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百鬼夜行抄 二次創作

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伶(蝸牛):絹の父・八重子の夫 覚:絹の兄・長男 斐:絹の姉・長女 洸:絹の兄・次男 環:絹の姉・次女 開:絹の兄・三男 律:絹の子 司:覚の子 晶:斐の子

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-山沢-
お昼を食べて黙々と作業をして疲れて。
でも今日、頑張りさえすれば明日は。
…明日早めに行って抱こうかな。
そうだ、そうしよう。
三が日終ってからじゃ抱き壊してしまいたくなる。
やっと仕事が終った。
後は明日の朝……。
大晦日。
昨日は仕事が終わり仮眠。
そのままの格好で今は加工場にいる。
鯛を焼いているのだ。
火に掛けだすとしばらく放置することになる。
先生のお宅にもって行く味噌漬けやお造りの用意。
すべて段取りが終った頃、焼き終わった。
車に積む。
一旦帰宅してシャワーを浴びて着替え、用意した紋付、これも車に積む。
匂いが移らないようにして。
さあ、先生のお宅へ車を走らせよう。
まだ暗い中、渋滞もなくスムーズに到着した。
お勝手口を開けて魚を搬入する。
焼鯛は風通しの良いところにおいてあとは冷蔵庫へ。
刺身が入らない。
……寒いから良いか、袋もかけてあるし。
お勝手の鍵を締めてから、寝間に行き紋付を衣桁にかける。寒い。
時計を見れば4時過ぎ。先生のお部屋に行こう。
そっと襖を開けてはいる。良く寝ている。
ジャケット、カッターシャツ、スラックスを脱いで、そろりと布団に進入し、キス。
寝ている先生の浴衣の帯を解き乳房を揉み乳首を舐め、翳りに手を伸ばす。
暫くして濡れて来たそれを突起にまぶして弄る。
かすかに喘ぎ声。
指を入れて弄っていると起きたようだ。
きゅっと私の胸にしがみついて、声を我慢している。愛しい。
中に入れながら突起をコリコリと弄って感じている顔を楽しむ。
そのまま3回程逝かせて、声が出そうなのはキスで塞いだ。
ディープキス。先生も離れようとしない。
遠くで居間の時計が5時を告げている。
「お仕事終ったのね…おかえりなさい」
お帰りなさいって…それって…。うわー。なにそれ。嬉しい。
「……ただいま戻りました」
「三ヶ日終るの待てなかったのね?」
「はい。今ならまだそんなに激しくしないですみますし…」
「十分激しかったと思うけど…凄い隈ね」
先生がそっと私の目の下をなぞる。
「髪もまだ湿ってるわねえ」
頭を撫でられた。
「お昼まで寝てなさい。このまま。私はもう起きるけど」
「はい、そうさせてもらいます」
暫く頭や背を撫でられているうちに寝てしまったようだ。
-絹-
弄られて目が覚めて。
寝ている間に山沢さんが来ていたみたい。
何度か昇りつめて、息を荒くしていると背を撫でてくれるの。
今日はシャツを着ていて素肌じゃないけれど。
いつもは肌同士密着して、それも好き。
あら、石鹸の香り、お風呂入ってきたのね。
落ち着いて山沢さんにお帰りなさい、と言った。
さすがに十日は長かったみたい、私を抱きたかったのね。
凄い隈が出来ていて、眠そう。
寝るより私を抱きにくるなんて可愛いわよね。
頭を撫でるとまだ湿っている。
寝かしつけて、布団から出ると脱ぎ捨てた服が散乱している。
ワイシャツを畳んで、ジャケットとスラックスは釣って置いた。
身づくろいをして朝食の支度へ。
「おはよう」
「ん、おはよう。山沢さんいつ来たのか土間の棚に魚が置いてあったよ」
「うん、さっき来たみたいよ、今私の部屋で寝てるわ」
「あぁ直行したのかい、可愛い子だねえ」
恥ずかしいわね、ちょっと。
朝御飯を作って夫と息子を呼んで食べさせて。
一服したら御節の準備にとりかかる。
足の早い物は今晩作ることにして、元旦の夕方につまむようなものを。
「絹ー、ちょっとー」
あら何かしら。
「晶がねえ、今晩からこっちに来たいって。
 三が日って言うけど御節、量的に大丈夫かねえ?」
「少し多い目に用意してるから大丈夫だと思うわ」
「そう?」
「後でお買物に行くときに何か買い足したほうがいいものあったかしら?」
「今晩の分くらいでいいんじゃないかね」
「お部屋、用意しなくっちゃね。律の隣の部屋でいいかしらねえ」
「その方が無難かね、あんたと山沢さんの部屋からは離れてるほうがいいだろうしねえ」
「お母さん、もうっ」
そんなことを言いながら御節の支度を進めて、足りないものをメモしてお買物へ。
戻ると母がお昼の支度をしていたから後は私がするわ、と引き受ける。
-山沢-
昼前、八重子先生が覗きに来た
その時、寝ぼけて布団の中に引きずり込んでしまったらしく、
お昼ご飯にと八重子先生が呼びに来たときは距離を保って起こされてしまった。
脱ぎ捨てたはずのシャツなどがきちんと畳まれてある。
着ようと思うと浴衣を渡された。それを着る。
ご飯をいただいて、まだ眠そうだからと布団に押し込められた。
確かにまだ足りないようですぐに眠りに落ちた。
-絹-
お母さんが山沢さんを起こしに行って暫くして戻ってきた。
「山沢さん、あんたと間違えたみたいで布団の中に引き込まれちゃったよ」
「ええっ。で、どうしたの?」
「どうしたのもなにも、すぐ違うってわかったみたいで謝ってたよ」
「うーん、晶ちゃんや律に起こしに行ってもらったら危険ねえ」
「そうだねえ」
お昼の用意が出来たけれど山沢さんが起きてこない。
食卓を拭いて、おかずやお櫃を出しているとお母さんがもう一度呼びに行ってくれた。
ふらふらと揺れて、浴衣を着た山沢さんが食卓について、お昼を食べて。
凄く眠そうで、お母さんが部屋に戻した。
「山沢さんっていつの間に来てたの?」
「朝からよ。気づかなかったの?」
「うん。凄く眠そうだったね」
洗い物をして、御節の準備の続きをして気づけばもうお夕飯の支度をする時間。
山沢さんが持ってきてくれたお刺身と、あとはどうしようかしら。
メインがあるんだからお野菜を煮たものがいいかしらねえ。
豚肉がちょっとあるから大根と煮て、ほうれん草のおひたしも作ろうかしら。
あ、山沢さんのメインは先日いただいたお肉を焼いちゃいましょ。
そういえば冷蔵庫にニシンは入ってなかったわね、持って来たのかしら。
土間の棚をみると冷蔵庫に入らなかったと思われる食材がいくつか収められていた。
ニシンの真空パックや、お餅、白味噌等々。
……なんでお鍋が置いてあるのかしら。二つも。
お大根を煮ていると山沢さんが起きてきた。
-山沢-
次に目が覚めたとき、また美味しそうな匂いがしていて、もう夕刻か、と思った。
ちゃんと腹が減っている。
ひょいと台所をのぞくと先生方がお夕飯の支度をしている。
「あら、起きたの?」
「ええ美味しそうな匂いがして目が覚めました」
先生はクスクス笑ってる。
「そういえば玄関も勝手口も締まってたけどどうやって入ったんだい?」
「玄関の鍵は一つお預かりしてますよ?」
「そうね、山沢さんに前に一つ渡してたわねえ。忘れてたわ」
「二週間ほど前にこちらで飲んだときもその鍵で鍵かけて帰りましたから」
「ああ、あれって私が締めたと思ってたよ」
「先生方お二人とも先寝てしまわれたんで私が掛けました」
「あらあら、そうだったの?」
布巾を渡される。食卓を拭いて用意だな。
お座布団も出して、台所からおかずを出して行く。
朝持ってきたお造りとか、風呂吹き大根かな。そういった普通のおかず。
お櫃も持ってきて、孝弘さんと律君を呼ぶ。
「うわっどうしたのこれ」
イセエビの見た目か?むしろメインは鯛だ。トロもあるが。
折角俺が居るんだからお造りくらいはね。
「あ、そうだ。こちらだと初詣は二年参りですか?それとも元日のみですか?」
「二年参り?なぁに?それ」
「大晦日も元日もってやつです。ということは元旦だけですか」
「そうねえ、いつも元旦の朝に行ってるわねえ」
「あんたも一緒に行くんだからちゃんと寝なさいよ」
「あー、はい。着物で行かれます?一応紋付持ってきたんですが」
「今年は律も着せようと思ってるの」
「ええっ僕も?」
「たまには着なさいよ」
「ええー」
ほほえましい光景だ。
「先生。あとで針と糸とお借りできませんか」
「どうしたの?」
「半襟つけそびれちゃって」
「あららら~。つけてあげるわ、後で持ってきなさいよ」
「いや、そんな勿体無い、自分でつけますから」
「つけてもらいなさいな」
「いいんですか?なんか悪いですね…」
玄関の開く音。
「こんばんわー」
「晶ちゃん、いらっしゃい」
「お邪魔しまーす」
「こんばんわ、晶さん」
「あ、山沢さん、こんばんわー」
「ご飯もう食べてきたの?まだならここ座って、ほら」
「やー、荷物とかあるから先においてきますー」
「律の部屋の隣に布団敷いてあるからそこ使ってね」
「はーい」
…朝、軽くでもしといてよかった。
うっかりやりたい気分で見つめたりして、晶ちゃんからばれるとか有りそうだ。
正月から家族争議は困るだろう。
とにかく気をつけねばならんな、酒は控えめにしよう。
先生方にもあまり飲ませないようにしよう。
こうして見ているといいお母さんで、奥さんで。私の腕の中に居るときとは随分違う。
美味しいご飯を作り、家を守り、優しく息子を育て。
厳しくの部分は八重子先生だな(笑)
食べ終わって洗い桶に漬けに行ったついでに晩酌の用意をする。
あれ?徳利あるじゃないか。
聞くと居間で二人で飲むなら都合がいいが、
居間から離れた私の部屋なんかでは燗鍋が都合よかったとのこと。
「居間で飲んでいたら…こうはならなかったかもしれませんね」
「そうねえ」
「後悔、してますか」
「してるって言われたいの? ばかね」
オホホと笑って燗のついた徳利を持っていった。
苦笑して、麒麟山は純辛の一升瓶と棒鱈を持って後を付いて行く。
食中酒にするにはうまいんだよね、これ。
棒だらをつまみに酒を飲み、大晦日番組を見る。
孝弘さんや律君が風呂に入り、若い子の歌はどうでもいいと八重子先生が続いた。
5分ほどして後を追う。
風呂に入ってから来ている時は八重子先生が体を洗う間に浸かるようになった。
ぬくぬくしていると背中の傷が少なくなったね、と言われた。
今朝つけられたのもあるけれど。
八重子先生が洗い終わったので、湯から出る。
股間を掴まれた。
「……っ、なんですか」
「あれから自分でしたかい?」
「いや、してませんが」
「してあげようか?」
「自分でするからいいです」
っていってるのに中をまさぐられてる。
「風呂は駄目です、声。が、やばいですから」
「おや、それもそうだね」
手は止まって開放されたが中途半端に煽られてしまった。
参ったなぁ。
風呂に入る前なら散策して来ればいいが、風呂のあとでは風邪を引く。
ああ、部屋で抜くか。
さっき火鉢に火を入れたから風邪引かん程度には暖かかろう。
一応の為に結界を張って、一発抜く。
自分でする分には声も出なけりゃ息も荒くはならない。
さっさとすませて洗顔シートで手と股間を拭い、それから手を洗いに立つ。
途中律君に会い、ちょっと気恥ずかしい。
手を洗って長襦袢と半襟を持って居間に戻る。
晶ちゃんもお風呂から出ており、先生が入っているらしい。
「ね、山沢さんっておばさんの事好きでしょー?」
「ええ、好きですよー」
こういうときはさらっと返すべし!
「やっぱりー」
うん、酔ってるなー。
「晶さんだって絹先生のこと好きでしょう?」
「あー、うん、おばさんって憧れだよねー。女としての」
「家事万全、旦那さんを愛して家を守る、理想ですね」
「あらあら、晶ちゃんとも仲良くなったの?」
っと先生が風呂から上がってきた。色っぽいなぁ。どきどきする。
むくり、といじめたい心が動いて、いけない、と治める。
「おばさーん、山沢さんがおばさんのこと好きだってー」
酔っ払いは困るな。
「あーおばーちゃん、この歌手私好きなのー」
テンション高い(笑)
「山沢さん、半襟。つけてあげるわ。いらっしゃい」
ああ、なにか言いたそう。
長襦袢と半襟を持って先生のお部屋へ。
入るなり言われた。
「晶ちゃんに手を出しちゃ駄目よ…」
あ、嫉妬か。可愛いな。
思わず引き寄せてキスしてしまった。
「可愛いこといいますよね、先生」
まだ乾ききらない髪を撫でる。
「あら?山沢さん、もう冷えてるのね」
…嫉妬はどこへ行った?
「私は風呂を出たら5分でさめますからねえ」
というと火鉢に近い所に私を座らせてくれた。
裁縫道具を出してくる。
2枚あるから、と私にも針と糸を貸していただいて半襟を付ける。
さすがに先生は手早い。
私の分をつけて、自分の分をつけて、律君の分もつけてしまわれた。
「晶さんには着せないんですか?」
「あら、そうねえ。ちょっと待ってて」
暫くして、長襦袢と半襟を持って戻ってきた。
ちくちくと縫い付けて、ハンガーにつるから後のをもってくるよう言われる。
吊り下げて並べ、二人で居間に戻った。
「ああ、戻ってきた、そろそろおそば、作らないかい?」
「あらそうね、もう作らなきゃいけないわね。山沢さん、来て」
はい、と後を付いて台所。
おそばを茹でて、天麩羅を…。
「お母さん、数が足りないわ」
「えぇ?」
ひいふうみい…。
「あ。晶さんの分が数に入ってないんじゃないですか」
「あらららら。どうしましょ」
「誰かニシン食いません?あれ2尾入なんです」
「じゃ私がいただくわ」
決まった決まった。汁を少し鍋に取り分けてニシンを温めて、乗せる。
「律ー、晶ちゃーん、取りにきてくれる?」
と先生が呼び、そばを食卓へ。
「あれ、天麩羅じゃないのがある」
「それはお母さんと山沢さんだよ。あんた七味は使う?」
「僕はいらないけど」
「晶は?」
「私もいらないー」
私の前に七味の小袋が3つ。
全部入れて、頂きますをしてすする。
「あら、意外と美味しい」
先生が小声で言った。意外ってなんだ意外って(笑)

-律-

「ありがとうございました」
教室の生徒さん達が帰っていく。
それと入れ違いに来る生徒さんもいる。
「こんにちは、律君」
山沢さんだ。
「こんにちは、今日も暑いですね」
「いやぁほんとに」
「あら山沢さん、いらっしゃい」
「こんにちは、お邪魔します」
「水屋、お願いできる?」
「はい」
母に水屋を任されているようで、すぐに茶室に入られる。
以前は母と祖母が交代で食事や休憩を取りつつ教室をしていたけど、
最近は山沢さんがお昼の早いうちに来て後始末と、次の用意などをしているらしい。
その間に祖母と母がお昼を食べて休憩をする。
教室が終ると以前は4人で食事していたのが5人になり、
夕飯の支度や後片付けを手伝って泊まって行かれる。
「山沢さんってなんでいつも泊まってくの?」
と母に聞いたことがある。
「あぁ、山沢さんねえ、うちから遠いのよ。だから」
「どれくらい?」
「スムーズに乗り換えて1時間半かしらね」
「えっなんでそんなとこからうちに?」
「紹介されたらしいわよ」
「へー、そうなんだ?普通近所に行くよね。教室がないくらい田舎とか?」
「そんなことないでしょ、あの人築地に住んでるのよ」
「あっちなら沢山あるのになんでなんだろう」
「希望の時間帯とか、曜日とか、どこまで教えるかとかそういうので決まるのよね」
「ふーん」
というわけではるばるうちまで来て習っている。
泊まるようになったのは祖母から着物の仕立を習うためだったらしい。
それからずるずると休み前に泊まるようになったようだ。
先月は山沢さんは母と京都に旅行に行った。
女性だと僕は知っていたけど、あの格好で母と旅行では噂も立つよな、と思った。
お茶の勉強会だといってたけど。
その後も展覧会だ、なんだと母と山沢さんが出かけて行く。
秋の初め頃には母が山沢さんの家に泊まりに行ったりして、随分山沢さんと親密らしい。
青嵐は気にならないようだ。
祖母は母が旅行だお泊まりだというと教室が大変なようで僕を使う。
生徒さんたちは噂好きで母と山沢さんが不倫の仲じゃないかとか、
どうでもいい事を耳に入れてくれる。
山沢さん、すっかり男の人と思われてるよね。
うちでくつろいでる時は胸が見えたりしてやっぱり女の人だとは思うけど。
というか隠して欲しい。
僕だって一応男なんだから、お風呂上りに浴衣をざっくり着るのは勘弁して欲しい。
まだ司ちゃんのほうが隠してくれて助かる。
冬になりつつある頃気づいたんだけど山沢さんは母と同じ布団で寝て居るらしい。
山沢さんに聞くと、一人で寝るのが嫌いなんだそうだ。
一人暮らししてるのに?と思った。
そしたら一人住まいの一人寝はわかってることだけど、
人が居る家なのに一人は寂しくて嫌いなんだって言ってた。
祖母と一緒に寝たこともあるらしい。
山沢さんは結構寝相が悪い、と祖母が言う。
寝ぼけて抱きつくんだそうだ。
だから僕は山沢さんを起こしに行っちゃ行けないらしい。
山沢さんは僕より力があるらしい。
そして着物姿が決まっていて格好良く、知らなければ男性だ。
ちょっと背が低いけれど。
でも母よりは少し背が高いのかな、並ぶとわかる程度に。
母に呼ばれてはすぐに指示を受けて何かをしている。
食事の仕度だったり、掃除だったり。
祖母にお客様なのにいいの?と聞くと良いんだという。
いつも母や祖母が立ち働いているとき、山沢さんも手伝っている。
食事も普段の僕たちと同じご飯を食べていて、
まるで家族のような扱いを受けていて、不思議だ。
司ちゃんはうちに来てもお客様扱いなのに。
いつの間にか開さんや、晶ちゃんとも仲良く話していて不思議だ。
先日祖母が月謝袋を開いてる時に居合わせたけれど、
山沢さんだけ多くて、なんで?と聞くと居候料と月謝だという。
そんなの貰ってたんだ、と言うといらないといったんだけど、と母が言う。
でもたかが稽古事なのにそんなに払えるなんて凄いなぁ。
僕のバイト代全部より多かった。
そういうと、母がクスクス笑った。
「あら、山沢さんとお食事に行くと2、3回でこれくらいよ」
「ええっ?そうなの?」
「前に旅行行ったでしょ?あれも一泊で二人でそれくらいらしいわよ」
「…それって山沢さんのおごり?」
「そうよ」
「うちの経費の分は別に領収書切ってもらったみたいだけどね」
「そうそう、ツインの一番安い部屋じゃなかったかしら」
「なんでそんなこと?」
「宿泊費があまり高いと税務署から調査が入るんですってよ」
「へー。山沢さんってそんなの詳しいんだ?」
「役員さんだから知ってるんじゃないの」
よくわからないや。
「それに山沢さんはもう人を教える資格持ってるのよ」
「あ、そうなんだ? あの人優しいから教えるのはいいかもね」
「優しい…怒らせると怖いわよ?」
「怒らせたことあるんだ?」
「本当に怖くてねぇあの人…」
母が怖がるくらいだから、よっぽどなのだろう。
意外と僕の母は強くてこんな仕事をしているからか揉め事には強い。
「でもこの間お母さん、山沢さんを踏んでなかった?」
「あらやだ、あんた見てたの?」
「絹?」
「山沢さんが肩凝ったから踏んで欲しいって言うから踏んであげたのよ」
「肩こりで胸も踏むの?」
「よく判らないけど気持ちいいんですって」
僕はそんなに肩が凝ったことがないから乗って欲しいと思ったことはない。
ご飯のとき山沢さんは"お父さん"のおかずに何かを足したりしているのを見る。
嫌いなおかずを母に見えないようこっそりと移動させてるらしい。
山沢さん自身が持ってくるのに、絶対に赤い魚を食べないのが面白い。
"お父さん"は嬉しそうにそれを食べる。
確かに母が買ってくる魚より美味しい。
でも山沢さんは母が作る肉料理を食べるほうが好きみたいだ。
沢山のお刺身や魚料理が出るときに山沢さんだけ母の作った肉じゃがが有ったりする。
そういう時、魚を料理したのは山沢さんだ。
見ているとどこか山沢さんは母が好きなんじゃないか、と思ってしまう。
母はああいう人だから受け入れてるのかな。
祖母が何も言わないところを見ると問題はないんだろう。
泊まるようになって3ヶ月くらいになるけれど、母を先生と呼ぶのも変わらず、
敬語も崩さないのに、どこか狎れた雰囲気があるときがあって。
そういう時、祖母が指摘する。
親しき仲にも礼儀あり。
結構難しいよね。
母もつい山沢さんに甘えているようだ。
トイレットペーパーや洗剤を買いに行かせたりする。
すると後で母が祖母に叱られている。
山沢さんは、母が頼むと何でも聞いてしまうところがあるらしい。
母と一緒に買物へ行って重い荷物を持たされて帰ってきたり。
"お父さん"はほっとけ、というけど、いいのかな。
うちの鳥どもは山沢さんを気に入っている。
和菓子をくれるし、司ちゃん用のお酒が探さなくても沢山あるのもいいみたいで、
すっかり手なづけられてるようだ。
どうも山沢さんはうちの有象無象が見えてるらしい。
一人で寝られないのはそれが原因なのかも。
青嵐のことは知っているのだろうか。
12月になりお教室も年内のお稽古が終了して、山沢さんが来なくなった。
何かいつもいる人がいないのは変な気がする。
母も少しさびしそうだ。
話のついでに山沢さんの年を聞いた。
てっきり母と同じくらいか少し上だと思っていたから驚いた。
僕を子供扱いするし、見られても平然としているからてっきりそうだと。
開さんが来たから、いくつに見えるか聞いてみた。
20代って開さんは思ってたらしい。
祖母が開さんのお嫁さんに、なんて言い出したけど開さんが断った。
ホモに見えるから。って想像したら面白くて、凄く笑った。
見えるよね、絶対そう見える。
開さんと抱き合ってる姿とかキスしてる姿とか想像しちゃって、ツボに入った。
母が呆れたような顔で見ている。
翌日、祖母から大学に電話があって早く帰るようにと言う。
急いで帰ってみると今日はすき焼きだからって言うんだ。
松坂牛を山沢さんが送ってくれたらしくて、凄くやわらかくて美味しくて幸せだった。
母はいつもこんなのを山沢さんと食べてるらしい。
日曜に大掃除を手伝ってお昼ご飯を食べているとテレビで築地が映った。
人多いねー。
ぼんやり見ていたら母が山沢さん、と言った。
映ってる?
母がテレビの一角を指差す。本当だ、山沢さんだ。
よくわかるなあ、こんなに人が一杯なのに。
テレビに映る山沢さんは近くの人と何かを投げ合っていて元気そうだ。
母の顔がほっとしたものになっている。
大掃除の続きをしていると雪。寒いなあ。道理でバケツの水が冷たいはずだよ。
いつもこんな冷たい水で料理してるんだからあの手なんだよな。
あれ、でも今年は痛いって言わない気がする。
山沢さんが手伝ってるからかな。
でも山沢さんの手はあまり荒れてそうじゃないなあ。
翌日、今日は休講だからと言うと買物に借り出された。
毎年のことだけどいろんなものを母は買ってすべてを料理する。
今年はいつも買わないようなものを買っていて、珍しいなと思うと山沢さんの分と言う。
お正月、来るのか。
何か母が浮かない顔をしている。
買物を終え、車に積み込んで運転する。
母は何か上の空で話しかけても返事がない。
どうしたんだろう。
荷物を降ろしてバイトに行く用意をする。
年末は時給が高くて良いね。

-山沢-

除夜の鐘が聞こえてきた。
煩悩は払えるものだろうか、いいや払えない。
テレビの行く年来る年が荘厳な寺内の様子を放送している。
年送りは寺、年迎えは神社。日本は神仏習合の国だなあ。どこが無宗教だ。
食べ終わって、器を洗いに立つ。
年の終わりに好きな人と同じものを食べて、同じ家に居る。
幸せだな。初詣はこの幸せがいつまでも続くようお願いしよう。
器を仕舞って戻ると八重子先生と絹先生が撃沈してる。
とりあえずは八重子先生を布団に入れてくるか。
ひょいと抱き上げて晶ちゃんについてきてもらう。
布団を敷いてもらって寝かせて。
戻る途中に絹先生の部屋に立ち寄り布団を敷く。
火鉢の火は、うん、落ちてるね。
戻って絹先生を回収。晶ちゃんは今回はいいと断って。
そっと布団に横たえ頬をなでて布団をかぶせる。
可愛いなあ。
さてと。居間に戻ってみれば律君も晶ちゃんも仲良く沈没。
はてさて。晶ちゃんをとりあえず布団に入れるか。
先生に嫉妬されるかなぁ。
でも風邪引かせてもいかんな。と、抱えあげて部屋の布団に入れた。
律君はとりあえず起きるか試してみるか。
男は重くて運びにくい。
…駄目か、起きない。
肩に担ぎ上げて律君の部屋に連れて行って布団に押し込む。
敷いてあってよかった。
食卓や床に散乱したお酒やつまみを片付けて、正月を迎えるようにする。
うん、こんなものだろう。
さてと、俺も寝るか。
火の始末の確認と、戸締り。
昼に寝かせてもらったおかげで後始末が出来る。
寝間へ行って布団にもぐる。
シーツが一瞬冷たい。すぐに温まるのはいい綿だからだな。
本日はこの家での久々の一人寝だ。
なにか心さびしい。
ふと思いついて、台所へ。
私用の茶を出し湯を沸かして茶室から楽茶碗を持ち出し茶を練る。
飛び切り濃い茶をたっぷりと。
コトと音がした。調理台に茶碗を置いて振り返ると先生が起きてきていた。
「寝なくていいんですか?」
「なに飲んでるの?」
「お濃茶。飲みたくなって」
ん…ディープキスされた。寝ぼけ半分か?
「苦い…」
「当たり前でしょう…私のは安物のなんですから」
「おいしいの点ててあげるわ。それ、捨てなさいよ」
シンクで濯いで拭いた茶碗に先生の特級の茶が勢いよく入る。
勿体無い、なんて貧乏性だが思ってしまった。
特に飲むのが俺だから。
抹茶も勿体無いが、先生に点ていただくのも勿体無いことだ。
ありがたく、といただく。
甘い。気が休まる。
先生も一口、と言うのでお渡しする。
あまり飲むと寝られなくなるぞ。
先生の唇に抹茶が残っているのを舐めた。
茶碗に少しお湯を足して薄茶にしてもう一度いただいて。
後始末をしていると八重子先生がお水を、と出てきた。
苦笑して湯を少しの水で埋めてお渡しした。冬の水では体が冷える。
「あんたらこんな時間に濃茶なんか飲んだら寝られなくなるよ」
「なぜ濃茶と」
「口」
絹先生がこちらを見る。
「あらほんと、まだ口についてるわね」
指で拭うと確かに残っていた。
「取れました?」
「もうちょっと残ってるわ」
と先生の指が私の唇に。
その指を舐めたい!
と思いつつも流石に八重子先生の見ている前では出来なくて。
各々部屋に立ち返る。
そのまま先生が私の部屋についてきた。
今日はしちゃいけないのに。どうしてだ。
布団に入れ、懐に抱いて、我慢して。
暫くすると心地よさげな寝息。
…先生もさびしかったのだろうか。
まさかただの酔っ払い。
それだと明日になったらなんでここにいるのーって言われそうだな。
まぁなんでもいいか、先生がこうして俺の懐にいて、暖かくて。
幸せなのは事実なんだから。
風呂上りでも体臭はあるもので、先生の匂いは俺にとって甘く感じる。
先生の布団で寝るのも先生にくっついてる気分がして、それもまた良い。
しかし。しかしだ。
こう、ずっと我慢してきているのに触れて抱きしめて。
それ以上は禁止と言うのは中々に苦しいぞ。
思わないでもないんだ。
このまま攫っていって隠棲して、ずっと抱いて暮らす。
だけどこの人は絶対家を選ぶだろう。
娘であり、妻であり、母だから。
それにきっと。
私の性癖に我慢できなくなって、別れたいといわれるだろう。
うちに泊めてるときのようなのが毎日では体も心も辛かろうと思う。
だから。定年後かな。同居できるのなら。
私の欲も少しは枯れて、この人も少しは慣れて。
でもその頃には激しくしたら先生の息が切れちゃうな。
激しくなく、体力がなくても楽しめるような何かを二人で探せたら良い。
甘い匂いに耐え切れず、首筋を舐める。
「ん……」
起きたか? いや、寝息。
顔を先生の首筋に押し付けて、寝る。
いい匂いだ。
三が日すぎたら、と約束している。我慢しよう。
明けて元旦。
まだ暗いうちに目が覚めた。懐の中の先生はまだ寝息を立てている。
時計を見れば4時半。
そろそろ起きるか。
いやもう少し、もう少しだけ。
もぞ、と先生の寝返り。
私の胸に頬を寄せて寝ている。くっそ可愛いなあ。
先生は私に比べると華奢で、大事に扱わないと、と思わせる。
腕が痺れた。
ごろりと先生を上に乗せ、仰向く。
血行が戻ってきた。この瞬間だけが辛い。
うわっ、乳首舐められた。
くすぐったかったがこういうのも寝相なのかな。
と言うかなぜに俺の寝巻、こんなに乱れてるんだ。
先生の寝息が乳首を刺激して、困る。
「ん…」
起きたかな。いや、また寝息だ。
5時半までこのままでもいいかな。
あ、先生、涎。
俺の乳房の上に。
今一寝心地が良くないらしい。
さっきと逆の腕を枕にさせて寝かせる。
正月から叱られるのはどうかと思うのでちょっかい出したいけれどぐっと我慢。
寝息を聞いていると少しうとうとしてしまってそろそろ起きる時間だ。
「先生…5時半ですよ、起きて」
「ん……もうちょっと」
「お雑煮作るんでしょう?」
「…あらぁ?なんで山沢さんと寝てるの?」
「えーと、どこまで記憶あります?」
しばし無言。
「居間で皆でお酒いただいてたところまでかしら」
やっぱりそこまでか。
「あー…。その後各々の部屋に布団敷いて寝かせたんですけどね、
 夜中台所に出てきたんですよね。あなた。
 それでそのまま私の部屋についてきたんですよ?」
「あららら。癖って怖いわねえ」
「いいですけどね、私は」
先生が上半身を起こしたのにあわせて起き、先生に羽織をかける。
軽くキス。
「おはようございます」
「おはよう」
さて、身づくろいして台所へ行くか。
台所へ行くと八重子先生も出てきたところのようだ。
割烹着を着てお雑煮の準備にかかられる。
私の分は10分もあればいいので先生方の分をお手伝い。
御節もお雑煮も用意ができたので、一旦部屋に戻って紋服に着替える。
羽織袴に、と思ったが先生が色留袖の方を着るようにという。
久々に女装。袋帯を締めるのに悪戦苦闘していたら手伝ってもらえた。
先生に口紅を差していただく。
どうやら私が下手そうだから、ということだ。
扇子を持って、まだ時間もあるので茶室へ。
師弟としての新年のご挨拶をまずは交わすことにした。
お年賀をお渡ししてそれから居間へ。
絹先生が律君を、八重子先生が晶ちゃんを着せてみなで新年のご挨拶をした。
「明けましておめでとう、今年もよろしく」
などと挨拶が交わされ、山沢さんも今年もよろしくね、といわれた。
お屠蘇を飲んでお雑煮を配膳し、いただく。
先生のお宅のお雑煮は美味しいが…やはり正月といえば白味噌だ。
俺と先生だけ白味噌の雑煮を。花かつおをたっぷりと。
ただし先生のは少なめに。濃いからね、うちのは。
やはり一口飲んで絶句している(笑)
ポタージュかなにか?と晶ちゃんが覗き込む。
一口いる?と飲ませて反応を楽しんだ。
「山沢さん、これ、濃すぎるわよ…」
「京都のイメージじゃない…」
「あの綺麗な薄味の雑煮は他所向けですよ、ちょっと田舎に入るとコレです」
入ってて大根かにんじんか芋か青物、彩りにする程度。
御節をいただく。
おおっ私の希望が通ってる。
なますにたたきごぼう♪
味噌漬けも入ってる。
「山沢さん、黒豆、一粒だけでも食べなさい」
うっ。
しかしながら数の子は勘弁してもらえた。
子孫繁栄は関係ないからね。
「でもお餅、焼かないのねえ。鍋二つも何するのかと思ったわよ」
「よく伸びてたでしょう? あれは別鍋じゃないといかんので」
さて、御節もある程度食べたのでお年賀を晶ちゃんと律君に。
先生が笑ってる。
「ありがとうございます、でもこんな年になってもらえるなんて変な感じ~」
「晶さんまだ学生だから学生の間はと思いましてね」
その後初詣に行こうということになり羽織を着て皆でぞろぞろと。
やっぱり混んでるなぁ。
はぐれないように、と先生が私の右手を。
少しドキッとしてしまった。
神前まで着いて勿論願うことはこの幸せの続くこと、弥栄。
皆健康でこのまま良い状態が続くことを。
先生も真摯に何事かを祈願されている。
綺麗だな。
美しい。って見とれているまもなく怒濤に押し流されそうになる。
先生を引き寄せて人の波に乗る。
律君たちとははぐれてしまった。
お守りなどを受けて、待ち合わせ場所を決めてあるそうなのでそちらに向かった。
合流してゆっくりと元日の気配を楽しみつつ帰宅する。
律君がさっさと脱いでしまった。
若い男の子に着物は辛いか。
先生、晶ちゃん、私で坊主めくりをする。
惨敗。
最後に「これやこの」を引いた。
なお、その後に「嵐ふく」を先生が引いて、結局晶ちゃんの一人勝ち。
二回戦は先生の勝ち、俺が最後近くで坊主だ。
三回戦も坊主を引くなど坊主に好かれてしまったようで負けまくり。
お酒の入った八重子先生が負けたら一つずつ脱げとか言い出した。
あっという間に帯も着物も脱がされて一人、肌襦袢と裾除け。くそう。
晶ちゃんと先生が帯をはずした頃、それらも脱がされ胸の晒と下帯のみに。
八重子先生が次の勝負を煽る。
「おばあちゃん、これ以上は律が困るわよ」
そういって先生が終了を言い渡してくれた。
というか十分今も困ってる気がするが。
普段の着物に着替えることにして一旦部屋に戻る。
着物を衣桁にかけて普段着を出した。
裾除けを片付けてステテコを穿く。
さっと着替えて居間に戻ると晶ちゃんも洋服に着替えていた。
先生は、と。
とっくに着替えて燗をつけて居るらしい。
台所へ行くと先生にごめんね、と言われた。
気にしなくて良いですよ、と言ってかすめるようにキス。
少し飲みたくなって常温の天神囃子を取り燗徳利とともに先生と戻る。
律君にもついであげる。顔が赤い。
先生が燗酒を私についでくれて飲んで。返杯、返杯。
八重子先生にも。お正月番組を見て、団欒。
いいね、あったかいね。
晶ちゃんと律君は部屋に引き上げ、そちらで飲んでいるようだ。
孝弘さんも離れに寝ている。
先生があくびをした。
「少し寝たらどうです?」
「でも…」
「女手なら私がいますからね。大丈夫ですよ」
御節作りや大掃除で疲れているんだろう。
はいよ、と八重子先生からハーフケットと座布団。
先生が横になってうとうとし始めた。
可愛いなぁ。
先生の寝姿を見ながら八重子先生と酌み交わす。
少し不埒なことを考えてしまった時、八重子先生に頭を撫でられた。
「あ…えぇと、風呂。洗ってきます」
慌てて席を立った。
いかん、いかんよ俺。
八重子先生の居る前で先生をそういう目で見るなんて駄目だ。
雑念を吹っ切るべく丁寧に風呂を洗う。
洗い終えて出ると律君とばったり。
律君が慌てて後ろを向いた。
「やっだ、律、あんた山沢さん見て赤くなってるんでしょ~」
「ああ、晶さん」
うん?ってああ、そうか、風呂洗うのに下着以外脱いでるからか。
青年には刺激が強いんだな?
声を聞きつけて八重子先生が来る。
「さっさと着なさい」と叱られて着なおす。
「もー山沢さん気にしなさすぎ!」
「見慣れんものですかね…?」
「晶、お風呂どうする? 入るならお湯張るけど」
「んー、入ろっかな。山沢さん先じゃなくていいの?」
「私は後で頂きますからどうぞ」
お湯が沸くまでの間、居間でゆったり。
「おばさん寝てるの珍しいね」
「お疲れなんですよ。あ、ちょっと雑煮作ってきますがいります?」
二人ともに要らないといわれてしまった。
酒飲んで御節食べて雑煮、幸せ~。
御節も随分と夜に近い時間には減ってきた。
明日はどうするのかと聞くと詰めなおす部分と新規のものを入れるのと、とか。
皆がお風呂に入り、先生を起こしてお風呂に。
眠くてふらついてる。
「今日どうしても入らなきゃいけないというのでもないと思うのですが?」
「そうね、明日の朝にするわ…」
いっそ、と抱えあげてお部屋にお連れする。
部屋で降ろして寝巻きに着替えるように言い、布団を敷く。
衣擦れの音が心を乱す。
先生はすぐに布団に入り、寝息を立て始めた。
脱ぎ捨てられた着物を片付け、部屋を後にする。
居間に戻って飲んで騒いで、後片付けをして自室へ戻る。
他の部屋や居間から遠いこともあり部屋が冷えていて、冷気が寂しさを煽る。
同じ家にいて寂しさを感じるとは、こうなるまでは知らなかったことだ。
後二日、二日を我慢したらいいんだ。
部屋を温め、布団にもぐりこむ。
さすがに酔いも手伝いすぐに寝た。
夜半、いつも起きるような時間に目が覚めトイレに立つ。
戻ると部屋に先生がいた。
またか。
追い返すのもなぁ。
布団に入れて、懐に抱く。
「…迷惑だったかしら」
「そんな顔してましたか?」
「ええ」
「このまま抱けるならね、凄く嬉しいんですけどね。抱けないのでちょっと苦しいなと」
「あら…」
あ、耳まで赤くなった。
「まあ、我慢します。ここが落ち着くってならここで寝てください」
「…落ち着かなくなっちゃったじゃないの」
背中を撫でる。ゆっくり、優しく。
「ん、だめ…」
落ち着かそうと思ったが煽ってしまったか。
すっと先生の手が私の胸の合わせを割り開く。
「どうしました?」
ぴとっと先生が私の胸に耳をつける。
ああ、あれか、心音を聞くのか。
落ち着きたいんだな。
「山沢さん、いつも早いわよね…」
あなたとくっついてる所為もありますがね。
先生の背を撫でつつ自分も落ち着くべく努力する。
「ねぇ、明日年始まわり行くけど…あなた、一緒に来る?」
「お茶関係ですか。それなら」
「親戚も回るわよ?」
「表でお待ちしてますよ」
「寒いのにいいの?」
「あなたのいない家で孝弘さんと待つんですか?一分一秒でもあなたのそばがいいのに」
「山沢さん、可愛いこと言うのね」
「ガキっぽくてすみません」
「あら、嬉しいわよ」
「そうですか?」
先生からキスをされて。
私の胸に手が這う。
煽って楽しんでるな?されないと思って。
くるり、と組み敷く。
「あっ…」
「抱いてもいいんですよ、今」
耳を舐める。
「だめ、やめて…」
「スリル、あるでしょう?」
先生の頬が赤く染まって、衿から覗く胸の辺りもほの赤い。
きゅっと身を縮めるさまは愛らしくて、少し淫靡で。
生唾を飲み込んでしまう。
「ゆるして…お願い」
息をたっぷり吸って、吐いて。横にごろりと転がる。
「仕方ないな。おいで、寝ますよ」
先生はそろりと私の腕枕におさまって目をつぶっている。
可愛いな。本当に。
髪を撫でて、腕を撫でているうちにうとうととしてきた。
もう一眠りしよう。
「ごめん、ね」
先生がつぶやいた。
「いいんですよ。愛してます」
「ありがとう…」
そのまま眠りに落ちて行かれた。相変わらず寝るとなると早いな。
俺も寝よう。

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「えーといまのところは大丈夫です」
「辛くなったらきたらいいよ」
「ありがとうございます」
「しかしあんた、飲んでるのに乱れないね」
「まだそう飲んでませんよ、3合ほどです
 八重子先生こそ結構飲んでるんじゃないですか?」
突然胸揉まれた。
「こんなことする程度には酔ってるよ」
「いいですけどね…私の胸なんぞ触って楽しいですか?」
「そうだねえ、あんたがどう泣くのかは知りたいかもねえ」
「…ちょっとここでは」
「私の部屋にくるかい?」
「ええ?いやいや、ええと、本気ですか?」
乳首を弄られて声を上げそうになる。
確かにここで声を上げたくはないが、ないが…。
いやだが着いてったら泣かされちゃうわけで。
ええい、酔ってることを言い訳に、行くか!
「…わかりました、行きます」
酒瓶などを軽くまとめて片し、火の始末をして八重子先生のお部屋へ。
布団を敷く間に八重子先生が寝巻きに着替えた。
そして布団に入られて。
寝息。
え、ちょっと!?
なんでそこで寝るんだ…。
決心したというのにそう来るとは。
時計を見る、まだ終電はあるな。
帰ろう。
八重子先生の部屋を出て、ぐい飲みや酒瓶を台所に片付け、着物を整えて。
お預かりしてる鍵で玄関も閉めて帰ることにした。
なんだかんだ八重子先生も結構酔ってたということか。
電車を乗り継いで帰宅し、着替えて仮眠。
翌朝出勤し連休明けのややこしい仕事を終える。
今日は昼寝もしよう、流石に二日酔いではないが眠い。
シャワーを浴びて布団にもぐる。気持ちいい。
すぐに寝てしまって目が覚めると夕方だ。
何か食わないと腹が減った。
ご飯はチンしておかずは…味噌漬けを食うか。
ニュースを見ながら一人で食べる。
わびしい。
先生方と食べるのにすっかり慣れてしまったんだなあ。
明日は、きっと一緒に食べていただけるから今日のところは休もう。
少し部屋を片付けたり、洗濯物をやっつけたり。
こんなものかな、さて寝るか。

さて火曜日、仕事は暇で時間がたたないといいつつ定時。
帰宅して着替えて先生宅へ。
さて八重子先生とどうしたらいいものか。
「こんにちは」
「はい、いらっしゃい」
あれ、普通だ。
まさか記憶になかったりするのだろうか。有りうる。
何もなかったことにして、お稽古をしていただいて、水屋をお手伝い。
その後夕飯をいただいて絹先生がお片づけしているその間。
昨日のことを覚えているか八重子先生に聞いてみた。
「絹をあんたが布団に入れに行ったのは覚えてるんだけどねえ」
そこから先覚えてない?そうですかそうですか。
「何か変なこと言ったかねえ?」
「いや覚えてないならいいんです」
二人とも酔うと大胆になることはわかった。わかったよ…。
その後絹先生と私の寝間でいたして寝た。
もう最近は八重子先生も何も言わない。
お泊りの朝は絹先生が寝過ごすのも。
そんなこんなで12月に入り、仕事も忙しくなってきた。
「あんたクリスマスはどうするんだい?」
「ご家族水入らずで楽しんでください」
「もう律だってそんな年じゃないよ。絹とどこか行ったらいいのに」
「いや仕事が結構きついんです」
「天皇誕生日の日なら休みだろ?」
「いえ、臨時開場日です。23日から30日までずっと仕事です」
「なんとかならないのかい?」
「夜中の2時から夜9時まで仕事なんで、ちょっと無理かと」
「…それは無理だねえ」
「無理ですよ…毎年3日に一度シャワー、あとは空き時間寝る!と言う感じです」
「洗濯とかどうしてるんだい?」
「30日に纏めて洗って乾燥機ですね」
異臭とか言ってる状態じゃない。誰もが。
「ああ、でもディナーショーの予定が入れば作業からはずされるんですけどね」
「外れたところで結局寝る時間じゃないんだねえ」
「もし予定入れられてしまったら絹先生をお誘いできたらと思います」
「そうしてやって。ああ、そうだ、お正月は地元に帰るんだろ?」
「いや毎年一人で部屋で寝正月してます」
「じゃ今年はうちにおいで。31日から来たらいい」
「いいんですか?」
「来たらすぐ部屋で寝ればいいよ。疲れてるんだから」
「ありがとうございます」
「絹がさびしがるからね、あんたみたく忙しくしてれば別だけど」
「ああ、確かに暇なときほど寂しいです。でも大掃除とかでお忙しいのでは?」
「頭は使わないからね、大して。物思っちゃうもんだよ」
そんなものか。
二週目ともなれば水曜日も朝御飯をいただいてすぐ帰り、仕事をする。
忙しくなって、ますます性欲が強くなり先生は結構辛そうだ。
土曜の夜。
「来週。火曜日は泊まれませんから…土曜日の晩は覚悟してくださいね」
先生の耳元で囁くと、怖がられてしまった。
「そう怖がらないで…可愛すぎてまたしたくなる」
「だって…今でも凄いのに…」
「それと、23日から30日。来れませんから。電話は無理だと思いますけど、
 メールくらいなら出来ますから、携帯、見てくださいね」
「どうして?会いにきてくれないの?会いに行っても駄目かしら」
「そのころはほぼ会社でぶっ倒れて寝てますしね、会える感じじゃない筈です」
「あら、大変なのねえ」
「そのかわり年明けはよろしくお願いします」
「……すごく激しいんじゃない?」
「かもしれません」
先生は困った表情だ。
「したくない? そうならそういってください」
「あ…拗ねないで、そうじゃなくて。その…お正月だとみんないるから」
「ああ。そうか、聞こえたり見られたりしたら一大事だ…失念するところでした」
「お母さんならまだいいけど…他の人だったら…」
「八重子先生でも良くないですよねえ」
うーん弱った、絶対抱きたくなる。
「三が日。終ったらうち来てくれませんか?」
「我慢できるの?」
「がんばります…できるだけ」
「ごめんなさいね…」
駄目だ可愛い。
「もう一回しても良いかな」
「えっ」
「駄目?」
「明日立てなくなっちゃうわ…」
「八重子先生には俺が怒られますから」
「駄目よ、山沢さんのおうちじゃないのよ、お父さんも律も居るんだから」
「ほんと俺って考えなしですね…思ったことすぐ口にしてしまう」
「山沢さんのそう言うところ、可愛いわ」
「でもあなたを困らせてる」
先生から軽くキスされる。
「それだけ…山沢さんが私を好きってことでしょ?嬉しいからいいわよ」
しっかり抱きしめると、息がしにくいと叱られた。
「そろそろ寝ましょ?もう3時よ」
もうそんな時間か。腹が鳴った。
「あらあら。何か食べる?」
「いや、ああ、そうだ」
たしか鞄の中に一口羊羹がある、あれでいい。
鞄を漁って放り込み、噛まずにお茶で飲み込む。
「やぁねえ、そんな食べ方だめよ」
噛むと虫歯の原因の砂糖が残るからわざわざ歯を磨きに立たねばならない。
すぐに布団の中にもぐって先生の体にくっついた。
んー、あったかいなあ。気持ちのいい肌。このさわり心地の良さ。
撫でて匂いを嗅いで舐める。
先生がくすくす笑う。あくび。
「おやすみなさい」
「はい。おやすみなさい」
うとうとしていると懐の中から寝息。つられて熟睡。
翌朝。
と言うか10時過ぎていた。
律君には八重子先生がうまく理由を作って説明してくれて助かった。
ただし叱られた。
二人雁首そろえて。
せめて律君の起き出す時間までに起きてくるようにと。
八重子先生に謝って絹先生にも謝った。
簡単に許してはいただけたが申し訳ないと思う。
まさかこんな時間まで俺も先生も起きないとは思わなかった。
絹先生のお腹が鳴った。八重子先生が苦笑する。
お昼ご飯の用意を手伝って、食事を取った。
「あんた来週からお稽古の後すぐ帰るんだろ?」
「そうなりますね。睡眠時間の問題で」
「始発が有ればいいのにねえ、うちに泊まっていけるのに」
「こういうときは一般のサラリーマンがうらやましいですね」
「お稽古は来れるんだろ?」
「来週は大丈夫です」
その代わり水曜も仕事だし日曜も昼からは仕事だ。
「じゃ、次の日曜は絹に濃茶を練っててもらうといい。濃いのをね」
「眠気防止ですか」
むしろ仕事中に飲みたい。
「前にお母さんが点ててくれたの、すっごく濃くてむせたことあるけどあんなやつ?」
「あら。受験前の?あれはまだ緩いほうよ?」
ぱっと八重子先生が台所に立ち、暫くして戻ってきた。
手に茶碗を持って。
「律、あんたちょっとこれ飲んでみなさい」
「ええー、なにこれ。こんなに濃いの?」
おお、おいしそう。
律君は一口舐めて凄く微妙な顔をしてすぐに普通のお茶を飲んでいる。
口をつけたところを八重子先生が拭いてくれて私へ。
「飲みきっちゃっていいですか?」
「絹も飲むかい?」
「私はいいわ」
じゃあ、とすべて飲み、吸い切る。
甘くて美味しい。
「練り加減はどうだったかねえ」
「凄く美味しいです、甘かったんですがこれはどちらのお茶ですか?」
「"慶知の昔"だよ」
「小山園ですか。うちにもあそこのお茶を冷凍庫に入れてますが精々"青嵐"です」
律君が挙動不審だ。
「薄茶用だろあれは。濃茶にしても美味しくないだろうに」
「苦味が立ちまして眠気払いですね。それにうちだとステンレスヤカンの湯ですし」
「ああ、これ一応鉄瓶の湯だからねえ」
「そんなに味違うの?」
「釜の湯のほうがやわらかいですよねえ」
「そうだねえ」
「そうよねえ」
「あと炭の方が美味しいです。なんとなくかもしれませんが」
「ああ、それはそうだね、なんでかねえ、あれは」
「ふーん」
「律君はお茶はする気はない?」
「この子正座も長く出来ないのよ」
「ああ、そうか正座する習慣がないとそうですよね」
今も胡坐だもんな。
「山沢さんは長い正座、平気よねえ。
 上に座っても1時間くらい痺れたとも言わないもの」
「…山沢さん、よく大丈夫ですね。母、結構重いでしょう?」
「はは、仕事で60キロなんか毎日運んでるからね、絹先生くらい軽い軽い」
「あらあら、だから筋肉質なのねえ」
「律の方が腕でも細いんじゃないかねえ」
「ほんとだ…」
「いや、若い男の子って結構細いですよ。
 特に律君は腕力使うようなことあまりないでしょうし」
「でも彼女出来たらお姫様抱っこくらい出来なきゃ駄目よぉ?」
確かに女の子を柔道の肩車のように持つのはお勧めしない。
「あれはむしろ抱っこされる側が協力的かどうかだと…暴れられると無理です」
「暴れられたことあるの?」
「ええ、小学校の頃に」
あぶなく薮蛇のところだった。
時計が鳴る。
「あ、もうこんな時間だ。
 友達と出てくるから今日は遅くなるよ。僕の分のご飯は要らないから」
「はいはい、気をつけて行ってらっしゃい」
律君が外出し八重子先生が後ろを向いた隙に絹先生にキス。
赤面する先生、可愛い。
それを見た八重子先生に額を叩かれる。バレた。
「ほんとあんたお稽古のときとは別人だねえ」
「そうですか?」
「堅物の優しげな、と思ってたからねえ」
「すいません、実際はこんなんです」
「意外と怖いわよね」
「山沢さんの怖いのなんて想像できないけどねえ」
「だって八重子先生、私が怒るようなことされませんし」
「私にだけ酷いの?」
「会社で本気で怒れば手が出ますからね」
「うそ…」
「最近はほぼしてませんが…」
「山沢さんのその手で殴られたら痛いだろうねえ。絹が女だから殴らない?」
「好きな人を殴る趣味も持ち合わせておりません」
あ、また頬染めてる。
怒ってるかと思えば照れたりと。可愛いなあ、うん。
「あら?前に叩きたいとか言ってなかったかしら」
「なんでそれ今思い出すんですか…」
「どういうことだい」
「あーえーと…私ちょっとS入ってるので、そっちです…」
「ああ、鞭とか?TVでやってるような?」
「端的に言うとそれですが、まあそのー傷つけるのは別に趣味じゃないんで
 お仕置きするようなことがあればーみたいな…」
「ああそれじゃいつか叩かれるんだろうねえ」
「いやいや、できればやらないでやってとか言うところじゃないんですか、そこは」
「まあ山沢さんのことだから。
 うちのことやらお稽古に差しさわりがあるようにはしないだろ」
「お母さん、もうっ。なんで怒らせるの前提なのよ」
「これまで何度も怒らせてるじゃないの、あんた」
「それは…そうだけど…」
八重子先生に頭を撫でられた、と思ったら掴まれて上向かされた。
「でも山沢さんちょっとMなところもあるよねえ」
「え…」
「あるわよねえ」
「いやまあ、ありますけどね…」
だからって髪をつかまないで欲しいなあ。
というと頬をつかまれた。
「いや、ですから掴まんで下さいよ…」
絹先生もくすくす笑っている。
ったく。
「さてと。あんたそろそろ帰る時間だろ?」
ああ、もうそんな時間か。
「ええ、ですが明日も仕事かと思うとげんなりしますね…」
「来週一杯は絹に会えるんだから頑張りな、それとも絹をつれて帰るかい?」
「いやそれはさすがに結構ですから」
それでは、と帰ることにした。
きっと先生のSっぽいのは八重子先生の遺伝だな。
玄関を出ると寒い、そういえば冬将軍が居座ってるとか言ってたな。
来るときは昼だったから暖かかったがもはや夕間暮れ、寒い。
先生がマフラーを貸してくれた。
首もとを暖めると随分違うからと。
暖かくて嬉しい。
気持ちが暖かい。
明日からの仕事がんばろう。
ほんと、好きな人がいないと仕事を続けるのってしんどいんだよなあ。
心の張りというものがやはり必要だ。

明けて月曜仕事は暇で。
作業はあるものの忙しいなんて気分でない。
黙々とこなす。早く終ればそれが睡眠時間の確保になる。
特に明日は早上がりをするのだからちゃんとしておくべきだ。
しっかりこなして夕5時半。帰宅して食事。面倒だな。
羊羹を食べて寝てしまおう。日持ちするから助かる。
翌朝、仕事をして申し訳ないが早帰り、いそいそとお稽古に行く。
「こんにちはー」
「はい、こんにちは」
お稽古をして、すぐ帰ろうとしたら食事を取るように言われた。
どうせまともなもん食ってないからと。大当たりだ。
食事をいただいて、洗い物をして帰った。
やっぱり嬉しいなあ。考えてもらえてるんだな。
寒い外気だが心はぬくい。
一日おきに仕事、稽古と頑張ってこなして土曜日だ。
今日、抱いたら後は会うのは大晦日、抱くのは三ヶ日終るまでお預けか。
きついなあ。
それでも予定があるのだからまだしもだな。
先生も思いは同じなのか、少し激しいのに嫌とは言わない。
私が求めるままに、辛そうな顔をしつつ答えてくれる。
愛おしい。
離し難い。
息を切らせて辛そうな先生を上に乗せ背中を撫でる。
「…まだ、…物足りないんでしょ…?」
「これ以上したら、あなたを壊してしまう…だからいいんです」
「壊れても」
「だめです」
困ったような顔をしている。
「そんな顔をしないで…私は大丈夫ですから。
 あなたの今日の、そう思ってくれた、その心が嬉しい」
これを燃料に大晦日まで頑張ろうじゃないか。
キスをして、背中を撫でて寝かしつける。
まあ、たかが一週間やそこらだろうといわれそうだが。
週の半分以上顔を見てた相手と会えない声も聞けないのはさびしくて辛い。
今日だって本当は家に連れて帰ってしたかった。
声を我慢させるのはかわいそうで。
でもその姿が欲情をそそる。
寝息に変わってきた。
"お母さん"をしている時の顔と"娘"をしている時の顔、"先生"をしている時の顔。
そして"女"としての顔。
今は私以外には見せていないはずだ。
孝弘さんとはどの程度のことをしていたんだろう。
詮索はしてはいけないが。
今も脱ぐのは恥ずかしげだが、きっと二十の時はもっと恥ずかしがっていたんだろうな。
というか脱げたのだろうか。
あ。まつげが抜けてる。
そっと取ってちり紙に手を伸ばして包む。
「…ん」
おっと起こしてしまったか?
大丈夫だった。
綺麗だなぁ。
肌は普段の手入れだろうけど。
きっと八重子先生も若い頃は綺麗だったのだろうな。
うん?…股間を触られている気がするんだが。
寝息、だよなぁ、これ。無意識、夢の中でしてるつもりなのか?
参ったな、これは怒れんな。
まあこの程度ならいいか。
暫く触り続けられていたがやがて止まった。
夢終了か?
布団から這い出てトイレに行く。
八重子先生に出会った。
ちょっとお部屋に連れて行かれお茶をいただく。
寝る前だからとほうじ茶だった。
トイレで抜くつもりだったのになぁ。
さめるにはもう少し時間が必要だ。
先日乳首を触られたことを思い出してしまった。
このタイミングで思い出すんじゃないよ俺…。
八重子先生の顔を見るのが照れくさい。
「どうしたんだい?顔赤いよ?」
うわっ、頬を触られた。
「……先生。先日私の胸揉んだこと忘れてますよね、今のでわかりました」
とぼけてるのかとも思ってたけど!
「そんなことあったかねえ?」
「私の胸揉んで泣かせたいといって部屋に連れ込んだの先生ですよ」
「えっ?うそだろ?あんたに?」
「ええ、それで着替えて布団敷いたらそのまま先生寝ちゃったんですけどね」
「あらー…それは悪いことしたねえ。ああ、じゃあ」
「うっ」
乳首を掴まれた。
「その続きかと思った?」
「はい」
「されたいかい?」
「…ええと」
「それとも絹にされたい?」
「絶対いやです」
「きっぱり言うね」
「いやです。こればっかりは」
「で?されたいのかねえ」
やっぱりSだ、自分から言わせようとしてるよね。
もう我慢限界だ。きつい。
「すいません、お願いします」
何度か逝かせて貰って落ち着いて、ふらふらと絹先生の寝ている横へ戻って寝た。
夢だったと思うことにしよう。疲れた。
翌朝、八重子先生は何もなかったように振舞ってくださり、
私も何もなかったような顔をして絹先生との別れを惜しんだ。
ばれなきゃいいんだよ、ばれなきゃ、うん。
それからの一週間は仕事中に先生へ朝のご挨拶メールを送ったり、
おやすみなさいのメールを貰ったり。
水曜の夜に帰宅すると冷蔵庫に食事が入っていた。
片手で食べられるものが。
昼に来て、作っておいてくれたようだ。
往復3時間もかかるのにありがたいことである。
丁重にお礼をメールするとお歳暮ありがとうとメールが返って来た。
そういえば年内いつでもいいからいいものが入り次第と言う注文をしたんだった。
今日届いたようだ。すき焼きをしたらしい。
しゃぶ用もあるしステーキも有るが年内に食えるのかな。
サーロインメインでヒレとかイチボとかランプとか入れてくれと言っておいたが。
まあ孝弘さんが食ってくれるだろう。
美味しい晩飯を一人食べて、風呂に入る。
掃除と洗濯がしてくれてあった。シーツがいい匂いしてる。
愛されてるなぁ俺。嬉しい。凄く嬉しい。
さびしいけれど幸せな気分で良く寝た。
正月が待ち遠しいなんて久しぶりに思う。
あ。クリスマスか。今日。ならば会いたかったなあ…。
そう思っているうちに眠ってしまった。
明けて翌日暗いうちから働く。
それでも昨日よりは今日のほうが気分が落ち着いている。
仕事も捗る。
残り一週間もない、頑張れそうだ。
先生は今頃大掃除だろうか。
あ、鏡餅買わなきゃな。
年賀状は今日作ろう、今日。
注連飾りも居るな。
明日は作業の真ん中に買物時間作ろう。
帰宅時間は遅くはなるが仕方ない。
6時過ぎ、いつものおはようのメールをする。
朝、先生から来るメールはそっけない。
夜のメールは色々書いてある。
きっと朝は眠いか忙しいかなんだろうな。
俺は朝のメールのほうが文章量が多く、夜は少なくなる。
二人とも、好きだとも愛してるとも書かないことにしている。
メールを見られて破綻。
そんなのは困るから。
だが、ただの弟子と朝晩メールの交換してるというのも。
なにやらおかしい気がしてきた。
体裁を気にすると彼女に怒られるという話を良く聞くが、
俺らの場合気にしすぎでもいいはずだ。
まぁ、先生の場合初めてのメル友で距離のとり方がわからなかったと。
そういう言い訳が使えると思う多分。
しかし上流の人と離れているとすぐに品性が堕落するなぁ。
正月はうっかり変なことを言わないように気をつけないといけないな、これは。
翌日、作業の合間に買いだしに行く。
ついでに栄養ドリンクを数箱。社員達に差し入れる。
日々みんなの目が死んだ魚のようになっていく。
毎年思うがクリスマスに魚市場を空けるメリットはない。
本当に売れないし、客自体来ないし。
あの日休めば光熱費の点からも休養の面からも助かるんだが。
大体この時期から救急車のサイレンを聞いたり、誰かが倒れたらしいと小耳に挟むんだ。
絹先生からも大丈夫?と言うメールをいただいた。
どうやら半分くらい書いて送ったらしい。昨夜。
そんなこんなで日曜日。特別開場日。
今日明日と仕事を済ませば会いにいける。
早く先生の声を聞きたい、抱きたい。
会わずに我慢できるのはやはり三日だな、三日。
メールの交換をしてもらっていて忙しいから何とか日をすごしているが。
しかし今年の忘年会はまた飲みだろうなぁ。
毎年私は出ないけど。なんでみんなそんな体力あるんだろう。
今年は幸い大掃除しなくて済んだ。
先生が来たりするから日常的に整理整頓していたし、先日は先生が掃除してくれた。
毎年、仕事で出来なくて年明けに掃除してしまうからなあ。
仕事中に先生からメールが来た。
うわ、洋装だ。掃除中の姿。
八重子先生が写真を撮ってくれたようだ。
可愛いなぁ。
そして俺の姿をテレビで見たらしい。
画面の端に芥子粒のように映っていたのを絹先生が見つけたとか。
よくわかったなぁ。
元気そうで安心したと書いてある。
でもそれ多分木曜の取材だ。
あの日は先生の気配を家で感じて、愛されてるという実感で仕事が捗った。
まあそれはメールには書けないから、お会いしたときに耳元で囁くとしよう。
あ。帰ったら襦袢に半襟つける作業が待っている。忘れてた。
思い出してよかった。しかし帰宅するまでに忘れてしまうのではないか。
忘れきってたら31日の朝に慌てて付けるか、先生のお宅でつけるかだな。
紋付の用意をするときに思い出せよ自分。
先生はうちに来てくれるときは刺繍半襟だったりする。
この間は小さいもみじが散っていて、可愛らしい雰囲気だった。
お稽古では白い半襟に静かな柄の小紋や紬姿ばかりで、
茶事くらいしか華やかな姿を見なかった。
だけど俺と一緒にお出かけするときは華やかな着物を着てくれる。
襦袢も綺麗だったり可愛かったり手が込んでいる。
お出かけの予定がないときはシックな紬に派手な襦袢とか、
お洒落で、俺に見られることを思ってそういう格好をしてくれてると思うと嬉しい。
前にそういったら、俺がちゃんと衣桁にかけるのを待つから、着てこれると。
エロビデオみたいに着てるのそのままで体液がついたりするような、
あんなやり方をするなら着てこれないよね、正絹は。
たまに脱ぐの待てないの?と怒られるが。
ああそうか、汚していい正絹の襦袢を作ればいいんだ。
だったら着衣で出来るな、そうしよう。
寸法は今度寝てる間にでも測ってしまえばいい。
柄は…そうだ、八重子先生に相談しよう。
そんなことを考えて眠気をやり過ごす。
家に帰って気がついたら服を着たまま寝ていた。
ベッドにもたどりつけていなかったようで、床で寝ていた。
ストーブはつけたようだが。
ついに30日、今日働いたら明日は会える。
気合を入れ直して、一日頑張ろう!
もうはっきり言って商売の時間は暇だ。
当然ながら料理屋なんかは今日明日は料理してお重に詰める日。
うっかり買い忘れたとかがない限り市場には用はない。
暇なので二人を1時間半ずつ仮眠させて少しでも作業時の負担軽減を図る。
その時間に作業させればいい?場所が空かないと出来ない作業なんだ。
みな今日は疲れているが表情は明るい。
明日休日出勤の当番の者も、今日までのような時間帯に出勤しなくてよい。
昼までに終ってゆっくりできるのだから。
使った道具は翌日の当番が洗ったり始末する。
当日始末するのは無理だからね、体力的に。
冗談も飛ばす余裕が出てくる。
私は先生に明日うかがうメールをした。
会いたい…。
そうは書けない。
こんなに貪欲だったんだなぁ、俺。
先生から待っているとお返事をいただいた。
待っていてくれるんだ、ということを心の支えにして。
ひたすらに仕事をこなして行く。
あっ!半襟!つけるの忘れた。今晩か明日の朝つけるか。
覚えてるといいなあ。
家のお飾りは今朝飾って出たし。
他に忘れてることはないよなあ…。
律君にお年賀の用意くらいか?
作業をしつつ忘れ物はないかとチェックする。
明日焼く鯛もキープしてある。
刺身にする魚も泳がせてある。
はっ!現金をおろしてこなければ。
休憩時間になってすぐに銀行に走る。
初売りを考えれば30くらい財布にあってほしい。
昔、某呉服屋で後日にしたら翌日売れていて悔しかったからなあ。
手付けを打てる金はやはり必要だ。
一旦自宅に寄り、明日持っていく鞄に入れておいた。
スーツにも男の着物にも合う重宝な鞄だが女の着物を着るときには流石に合わない。
持って行く紋付は一応男のなのでこの鞄にしたわけだ。
先生にもしかしたら女の格好をさせられるかもしれない。
だから湯文字だけ入れてある。
また職場に戻って作業を進める。

-絹-

「山沢さん、お仕事頑張ってるかしらね」
お母さんになんとなく言うと、ふふっと笑われた。
「今週一杯、来ないからさびしいのかい?」
「そりゃそうよ…週の半分はきてくれてたんだもの」
「きっと山沢さんもそう思ってるよ」
「そうかしら?」
晩御飯の支度をして、お父さんを呼んで律は今日も遅くて。
そろそろ大掃除を手伝ってもらいたいのに。
買出しもしなきゃいけないわね。
「あなた、おかわりは?」
「くれ」
この人は、山沢さんとのこと気づいているのかしら。
わからない振りをしてくれているのかしら。
「ただいまぁ」
律が帰ってきたわ。
「お帰り、ご飯できてるわよ、手を洗ってらっしゃい」
律にもご飯の用意をしてお母さんにお茶を入れる。
「ごちそうさま」
ご飯を4杯。お父さんはいつもどおりに食べて部屋に帰って、
入れ違いに律が食卓についた。
「あれ、今日は山沢さんは?」
「あらあんたに言ってなかったかしらね。今週はお仕事忙しいんですってよ」
「へー寂しい?」
どきっとした。
「寂しいねえ、いつもいるからねぇ」
お母さんが代わりに言ってくれた。助かったわ。
「山沢さんって格好いいよね。開さんとは違う意味で。でも女の人なんだよね」
「そういえばあんた、前に山沢さんの胸見ちゃったろ?」
「あぁー有ったよね、そういうこと。あの人気にしてなくて吃驚したよ」
「開に見られても気にしてなかったからねえ」
そういえば兄さんも山沢さんの胸を見たのよね…。
兄さん、山沢さんに手を出したりしないかしら。
私のってわかってて取ったりする様な人じゃないけど…心配だわ。
「お母さん、山沢さんっていくつなの?」
律に聞かれて驚く。
「あら?そうねえ、確か35歳だったかしら?」
「えっ40代じゃなかったの?」
「あの人若く見えないよねえ、でも実は子供っぽいというか」
「そうよね、甘えん坊なところもあって面白いわよねぇ」
「ええっ?そんな風には見えないな」
そういえば若い時は10歳年上の人が凄く大人に見えたわねえ。
自分がその年になるとそうじゃないのがわかるんだけど。
「母さん、なんか食べるものない?」
「あら。開、どうしたの?」
「財布落とした…いま探してるけど。環姉ちゃん今日は帰れないって言うから」
「開さん開さん、山沢さんっていくつくらいだと思います?」
「20代かな?どうして?」
「今ねえ、律は40代って言ったのよー」
はい、とお茶碗にご飯をついで兄さんに渡す。
「で、いくつなの?」
「多分35歳だったと思うわ」
「えっ意外だなあ」
「いやもうてっきり、お母さんと同じくらいの年だから僕に見られても
 大丈夫なんだと思ってたんだよねー」
「ああ、それはそうだな、僕も見たけど普通だったしね」
「よく考えたら開とも年は釣り合うよねえ」
「母さん?」
「おばあちゃん、駄目よ。それは」
「ちょっと年開きすぎてない?一回り違うんじゃないの?」
「あら、昔は一回りなんて普通だったんだから大丈夫だよ。
 山沢さんが開のお嫁さんだったらお教室も続けれるじゃないの」
「それは山沢さんが嫌がるんじゃないかな」
「なんだい?開、あんた山沢さん苦手かい?」
「いやそうじゃないけど…見た目がホモ?」
律が大笑いしてお母さんが考え込んで一旦この話は流れてほっとしたわ。
夜、戸締りをして寝る支度をすませて居間に行くとお母さんが繕い物をしていた。
「明日山沢さんの家に行ってて何かつまめるものを用意してあげたらどうだい?」
「どうせだから洗濯とお掃除もしてあげたほうがいいかしら?」
「そうだねえ、手が回らないだろうから。してあげるといい」
「じゃ、律が出たらうちのことをして、それから」
「ああ、うちのことはあたしがするからいいよ、行っといで。洗濯があるだろ」
「いいの?」
「洗濯物を取り入れて畳むまでやってあげないと取り入れる気力もないとは思うけどね」
「あら、そうねえ。帰るの遅くなっちゃうわ」
「構わないからちゃんとやっといで」

翌朝、律を送り出してすぐに電車を乗り継いで山沢さんのおうちへ。
鍵を開けて中に入ると凄く乱雑に散らかっている。
足の踏み場もないわねぇ。と溜息をついてとりあえず洗濯物を拾って、
まずはシーツを洗って、これはすぐに乾くから脱ぎ散らかっているものを洗濯機へ。
シーツを干して、床に落ちている広告や新聞をかため、郵便物はまとめて。
開封はしてあげたほうがいいのかしら。
このガスのハガキは多分引き落とし出来なかったときのよね。
躊躇ってそれだけ開く。今日までの期限で5千円ちょっと。
これだけ払ってきてあげたほうがいいわよね。
きっと見る暇もなかったんでしょうけど…律も一人暮らしさせたらこうなるのかしら。
お買物のときに一緒に払い込みすることにして、まずはお掃除しましょう。
天井に近いところから。あら、はたきはあるのかしら?
あるとしたら掃除機のある納戸よね。
あったけどこの部屋…変なものも一杯あるのよねえ。
鞭、とか。蝋燭、とか。
いつか使われちゃったりするのかしら。
お尻も、っていつか言ってたわね。
ぞくっとして、少しドキドキとして。
慌ててお部屋から出てお掃除にかかる。
まずは窓や玄関を開け放して。
天井に近いところから叩きをかけて埃を落とす。
たんすの上やテレビなどのものの上の埃を落として行き、拭き掃除。
掃除機をかけていると洗濯機が鳴り響く。
表のシーツも乾いたので取り込んで、残りの洗濯物を干して。
寝室のお掃除もしているとエッチな本やビデオが。
こんなの見てるのねえ。
パラっとページが開いた。
やだわ、こんなこと……したいのかしら?
でも、こういう格好。私山沢さんに見せてるのよね…恥ずかしいわ。
Prrrrrrrr.... Prrrrrrrrr...
電話の音にはっとして慌てて仕舞って掃除を続ける。
やだわ、こんな。
欲情するなんて恥ずかしい。
掃除をしているうちにいつしか醒めたけれど。
納戸のお掃除はどうしようかしら…。
もうそろそろ夕方だから。ご飯の支度をしてから考えようかしら。
とりあえずお買物行かなきゃね。
ガスの払込書を持って、お買物に出る。
前に一緒にお買物に行ったから大体のお店はわかるんだけど。
何を作ろうかしら。
コンビニに入って払い込みするついでに山沢さんの好きな銘柄のコーヒーを買って。
椎茸のカナッペ作ろうかしら。
後はお野菜の肉巻きもいいわね。
おにぎりと。
ピラフのおにぎりも美味しいわよね
八百屋さんとお肉屋さんによってあれこれお買物をして。
おうちへ戻って調理するともうそろそろ帰らなきゃいけない時間になった。
洗濯物を取り込み畳んで仕舞って、ご飯が冷蔵庫にあると書置きをして。
缶コーヒーを文鎮にして帰ることに。

「ただいまあ」
「あぁお帰り。山沢さんからお歳暮届いてるよ」
「中は何だったの?」
「お肉。今日はすき焼きにするから律に早く帰ってきなさいって電話しといたよ」
「あらいいわねえ」
お台所に行ってお肉を見ると沢山入っていて、
ステーキ用、しゃぶしゃぶ用、すき焼き用、焼肉用と分けられている。
「あらお母さん、松坂牛A5って高いんじゃないの?」
「多分すっごく高いお肉だよ。山沢さん、ほんとあんたのこと…。だねえ」
「お母さんたら。でも嬉しいわね」
「ただいまー。早く帰って来いってなんだったの?」
「おかえり。山沢さんが松坂牛送ってくれたのよ~。きっとおいしいわよ~」
「へー松坂牛って高いんじゃないの?」
「そうよ、そのお肉を色々送ってくれたのよ」
「…山沢さんって魚屋だよね。なんで肉?」
「あら?何でかしらね。手を洗ってらっしゃいよ。もう用意できてるわよ」
「ん、お父さん呼んでくるよ」
食卓にお鍋も出してすき焼きを皆でいただく。
「柔らかいねえ、これなら胃もたれもしないし美味しいねえ」
「山沢さんとステーキこの間食べたけど柔らかかったわよ」
「お母さん、いつもそういうところで山沢さんと食べてるの?」
「うーん、そうねえ、私は作るって言うのよ、だけどねえ」
「そりゃあんた、いつも作ってる人となら食べに連れて行く方が良いもんだよ」
「そうなの?」
「主婦が旅行好きなのは上げ膳据え膳だからだよ」
「律も結婚したらお嫁さんにそうしてあげなきゃ駄目よ?」
お父さんにご飯のおかわりを注ぎながらすき焼きを食べて。
「さすがにもうお腹一杯」
「でもおばあちゃんいつもより沢山食べてたね」
「そうだねえ」
お父さんもご馳走様をして、律もお箸を置いた。
台所で後始末をして、居間に戻るとお母さんが山沢さんち、どうだった?と聞いた。
「もう足の踏み場もないくらいだったわよ、結構疲れたわ」
「えぇ?うちだと後始末きちんとしているのにねえ。よっぽど仕事が大変なのかねえ」
「未開封の郵便物も沢山あったわよ。今日が期限のガスの払込書とか」
「それはどうしたんだい?」
「預かってるお金もまだあるし払ってきたわよ。止められたら可哀想じゃない?」
「まあねえ」
少し話して、お風呂に入って寝る。
翌朝、朝御飯を食べてから大掃除にかかる。
お母さんが窓を全開にしてレシートを飛ばしたり、
古いアルバムを見つけたり。
そんな日々を送り日曜日。
お昼をとっているとテレビで年末の築地が放送されているのをみる。
「あら?これ山沢さんじゃないかしら」
「え?あらほんとだねえ」
「どこ?」
「ほら、ここ」
「あーほんとだ。なんか投げつけてない?」
「他の人と投げ合いしてるわね。氷かしらね?」
「元気そうだね」
「良かったわ。あらもう切り替わっちゃったわね」
後でメールに見たこと書こうかしら。
ご飯を食べた後、お掃除の続きをしていると子宮・乳がん検診のおしらせを見つけた。
そういえば行った事ないわねえ。
山沢さんはどうかしら、行ったことあるのかしら。
よく読んでみると乳がんは40歳から。
来たときに聞いてみようかしらね。
おかあさんがそれをみた。
「山沢さんは中央区だから無料にならないんじゃないかねえ?」
「あらそう?年明けに保健所に聞いてみましょうか。
 きっと一人じゃ行きにくいでしょうし」
「女装させないと駄目じゃないかい?」
「やだ、お母さんったら。女装って。多分凄く嫌がるわよ?」
「面白いじゃないの、それも」
「そういえば今年も環姉さんは帰ってこないのかしらね」
「仕事みたいだねえ、あの子は。いい加減結婚すればいいのに」
「あら、雪」
「寒いと思ったら降ってきたねえ」
「先週も雪だったわねえ」
ぼんやりと雪を眺めているとお母さんに毛布について聞かれた。
「あ、そうね、山沢さんのお部屋に要るわね」
「ん?お正月はしないのかい?」
「お母さん!皆居るんだからできるわけないでしょ」
「それもそうだけどちょっと可哀想だねえ、山沢さん」
お母さんは最近山沢さんとのことをからかったりする。
最初の頃は見られて叱られてたのに。
「開兄さんは知ってるからいいけど…律に見られたらどうするのよ」
「まあねえ」
「山沢さんが三が日は我慢するって言ってくれたの」
「それじゃ明けは山沢さんち泊まってきなさい。その方がいいよ」
「ん…そうね、そうするわ」
お母さんが私の携帯をちょっと触って、この状態でメールを打って送りなさいという。
ぽちぽちと本文を入れて送るといつもより少し時間がかかった。
なんだったのかしら。
「クリスマス、残念だったね」
「仕方ないわよ。お仕事だもの」
「ディナーショーの券が回ってきたら誘いたいって言ってたけどね」
「あらー、残念ねえ、それは」
文箱から古いものを纏めて、不要なものを除けて。
もう一度不要なものに目を通して、捨てて行く。
山沢さんからの去年の年賀状が出てきた。
印刷。両面ともにパソコンかしらね。
文面も今見ると苦労の跡が伺える。
翌日、大掃除もほぼ終わり御節に入れるものなどをお買物に。
律に車を出させてあれやこれやと買い、ふと。
こういうの山沢さん好きかしら、なんて思ってしまう。
毎年なら買わないものも少し買って帰宅。
「…お母さん、何でそんなの買うの?」
「んー、お正月山沢さん来るのよね。こういうのあの人好きだから」
「あ、山沢さん、くるんだ?」
「多分大晦日のお昼頃に来るんじゃないかしらね。
 来たらすぐに寝かさないと駄目でしょうけど」
「なんで?」
「4時間睡眠なんですってよ。月曜から30日まで」
「へー、大変なんだ?」
「あんたも就職考えないとねえ」
「ははは…」
薮蛇、そんな顔している息子に頼りなさを少し感じて、まだまだ頑張らなきゃと思う。
来年も生徒さんが増えるといいわねえ。
きっと山沢さんも手伝ってくれるでしょうし…。
別れなければ、の話だけど。
あの人だって他に好きな人が出来るかもしれないわよねえ…。
そうなったらどうしよう…。
「どうしたの、お母さん急に」
「なんでもないわよ。さ、帰りましょ」
律の運転する車に乗って、ぼんやりと考えてしまう。
今はいいけれどいつか、私が年を取ったらしてくれなくなるわよね。
若い子とするようになって私から離れていくかも。
やっぱり兄さんと結婚…山沢さんと兄さんがえっちなことするなんて…いや。
「お母さん?ついたよ?」
「あら?ごめんね、ぼーっとしてたわ」
「おばあちゃん、ただいま、これどこ置いたらいい?」
律と一緒に食材を降ろして片付けるものは片付けた。
下ごしらえをお母さんとする。
「じゃバイト行って来るから」
「はいはい、気をつけて行ってらっしゃい」
友達と旅行に行きたい。そう言ってたわね。
お母さんと二人で台所仕事をする。
「ねえお母さん…」
「なんだい?」
「あと10年もしたらきっと山沢さん、離れていくわよね…」
「うん?」
「だってもっと若くて綺麗な子沢山居るでしょうし…」
「あー…多分山沢さんは大丈夫だと思うけどねえ。絹が私の年になっても一緒だろ」
「そうかしら?」
「大晦日にでも聞けばいいじゃないか、きっとそう言うよ、あの子」
「うん…」
「なんなら養子にしたらいいじゃないか」
「え?」
「この間ね、ガーデニングの集まりでそんな話を聞いたんだよ。
 同性愛者は結婚できないから養子縁組をするんだそうだよ」
「うーん。同性愛者って言われると…なんかいやねえ」
「いざとなればの話だからね」
そんな話をしながら御節の準備をして、29,30日と日を過ごす。
黒豆もつやつやに出来たし、きんとんもいい感じね。
夫に食べられないようにして、夫が食べていいものを出しておく。
長く暮らす間にそれくらいはするようになった。
普段は食べられたら作ればいいわよ、と思っているけれど。
最近お風呂に入っているときや寝るときに山沢さんを思い出してしまう。
あの人はうちに来ると優しくて、あの人のおうちだと激しくて。
うちだとちゃんと声が他の部屋に聞こえないように気を使ってくれる。
朝、山沢さんの腕は私の噛んだ跡で腫れている。
いつも私の限界を見てやめてくれる。
物足りないって思ってるのはわかるわ。
だから。
あの人のおうちでするときは泣いてもやめてくれない。
次の日立てないほどされて。
たまに激しいだけじゃなく酷いことをされる。
私がしたことへの報復に。
でも痛いことはされたことがなくて。
体は気持ちと裏腹に喜んでしまう。
女っていやね。
あの人は怖がらせるのが好きなのに怖がられると悲しそうにする。
だから、つい受け入れてしまうのよね。
優しくしてって言うとしてくれるし。
本当は激しくしたがってるのわかってるんだけど。
私、激しいのはあまり好きじゃないのよね…。
以前はうちでも酷いことをされてたけど。お尻に入れられたり。
あんなところで気持ちよくなったなんて言えないわ…。
あの人だけが知っているけれど。
裸で抱き合っていると山沢さんもやはり女の子で、胸もあって。
でも私より筋肉質で。
いつも泣かされるから山沢さんを泣かせたくなっちゃって。
でも手を出すと後が怖いのよね。
気持ちよくなるのがいやなのかしら。
それとも弱みを握られたと思っちゃうのかしら。
よくわからないけれど。
私よりほんの少し背が高いけれどキスをするときは少し上を向けば出来て。
お稽古前にわざとしてみたり。
だって山沢さんはお稽古のときはえっちなこと絶対してこないから。
困ってる顔が可愛くてついしちゃうのよねー。
結構律儀で旅行のときもご飯の前とか時間が決まってるときはしなかったわ。
うちでも夜、私が部屋に行くまで待っていてくれる。
だけどお昼間、抱きつかれるのも嫌いじゃないわ。
見られる心配がなければだけど。
いい着物を着てるとき、絶対触れてくれないのよね。
普段の、木綿の着物だと不意に引き込んでキスしたりするくせに。
脱がせて、と言っても手を洗ってからしか脱がせてくれない。
前に怒ったからかしら。
あら?そういえば山沢さん、月の物はいつなのかしら。
スパッツを穿いてるときがあるけれどそれがそうだったのかしら。
それとも妙にいらいらしてるとき?
激しいとき?
今度機会があれば聞いてみましょ。

今年の御節はいつもより一段増えて、山沢さんの希望に応じて色々入れる予定に。
たたきごぼうとか、なます・田作りを多めにとか、味噌漬け、焼鰤、等々。
お味噌とお餅は持ってくるって言ってたけど。
こちらのお雑煮だとお正月気分になれないって言ってたわねぇ。
すこしお相伴させてもらおうかしらね。
そういえばところてんをおかずに出したら手をつけてもらえなかったわね。
食文化が色々と違うみたいだからうちに入ってもらったら大変かしら。
うーん、自分で作ってもらえばいいわよね。
そうそう、年越しのおそばは山沢さんの分もいるわよね。
天麩羅でよかったかしら。メールしてみましょ。
すぐにメールが帰ってきて、天麩羅はいらなくて鰊を持っていくからと書いてある。
ああ、そういえばあちらはにしんそばなのね。
メールって便利ねえ。お仕事中でも気にしなくて良くて。
山沢さんはメールで愚痴を書いてこなくて、私の愚痴に対して励ましてくれる。
もっと甘えてくれてもいいのに。
お母さんにそういったら、ちゃんと山沢さんは甘えてるだろ、と言われた。
そうは見えないわ…。

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169

クゥ、と先生のお腹がなった。
なんだそろそろ晩飯の時間じゃないか。
何が食べたい?と聞くとパエリアという。
ああ、あれかあそこのか。
ちょっと待ってて、とチラシを探す。
あったあった。
「どれにします?」
「んー、これがいいわ、これにしましょうよ」
電話で注文して届くまでの間に服を着る。
先生はまだ立てないそうなのでメシが来てから。
財布等用意して、先生の横に座る。
キス。
胸をまさぐり少し煽る。
「またするの?」
「ええ、20分はかかりますからね」
乳首を噛み、股間の感触を楽しむ。
喘ぎ声が気持ちいい。
「この格好で取りに出てもらおうかな、出前」
「やだ、だめ、よして」
中に入れてる指が締め付けられる。
ぎゅうぎゅう締め付けて喘ぐ。やっぱりそういうこと言われるのすきなんじゃないか?
チャイムが鳴ると同時に逝った。
慌てて指を引き抜き、取りに出る。
意外と早かったな。
受け取って食卓にひろげてから手を洗い、先生を連れに寝室へ入った。
あ、少し怒ってる。
私の懐に手を入れて爪を立てて乳をつかまれた。
いててて。
「怒ってる顔も好きだな…」
というとさっと顔に朱が走り横を向かれてしまった。
「さ、食べましょう、立てますか?」
首を横に振る。
浴衣を纏わせ抱えあげて食卓に着かせた。
Mサイズとサラダ、付け合せにいくつかを頼んだ。
パエリア取る時はお玉レンゲを使うとそれなりに取りよい。
食べているときの先生も好きで、ついついにっこりしてしまう。
あと纏わせているだけだから乳や太腿が動作のたびにちらちらして扇情的だ。
気づいたようで胸元の合わせを直し、裾を直されてしまった。
「ね、あんまり見ないで。食べられなくなっちゃうわよ」
可愛い。
「テレビ、つけましょうか?」
気を紛らわせねば更に襲ってしまいそうだ。
テレビを見つつ。
「そういえば家元初釜式、ニュースでやってましたか?」
「ええ、してたわよ。初日は政財界でしょ」
「二日目はお茶の先生方でしたよ」
「あら、どうして知ってるの?」
「資料館に立ち寄ったものですから。向かわれる方々を見れば教授ばかりで」
「何か面白い展示あったの?」
「酒器ですね、でも一人で見ても面白くなかった。あなたと行きたいな」
「じゃあ…今度行きましょ…」
「京都展示巡りの旅、行きたいですね」
2泊か3泊か。
暇な時期に有給でもいいな。
「お稽古は八重子先生に少しお願いして」
「怒られるかしら」
「展覧会メインなら怒られないでしょう、きっと」
「楽しみだわ…楽は行きたいわねえ」
「ああ、楽はいいですね。大西はどうです?」
「見たら欲しくなっちゃうじゃない」
「さすがにいい釜はポンとは買えませんしねえ」
食事が済み、後始末をして手を洗い歯を磨く。
結構脂っこいな。
手を貸して、と言うので先生の腰を支えて洗わせた。

拍手[1回]

168

先生の首筋を舐める。
びくっとして我慢している。
耳たぶを舐めると声が乱れた。
腕をつねられる。
乳首を舐めるとゴンッと頭をグーで叩かれた。
ああ目が笑ってない。
これは怒られるな。
電話が終ってがっちり頭をホールドされた。
「しないでっていったでしょう。なんでするの!」
「うーあなたが可愛いから」
「電話中はやめてっていってるでしょ」
怒っているその口にキスをする。
かり、と舌を噛まれて。
頭を掴む手が緩んだ。
そのまま暫く舌を絡める。
口中を犯すかのように激しく、また、ソフトクリームを舐めるかのように優しく。
唇を離せば怒る気力は途切れたようだ。
「すぐにこうしてごまかすんだから…」
「キス、好きですよね、先生」
「ばか」
「もう一回したいな」
そういってあそこをまさぐる。
たっぷりと濡れていて嬉しくなった。
すぐに気持ち良さそうな顔。
強く抱きしめながら逝かせる。
暴れそうな体を私に押し付けて切羽詰った声を出した。
私に玩具にされている気がする…以前そういってた。
力の差もあるだろう。
いくらこの人が暴れても私には押さえ込める。
沢山玩んでいたぶって暴れても泣いて懇願されてもやめないことも出来る。
それを知ってるからそう思うのかもしれない。
きっちり中で逝かせて己を落ち着かせた。
背中を撫でて、なだめて。
先生が落ち着くまで。

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167

抱いて落ち着いて。
「初釜、どうでした」
「良かったわよ…来年はあなたも一緒に行けるといいわね」
「いいんですか?」
「弟子を連れて行くのも先生の勤めよ」
「ぜひお願いします」
「来週、うちの初釜のアシストちゃんとしてね。いつものようにでいいから」
「はい」
「お弁当がねぇ三友居さんのでおいしかったのよ」
「ああ、あそこですか。花びらもちはどこのものでしたか?」
「とらやさんだったわ」
「それは残念、あそこはごぼう1本でしょう?」
「普通一本よ?」
「川端道喜は2本です。まぁ絶対食べにくいですが」
「あら?そうなの?食べたことあるの?」
「一度だけですけど頂きました。まったく持って自分では手に入りませんね。
 面白いのは松屋常盤かな。一度お持ちしましょう。面白いから」
「お正月過ぎたけど大丈夫なのかしら」
「数言えば大丈夫だと思います。多ければ他のお弟子さんにどうぞ」
松風も一緒に頼もう。松風好きなんだ。
ゆっくりと先生の肌を撫でつつ、色々お話をする。
そのうち、先生がもじもじしてきた。
こりっと乳首をつまむといい声。
くにくにと弄って楽しむ。
先生が俺の手をそっと下に導いた。
ああ、よく濡れてる。
また指を入れて中を楽しむと、先生も気持ち良さそうだ。
「久さん」
「はい」
「久さん久さん久さん、好き。好きよ」
ああ、ゾクゾクする。
う、久々に脳内で逝った。
賢者タイム。
自分自身、かなり濡れているのを自覚しつつ、先生を逝かせようとする。
背中を引っかかれてるな。
ちょっと痛い。
先生の言葉にならない喘ぎを聞いて楽しくて仕方がない。
ひときわ大きい声、痙攣。力が入って、そして脱力。
荒い息、いいね。
そのままキスする。
まだ指を抜いてはいない。
少し中でうごめかせる。
キスしているのに呻くのが愛しい。
押しのけたいやらしがみつきたいやら。
口を離して乳首を噛むとまた逝ってしまったようだ。
可愛くて、ニヤニヤしてたら押しのけられた。
え、と思う間もなく慌ててトイレへ。
ああ、コーヒー飲ませたんだっけ。
なんだか笑えてきてしまって、戻ってきた先生に叱られた。
「舐めてあげましょうか」
その一言で顔を赤らめて胸を叩かれる。
「可愛いな、本当に可愛い。ずっと抱いていたくなる」
「今日はもうだめ…疲れちゃったわ」
「はいはい、しょうがありませんね。どうします?泊まるか帰るか」
「うーんお稽古もないし。泊まっちゃおうかしら。いい?」
「じゃ八重子先生に電話しないと。晩御飯とか用意されてるかも」
「あ、そうね。ねえ、手を離してくれない?」
「ここに電話子機ありますよ。どうぞ」
懐に抱いたままかけさせようとする。
「…電話中に触ったりとかしないで頂戴ね、お願いよ」
ばれてた。
おとなしく先生が電話するのを聴いていることにする。
八重子先生の話し声もほんの少し聞こえる。

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