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百鬼夜行抄 二次創作

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伶(蝸牛):絹の父・八重子の夫 覚:絹の兄・長男 斐:絹の姉・長女 洸:絹の兄・次男 環:絹の姉・次女 開:絹の兄・三男 律:絹の子 司:覚の子 晶:斐の子

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帰りの電車の中、どうしてこうなったのかしら、と悩んで。
何がそんなに久さんを苛立たせたのだろう。
思い起こしていく内に、買い物から呼び戻した時には目が笑ってなかった。
そんなことに気づいた。
何か食べたいものがあったのかしら。
そんなことくらいでは怒らないわよね。
悩んでいるうちに駅についてバスに乗り替えて帰宅した。
「ただいまぁ」
「あら早かったね、泊まらなかったの?」
「ちょっと久さんの機嫌が悪くて」
「あらあらあら。またなんかあんたしたのかい?」
それが良くわからなくて困ってるのよね。
とりあえずは着替えて、着物の汚れを確かめる。
軽く手入れをして居間に戻った。
「あら? 律は?」
「友達のうちに泊まってくるって言ってたよ」
「そう…」
落ち着いたら眠くなって、早い時間だけど寝てしまうことにした。
久さんのことは明日、考える事にしましょ。
何か思い出すかも。
布団を敷いてひやりとした中に身を横たえる。
休みの前に久さんがいないのは珍しく、何か寂しい。
眠いのになかなか眠れず、それでもいつしか寝たようで朝が来た。
ぼんやりした頭のまま朝食の支度をする。
三人で食べて片付けて。
郵便物を見て思い出した。一昨日何か渡されたんだったわ。
あれどこやったかしら。
バスの時間が来てたから胸元に入れてそのあと…あ。
久さんのうちで脱ぎ捨てたから…。
一応昨日の鞄の中を探ってみると入っていた。
中を読む。
段々と頭が冴えてくる。
久さんが中を見たのだとしたら怒るわよね。これは。
「どうしたの、あんた。顔色悪いよ」
「あ、お母さん。あのね。これ。もしかしたら久さんが読んだかもしれなくて」
「どれどれ」
老眼鏡を取り出してざっくりと読む。
「こりゃあ怒るだろうね。読んだか聞いてみたら?」
「薮蛇だったらどうするのよ」
「お断りするんだから堂々と言えばいいんだよ」
まさかこんなのだったなんて。わかってたらその場でお断りしたのに。
ちょっと悩んで携帯を手にした。
電話、あ、まだ仕事中ね。
メールを打つ。
暫くして返事が帰ってきた。
あとであちらの部屋で話をしたいと。
少し怖くなったけれどあの部屋は道具はないから…。
お昼御飯はどうするのかしら。
食べてからいくと返事があった。
それまで落ち着かない気分のまま、庭掃除や洗濯物などをして過ごした。
お昼を食べてしばらくした頃、電話が鳴る。
久さんから。そろそろつくからと。
お母さんに言ってあちらへ移動した。
すでに鍵があいている。ためらってドアを開けた。
「いらっしゃい」
「あの、久さん。メールのこと…」
「とりあえず中にどうぞ。座って」
恐る恐る従う。
ん、とお茶を入れてくれた。
「あの。手紙のこと。読んじゃった?」
「読んだ。どうする気でいるのかな。後妻におさまる?」
「そんなわけないわ」
「その場で突っ返せよそんなもん」
「違うの、聞いて」
「何をさ」
「今朝になって中を読んだのよ」
「開封してあった」
「それはバスの時間が来て」
「バスん中で読んだんだろ」
「読んでないのよ、さっきなの。ほんとよ」
「どうせ俺は資産家でも男でもない。そいつの方がいいんだろ」
「あなたの方がいいのに決まってるじゃない。なんでそんなこと言うのよ」
ぷいっと背中を向けてしまった。
後ろから抱き締める。
「手紙、今日お断りの返事を書いて速達にするわ。私はあなたが好きなの」
本当に? と久さんが念を押してくる。
「あんなことをするのにそれでもか?」
「…してくれないのが一番なのだけど。好きよ」
じゃなかったらとっくに、そうね、紹介状でも書いてよその先生に渡してるわね。
現金収入が減るのは痛手だけどもきっとそうしてる。
「わかった。でもな」
「なぁに?」
「来る前は電話入れてくれ。それとハンガー使え」
あっ。勝手に行ったことと脱ぎ散らしてたのもいけなかったみたい。
「ご、ごめんなさい。つい」
「いや。おれも口で言えばよかったな。すまない」
ついつい最近は気を抜いていて何をしてもいい、そんな風に思っていたみたい。
親しき仲にも礼儀あり、だったわ。
久さんはあまり内心を言わないからやりすぎるのよね。
そっとキスをして。
気が緩んだとたん眠くなってきた。
「眠いのか?」
「昨日眠れなかったの」
「昼寝すればいい。俺も今日はこの後行くところがあるから」
「どこ行くの?」
「作業着屋。仕事着の補充にね」
じゃついていっても仕方ないわね。
「夕方、拾いに来るから飯食いにいこう」
「いいの?」
「このへんのうまい店、連れてってくれよ」
「わかったわ、待ってる」
「待たなくていいよ、寝てろ」
「はい」
頭を撫でられて、それじゃまた後でと久さんが出ていった。
お母さんに電話をして昼寝して夕飯を食べにいくと告げ、着物を脱いだ。
寝巻きに着替えてベッドへ潜る。
ここへ一人で寝るのは珍しいこと。
と思いながらもあっという間に睡魔に飲み込まれた。

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