食卓に配膳する。
鯛のお造り、昆布〆、霜皮。
ほうれん草の白和え。
後は煮物2種。
鯛の一部はカルパッチョ風になっていた。
水菜と玉葱が敷いてある。
涼しげで良いなあ。
「あ、お肉炒めるの忘れた」
「いいですよ、鯛食べますし」
「足りる? すぐ出来るわよ?」
「足らなきゃ自分でやりますから食べましょう、腹減りました」
「はいはい、じゃ呼んで来てくれる?」
「イエッサー」
二人を呼んで食卓に着く。
いただきます、と食べはじめた。
うん、おいしい。
先生が白和えのお皿からざっくり取り、俺に渡してきた。
野菜もっと食えということだ。
「あれ? おばあちゃん、今日は山沢さんに肉ないの?」
「忘れちゃってねえ、鯛をいろいろしてたら」
立ち上がろうとされる。
「鯛は食べれるから別に良いんですよ、たまになら」
「そうかい?」
煮物がうまい。
「あ、そうそう」
先生がお箸をおいて台所へ。
パタパタと言って戻ってきたと思えば俺に小鉢を。
「はい、これも食べなさい」
胡瓜の酢の物か。
わかめは嫌いと言ったし茗荷も嫌いと言ったし、生姜も嫌と言ってるのに全部入ってる。
少し悲しくなって目を見つめた。
「食べなさい」
先生の迫力に押され諦めた。
早く食べて何か次に食ってリセットしよう。
我慢して食べる。
器を辛にして次は取りあえずとカルパッチョへ。
んー、うまいなー。
すべて食べ終えてご馳走様。
「今日なんで鯛だったの?」
「おついたちですからね、やっぱり鯛かな、と思いまして」
「…山沢さんのところは一日に鯛食べるってそういえば言ってたわね」
「本当は赤飯も。でも面倒くさくて」
「ええっ」
「何日には何を食べる、とか決まりはありますよね」
「そうなの?」
「本当なら今日にしんと昆布の煮付け、なますにしたりします」
「何か意味があるの?」
「赤飯、小豆ご飯は家中・豆で暮らせるように、にしんは渋いので渋ぅこぶぅ暮らせ」
「こぶぅ?」
「形容詞、こぶいです。物惜しみとか始末、けちとか」
「一日から随分と厳しいこと言うのね」
「そうしたら鯛とか赤飯が食べられるわけですね。月末なんかおからですよ」
「それはどういう意味があって?」
「包丁使わないでしょう、切らず。炒って食べるから縁やお金が切れず入るって」
「へぇー」
「一旦覚えると献立考える手間半分くらいですから楽ですよ」
「それっていいわね」
「普段ケチっても折り目折り目節気でちゃんとしようと言う現実的な考え方です」
「あなたそういうところないわよね」
「そういう家じゃなかったものですから」
そろそろ、と律君が風呂に湯をはった。
「律が出たら一緒に入らない?」
「ん? いいですよ」
「肩凝っちゃって。辛いのよ」
「あぁ、温めながらのほうが効率良いですからね」
暫くみんなで喋って律君が入り、出てきた。
「お母さん先どうぞ。長湯するつもりだから」
「はいはい」
どっこらしょと八重子先生が立ち上がってお風呂へ行った。
居間に二人になる。
ついキスしてしまってぺちんと叩かれた。
その手を引き寄せて舐めると慌てて手を引っ込めた。
可愛いね。
じゃれているうちに八重子先生が上がってきた。
「お湯冷めないうちに入りなさいよ」
「はーい」
一緒に入り、先生の身体を洗ったり髪を洗ったり。
それからゆっくり浸かって背中を揉み解す。
気持ち良さそうだ。
「先生、随分背中が冷えてる」
「そうなのよね」
湯あたりしない程度に先生を揉み、風呂から上がる。
表情も和らいでいて綺麗だ。
「あぁ良いお湯だったわ」
俺はその足で台所へ行きアイスコーヒーを作る。
先生はお白湯。
すっきりしたところで寝間へ入った。