-山沢-
お昼を食べて黙々と作業をして疲れて。
でも今日、頑張りさえすれば明日は。
…明日早めに行って抱こうかな。
そうだ、そうしよう。
三が日終ってからじゃ抱き壊してしまいたくなる。
やっと仕事が終った。
後は明日の朝……。
大晦日。
昨日は仕事が終わり仮眠。
そのままの格好で今は加工場にいる。
鯛を焼いているのだ。
火に掛けだすとしばらく放置することになる。
先生のお宅にもって行く味噌漬けやお造りの用意。
すべて段取りが終った頃、焼き終わった。
車に積む。
一旦帰宅してシャワーを浴びて着替え、用意した紋付、これも車に積む。
匂いが移らないようにして。
さあ、先生のお宅へ車を走らせよう。
まだ暗い中、渋滞もなくスムーズに到着した。
お勝手口を開けて魚を搬入する。
焼鯛は風通しの良いところにおいてあとは冷蔵庫へ。
刺身が入らない。
……寒いから良いか、袋もかけてあるし。
お勝手の鍵を締めてから、寝間に行き紋付を衣桁にかける。寒い。
時計を見れば4時過ぎ。先生のお部屋に行こう。
そっと襖を開けてはいる。良く寝ている。
ジャケット、カッターシャツ、スラックスを脱いで、そろりと布団に進入し、キス。
寝ている先生の浴衣の帯を解き乳房を揉み乳首を舐め、翳りに手を伸ばす。
暫くして濡れて来たそれを突起にまぶして弄る。
かすかに喘ぎ声。
指を入れて弄っていると起きたようだ。
きゅっと私の胸にしがみついて、声を我慢している。愛しい。
中に入れながら突起をコリコリと弄って感じている顔を楽しむ。
そのまま3回程逝かせて、声が出そうなのはキスで塞いだ。
ディープキス。先生も離れようとしない。
遠くで居間の時計が5時を告げている。
「お仕事終ったのね…おかえりなさい」
お帰りなさいって…それって…。うわー。なにそれ。嬉しい。
「……ただいま戻りました」
「三ヶ日終るの待てなかったのね?」
「はい。今ならまだそんなに激しくしないですみますし…」
「十分激しかったと思うけど…凄い隈ね」
先生がそっと私の目の下をなぞる。
「髪もまだ湿ってるわねえ」
頭を撫でられた。
「お昼まで寝てなさい。このまま。私はもう起きるけど」
「はい、そうさせてもらいます」
暫く頭や背を撫でられているうちに寝てしまったようだ。
-絹-
弄られて目が覚めて。
寝ている間に山沢さんが来ていたみたい。
何度か昇りつめて、息を荒くしていると背を撫でてくれるの。
今日はシャツを着ていて素肌じゃないけれど。
いつもは肌同士密着して、それも好き。
あら、石鹸の香り、お風呂入ってきたのね。
落ち着いて山沢さんにお帰りなさい、と言った。
さすがに十日は長かったみたい、私を抱きたかったのね。
凄い隈が出来ていて、眠そう。
寝るより私を抱きにくるなんて可愛いわよね。
頭を撫でるとまだ湿っている。
寝かしつけて、布団から出ると脱ぎ捨てた服が散乱している。
ワイシャツを畳んで、ジャケットとスラックスは釣って置いた。
身づくろいをして朝食の支度へ。
「おはよう」
「ん、おはよう。山沢さんいつ来たのか土間の棚に魚が置いてあったよ」
「うん、さっき来たみたいよ、今私の部屋で寝てるわ」
「あぁ直行したのかい、可愛い子だねえ」
恥ずかしいわね、ちょっと。
朝御飯を作って夫と息子を呼んで食べさせて。
一服したら御節の準備にとりかかる。
足の早い物は今晩作ることにして、元旦の夕方につまむようなものを。
「絹ー、ちょっとー」
あら何かしら。
「晶がねえ、今晩からこっちに来たいって。
三が日って言うけど御節、量的に大丈夫かねえ?」
「少し多い目に用意してるから大丈夫だと思うわ」
「そう?」
「後でお買物に行くときに何か買い足したほうがいいものあったかしら?」
「今晩の分くらいでいいんじゃないかね」
「お部屋、用意しなくっちゃね。律の隣の部屋でいいかしらねえ」
「その方が無難かね、あんたと山沢さんの部屋からは離れてるほうがいいだろうしねえ」
「お母さん、もうっ」
そんなことを言いながら御節の支度を進めて、足りないものをメモしてお買物へ。
戻ると母がお昼の支度をしていたから後は私がするわ、と引き受ける。
-山沢-
昼前、八重子先生が覗きに来た
その時、寝ぼけて布団の中に引きずり込んでしまったらしく、
お昼ご飯にと八重子先生が呼びに来たときは距離を保って起こされてしまった。
脱ぎ捨てたはずのシャツなどがきちんと畳まれてある。
着ようと思うと浴衣を渡された。それを着る。
ご飯をいただいて、まだ眠そうだからと布団に押し込められた。
確かにまだ足りないようですぐに眠りに落ちた。
-絹-
お母さんが山沢さんを起こしに行って暫くして戻ってきた。
「山沢さん、あんたと間違えたみたいで布団の中に引き込まれちゃったよ」
「ええっ。で、どうしたの?」
「どうしたのもなにも、すぐ違うってわかったみたいで謝ってたよ」
「うーん、晶ちゃんや律に起こしに行ってもらったら危険ねえ」
「そうだねえ」
お昼の用意が出来たけれど山沢さんが起きてこない。
食卓を拭いて、おかずやお櫃を出しているとお母さんがもう一度呼びに行ってくれた。
ふらふらと揺れて、浴衣を着た山沢さんが食卓について、お昼を食べて。
凄く眠そうで、お母さんが部屋に戻した。
「山沢さんっていつの間に来てたの?」
「朝からよ。気づかなかったの?」
「うん。凄く眠そうだったね」
洗い物をして、御節の準備の続きをして気づけばもうお夕飯の支度をする時間。
山沢さんが持ってきてくれたお刺身と、あとはどうしようかしら。
メインがあるんだからお野菜を煮たものがいいかしらねえ。
豚肉がちょっとあるから大根と煮て、ほうれん草のおひたしも作ろうかしら。
あ、山沢さんのメインは先日いただいたお肉を焼いちゃいましょ。
そういえば冷蔵庫にニシンは入ってなかったわね、持って来たのかしら。
土間の棚をみると冷蔵庫に入らなかったと思われる食材がいくつか収められていた。
ニシンの真空パックや、お餅、白味噌等々。
……なんでお鍋が置いてあるのかしら。二つも。
お大根を煮ていると山沢さんが起きてきた。
-山沢-
次に目が覚めたとき、また美味しそうな匂いがしていて、もう夕刻か、と思った。
ちゃんと腹が減っている。
ひょいと台所をのぞくと先生方がお夕飯の支度をしている。
「あら、起きたの?」
「ええ美味しそうな匂いがして目が覚めました」
先生はクスクス笑ってる。
「そういえば玄関も勝手口も締まってたけどどうやって入ったんだい?」
「玄関の鍵は一つお預かりしてますよ?」
「そうね、山沢さんに前に一つ渡してたわねえ。忘れてたわ」
「二週間ほど前にこちらで飲んだときもその鍵で鍵かけて帰りましたから」
「ああ、あれって私が締めたと思ってたよ」
「先生方お二人とも先寝てしまわれたんで私が掛けました」
「あらあら、そうだったの?」
布巾を渡される。食卓を拭いて用意だな。
お座布団も出して、台所からおかずを出して行く。
朝持ってきたお造りとか、風呂吹き大根かな。そういった普通のおかず。
お櫃も持ってきて、孝弘さんと律君を呼ぶ。
「うわっどうしたのこれ」
イセエビの見た目か?むしろメインは鯛だ。トロもあるが。
折角俺が居るんだからお造りくらいはね。
「あ、そうだ。こちらだと初詣は二年参りですか?それとも元日のみですか?」
「二年参り?なぁに?それ」
「大晦日も元日もってやつです。ということは元旦だけですか」
「そうねえ、いつも元旦の朝に行ってるわねえ」
「あんたも一緒に行くんだからちゃんと寝なさいよ」
「あー、はい。着物で行かれます?一応紋付持ってきたんですが」
「今年は律も着せようと思ってるの」
「ええっ僕も?」
「たまには着なさいよ」
「ええー」
ほほえましい光景だ。
「先生。あとで針と糸とお借りできませんか」
「どうしたの?」
「半襟つけそびれちゃって」
「あららら~。つけてあげるわ、後で持ってきなさいよ」
「いや、そんな勿体無い、自分でつけますから」
「つけてもらいなさいな」
「いいんですか?なんか悪いですね…」
玄関の開く音。
「こんばんわー」
「晶ちゃん、いらっしゃい」
「お邪魔しまーす」
「こんばんわ、晶さん」
「あ、山沢さん、こんばんわー」
「ご飯もう食べてきたの?まだならここ座って、ほら」
「やー、荷物とかあるから先においてきますー」
「律の部屋の隣に布団敷いてあるからそこ使ってね」
「はーい」
…朝、軽くでもしといてよかった。
うっかりやりたい気分で見つめたりして、晶ちゃんからばれるとか有りそうだ。
正月から家族争議は困るだろう。
とにかく気をつけねばならんな、酒は控えめにしよう。
先生方にもあまり飲ませないようにしよう。
こうして見ているといいお母さんで、奥さんで。私の腕の中に居るときとは随分違う。
美味しいご飯を作り、家を守り、優しく息子を育て。
厳しくの部分は八重子先生だな(笑)
食べ終わって洗い桶に漬けに行ったついでに晩酌の用意をする。
あれ?徳利あるじゃないか。
聞くと居間で二人で飲むなら都合がいいが、
居間から離れた私の部屋なんかでは燗鍋が都合よかったとのこと。
「居間で飲んでいたら…こうはならなかったかもしれませんね」
「そうねえ」
「後悔、してますか」
「してるって言われたいの? ばかね」
オホホと笑って燗のついた徳利を持っていった。
苦笑して、麒麟山は純辛の一升瓶と棒鱈を持って後を付いて行く。
食中酒にするにはうまいんだよね、これ。
棒だらをつまみに酒を飲み、大晦日番組を見る。
孝弘さんや律君が風呂に入り、若い子の歌はどうでもいいと八重子先生が続いた。
5分ほどして後を追う。
風呂に入ってから来ている時は八重子先生が体を洗う間に浸かるようになった。
ぬくぬくしていると背中の傷が少なくなったね、と言われた。
今朝つけられたのもあるけれど。
八重子先生が洗い終わったので、湯から出る。
股間を掴まれた。
「……っ、なんですか」
「あれから自分でしたかい?」
「いや、してませんが」
「してあげようか?」
「自分でするからいいです」
っていってるのに中をまさぐられてる。
「風呂は駄目です、声。が、やばいですから」
「おや、それもそうだね」
手は止まって開放されたが中途半端に煽られてしまった。
参ったなぁ。
風呂に入る前なら散策して来ればいいが、風呂のあとでは風邪を引く。
ああ、部屋で抜くか。
さっき火鉢に火を入れたから風邪引かん程度には暖かかろう。
一応の為に結界を張って、一発抜く。
自分でする分には声も出なけりゃ息も荒くはならない。
さっさとすませて洗顔シートで手と股間を拭い、それから手を洗いに立つ。
途中律君に会い、ちょっと気恥ずかしい。
手を洗って長襦袢と半襟を持って居間に戻る。
晶ちゃんもお風呂から出ており、先生が入っているらしい。
「ね、山沢さんっておばさんの事好きでしょー?」
「ええ、好きですよー」
こういうときはさらっと返すべし!
「やっぱりー」
うん、酔ってるなー。
「晶さんだって絹先生のこと好きでしょう?」
「あー、うん、おばさんって憧れだよねー。女としての」
「家事万全、旦那さんを愛して家を守る、理想ですね」
「あらあら、晶ちゃんとも仲良くなったの?」
っと先生が風呂から上がってきた。色っぽいなぁ。どきどきする。
むくり、といじめたい心が動いて、いけない、と治める。
「おばさーん、山沢さんがおばさんのこと好きだってー」
酔っ払いは困るな。
「あーおばーちゃん、この歌手私好きなのー」
テンション高い(笑)
「山沢さん、半襟。つけてあげるわ。いらっしゃい」
ああ、なにか言いたそう。
長襦袢と半襟を持って先生のお部屋へ。
入るなり言われた。
「晶ちゃんに手を出しちゃ駄目よ…」
あ、嫉妬か。可愛いな。
思わず引き寄せてキスしてしまった。
「可愛いこといいますよね、先生」
まだ乾ききらない髪を撫でる。
「あら?山沢さん、もう冷えてるのね」
…嫉妬はどこへ行った?
「私は風呂を出たら5分でさめますからねえ」
というと火鉢に近い所に私を座らせてくれた。
裁縫道具を出してくる。
2枚あるから、と私にも針と糸を貸していただいて半襟を付ける。
さすがに先生は手早い。
私の分をつけて、自分の分をつけて、律君の分もつけてしまわれた。
「晶さんには着せないんですか?」
「あら、そうねえ。ちょっと待ってて」
暫くして、長襦袢と半襟を持って戻ってきた。
ちくちくと縫い付けて、ハンガーにつるから後のをもってくるよう言われる。
吊り下げて並べ、二人で居間に戻った。
「ああ、戻ってきた、そろそろおそば、作らないかい?」
「あらそうね、もう作らなきゃいけないわね。山沢さん、来て」
はい、と後を付いて台所。
おそばを茹でて、天麩羅を…。
「お母さん、数が足りないわ」
「えぇ?」
ひいふうみい…。
「あ。晶さんの分が数に入ってないんじゃないですか」
「あらららら。どうしましょ」
「誰かニシン食いません?あれ2尾入なんです」
「じゃ私がいただくわ」
決まった決まった。汁を少し鍋に取り分けてニシンを温めて、乗せる。
「律ー、晶ちゃーん、取りにきてくれる?」
と先生が呼び、そばを食卓へ。
「あれ、天麩羅じゃないのがある」
「それはお母さんと山沢さんだよ。あんた七味は使う?」
「僕はいらないけど」
「晶は?」
「私もいらないー」
私の前に七味の小袋が3つ。
全部入れて、頂きますをしてすする。
「あら、意外と美味しい」
先生が小声で言った。意外ってなんだ意外って(笑)
-律-
「ありがとうございました」
教室の生徒さん達が帰っていく。
それと入れ違いに来る生徒さんもいる。
「こんにちは、律君」
山沢さんだ。
「こんにちは、今日も暑いですね」
「いやぁほんとに」
「あら山沢さん、いらっしゃい」
「こんにちは、お邪魔します」
「水屋、お願いできる?」
「はい」
母に水屋を任されているようで、すぐに茶室に入られる。
以前は母と祖母が交代で食事や休憩を取りつつ教室をしていたけど、
最近は山沢さんがお昼の早いうちに来て後始末と、次の用意などをしているらしい。
その間に祖母と母がお昼を食べて休憩をする。
教室が終ると以前は4人で食事していたのが5人になり、
夕飯の支度や後片付けを手伝って泊まって行かれる。
「山沢さんってなんでいつも泊まってくの?」
と母に聞いたことがある。
「あぁ、山沢さんねえ、うちから遠いのよ。だから」
「どれくらい?」
「スムーズに乗り換えて1時間半かしらね」
「えっなんでそんなとこからうちに?」
「紹介されたらしいわよ」
「へー、そうなんだ?普通近所に行くよね。教室がないくらい田舎とか?」
「そんなことないでしょ、あの人築地に住んでるのよ」
「あっちなら沢山あるのになんでなんだろう」
「希望の時間帯とか、曜日とか、どこまで教えるかとかそういうので決まるのよね」
「ふーん」
というわけではるばるうちまで来て習っている。
泊まるようになったのは祖母から着物の仕立を習うためだったらしい。
それからずるずると休み前に泊まるようになったようだ。
先月は山沢さんは母と京都に旅行に行った。
女性だと僕は知っていたけど、あの格好で母と旅行では噂も立つよな、と思った。
お茶の勉強会だといってたけど。
その後も展覧会だ、なんだと母と山沢さんが出かけて行く。
秋の初め頃には母が山沢さんの家に泊まりに行ったりして、随分山沢さんと親密らしい。
青嵐は気にならないようだ。
祖母は母が旅行だお泊まりだというと教室が大変なようで僕を使う。
生徒さんたちは噂好きで母と山沢さんが不倫の仲じゃないかとか、
どうでもいい事を耳に入れてくれる。
山沢さん、すっかり男の人と思われてるよね。
うちでくつろいでる時は胸が見えたりしてやっぱり女の人だとは思うけど。
というか隠して欲しい。
僕だって一応男なんだから、お風呂上りに浴衣をざっくり着るのは勘弁して欲しい。
まだ司ちゃんのほうが隠してくれて助かる。
冬になりつつある頃気づいたんだけど山沢さんは母と同じ布団で寝て居るらしい。
山沢さんに聞くと、一人で寝るのが嫌いなんだそうだ。
一人暮らししてるのに?と思った。
そしたら一人住まいの一人寝はわかってることだけど、
人が居る家なのに一人は寂しくて嫌いなんだって言ってた。
祖母と一緒に寝たこともあるらしい。
山沢さんは結構寝相が悪い、と祖母が言う。
寝ぼけて抱きつくんだそうだ。
だから僕は山沢さんを起こしに行っちゃ行けないらしい。
山沢さんは僕より力があるらしい。
そして着物姿が決まっていて格好良く、知らなければ男性だ。
ちょっと背が低いけれど。
でも母よりは少し背が高いのかな、並ぶとわかる程度に。
母に呼ばれてはすぐに指示を受けて何かをしている。
食事の仕度だったり、掃除だったり。
祖母にお客様なのにいいの?と聞くと良いんだという。
いつも母や祖母が立ち働いているとき、山沢さんも手伝っている。
食事も普段の僕たちと同じご飯を食べていて、
まるで家族のような扱いを受けていて、不思議だ。
司ちゃんはうちに来てもお客様扱いなのに。
いつの間にか開さんや、晶ちゃんとも仲良く話していて不思議だ。
先日祖母が月謝袋を開いてる時に居合わせたけれど、
山沢さんだけ多くて、なんで?と聞くと居候料と月謝だという。
そんなの貰ってたんだ、と言うといらないといったんだけど、と母が言う。
でもたかが稽古事なのにそんなに払えるなんて凄いなぁ。
僕のバイト代全部より多かった。
そういうと、母がクスクス笑った。
「あら、山沢さんとお食事に行くと2、3回でこれくらいよ」
「ええっ?そうなの?」
「前に旅行行ったでしょ?あれも一泊で二人でそれくらいらしいわよ」
「…それって山沢さんのおごり?」
「そうよ」
「うちの経費の分は別に領収書切ってもらったみたいだけどね」
「そうそう、ツインの一番安い部屋じゃなかったかしら」
「なんでそんなこと?」
「宿泊費があまり高いと税務署から調査が入るんですってよ」
「へー。山沢さんってそんなの詳しいんだ?」
「役員さんだから知ってるんじゃないの」
よくわからないや。
「それに山沢さんはもう人を教える資格持ってるのよ」
「あ、そうなんだ? あの人優しいから教えるのはいいかもね」
「優しい…怒らせると怖いわよ?」
「怒らせたことあるんだ?」
「本当に怖くてねぇあの人…」
母が怖がるくらいだから、よっぽどなのだろう。
意外と僕の母は強くてこんな仕事をしているからか揉め事には強い。
「でもこの間お母さん、山沢さんを踏んでなかった?」
「あらやだ、あんた見てたの?」
「絹?」
「山沢さんが肩凝ったから踏んで欲しいって言うから踏んであげたのよ」
「肩こりで胸も踏むの?」
「よく判らないけど気持ちいいんですって」
僕はそんなに肩が凝ったことがないから乗って欲しいと思ったことはない。
ご飯のとき山沢さんは"お父さん"のおかずに何かを足したりしているのを見る。
嫌いなおかずを母に見えないようこっそりと移動させてるらしい。
山沢さん自身が持ってくるのに、絶対に赤い魚を食べないのが面白い。
"お父さん"は嬉しそうにそれを食べる。
確かに母が買ってくる魚より美味しい。
でも山沢さんは母が作る肉料理を食べるほうが好きみたいだ。
沢山のお刺身や魚料理が出るときに山沢さんだけ母の作った肉じゃがが有ったりする。
そういう時、魚を料理したのは山沢さんだ。
見ているとどこか山沢さんは母が好きなんじゃないか、と思ってしまう。
母はああいう人だから受け入れてるのかな。
祖母が何も言わないところを見ると問題はないんだろう。
泊まるようになって3ヶ月くらいになるけれど、母を先生と呼ぶのも変わらず、
敬語も崩さないのに、どこか狎れた雰囲気があるときがあって。
そういう時、祖母が指摘する。
親しき仲にも礼儀あり。
結構難しいよね。
母もつい山沢さんに甘えているようだ。
トイレットペーパーや洗剤を買いに行かせたりする。
すると後で母が祖母に叱られている。
山沢さんは、母が頼むと何でも聞いてしまうところがあるらしい。
母と一緒に買物へ行って重い荷物を持たされて帰ってきたり。
"お父さん"はほっとけ、というけど、いいのかな。
うちの鳥どもは山沢さんを気に入っている。
和菓子をくれるし、司ちゃん用のお酒が探さなくても沢山あるのもいいみたいで、
すっかり手なづけられてるようだ。
どうも山沢さんはうちの有象無象が見えてるらしい。
一人で寝られないのはそれが原因なのかも。
青嵐のことは知っているのだろうか。
12月になりお教室も年内のお稽古が終了して、山沢さんが来なくなった。
何かいつもいる人がいないのは変な気がする。
母も少しさびしそうだ。
話のついでに山沢さんの年を聞いた。
てっきり母と同じくらいか少し上だと思っていたから驚いた。
僕を子供扱いするし、見られても平然としているからてっきりそうだと。
開さんが来たから、いくつに見えるか聞いてみた。
20代って開さんは思ってたらしい。
祖母が開さんのお嫁さんに、なんて言い出したけど開さんが断った。
ホモに見えるから。って想像したら面白くて、凄く笑った。
見えるよね、絶対そう見える。
開さんと抱き合ってる姿とかキスしてる姿とか想像しちゃって、ツボに入った。
母が呆れたような顔で見ている。
翌日、祖母から大学に電話があって早く帰るようにと言う。
急いで帰ってみると今日はすき焼きだからって言うんだ。
松坂牛を山沢さんが送ってくれたらしくて、凄くやわらかくて美味しくて幸せだった。
母はいつもこんなのを山沢さんと食べてるらしい。
日曜に大掃除を手伝ってお昼ご飯を食べているとテレビで築地が映った。
人多いねー。
ぼんやり見ていたら母が山沢さん、と言った。
映ってる?
母がテレビの一角を指差す。本当だ、山沢さんだ。
よくわかるなあ、こんなに人が一杯なのに。
テレビに映る山沢さんは近くの人と何かを投げ合っていて元気そうだ。
母の顔がほっとしたものになっている。
大掃除の続きをしていると雪。寒いなあ。道理でバケツの水が冷たいはずだよ。
いつもこんな冷たい水で料理してるんだからあの手なんだよな。
あれ、でも今年は痛いって言わない気がする。
山沢さんが手伝ってるからかな。
でも山沢さんの手はあまり荒れてそうじゃないなあ。
翌日、今日は休講だからと言うと買物に借り出された。
毎年のことだけどいろんなものを母は買ってすべてを料理する。
今年はいつも買わないようなものを買っていて、珍しいなと思うと山沢さんの分と言う。
お正月、来るのか。
何か母が浮かない顔をしている。
買物を終え、車に積み込んで運転する。
母は何か上の空で話しかけても返事がない。
どうしたんだろう。
荷物を降ろしてバイトに行く用意をする。
年末は時給が高くて良いね。
-山沢-
除夜の鐘が聞こえてきた。
煩悩は払えるものだろうか、いいや払えない。
テレビの行く年来る年が荘厳な寺内の様子を放送している。
年送りは寺、年迎えは神社。日本は神仏習合の国だなあ。どこが無宗教だ。
食べ終わって、器を洗いに立つ。
年の終わりに好きな人と同じものを食べて、同じ家に居る。
幸せだな。初詣はこの幸せがいつまでも続くようお願いしよう。
器を仕舞って戻ると八重子先生と絹先生が撃沈してる。
とりあえずは八重子先生を布団に入れてくるか。
ひょいと抱き上げて晶ちゃんについてきてもらう。
布団を敷いてもらって寝かせて。
戻る途中に絹先生の部屋に立ち寄り布団を敷く。
火鉢の火は、うん、落ちてるね。
戻って絹先生を回収。晶ちゃんは今回はいいと断って。
そっと布団に横たえ頬をなでて布団をかぶせる。
可愛いなあ。
さてと。居間に戻ってみれば律君も晶ちゃんも仲良く沈没。
はてさて。晶ちゃんをとりあえず布団に入れるか。
先生に嫉妬されるかなぁ。
でも風邪引かせてもいかんな。と、抱えあげて部屋の布団に入れた。
律君はとりあえず起きるか試してみるか。
男は重くて運びにくい。
…駄目か、起きない。
肩に担ぎ上げて律君の部屋に連れて行って布団に押し込む。
敷いてあってよかった。
食卓や床に散乱したお酒やつまみを片付けて、正月を迎えるようにする。
うん、こんなものだろう。
さてと、俺も寝るか。
火の始末の確認と、戸締り。
昼に寝かせてもらったおかげで後始末が出来る。
寝間へ行って布団にもぐる。
シーツが一瞬冷たい。すぐに温まるのはいい綿だからだな。
本日はこの家での久々の一人寝だ。
なにか心さびしい。
ふと思いついて、台所へ。
私用の茶を出し湯を沸かして茶室から楽茶碗を持ち出し茶を練る。
飛び切り濃い茶をたっぷりと。
コトと音がした。調理台に茶碗を置いて振り返ると先生が起きてきていた。
「寝なくていいんですか?」
「なに飲んでるの?」
「お濃茶。飲みたくなって」
ん…ディープキスされた。寝ぼけ半分か?
「苦い…」
「当たり前でしょう…私のは安物のなんですから」
「おいしいの点ててあげるわ。それ、捨てなさいよ」
シンクで濯いで拭いた茶碗に先生の特級の茶が勢いよく入る。
勿体無い、なんて貧乏性だが思ってしまった。
特に飲むのが俺だから。
抹茶も勿体無いが、先生に点ていただくのも勿体無いことだ。
ありがたく、といただく。
甘い。気が休まる。
先生も一口、と言うのでお渡しする。
あまり飲むと寝られなくなるぞ。
先生の唇に抹茶が残っているのを舐めた。
茶碗に少しお湯を足して薄茶にしてもう一度いただいて。
後始末をしていると八重子先生がお水を、と出てきた。
苦笑して湯を少しの水で埋めてお渡しした。冬の水では体が冷える。
「あんたらこんな時間に濃茶なんか飲んだら寝られなくなるよ」
「なぜ濃茶と」
「口」
絹先生がこちらを見る。
「あらほんと、まだ口についてるわね」
指で拭うと確かに残っていた。
「取れました?」
「もうちょっと残ってるわ」
と先生の指が私の唇に。
その指を舐めたい!
と思いつつも流石に八重子先生の見ている前では出来なくて。
各々部屋に立ち返る。
そのまま先生が私の部屋についてきた。
今日はしちゃいけないのに。どうしてだ。
布団に入れ、懐に抱いて、我慢して。
暫くすると心地よさげな寝息。
…先生もさびしかったのだろうか。
まさかただの酔っ払い。
それだと明日になったらなんでここにいるのーって言われそうだな。
まぁなんでもいいか、先生がこうして俺の懐にいて、暖かくて。
幸せなのは事実なんだから。
風呂上りでも体臭はあるもので、先生の匂いは俺にとって甘く感じる。
先生の布団で寝るのも先生にくっついてる気分がして、それもまた良い。
しかし。しかしだ。
こう、ずっと我慢してきているのに触れて抱きしめて。
それ以上は禁止と言うのは中々に苦しいぞ。
思わないでもないんだ。
このまま攫っていって隠棲して、ずっと抱いて暮らす。
だけどこの人は絶対家を選ぶだろう。
娘であり、妻であり、母だから。
それにきっと。
私の性癖に我慢できなくなって、別れたいといわれるだろう。
うちに泊めてるときのようなのが毎日では体も心も辛かろうと思う。
だから。定年後かな。同居できるのなら。
私の欲も少しは枯れて、この人も少しは慣れて。
でもその頃には激しくしたら先生の息が切れちゃうな。
激しくなく、体力がなくても楽しめるような何かを二人で探せたら良い。
甘い匂いに耐え切れず、首筋を舐める。
「ん……」
起きたか? いや、寝息。
顔を先生の首筋に押し付けて、寝る。
いい匂いだ。
三が日すぎたら、と約束している。我慢しよう。
明けて元旦。
まだ暗いうちに目が覚めた。懐の中の先生はまだ寝息を立てている。
時計を見れば4時半。
そろそろ起きるか。
いやもう少し、もう少しだけ。
もぞ、と先生の寝返り。
私の胸に頬を寄せて寝ている。くっそ可愛いなあ。
先生は私に比べると華奢で、大事に扱わないと、と思わせる。
腕が痺れた。
ごろりと先生を上に乗せ、仰向く。
血行が戻ってきた。この瞬間だけが辛い。
うわっ、乳首舐められた。
くすぐったかったがこういうのも寝相なのかな。
と言うかなぜに俺の寝巻、こんなに乱れてるんだ。
先生の寝息が乳首を刺激して、困る。
「ん…」
起きたかな。いや、また寝息だ。
5時半までこのままでもいいかな。
あ、先生、涎。
俺の乳房の上に。
今一寝心地が良くないらしい。
さっきと逆の腕を枕にさせて寝かせる。
正月から叱られるのはどうかと思うのでちょっかい出したいけれどぐっと我慢。
寝息を聞いていると少しうとうとしてしまってそろそろ起きる時間だ。
「先生…5時半ですよ、起きて」
「ん……もうちょっと」
「お雑煮作るんでしょう?」
「…あらぁ?なんで山沢さんと寝てるの?」
「えーと、どこまで記憶あります?」
しばし無言。
「居間で皆でお酒いただいてたところまでかしら」
やっぱりそこまでか。
「あー…。その後各々の部屋に布団敷いて寝かせたんですけどね、
夜中台所に出てきたんですよね。あなた。
それでそのまま私の部屋についてきたんですよ?」
「あららら。癖って怖いわねえ」
「いいですけどね、私は」
先生が上半身を起こしたのにあわせて起き、先生に羽織をかける。
軽くキス。
「おはようございます」
「おはよう」
さて、身づくろいして台所へ行くか。
台所へ行くと八重子先生も出てきたところのようだ。
割烹着を着てお雑煮の準備にかかられる。
私の分は10分もあればいいので先生方の分をお手伝い。
御節もお雑煮も用意ができたので、一旦部屋に戻って紋服に着替える。
羽織袴に、と思ったが先生が色留袖の方を着るようにという。
久々に女装。袋帯を締めるのに悪戦苦闘していたら手伝ってもらえた。
先生に口紅を差していただく。
どうやら私が下手そうだから、ということだ。
扇子を持って、まだ時間もあるので茶室へ。
師弟としての新年のご挨拶をまずは交わすことにした。
お年賀をお渡ししてそれから居間へ。
絹先生が律君を、八重子先生が晶ちゃんを着せてみなで新年のご挨拶をした。
「明けましておめでとう、今年もよろしく」
などと挨拶が交わされ、山沢さんも今年もよろしくね、といわれた。
お屠蘇を飲んでお雑煮を配膳し、いただく。
先生のお宅のお雑煮は美味しいが…やはり正月といえば白味噌だ。
俺と先生だけ白味噌の雑煮を。花かつおをたっぷりと。
ただし先生のは少なめに。濃いからね、うちのは。
やはり一口飲んで絶句している(笑)
ポタージュかなにか?と晶ちゃんが覗き込む。
一口いる?と飲ませて反応を楽しんだ。
「山沢さん、これ、濃すぎるわよ…」
「京都のイメージじゃない…」
「あの綺麗な薄味の雑煮は他所向けですよ、ちょっと田舎に入るとコレです」
入ってて大根かにんじんか芋か青物、彩りにする程度。
御節をいただく。
おおっ私の希望が通ってる。
なますにたたきごぼう♪
味噌漬けも入ってる。
「山沢さん、黒豆、一粒だけでも食べなさい」
うっ。
しかしながら数の子は勘弁してもらえた。
子孫繁栄は関係ないからね。
「でもお餅、焼かないのねえ。鍋二つも何するのかと思ったわよ」
「よく伸びてたでしょう? あれは別鍋じゃないといかんので」
さて、御節もある程度食べたのでお年賀を晶ちゃんと律君に。
先生が笑ってる。
「ありがとうございます、でもこんな年になってもらえるなんて変な感じ~」
「晶さんまだ学生だから学生の間はと思いましてね」
その後初詣に行こうということになり羽織を着て皆でぞろぞろと。
やっぱり混んでるなぁ。
はぐれないように、と先生が私の右手を。
少しドキッとしてしまった。
神前まで着いて勿論願うことはこの幸せの続くこと、弥栄。
皆健康でこのまま良い状態が続くことを。
先生も真摯に何事かを祈願されている。
綺麗だな。
美しい。って見とれているまもなく怒濤に押し流されそうになる。
先生を引き寄せて人の波に乗る。
律君たちとははぐれてしまった。
お守りなどを受けて、待ち合わせ場所を決めてあるそうなのでそちらに向かった。
合流してゆっくりと元日の気配を楽しみつつ帰宅する。
律君がさっさと脱いでしまった。
若い男の子に着物は辛いか。
先生、晶ちゃん、私で坊主めくりをする。
惨敗。
最後に「これやこの」を引いた。
なお、その後に「嵐ふく」を先生が引いて、結局晶ちゃんの一人勝ち。
二回戦は先生の勝ち、俺が最後近くで坊主だ。
三回戦も坊主を引くなど坊主に好かれてしまったようで負けまくり。
お酒の入った八重子先生が負けたら一つずつ脱げとか言い出した。
あっという間に帯も着物も脱がされて一人、肌襦袢と裾除け。くそう。
晶ちゃんと先生が帯をはずした頃、それらも脱がされ胸の晒と下帯のみに。
八重子先生が次の勝負を煽る。
「おばあちゃん、これ以上は律が困るわよ」
そういって先生が終了を言い渡してくれた。
というか十分今も困ってる気がするが。
普段の着物に着替えることにして一旦部屋に戻る。
着物を衣桁にかけて普段着を出した。
裾除けを片付けてステテコを穿く。
さっと着替えて居間に戻ると晶ちゃんも洋服に着替えていた。
先生は、と。
とっくに着替えて燗をつけて居るらしい。
台所へ行くと先生にごめんね、と言われた。
気にしなくて良いですよ、と言ってかすめるようにキス。
少し飲みたくなって常温の天神囃子を取り燗徳利とともに先生と戻る。
律君にもついであげる。顔が赤い。
先生が燗酒を私についでくれて飲んで。返杯、返杯。
八重子先生にも。お正月番組を見て、団欒。
いいね、あったかいね。
晶ちゃんと律君は部屋に引き上げ、そちらで飲んでいるようだ。
孝弘さんも離れに寝ている。
先生があくびをした。
「少し寝たらどうです?」
「でも…」
「女手なら私がいますからね。大丈夫ですよ」
御節作りや大掃除で疲れているんだろう。
はいよ、と八重子先生からハーフケットと座布団。
先生が横になってうとうとし始めた。
可愛いなぁ。
先生の寝姿を見ながら八重子先生と酌み交わす。
少し不埒なことを考えてしまった時、八重子先生に頭を撫でられた。
「あ…えぇと、風呂。洗ってきます」
慌てて席を立った。
いかん、いかんよ俺。
八重子先生の居る前で先生をそういう目で見るなんて駄目だ。
雑念を吹っ切るべく丁寧に風呂を洗う。
洗い終えて出ると律君とばったり。
律君が慌てて後ろを向いた。
「やっだ、律、あんた山沢さん見て赤くなってるんでしょ~」
「ああ、晶さん」
うん?ってああ、そうか、風呂洗うのに下着以外脱いでるからか。
青年には刺激が強いんだな?
声を聞きつけて八重子先生が来る。
「さっさと着なさい」と叱られて着なおす。
「もー山沢さん気にしなさすぎ!」
「見慣れんものですかね…?」
「晶、お風呂どうする? 入るならお湯張るけど」
「んー、入ろっかな。山沢さん先じゃなくていいの?」
「私は後で頂きますからどうぞ」
お湯が沸くまでの間、居間でゆったり。
「おばさん寝てるの珍しいね」
「お疲れなんですよ。あ、ちょっと雑煮作ってきますがいります?」
二人ともに要らないといわれてしまった。
酒飲んで御節食べて雑煮、幸せ~。
御節も随分と夜に近い時間には減ってきた。
明日はどうするのかと聞くと詰めなおす部分と新規のものを入れるのと、とか。
皆がお風呂に入り、先生を起こしてお風呂に。
眠くてふらついてる。
「今日どうしても入らなきゃいけないというのでもないと思うのですが?」
「そうね、明日の朝にするわ…」
いっそ、と抱えあげてお部屋にお連れする。
部屋で降ろして寝巻きに着替えるように言い、布団を敷く。
衣擦れの音が心を乱す。
先生はすぐに布団に入り、寝息を立て始めた。
脱ぎ捨てられた着物を片付け、部屋を後にする。
居間に戻って飲んで騒いで、後片付けをして自室へ戻る。
他の部屋や居間から遠いこともあり部屋が冷えていて、冷気が寂しさを煽る。
同じ家にいて寂しさを感じるとは、こうなるまでは知らなかったことだ。
後二日、二日を我慢したらいいんだ。
部屋を温め、布団にもぐりこむ。
さすがに酔いも手伝いすぐに寝た。
夜半、いつも起きるような時間に目が覚めトイレに立つ。
戻ると部屋に先生がいた。
またか。
追い返すのもなぁ。
布団に入れて、懐に抱く。
「…迷惑だったかしら」
「そんな顔してましたか?」
「ええ」
「このまま抱けるならね、凄く嬉しいんですけどね。抱けないのでちょっと苦しいなと」
「あら…」
あ、耳まで赤くなった。
「まあ、我慢します。ここが落ち着くってならここで寝てください」
「…落ち着かなくなっちゃったじゃないの」
背中を撫でる。ゆっくり、優しく。
「ん、だめ…」
落ち着かそうと思ったが煽ってしまったか。
すっと先生の手が私の胸の合わせを割り開く。
「どうしました?」
ぴとっと先生が私の胸に耳をつける。
ああ、あれか、心音を聞くのか。
落ち着きたいんだな。
「山沢さん、いつも早いわよね…」
あなたとくっついてる所為もありますがね。
先生の背を撫でつつ自分も落ち着くべく努力する。
「ねぇ、明日年始まわり行くけど…あなた、一緒に来る?」
「お茶関係ですか。それなら」
「親戚も回るわよ?」
「表でお待ちしてますよ」
「寒いのにいいの?」
「あなたのいない家で孝弘さんと待つんですか?一分一秒でもあなたのそばがいいのに」
「山沢さん、可愛いこと言うのね」
「ガキっぽくてすみません」
「あら、嬉しいわよ」
「そうですか?」
先生からキスをされて。
私の胸に手が這う。
煽って楽しんでるな?されないと思って。
くるり、と組み敷く。
「あっ…」
「抱いてもいいんですよ、今」
耳を舐める。
「だめ、やめて…」
「スリル、あるでしょう?」
先生の頬が赤く染まって、衿から覗く胸の辺りもほの赤い。
きゅっと身を縮めるさまは愛らしくて、少し淫靡で。
生唾を飲み込んでしまう。
「ゆるして…お願い」
息をたっぷり吸って、吐いて。横にごろりと転がる。
「仕方ないな。おいで、寝ますよ」
先生はそろりと私の腕枕におさまって目をつぶっている。
可愛いな。本当に。
髪を撫でて、腕を撫でているうちにうとうととしてきた。
もう一眠りしよう。
「ごめん、ね」
先生がつぶやいた。
「いいんですよ。愛してます」
「ありがとう…」
そのまま眠りに落ちて行かれた。相変わらず寝るとなると早いな。
俺も寝よう。