「暴れられたことあるの?」
「ええ、小学校の頃に」
あぶなく薮蛇のところだった。
時計が鳴る。
「あ、もうこんな時間だ。
友達と出てくるから今日は遅くなるよ。僕の分のご飯は要らないから」
「はいはい、気をつけて行ってらっしゃい」
律君が外出し八重子先生が後ろを向いた隙に絹先生にキス。
赤面する先生、可愛い。
それを見た八重子先生に額を叩かれる。バレた。
「ほんとあんたお稽古のときとは別人だねえ」
「そうですか?」
「堅物の優しげな、と思ってたからねえ」
「すいません、実際はこんなんです」
「意外と怖いわよね」
「山沢さんの怖いのなんて想像できないけどねえ」
「だって八重子先生、私が怒るようなことされませんし」
「私にだけ酷いの?」
「会社で本気で怒れば手が出ますからね」
「うそ…」
「最近はほぼしてませんが…」
「山沢さんのその手で殴られたら痛いだろうねえ。絹が女だから殴らない?」
「好きな人を殴る趣味も持ち合わせておりません」
あ、また頬染めてる。
怒ってるかと思えば照れたりと。可愛いなあ、うん。
「あら?前に叩きたいとか言ってなかったかしら」
「なんでそれ今思い出すんですか…」
「どういうことだい」
「あーえーと…私ちょっとS入ってるので、そっちです…」
「ああ、鞭とか?TVでやってるような?」
「端的に言うとそれですが、まあそのー傷つけるのは別に趣味じゃないんで
お仕置きするようなことがあればーみたいな…」
「ああそれじゃいつか叩かれるんだろうねえ」
「いやいや、できればやらないでやってとか言うところじゃないんですか、そこは」
「まあ山沢さんのことだから。
うちのことやらお稽古に差しさわりがあるようにはしないだろ」
「お母さん、もうっ。なんで怒らせるの前提なのよ」
「これまで何度も怒らせてるじゃないの、あんた」
「それは…そうだけど…」
八重子先生に頭を撫でられた、と思ったら掴まれて上向かされた。
「でも山沢さんちょっとMなところもあるよねえ」
「え…」
「あるわよねえ」
「いやまあ、ありますけどね…」
だからって髪をつかまないで欲しいなあ。
というと頬をつかまれた。
「いや、ですから掴まんで下さいよ…」
絹先生もくすくす笑っている。
ったく。
「さてと。あんたそろそろ帰る時間だろ?」
ああ、もうそんな時間か。
「ええ、ですが明日も仕事かと思うとげんなりしますね…」
「来週一杯は絹に会えるんだから頑張りな、それとも絹をつれて帰るかい?」
「いやそれはさすがに結構ですから」
それでは、と帰ることにした。