あるお稽古の日、飯島先生が山沢さんに強く叱った。
山沢さんは怒ったようで先生をにらんでいて室温が下がったような気がした。
こわい…。
なのに先生は顔を洗ってきなさい、と更に強く畳みかけた。
「失礼しました」
ふっと空気が変わり山沢さんが出て行く。
みんなで息をついた。
「先生、怖くないんですか?」
「言うべきことは言わなきゃだめなのよ。怒るのは修行が足りないの」
にこっとしておっしゃる。
先生は強いなぁ。
見習いたいな。
生徒さんたちが帰った。
そっと台所を覗くとふてくされた顔をして久さんがご飯を作っている。
「ねぇ…さっきはごめんなさい。怒ってるわよね」
「いや、いい」
ぴりぴりとした気配に怯えつつ背中に触れてみた。
「お稽古のときは俺はあんたに従います。でも腹が立つのは仕方ないだろ」
ぶっきらぼうにそう言いつつ、振り払わないでいてくれる。
「ごめんね」
「そろそろ孝弘さん呼んでください。もうできますよ」
少し気配が柔らかくなってほっとした。