なにか心さびしい。
ふと思いついて、台所へ。
私用の茶を出し湯を沸かして茶室から楽茶碗を持ち出し茶を練る。
飛び切り濃い茶をたっぷりと。
コトと音がした。調理台に茶碗を置いて振り返ると先生が起きてきていた。
「寝なくていいんですか?」
「なに飲んでるの?」
「お濃茶。飲みたくなって」
ん…ディープキスされた。寝ぼけ半分か?
「苦い…」
「当たり前でしょう…私のは安物のなんですから」
「おいしいの点ててあげるわ。それ、捨てなさいよ」
シンクで濯いで拭いた茶碗に先生の特級の茶が勢いよく入る。
勿体無い、なんて貧乏性だが思ってしまった。
特に飲むのが俺だから。
抹茶も勿体無いが、先生に点ていただくのも勿体無いことだ。
ありがたく、といただく。
甘い。気が休まる。
先生も一口、と言うのでお渡しする。
あまり飲むと寝られなくなるぞ。
先生の唇に抹茶が残っているのを舐めた。
茶碗に少しお湯を足して薄茶にしてもう一度いただいて。
後始末をしていると八重子先生がお水を、と出てきた。
苦笑して湯を少しの水で埋めてお渡しした。冬の水では体が冷える。
「あんたらこんな時間に濃茶なんか飲んだら寝られなくなるよ」
「なぜ濃茶と」
「口」
絹先生がこちらを見る。
「あらほんと、まだ口についてるわね」
指で拭うと確かに残っていた。
「取れました?」
「もうちょっと残ってるわ」
と先生の指が私の唇に。
その指を舐めたい!
と思いつつも流石に八重子先生の見ている前では出来なくて。
各々部屋に立ち返る。
そのまま先生が私の部屋についてきた。
今日はしちゃいけないのに。どうしてだ。
布団に入れ、懐に抱いて、我慢して。
暫くすると心地よさげな寝息。
…先生もさびしかったのだろうか。
まさかただの酔っ払い。
それだと明日になったらなんでここにいるのーって言われそうだな。
まぁなんでもいいか、先生がこうして俺の懐にいて、暖かくて。
幸せなのは事実なんだから。
風呂上りでも体臭はあるもので、先生の匂いは俺にとって甘く感じる。
先生の布団で寝るのも先生にくっついてる気分がして、それもまた良い。
しかし。しかしだ。
こう、ずっと我慢してきているのに触れて抱きしめて。
それ以上は禁止と言うのは中々に苦しいぞ。
思わないでもないんだ。
このまま攫っていって隠棲して、ずっと抱いて暮らす。
だけどこの人は絶対家を選ぶだろう。
娘であり、妻であり、母だから。
それにきっと。
私の性癖に我慢できなくなって、別れたいといわれるだろう。
うちに泊めてるときのようなのが毎日では体も心も辛かろうと思う。
だから。定年後かな。同居できるのなら。
私の欲も少しは枯れて、この人も少しは慣れて。
でもその頃には激しくしたら先生の息が切れちゃうな。
激しくなく、体力がなくても楽しめるような何かを二人で探せたら良い。
甘い匂いに耐え切れず、首筋を舐める。
「ん……」
起きたか? いや、寝息。
顔を先生の首筋に押し付けて、寝る。
いい匂いだ。
三が日すぎたら、と約束している。我慢しよう。