「っと。法事は? その日は来ないから言いなさい」
手帳を小引出から取り、紙に書き写して渡してくれた。
「あの、一応この日です」
ふむ、きちんと七七日するようだ。
「なぁ、あんたなんで相続放棄しなかったんだ?」
「夫の車を処分してしまったものですから…知らなくて。こんなことになってるなんて…」
「あー、車ね、結構高く売れたの?」
「お葬式と、夫が友人にしていた借金を返しましたのでもうないんですの」
「ほか、もう借金はない?」
「舅と義兄に少し」
「それは返さんで良い。あんたの旦那が借りたもんだ。何か言ってきたら相手してやろう」
「はい…」
いくつか質問をし、おおよそのことは掴んだ。
ふと気づけば日が落ちている。
「ああ、もうこんな時間か。良ければ何か食いに行こうじゃないか」
「あ、でも…」
「ん? 精進か? このあたりどこか精進を食わせる店はあるのか?」
「いくつかありますけど…」
「電話してくれ。二人」
「その、夫がこうなってすぐに男の方と二人でというのは」
「外聞に差し障るか」
はい、と恐る恐る言う。
「ならまぁ俺は今日のところは帰ろう。ああ、それと」
財布から10万を出し手渡す。
「取り敢えず手持ちがないと不安だろう」
ほっとした顔で米屋のつけが、と言っている。
「おい、米屋とか魚屋とかにあるのかい、つけが」
「あっ…ええ、あの。先に借金を返したものですから」
「うーむ、ツケはいくらたまっているんだ」
家計簿を持ってきた。ちゃんと書いてるなんて良い奥さんじゃないか。
調べてみるとそんなには溜めていない。
計算して先程とは別に渡してやった。
「これで明日にでも清算してきなさい」
「はい、すみません」
「じゃあちゃんと飯を食って。身を大事にするように」
そういって立ち去った。

数日後、火曜日。
夕方、訪れると若い女の声が賑やかだ。
車庫に停めて様子を伺う。
少しやつれてはいるものの、きりっと優しげな先生をしている。
しばらくすると女どもを見送った静江が鍵をかけて買い物に出た。
こちらに気づく。
顔色が少し変わったが近寄ってきた。
「あの、これから買い物に行きますけれども何かお嫌いなものは」
いくつか答えてやると献立を決めたようだ。
「家でお待ちいただけますか」
「いや、無人の家に上がるのはまだ良くない。ここに居るから帰ってきたら呼びなさい」
ちょっと困った顔をしているが買い物に行かせた。
携帯をいじっているうちに30分ほどが経ち、女が帰ってきた。
車から降りて中へ入るとお茶を出してくれた。
俺が来るから、と言うわけでもなく片付いていて質素でもなく、普通の家庭と言う居間だ。
台所からは炊事の音。
何か懐かしい。
ふと台所を覗くと着物の上に割烹着。
すすけてない白が目に鮮やかだ。
良い買い物をした、そんな気にさせてくれる。
気づかれる前に居間へ戻る。
新聞が置いてあるのを読んだ。
米の炊けるいい匂いがして、仏間から線香の匂いがする。
あぁそうか、仏壇が先だ。
「遅くなりまして」
と女が飯とおかずを運んできた。
食卓に乗ったものを見ると肉がある。
「精進じゃないのか?」
「えぇ、私は精進ですけど…」
見ればおかずは別にしてある。
「手間だったろう。次からは同じもので良いよ」
「あ、はい」
頂きます、と食べ始めても手をつけようとしない。
食べるように促した。
「ん、うまい」
ほっとした顔をしている。
いちいち顔色を見るところがあるが、それはまぁ仕方ないか。
食後、しばらくして風呂を立てたというので入り、くつろいで女が入るのを見送る。
女の長風呂、とは言うが長い。
酒を用意してくれてあったのでちびりちびりと飲む。
ほんのりと桜色に染まった女が出てきた。
色っぽい。
すぐにでも抱きたくなるが思いとどまる。まだ早い。
暑かろうに上っ張りを浴衣の上から重ねており、警戒しているようだ。
手招いて酒を飲ませる。
汗が引いた頃、布団を敷いてきますと女が立った。
トイレから戻ってくると戸締りと火の始末ももうしたので、と言う。
連れられて客間へ入った。
女は布団の横で座って堅くなっている。
「今日はあんたも疲れただろう。部屋へ帰って寝なさい」
「は、はいっ」
そそくさと挨拶をして女は出て行った。

翌朝、味噌汁の匂いに起こされる。
すずめの声。
他人の家だが良く寝れた。
起き出して洗面を使い身なりを整えて台所へ顔を出す。
「おはよう」
「おはようございます」
朝飯も素朴ではあるが質素ではなく、うまいものだった。
それから女は布団を片付け、洗濯物を干し、家事を片付けて行く。
よく働くいい奥さんだ。
こんな女を置いて風俗通いとは。
けしからん。
昼前に茶室へ行き、自分の稽古の準備をしている。
これは事前に聞いてある。
軽い昼飯の後、一人で稽古をしはじめた。
興味もあるので見学をと申し出ると、少し緊張するようだ。
が、集中力はすごく、やはり人に教えるだけのことはあると思わせる。
夕方まで続き、俺は足が辛いので崩したが女はしびれてないと言う。
女曰く慣れだそうだ。
茶室を片付けた後、買い物へ行くという。
今日のところは俺も帰るとしよう。
「次はそうだな、土曜に来る」
「あ、はい」
「飯はあんたと同じでもいい」
「はい」
「それから追々で良いから慣れろ」
「…はい」
肩をぽんと叩いて別れた。

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533

梅雨に入っていつもならシトシトと鬱陶しい天気のはずなのだが。
今年は暑かったりゲリラ豪雨だったり寒かったりで先生が外出を嫌がる。
たまにはデートしたいんだけどな。
天候不安定だと疲れちまうんだろう。そう納得させて日をすごす。
何か先生は屈託のある様子で心が晴れない。
言いたいことがあるなら言ってくれれば良いんだが。

そんな微妙な雰囲気に焦れたのか八重子先生が長野へ行くようにとおっしゃった。
なにやら新設の美術館ができたらしい。
しかしながら会社は休めない。
となると一泊ということになる。少し渋ってたら先生が機嫌を悪くした。
「ですけど先生が大変でしょう? 4時間くらい電車ですよ、帰りは」
「久さんのうちに泊まって次の日帰るわよ」
「なに言ってるんですか、お稽古どうするんですよ」
「う…」
「いいよ、朝くらい。もう出来るよ」
「お母さん、良いの?」
「なんだったら律に手伝わせるよ、行っといで」
本当に甘いんだから。病み上がりなのに。
と、苦笑いしていると先生に足をつねられた。
「嬉しくないの? 嫌なの?」
「嫌じゃありませんよ」
「もうっ」
あ、席立って行っちゃった。
参ったな。
「取り合えずまぁ来週の火曜にでも、と思いますが」
最近火曜は人が少ないのでお稽古日ではない。
「そうだね、それでいいよ」
「その美術館どういうところなんですか?」
「よく知らないんだけどね…」
と話してくれた。
なんでも以前から上村松園やルノワールなどの絵画がメインの美術館の分館らしい。
そして今回開館に当たって屏風展をしているとか。
屏風かぁ…。
2時間半もかけてみるべきものが屏風。
「あ。戸隠ですよね、ここ。戸隠神社近いんじゃないですか?」
「どうだったかねえ」
さっと地図を調べる。近い。行き道だ。善光寺もあるが。
「先生ー! ちょっと来てください」
暫くしてどうしたの、と戻ってきた。
「善光寺も行きません?」
「近いの?」
「長野駅からすぐだということに気づきました。当日中にいけます」
「それだったら」
「美術館は戸隠なんで、戸隠神社も行きましょう。宿は長野駅近くで取りましょうか」
「近くにないの?」
「ほとんど宿坊なんですよね」
「だったらええ、それでいいわ」
調べる調べる。
あ。JR系列ホテルあるじゃないか。
平日だから予約は簡単に取れた。
「当日に宿に荷物を置いたら善光寺に行きます。で、翌日戸隠行きましょう」
「そうね」
決まった決まった。
先生がうきうきしている。
八重子先生も微笑んでいる。
後は俺の段取り次第だな。如何に仕事を早く終えるか。
ん? 焦げ臭い。
「先生、魚焼いてます?」
「あっいけないっ!」
あわてて台所へ。追いかけるとセーフの合図。
良かった良かった。
「あ、小芋洗ってくれる?」
「はいはい」
料理の支度を手伝ってるうちに律君も帰ってきた。
「ただいまー。あーおなかすいた」
「もうちょっとでできるわよ。そうそう。お母さん、来週火曜から木曜まで旅行だから」
「どこ行くの」
「長野よ。だからあんたおばあちゃんの事頼むわよ」
「うん、わかったよ」
夕飯を食べて風呂に入り、先生と旅行の話をつめる。
「山沢さんと行くんだ?」
「そう、善光寺と戸隠神社と、美術館。冬ならスキーなんだけどね」
「滑れないくせに」
ほほほ、と笑っている。
「雨降らないと良いな」
「そうねえ、週間天気予報はどうなの?」
「一応予定はないようだけど…雨具はもって行きましょう」
「山は天気が代わりやすいって言うものねぇ」
「レンタカーで移動ですし多目に積んでも問題ないですから」
なに着て行こう、と楽しそうにしている先生を律君は微妙な顔して見ている。
ちょっと位は気づいているのかもしれないな。
ふぁぁ、とあくびが出た。
「もう眠いの? 寝る?」
「そうですね、先布団入ってきていいですか」
「私もそれじゃ寝ようかしら」
「んじゃあ律君、悪いけど火の始末と戸締り頼むよ」
「はーい、おやすみなさい」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
先生の寝る支度を尻目に布団を敷き、もぐりこむ。
うー、眠い。
すぐに先生も俺の懐へ。
夜はまだひんやりしているから丁度良い。
もう少ししたらきっと暑くて蹴っ飛ばされるな。
去年はそうだった。
「おやすみなさい」
先生が俺の髪をなぶっている。
「おやすみ」
すぐに寝入ってしまった。

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532

ゴールデンウィークが終わり、平常どおりのお稽古が始まって暫く経った頃。
母が退院してきた。
山沢さんはこれまでのように毎日来てくれる。
様子見、と言ってもう少ししたらまた二日に一度にすると言う。
ずっと毎日いてくれたら私はうれしいのだけど…。

この間、兄さん達や姉さん達が集まってお祝いをしたときは遠慮して来なかったけど。
遠慮なんてしなくていいのに。

そうこうしている間に梅雨に入り、久さんが買ってくれた乾燥機が役に立っている。
久さんはそろそろ、とたまに来ない日が出てきて少し寂しい。

それでも泊まってくれる夜は寝過ごさない程度に、と愛してくれるけれど。
何か心が離れているのじゃないかと不安になってしまう。
母はそんなはずはないと言うけれど。


梅雨に入り仕事が少し忙しくなってきて、先生のお宅に行く気力がない日が出てきた。
幸い八重子先生も復調し、ご飯の支度くらいは、と言っていただいている。
これから夏に向けて暫く毎日は通えない日が続くだろう。
しかし先日の地震には驚いた。
先生は意外と怖がらなかったけれど。
抱きついてくれるかと期待したんだがなあ。
何より先に火の始末に走って行かれるとは思わなかった。
しかし、暑い。
夏になったらまたあっちの部屋で抱くことにしよう。

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531

翌朝は二人ともすっきり早朝に目が覚め、先生は上機嫌で風呂に入っている。
鼻歌まで聞こえ出した。
その間に朝飯を作って昨日の洗濯物をたたむ。
風呂から出てきた先生に皺酷いわね、と指摘された。
「ま、こんなもんですよ。どうせ仕事で着るもんですし」
気にしない。
「もうちょっと気にしなさいよ」
そういいつつ、ベッドからシーツをはいで洗濯をし始めた。
「良い天気ねぇ、これならお昼までに乾くかしら」
「かもしれませんね。さ、メシにしますか」
「そうね、いただくわ」
ゆっくり朝食をとった後、先生がシーツを干し掃除機をかけて俺は風呂とトイレの掃除。
久々に納戸に入り込んだ先生が溜息をついている。
「相変わらず変なもの集めてるのねぇ…」
この間買ったガラスのディルドと見た。
「使ってほしいですか?」
「いらないわよ」
ぺしっと俺の額を叩いた。
「あらいけない、手が汚れてたわ。頭洗ってらっしゃい」
「はいはい」
洗面所で洗うと叱られた。
面倒くさいじゃないか。
タオルドライして生乾きのまま昼飯に誘ったら今度は呆れられてしまった。
「風邪引くわ、だめよ」
連れ戻されてブローされてしまった。何かくすぐったい。
ふと気づくといつもと違う髪形になっている。
「遊んだな?」
うふふ、と楽しそうにしている。
「そろそろ髪切りに行きなさいよ、伸びてるじゃないの」
「ああ、そういえば最近行ってなかった」
「忙しくさせちゃったものねえ」
「まぁそれも八重子先生帰ってきたら気分的に楽でしょう?」
「そうね」
身支度を整え、持ち帰る荷物を積んで途中で昼を食って先生のお宅へ行くことにした。
先生のご希望により昼飯はサブウェイ。
一度買ってみたかったそうだ。
車で食いに来るような物ではないとは思うのだが…。
絶対こぼすだろうと思っていたが意外と先生はこぼさなかった。
上手に食うもんだなぁ。
感心してたらたまねぎが落ちた。
ついニヤッと笑ってしまう。
まぁ俺は俺でかなりこぼしているわけで。
先生のこぼしたのも一緒に始末した。
「おいしかったわ、そろそろ帰りましょ」
「はい」
帰宅して落ち着いたら休み明けの稽古の準備。
風炉になるからね。
でもこの間八重子先生と二人で出すものは出したんだ。
だから先生のしなきゃならない事はほんの少し。
茶室の支度をした先生が稽古をすると言う。
「あなたもお客様のお稽古と、それからそうね、何かお点前しましょ」
「あ、はい、お願いします」
まずは一度平点前を、それから先生は茶筅荘の点前をされた。
「あなた茶碗荘ね」
茶碗荘はあまり好きじゃないんだよなぁ。
それ知ってるからだろうけど。
やってみるとやはりスムーズには行かなくて、先生は無言。
「一応覚えてはいるのねぇ。でももっとお稽古しないと」
「はい」
玄関から律君のただいまが聞こえる。
「あれ、お母さん達帰ってたの?」
「おかえりなさい」
「そうよ~、手を洗ってらっしゃい。お菓子あるわよ」
「うん、わかった」
そういえばさっき何かいろいろ買ってたな。
玄関からごめんくださいの声も聞こえた。
先生がさっと立って行く。
「あ、後始末お願いね」
「はい」
手早く片付けて様子を伺うとおしゃべりに花が咲いてるようだ。
お茶が出てない。
先生が目配せするので支度して出し、買い物へ。
晩飯の用意しないとね。
お昼があれだったから和食が良いかな。
いくつか献立を考えつつ八百屋を見ていたらキャベツがおいしそう。
蒸しキャベツ、しようかな。
だったら人参とシメジと肉で良いだろう。メインは。
あ、しし唐。いためるか。
しかしジャコ高いんだよなぁ、その辺で買うと。まぁでもカルシウムは大事だ。
後はなに作ろうか。
うーむ、思いつかない。
先生にメールしたところ、小松菜の煮浸しが食べたいそうだ。
ちょっと野菜率が高いけどいいだろう。
買って帰って台所へ入る。
下ごしらえを済ましたころ、来客がやっと帰った。
先生が参戦してくれて効率が良くなる。
「あ、お父さん食べるのかしら」
「一応炊いてますよ」
「あらそう、ちょっと聞いてくるわ」
あ、木ベラ持って行っちゃったよ…。
仕方なく菜箸で豚肉を炒める。
菜箸は結構苦手なんだよな、刺さっちゃって。
「お父さん食べるって言ってるけど足りるかしら」
戻ってきておかずを見て考えている。
「常備菜ないんですか? ないなら俺、どっかで食って帰るから良いですよ」
「それはだめよ」
そういって冷蔵庫を覗き込んでいるが明日の朝の分しかない。
「ほら、できましたよ。俺は帰るから後はよろしく」
割烹着を脱いで先生に軽くキスした。
「こら、もう」
「じゃあまた明日」
「ありがと、ごめんね」
ばいばい、と手を振って帰宅する。
途中、居酒屋に入って酒を飲めないのを残念に思いつつがっつり食った。

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530

先生が寝ている間に出勤し、仕事を終えて帰ってきたら風呂から物音がする。
飯は作ってないようだ。
ということは今起きたところかな。
服を着替えて洗濯機を回し、台所の片づけを終えた頃先生が風呂から上がってきた。
「あら、お帰りなさい」
「ただいま」
「お風呂いただいたわ、あなたも入る?」
「そうしようかな。それから飯を食いに行こうか」
「どこ行こうかしら」
「考えといて」
さっき着た服を脱いでシャワーを浴びる。
やっぱりすっきりするね。
風呂から上がると先生がステーキ食べたい、と言うのでそのまま予約を入れた。
着替え、化粧の時間を考えて1時間後。ちょうどランチタイムだ。
さてなに着ていくか。
結局カッターとスラックス、ジャケットにしてしまったが先生には不評だ。
ステーキはうまかったし、ワインもうまかったのだが。
昼酒は楽しい。
機嫌の良くなった先生を連れて歩くのもまた楽しい。
またしばらくはこんなお出かけもできないだろうから先生も楽しんでいる。
夕方、そろそろ夕飯の買い物を、と言い出して百貨店の地下へ。
不断菜のカラフルなものがあった。おひたしにするようだ。
あれこれと買い物をして帰宅、先生が着替える間に下ごしらえをする。
割烹着を身に付けた先生が台所に入り手際よく料理をして行く。
おひたし、といっていたスイスチャードは炒め物になってしまった。
ま、いいんだけどね。
ご飯も炊けて味噌汁もできた。
夕飯をいただいた後はゆったりくつろぐ。
先生は俺にもたれかかってドラマを見ている。
あくび。
「寝ようか」
「もうちょっと待って、見終わったら寝るわ」
「手が暖かくなってるよ、眠いんだろう?」
「だって気になるじゃない」
「まあ、うん。そうだな、気にはなる」
犯人は誰なんだ。
CMの間にちょっかいを出したり、キスをしてみたり。
したくなってしまい膝の上に乗せて後半はドラマの筋が追える程度になぶる。
「ばか、もう。すぐしたがるんだから」
あえぎつつもドラマを見ている先生が可愛くて。
番組が終わった後、気持ちよくしてやった。
とはいえ明日は帰さなくてはいけないのでここで打ち止め。
お手洗いを済ませた先生とベッドにもぐった。
案の定すぐに寝息が聞こえる。
俺もつられてすぐに寝た。

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