夢を見ることもなく朝が来て仕事へ行く。
土曜日なのに思ったほどでもない。
台風来てるからだろう。
先生から焼鯛を頼まれたので焼いてもらって帰宅、先生のお宅へ向かった。
「こんにちは。具合どうです?」
「あ、いらっしゃい。律? 熱下がったわよ」
ひょいと先生の頤に手を掛けてこちらを向かせた。
「クマ、結構酷いですね」
「ほんと? わかっちゃう?」
「今日はお稽古終ったらすぐ飯食って寝たほうが良いと思いますよ」
「あ、でもそれじゃあなた…大丈夫?」
にっと笑って水屋の支度にかかった。
お稽古も機嫌よくされていて、後は開さんさえ帰ってきてくれればと思う。
お夕飯を食べると眠くなったようで早々にお布団へ。
八重子先生と俺は暫く団欒してから片付けて戸締りなどして各自部屋へと別れた。
部屋に戻ると先生はすっかり気持ち良さそうな寝息を立てている。
着替えて横に入ると寝返りを打って俺に絡まってきた。
可愛い。
俺も疲れていたこともあり、すぐに寝た。
夜半、先生が懐の中でもぞもぞと動く。
「どうしたの」
「ぁ…その…、夢、見ちゃって」
そっと俺の手を股間に誘導する。
なるほと、そういう夢ね。
前戯的なものをすっ飛ばして直接股間を弄る。
声が出ない程度に加減して逝かせたが物足りなさそうだ。
「今からあちら、行きましょう」
「…はい」
恥ずかしそうに浴衣の上からもう一枚重ねて着、物音を立てないように移動した。
夜更けとは言うものの1時すぎ。
まだ沢山楽しめる。
部屋に入って脱がせ、ベッドに潜り込む。
少し冷めた気分をキスで煽り、たっぷり泣かせる。
眠気が来たようだ。
少し迷ったが着替えさせて抱きかかえて戻り、布団に寝かせた。
八重子先生に言ってないから、いるはずのものがいない騒ぎは困る。
幸せそうな寝息が心地よく、俺もすぐまた眠りに引き込まれた。
翌朝、寝過ごした。
目が覚めたら日が昇っている。
時計を見れば7時過ぎ、慌てて台所に行くが八重子先生も起きてないようだ。
取敢えずご飯炊かねばなるまい。
米を研いで水につけてる暇がないのでそのまま炊く。
うーん、朝御飯何作ろう。
冷蔵庫を確認…。オムレツとベーコンとサラダで良いか。
ご飯がようやく炊けて配膳した頃、皆が起きてきた。
「おはよう…お母さんは?」
「お早う、律君。まだ寝てると思うから起こしてきてくれるかな。八重子先生も」
「二人とも? 珍しいね」
「私も寝過ごしちゃったよ。孝弘さんも出来たらよろしく」
「あ、はい」
台所に戻ってスープを出すと三々五々、起き出して来た。
「おはようー」
「おはようございます」
「おはよ、寝過ごしちゃったねぇ」
「おはようございます、そんな日もありますよね」
食卓に着いていただきます。
お櫃は先生。
「ん? あら? ちょっと硬いわね」
「すいません、私も寝過ごしました。吸水させてません」
「あらあら、そうなの? 仕方ないわねぇ」
テレビを見ると明日朝方台風が来るとのこと。
「あなた大丈夫?」
「出勤する頃はまだ近畿でしょう、大丈夫ですよ、きっとね」
「あんまりだったら休みなさい」
「そうですね」
「律、あんたも今日は用事あるなら早めに済ましなさいよ」
「あ、うん」
さっさとご馳走様をして食後のコーヒー。
律君が出かける用意をしている。
ブラックスーツ? 葬式か。
先生は今日はある程度疲れも取れ、律君が帰ったことで落ち着いた様子。
ということで茶道具の入れ替えに掛かった。
夏の道具を仕舞って、秋の道具立てに。
昼を過ぎて律君が戻った。
少し雨が強くなっている。
「あ、そうそう。旅行行くの?」
「ん?」
「ほら、今度の連休」
「どうしましょうか、そっちも台風来てますし」
「…うーん。来なかったら、でどう?」
「いいですよ」
「じゃ、そうしましょ」
「来ないと良いなぁ」
「そうねえ。それよりそろそろあんた帰んなさい。雨ひどくなってきたわよ」
「あ、はい」
暗雲立ち込めている。
「先生も危なそうだと思うなら避難してくださいね」
「大丈夫でしょ」
「裏山が怖いじゃないですか」
「うーん…考えとくわ」
誰もいないのを見て軽くキス。
「昨日、あなた可愛かったよ」
「やだ、ばか。早く帰んなさい」
背中を押されてしまった。
あはは、と笑って片付けて先生のお宅を出る。
帰宅すると本格的に降り始めたようだ。
カッパの用意だけして就寝した。