俺も幸せだ。
さてと。晩御飯何にしようかねえ。
出前出前、鮨かピザか中華か仕出しか。
どうします?と聞くと鮨になった。
一番手軽だからなぁ、と思ってると以前取ったところのが美味かったらしい。
そりゃそうだ、いいもん使ってるからな。
電話をかけてお勧めで握ってもらおう。
注文していると先生がそろりそろりと壁を伝って出てきた。
手早く電話を済ませて肩を貸す。
「大丈夫、ちょっと歩けるようになってきたわよ。まだ痛いけど」
「そりゃよかった。今日はどうします?このまま泊まって行かれますか?」
「う~ん、お母さんに一度電話してみるわ。律が帰る時間までには帰ってないと」
「ああ、そうか、律君は旅行でしたね」
トイレに連れて行って待っていると鮨が来た。
「わっ先生ちょっと待っててくださいね、出ちゃだめですよ!」
受け取って支払って出て行ったのを確認してから、出ていいですよと声をかけた。
「どうしようかと思ったわ~」
「裸のまま出て来るからですよ」
ひょいと抱き上げて食卓までつれて出る。
「自分で歩くのに…」
「裸でうろうろされたら食べたくなるからいけません(笑)」
「もう。すぐそんなこと言うんだから」
寝巻を持ってきて羽織らせて。
玄関に置き去りにした鮨桶を取って出す。
今日はお勧めは何かなあ…天然のぶりとカンパチか。
おいしいおいしいと食べてもらって、食べてるの見て楽しくなって。
ごちそうさまをして、先生のお宅に電話する。
「こんばんは、山沢です。すいません」
『ああ、仲直りできたみたいだね、その声だと』
「はいなんとか。それでですね、律君明日何時ごろお帰りですか?
出来たらもう一日絹先生お泊めしたいんですけど。
その、律君が帰るまでに家にいないとおかしいでしょうし…」
『あんたねえ…あんまりしすぎるんじゃないよ。ちょっと待ってな。
(孝弘さん、律は何時に帰ってくるって言ってたかねえ?ああそう?)
明日の夕方だってさ。泊めてやったらいいよ』
「ありがとうございます。じゃ、明日昼過ぎくらいにお帰しするつもりです」
『はいはい』
電話を切る。
「泊まっていいそうですよ」
「そう?律は何時に帰るって?」
「夕方だと孝弘さんが言ってらっしゃいましたよ」
「…お父さん、電話の近くにいたの?」
「ええ。そのようで。ご飯時だからじゃないですかね」
そうと決まればやっぱりベッドだ。
軽々と抱きかかえてベッドにダイブ!ひゃっほー!
パシッと額を叩かれた。
「なぁんで叩くんですか」
「食べてすぐまたするなんて駄目よ」
「じゃあしないからくっついていましょうよ、ね?だめですか?」
「仕方ないわねえ」
ベッドの中で寝巻を脱がし、肌を合わせて。
「ねえ山沢さん? あなたお稽古のときとか、ちゃんと先生として扱ってくれる?」
「勿論じゃないですか。けじめ大事ですよね」
「他のお弟子さんいるときとかも」
「当然ですよ。余人が居るときは一介の弟子、控えさせていただきます」
「ならいいんだけど…」
「先生が独身で俺が男なら、恋人なのでとか結婚するのでとか言いたいですけどね」
「………本当?言ってくれるの?」
「言いたいですねえ」
「嬉しいわ。でも言っちゃ駄目よ?」
「はい。わかってますよ」