夜半、起床する。
出勤の支度を整えていると先生がトイレに起きた。
「ねぇ、もう行っちゃうの?」
「そろそろ時間だからね。昼にはまた逢えるよ」
それでも昼間は出来ないディープキスをして胸をまさぐり先生を少し煽った。
もしかしたら今晩、とちょっと期待したのもある。
「じゃ仕事行くから。ちゃんと寝ておいで」
布団に入れて頭を撫でて。
もうちょっと構ってたいけれど出勤だ。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
出勤して仕事に精を出しているうちに6時過ぎ、先生が帰る旨メールしてきた。
気をつけて帰るよう返信して仕事を続ける。
うん、今から帰れば余裕で朝ご飯を食べてお稽古できるね。
とりあえず俺は仕事、仕事。
それなりにばたばたとして気づけばもう良い時間だ。
客も途切れた。
仕舞うとするか。
さっさと片付けて持ち帰る食材を探す。
うーん、海ぶどうなんて一般では使いにくいし。
今日は台風の所為で北のものも南のものもまだ入荷が少ない。
ハモすらあまりないときて。
サワラでいいや。
半分を切って幽庵地を作り漬け込んだ。
後の半分は普通に焼いて貰おう。
作業を終えて車に積み込む。
そうこうしている間に仕入れと売り上げのリストが出た。
つき合わして訂正を頼む。
事務からOKが出て帰宅し、風呂に入り服を着て車に乗り込んだ。
一路、先生のお宅へ。
到着して荷物を台所へ持ち込む。
八重子先生がお昼の支度をしてらしたので丸投げだ。
「あ、山沢さんちょっと」
先生が先にこちらを見つけた。
「お水屋はしておくから頼みがあるのよ」
「なんですか?」
「これ使ってあの桐の横にある松の虫、どうにかしてくれない? うまく掴めなくて」
ピンセット? 虫? えー…。
「ね、お願い」
拝まれてしまった。
「仕方ないなぁ…」
「これ、持って行って」
紙袋。虫を入れて捨てるわけか。
庭に下りて言われた木を探す。これか。
う、凄く多い。
やだなー…と思いつつピンセットで一匹ずつ取って袋に落とす。
気持ち悪いよう…。
げんなりしつつ大方取り去り角度を変えて眺め回す。
いるいる、まだいる。
頑張って取り去った。で、この紙袋どうしよう。
…鳥、食わんかな。いや目の前で食われるのは気持ち悪い。
しばしたたずむ。
遠くで車の音、そうだ。
道路に出て行き車の轍跡に置いた。しばし待つ。
3台ほど通り過ぎ綺麗に轢き潰されたようだ。
中身の見えない袋に入れ口を括って捨てた。
戻ってよく手を洗い一応髪をとかしてから着替えた。
既に生徒さんが来ている。
「遅くなりまして」
さっと水屋を確認して次の用意をする。
生徒さんが途切れたときにどう始末したか聞かれたので教えた。
ちょっと引いてるようだ。
その後もお稽古は続き俺のお稽古へ。
今日は盆点。
色々忘れてることがあって叱られたがしょうがない。
先生と水屋を片付けてる途中キスされた。
「ここで抱かれたい?」
「ち、違うわよ、つい…」
「俺は一度くらいしてみたいけどね」
「駄目よ」
頬を染めて可愛いなあ。
「ほら早く片付けましょう。八重子先生が律君を呼んでる」
「あっ、そ、そうね」
「今晩はあちら行きましょうか」
「えっ」
手が止まって耳まで赤い。
「声、聞きたいしね」
ごくり、と先生は唾を飲み込んだ。
「ばか…恥ずかしいわ」
のの字を書くようにしてる先生をほっといて片付け終えた。
手を取って立ち上がらせ、夕飯を取るべく移動する。
部屋にはいると俺の手を離し、女から母親へ意識を切り替えたようだ。
表情が違う。
切り替え上手でうらやましい。
ご飯を食べる。
サワラは照り焼きに化けたようだ。
俺には豚の生姜焼きがついてきている。
うまい。
「もっとお野菜も食べなさいよ」
注意を受けて菜っ葉を食べる。
お揚げと炊いてある。だしがしみてうまい。
幸せだなあ。
すっかり満腹になってお片付けを引き受けて台所へ。
洗い物をしていたら律君が来た。
コーヒーのボード片手に悩んでいる。
「山沢さん、これ、一番苦くのないのってどれですか」
「そうだなぁこのへんはどうかな。こっちは普通のサイズ、これはエスプレッソがお勧め」
うーん、と悩んで両方作って持って行った。
俺は今日は酒が良いなぁ。
洗い物を終えて居間に戻り先生を誘った。
「八重子先生、酒飲みたいんですけど先生連れてって良いですか」
「ここで飲んだら良いじゃない」
「律君に絡んで良いのなら」
「えっ僕?」
「それは困るわねぇ」
「行ってきたらいいよ」
うんうん、と律君もうなづいてる。
「しょうがないわねえ」
「じゃお酒取ってきますね。行きましょう」
冷蔵庫でよく冷やしたお酒を持って先生とあちらへ行く。
途中近所の人に会い先生が立ち話を始めてしまったものの、時間も遅いのですぐに別れた。