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百鬼夜行抄 二次創作

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伶(蝸牛):絹の父・八重子の夫 覚:絹の兄・長男 斐:絹の姉・長女 洸:絹の兄・次男 環:絹の姉・次女 開:絹の兄・三男 律:絹の子 司:覚の子 晶:斐の子

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梅雨に入っていつもならシトシトと鬱陶しい天気のはずなのだが。
今年は暑かったりゲリラ豪雨だったり寒かったりで先生が外出を嫌がる。
たまにはデートしたいんだけどな。
天候不安定だと疲れちまうんだろう。そう納得させて日をすごす。
何か先生は屈託のある様子で心が晴れない。
言いたいことがあるなら言ってくれれば良いんだが。

そんな微妙な雰囲気に焦れたのか八重子先生が長野へ行くようにとおっしゃった。
なにやら新設の美術館ができたらしい。
しかしながら会社は休めない。
となると一泊ということになる。少し渋ってたら先生が機嫌を悪くした。
「ですけど先生が大変でしょう? 4時間くらい電車ですよ、帰りは」
「久さんのうちに泊まって次の日帰るわよ」
「なに言ってるんですか、お稽古どうするんですよ」
「う…」
「いいよ、朝くらい。もう出来るよ」
「お母さん、良いの?」
「なんだったら律に手伝わせるよ、行っといで」
本当に甘いんだから。病み上がりなのに。
と、苦笑いしていると先生に足をつねられた。
「嬉しくないの? 嫌なの?」
「嫌じゃありませんよ」
「もうっ」
あ、席立って行っちゃった。
参ったな。
「取り合えずまぁ来週の火曜にでも、と思いますが」
最近火曜は人が少ないのでお稽古日ではない。
「そうだね、それでいいよ」
「その美術館どういうところなんですか?」
「よく知らないんだけどね…」
と話してくれた。
なんでも以前から上村松園やルノワールなどの絵画がメインの美術館の分館らしい。
そして今回開館に当たって屏風展をしているとか。
屏風かぁ…。
2時間半もかけてみるべきものが屏風。
「あ。戸隠ですよね、ここ。戸隠神社近いんじゃないですか?」
「どうだったかねえ」
さっと地図を調べる。近い。行き道だ。善光寺もあるが。
「先生ー! ちょっと来てください」
暫くしてどうしたの、と戻ってきた。
「善光寺も行きません?」
「近いの?」
「長野駅からすぐだということに気づきました。当日中にいけます」
「それだったら」
「美術館は戸隠なんで、戸隠神社も行きましょう。宿は長野駅近くで取りましょうか」
「近くにないの?」
「ほとんど宿坊なんですよね」
「だったらええ、それでいいわ」
調べる調べる。
あ。JR系列ホテルあるじゃないか。
平日だから予約は簡単に取れた。
「当日に宿に荷物を置いたら善光寺に行きます。で、翌日戸隠行きましょう」
「そうね」
決まった決まった。
先生がうきうきしている。
八重子先生も微笑んでいる。
後は俺の段取り次第だな。如何に仕事を早く終えるか。
ん? 焦げ臭い。
「先生、魚焼いてます?」
「あっいけないっ!」
あわてて台所へ。追いかけるとセーフの合図。
良かった良かった。
「あ、小芋洗ってくれる?」
「はいはい」
料理の支度を手伝ってるうちに律君も帰ってきた。
「ただいまー。あーおなかすいた」
「もうちょっとでできるわよ。そうそう。お母さん、来週火曜から木曜まで旅行だから」
「どこ行くの」
「長野よ。だからあんたおばあちゃんの事頼むわよ」
「うん、わかったよ」
夕飯を食べて風呂に入り、先生と旅行の話をつめる。
「山沢さんと行くんだ?」
「そう、善光寺と戸隠神社と、美術館。冬ならスキーなんだけどね」
「滑れないくせに」
ほほほ、と笑っている。
「雨降らないと良いな」
「そうねえ、週間天気予報はどうなの?」
「一応予定はないようだけど…雨具はもって行きましょう」
「山は天気が代わりやすいって言うものねぇ」
「レンタカーで移動ですし多目に積んでも問題ないですから」
なに着て行こう、と楽しそうにしている先生を律君は微妙な顔して見ている。
ちょっと位は気づいているのかもしれないな。
ふぁぁ、とあくびが出た。
「もう眠いの? 寝る?」
「そうですね、先布団入ってきていいですか」
「私もそれじゃ寝ようかしら」
「んじゃあ律君、悪いけど火の始末と戸締り頼むよ」
「はーい、おやすみなさい」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
先生の寝る支度を尻目に布団を敷き、もぐりこむ。
うー、眠い。
すぐに先生も俺の懐へ。
夜はまだひんやりしているから丁度良い。
もう少ししたらきっと暑くて蹴っ飛ばされるな。
去年はそうだった。
「おやすみなさい」
先生が俺の髪をなぶっている。
「おやすみ」
すぐに寝入ってしまった。

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