忍者ブログ
百鬼夜行抄 二次創作

let

伶(蝸牛):絹の父・八重子の夫 覚:絹の兄・長男 斐:絹の姉・長女 洸:絹の兄・次男 環:絹の姉・次女 開:絹の兄・三男 律:絹の子 司:覚の子 晶:斐の子

h45

翌朝、仕事も手につかぬまま時間になって。
切り上げて先生のお宅へ。
先生がいない間に掃除や洗濯をした。
三時ごろ、電話があり買い物を頼まれる。
今日の晩御飯の分だ。
帰宅した先生と食事を作り、食べたらすぐにお別れ。
暫くはこういう日が続くだろう。
出来るだけサポートしようと思う。
明日は泊まっていってくれるわよね、と念を押された。
念押しせずともいつも泊まっているのに。
それだけ寂しいのかもしれない。心細いのか。
翌日の昼に伺うとまた不在、と思いきや。
居間を開けたら孝弘さんが転がってた。
「あれは茶室におるぞ」
「あ、こんにちは。ありがとうございます」
茶室へ行ってみると一人でじっくりお稽古されている。
「山沢です、入ります」
「あら。こんにちは。いらっしゃい。もうそんな時間?」
「そうですね、そんな時間です」
「ちょっとお正客してくれないかしら」
俺へのお稽古にもなるので二つ返事で席に着いた。
お茶を頂いて問答を交わす。
渇いた喉に濃茶はちょっと絡むが甘くてうまい。
こほ、と咳払いをしてしまった。
気づかれてお薄を別に点ててくださった。
「うっかりしてたわね、ごめんなさいね」
「いえ、おいしかったですよ」
「そう? ありがと」
流れるように仕舞われてすべてを片付けて襖を閉められた。
水屋に向かい先生に挨拶をする。
「お稽古ありがとうございました」
「こちらこそ」
くぅ、と先生のお腹がなる。
「お昼、まだだったんですか」
「いけない、いま何時かしら。お父さんのご飯しないと」
「してきましょうか? というかいつからお稽古してたんです?」
「6時半から支度して今まで…」
「それは随分としたものですねぇ。待っててください、支度しますから」
炊飯器を見ると食べつくした形跡がある。
孝弘さんが空腹に負けたようだ。
ご飯を新たに炊いてその間にいくつか作る。
今日は根深汁に味噌漬けを焼き、菜花のおひたし。香の物。
朝に買い物してないからこんなものだ。
「できた?」
「ええ、もうすぐご飯も炊けます。これでいいですか?」
「玉子焼食べたいわ」
「…甘いのか辛いのかどっちですか」
「今日は甘いのがいいわね」
「はいはい、待っててくださいよ」
そういえば乾燥のエビがどこかに…あった、桜海老。
出し巻きにしないように気をつけて作る。
「お父さーん、ご飯ですよー。遅くなりましたけど」
「先生、出してってもらえますか」
「はぁい」
お味噌汁を運んで席に着く。
「いただきます。あら、おいしいわね」
「お腹すいてるからでは?」
箸の進みが速い。
ぱくぱくと食べておかずが減る。
食欲魔人が二人。
先生が先に箸を置いた。
「ごちそうさま、おいしかったわ」
「お粗末さまでした」
残ったのを孝弘さんが全部食べる。
先生はそれをにこやかに眺めつつお茶を飲んでいる。
孝弘さんが食べ終わって先生はトイレに、俺は食器を下げて。
「久さん、ね。お買物行きましょう」
「ああ、はい」
そうか、八重子先生がいないからには買出しも行かないと。
律君と二人で買い物は時間が合わないしね。
それに女のものはたとえ親子でも買いにくいだろう。
「お父さん、すみませんけどお留守番お願いしますね。炉の火は落としてませんから」
「わかった」
いつものことゆえ大丈夫だろうが先生はちょっと過敏になっているのだろう。
助手席をいつもならねだるられるのだが何も言わず定位置に乗ってくれた。
トイレットペーパーや生理用品、ティッシュなどかさばるものを買って積み込む。
それからおかずになるものを。
帰宅してすぐ、茶室に呼ばれた。
「お稽古するから。あなた暫くお正客ね」
はいはい。
残り火から炭に火を移し湯を沸かすその間に交代でトイレを済ませ手を清めた。
そろそろ湯も沸いたようだ。
先生が少し炭を直されてお稽古が始まる。
よどみなく先生の手が動く。
何度目かのお稽古を終え、先生に夕飯の支度を頼まれた。
もう一度か二度、お稽古は出来る時間だ。
支度をして律君の帰りを待つ。
今日はそんなに遅くならないというから。
孝弘さんが空腹を訴えだした頃、先生が水屋を片付けて戻ってきた。
「律、まだかしらねぇ」
「孝弘さんだけ先にしましょうか?」
うーん、と時計を見て少し悩んでいる。
「もうちょっと待ちましょ」
三人だけは少し寂しいらしい。
孝弘さんじゃ会話にならんからなぁ。
少し待つと律君が帰宅した。
よし、出そう。
待たなくても良かったのに、と律君が言うが先生の気持ちも考えろ。
食事の後順次風呂に入って火の始末、戸締りを用心深く確かめる。
さてちょっと早いけど寝るかね。
布団を敷いて先生の寝支度を眺める。
寒くて手早く済ませもぐりこんできた。
頭を撫で、背中をなでる。
すぐに寝息が聞こえてきた。俺の胸に頬寄せて。
そういえば目の下にクマがある。
どうやらここ暫くはよく眠れなかったようだ。
俺も寝息に引き込まれ、寝た。
 
翌朝、起きるべき時間になっても先生は寝ていて。
そのまま布団に残して朝食の支度に立った。
結局先生は昼前に起きてきて。お腹がすいたと訴える。
あと一時間もすれば昼飯を作るんだが…。
「冷蔵庫にカステラあるから切って頂戴よ」
「それなら」
「ん?」
「昨日孝弘さんが食べちゃいましたよ」
「あぁそう…なの。なにかないかしら…」
「買ってきましょう、ちょっと待っててくださいね」
「悪いわねぇ」
スイーツで良いだろスイーツで。
がっつり甘そうなデザートを買ってきて渡すと嬉しそうに食べ始めた。
ほほえましい。
先生は食べ終わって庭掃除を始めた。
昼飯の支度は先生がするといってるから茶室の掃除をしよう。
「ところで律は?」
「あぁ、なんか用があるからって朝から」
「そう? じゃお昼からお母さんの病院付き合ってくれない?」
「お見舞いですね、わかりました」
茶花の手入れをしている姿もいいな、うん。
丁寧に障子の桟を拭いてそれから畳を拭いて、ふと顔を上げれば最早いない。
台所から微かに物音が聞こえる。
今日の昼はなんだろう。
食事を作る音は好きだな。
小さな茶室でも丁寧に掃除をすると汗をかく。
毎日ここまではできないなぁ。
先生はやっぱり偉いや。
水屋を掃除し終え、手を洗って戻ると丁度出来たようだ。
「お父さん呼んで来て」
「はーい」
三人で食事を取って、それから先生を乗せて病院まで。
車中、先生に謝られた。
「ごめんなさいね、昨日…したかったんじゃない?」
「いや。あなたの睡眠時間のほうが大切ですからね。寝れなかったんでしょう?」
「そうなの、どうしても布団に入ると静かでしょ、いろいろ考えちゃって」
「考え事は一番ダメですよねー、布団入ってからは」
「そうなのよね。昨日はあなたもいたし、寂しくもないから、つい」
「いいよ、疲れてるんだしね」
到着して病室へ移動する。
今日は目の下にクマがないね、と八重子先生。
なんだ、心配してたのかな。
「そうなの、昨日久さんが泊まってくれたから」
「そうかいそうかい、良かったねえ
「お母さん、調子はどうなの?」
「毎日頑張ってリハビリしてるよ、早く戻らないとね」
「そんなに焦らなくてもゆっくり直したら良いわよ」
「やぁ先生、卒中後はなるべく早く、頑張らないと長引きますよ」
「でも…」
「最初に皆で手伝ったら後遺症が辛い、なんて事が良くあるんです」
「そうだよ、後悔はしたくないからね」
「八重子先生、その意気です! 手伝っていい事はお手伝いしますから」
「そうなの?」
「あ、先生は甘くても良いです」
「なぁに、それ」
「一人くらい甘い人がいないとストレスたまるじゃないですか」
「あぁそれはそうだね」
「と言うことで担当は先生で」
「ところでうちの方は?」
「昨日朝からお稽古してみたけど一人って結構大変だわね」
「そうだろうねえ。朝は少し遅めからにして時間も短縮にしないといけないと思うよ」
「うん、じゃないとお昼ごはん作れなかったもの」
「明後日は時間調整して再チャレンジします?」
「そうね、そうしようかしら」
「来月には再開して欲しいねえ」
「なるたけ頑張ります」
喋っているうちに昼のリハビリが始まってしまった。
先生は真剣な顔で見ている。
間接が固まってしまわないように、筋力を落とさないように。
初期のリハビリは本当に大事だ。
病院の帰り道に夕飯の買物をする。
一度帰ってからは面倒だからね。
そんなこんなで八重子先生がいないお教室の運営を始めたが結構大変だ。
主婦が別に一人いるから回る面もあったわけだなぁ。
今後を見据えれば稽古日を減らし、生徒数を絞らねばなるまい。
お花をメインにしていかないと時間のやりくりがつかなくなる。
だがまぁそれは先生と八重子先生で話し合うべき問題だ。
律君も学校がない時間にお見舞いに言ったり家事を手伝ったりと忙しくしている。
こういう時一人っ子は大変だ。
たまに晶ちゃんが着て孝弘さんの面倒を見てくれたり。
それでも先生はあまり愚痴は言わない。
夜になって疲れて寝てしまう日々だ。
時折思い出したように俺に謝る。
今は慣れない忙しい生活、俺にしても夜は眠いから我慢くらい出来る。
ある日ふと先生が空を見上げた。
「あぁ、もう春なのねぇ」
「春ですねぇ」
「忙しさにかまけて忘れちゃってたわね」
「仕方ありませんよ」
「暖かくなったわ、そろそろお道具も変えなきゃいけないわねぇ」
「うん、お手伝いしますよ」
茶道具から春らしい水指や茶碗を出す。
「ひな祭り、去年はあなたと美術館行ったわね。覚えてる?」
「ああ。行きましたっけねぇ。ですけどあれは節句の後では?」
「そうだったかしら。あ、そうね、ひな祭りはうちにいらっしゃいって言った気がするわ」
「今年は来てましたけど、そんな暇なかったですねえ」
「来年こそはしましょ」
「はい」
冬のイメージの強い道具は片付けて奥へやり。夏のものを手前へ出す。
「夏までにはお母さんも帰ってるからきっと…」
「あ。ベッドは必要になるかもしれませんね」
「どうかしら」
「まぁ退院近くなったらあちらの先生方と相談しましょうね」
床からの起き上がりは残った後遺症によっては難しいから。
日本家屋対応リハビリをしててくれることを祈ろう。
なんとかお稽古と仕事、家事を両立させる日々。
気づけばもうすぐ桜が咲きそうだ。
「お花見、したいですね」
「そうねぇ」
お夕飯を食べて俺は洗い物、先生は縫い物や瑣末な家事を。
茶室の掃除は俺の仕事。
明日朝一から先生がお稽古しやすいように。
「終りました」
「ご苦労様、お茶入れるわね」
先生と二人で飲んで、すっかり暗くなった外を眺める。
「帰りたくなくなるな」
「お仕事、あるんでしょ? だめよ」
しょうがない、休めないし帰るか。
今日は早めに追い出されて、帰宅後は眠りをむさぼる。
アラームがなるまで熟睡していたようだ。
 
 
先生もお疲れだが俺もそれなりに疲れている。
夏までに退院して欲しいものだ。
数日後、大型店に連れ出していろいろ買物していると先生が何かに目をとめた。
「どうしました」
「あっ、なんでもないわ」
見てたのは……首輪?
「いま犬は飼えませんよ? 手が掛かりすぎる」
「そ、そうよね、ええ、飼えないわよ」
あれ、ちょっと頬が赤い。
先生はすぐにその場を離れて他の消耗品を籠に入れはじめた。
車に戻ってから聞き出す。
「先生。あなたまた私の雑誌読んだでしょう」
「う、わかっちゃった?」
「今回はなんですか、首輪されたいんですか? 暇になったらつけてあげますよ」
「そうじゃないのそうじゃないの。つけないで頂戴っ」
きゃあきゃあと騒いでいる。
「いやぁつけてるところも見たいね。後で首のサイズ測ろうか」
「やだ、もうっ。忘れて頂戴よ」
たまにはこういう会話も楽しい。
帰宅して、夜。
布団の上で座ったまま抱き寄せる。
「本当はねぇ。夜桜にあなたを縛り付けて。ほろほろと散り行く花を楽しみたい」
想像したらしくほんのりと顔を赤らめている。
「だめ、そんなの…」
久しぶりに抱きたくなって少し言葉で弄る。
ゆっくりと先生のおっぱいを揉みつつ。
久々の肌を楽しむ。
「ねぇ、じらさないで…」
珍しくねだってきたので横たえて裾を割った。
「随分濡れてますね」
「やだわ、恥ずかしい…久しぶりだもの…」
「可愛いな」
久しぶりに肩を噛まれ、背に爪痕を残されるほどで。
先生もそれなりに俺を欲していたのかもしれない。
ただ疲れと眠気が勝っていただけで。
翌朝、先生は朝ご飯に間に合わなかった。
溜息をつきつつ遅めの朝ご飯を食べられてからお見舞いに行く。
リハビリは順調なようでそろそろ退院したいけど、と仰る。
が、お医者様がもうちょっとと言うからと八重子先生も我慢されてるようだ。
「まだ床からの立ち上がりが不安定でして。
 それが確実に出来るようになれば帰って構いませんよ」
どうやら早期退院させて、転倒骨折で再入院がいやなんだそうだ。
俺達にしても早く帰ってきては欲しいものの、転倒事故は困る。
先生は八重子先生の愚痴を聞いては宥めている。
そのストレスは車の中で俺に発散だ。
別に良いけどね。
たまには半日くらい家を空けても良いんじゃない? 俺の為に。
そうは思うが要求されるのもストレスになるだろうし諦めた。
帰宅して食事の支度をしていると雨が降ってきて。
桜が散ってしまう。惜しいな。
「明日、庭掃除が大変ねえ」
「確かに」
情緒と言うのは余裕あってのものだな。
ご飯を食べて後片付けをして帰り支度をする。
「わ、結構降ってますね」
「車で来てるのよね、気をつけて帰って頂戴よ」
「帰るの面倒になっちゃったな」
「お仕事でしょ?」
「休みたいなあ」
「私だって…休んだら? って言いたいわよ。でも駄目」
本当に気をつけてね、と送り出されて渋々帰宅する。
雨の夜の運転は好きじゃない。
それも会いに行くんじゃなく帰るんだから億劫だ。
翌日も降り続き、折角の桜のシーズンなのに花見も出来やしない。
そんなわけで仕事も暇だ。
止んで欲しいなぁ、花見したい。
先生に余裕がないから無理かもしれないけど。
いっそ八重子先生を巻き込めば出来るかな。
当日でも外出許可はもらえるだろう。
仕事が終わり、先生のお宅へ。
お稽古しておられる間に家事を済ます。
最後の生徒さんが帰られたので水屋へ入った。
「久さん、ちょっとこっちへいらっしゃいな」
「はい?」
「お稽古つけてあげるわ。最近出来てなかったでしょう?」
「いいんですか?」
「台子は出してないから荘物か何か…そうね、茶筌飾りはどう?」
「支度してきます」
手早く用意をして、お稽古のお願いをして見ていただく。
少し手直しをされはしたものの全体的には可の評価。
「お稽古してなかった割には良かったわ」
「ありがとうございます」
「でもこのままじゃ駄目ねぇ…。お稽古の日程考え直さないと」
「そうですねぇ。律君がお嫁さん貰ったら別ですが」
「まだ早いわよ」
「そうか律君が稼ぐか…無理か、文系じゃ」
「今って大卒でも就職できないのよねぇ」
ほぅ、と溜息をついている。
先生も心配なようだ。
「ところで。散らないうちに花見しませんか」
「あら、いいわね」
「八重子先生をお誘いしてどこか行きましょうよ」
「お母さんも?」
「そのほうが先生は気が楽でしょう?」
「そうねぇ」
自分だけ楽しんで、なんて思ったりするだろうし。
片付け終えたらおかずを温め、ご飯だ。
4人で夕飯を食べる。
先生がもはや眠そうだ。
「もう寝たら?」
「そうするわ、悪いけど後お願いね」
ご飯を半分ほど残して部屋に去って行かれた。
やっぱり一昨日の疲れが尾を引いているようだ。
暫くは無理だな、これは。
先生の残ったご飯は孝弘さんが食べて始末がついた。
「さてと。洗い物をしたら私も帰るから。戸締りと火の始末はよろしく頼むよ」
「あ、はい。じゃお風呂入ってきます」
「うん」
台所を片付けて、一応茶室の炭を確かめる。
よし、問題はないね。
帰る前にちょっと先生の寝顔見てくるか。
そろりとお部屋に入って眺める。
額に縦皺つけてなにかいやな夢でも見ているのだろうか。
頭をなでているうちに穏やかな顔になってきた。
可愛いなぁ。
仕事がなければずっとこうしていたいがそうも行かない。
ある程度で諦めて部屋を後にした。
帰宅して、暗くて片付いてない自室。寂しいなぁ。
ベッドに潜り込み、溜息つきつつ寝た。
 
翌朝も雨で陰鬱だ。
それでも多少は売れて。
「今年は駄目だね」
「週末になっては雨ではなあ」
「売れるものの売れない」
「というか魚も来ない」
雨続きで市場にも活気がない。
さて今晩は何を作ろう。可愛らしいカレイでも持って帰ろうか。
先生のお宅の炊事洗濯には慣れたけど献立を考えるのが億劫なのは先生もよくわかってて。
ちゃんとメールで今晩の献立を書いてくれてある。
俺に任せておくと肉が増えてしまうから。
毎晩先生と夕飯を共にするのは楽しい。
体力的には流石に疲れるが。
お稽古がお休みの日に二人で昼寝をするのがなければ続かない。
そのまま抱きたくなるのが問題だが。
大抵そういう日は先に先生が起きて夕飯の支度を始めてしまって。
翌朝のお弁当を持たされることになる。
先生が作るご飯はおいしいから嬉しい誤算なのだが。
そうしていつ花見にしようと思っていた夜。
孝弘さんが食卓にいないようだ。
「あら、お父さんは?」
「あーなんか友達と麻雀してくるって。暫く帰らないかもって言ってたよ」
「そう? 弱ったわ、ご飯どうしよう」
「冷凍して明日チャーハンしましょうよ」
「律もそれでいい?」
「いいよー」
カレーでもいいが匂いがね。稽古中に漂うのはちょっと。
余ったおかずを弁当箱に詰めて取敢えずは俺の朝飯に。
「暫くってんならご飯、二合くらいにしましょうか、明日から」
「そうした方がいいわねぇ」
律君がいない日は先生一人の食事か。
俺は慣れてる一人飯だけど先生にはきっと侘しかろう。
と思ったがどうやらそれは昼ならちょくちょく発生していた状況らしい。
せめて夜だけは三人で食べよう。
洗い物をしてから帰宅。明日は泊まれるから少し気楽だ。
翌朝、やはり雨。花が散る、散ってしまう…。
料理屋さんもこの雨には苦笑い、諦め半分に仕入れして帰る。
「ただいま」
お稽古中の先生の家に上がりこみ、家事をしていると先生が来た。
「あら、着替えてないの? まぁいいわ。生徒さんお休みだから今日はこれでお仕舞い」
「え、なんですかそれ」
「お花見行ってるらしいのよね」
「晴れたからか、そうか…じゃ俺たちもどこか行きませんか」
「そうねえ、まだ咲いてるのかしら」
「いくつか心当たりあるでしょう? 車だからどこでもかまいませんよ」
「そう? うーん…でも朝は雨だったから下が濡れてるわよねえ」
それはそうだ。ブルーシートはダメだし茣蓙では水気が浸透するな。
「残ってるかどうかわからないけど…羽村はどうかしら」
「どこですそれ」
「多摩川沿いの自然公園よ。確か夜もいい筈だから」
「OK、そうしましょう」
「車は置いて行って歩きましょ。律はもどこか行くって言ってたから遅くなっても良いわ」
「じゃ弁当どうしましょう」
「そうね。お弁当は…いらないわね。売店あるから」
「途中で降られりゃ中止してどこか飯食いに行っても良いな」
「じゃ着替えて…」
ザッと音がした。
「えっ? 嘘、降ってきたわ」
「えぇ!? うわ、マジか、今まで晴れてたのに~」
先生が肩を落とし深い溜息をつく。
「また今度ね…」
「来週あたり晴れたら奥多摩行きましょうか」
「そうね…」
「あぁでも。なんだからどこか飯は食いに行きませんか?」
途端ぱっと顔を輝かせた。
いくつか心当たりに電話して懐石の店に予約が取れた。
「さぁさあ着替えましょう。雨のドライブになりますが」
嬉しそうにしているのに俺も気をよくして。
たまにはお出かけしたかったんだよね、二人で。
支度が整って先生を車に乗せる。
「助手席乗りたいわ」
「だーめ、雨だから余計にいやです」
「我侭聞いてくれないのね」
「聞いていい我侭と聞いちゃいけない我侭があるんですよ」
「なんだったら聞いてくれるのかしら」
「さぁね。ま、先生と弟子という関係上この位置が正しいでしょう?」
「弟子を運転手にして、ね?」
「弟子が免許もってなくて先生を足にしてる社中もありますよね」
「あるわねぇ。ん?」
「どうしました?」
「イヤリング。落ちてたわ。誰のかしらね…」
険悪な声で聞いてくるんじゃない。
「こないだ昼飯ん時に皆乗せたからその時のじゃないですか? それ以外女乗せてません」
「あらそう。じゃ聞いてみるわね」
「そうしてください」
お店に着いて先生を玄関先に下ろしてから駐車。
玄関番が傘をさしてくれた。
「お連れ様は先に座敷に上がられてます」
「ありがとう」
草履を脱いで仲居に導かれ座敷へ。
ちゃんと先生が上座に座っている。
こういうところの人は人を見るからわかるんだろう。
冷酒を頼む。先生の分だけだからほんの一合。
切子徳利に入れてあり綺麗だ。
「飲みたくなっちゃうな」
「だめ、おうちに帰ってからよ」
飲酒運転になっちゃうからね、しょうがない。
俺はお茶で食事を進める。
ここの懐石は普通にうまい。
先生は久しぶりの飲酒にほんのりと桜色に染まっている。
「あ。鮪…」
「食べてあげるわ。そのかわりこれ食べて頂戴」
「あれ、苦手でしたっけ?」
「好きじゃないのよね。食べれなくはないけど」
「珍しいな、あなたが好き嫌い言うなんて」
「ないわけじゃないもの。うちだと自分で作るから…」
「嫌いなものは自然と食卓に並ばない」
「そういうこと」
次々と運ばれてくる料理に舌鼓を打ちつつ、先生に飲ませる。
お酒があいて温かいお茶を貰った。
〆のご飯と香の物、味噌汁。
んー、うまい。
デザートが出てお茶が取り替えられた。
イチゴが甘くておいしい。
満腹満腹。先生も満足そうだ。
「そろそろ帰る?」
「そうしますか」
先生がトイレ行ってる間に支払いを済ませる。
車を玄関に着けた。
後部座席に乗ってもらって帰り、桜のある道を選んで。
「あら、きれい…」
雨は止んでいるから少し停車して歩いた。
「夜桜は良いですねぇ」
少しして寒くなったというので車に回収して帰宅。
お風呂を沸かして二人で入って久しぶりにいちゃいちゃもして。
居間でくつろいでいたら律君が帰ってきた。
「ただいまー」
「おかえり」
「外寒いね、すっかり冷えちゃったよ」
「花冷えだね」
「お風呂沸いてるわよ、入ってらっしゃい」
「うん」
ドラマを見ていたら先生があくび一つ。
「寝ますか?」
「ん、もうちょっと。これが終ったら」
「布団敷いて来ようか」
「だめ、こうしてて」
俺にもたれているのが良いらしい。
可愛いなあ。
というか孝弘さんがいないから気が緩んでると見える。
ここは俺が気を引き締めて、手を出さないようにしなければ。
律君が上がってきた。
「お茶いる?」
「いいよ、今暑いし。まだ寝ないの?」
「ドラマあとちょっとなのよ」
「すっごい眠そうだよね」
体重全部俺に掛かってるかってくらいもたれてるもんな。
「あぁそういやさっきお酒飲ませたから」
納得、と言う顔をしている。
やっと番組が終って先生が身を起こした。
火の始末と戸締りを確認して戻る。
「さてと。寝るかね。おやすみ」
「おやすみなさい」
律君も部屋に戻ったところで今の電気も消して部屋へ。
先生はトイレからそのままこっちに来るはず。
布団を敷いて寝る支度を整えた。
が、十分経っても戻ってこない…。
トイレに行って声を掛けるが反応がないので開けてみたら寝ている。
「先生、起きて。ほら」
「ん…? あら? やだわぁ」
ほほ、と誤魔化し笑いして俺を追い出した。
「もー今度から飲ませないよ?」
「まぁそう言わないでちょうだいよ」
部屋に連れ込んで布団に入れて胸を撫で回す。
「こら、もう。眠いの」
あー。触ってるのに寝ちゃったよ。
しょうがねぇなぁ。
まぁ暫く帰らないらしいからまた火曜にでもするかな。
朝になって律君を送り出したら八重子先生のお見舞いへ。
着替えとかね。
いい天気だからと先生は沢山洗濯物を干した。
「あ。今日花見行きますか」
「いいわねえ、でもいっぱいかしら」
「なに、三人くらい座れるところはあるでしょう」
「じゃ用意してくれる?」
「はい」
旅箪笥と湯の入ったポット、釜に電熱風炉。
濯ぐためのバケツ類。
布巾やタオル、毛氈などを積み込んだ。
途中和菓子を買い込み病院に乗り付けて八重子先生をお誘いする。
外出許可を貰い、花見へ。
「いい天気ねえ」
「暖かいねえ」
先生が八重子先生を面倒を見ている間に設営する。
毛氈を敷いて風炉を置く。電源は車から取る。
日光を背にするように。そうしたほうが暖かく、眩しくない。
先生にお点前をお願いする。
お正客は八重子先生だ。
久々の旅箪笥に先生も少し戸惑い加減なのは微笑ましい。
八重子先生もお稽古じゃないので優しく先生に教えておられる。
さすがに野点は多少人目を引くようだ。
点前を交代して次は俺。
見ていたので先生よりは扱いをスムーズに。
こっちはお稽古のつもりで。
花と茶をたっぷり楽しみ、ほんの少し酒を。
これは医師に確認を取ってある。
日が翳らぬうちに撤収して病院へ戻る。
「早くうちに帰りたいねえ」
「リハビリ頑張ってくださいね」
「ベッド置く?」
「置いたからって問題じゃないです。手を借りずに立ち座り出来ないと大変ですよ?」
「そうだねえ、もうちょっと頑張るよ」
「そう?」
「そろそろあんたらお帰り、お夕飯の支度あるだろ?」
「おっともうそんな時間でしたか」
「あら本当、お夕飯なににしようかしら」
なんて話していると斐さんが来た。
「あら絹ちゃん来てたの。山沢さんも。こんにちは」
「こんにちは」
「姉さん」
「さっき二人とお花見してきたんだよ」
「そうなの? いいわねー」
「いいお天気でしたから」
斐さんに後を任せて二人で帰宅。途中で買物を済ませた。
なんとなく先生は茗荷の味噌汁をしたくなったようで…俺のは麩を入れてくれたけど。
味がするんだよなぁ。
でも作ってくれるんだから文句は言うまい。
それ以外のご飯はうまい。
たっぷり目のおかず。
少し残ったので弁当に沢山詰めてもらった。
「つい作りすぎちゃうわね」
「俺が食べますから」
律君が部屋に戻ってるのでその間に少しいちゃついて。
流石に先生は落ち着かないようだ。
でも俺が帰ると風呂に入って明日の支度をして寝るしかないわけで。
それだから俺に帰って欲しくないそぶりをする。
だけど俺の睡眠時間の確保、と諦めて俺を帰す先生はいつも憂い顔だ。
「明日も来るのに」
「だって…」
「わかってる、寂しいんだろう?」
こくり、と首を振る。
後一月もすれば八重子先生も退院だから、と宥めすかして別れた。
心が弱っている時はどうしても先生とて聞きわけが悪くなる。
それはもう仕方ないことだ。
これで律君が一人暮らしでもしたらどうなるんだろう。
ちょっと心配だなぁ。
なんて思いつつ帰宅した。

拍手[0回]

PR

h44

夕方、皆さんが帰られて先生は一息入れる。
「ね、一服点ててくれないかしら」
「どちらで?」
「お薄」
先生の好きな器をチョイスしてささっと平点前で点ててあげた。
「ん、おいしいわね」
穏やかな中、俺のお稽古。
ピリッとした空気に変わった。
先日いじめた仕返しも兼ねてか随分と厳しい稽古である。
「あなたねぇ。もうちょっとしゃんとしなさい」
「すいません」
「もう一度最初から」
「はい」
そして点前の途中、台所から漂うおいしそうな匂いに心を動かされた瞬間。
「手が違うわよ。集中しなさい」
「は、はい」
最後には溜息を疲れてしまった。
「今日はこれで良いわ」
「ありがとうございました」
「もうちょっとお稽古しなきゃいけないわねぇ。今度水曜にでも半日使おうかしら」
「それは先生が疲れちゃいませんか」
「疲れるわよ」
「でしたら別に…」
「ダメよ。早く覚えて頂戴」
「…はい」
「さっ片付けましょ。お腹すいちゃったわ」
釜を片付け、炭を壷に入れると先生は台所へ行ってしまい後は俺が始末した。
台所に顔を出すと運んで、と言われておかずを食卓へ並べる。
うまそうだ。
「あ、お父さん呼んできて」
「はーい」
離れに行って連れて戻る。
そろって食卓につく。
「あれ、律君は?」
「合コンですって。お友達と」
「へぇ、いい子いると良いですね」
「めし」
「はい、どうぞ」
ごはんをよそっていただく。
仕事して、お稽古してもらって美味いメシにありつく。
充実。
食後くつろいでると先生がチョコを持ってきた。
「お父さん、久さん。バレンタインだからチョコレートどうぞ」
「わ、ありがとうございます」
孝弘さんのは量多目で俺のはちょっとだけど俺のと多分値段は変わらんな。
八重子先生はニコニコして見ている。
「いま食べて良いですか?」
「どうぞ。コーヒー淹れてあげるわ」
「嬉しいです」
俺の分のコーヒーと先生たちのお茶をお盆に載せ、先生が戻ってきた。
あ、さっき俺があげたチョコも持ってる。
「私も今いただくわね」
開封する。美味そうだ。
「おいしそうだねぇ」
「おばあちゃんのはどんなの?」
「練りきりかねぇ?」
「と、見せかけましてー、まぁ食べてみてください」
付属の黒文字で切ると益々それっぽいけど。
「あ、中もチョコレートだね。外はホワイトチョコか何かかねえ」
「ガワはホワイトチョコと白餡だそうですよ」
「私の…これは羊羹かしら」
「あんたのは色々入ってるねえ」
そんな会話を眺めつつチョコとコーヒーをいただく。うまい。
「あ、ねぇ。これ日持ちするの?」
「両方冷蔵庫で1週間程度です」
「良かったわ。だって二日なんかじゃ太っちゃうもの」
「もうちょっと太っても良いじゃないですか」
「糖尿も怖いわよ」
「それは怖いですね」
くつろぐ時間も終って順次風呂へ。
先生が入っていると律君が帰ってきた。
「やぁおかえり。チョコは貰った?」
「こんばんは、山沢さん。いやー、ははは…」
晶ちゃんから貰ったと言うチョコを見せて諦めた様子。
「あら、帰ってたの。お帰り。お風呂入ったら?」
「ただいま。後で入るから先に山沢さんどうぞ」
「ああ、じゃお先に」
風呂を浴びて芯まで暖まって居間に戻ると律君が先生から貰ったチョコを食べてる。
「お、いいなぁ。ゴディバ? うまい?」
「量は食べないのよね、この子」
なるほど。
ちょっと悋気したじゃないか。
律君が入っている間に戸締りを確認し、火を落とす。
居間へ戻ると八重子先生のお休みの挨拶を受けて返し、俺たちも部屋へ。
明日の着る物の用意などしている先生の尻を触ったら叱られた。
「あれ? まだ痛い?」
「痛くはないわよ…。でももうちょっと待ってて頂戴」
「待てない♪」
後ろから抱き締めて胸を弄り、感触を楽しんでたら肘鉄が入った。
「こら、もうっ」
「いってぇ…テメェ」
睨んだら怯えた顔をする。
「ごめんなさい、痛かった?」
「痛ぇに決まってるだろ、胃に入った…」
うー、と唸ってると心配そうに見ている。
「ごめんね、ごめんなさい…」
おどおどと、怯えつつも背中をなでてくるのをひっくり返して押し倒した。
「ちょっ…だめっ」
がぶり、と肩に噛み跡をつけてやると痛みに耐えている。
「これでお相子な」
「痛ぁい…、もう、何で噛むのよ~」
「用意済ませてて」
起こしてやってからトイレに立つ。
戻るともう布団に入ってる。
そっと横にもぐりこむと擦り寄ってきた。
「ねぇ…もしかしてそろそろなの?」
「何が?」
「その、月の物…」
「あー…? そういえばそうかも」
「それともしかしてなんだけど、さっき律に妬いてなかった?」
「わかる?」
「やっぱり…。ねぇ、律に嫉妬なんかしないで頂戴よ」
「しょうがないと思ってくれないかな」
困った顔をしている。
「…寝ようか。おやすみ」
キスをして背中をなでているうちに困惑して縮めていた肩から力が抜けて行く。
今日は寝息になるまで少し時間がかかった。
もはや日付が変わる時間だ。珍しい。
俺ももう眠くてたまらないので寝た。お休みなさい。
 
そして結局今週の水曜日にはお稽古してもらうことになったわけだが。
朝の9時から夕方の6時まで、食事とトイレの休憩を入れてずっと稽古をした。
流石に疲れたが先生はいつもの事だからまったくお疲れではなく。
稽古の後、片付けているとお疲れ様と甘いものをくれた。
「ありがとうございます。嬉しいけどもうメシですよ?」
「あら。じゃ一つにして後は持って帰ると良いわ」
「そうします」
片付け終えて軽く茶室を掃く。
「ご飯よー」
「あっ、はい」
手早く済ませて手を洗い、食卓に着いた。
「あれ、孝弘さんは?」
「でかけちゃったのよ。困るわ。ご飯炊いたのに」
「それはすごく困りますね」
「同じものでよかったら明日の朝食べない?」
「ありがたくいただきます。お弁当嬉しいです」
「助かるわ~」
どうせ明日も仕事は暇に決まってる。
愛妻弁当を見せ付けるオヤジになってやろう。
飯を食って先生にお弁当をつめてもらった。
翌朝出勤し、一仕事してから弁当を食う。うまい。
寒いから傷む心配がない。
料理屋の客に一口食われてしまったがイケる、と言われた。
何か嬉しい。
仕事を終えた後お稽古へ向かい、先生にそう伝えると先生も嬉しそうだ
「今日もじゃあ作ってあげるわね」
「をっ、いいんですか。嬉しいなあ」
笑って頭を撫でて行かれた。
それからお稽古をこなし済んで夕飯をいただく。
お弁当を渡されて帰宅。
翌朝、弁当を使っているとまたも味見をされ、褒められた。
仕事が終わるころ事務と社長が呼ぶ。
「はい?」
「お前、お稽古の先生と行かないか? 芝居」
「何やんの?」
聞くと先生も好きそうだ。
チケットではなく、料理屋が取ってくれる席なので受付に名前を言うだけ。
行けるか先生に電話した。OKだ。
夜はどこ行こうかなー。
忘れちゃいけないのでメモを携帯で撮って先生にメールをしておいた。
帰りにジムへ寄り、一汗流して帰宅すると眠くなりそのまま朝まで寝てしまった。
翌日は土曜とはいえ、流石に二月で暇である。
お稽古にも悠々と間に合い、先生と芝居の後どこへいこうかと言う話で団欒を過ごし。
風呂に入るときに生理がきたことに気づいた。
浴衣を引っ掛けて先にパンツを取りに戻ると怪訝な顔の先生。
「あぁ。そろそろって言ってたわね。汚れ物は?」
「自分で洗います」
「するわよ」
「いや、こういうのはいかんです」
「そう? いいのに」
「じゃ風呂入ってきますね」
昼に洗ってきているが念入りに洗いなおし、下帯の汚れも洗う。
当てるものを当て寝巻を着て、下洗いした下帯を洗濯機に入れると先生が来た。
「一緒に洗うわ」
「いまから? 1時間でしょう? 眠いんじゃ」
「そんなにかかんないから大丈夫よ」
お急ぎモードに設定して回し始めた。
「ほら、体冷えるわよ。来なさい」
「はい」
腕を取られて居間に連れて帰られ、炬燵で温まる。
「眠そうだねぇ。もう寝たら? 絹、布団敷いてきてあげなさいよ」
「そうね、そうするわ」
「すいません」
先生がパタパタと寝間へ消えて、八重子先生がお茶を入れてくれる。
「女は面倒くさいねぇ」
「男が羨ましいですよ。ほんと」
「けどあんた男だったら、ねぇ。同じ布団というわけに行かないからねぇ」
「それはそうですね、無理ですよね」
ははは、と笑って暫くすると先生が戻ってきた。
「布団敷いたから温かいうちに早く寝なさい。ほらほら」
引き起こされ背中を押されて部屋に入り、布団に有無を言わせず押し込まれた。
寝るまで俺の手を取っていてくれてたようだ。
夜半、起きると横でぐっすり寝ている。
起こさないようそっと布団を抜け出したのだが、トイレに行って戻ると起きてた。
「お手水?」
「うん。起こしちゃったね、ごめん」
「いいの。一緒に寝ましょ」
横に潜り込み軽くキスをして先生を寝かしつける。
寝息が心地良く、よく寝れた。
朝、目が覚めると先生が居なくて外では鳥が鳴いている。
どうやら寝過ごしたようだ。
お味噌汁の匂い。
急に空腹を覚えそのまま台所に行くと叱られた。
「こら、もうっ、胸を仕舞いなさい、胸を」
「腹減りました」
「もうすぐ出来るから着替えて待っててちょうだい」
「うっす」
洗顔、トイレを済ませ戻ると食卓にはすっかり用意が整っている。
「お、うまそう」
「言葉が汚くなってるわよ」
「と。失礼、おいしそうです」
座ってご飯をよそってもらい皆で朝飯を食う。
久々の先生の朝ご飯はやはり美味い。
満足していると先生が薬をくれた。
「何です?」
「痛み止め。先に飲んでおきなさい」
「あー…はい」
飲むと眠くなるんだけどな。
「どこか痛いの?」
「あ、まだ痛くないんだけどね、予防だよ」
「ふーん」
何で飲んだか、はわかってないようだ。
恋人が出来たら変わるだろうか。
痛くも眠くもないうちに布団を干したり、洗濯物を畳んだり。
部屋の掃除を終えて先生と買物に出る。
「なんにしようかしら」
先生の視線の先にはレバー。
「俺、レバー食えません」
「あらそう? どうしよう…」
「鉄分なら味噌汁で具を油揚げと卵ってのどうですか。あと意外とお抹茶、多いですよね」
「お抹茶、そんなに多いの?」
「確か60gで一日所要量クリアです」
「……お濃茶15杯も飲むつもり?」
「それはさすがに無理ですが。まあレバー以外でも取れますしね」
「ホウレン草のおひたしもどうかしら」
「この間見たんですが意外と少ないんで小松菜かつまみ菜がいいそうです」
「ええ?」
「あとは大根葉がいいそうですよ。あ、とうがらしの葉が売ってますね」
「どうするの? まさか唐辛子って鉄分多いの?」
「そのまさかですね」
しかしながら何を作ろう、とは思いつかないようだ。
「あ、でも俺、今日は肉じゃが食いたいです」
「そうね、そうしましょ」
先生は決まったとばかりにジャガイモなどを買っている。
「しかし。暗算早いですね」
「なにが?」
「お抹茶のグラム換算」
「あぁ。簡単じゃないの」
「俺、計算苦手だから」
くすっと笑っている。
「お昼は律もお父さんもいないから…丼物するけどいいかしら」
「他人丼を希望します」
「…中身なに入ってるの?」
「牛肉ですよ」
「あ、いつだったか作ってくれたわね」
「どうでしよう」
「うーん」
「…俺が出しますから」
「だったらいいわよ」
昼飯にするには値段が、と言うことだったようだ。
卵と牛スライスを買い足して買物終了。
お昼ご飯を作ってもらっておいしく頂いた。
その後もそう痛みはしなかったので他の部屋を掃除。
先生がお夕飯を作るというので手伝おうとしたら追い払われた
炬燵に押し込まれると眠くなってしまい、少し転寝しているうちにいい匂い。
「あら起きたの? もうできるわよ」
「ん」
食卓の上を片付けて背を丸めていたらおいしそうなおかずが並ぶ。
やっぱり豚肉か。肉じゃが。
今度うちで牛で作ってやろう。そうしよう。
味はちゃんとおいしくて、先生が小皿にとって押し付けてくる野菜などを食べつつ完食。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様。さてと、あんた今日は早く帰りなさいよ」
「はい」
「なんなら一緒に」
「いいですよ。一人で帰れます」
また火曜日にと別れを告げて帰宅した。
 
朝になって仕事をしていると社長が呼ぶ。
「折角芝居を、と予定入れさせたのにすまん! 会合忘れてたから行ってくれ」
「えぇーー、そんなのありですか」
「すまん、本当にすまん。すっかり忘れてた」
「もー! じゃ先生にお友達でも誘うように言います」
携帯から電話を掛け、先生を呼び出す。
「いまいいですか。芝居誰か他の人と行ってください。八重子先生でもお友達でも」
どうしたのよ、と聞かれて説明をするとわかってくださった。
電話を終えて溜息一つ。
あーぁ、久々のお出かけだったのにな。
会合の中身はまた芸者遊び。
他の奴ら、芸者はちょっとと敬遠するからなぁ。
ピンクコンパニオンの方が良いらしい。
当日来るの、誰だろ。宗直さんいると楽でいいんだけど。
若い子を相手にしちゃ先生に聞こえた時に困る。
古い人たちは外で声を掛けてこないし、掛けられたところで先生も気にしないだろうが。
若いのは営業しようとするのもいたからなぁ。
仕事を終えて面白くないので飲みに出た。
久々にくどいものを食べる。
塩辛く感じて、やっぱり先生の家のご飯に慣れているのと疲れてないのと。
夕方、思いついて髪結さんへ。
随分伸びたから切ってもらった。
襟元が少し寒い。
風邪を引かぬ間にあわてて帰宅。軽いものを食って早めに就寝した。
翌朝久々にネックウォーマーをつけて出勤した。
「お、短くなったなー」
「マジ寒いわー!」
「風邪引くなよ」
「ちょっと切っただけなのになぁ。くっそ寒い」
それでも仕事が忙しければ温まるんだが。
寒いなーと思ったまま帰宅して風呂が気持ちいい。
家を出る時に暖かい方のマフラーをして出た。
「こんにちはー」
「あら、いらっしゃい。どうしたのそんなモコモコで」
「はぁ」
マフラーを取って見せると髪を混ぜっ返された。
「あらやだ、随分短くしちゃったのねえ。寒いの?」
「寒いです」
「火に当たってなさいよ」
居間に連れて行かれて炬燵に入れられた。
「いや、そこまで寒いわけでは」
「風邪引いたら困るじゃない」
「過保護ですよねえ」
八重子先生が笑ってる。
「しかしえらく切ったもんだね」
「なんか今流行の髪形も進められたんですが流石にそれは…先生とつろくしないので」
「つろく?」
「あ、ええと、釣り合わないかと思いまして」
「どんな髪型かしら」
「うーんと、そうだ。先日律君のお友達で白い服の子。あの子のような頭です」
「あぁ。あれはちょっとねぇ」
さてと温まった。もう良いだろう。
「そろそろ用意してきます」
「まだ良いんじゃない?」
「いや、そろそろしないといけません」
炬燵から出て水屋で支度をする。
整った頃生徒さんがいらした。
ほら、丁度良いじゃないか。
先生も戻ってきて挨拶を交わし、開始した。
まったりとした雰囲気でお稽古は進む。
先生の機嫌もまぁ良い。
そのまま俺へのお稽古にかかる。
優しい。やっぱり機嫌がいいときは優しい。
明日のことは知られないようにしないといけないな。
後片付けをしている間に先生は台所の手伝いへ。
おいしそうな匂いがする。今日は何だろう。
先生がご飯をよそう前に気づいた。
「待って、俺の良いですっ」
「…もしかしてひじき苦手なの?」
「すっごく苦手です」
「仕方ないわねぇ。冷凍庫の温めてきなさいよ」
「はい、すいません」
蕪と鶏の葛煮がおいしそうだ。
チンしてお茶碗に入れて戻れば律君以外席に着いている。
「律は遅くなるんですってよ」
「あらそうなの」
いただきます、と手をつけて肉の甘味噌炒めがうまい。
今日のメインは魚だから俺の分は別にしてくださっている。
菊菜の胡麻和えもうまい。
「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末様」
「そういえば献立、どうやって決めてるんですか」
「ん?」
「ほら、こういうのいつも作られないでしょう?」
「そりゃあ買物行った時に目に付いたからとかそういうもんだよ」
「いやそういうんじゃなくて。たまに傾向が違う物が」
「あれじゃないの。お母さんが買ってくる雑誌」
「これかねえ」
あ、レタスクラブ。なるほど。
「ただいまー」
「おかえり、手を洗ってらっしゃい」
「うん」
手を洗って着替えてから戻ってきた。
「あぁおなかすいた」
くすくす笑って先生がご飯をよそってあげている。
お母さんしてるのも良いね、ほほえましい。
先生は明日の用意をしはじめた。どれを着るかは決めてたようだ。
俺も一緒に行きたかった。
「誰と行くことにしたんですか?」
「お友達。あ、そうそう。一応、あちらにも窓口でどう言うか伝えたいんだけど」
「メールアドレスご存知です?」
「うん、知ってるわよ。ちょっと待ってね」
携帯を探ってメール作成画面を出し、明日のことについての文面を打っている。
「続き書いてくれる?」
「はいはい」
できるだけわかりやすく、且つ簡潔にを心がけて書いた。
「これでいいですか」
ぶつぶつ、と先生が読んで納得したようだ。
いくらか付け加えて送信した。
「明日はおばあちゃんもおでかけなのよ」
「あ、それでお友達ですか」
なるほどね。
「お昼済んでからだからあんたもその時間までいるわよね?」
「どちらでもいいですよ、手間なら早く帰ります」
「三人分も四人分も変わらないわよ」
そういいつつ支度を済ませ、風呂に入られた。
俺は洗い物を。
台所を綺麗にし終わって戻ると次に入れと指示が出る。
だったら待たずに、と先生の入ってるところにお邪魔した。
「お邪魔しまーす」
「あら? もうちょっとしたら出るのに待てなかったの?」
「待てませんね」
抱き締めてキスをする。
「ん…だめよ。もうっ」
先生が湯船に入り俺は掛湯して股間を洗ってから一緒に浸かる。
くいくいっと股間の毛を引っ張られた。
「なに?」
「白髪あるわね」
「そりゃありますよ」
「切らないの?」
「なんで?」
「切ってあげるわよ」
「…身ぃ切りそうだから遠慮する」
「そんな不器用に見える?」
「だって悪戯するでしょ、どうせ。そしたら危ないじゃないか」
「あら、ばれちゃった?」
「いたずらはされるよりするほうが良いな」
そう言って先生の乳首に軽く歯を当てる。
そのまま後頭部を押さえ込まれて湯面に顔を突っ込むことになった。
暢気に押さえたまま数え歌を歌っている。
3つばかり歌い終えた後やっと離してくれた。
「はっ、はっ、はっ、はっ、ひでぇ」
「うふふ、こんなところであんなことするからよ」
「だからって」
「口答えしないの。また浸けるわよ」
「う…」
「さ、そろそろ上がりましょ」
「はーい」
しっかりと水滴を拭き取って寝巻きに着替える。
交代で皆が入っている間に先生は寝間の準備、俺は火の始末と戸締りを終えた。
八重子先生が上がってきたので寝ることにして挨拶をする。
先生はまだ戻ってこないのでこっそり明日のことをお耳に入れた。
「わかったよ、大丈夫内緒にしておくよ」
「お願いします」
おやすみなさい、と別れて寝間に入るとすっかり寝支度は整っている。
「寝ましょうか」
「そうね、そうしましょ。あ、今日はしちゃだめよ」
「…わかりました」
諦めた。
布団の中に入ってなでているとむらむらするが仕方ない。
すぐに寝息に変わっている。
キスしたら叱られた。
「寝るっていったでしょ。おとなしくしないなら部屋で寝るわよ」
「むー…」
頭をなでられて寝かしつけられる。不本意だ。
少し唸ったのが聞こえたらしい。
「ねぇ。明日お芝居の後あなたの家に寄るから。ね、了見して」
ふうっと息をついてわかったと答え、先生を寝かせた。
翌日、昼を食ってから帰宅。
外出の用意を整えた。
 
料亭につき挨拶を交わして席に着く。
宗直さんはいないが古株のお姐さんがいる。
相手をしてもらうことにした。
会合も無事終わり、いそいそと帰宅する。
あれ、先生、来てない。
どうしたんだろう。
電話をしてみた。
「もしもし、先生? 来なかったんですか?」
『それが大変だったのよ~。おばあちゃんが倒れて』
「ええっ! どうなんですか容態っ」
『うん、なんとか意識も戻ったの。それで開兄さんも見つかったって』
「開さんも?」
『それで明日お稽古お休みにするから。あなたどうする? 来る?』
「手が足りないのなら手伝いに行きますよ」
『うん、そうして頂戴』
「とりあえず明日昼にお伺いします」
『いないかもしれないけど鍵もってるわよね』
「持ってます。勝手に入って待ってたらいい?」
『そうしてくれる? あ、ちょっと待って』
後ろで何か会話しているようだ。
『ごめんなさい、込み入った話するから後は明日』
「はい。疲れないように早く寝てくださいね」
『ありがと、じゃまたね。おやすみなさい』
「おやすみ」
電話を切ってみたものの心配だなぁ。
でもできることは何もないので早めの就寝となった。
翌日仕事が終わり次第車で駆けつけた。
やはり先生は居られなくて孝弘さんがお留守番。
律君は開さんの病院、先生は買物らしい。
「はらへった」
「はいはい、お昼は食べたんですかー?」
「くった」
「じゃ何か、そうだな、パンケーキでもいいですか」
「まんじゅうはないのか」
「ちょっと待ってて、あ、いやないみたいですよ」
「仕方ない」
台所へ入って勝手知ったる他人の家、ホットケーキミックスで作って出す。
「開さん見つかったんですってね」
ふん、と横向いた。
やっぱり。
ちょっと悔しそうにしている。
「ただいまぁ。あら来てたのー、ごめんね」
「あ、先生。こんにちは。どうですか、容態」
「これから行くのよ。これほら、入院用の湯のみ」
「それじゃ洗いましょうか」
「お願いね、着替えてくるから。乗せてってくれる?」
「はいはい」
お箸やスプーン、フォーク、コップ、湯飲みに水筒。
これを見ると軽くで済んだようだ。
洗って拭いてひとまとめにして持ち出した。
「久さん、用意いいかしら」
「いいですよ。持っていくものはどれですか」
「この紙袋と風呂敷のもお願い」
「はーい」
車に積み込んで先生を乗せ、指示通り病院に着く。
玄関で荷物を下ろし先生に待っててもらうことにした。
駐車場に止めて急ぎ戻る。
「お待たせしました」
荷物を持って病室へ。
「お母さん、どう? 調子は」
「あぁ大丈夫だよ。今日お稽古の日だけどどうしたの」
「お休みにしたのよ」
「悪いねぇ…」
「こんにちは。お元気そうで安心しました」
「山沢さんも来てくれたんだね、ありがとう」
「いえ。どうですか、ご気分は」
「もうねぇ、早速リハビリさせられたよ。最近はそうなんだねえ」
「ああ、固まっちゃうといけませんから」
てきぱきと先生が荷物を片付けている。
「あ、久さん悪いけど売店でティッシュ買ってきて頂戴。忘れてたわ」
「はーい。他何か欲しいものありますか?」
「そうだねぇ、お茶。緑茶があれば」
「絶飲食じゃないならば。看護婦さんに確かめてからですよー」
詰所に行って聞けばお茶は構わないとの事。
炭酸はやめてとの事である。
売店で購入して戻ると覚さんの奥さんが来ていた。
「こんにちは」
「あらあら、まぁ。こんにちは」
俺たちの分も買ってきてたので渡した。
「ありがと」
「あら、いいのに」
部屋から出て待合で待っていると潮さんが来たようだ。
仕事の途中だろうに。
営業ってこういうとき良いよね。
先生の携帯にメールを入れて喫煙所へ。
自販機で煙草とライターを買って一服つける。
寒いがいい天気だ。
少し安心してぼんやりしていると先生から電話があった。
そろそろ帰ると。
煙草を灰皿に押し付けて病室に戻る。
先生は八重子先生といつから稽古を再開するか話し合っていた。
「来月からでいけるかしら。でも…」
「山沢さんに初心者組を任せたらいいよ」
「いいんですか、俺なんかで」
「あら。おかえり」
「あんた一応教えられる資格持ってるんだから。そろそろ慣れなさい」
「はぁ…」
「じゃ段取りが出来たらお稽古再開するわね」
「長く休みにすると生徒さん達に迷惑だろうしねえ」
「そうねぇ」
看護婦さんが来て八重子先生は検査へ。
「じゃ私たち帰るわね」
「はいはい、ありがとうね。気をつけて帰りなさいよ」
「では失礼しました」
二人連れ立って駐車場へ移動し乗車。
「助かるわ。あ、ついでに買物したいの。お夕飯なんにしようかしら」
「んん、簡単に出来るものが良いでしょう? お手伝いしますけど」
「そうねえ」
「さつま揚げと小松菜の煮物とか、牛肉とネギと菜の花の蒸し煮でどうですか」
「菜の花あるかしら」
「そろそろ出てませんかねぇ」
「有ったらそうしましょ。それだけじゃだめだから…」
「鶏と春菊のゴマ梅和え」
「あ、おいしそう」
「鮭あるならおろし和えでも良いかな」
いくつか提案すると献立が決まってきたようだ。
途中のスーパーで買物する。
菜の花もあり、肉も買う。
鮭と玉葱のマリネをする気になったようだ。
それともやしと人参?
カレー粉で炒めるらしい。
帰宅後は先生の指示通りに支度をして帰ってきた律君に孝弘さんを呼んでもらい食べた。
うまいけど一人欠けると寂しい。
先生が特に寂しそうで帰るときに後ろ髪をひかれる思いだった。
本当なら泊まってあげたいんだけど仕事があるから仕方ない。
明日も来る、と約束した。

拍手[0回]

h39-2

支度をして出勤。
土曜の怒濤の忙しさ、ふと気づくと10時を済んでいる。
それでも腰が軽いのは昨日の強烈な鍼のおかげか。
「お前、今日は早く帰れよ」
「でも仕事まだ終わりませんよ」
「んーそうだな、あの残ってるうちわえびと生貝と。ツバス売れたらで良い」
「あ、あのツバス私持って帰ろうかと」
「他のは持って帰らんか?」
「ちょっと多くないですか」
「なんとかなるだろ? はい、それでお前の仕事終わり。帰り支度しろ」
好意に苦笑して支払った。
箱に入れて後りのものは片付けて帰り支度を整え、挨拶して帰宅。
風呂に入り着替えて先生のお宅へ車を走らせた。
「こんにちは」
「あら、いらっしゃい。今日は何かねぇ」
「ツバスにアワビ、それからこれ」
「…気持ち悪い」
「あはは、うまいんですよー」
「そうなのかい? あんたにまかせるわ」
「はい、任されました。先生は食事中ですか?」
「まだ茶室だよ。おぜんざいの番してるから代わってやってくれる?」
「あーー…今日は炉開きですか」
「忘れてた?」
「すっかり」
「あんた初炭だよ」
「はい、…出来るかな」
「絹が横にいるから大丈夫だよ。行ってやってくれるかい?」
「では」
ひたひたとひんやりした廊下を歩き水屋に顔を出す。
「先生」
「あ、いらっしゃい」
「こんにちは。おぜんざい引き受けますからどうぞ、お昼食べてきてください」
「あらそう? じゃ悪いけど」
すっと立って俺の横を通り抜ける。
「この間はごめんなさいね」
かすかにそう言って居間へ行った。
ちゃんと謝るのがいやなのかなんなのか。まぁいいか。夜で。
煮詰らない様、火加減をして待つ。
三々五々、生徒さんが集まりだした。
「あら、良い匂いねぇ」
「ほんとねぇ」
おいしそうなのかな?
暫くしてまずは八重子先生が来た。
そろそろ時間だ。
先生が来る前に集まった生徒さんの前で八重子先生が席を振り割りしている。
少し八重子先生が整理して先生が戻ったところでご挨拶。
「おめでとうございます」
茶人の正月とも言える炉開きである。
お正月の挨拶。
それから初炭に指名されているので私が立ち、諸道具を持って出た。
炉横に羽箒を置き、鐶を膝横、炭とり中心より左に、火箸を羽箒と炭とりの間に置いた。
香合を取り扱って鐶の横に置き、釜の蓋を閉め、鐶をかけ、紙釜敷を置き炉縁まで出る。
肘を膝につけて持ち上げ、肘を上げてから状態を起こし、釜敷に置く。
鐶を一旦釜に預け、一膝左へ向き釜敷ごとずるずると横へ移動させたら鐶を外し、置く。
炉に向き直って羽で炉縁、炉壇を清めたら火箸を取って下火の手前のを奥の五徳右へやる。
火箸を一旦戻して炭とりを移動させ灰器を取り湿し灰を撒いた。
再度羽で清めて炭をつぐ。
一番大きい胴炭は手で入れるので懐紙で拭く。
後は決まった所に良いように炭を置いた。
だけど炭の形によってはちょっと変な置き方をしたりもする。
お湯が沸かないような炭の置き方をしてはいけない。
もう一度羽で清めたらお香をつぐ。
「香合の拝見をお願いします」
正客の所望があったので拝見に出してから斜めに向く。
鐶を釜に掛け、また滑らせてもとの位置に戻し炉に向き直り釜を持ち上げる。
ゆっくりぶつからないように五徳の上に降ろした。
鐶を釜に預けたら釜敷を取り炭とりの上で一弾きして払い懐中する。
釜が斜めになってないか、中央にあるかなど確認したら羽で釜の蓋も清め、蓋を切る。
そして諸道具を持って帰った。
やれやれ、と一息ついてお善哉の支度を手伝う。
香合は順調に生徒さんの間を回っているようである。
暫くして回り終えたようなので戻り、香合の形や窯元、香名などをお答えして持ち帰った。
「はい、よくできました」
「ありがとうございました」
先生と挨拶を交わし、潮吹昆布と梅干を菓子鉢に盛って各人へ。
お善哉を皆にとりわけ、餅はちょっとと言う方は汁だけに。
先生方は朝にいただいたとかで汁のみ。
いただきます、と食べてみなさんほっこりされたところで濃茶の点前。
ベテラン組から大貫さん。
主菓子をまわして濃茶をいただく。
点て出し組の我らは後で頂くんだけど先生と三人でひたすら人数分。
5人1碗くらいで練った。
最後に頂いて。
次はお薄のお点前、これは中堅の中谷さん。
お二方とも安心して見ていられる。
奥で点て出しに励み、先生とともにお運びをする。
生徒さんは大変恐縮されている。
最後に総礼で締めてほうっと皆さん息をついて場が緩まった。
若い生徒さんのお濃茶おいしかったよねって声も聞こえて嬉しい。
次回のお稽古のお知らせなどの話しの後、散会した。
「あ、山沢さん、あなたはお稽古するからお台子出してくれる?」
「えっあっはい? 今からですか」
「ほら、前回できなかったから」
あーなるほど。
「唐金皆具よ、間違えないで」
「は、はい」
ほっとしてたのも束の間、格の重い、献茶式などに使うあの点前のお稽古だ。
塗りの台子を設置し、唐銅の皆具を定位置に。
そのまま真の炭手前をして点前にはいる。
先生の視線が怖い。
何とか叱られもせずに終わり、交代で先生がお稽古された。
流石に流れるようなお点前でうっとりと眺めていると八重子先生から叱責が飛んだ。
柄杓の扱いが違ったらしい。
それ以外は何もおかしいところはなく、きちっとしたお点前で終わられた。
たまには見せていただくものだなぁ。
さて、俺は水屋の片付けに入り先生と八重子先生はお台所に立たれた。
「お夕飯、簡単なものになるけどごめんなさいね」
今日は仕方ないよな。
「そうそう、エビはどうするんだい?」
「あー、あぁ! 忘れてました。お湯沸かしておいて貰えます?」
「…お釜のお湯つかったら?」
「それはいいですが足りません」
「足りない分だけ沸かしたら良いじゃないの」
釜を始末する前に鍋に取り分けて、先生に渡した。
台子を片付けたり皆具を清めていると声がかかった。
「はい?」
「お湯沸いたわよ」
「2匹湯がいてください」
「あんなの触れないわよ、ほら。掃除は明日でいから」
困った顔が可愛くて思わず笑みがこぼれる。
あ、ふくれた。
可愛い。
清めたのを仕舞って、台所にはいる。
味の素を少し落としてからうちわエビを2匹、湯に落とした。
それから後2匹を焼いて、もう2匹は刺身にした。
先生は気持ち悪そうに見ている。
アワビはさっと蒸して柔らかくし、うちわえびとともに盛りつける。
後はもう手助けはいらないから食卓を片付けてご飯の炊けるのを待つ。
「そろそろ呼んできてくれるー?」
「はーい」
律君と孝弘さんを呼び配膳を手伝って席に着いた。
「なにこれ」
「うちわえび。おいしいよ」
「うーん…」
流石に見た目が気持ち悪いからか手が伸びないようでお造りをまずは食べている。
「あ、これおいしい」
「ふふふ、それがそのエビだよ」
「おいしいの? だったら…」
先生が焼いたエビに手を出した。
「あら。ほんと、おいしいわ」
「どれどれ。あ、ほんとだねえ」
「私がまずい魚持ってくると思いますか?」
「ごめんなさい」
よろしい。
笑いつつ、野菜炒めを食べる。
先生が時間がないときは定番になってしまった。
今日は少し塩が強いのは先生がお疲れだからだな。
食事の後の後片付けは引き受けて先に風呂に入ってもらう事にした。
多分あの様子じゃ風呂上がったらすぐに寝るだろう。
台所を片付けて茶室の掃除をして戻ればお二方ともお風呂から上がられていた。
「あんたも入っといで」
「はい。先生、眠ければ先にどうぞ」
「うん…」
既にうとうとしてるのに待たせるよりは。
風呂へ入って汗を流し、戻ってくると八重子先生が舟こいでる。
「風邪引きますよ」
「ん、そろそろ寝ようかね」
「待っててくださったんですか?」
頭をなでられた。
「今日はお疲れさん。あんたも早く寝るんだよ」
「はい、おやすみなさい」
戸締りや火の始末を確認してあくび一つ。
寝間に入ると既に先生が布団に納まって寝息を立てている。
流石に今日は疲れたと見える。
横にもぐりこんでも微動だにしない。
頬にキスして俺も寝た。
夜半、何かもぞもぞと動くので目が覚めた。
「どうした?」
「ん、寝れなくて…ほら、お濃茶飲んだから」
「ちょっとだけでしょう?」
「朝から3回頂いてたのよ…」
「なるほど」
寝付けないなら寝付けないでもいいから、と懐に抱いて撫でて。
先生からキスして来た。
でもそれ以上は無し。
「あ、そうだ。木曜の稽古休ませてください。出張です」
「どこ行くの?」
「間人です」
「…どこ? たいざ?」
「ええと京都です。海の」
「京都って海…あれは琵琶湖よね。あったのね」
「あるんですよねー」
「ねぇ、私も行きたいわ」
「それはうーん、宿がOK出るかと言う問題と、あなたお稽古でしょう」
「お願い」
「明日、八重子先生に交渉してみて下さいね」
「嬉しいわ♪」
頻繁に連れ歩くのは罪悪感があるんだけどなぁ、俺は。
でも八重子先生が甘いからきっと連れてくことになるんだろう。
先生になつかれてるうちに寝息が聞こえてきた。
可愛いよなぁ。
だけどこんなに俺になついちゃって良いのかな。
俺は凄く嬉しいけど。
そのうち眠くなって寝て。
朝が来た。
先生はいつものように寝過ごして今日は八重子先生も遅かった。
俺もちょっと眠い。
律君が朝食後遊びに出るというので三人で二度寝と決め込んだ。
お昼の材料もあることだし。
先生を懐に抱いて日の高いうちに先生のお宅で寝るのは何か変な感じだけど。
昼前に俺だけ起きて支度をする。
作るだけ作って孝弘さんの部屋に運び、それから八重子先生の部屋を覗く。
まだ良く寝てらっしゃる。
自然に起きるまで良いだろう。
暇なので庭で煙草を吸いつつ宿へ問い合わせを掛ける。
幸いと言うかなんというか、良いほうの部屋に移れるとのことで。
そのうち八重子先生が起きてきた。
「あぁよく寝た」
「お昼、出来てますがどうされますか?」
「いただくよ、ありがと」
おかずを出してご飯をよそい、持ち出す。
食べてるところを悪いけど聞いてみた。
やっぱり即答でOKが出て宿へ部屋の確保を依頼することになった。
電車も二人席に変更をする。
「お稽古休ませすぎではないですか?」
「まだまだ私が元気な内はね、楽しんだらいいんだよ」
暫くして先生も起きてきたので俺の分とともにご飯を持ち出した。
「あんたまだだったの?」
「先生起きてからにしようと思いまして」
「待たなくて良いのに」
「さ、食べましょうよ、熱いから気をつけて」
味噌汁温めなおしたから。
俺の分はぬるいうちにとって有る。
少し遅めのお昼を頂いてるところに環さんが来た。
「なぁに、こんな時間に食べてるの?」
「いらっしゃい」
「お昼食べたの? まだだったら」
「食べたわよ、とっくに」
先に八重子先生が食べ終わってたので台所に運びがてら環さんにお茶を入れてきた。
「で、今日はどうしたの」
ちらっと環さんが俺を見る。
同席では言いにくい話のようなので手早くご飯を食べ、台所に片付けに立つ。
席を外した途端何か先生方と話されてるようだ。
これは戻りづらい。
幸い煙草も懐にあるので庭に出てまた一服つけることにした。
縁側で吸っていると孝弘さんも出てきて二人で日向ぼっこ。
何かおかしい。
「おい、今度またあの羊羹買ってきてくれんか」
「はいはい、羊羹ですね」
うまかったらしい。
暫くぼんやり煙草を吸って、孝弘さんと話していると帰られた様子。
火の始末をして居間に戻るとちょっと先生がしょんぼりしている。
気散じに、と買い物に連れ出した。

拍手[0回]

h39-1


八重子先生が開けて始末してくれるそうで俺は水屋へ入った。
ボストンはね、自分で持って帰ったから。
後は着物と下着しか入ってない。
先生の荷物もそんなものだ。
整えてお待ちする。
すぐに先生、生徒さんが来られて稽古を開始した。
すいすいとお稽古は進みあっという間の夕方、皆さんが帰られた。
それから俺にも稽古をつけてもらってから水屋の始末をする。
いつもどおり。
夕食をいただき、洗い物を持って帰った。
翌日は普通に仕事をして帰宅して…すぐに寝た。
なにか疲れてたようだ。
さて土曜は忙しく、さすが行楽シーズンではある。
おいしそうな天然の鯛1枚とマグロを連れて帰ることにして仕事終了。
帰宅して風呂に入ってから先生のお宅へ。
八重子先生に渡すと喜ばれた。
いつものお稽古の後、鯛は俺が造った。
薄造りにして塩ごま油で食べていただく。
先生も八重子先生も嬉しそうだ。
律君は中トロをうまそうに食べてる。
若いから脂っこくても大丈夫なんだろうね。
食後のおやつに、と土産の中からラングドシャを先生から貰う。
濃茶のラングドシャの間にホワイトチョコ。
マールブランシュの茶の菓だ。
これうまいんだよね。
団欒していると律君が戻ってきた。
「お風呂あいたよ」
「じゃ入ってこようかね」
八重子先生が入りに行って律君が座る。
「はい、あんたも食べるでしょ」
「あ、ありがと。凄い色だね、これ」
「おいしいのよー」
「へぇ…あ、ほんとだ」
テレビを見つつまったりと。
「あ、そうそう」
「ん?」
「久さん、お風呂あいたら先に入っててちょうだい。半衿つけるの忘れてたわ」
「はい」
「どこか行くの?」
「明後日朝からお稽古なのよね」
「月曜?」
「そうよ、支部のお稽古日」
「あぁ花月するんでしたっけ」
「二人貴人且座か仙遊あたりじゃないかしらね」
「うーん。難しそうですね」
さっと立ってお針道具と襦袢、半衿を持って戻られた。
広げてつけ始められる。
お針をする女性って良いな。
見とれてると八重子先生が上がってきた。
「先入りなさい」
「あ、でももう終りそうでは」
「もうちょっとだけど。お湯冷めちゃうわ。早く入んなさいよ」
「んー、はい」
見てたかったんだけどなぁ。
のっそりと起きて風呂場へ向かう。
脱衣かごに脱いで落としてタオル片手に風呂。
風呂は入ってきているからざっと汗を流し股間を濯ぐ。
さて、湯に浸かろうとしたら先生が扉の外で縫い出る気配。
思わず開けると、小さくきゃっと言った。
「今更、隠しますかね?」
「もぅっ、吃驚するじゃないの」
脱ぐのを眺めてるとちょっと恥ずかしそうだ。
「すぐ入るからお湯につかってなさい」
ぴしゃんっと戸を閉められた。残念。
湯が熱いんだよね。
そろりとまたぐとカラリと戸が開いた。
「あら、…ごめんなさい」
丁度股間見られたようだ。
別に良いけどさ。
「…ねぇ。あなたも白髪あるのね」
「ん? ありますよ。先生のはそろそろ切ってあげましょう」
あ、赤くなった。
洗い場に戻って先生を洗う。
さわり心地がよい。
念入りに磨き上げて一緒に湯船へ。
「はぁ…気持ち良い…」
「お疲れ様でした」
頭を撫でてキスをする。
「そこまでよ」
「ですよね」
暖まって風呂から出てまずは先生の水気を拭き取って自分を拭く。
浴衣を引っ掛けようとしたら腕つかまれた。
「こら、背中まだ濡れてるじゃないの」
さっと拭かれて浴衣を着せられた。
「暑い…」
「だめよ、ほら、崩さないの」
暖房の入った居間に戻るのはちょっと辛いので涼みがてら台所へ行き、お酒を取ってきた。
どうせ暑いなら飲みたくなって。
「ん? 飲むの?」
「どうぞ」
先生に杯とらせてついで、八重子先生にも。
俺はコップで。
「おいしいわねー」
「そうだねぇ」
八重子先生は3杯ほどで眠くなったからと部屋に帰られた。
先生にお注ぎしてもう少しゆったりとしくつろぐ。
ドラマが終ったので先生が鍵掛けてくるわ、と立った。
んじゃ俺は酒を片付けてついでに火の始末だね。
確かめていると先生が戻ってきて先に部屋にいると仰る。
まぁ女だから色々やることがあるんだろう。
茶室の炭も確かめたら寝間に入る。
暗い部屋にランプの明かりはやっぱり良いね。
布団を敷いて待つ。
手入れが終った先生が布団に入って添い寝をする。
今日はそんなにしたそうでもないので撫でているうちに先生は寝た。
翌朝は普通に出勤したところ暇だった。
なので合間合間、社長に旅行の話を聞かれた。
京都土産に定番の八橋がよかった? といえばあんなのいらん! と言われたが。
今回は新定番の京ばあむを3つ買ってきた。
抹茶と豆乳のバームクーヘン。
オッサンと若い兄ちゃんばかりだから和菓子は喜ばれない。
適当に切り分けて俺も一切れ食べた。
うまいね。
仕事が終わって飯を食い、風呂に入って着替えて先生のお宅へ向かった。
「あら、いらっしゃい」
「お邪魔します」
「昨日お土産届いたわよー、あんたも食べる?」
「後でいただきます、今満腹ですから」
「そう? じゃ二つだけ出すわ」
「バームクーヘン、昨日孝弘さんといただいたよ」
「どうでした?」
「意外とおいしいもんだね」
「そりゃ良かったです」
「それと利休バッグ、良いね、あれ」
「あぁ、それは先生のお見立てです。数奇屋袋と悩んだんですけど」
会話を交わしていると宅急便、先生がはーいと言って俺に取りに出るよう言った。
あ、旅行の荷物。
受け取りにサインして引き上げる。
八重子先生が開けて始末してくれるそうで俺は水屋へ入った。
ボストンはね、自分で持って帰ったから。
後は着物と下着しか入ってない。
先生の荷物もそんなものだ。
整えてお待ちする。
すぐに先生、生徒さんが来られて稽古を開始した。
すいすいとお稽古は進みあっという間の夕方、皆さんが帰られた。
それから俺にも稽古をつけてもらってから水屋の始末をする。
いつもどおり。
夕食をいただき、洗い物を持って帰った。
翌日は普通に仕事をして帰宅して…すぐに寝た。
なにか疲れてたようだ。
さて土曜は忙しく、さすが行楽シーズンではある。
おいしそうな天然の鯛1枚とマグロを連れて帰ることにして仕事終了。
帰宅して風呂に入ってから先生のお宅へ。
八重子先生に渡すと喜ばれた。
いつものお稽古の後、鯛は俺が造った。
薄造りにして塩ごま油で食べていただく。
先生も八重子先生も嬉しそうだ。
律君は中トロをうまそうに食べてる。
若いから脂っこくても大丈夫なんだろうね。
食後のおやつに、と土産の中からラングドシャを先生から貰う。
濃茶のラングドシャの間にホワイトチョコ。
マールブランシュの茶の菓だ。
これうまいんだよね。
団欒していると律君が戻ってきた。
「お風呂あいたよ」
「じゃ入ってこようかね」
八重子先生が入りに行って律君が座る。
「はい、あんたも食べるでしょ」
「あ、ありがと。凄い色だね、これ」
「おいしいのよー」
「へぇ…あ、ほんとだ」
テレビを見つつまったりと。
「あ、そうそう」
「ん?」
「久さん、お風呂あいたら先に入っててちょうだい。半衿つけるの忘れてたわ」
「はい」
「どこか行くの?」
「明後日朝からお稽古なのよね」
「月曜?」
「そうよ、支部のお稽古日」
「あぁ花月するんでしたっけ」
「二人貴人且座か仙遊あたりじゃないかしらね」
「うーん。難しそうですね」
さっと立ってお針道具と襦袢、半衿を持って戻られた。
広げてつけ始められる。
お針をする女性って良いな。
見とれてると八重子先生が上がってきた。
「先入りなさい」
「あ、でももう終りそうでは」
「もうちょっとだけど。お湯冷めちゃうわ。早く入んなさいよ」
「んー、はい」
見てたかったんだけどなぁ。
のっそりと起きて風呂場へ向かう。
脱衣かごに脱いで落としてタオル片手に風呂。
風呂は入ってきているからざっと汗を流し股間を濯ぐ。
さて、湯に浸かろうとしたら先生が扉の外で縫い出る気配。
思わず開けると、小さくきゃっと言った。
「今更、隠しますかね?」
「もぅっ、吃驚するじゃないの」
脱ぐのを眺めてるとちょっと恥ずかしそうだ。
「すぐ入るからお湯につかってなさい」
ぴしゃんっと戸を閉められた。残念。
湯が熱いんだよね。
そろりとまたぐとカラリと戸が開いた。
「あら、…ごめんなさい」
丁度股間見られたようだ。
別に良いけどさ。
「…ねぇ。あなたも白髪あるのね」
「ん? ありますよ。先生のはそろそろ切ってあげましょう」
あ、赤くなった。
洗い場に戻って先生を洗う。
さわり心地がよい。
念入りに磨き上げて一緒に湯船へ。
「はぁ…気持ち良い…」
「お疲れ様でした」
頭を撫でてキスをする。
「そこまでよ」
「ですよね」
暖まって風呂から出てまずは先生の水気を拭き取って自分を拭く。
浴衣を引っ掛けようとしたら腕つかまれた。
「こら、背中まだ濡れてるじゃないの」
さっと拭かれて浴衣を着せられた。
「暑い…」
「だめよ、ほら、崩さないの」
暖房の入った居間に戻るのはちょっと辛いので涼みがてら台所へ行き、お酒を取ってきた。
どうせ暑いなら飲みたくなって。
「ん? 飲むの?」
「どうぞ」
先生に杯とらせてついで、八重子先生にも。
俺はコップで。
「おいしいわねー」
「そうだねぇ」
八重子先生は3杯ほどで眠くなったからと部屋に帰られた。
先生にお注ぎしてもう少しゆったりとしくつろぐ。
ドラマが終ったので先生が鍵掛けてくるわ、と立った。
んじゃ俺は酒を片付けてついでに火の始末だね。
確かめていると先生が戻ってきて先に部屋にいると仰る。
まぁ女だから色々やることがあるんだろう。
茶室の炭も確かめたら寝間に入る。
暗い部屋にランプの明かりはやっぱり良いね。
布団を敷いて待つ。
手入れが終った先生が布団に入って添い寝をする。
今日はそんなにしたそうでもないので撫でているうちに先生は寝た。
熟睡されてからランプをつけて先生の股を開いて工作。
できるだけ根元から切っていく。白いのを。
「うん…ん…、んん?」
あ、起きた。
「静かに、静かに」
「やだ、もう…何してるのかと思ったわ」
「寝てて良いですよ」
「ばか、寝られない…」
「じゃあ動かないでくださいね」
一本一本探り分けてきっているとほころんできた。
「誘ってるみたいだ」
ひくっと動く。
「久さんが触るからでしょ」
毛を掻き分けるととろりと光る。
ちゅっと吸い取ってやった。
甘い。
髪をつかまれた。
「離しなさい。もう少しだからね」
手が緩む。
「それともこれ、全部そっちゃおうか」
「そ…、そんなのダメ…」
切り終えてから軽く逝かせ、後始末。
添い寝を再開すると俺の乳首を捻り潰す勢いだ。
「何してんですか」
「寝てたのにあんなことして…」
「それもこれも皆あなたが愛しいからですよ」
キスをすると手が離れていった。
「ばかね…」
背中を撫でて寝かしつける。
すぐに寝息に変わった。
うーん、可愛い。
暫く見とれてると眠気が下りてきたので寝た。
翌朝、先生は意外と早くに目が覚めた。
俺の着替えてるのを布団の中から見上げて、まだ眠たげで。
「もうちょっと寝てて良いですよ」
「良いわ、もう起きるから」
大きなあくび。
軽くキスをして先に台所へ出た。
朝は冷える。
まずはご飯を炊いて冷蔵庫を見る。
特に何かってものはないので八重子先生の献立に従っとこう。
普通の和朝食。
作ってるうちに先生が来た。
「何か手伝うものある?」
「あ、じゃ味噌汁頼みます」
「はい」
割烹着をつけると主婦って感じだよなぁ。
暫くして作り終え八重子先生たちを呼びに行く。
朝の冷え込みの所為で皆布団から出たくなかったようだ。
いつもならもう出来てる身支度もまだで。
「律君、お味噌汁冷めちゃうよ」
「あー…はい」
なので朝御飯は少し遅くなった。
食事の後、先生が庭に下りて花を摘んでいる。
秋花を活けて。
似合うなぁ、美人さんと秋の野花。
ゆったりとした日曜を楽しんであっという間に夕方になってしまった。
楽しい時間は過ぎるのが早い。
先生に見送られて帰宅すると寒々しきわが部屋。
独り身はわびしい。
先生と住めたら良いのに。
ストーブをつけ、土曜に散らかしたものを片付けてベッドに転がる。
明日仕事行きたくないなぁ。
と言うわけにもいかないから寝るか。
おやすみなさい。
休み明け、出勤は天気もよく入荷もそれなりでお客もそれなり。
まぁまぁ売り上げて帰宅した。
うーん、秋。
散歩しようかな。
途中思いついてカフェ&バーの店に顔を出した。
「お、久しぶりだねぇ? いつもの?」
「うん」
生姜酒。
生姜蜂蜜をジンジャーワインとスピリッツ、ジンジャーエールで割ったもの。
なので結構度数は高い。
普通はジンジャーワイン&ジンジャーエールらしいが。
友人はこれに更に生姜の摩り下ろしを入れてた。
一口舐めるように飲む、
辛くて、甘く、強い。
飲んでる間に日替わりの肉定食が出てきて食いつつ飲む。
うまいな。
今日の焼肉は醤油系だが、これは柑橘を感じる。
「わかる? みかん」
みかんをタレに使うとは考え付かなかった。
レモンやスダチはわかるけど。
「あれ、山ちゃん久しぶりだねー」
「お、中川じゃん。お前こないだ彼女と別れたって聞いたぞ? マジか?」
「マジよマジ。他の奴と結婚するから別れて!だぜー」
「きっついなぁそれ。二股かぁ」
「いや見合いだってよ。アイツの親に反対されててさぁ」
「あー。お前すぐ仕事やめるからな」
「うるせー」
「こないだは現場で監督殴ったって言ってたろ」
「示談示談、んなの」
「金のある奴はこれだから」
ケケッと中川が笑って奴も定食を食い始めた。
「うめー。おーい、ビールくれや」
生中飲みつつ煙草を一服。
「相変わらずだなぁ」
「だってうまいじゃん?」
「うまいけどさ」
「お前タバコは?」
「やめた。女が吸わないから」
「あ、女出来たんだ?」
「でも他所の嫁さんだから。同棲できなくてさ」
「不倫?」
「そうなる」
「他所の嫁さん血まみれにしてんのか」
「いや、まぁなんつーか今回は違うんだよな。良い女過ぎて出来ない」
「へーお前がねぇ。大事にしろよ」
「してるよ、多分」
食い終えておかわりを頼んで暫く飲んで惚気を聞かせた。
「クッソ俺も早く次探さねえとな」
「頑張れよー」
そろそろハロワへ行く、と言うのでお開きにして別れる。
あれ、あいつビール飲んでたよな。
大丈夫かな。
ゆったりと良い天気の中歩いて帰宅した。
うーん、良い気持ちに眠い。
寝巻きに着替えてベッドにもぐりこみ、昼寝を決め込む。
夕方、先生からのメールで目が覚めた。
あーうまそうな飯だ。
俺は、と言うと何も買ってなくて外に出る気にもなれず。
おかかとご飯で食って再度布団に潜り込む。
先生には内緒、内緒。
おやすみなさい。
さてさて朝起きて出勤して。暇だ。
火曜日だねぇ。
さすがに。
早めに切り上げて先生のお宅に向かった。
今日もツバスとアジ、笹カレイを持って台所へ。
八重子先生に渡して水屋へ。
支度して待つと先生が来られてお稽古が始まる。
いつものように手伝い、俺も稽古をつけてもらった。
少し厳しくて何度か叱られる。
それでも終った後のフォローがあって落ち込みは回避できた。
片付け終えて台所に顔を出すと俺の分は牛肉の炒め物。
「不断草があったからね。ほら、綺麗だろ」
「へぇこんなのあるんですね」
人参葉の胡麻和えや大根の炊いたのが出来てておいしそうでついつまみぐいしたくなる。
流石に叱られるからやらないが。
先生方は俺の持ってきた魚をメインにして食卓に出した。
「律ー、ごはんよー」
先生が呼んで律君も食卓についた。
いただきます。
牛肉の炒め物はオイスターソースかな。
不断草はなんだかほうれん草っぽい。
「ほら、もっと野菜食べなさい」
「あ、はい」
人参葉もうまい。大根も。
幸せな気分で食事を終え、後片付けに立つ。
洗い物を終えて戻って思い出した。
「そういえば花月どうでした?」
「難しかったわよー」
色々とお話を聞いて笑ったり叱られたり。
夜が更けてお風呂に各自入り布団へ潜った。
それから軽めに抱いてキスをして。
先生の心地よさげな寝息を聞く。
おやすみなさい。
翌朝やはり先生をおいて朝食を作りいつもの水曜日。
家事を手伝い夕飯を食べてから帰宅した。
さてと、どうせ明日も暇だろうなぁ。
そんなことを思いつつ布団にもぐりこみ、寝た。
翌朝、仕事をしていて何の気なしに荷物を持ったら魔女の一撃だ。
社長に言うとすぐに帰れ、と湿布を渡された。
帰宅して引き出しを漁り腰痛ベルトをしてから食事を取った。
うーん。
やばいね、これは。
先生のお宅に電話してお稽古に伺えない旨と家に来ないようにと言うことを連絡した。
食後に飲んだ鎮痛剤が効き出し布団に潜る。
参ったなぁ。
10年ぶりだろうか。
鎮痛剤の影響からかうつらうつらとはするものの、身じろぎで痛み困る。
夕方、目が覚めたので鍼屋に行くことにした。
携帯を手にとれば着信数件。
すべて先生からだ。
メールも入っていてこちらに来るとの事。
困ったな…。
返信しようとしたら玄関で物音、遅かったか。
先生を迎え入れて鍼屋に電話した。
「大丈夫? 一緒に行くわ」
「有難う、でも来るなと言った気がしますが?」
「聞いたわよ。ほっとけるわけないじゃない」
脱ぎ易いようなものを着てそろりそろりと歩いて鍼屋に向かう。
先生が鞄を持ってくれた。
心配そうだが病気じゃないからなぁ。
鍼屋に着いてなんとか診療台に上がり、脱いだ。
鍼医者が背中に腰にと触れ、先生が心配そう、というかちょっと嫉妬してそう。
気のせいだろうか。
何本も刺されてほっとかれる。
先生が手を撫でてきた。
ええい、なんぞしたくなるからやめてくれ。
暫くして鍼が抜かれた。
座って、と言われて座る。うん、随分楽だ。
「明日また来て下さいね」
「はい」
お支払いをして先生と二人帰る。
「随分違うわねぇ」
「ん、そうですね。まだ痛みはしますが」
家に帰って先生に軽くキス。
「そんなわけで今日は抱けませんよ」
「あのねぇ…」
片手で頭抱えてる。
「冗談ですよ、それより腹減りませんか?」
「作ってあげるわよ。寝てなさい」
「…おかゆは遠慮します」
「あら? 嫌いなの?」
「というか病気じゃないですから。普段のものでいいんですよ」
「そう? ま、いいわ。ほらベッド行きなさい」
「はい」
ベッドに転がると立つよりは楽で、しかし寝返りは難しく。
台所の音が何か心地よくて少し寝てしまったようだ。
ふと目が覚めると先生がベッドの横に座って食事の支度をしている。
「ん、リビング、行きますよ」
「あぁ起きたの? 出てこなくて良いわ。背中、クッション入れてあげるから」
病人のように扱われて自分で食べるといってるのに、あーん、などと。
「先生、世話焼くの好きですよね…」
何とか食べ終わりお茶を頂いてる間に先生が片付けてくれている。
散らかった部屋も。
てきぱきと掃除や洗濯物を片付けて行く。
流石に長年主婦をしている人は手早くて凄いと思う。
「あ、そうそう。今日泊まるから」
「じゃ和室に布団敷いてくださいよ」
「どうして?」
「我慢できなくなるから」
「ばか、こんな状況で何言ってるのよ」
「可愛いな」
「寝なさい!」
頭をペシッと叩かれた。
笑いながら布団に潜り込む。
「もうっ」
怒りつつも俺を頭をなでている。
優しくて、可愛くて、綺麗で。
そんな女が俺のものになってくれている幸せをいつまで享受できるのだろうか。
先生から軽くキスしてきて寝かしつけられる。
満腹感と先生の甘い匂いに包まれてしばしの眠りについた。
次に目が覚めたのはすっかり夜で先生は今でテレビを見ながらお裁縫をしている。
俺の襦袢に半衿をつけてくれていたようだ。
「あら、目覚めた? ご飯食べる?」
言われて見れば腹が減った。
「いただきたいです」
よっこらどっこいしょと起きてトイレに行き、リビングの椅子に座る。
「先生はもう食べたんですか」
「そうよ、起こしたけど起きなかったもの」
ん? と時計を見れば10時で流石にそりゃ食ってるよな。
「あなた明日仕事どうするの」
「休めって言われてます」
「そう、よかった」
いくつか出された小鉢を平らげてもう少し欲しいなと思っているとプリンが出た。
デザートか。
「お夕飯の買物した時にね、買ってきたの」
「あなたの分?」
「ううん、別に買ってあるわ。だから食べて良いわよ」
「そんじゃいただきます」
先生はそのまま半衿を付けている。
つい見とれていると終られて片付けだした。
「なぁに?」
「ん、いや。そういうのしてる姿も好きだなと」
「変な子ねぇ」
先生はお針を数えて蓋を閉め、仕舞いこむ。
俺は満腹。
「さ、そろそろ寝るわよ。あんたも寝なさい」
「いま起きたところ…」
「ダメよ、ちゃんと安静にしなくちゃ治らないわよ。寝れないなら添い寝してあげるから」
「うーん」
ベッドに連れて行かれて布団に押し込まれた。
横に先生が潜ってくる。
「したくなっちゃうな」
「安静にって言ってるじゃない。良い子だから寝て頂戴」
寝かしつけようと撫でてくる。
お母さんモード?
「あなたが先に寝たほうが俺は眠くなるんだけどね」
「そうなの?」
「寝息、聞いてるの好きなんだよ。あなたも今日は疲れたでしょう?」
「そうねぇ」
あふ、とあくびをしている。
「だから先に寝てくれて構いませんよ」
「だったらそうするわ。あなたもちゃんと寝て頂戴よ?」
「うん」
久しぶりに枕を二つ離れさせての就寝。
手を絡めて。
先生の体温と寝息が心地よい。
眠れないだろうと思っていたのにすぐに眠気が下りてきた。
おやすみなさい。
夜半目が覚めて腰痛ベルトを締めてトイレへ行く。
先生が起きてしまった。
寝ぼけ眼でこちらを見て慌てて起きようとする。
「良いから寝てなさい」
「でも」
「大丈夫」
ちょっと心配そうだが着いてこなくていい。
一応俺は自分の足で歩けるからね。
トイレを済ませて出るとドアを開けたところに先生がいた。
「ん? 先生もトイレ?」
「じゃなくて心配だったのよ」
「ありがとう。でも良いから。足が冷えるだろ?」
まだそんなに寒くないから床暖入れてない。
連れてベッドにまた戻り、潜り込む。
「ほら、体冷えちゃってるじゃないか。温めてほしい?」
「…ばか」
腕を絡めるだけにとどめておいてもう一度寝かせた。
ちょっと性欲がわいて困るわけだが…。
朝になってたまらず先生が起きたところを顔の上に座るように言った。
「えぇ? なんなの?」
「いいからいいから、壁に手を突いて。俺の口のところにあなたの持ってきて」
「もぅっ朝から。ばかなこと言わないで」
「頼む、させて」
拝んでお願いしたら流石に憐れに思ったか、嫌な顔をしつつだが跨ってくれた。
「こ、こう?」
徐々に先生のあそこが迫ってくる。
「もうちょっと下ろして」
毛が鼻にかかる。
「ん…」
舌で間を割って突起を舐めると膝が俺の頭を締め付け腰を浮かそうとする。
腕で押さえ込んで舐め、楽しむ。
上のほうから先生の良い声が聞こえてきて凄く良い。
先生が逝ってへたり込みそうになり、慌てて俺の上から退いた。
横に寝転んで息が荒い。
「お疲れ様、好かったよ」
「今回、だけね。もうやだから…」
「そうだね、ごめん。でもしたくて」
落ち着いた後、朝御飯作るからと起きて部屋を出て行ってしまわれた。
ご飯は昨日炊いたのがまだあるらしく、玉子焼きと味噌汁のにおいがする。
「久さん、起きてる? そろそろ出来るけど」
「あぁ、はい」
「ゆっくりでいいわよ」
昨日よりは良い状態で椅子に座って食事を取る。
いつもながらにうまい。
食事が終った後またベッドに押し込まれた。
「んー。あなたも一緒が良いな」
「仕方ないわねぇ。すっかり甘えたさんになっちゃって」
「こういうときは甘えたいものじゃないですか」
「はいはい、ちょっと待ってなさい」
着物を脱いで浴衣に着替えて横にもぐりこんできた。
寝返りを打って先生の胸に顔を埋める。
「なぁに? 甘えてるの?」
「うん。良い匂いだ」
さっきやったから汗かいてるしね。
ゆっくりと背中をなでられてすぐに寝た。
こんなに寝れるってことは疲れてるのかな。
昼過ぎに目が覚めると先生はまだ俺を抱いて寝ている。
まだ腹は減らないからもう少し寝ておこう。
と思って寝ていたら夕方で先生は既に布団にはいなかった。
「あれ?」
「起きたの? お夕飯もう少しだから待っててー」
「あー…もうそんな時間か」
のっそりとリビングに出て椅子に座る。
「明日お仕事行くの?」
「行きます」
「だったら一緒にうちに帰りましょ」
「朝の稽古、あるんじゃ」
「いいの。あんた一人にするほうが心配だもの」
苦笑。
いつもは心配をしている俺が心配されるとはね。
肉多目の炒め物におひたし、お味噌汁。
先生は味噌漬け。
「冷凍庫にあったの、貰ったわよ?」
「どぞどぞ」
食後暫くして先生が洗ってあげる、と風呂に入れてくれた。
いつもと逆でなんだか笑える。
先生も何か楽しそうだ。
「でもそこ触るのはダメですって」
「あら、いつもと同じことしてるだけよ?」
ホホッと笑われた。
流石に冗談だったらしくすぐやめてくれて拭かれて風呂から出る。
寝巻を着たらすぐに布団に入れられた。
頭をなでられて寝かしつけられる。
先生はもう少しやることを済ませたら寝るとのことだ。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
挨拶を交わして先生が部屋の電気を消した。
風呂で疲れたのかすぐに眠気がやってきて寝てしまった。
夜半起きて支度する。
先生が寝ぼけ眼ながら手伝ってくれた。
「じゃ、行ってきます」
「無理しないでね」
出勤して気遣われつつ、荷物は若いのに運ばせて売る。
売って売って売りまくり利益は結構に出た。
人を一人余分に使ってるからにはいつもより頑張った。
流石に冷えて少し痛む。
帰宅して先生と一緒にお宅へ向かう。
いつもなら先生を座らせて俺が立つのだが今日は俺を座らせようとする。
乗り換えも俺の手を引いてまるでいつもとは逆だ。
なんだか気恥ずかしい。
最寄り駅に着いて先生が少し悩んだ様子。
そのまま手を引かれてタクシーに乗せられた。
「バスにしようかと思ったけど…歩くの辛いでしょ?」
「あぁそれで。有難うございます」
先生のお宅の前で降りて、先生に連れられお邪魔する。
「あら絹先生。こんにちは」
「はい、こんにちは」
「お帰り、早かったねぇ」
「お邪魔します」
「もう大丈夫なのかい?」
「まだよ。だけど一人で家に置いておくの心配だから連れて帰ってきちゃったわ」
「だったら水屋じゃなくて見学だね」
「そうね」
お昼ご飯を食べてお稽古まで寝かされ、先生が支度をしてお稽古が始まる。
水屋に八重子先生が入られた。
「あら、今日はどうされたんですか。珍しい」
「この子腰を痛めちゃったのよねぇ」
「あらら~大変ですわねぇ」
今日は一日そんな話題をしつつのお稽古で。
俺のお稽古はなしで先生が夕飯を作る。
「出来たら起こしてあげるから寝てなさい」
「すみません」
やっぱりじっとしてるのも疲れるようで少し寝てしまった。
気づくと毛布が掛けられている。
「あら起きたの? ちょっと待ってなさいね」
「よく寝てたねぇ」
ゆっくり身を起こすと8時半を回ったところ。
「あー…寝すぎましたね、食事とっくに終られましたよね」
「あんたの分はよけてあるから大丈夫だよ」
「助かります。ありがとうございます」
座りなおすと温められてご飯が運ばれた。
うまそう。
「いただきます」
「どうぞ」
やっぱりうまいなー。
「あれ、今日って先生ですよね、ご飯」
「あらやっぱりわかる? そうよ、それはお母さんが作ったのよね」
「殆ど違わないのにねぇ」
「いやなんとなくですけど」
全部おいしく頂いて、ご馳走様! 箸を置いた。
「足りた? なにかいる?」
「いや満腹です。はい」
洗い物に先生が立って、八重子先生はお風呂へ。
寝転がると再度眠気に纏いつかれてうつらうつらとしてしまう。
「あら。こんなとこで寝ないでよ。あっちの家行きましょ」
「へ? え? なんで?」
「だってベッドのほうが起き易いじゃない」
なるほど。
「ちょっと待っててちょうだいね」
台所で色々と始末する音が聞こえて暫くして先生が戻ってきた。
「さ、行くわよ」
「あのー八重子先生に言わなくて良いんですか」
「あなたが寝てる間にそうしようって決めたのよ」
「なーる。じゃ参りましょう」
羽織を着せられ先生に手を引かれてあちらの家にはいる。
すぐさま先生が暖房を入れ、風呂に湯を張った。
「ほら、それ脱いでお布団入んなさい」
「あなたは? 一緒に寝てくれないのかな」
「お風呂入ったら寝るから。先に寝てなさい」
えー、と不満げにすると仕方ないわねぇと添い寝してくれた。
やっぱり先生の体の温かみとか、匂いとか。
そういうものは安眠に重要だ。
しっかりと巻き付いて寝た。
先生が風呂に入れるかどうかはわからないが。
おやすみなさい。
朝になって結局先生は俺の腕から逃げれなかったらしく肌襦袢のままだ。
「おはよう。そろそろ起きなさい」
「んー…もうちょっと」
べたべたくっついていたのだがトイレに行きたいらしく。
いい加減に離せ、と言うことだった。
諦めて離すと落ちてた寝巻きを拾って着て行った。
夜中、俺が脱ぎ捨てたようだ。
待ってても戻ってこないのでおかしいと思っていると風呂桶の音がする。
なるほど昨日入り損ねたから入っちゃったか。
幸いこの家は自動だからつまりなんだ、昨日から沸きっ放しと言うわけで。
ガス代が勿体無いと後で先生に叱られるんだろうな、これは。
暫くすると先生が風呂から上がってきた。
うーん、色っぽい。
婀娜な年増ってわけじゃないが。
手招いて膝の間に座らせて抱き締めた。
耳を齧る。
「したくなっちゃったな」
「だめよ。もう朝御飯の時間だもの」
「後で二人で食べに行きましょう」
「まだ腰良くないのにダメ」
ぺちん、と額を叩かれて諦めた。
「早く治さないと抱けもしない。それともまた乗ってもらおうかな」
「バカなこと言うんじゃありません。早く治しなさい」
ぽんぽん、と腕を叩かれて開放すると髪を乾かしに洗面所へ先生は行ってしまった。
うーむ、ぬくもりが冷めて寂しい。
仕方ないから着替えるか。
床に落ちている肌襦袢など拾い集めて着て、長襦袢と長着を着ればそれなりに暖かく。
あ、ドライヤーの音が止んだ。
「あら、もう着替えたの? ちょっと待っててね」
手早く着替えてそれから洗濯物を引き上げて家に戻る。
「ただいまぁ」
「戻りました」
先生は先に洗濯機を回そうと思っているようだ。
俺は一旦台所に顔を出して八重子先生に朝の挨拶。
もうすぐ出来るとのことでお膳の支度をする。
「よく眠れた?」
「あ、はい。もうちょっとと思ったんですが起こされました」
「だってねぇ、寝かしつけるつもりだったのに離さないのよ、この子」
先生が戻ってきてた。
「おかげでさっきお風呂入ったのよね」
「がっちり抱え込んでたみたいです」
「あらら。眠かったんだねぇ」
「もう運んで良いですか」
「そうだね、それより律たち呼んできてくれるかい?」
「はーい」
先生と何か話すことがあるのかもしれない。
呼びに行って戻ると既に食卓には朝食が並んでいて、和やかに朝ご飯をいただいた。
食後、寝てなさい、と促されたが多少は体を動かさないと鈍る。
そう言えば、じゃお散歩しましょとコートと小銭入れを持って連れ出された。
秋の良い天気の中、先生との散歩は気持ちよくて。
「ひんやりしてきたわねぇ」
「秋ですねー。紅葉狩り、もう少ししたらどこか行きましょうか」
「そうねぇ、皆と一緒でも良いかしら」
「そのほうが楽しいですよね」
「ね、あなたお三味線できるんでしょ、なんか弾いて頂戴よ」
「ええっ俺下手ですよ」
「どうせわからないから良いわよ」
「あ、それ酷い」
ほほほ、と笑い飛ばされてお散歩を続ける。
小一時間ほどぶらついて戻った。
そんな調子で日曜はゆったりと過ぎて帰宅して寝た。
月曜、火曜と暇な市場の後、先生のお宅へ。
「あらー。もう大丈夫なの?」
「ええ、ま、なんとか。無理するとダメかもですが」
「じゃ無理のない範囲で」
「はい。用意してきますね」
「用意は良いわよ、してあるから」
「ご飯食べたの?」
「あ、はい」
「じゃお茶飲んでなさいよ」
「すみません」
先生がおいしそうにご飯を食べるのを眺めつつ、お茶をいただく。
ここ数日あったことなんかを聞いたり。
食べ終えたのを見計らい、茶室に先行した。
「こんにちは。あら山沢さん、腰大丈夫なの?」
「はい、こんにちは。もう殆ど良いですね」
「若いわねぇ。私なんかだと一ヶ月は寝込みそうよ」
「そうですかねぇ」
「いらっしゃい、今日は中置きで濃茶しましょうか」
「あ、先生。こんにちは。お願いします」
お稽古が始まり、先生が生徒さんに指導される。
優しく丁寧に。
和やかでゆったりとした空気の中、お稽古が進む。
心地良いからか生徒さんが辞められても新たに紹介で増える。
まぁ居付いてしまった私のようなのも沢山。
夕方が近くなって先生が迷うそぶりを見せた。
「ねぇ、今日、する?」
「えっな、何を?」
「何って…、ちょっと待ちなさい、何を想像したの」
「あ、いやえーと。えーと、長板でどうでしょうっ?」
「まったく。長板はあんたまだ腰がよくないんだから普通のにしなさい」
「はぁ、そうします」
いらぬ汗をかいた。
慌てて支度して、お願いして濃茶で稽古をつけていただく。
真剣に、厳しく指導を受ける。
優しくは、ない。
萎縮はしない程度に稽古をつけてもらい、後片付けを一緒にする。
腰がダメだと釜が辛い。
お茶の先生方はなよやかで弱い気がするが意外とあるのは普段釜の始末をしてるからだな。
そう思いつつ片付けを終えた。
先生から今で寝転ぶよう言われ、ありがたく横になる。
そのまま先生は台所を手伝いに入られた。
ここ、見えないんだよな。
見ていたいのに。
夜、就寝の支度を終え部屋に引っ込んだ後、そう言うと笑われた。
「他の人には見せない姿、久さんには見せてるじゃない」
「でも俺、あなたが主婦してる姿も好きなんだよ」
くすくす笑ってる。
抱き寄せてキスした。
「ダメよ、まだ治ってないんでしょ」
「でも今しないとあなたそろそろ生理だろう?」
「あら? そうね、そろそろだわ」
「だからその前にさせてよ」
「しょうがないわねぇ。腰が楽なようにしなさいよ」
何度もキスをして黙らせる。
先生のスイッチがすっかり入ったようなので布団に連れ込んだ。
白い肌にキスを落としつつゆったりと抱いた。
流石に俺も疲れ、先生の寝息とともに寝てしまった。
は二人して寝過ごして八重子先生に俺のみ叱られる。
ま、先生が寝過ごすのは俺の所為だからしょうがないんだよね。
朝ご飯をいただいた後はお掃除のお手伝い。
だけど今日は軽い作業ばかり頼まれて、少し気を使われてしまってる。
治りきるまではと言うことのようだ。
こりゃ明日あたり鍼へ行くかね。
洗濯、掃除、お買物など終えて居間でくつろぐ。
先生が席を立ち、暫くして戻ってきた。
「アレ、始まっちゃったわ」
生理、今かららしい。
ぎりぎりセーフだ、昨日しておいて良かった。
あ、しかし連休は抱けないのか。
うーん、残念。
少し眠そうなので今日は俺も早めに帰ることにした。
どうせ明日も会えるしね。
帰る道すがら近所でパスタを食べて帰宅。
風呂入って寝るだけだ。
時計を見ればまだ鍼屋は空いてる時間、試しに電話すると今空いてるとのことで行く事に。
「どう?」
「まぁまぁだけど早く治したくなって」
「明日はこれる?」
「今みたいな時間なら」
「じゃ予約しとこうか?」
「うん、お願い」
するすると鍼を刺されてツンッと来る。
響くんだよなぁ。
強い鍼で結構体力を分捕られるけれどかわり治る。
先生が生理終わる頃にはちゃんと抱ける体にしないとね。
そういえば前回の鍼の時、先生が微妙な顔してたなぁ。
嫉妬なのかな。
鍼を抜かれて帰宅する。
痛みは今はないからよく寝れて朝。
仕事もそれなりに動けてとってもいい感じだがここで無理をすると…。
と言うことで控えめにしてお稽古へ向かった。
今日は先生はだるそうなのでサポートに徹して俺へのお稽古はなし。
少し苛ついてもいるようで人目のないところでつねられた。
ちょっと痛い。
まぁぶつけられるほうが篭らせてしまうよりは良いんだけど。
お座布団に座らせて足を俺の懐に入れてあげた。
これが温めるには早いからね。
「何してんの、あんたたち」
「足が冷えたと仰るので温めてるだけです」
「コタツ出そうかねぇ、そろそろ」
ほんのり温まってきたようだ。
「もういいわ」
「まだ早いです。冷えはよくない」
苛々してるのはわかる。
「なんだったらマッサージしてさしあげますが」
「いらない。帰って」
八重子先生も呆れてる。
俺も諦めて辞去を告げた。
「悪いねぇ、ご飯も用意してたんだけどあの調子だろ」
「孝弘さんにでも食べてもらってください。アレのときはわかります、仕方ないです」
「じゃ土曜日、またきてちょうだいね」
「はい、じゃお邪魔しました」
帰宅して飯を食ったら予約の時間だ。
鍼屋に行く。
少し喋りつつ、生理時のイライラの対策を聞く。
残念ながら人それぞれのようだ。
終ると随分すっきりした。
「明日も来た方が良いよ」
と言うので明日は昼からの予約にした。
風呂に入って寝て、出勤すると連休前と言うこともあり忙しい。
少し頑張りすぎて腰が重い気がする。
苦笑して飯を食って落ち着いた後、鍼を受けに行った。
「うん? 無茶したでしょう」
「したみたいですが明日もしそうです」
「明日はこれるの?」
「無理です」
「じゃ、今日は泣いてもらうね」
うっと呻く程度の鍼をガッツリ刺されて帰ったらすぐ寝るように、と開放された。
布団に潜ると消耗した体力を補充するかのように寝てしまい、夕飯にも起きれなかった。
起床時間より30分前に目が覚めて、携帯が光っていることに気づく。
先生からだ。
八つ当たりした事の詫びと、明日のお稽古きてくれるの? と。
どうやら苛々は収まったようだ。
勿論お伺いする旨、返信した。
きっと寝ているだろうけど朝起きた時にでも読むだろう。

拍手[0回]

h43

居間でゆったりと時を過ごす。
先生がさっきから俺の膝に手を置いたままだけど。
寂しかったのだろうか。
そんなわけないか、一週間じゃ。
「あ。久さん、買物行かない?」
「いいですよ」
家を出ると買物じゃない方向へ行こうとする。
「ん?」
「あっちの家、ちょっとだけ…」
珍しいこともあるもんだな。少し驚きつつ新鮮だ。
部屋は寒くて慌てて暖房を入れる。
ストーブの傍に座らせると俺にくっついてきた。
「あの、したいんじゃないの。こうしててくれる?」
「なんだ、したいのかと思った」
「違うわよ。ちょっと恋しくなっただけ…」
可愛いとこあるなぁ。
「お母さんの前でこんなこと出来ないでしょ、だから」
ほんの30分ほどで良いらしい。
ゆったりと撫でられるがままになっている。
暫くして落ち着いたらしい。
「いい加減買物行かなくちゃ怪しまれるわね」
「その前に髪を整えたほうが良い。乱れてるよ」
「あら? あらら、やだわ」
パタパタと洗面台の前に行って直している。
ストーブを切って玄関の草履を整えておいた。
珍しく脱ぎ散らしてあったから。
先生が俺の着付けを直してくれて、それから買物へ。
「何する予定ですか?」
「筑前煮をメインにするつもりよ」
菊菜のおひたし、あとは肉を焼いて白ネギを付け合せに。
「あなたいると高いお肉沢山買えて良いわ」
「いつもはそんなに買わない?」
「律はそんなに食べないからちょっとだけって買いにくいのよ」
「あぁ。確かに少しだけってなるとスーパーでついでに買っちゃいますね」
「そうなのよね」
あれやこれやを買って重いものは俺が持つ。
「っと危ない」
先生の横を自転車がすり抜けた。
あー、スマホしながら乗ってやがる。事故起こすぞ、あれ。
「吃驚したわ…」
「大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫よ。帰りましょ」
俺の腕握ったままなの自分で気づいてなさそう。
信号待ちをしているときに荷物を持ち替えようとしたとき、やっと気づいたようだ。
慌てて離して荷物落としそうになって。
笑ってたら怒られた。
「両方持ちますよ。ほら」
太腿をちょっとつねられたが両手に荷物で帰宅した。
「おかえり」
「ただいま」
「戻りましたー。もう支度しちゃいます?」
「そうしてくれる?」
先に台所へ行ってごぼうとレンコンの下拵えをする。
こんにゃくもちぎって塩で揉み、水が出てくるのを待つ間に湯を沸かし里芋を剥いた。
里芋をゆで、別の鍋でこんにゃくを湯がくその間に椎茸を戻す。
後は細々と切っていると先生がやってきた。
「どう?」
「そろそろ里芋、良いかも」
「じゃ炒めましょ」
切ったものから順次先生が炒めて、俺は菊菜を洗うことにした。
段々おいしい匂いがしてくる。
洗い終えるとあたり鉢とゴマを渡された。
二人いると手際がよくなるな。
律君のお嫁さんが来たら三人に。捗りそうだ。
それとも日々交代か。
後は肉を焼くだけになって先生は一旦台所から去っていった。
明日の用意を確認してくるらしい。
ネギを切って肉を焼く。
ん、うまそうな匂い。
「ただいまー」
律君も帰ってきた。
「手を洗ってらっしゃいよ、もうご飯だから」
先生の声が聞こえる。
ご飯が炊けた音がして先生が戻ってきた。
交代し、お櫃に入れて出す。
台所と往復し、先生が盛り付けたものを食卓に並べた。
「おいしそうだねえ」
「ですよねー」
「めし」
「もうちょっと待ってくださいね」
並べ終えて先生が戻ってきて。
いただきます!
肉うめー。筑前煮うめー。菊菜もうまい。
やっぱり味付けは俺より先生のほうがうまいなぁ。
おいしく頂いてごちそうさま。
洗い物を終り今へ戻ると先生がいない、
風呂に入ったそうだ。
「一緒に入ってきたら?」
「あ、そうします」
いそいそと風呂に向かいぱぱっと脱いで戸をあけた。
「きゃっ」
「…ん? どうしました?」
「あ、久さん。…吃驚させないでよ」
中に入って閉め、軽くキス。
「ん……だめ…」
「後で少ししましょうね」
「はい…」
先生の体を優しく洗ってやると気持ち良さそうにしている。
少し欲情もしているようだ。
「お風呂、あがったら先に布団敷いて待ってて。戸締りするから」
「わかったわ」
お湯に浸からせてその間に俺もざっと洗う。
濯ぎ終えて先生の入ってる所へお邪魔するとペタペタと手を這わせてくる。
「くすぐったいなぁ。どうしたのさ」
「もうちょっとだけ」
「でもそろそろ出ないとのぼせるよ?」
ふぅ、と息をついて先にあがるわ、と出て行った。
もう暫く浸かって俺も上がる。
ざっと拭いて寝巻きを羽織り、居間に声を掛けると八重子先生が続きに入る。
「あ、先に寝かせてもらって良いですか? 戸締りはしておきます」
「いいよいいよ。じゃおやすみ」
「おやすみなさい。お先です」
その足で玄関やお勝手の鍵を確かめ、居間以外の火の始末をした。
律君に声掛けをする。
年をとると風呂は怖いからね。
それから部屋に入ると明かりを落としてランプのみ点けて先生が待っていた。
「お待たせ。寒くない? 布団入ってたらよかったのに」
「一人で寝たくないもの…」
そういいつつ伊達締めをほどいて俺を誘う。
明日のことを考えると軽くにしておかねばならん。
布団に入れて電気をすべて消した。
求められるままに唇に、乳首にキスを落として行く。
股間に手を差し入れると随分と濡れていて指が中へ吸い込まれる感覚だ。
声が出そうなのはキスで防ぎ微かなうめき声を楽しむ。
シーツを掴んで耐えてるのが愛しい。
「孕ませたくなる…」
ついこぼした声に反応したようで俺の背に腕を回してきた。
「…ほ、しい」
微かに聞こえ、足が絡みつく。
背中を引っ掻き傷を作りつつ二度三度と逝かせると眠たげだ。
「そろそろ寝るかい?」
軽く頷く。
股間を綺麗にしてやって寝巻きを整えて寝かしつけた。
明日のために軽く済ませたから何とかなるだろう。
幸せそうな寝顔を見ているうち、眠くなった。
俺も寝よう。
朝起きて普段のように支度をして先生を起こす。
今日はお寝坊はしてもらっちゃ困るんだよ。
ぼんやりしている先生を着替えさせて食事を取らせ、髪結いさんに送り込んだ。
八重子先生と着物の用意を点検してバッグの中身の点検。
暫くして先生が帰ってきた。
「さてと。着替えてくださいねー。あ、綺麗」
「ありがと。お母さん、着物どうかしら」
「出してあるわよ」
「じゃ久さん手伝って頂戴」
「はい」
一旦脱いで長襦袢から着直す手伝いをする。
次は八重子先生をお手伝い。
流石に二人掛り、綺麗に納まった。
トイレに行ってから三人で連れ立つ。
先生方を道場で下ろして俺は帰宅の予定だ。
「シートベルトちゃんとしてくださいね」
「はいはい」
二人ともちゃんとつけたのを確認してから安全運転で送り届ける。
夕飯はどこかで食べてから帰ると言うのでそのつもりで。
帰宅後、暇なので縄を3本煮る事にした。
たっぷりの湯を二つ沸かし、煮て行く。
薄い飴色になっては捨て、沸いたほうに縄を移し、新たに湯を沸かす。
繰り返して色が出なくなったら今度は干す作業。
ベランダに日よけを出し端から端へ渡しかけて干す。
これでよし。
鍋の始末をして、寝た。
夕方、携帯の音に目が覚めた。
先生からだ。
夕飯のお誘い。
了解して先生方に格を合わせたものに着替え、指定された場所へお迎えに上がる。
喫茶店の中を見回す。いた。
「お待たせしました」
「早かったねえ」
「お疲れ様です。どうでした?」
「緊張したわ~」
車に回収して先生の食べたいものを伺った。
天麩羅、ということでホテルへ予約を入れる。
信号待ち、バックミラーを見る。先生、綺麗だなぁ。
「ねぇ明日あなた来るの?」
「伺います。お昼からになりますけど」
「そう、ならいいわ」
席に着いて少しお酒も頼んで。
俺は飲めないけれど楽しく食事を頂いた。
先生のお宅まで送り、すぐに引き返す。
泊まって行きたいのは山々だが明日も仕事だからね。
来週一杯ずっと初釜みたいなもんだから、先生は暫く俺の相手も出来かねるし。
あれ? ん、もしかして。
再来週って先生は生理か?
…適当な日に軽くでもさせてもらわなきゃ持たないかも。
俺は別に最中でも良いけどさ。
嫌がるからなぁ。
帰宅して縄の具合を見る。順調。
疲れた、眠い。今日は寝よう。明日も忙しい。
おやすみなさい。
そして朝になり仕事へ。
それなりの忙しさで帰宅してすぐに着替えて電車に乗った。
先生のお宅に着くと古株のお弟子さんが水屋をしておられる。
昨年のように指示通り水屋を回して。
なんとか間違いもなく終りそうだ。
生徒さん方が帰って行かれると先生が水屋の皆を呼んだ。
先生のお手前でお菓子と濃茶を頂き、散会。
美味しかった。
水屋の皆さんも帰られて後は先生とお片付け、の前に。
先生に頼まれてお薄を点てた。
八重子先生にも一服。
「美味し…。そろそろ片付けましょ」
とっとと片付けてしまわねば、晩飯の支度もある。
手早く始末をして居間で一服していると先生のあくび。
「飯、作りましょうか?」
「んー、お願いー」
そのまま座布団を枕にして寝転んでいる。
まぁ、良いか。
「私は部屋で寝てくるよ。あと頼んだよ」
「はーい」
その前にと先生の帯を解き毛布をかけてあげた。
帯枕が当たって結構寝にくいんだよね。
台所に言って冷蔵庫の中を確認する。うーん。買物ちょっと行ってくるか。
一応先生の耳にその旨囁き戸締りをして移動。
肉や野菜などを買って帰った。
あれ? 開いてる。
あ、この靴。律君が帰ったのか。
居間を覗くと先生はまだ良く寝ている。
よし、作るか。
手早く食事を作ってご飯が炊けたら孝弘さんと律君を呼ぶ。
先生は後回しでいい。
腹が減れば起きる。
「お母さん起こさなくて良いの?」
「ちゃんとおかずもご飯も除けてあるから大丈夫だよ」
だったらいいか、と食べ始めた。
二人がご馳走様をしたので洗い物をしていると上っ張りを引っ掛けて先生が起きてきた。
「おなかすいたわ…」
「はいはい、待ってて」
味噌汁とおかずを温めなおし、ご飯をよそって俺の分と出した。
ちょっとぼんやりしたまま先生は食事を取っている。
疲れたんだろう。
転寝の間に頬に皺がついている。
時間をかけて食べ終わり、まだ眠そうなので着替えさせて布団に入れた。
八重子先生の分は冷蔵庫にある旨書き置いて俺は帰宅。
明日は久々のお稽古だ。
うちへ帰ると良い感じで眠くて布団に潜り込む。
アラームに起こされる朝。
もう少し寝ていたいが仕方ない。
着替えて出勤するもやはり今日からは暇で早めに帰宅できた。
飯を食ってゆっくり風呂に入りそれから先生のお宅へ。
「こんにちは」
「あ、いらっしゃい。早く用意して」
「はい」
昨日の初釜に来られなかった方の為に茶事形式で、ということだった。そうだった。
すっかり忘れてゆっくり来てしまった。
去年やったように支度をして、生徒さんを待つ。
つんつん、と背をつつかれて振り返ると先生が俺の口になんか入れた。
あ、お干菓子。
うまい。
頭をなでて茶室に戻って行かれた。暫くして生徒さんがいらっしゃってお稽古開始。
お菓子を出したり濃茶を点て出したりと先生の指示に従う。
炭の手前を拝見するのも楽しい。
今日はこれで、と声がかかったのは4時ごろ。
皆さんが帰られてから俺へのお稽古。
忘れているところが沢山あり、手厳しく直された。
「あさっても今日と同じだから忘れないで頂戴、水屋。もう指示しなくても動けるでしょ」
「う、はい…」
「わからなきゃ教えてはあげるけど」
「お願いします」
「さ、仕舞って頂戴。ご飯の支度手伝ってくるわ」
「はい。お稽古ありがとうございました」
先生と挨拶を交わして仕舞いに掛かる。
「あ、そうだ、久さん。今度の日曜なんだけど」
「はい?」
「お芝居行く約束しちゃったのよ~ごめんなさい」
「あ、お友達ですか?」
「そうなの。だからその、土曜日も…ごめんね」
「あぁ。いいですよ、かまいません。今日少し長めに良いですか?」
「それでいいなら」
ほっとした表情でそそくさと台所へ行った。
ま、たまにはね。お友達とも遊びに行きたいだろうし。
しょうがない。
片付け終えて台所に顔を出せば孝弘さんを呼んできてと仰る。
はいはい、と離れに行くとメシか? と先に聞かれた。
「もうそろそろご飯が炊けるそうですよ」
「ん」
のそのそと後をついてくる。
今日のメシはなんだろう、楽しみだ。
「律ー、ご飯よー」
「はーい」
先生の声が聞こえる。
家でご飯を取りたがる男子大学生はやっぱり珍しい。
食卓の上はいつものように和食だ。
一汁三菜以上かならず作るのは仕事を持つ女性としてはすばらしい。
美味い。
飯を食ったら後は半衿をつけたり足袋をつくろったり。
夜が更けて風呂に入り共に布団に潜り込む。
気恥ずかしそうなのはいつまでたっても変わらない。
ゆっくりと楽しみ気持ちよくさせて。あくびが聞こえる時間になった。
胸に手を這わせつつ寝かしつける。
「あなた、本当におっぱい好きよね…」
「やわらかくて好きなんだけど……腹のほうが良い?」
「お腹はやめて」
「じゃあここは?」
恥丘のふくらみや尻を触る。
「こら、もう。寝なさいよ」
「もうちょっと駄目? したくなった」
「ばか、もう、ん、こら」
「可愛いな。ね、好きだよ」
「やだ、恥ずかしい」
もう一度だけ、と抱いて。
し終わって眠たげなのをなでているうちに寝息。
今度は胸を触っていても眠気が勝ってしまったようだ。
気持ち良さそうな寝息に愛しくなる。
俺だけのものにしたくなっていつも困るんだよな。
キスマーク一つ、つけられないんだから。
溜息を落として寝ることにした。おやすみなさい。
翌朝、律君を送り出して掃除に掛かる。
俺は茶室から。先生は先ずは洗濯物。
昼を食べたら風呂の掃除。
トイレは流石に先生が掃除されるのを嫌がる。
終ったら庭お願い、の声に上着を着て庭箒を掴む。
箒目を付けつつ枯葉を集めた。
それが終ると八重子先生がお茶を入れてくれて少し休憩。
「ねぇ。この間あなた言ってたけど妊娠は無理だと思うの」
「へ? 何の話です?」
「覚えてないの?」
「そりゃあ無理だねえ」
「私を妊娠させたいって言ったじゃない」
「あぁ。そういえば言ったような。無理じゃないですけどね、今の科学じゃ」
「えぇっ!?」
「嘘だろ?」
「あ、ご存じない?」
「どうやってするのよ、ないのに」
「皮膚から作れるんだそうですよ。精子」
「えっ皮膚ってこの皮膚?」
「そう、それで卵子と受精させて体内に戻す」
「へぇー、今の医学って凄いもんだねぇ」
「ま、でも先生だと高齢出産にもなりますし世間体も有りますし。無理ですね」
「そうよ、無理よ。諦めて頂戴」
「はい」
「やっぱり欲しくなるものかねぇ」
「八重子先生だって覚えありませんか」
「それはまぁ、ねぇ。…あ、あんたが産んだら良いじゃないの」
「いやいやいや、それは誰の子だって話になりますでしょう」
「うーん、開とか」
「律君だと思われたら困ると思いませんか」
「困るね、それは」
「それに久さん子供苦手よね」
「とっても苦手です」
「なのに子供欲しいの?」
「あなたのなら」
あ、先生の耳が赤い。
「掃除、しましょ」
照れくさかったのか慌てて立って箒を取りに行ってしまった。
可愛いなぁ、とニヤついてると八重子先生に髪をまぜっかえされた。
「さてと。雑巾とって来ます。廊下やりますんで」
「はいはい」
とぎ汁の桶と雑巾で廊下を拭き清める。
素足で歩くの二人しかいないのに結構汚れるもんだね。
玄関の上がり口を拭いてるときに来客。
「ごめんくださ、あらまぁ山沢さん」
「あ、こんにちは、先生ですか?」
「えぇ、いらっしゃるかしら」
「ちょっとお待ちください」
広間を掃除中の先生に来客を告げる。
お通しするよう言いつかって先生は手を清めてから、と洗面所へ。
小間へ案内して先生とすれ違いに手を洗いに行き、お茶を煎れて出した。
それから掃除の続き。
板のところはすべて拭き終えた。
残りのとぎ汁は植木にやろう。
庭に出て撒いてると先生が呼んでいる。
「はい?」
「悪いけど広間もお願い。ちょっと出てくるから」
「あ、はい」
「早めに帰ってくるわね」
くしゃっと頭を撫でて外出されてしまった。
やれやれ、張り合いがないことだ。
撒き終えて中へ上がる。やっぱり多少は暖かい。
さてどこまでやってたのかな。
はたきはもうかけてあるようだ。箒が途中か。掃き清めて雑巾で畳を拭く。
八重子先生は花を活けているようだ。
茶花とは違い、鮮やかに派手に。
「広間終りましたー」
「ありがと」
「お茶かコーヒーいります?」
「うーん、コーヒー頼むわ」
「はい」
台所でコーヒーを二つ。俺はエスプレッソをダブルで。
「どうぞ」
テーブルの上にお砂糖も出して。
玄関の開く音、ただいまの声。
「お帰りなさい、コーヒーいります?」
「作ってー、ああ寒かった」
一散にストーブの前で手をあぶっている。
先生の分も作ってお砂糖も入れて混ぜて渡した。
「あぁ、おいしいわぁ。表寒いわよ~」
「でしょうね」
ふぅふぅ言いながらコーヒーを飲む姿は可愛くて。
半分ほど飲んでやっと落ち着いたようでコートを脱いだ。
おこたへ座って俺の手を掴む。
「あったかい手してるわよねぇ」
「手が温かい人は心が冷たいんだそうですよ」
「あら。そうかも?」
「同意しますかー、そこ」
八重子先生がウケている。
先生もクスクス笑いながら晩御飯の献立を相談し始めた。
すぐに決まったが先生が少し嫌そうな顔をした。
「寒いから行きたくないんでしょう?」
「あら、わかっちゃう?」
「俺行って来るから書いてください。上着取ってきます」
「お願いするわ」
廊下に出ると先生が八重子先生にちょっと叱られてるようだ。
ジャケットを取って戻るしょんぼりとして私も行く、と言い出した。
「いいからメモ書いて。俺は防寒万全だから大丈夫」
「でも…」
「八重子先生、先生は置いて行きます。外寒いですから」
「まったくあんたは過保護なんだから」
「メモ書かないんだったら後で電話します」
「あ、ちょっと待って、書くわよ。待って頂戴よ」
慌てて書いたメモを貰い買いに出る。
八百屋の近くでメモを見ると本当に慌ててたようで中々読みにくい。
それでも悪筆に慣れてるからまぁ読める。
指定されたものと別にプリンやチョコを買って帰宅した。
「戻りましたー」
「お帰りなさい…あの、読めた?」
「メモ? これでよかったかな」
買物袋の中身を点検して先生が微笑む。
「またプリン買ってきたの?」
「あなたも好きでしょう?」
嬉しそうな顔してるね。こんなことでも。
軽くキスしてみたらダメと言われた。
「ごはん、しないと…」
「はいはい、脱いできますね」
少し顔が赤いまま先生はお米を洗い始めた。
俺は部屋に戻って着替えたらお台所のお手伝いだ。
支度をしていると俺が少々ちょっかい出しても軽くいなされる。
お稽古中でもそうだが、切り替えが上手だ。
「そろそろお父さん呼んできて」
「あ、はい」
呼びに行って戻ると丁度律君が帰宅した。
八重子先生がお膳を拭いている。
配膳して夕飯を頂く。うまい。幸せ。
食後、洗い物を片付けてから帰ることにした。
先生が引きとめようとするが、諦めもまたいつもながらに早い。
「また明日、お会いしましょう」
そう言うと少し俺の袖を握り帰したくなさそうにしてるが、了見して離す。
そんな先生が可愛くて攫って行きたくなった。
苦笑して別れて帰宅。
翌日仕事が終わり次第すぐに先生のお宅へ。
火曜日にやったことと同じなのでさすがに手際よく動けたが、お稽古は散々で。
先生にやっぱり叱られて悄然と帰宅した。
土曜の仕事は忙しく、少し遅れて先生のお宅に着いた。
先生は今日はやや開放感からか朗らかで、お稽古もそんなには叱られなかった。
飯を食って風呂に入って部屋に入ってからも楽しげに俺にくっついてくる。
今日はしないで欲しい、と言われてたから我慢する気なのだが。
自分から俺の手を胸にやったりするのは何だ、からかっているのだろうか。
「して良いんですか?」
「え? しないの?」
「…明日お芝居見に行くからしないでって言ったじゃないですか」
「あら? そうだった…、きゃー、明日の用意してないっ」
慌てて俺の懐から飛び出て箪笥から着物を選びに行ってしまった。
「いや、待って。こら、上着!」
寝巻きのままじゃ風邪引くっての。
綿入れを着せて着物選びに付き合ってると律君が覗きに来た。
「こんな時間にどうしたの、お母さん」
「明日ほら、お芝居行くっていってたでしょ。それ忘れてたのよ」
これどうかしら? と聞きつつ決めて、後はバッグの中身の点検をしている。
律君は納得したらしく部屋に帰っていった。
「あ、お金出してないわ…久さん、どれくらい持ってる?」
「ひゃく」
「ええ、と。5万円くらい貸してくれるかしら」
「10持って行ってください、一応ね」
「悪いわ、そんなの」
「足りないの、恥ずかしいでしょう?」
「あんまり持ってるのもおかしいわよ…」
「じゃ間を取ったらどうですか」
「そぅ、ね、そうするわ」
部屋に戻って引き出しから金を出して渡すと財布に入れてバッグに仕舞った。
ちゃんとお出かけ用財布があるんだよな、先生。
家計用とは別に。
あとお茶のお稽古のときに違う財布を持ってることもあるけどあれはなんでだろう。
用意を済ませた先生に聞くと、あれはあれでお金を別にしているらしい。
経費の問題だそうだ。
部屋に連れ帰って布団の中に入れる。
冷たくなった手を俺の懐に。足も絡ませて。
「ふふ、温かいわ」
「風邪引かないうちに早く寝ないとね」
「そうね」
俺にしがみついていたのに温まると眠気に飲み込まれたようだ。
腕を掴む手の力も緩まって寝息が聞こえてくる。
肩が少し寒そうなので布団を直して共に寝た。
朝、早めの朝食の後。
先生は電車の時間など確かめつつ出かけて行く。
「さて、と。明日からは普通のお稽古だから用意しないとね」
八重子先生の指示で茶道具を出して確認。
なんだかんだお昼までかかり、昼飯を食べて退出した。
自宅の整頓をしていると夜に先生から無事帰ったのメール。
俺が心配するからとお出かけの時はちゃんと連絡くれるんだよね。
心配される年じゃないと言うけどさ。
恋人を心配して何が悪いのか。
それから今週は早めに来て助けて欲しいとの事、生理だからかな。
返事をして飯を食って寝る。
今週の稽古日は仕事の後はすぐに行って。
出来るだけ先生じゃなくても良い人は引き受けた。
先生は監査である。
上の方のお点前になると流石に無理で八重子先生と先生が交代勤務。
夜は抱かれないのが当然、と思っているわけでは無い様で気を使ってくれる。
ま、別に今は飢えてないから来週で良いんだよね。
ただ困るのが夜中に胸をまさぐられることだ。
冷たくて目が覚めるんだよね。
それとたまに噛まれる。
朝になって噛み跡を見て謝られる事があるがわざとじゃないし仕方ない。
諦めている。
そんな日が続き月末となった。
もう殆ど終りではあるがもう一日だけ、とお願いされて我慢する。
節分の夜、久々にした。
昼に神社へ行って疲れていたのもあり早々に終了だったけれど。
尻穴に豆を入れてあげるといったら切々とやめるよう訴えかけられた。
その必死さがたまらない。
まぁどうせ明日は消化不良だろう。
キスをして寝かしつけた。
朝、やっぱり先生はトイレから中々出てこなかった。
八重子先生が苦笑している。
「ついつい食べ過ぎるのはわかるんですけどね」
「私も何度か経験あるよ」
皆一度はやるよね、豆の食いすぎ。
食欲もなさそうなのでお味噌汁だけ。
「しかし年の数って無理ありますよねぇ」
「だっておいしいんだもの」
アイタタ、と何度かトイレに通っている。かわいそうだ。
流石に夕方には治っていたが機嫌は良くないようだ。
夕飯の後帰ろうとしたら何か言いたげにしている。
明日もまた会えるのに、帰したくないと言う。
少し考えて、じゃ、あなたが寝るまでなら、と譲歩した。
幸い車で来ているから寝かしつけてから走ればなんとかなる。
少し機嫌が直った。
風呂に入れて髪を洗ってあげるとすっかり気分が変わったようだ。
「ね、ちょっと寝たら?」
「寝過ごしそう」
「起こしてあげるわよ」
「そう? それじゃ悪いですけどお先に」
3時間ほど寝て、先生に起こされた。
「そろそろ起きないといけないんじゃない?」
「うぅー…行きたくない…」
「会社、休んじゃダメよ」
起こされて洗面所に連れて行かれた。
「ほら、顔洗って」
眠くてもたもたしていたらちょっと叱られた。
「もうちょっと甘えさせてくれても…」
「ダメよ、お仕事でしょ」
発破を掛けられて出勤する。
眠気も運転しているうちに取れて会社に着く。
一仕事終えて先生に作ってもらった弁当を食ってるとうらやましがられた。
朝からしっかり煮炊きしたものを食ってるのがうらやましいようだ。
まぁ昨日の残り物だけどね。
しかも半分は俺の作ったものだし。
朝からパンよりは体に良いらしいけど。
しっかり食って仕事仕事。
暇な半日の後帰宅して弁当箱を洗って先生のお宅へ。
「こんにちは」
「お帰りなさい」
「あ、ただいまです」
なんか照れくさいぞ。
「眠くない? 大丈夫?」
「大丈夫ですよ」
お稽古の用意をして生徒さんを待つ。
先に先生が来た。
覆いかぶさってきてキスされて驚く俺に目が覚めた? と聞く。
「覚めました、吃驚した…大胆ですね」
ふふっと笑って俺の頭を撫でている。
「こんにちは、お邪魔します」
玄関から生徒さんの声だ。
すっと離れて定位置につかれた。
お稽古が開始され指示が入るまでもなく動く。
締めに俺のお稽古。
「はい、いいでしょう。お疲れ様」
「ありがとうございました」
「さ、片付けましょ」
「はい」
お夕飯を楽しみにしつつ片付けた。
「今日はご飯食べたら早く帰りなさいよ」
「なんで?」
「寝不足でしょ。ちゃんと寝て」
「あぁ。わかった、帰ります」
片付け終えて食卓へ。
あ、うまそう。
おいしいご飯をたっぷり食ったら眠気が。
「泊まるの? 帰るならコーヒー入れてあげるけど」
「うぅ、帰ります。泊まりたいけど。朝、眠いですし」
ふふっと笑って一番苦い銘柄を選んで淹れた。
「うまいけど苦い…」
飲んでる間に部屋からコートと鞄を持ってきてくれていて。
律君が笑ってる。
飲み終えてコートを着た。
玄関で先生に乗り過ごしたりしないように、と注意を受けて帰宅。
電車の中が暖かくて危なく本気で寝入ってしまうところだった。
うちに帰って脱ぎ散らかして布団にもぐりこんだ。
朝になって着物を片付けたけど。
少し忙しい金・土曜の仕事をこなしてお稽古。
終った後、明日百貨店行くので一緒に、と言われた。
お夕飯を食べて風呂に入って、明日の半衿をつけたら寝間へ。
「明日、百貨店行った後うちに来ませんか」
「え、でも」
「今日はしないから、ダメかな」
先生は何も言わず耳まで赤くなってる。
「連れ帰ってくれたら良いのに…言われたら恥ずかしくなっちゃうじゃないのよ」
「可愛いなぁ」
後ろから抱き締めた。
「暖かい…」
「布団、入ろうか」
ひんやりした布団も二人で入れば温まる。
しかし数分は頬染めていたくせにすぐに寝息を立ててしまう先生である。
相変わらず寝つきが良い。
したいときには結構困るんだけど、今日はね。
んー、良い匂いだ。
お腹を触ったりして楽しんでいるうちに俺も寝ていた。
翌朝は食事の後、着替えて銀座へ出る。
楽しそうだ。
百貨店に着いたら先ずは特設会場。
俺には呉服エリアで待っているように言残して一人で入っていった。
あー、チョコね。
渡す前から何渡すか知られるのはいやと言うところか。
ま、楽しみに取っておくか。
呉服売り場をうろついていると作り帯の面白いのがあった。
切らずにできると言うもの。
まぁ先生には必要はないだろうが俺には必要だ。
袋帯、苦手なんだよね。
説明を受けてチラシを貰っている所へ先生がきた。
「あらあ、なぁに?」
「作り帯ですね」
「着付けてあげるわよ? それくらい」
「それはありがたいんですが一人で他所の土地に行くことだってありますしね」
「あ、そうね」
納得しつつどうなっているのか確かめている。
「うーん、良く考えてあるわねぇ」
「ですよね、今度作ろうかな。見立ててください」
「そうね、一つあったら便利よね」
その後、帯や着物を見て、でもぴんと来るのがなくて。
アウトドア衣料の所で先生に仕事着を見繕ってもらった。
シャツの首が伸びてたりして見苦しいって。
どうしても仕事だと見えないところはどうでもよくなるからそのままにしていた。
いくつか買ってそれからお昼を食べにレストランエリア。
ごった返していて先生が嫌な顔をした。
「お弁当買わない?」
「そうしますか。いや混んでますねえ」
「平日よねぇ」
「みんな同じ考えでしょう。チョコ買ってお昼に良いもの食べて帰る」
「そうなるわよねぇ」
地下へ降りてお弁当やお惣菜を見て回る。
「これがいいわ。あんたは?」
「俺はこっちが…」
「……サラダか何か買いなさいよ」
「うぃっす」
ローストビーフのサラダを買おうとしてると背後から怖い声。
「こら、ダメ。そこのほうれん草と小松菜とチーズとトマトの温サラダの方がいいわ」
「…うぅ、はい」
「お肉にお肉なんてダメでしょ」
「生ハムのサラダは」
「だめよ。体冷えるわ」
苦笑して先生の言うサラダを200g頼んだ。
持って帰って手を洗い着替えて食卓に着く。
先生は俺が着物をつるしている間に冷蔵庫にチョコを仕舞った。
部屋暖かくなるからね、解けちゃう。
「先生、食べましょう」
「ん、ちょっと待ってね」
ガサゴソと紙袋を片しているのを尻目に弁当を広げる。
お皿を出した。
サラダは先生も食べるだろ。
「お待たせ。いただきましょ」
いただきます、と手をつけ始めた。
と思ったら箸を置いた。
「ねぇ、おつゆ何かあったわよね」
「ありますよ」
「何か貰っていい? ちょっと温かいものほしいわ」
「ああ、ちょっと待って」
台所で湯を沸かしつついくつか持って出す。
「どれがいいですか?」
「そうねぇ、この鯛のお吸い物がいいわ」
一人分の味噌汁なんて作らないから買ってあるんだが、こういうとき都合がいい。
俺は試食用で貰った湯葉と海苔の吸い物。
味噌汁碗で出して食事再開。
「意外とおいしいわね」
「こっちも中々」
「こら、サラダから食べなさい。お肉からはダメよ」
「はい」
あ、意外とうまい。
見た目が微妙だったんだけど。
「おいしいわねえ」
「ですねぇ」
お弁当もおいしくて先生も俺もすべて食べてしまった。
片付けて少し一服。
先生から俺の膝に手を突いてもたれかかってきた。
キスをして胸に手を這わすと身を震わせ俺の手首を掴んだ。
「もうちょっと食休み、させてちょうだい。ねぇ」
「したくなった」
「まだ時間あるじゃないの」
「しょうがないなぁ」
後ろに手を突いて好きなようにさせる。
ま、家じゃこんなこと出来ないからいいけどね。
暫くして先生が立ち上がり、ストーブの設定を下げた。
「暑くなっちゃったわ」
そのままトイレへ行き、シャワーを使う音がした。
汗ばんでるほうが好きなのになぁ。
と思ったらすぐに浴衣を羽織って戻ってきた。
「早いな」
「だって、あなた舐めるでしょ、だから」
顔を赤らめている。
なるほど、股間だけ洗ってきたか。
「どれどれ?」
ぴらっと裾をまくってやったら慌てて隠そうとする。
「隠すなよ、どうせ裸になるんだから」
「いやよ、恥ずかしいわよ」
「じゃそのままここでしよう」
壁に押し詰めて弄ってやるとぎゅっと俺の肩を掴んで声を出すのを耐えているようだ。
乳首を捻り上げるようにすると声が出た。
「あっ、うぅ、痛、ん…」
中もほぐして結構いい感じになってきたところでペニバンをつける。
さっき先生がチョコを仕舞っている間に出してきておいた訳だ。
座り込んでしまってる先生に舐めさせようとするといやいやをした。
「舐めなきゃ痛い思いをするよ? いいんだね?」
「ぁ、う……」
唇に押し付けると諦めたようで舐め始めた。
「ん…ぐ、うぅ…はっ」
おっと奥へ入れ過ぎたようだ。抜いてやると咳をしている。
それでも健気に治まったらまた舐めて。
「よし、後ろを向いてお尻をこっちに突き出して」
「あ、お願い。ここじゃいや…」
「ベッドでもいいけどそれなら自分で入れてもらうよ」
「えっ」
「自分から俺の上に乗って。おまんこ広げてこいつを中にぶち込むの、自分でやるんだ」
「そ、んなの、むりよ…」
結局その場で挿入した。
とはいうものの膝も痛いし先生も辛そうで抱え上げてベッドに下ろした。
乳首を責めつつ中を抉る。
突いてるうちに先生が潰れてきた。
腰を抱え後背位のままあぐらの上に座らせる。
足を開かせて三点責め。
まだ始めて1時間も経ってないのにもう辛そうだ。
手があと二本あれば両乳首と尻の穴も追加で弄れるのにな。
そこまでしたら狂っちゃうか?
狂ったら俺がずっと面倒みればいい話だな。
おっと痙攣している。一旦休憩だ。
抜いて横臥させてやった。落ち着くまで様子を見る。
息が落ち着いてきたがまだぼんやりしている。
乳首をつねると焦点が合った。
「い、た……あっ、だめっ」
尻の穴を弄ったものだから抵抗している。
「ほら、力を抜いて息を吐いて」
「やだぁ」
「暴れたら痛いの知ってるだろう? それとも痛い事されたい?」
痛いのと秤にかけたような、微妙な顔をする。
「ど、どれくらい?」
「泣くまでかな」
「う……なに、するつもりなの…」
「鞭」
「ひっ」
「はまだ早いから手で叩いてあげましょう」
「あ…それなら」
膝に抱え込んで先ずは軽く。
眉間に皺をよせて痛みに耐えている。
まだまだ余裕はあるな、大丈夫。
少しずつ強く打っていくと耐えかねてか声が出た。
まだだ。
逃げようと暴れだす、それを押さえ込んで打ち続けるとついに泣き出した。
「いやよ、もういやぁっ、ぎゃっ」
暴れた拍子に膝から動いてしまい、股間を叩いてしまった。
「今のは痛かったね、でもおとなしくしないからだよ」
「もう勘弁してぇ…お願い」
「まぁいいよ、初めてにしては頑張ったね」
キスをするとちゃんと舌を絡めてきた。
痛い後は優しく抱いて。
すっかり疲れた先生は夕方には寝てしまった。
尻は結構赤くなっていて熱を持っている。
濡れタオルで冷やす。
その俺の手も結構腫れているので絞りにくい。
何度かタオルを替えて赤みが引いてきた。
ところどころ指の痕になっているのが嬉しくて。
楽しみつつもどうせ夜中まで起きはすまい、とある程度冷やしてから寝た。
やはり夜中に揺り起こされてトイレに。
だが痛くて座るのがつらいと言う。
「こういうときは和式のほうが楽ですね。ああ。風呂でする?」
「えっ、やだ、それはいやよ」
「だって痛いんでしょう? 座るの」
「痛いけど…恥ずかしいもの…」
「今更」
「お手洗いでいいわよ、ね、連れてって」
トイレでそろりと腰を下ろして、痛そうに顔をしかめる。
心なしか音も途切れ途切れで。
「あっやだ、なんでいるの?」
「なんでって…あ、止まっちゃった? ちゃんと出し切らないと膀胱炎になるよ」
「やだもぅっ、出ててっ」
腕をバシバシと叩かれて追い出された。
恥ずかしがってるのが可愛い。
まぁすぐに呼ばれて部屋に連れ戻したんだが。
ベッドの上で点検する。
そんなには腫れてないかな。
ついでにもう一戦、と思ったら先生のお腹がなった。
「ありゃ。なんか食いますか」
「でも冷蔵庫、何にもないわよ」
「食べには…むりですね、このお尻じゃ」
「無理ねえ…」
「何か買ってきましょう。何がいいですか」
「軽いものがいいわね。こんな時間だもの」
「スープご飯なんてどうです?」
「あ、それいいわね」
「トマト系? 塩系?」
「塩系でいいわ」
「OK」
ささっと会話しつつ着替えて買物に出た。
コンビニにあるものでスープの具材をそろえる。
袋野菜とサラダとウインナー。
帰宅して湯を沸かした鍋にあけ、味付けをして行く。
「いい匂い~おいしそうね」
炊けた頃ご飯をチンして丼へ。
その上にスープをかけ、具材もたっぷり載せる。
少しゴマをあたって散らした。
先生を食卓につかせ、食べさせた。
正座の方が楽らしいので卓袱台でだけれど。
「おいし♪ おつゆかけご飯なんて行儀が悪いって言われてたのよ」
「これはスープご飯ですから。別物別物」
おいしく食べ終えると先生が横たわった。
正座しててもやっぱり痛むようだ。
洗い物を終えてからベッドに連れて戻り、添い伏し。
お腹も膨れて先生はとっても眠そう。
キスをして撫でているうちに寝息に変わった。
可愛いなぁ。
明日もたっぷりしてあげよう。
おやすみなさい。
朝、先生を置いて出勤する。
帰る頃にはいないだろう。
そう思っていたのに帰宅するとお昼ご飯を作っていた。
「お稽古は?」
「あ、おかえりなさい。昨日のうちにお母さんにお願いしたの」
「ただいま。いつのまに?」
脱ぎつつ聞く。着替え着替え。
「朝あなたがご飯作ってくれてる間よ」
「へぇ、泊まるつもりだったんだ?」
「あら。家に来いってそういうつもりでしょ? 違ったの?」
「違わない」
後ろから抱きついて胸をまさぐると叱られた。
ご飯食べてからにしなさいって。
「お尻、調子どう?」
「まだ痛いわ…」
「後で見てあげようね」
「ばか、もうっ。服着なさいよ」
「はーい」
着替えて手を洗うと飯ができていた。
テーブルに並べようとすると卓袱台を指定される。
なるほど、確かにまだらしい。
先生は恐る恐る座って楽な体位を探している。
「これでお稽古に行けって言うなんて…」
ぶつぶつと文句を言われてしまった。
「あぁむしろ見たいですね。生徒さんの前でどうするか」
「階段から落ちたっていうわよ」
「……そういう回答は望んでなかった」
「あらそう。早く食べなさい」
軽くかわされて昼飯を食う。
「おいしいなぁ」
「ありがと」
食事中に少し愚痴を言われてしまったものの、メシは美味しかった。
片付けてから押し倒す。
「あ、こら、痛いわよ」
「ごめん、乗って」
うん、確かに床の上でごろ寝は後頭部が痛い。
先生はケツが痛かったんだろうけど。
割烹着を俺の太腿の上で解いて脱いで、畳んでる。何か面白い光景だ。
そういえば昨日散らかした色々なものが片付いてる気がする。
「せんせ。ペニバンとかどうしました?」
「あの、洗っておいてあるわ…。その…ベランダの縄って」
「あなた専用の縄。もうちょっと手を掛けますけどね」
「洗濯物かけようかと思っちゃったわよ」
「あれ作るの大変なんですよ、やめて下さい」
「そうなの?」
「教えますから手入れ、家でします? 俺より繊細だろうし」
「遠慮するわ、律にそれ何? なんて聞かれたら困るもの」
「八重子先生になら良いんですか?」
「ばか、しらない…」
横向いて耳を赤くしている。
「可愛いな、そろそろしましょうか」
上から退かせて先ずはお尻の点検。
トイレをする時のように着物をたくし上げた。
「壁に手を突いて前傾してー。はい、足を肩幅に開く」
「こんな格好させるなんて…酷い人よね」
お尻に触れて様子を見る。
「赤くはそうなってもいないし、蚯蚓腫れもない。腫れてもない感じだな」
「座ると痛いのに?」
「中のほうがまだなんでしょう。あそこは痛くなかった? 最後当たっちゃったけど」
「あ…、うん、大丈夫よ」
「一応確認ね」
「えっあっ、だめ」
割り開いて確認する。
「もう濡れてるねぇ」
「ぅ…、あっ待ってちょっと」
「どうした?」
「窓、開いてるの。閉めないとダメ」
「おっとと、それはいかん」
慌てて窓を締めている間に先生は寝室で脱いでいた。
こんにゃろう。
「なんで勝手に脱いでるのかなー? 脱いでいいって誰が言いました?」
「えっ、だってするんでしょ? 脱がないと…」
「脱がせる楽しみってものがあるんですよ?」
「え、じゃ着たほうがいいかしら」
「もういいですけどね、勝手に脱がないでくださいよ」
とりあえず脱いだものをハンガーにかけてやって、それからベッドイン。
今日は帰らなきゃいけないだろうからと軽くに止めた。
疲れて寝ているのを見るのが結構好きでついキスしたら起こしてしまった。
「ん、もう帰らないと……眠~い」
「もうちょっと寝てたら良いじゃないか」
「だめ、帰らないと。明日もお稽古だもの」
「だったら送るから車の中で寝る?」
「そうしてくれる? お風呂はいるわ…」
「洗ってあげるよ」
眠すぎて体に力が入ってない先生を抱きあげて風呂に連れて入る。
ゆったりと髪を洗い体も洗ってあげた。
このまま布団に戻して寝かせてやりたいほど眠そうだが帰る意志は強固だ。
体を拭いて髪をドライヤーで乾かし、着替えさせるにも立つと体が揺れるほど。
もうこれは寝巻きの上にロングコートが一番だ。
ということでネルの寝巻きを着せ、とりあえずベッドへ転がし、帰す用意をした。
着替えて車を玄関前につけ、先生の鞄や買物した物を載せる。
それから先生にダウンコートを着せ抱えあげて車へ。
後部座席から寝息が聞こえる中、安全運転でお宅まで走らせた。
玄関を開けて先生を運び込む。
八重子先生が驚いていたが、ただ寝てるだけと知って布団を敷いてくださった。
「あんたら夕飯食べたの?」
「まだです」
「何か作ろうか?」
「そんな、いいですよ。先生の夜食だけお願いします」
「そう? お腹すかない?」
「大丈夫です。お昼ちょっと多かったんで」
一旦車へ戻って鞄などを運び入れた。
チョコは冷蔵庫へ。
「すいません、袋忘れてきました。必要でしたら土曜に持ってきます」
「どうだろうね、連絡させるよ」
「あ。草履も。着物も土曜でいいですよね?」
「悪いねぇ」
「いや、私の所為ですから」
謝ってから帰宅した。
途中で買ってきた弁当を食って部屋を片付けた。
脱ぎ散らかした着物とか。
とりあえずで出てきたからなぁ。
なんだかんだで眠くなってベッドにもぐりこむとすぐに起きる時間だ。
疲れてたみたいでまだ眠いが仕事仕事。
それが終って帰宅すると不在票が入っていた。
風呂に入ってから連絡して持ってきてもらったのは、先生に渡すチョコ。
京都の今年は和菓子コラボ品。
明日渡そう。忘れないようにしなければ。
取敢えずは眠いので昼寝をして夕方起きて食事を取りまた寝た。
翌日、仕事の後。
先生の忘れ物とチョコを持ってお稽古に伺う。
「こんにちは、お邪魔します」
「あらいらっしゃい。この間はありがと」
「はい、これ。どうぞ」
「あらあら、なぁに? あら」
「今日バレンタインデーでしょう? だから」
先生の頬が赤くなった。
「こっちは八重子先生に。じゃ、用意してきますね」
「あ、はい、よろしくね」
そのままパタパタと居間へ入っていく先生を可愛いなぁと思いつつ。
茶室に入って昼からの支度をする。
のんどりと穏やかに待っていると生徒さんが来た。
「こんにちは」
「こんにちは、お願いしますー」
「先生はもうちょっとしたら来られますから」
「はぁい、用意してますねー」
しばらくして生徒さんの用意が整った頃、先生が戻ってきた。
「いらっしゃい」
「あ、こんにちはー。先生、今日もお願いしますぅ」
「はい、じゃお稽古始めましょうね。久さん、用意出来てるかしら」
「茶筌荘ですね」
「そう」
生徒さんに道具を説明して先生が指導なさる。
順々に次の生徒さんが来られてお客に入ってもらったりとやはり土曜は忙しい。

拍手[0回]