翌朝、今日は一日雨かーとブルーになりつつ、出勤した。
さすが雨、客の買う気のなさよ。
やる気が出ないなぁと思いつつ仕事をこなす。
ちゃんとしないと土曜日させてくれなくなりそうだからな。
帰宅して先生のお宅へ。
「こんにちは、雨ですねえ」
「はい、いらっしゃい」
玄関先で雨コートを脱いで掛け、居間へ行く。
窓も湿気で曇っている。
ぽつぽつと生徒さんが稽古に来られるのをさばき、俺の稽古をつけていただく。
今日は俺の機嫌を察してくださったようで若干優しい。
終って片付けも済んで台所に行けば俺のためにとホウレン草の胡麻和え。
他の献立も見るに鉄分多目メニューと見た。
「先にこれ食べて炬燵に入ってなさい」
と渡されたのはチーズ。カルシウムね。
手伝いもせずおこたにはいるのは心苦しいが正直助かる。
足が暖まって少し痛みが緩くなる。
先生が配膳して下さって食事。
うーん。うまい。
ちゃんとしたご飯で、多分俺のために献立考えていただいて。
美味しくいただいた食後、ぼんやりしているとなでられた。
ん?と先生を見ると少し心配そうな顔をしている。
「一人で帰れる?」
「あぁ、ぼけてるだけですから。車じゃないから大丈夫ですよ」
「明日お仕事じゃなかったらいいのにねぇ」
「ま、しょうがないです。これで稼いでるんですから」
「雨降ってるけど本当に大丈夫? 律に送らせる?」
「律君に負担ですよ、いくらなんでも。無理だと思えばタクシー拾いますから大丈夫」
「そう? 無理しないでね」
ぼんやりと引き寄せてキスしたら抵抗された。
あ、八重子先生の前だった。
先生が耳まで赤い。可愛いなー。と笑って。
そろそろ帰りましょう、と立ち上がる。
見送っていただいてそれなりの雨の中帰宅する。
少し貧血気味の自覚はある。
帰ったらすぐに寝るとしよう。
途中、そろそろ危険か、と駅からタクシーに乗り帰宅した。
すぐに着替えてトイレに行き布団へ入った。
翌朝、何とか布団から抜け出し出勤。
仕事を頑張ってこなし、帰宅して直ぐ就寝するなど。
外の大荒れの天候にも気づかず。
夕方にはなんとなく体調も落ち着いて夕飯を食べに出た。
先生から電話。
明日のお稽古はお休み?
どうやらこの天気の加減で休みたい方と、花見をするため欠席の人が重なったそうだ。
「じゃ明日うちにきますか?」
考えさせて、と言うので明日の午前中までによろしく、と電話を切った。
思い切りが悪いなぁ。
少し不機嫌になり飯を食って帰って風呂に入る。
ざっとタオルで拭いて着替え、ベッドに転がって寝た。
ふと何かの気配がして目を覚ますと抱きしめられて驚く。
「来ちゃった」
あ、先生か。
「時間遅いから寝てて…」
「いま何時ですか?」
「多分11時半くらい」
むくり、と起きると先生が慌てて謝ってきた。
「いやトイレ行くだけですよ」
どうも急に来たことに怒ったのか、と思ったらしい。
トイレから戻って先生のいる布団へもぐる。
「…先生、冷えてる」
「ごめんね、外寒かったの」
「温めてあげようか。中から」
「え、あ…あなた明日朝早いんだからダメよ」
慌ててて可愛い。
くすくす笑ってるとからかってるの、とケンのある声で聞かれた。
「からかってなんかいないよ。どうする? どうしてほしい?」
「…一緒に寝てくれるだけでいいんだけど…だめかしら」
「いいですよ、今日はね」
懐に抱いて冷えてる先生の身体をなでながらいつしか二人眠りに引き込まれた。
朝、起きて先生を置いて出勤する。
出勤して直ぐだが早く帰りたい。
寒いし。
客足も早く引けて帳面とあわせ早々に帰宅。
「ただいま」
「早かったわねぇ、お帰りなさい。お風呂はいる?」
「あー、はい」
「良かった、いま沸かしたところだったの」
「先入っていいですよ」
「お洗濯もうちょっとあるのよ」
「ああ、それなら先に入らせていただきましょう」
風呂に入って湯に浸かる。
温まるなぁ。
のんびりと伸びて、風呂から上がる。
タオル片手に上がってくると叱られた。
「裸で上がってきちゃだめっていったじゃない。見られちゃうわよ」
「この家で? あなたしかいないのに」
「カーテンあいてるもの」
「いまさらですよ、窓開いてても気にしてないですよ夏は」
「気にして頂戴よ…見せたくないわ」
「そういうあなたが可愛いな。ほら、風呂入って。メシ食いに行きましょ」
「もうっ」
ぶつくさ言いながら先生がお風呂に入って俺は暫く涼む。
落ち着いて着替えたころ先生が出てきた。
ん、湯上り美人。
綺麗だよなぁ。
「メシよりあなたを食いたくなったな…」
「とか言ってお腹なってるじゃないの」
まぁ、ねえ。
「お昼ごはん、何食べたいです?」
「和食がいいわー」
「んじゃ懐石でどうですかね」
「ん、それでいいわ」
「1時間後?」
「30分。お腹すいてるんでしょ」
「じゃ席とります」
連絡して出かける用意をする。
先生の着物を着るのはいつもながらに手早い。そして綺麗だ。
化粧も髪も整えて丁度20分。
「さ、行きましょ」
「はい」
連れ立って食べに行く。
んー、先生と歩くと視線が。
やっぱり美人さんだからなぁ。
見せびらかすじゃないがいい女を連れて歩くのは気分がいいものだ。
店に入って一番いいのを頼んでゆっくりとお昼をいただいた。
先生もおいしそうに食べていて、見ているこっちまで嬉しくなる。
快く食べ終わって帰宅する。
「んー、寒かったわねー外」
「お湯落としてないならもう一度入りますか」
「そうしましょ」
そうぬるくなってはいないが温めなおし、脱いで二人ではいる。
浴槽が大きいのは別に要らないと思ってたけどこうなるとやっぱり良いものだ。
炭酸タブを投入してみた。
股間に泡が直撃して慌てるのが可愛くて抱きしめちゃったり、そのままキスしたり。
「ねぇ久さん…好きって言って」
「どうしたの? 珍しいな」
「たまには言って欲しいのよ」
「可愛いな、女の人ってそういいますよね」
「ねえ」
「好きだよ、愛してる。あなただけをね」
「本当?」
「本当。どうしたの? 今日は」
「だって私…あなたがしたいこと出来ないから…」
「してるじゃないか。こうやってあなたを抱いたり泣かせたり」
「雑誌に載ってるようなこととか…。我慢してるんでしょ」
「…何読んでるんだか」
「ベッドの下にあった雑誌…ああいうの、したいのよね?」
「されたいんですか?」
慌てて首を振る。
「俺ね、確かにしたいことは沢山ありますよ。
でもね、あなたがこうやって俺を愛してくれてるのに…、
あなたの意に沿わない事したくないって大抵は思ってるんですよね」
「でも」
「今のところは大丈夫、しなくても」
「いつかはするの?」
「どれのことをいってるんですかね」
どの雑誌を見てそういってるのかがわからん。
アナルフィストとかの特集の雑誌だったらそれはかなり先生には怖いと思う。
「ま、とりあえずそろそろ風呂から出ないとのぼせそうです」
「うん…」
風呂から出て、暑くて裸でいたら浴衣を羽織らせられた。
「ね、どの雑誌見たんです?」
肘を取ってベッドに連れて行き、座らせてどの本のどのページか言わせた。
凄く恥ずかしそうで可愛くていい。
こういうのもありだな。
指定された雑誌の、このページ、と言うのを見た。
…なんだこりゃ。
うーん。これを俺がやりたがってるように思ったのか?
「さすがにこれはやれないな…というか俺、どっちですか。食う方か食わせる方か」
「あ、よかった…」
「良かったじゃないよ…あぁ、気抜けした。衛生的にありえん」
「だってあなた、この間アレ終ってないのに舐めたじゃないの…」
「アレは別に雑菌とか問題ないでしょ。これに比べりゃまだ小便飲む方が雑菌少ない…。
あぁ、そっちならあなたできるかな?」
「え、ちょっと、いやよ、そんなの…」
「ってかね、Mさんでもないのにこんな雑誌読まないで下さいよ」
「だってあなた、どういうことしたいのか興味があって」
「好奇心、猫を殺す。知らないほうがいいですよ、あなたは」
「知らないことされるのは怖いわ」
「知ってるほうが怖いことだってありますよ」
だからたまにビデオを見せたりするんだが。
「怖いのはいやだわ…」
「気持ちよくしてあげますよ」
そっとキスをして。
ベッドに押し倒した。
「明日…展覧会か花見か行きませんか…それとも寒いだろうからずっとこうしてますか」
「好きにして…」
「そんなこと言ったらずっと抱いてたくなる」
「じゃお花見行きたいわ」
「はいはい。お花見ね。そんなに俺にずっと抱かれてるのは辛い?」
「年考えて頂戴よ…」
「そういう意味か。抱かれるのいやなのかと」
「違うわ…怖いのはいやだけど。優しい久さんは好きよ」
「じゃ特別に優しくしてあげましょう」
ゆったりと優しく抱いて少し声が上がる程度に。
何度か逝かせると満足げな顔で寝息を立て始めた。
たまにはこういうのもいい。
俺も噛まれないし引っかかれないし。
しかしなぁ、怖いのがいやなのにうちに来るのはなんでだろう。
小一時間ほどして起きた時に聞いてみれば、やはり家だと気を使うのが大きいようだ。
「たとえば…家に誰もいなければ家でも良いのかな?」
「ええ? ん、でも何かいやなのよ」
「旅行とかなら良い?」
「そうね」
「じゃ今度また旅行しましょう。5月は無理だけど」
「あら、嬉しいわ。どこがいいかしら」
「ま、気になるようでしたら展覧会を絡めていただければ」
「温泉もいいわねぇ」
「温かくなってから温泉ですか?」
「湯冷めしないもの」
「…俺と一緒だとのぼせるんじゃないですかね」
「やだ、もう」
ちゅっと音を立ててキスして布団から出る。
「さて、夕飯どうしましょうかね」
「久さんが作る開化丼がいいわ」
「いいけどそんなのでいいんですか?」
「食べたくなったんだもの」
「じゃ、付け合せの希望は?」
「お味噌汁。海苔の」
「野菜がないですよー」
「別にいいわよ」
「じゃお買物行きますがあなたどうします?もうちょっと寝てる?」
「一緒に行くわ。待ってて」
はいはい。
その間に米を炊く仕込をして振り返ると着替え終わっていた。
俺が着替えてる間に髪を整え軽く化粧をして、さてと買物へ。
冷え込んでいるので先生が俺にくっついてきてて嬉しい。
食材を買い込み、おやつにとプリンを買った。
「あなたといると太るのよね…」
「へえ、そんなこと言うならカロリー消費させますよ」
「えっやだ、そんなつもりじゃ」
「二人で散歩とかね」
「もうっ」
「で、太ったってどの辺かなぁ、この辺?」
と着物の上から胸を揉んだら怒られた。
「ご飯、作るんでしょ」
「はいはいはい作ります」
出汁を作って肉と玉葱を煮て、卵とあわせてさっさと作る。
アオサで味噌汁をして。
パパッと作ったものだけど、先生がおいしそうに食べてくれた。
「汗かいた後って山沢さんの作るの、美味しいのよねえ」
「あー…塩分だ、そりゃ。味付けじゃなくて」
「そうかしら?」
お茶を先生がいてくれてまったりとした土曜の夜。
不意に先生が俺を見た。
「ね、しなくていいの?」
「あぁ、つい見とれてた。ドラマ見たいんじゃないんですか?」
「見たいけど…」
「見ながらでもいいんですか? 集中できないでしょ?」
「うん…」
「なら後で。いいからいいから」
ごろり、と先生の横に転がって先生の足に顔を寄せて寝る。
そのままうつらうつらとまどろんで。
次に起きたときは先生が俺の髪を撫でていた。
「起こしちゃった?」
寝返りを打って先生の腿の間に顔を埋める。
んー、いい匂い。
くすくす笑い声が聞こえて。
そっとお尻をなでまわしてると吐息になってきた。
「ベッド、行きましょうか」
「うん、そうしましょ」
テレビを消して戸締りをして。
電気を消してベッドに入る。
昼よりはしっかり抱いて、泣かせて。
手加減はしているけれど息が荒くなるほどに。
逝き過ぎると涙目になっていて可愛くて綺麗で。
耳元で好き、と言ってくれるのが嬉しい。
さて、明日はどこへ花見に出ようか。
先生の胸をなでつつ考えてたら先生が俺の乳首を噛んだ。
「な、んで噛むんですか。しかも突然…うわっ、だからしちゃだめだってばっ」
ちょ、突然すぎる。先生の指が俺の股間に来襲した。
「なんとなく?」
うふふ、と先生が笑った。
「なんとなくじゃないでしょう。そんなことするならもう一戦しちゃいますよ。
優しくなんてしてあげませんよ」
「あら、それは困るわねえ」
俺ので汚れた指を舐め取ってやって、布団に押し込む。
油断も隙もない。
「大人しく寝ないとお尻舐めますよ」
「いやよ」
「あした花見行くんでしょ?ちゃんと寝て。拗ねないで下さいよ」
俺の乳を摘んだり引っ張ったりしてぶつくさ言ってる。
「乳首が伸びるからやめなさい。遊ばない」
「立ってきてるのに?」
「そりゃ弄れば立つもんです」
「気持ちよくならないの?」
「あなたほどにはね」
「ちょっとくらいは?」
「まぁ…ってか俺をまた抱きたい気分なのかな」
「そこまでじゃないけど」
「…触ってると落ち着く?」
ぱっと顔を輝かせた。
そっちか!
諦めてもうやりたい放題触らせるか。
多分途中で寝るパターンだ。
と思って触らせてると中を弄ってみたり色々しつつやっぱり寝た。
指入れたままで。
腹を枕に。
そっと腕を掴んで抜いて、頭を枕に乗せてちゃんと寝る体制に持って行ってあげて。
手を拭き取って布団の中に入れて。
さて、俺は。
トイレ行って一発抜いて寝るか。中途半端は流石につらい。
かといって先生にやられるのは嫌なんだが、と自分で逝って。
シャワーを浴びて布団にもぐった。
ん、先生のにおい。
温かさ、肌触り。
幸せな気分で寝た。
翌朝、先生にとっては少し寝過ごした時間に目が覚める。
既に朝日が差し込んでいた。
ぼんやりとしてる先生もいいなぁ。
だけどそろそろ布団から出て朝飯の支度をしなきゃな。
昨日の味噌汁があるから麩を足して。
鯛を焼いて食っちまおう。
ホウレン草のバター炒めでいいや。
ぼんやりと作って用意したら起きてきた先生にセンスがない、と言われてしまった。
なんで鯛を焼いたのにバターなの?と。
味・匂いの強いものと一緒に出したらダメだと叱られた。
「勿体無いじゃないの」
「まぁそうですけど」
ちょっとしょんぼりしてたらキスされた。
「いいわ、食べましょ」
ご飯をよそって渡す。
いただきます。
ホウレン草をメインに食べてたら苦笑されて。
「ちょっと待ってなさい」
そういって冷蔵庫から何か取り出して焼いてる音?
ん?この匂いは。
「そっちの鯛頂戴、私が食べるから」
ベーコンエッグが出てきて、菜の花の漬物が先生の手に。
俺洋食、先生和食になってしまった。
「このほうがいいでしょ?」
「はい」
乾通りの公開がニュースで取り扱われている。
「あら、ね、今日のお花見。あそこ行かない?」
「いいですね」
「あ、でも着物、そういう着物じゃないわ」
「俺の、どれでも着れるでしょ? 一つ紋位でいいんじゃないですか?」
「じゃそうしましょ」
「でも随分並ばないといけないと思いますが」
「…でももしかしたら今回限りかもしれないじゃない」
あ、たしかに。
ごちそうさまをして、洗い物をする。
「お風呂に入ってくるわ、あなたは?」
「俺は昨日のうちに入りましたよ」
「あら。いつの間に」
先生が脱衣所で脱いで、風呂に入る気配。
覗きたくなって突撃した。
「お背中流しましょう♪」
「あっ、もう。だめよ」
泡をたっぷり付けて先生の胸を弄って。
そぉっと股間に指を伸ばせばそれなりに濡れている。
きっちり逝かせてくたり、と俺にもたれかかる先生を洗ってあげた。
髪も俺の膝の上でゆっくり洗って。
気持ち良さそうにしてる。
かわいいな。
「ハイ、終りましたよ」
「ん、顔洗うわ」
泡たっぷり立てて洗ってる。
さすがに洗顔中は手を出せない。
鼻の中に泡が入ると辛いからなぁ。
洗い終えたので全身にシャワーをかけて。
ん、綺麗な身体だなぁ。
「どうしたの?」
「綺麗だな、と思って」
「あら。たるんできてるわよ、こことか」
「じゃ若いころはもっといい身体だったんだ。見たかったなぁ」
「そりゃ17,8のころとは違うわよ。あなたも若い子がいいの?」
「若い身体もいいけど…いまのあなたの身体が好きですよ」
キスして。
あ、だめだ、またしたくなる。
「お花見行くんでしょ」
ちょっと叱られて風呂から出て着替える。
髪を乾かした先生が念入りに化粧をして着替えている。
つい笑顔になってしまう。綺麗で。美人さん。
俺を上から下までじっくり見て、少し手直しされた。
タクシーで近くまで行き列に並ぶ。1時間半ほどかかるとか。
「凄い人ですねぇ」
「そうね、やっぱり日曜だもの」
ゆっくり流れる人の波にそって進むとボディチェック。
時間かかってるのはこれか。
花を楽しみ、先生との会話を楽しむ。
「こういうものいいわねぇ」
「そうですねぇ。職場の花見はカラオケと仮装とドンチャン騒ぎなので」
「あら面白そう」
「遠くから眺める分には面白いですよ。中の人になるのは御免です」
人が一杯だなぁ。押されて先生が俺に寄りかかる。
写真は一枚撮ったら進んでくださーい、と警察の方の声。
「先生も写真撮りますか?」
「いいわよ別に」
「いいんですか?」
「だって私が撮るより綺麗な写真集、あるもの」
「じゃ俺が先生撮りたい」
くすくす笑っていいわよー、と仰るものの人の波。
撮れそうにない。
「後でどこか良い桜があったらそこで撮りましょ」
「はい」
中で30分ほどか。桜と皇居を楽しんで乾門を出た。
「さて、そろそろお昼ご飯の時間ではありますね」
「お弁当買って皇居東御苑で食べない?」
「いいですね。でもどこか売ってるのかな」
丁度いいところに警察官が通りがかったので聞いてみる。
残念ながら中で売っている弁当は売り切れの由。
靖国に流れて近くでランチを取る人も多いという。
どうします?と先生に聞けばそれでいいとのことでお礼を言って移動する。
笑顔で気持ちよく挨拶を返していただいた。
先生の残念そうな顔にほだされたのかもしれない。
そのまま靖国方面の人の流れに載ることにした。
ま、いい食事処がなければ三越とか。
先生を連れて歩くと視線がそれなりにある。
見せびらかしたいような、見せたくないような。
靖国の桜も増して見事で近くの方が桜をバックに写真を撮ってくださった。
先生が帰られるときに印刷して渡そう。
「夫婦…に見えてるんでしょうかねえ」
「多分そうよね」
「孝弘さんとも昔は行ったんですか」
「行ったわ…色々行ったわよ」
「今は花より団子ですからねぇ」
「そうなのよねー」
もうちょっと風流を解する男に育てられなかったんだろうかと思う。
無理か、環境からしたら一番いいもんなー。
ゆっくり桜を楽しんで、神社から出る。
まずは九段下付近にお店はいくつかあるだろう。
が、しかし…どこも1時間待ちとやら。
「三越行って見ます?」
「そうね、そうしましょ」
三越についてレストランエリアへ上がる。
「イタリアンがすいてるみたいですが」
「あら和食のお店は混んでるの?」
「8人待ちですね」
「じゃイタリアンでいいわ」
席へ案内してもらってメニューを選ぶ。
俺は一品多いプランを。
組み合わせを伝えて食前酒を頼む。
あ、そうだ。
「作陶展やってるみたいですが後で見ますか?」
「勿論よ」
食前酒の口当たりもよく先生も笑顔だ。
美味しい食事をいただいて、満腹になってデザート、コーヒー。
「あなたねぇ甘やかしすぎよ? こんなにおいしいものばかり食べさせて」
「太る?」
「そうじゃないわよ」
「好きな女と美味しいものを食べるのも幸せなんですよ。私を甘やかしてます」
「ばかねぇ、もう」
食後会計してそのまま美術フロアに流れる。
先生は茶碗など眺めてうっとりして。
そのまま晩のご飯も買って帰りましょ、と言われて地下へ。
サラダやメインになるものなど買って帰った。
「あぁ疲れちゃったわー」
「はいはい、鞄とコートもらいましょう。脱いできてください」
「ん、よろしく~」
ぽいぽいと脱いで浴衣を着て出てきた。
ベッドにごろり、と寝転んでる。
俺はその脱いだ着物を片付けて自分も着替えて先生のそばへ。
あれ、既に寝息だ。
結構疲れたらしい…。
ま、いいけどね。俺も少し横になろう。
夕方起きて二人でご飯を食べる。
自堕落な生活。
「今晩のうちに帰るんですよね?」
「ううん、明日の朝帰るわよ」
「いいんですか?」
「そういってあるもの」
「じゃ…後で抱かれてくれます?」
あ、頬染めてる。可愛い。
「いいわよ…」
ニッと笑って食事が進む。
「あ、でもその前にお風呂入りたいわ。結構汗かいちゃったもの」
「はいはい。一緒に?」
「入りたいの?」
「ええ」
「いいけどえっちなことはだめよ」
「そいつぁ残念」
ぺち、と額を叩かれた。
ご飯を食べ終わって一服し、風呂を沸かす。
沸かしてる間に…先生の股間を舐めようとする。
汗などで蒸れてるから凄く嫌がっていて、それでもと言うと諦めてくれた。
しょっぱい、と言うと…。
「だからいやっていったのに、ばか」
そういう会話もまた楽しく。
お湯が沸いたようなので脱がせて連れてはいる。
「昼みたいに洗ってあげましょうか?」
「だめよ…あなたも早く洗いなさい」
ふふっと笑いながらお尻を撫でて怒られたり。
「お風呂で遊んじゃダメよ」
といなされたり。
温まって風呂から出て、そのままベッドへ連れ込む。
「髪乾かしてないのに」
「ドライヤーで乾かすのって傷まないんですかね」
でもドライヤーじゃないと先生の髪は寝癖つくのかな。
髪にもキスして。いい匂いだなぁ。
先生を沢山気持ちよくして、明日も早いから、と早めに切り上げることにした。
加減はしたのだがやはり先生は疲れてしまったようだ。
「おやすみなさい」
「ん、おやすみ……」
寝てるし。半分寝言だろこれ。
背中に密着して先生の肌に触れながら寝た。
朝、置いて出勤するのが惜しい気もして。
出る前にしっかりとキスをして出勤。
仕事から帰ったらもう先生はいなくて、お昼ご飯の用意だけがされていた。
おいしいけれど…一人で食べるとおいしくない。
あ。写真。
そうだ、昨日印刷しようと思って忘れてたな。
写真専用機で出して、と。
うん、綺麗だなぁ。先生も桜も。
変なものは写りこんでないようだし、と。
封書に入れて鞄に仕舞う。
明日忘れないようにしよう。
さて、昼寝。
夕方起きて飯を食ってさらに寝る。
朝起きた。
今日はお稽古日。
仕事頑張って先生に逢いに行こう。
やはりまあ、火曜は暇で。
他の社員たちも今日は花見に行こうと早く帰る支度をしている。
さっさと帰宅して用意を整えて先生のお宅へ。
「こんにちは」
「いらっしゃい」
あ、八重子先生だけだ。
「これ、写真です。花見の」
「どれどれ? へぇ、カメラ持っていったのかい?」
「携帯ですよ。結構綺麗に撮れてますでしょ?」
「あら、もう来てたの? いらっしゃい」
先生が台所からお昼を持って出てきた。
「今日は暇でしたから…ん? 甘茶?」
「潅仏会よ」
「あー…花祭りですか。忘れてました」
「あと今日もあなた円草ね」
「うっ」
「他の方は今週と来週は平点前するから」
「基礎大事にですか」
「来月は風炉だもの。確実にしないと」
「わかりました」
「ああ、そうだ。引次は茶事しようかと思ってたんだけど…。
許状来てるのあんた以外いなくてねえ」
「三人でしようかって思ってるのよ」
「とするといつもとは違う曜日のほうが良いですよね」
「明日どうかしら」
「心の準備が」
「三人だし茶事でもないし大丈夫よ」
「そうそう、私か絹かが点前してあんたに教えるだけ」
「今日の夜でもいいけどお風呂にも入って着替えてって思うとねえ」
「だから今晩はなしね」
甘茶ふいた。
素で言われるのはどうかと思うんだ…。
八重子先生が溜息をついて先生はなんか変なこと言ったかしら?って顔をしている。
「…水屋の用意してきます」
そそくさと立ち退いて水屋へ行き、お稽古の用意をする。
しばらくして生徒さんが来て、先生がにこやかに現れてお稽古スタート。
和気藹々とお稽古が進む。
「絹先生、日曜に山沢さんとご一緒してらした?」
「え? ええ、一緒でしたけど」
「ああやっぱり! 皇居で母が先生と男の方がご一緒だったのを見たと申しましてね」
「乾通りの通り抜けに行ったんですよ。凄い人でした」
「あらー、いいですわねぇ」
「一時間半待ったんですよ、セキュリティチェックが時間かかるので」
「そんなに? 大変ねえ」
「それでも今年限りかもしれませんからね」
「ですから山沢さんお誘いしたんですの。ほほ」
「八重子先生はご一緒じゃ?」
うっ、と詰まった気配。
「なんせ1時間半待ちですしね」
あぁうんうん、と生徒さんも納得。
他の方々もお稽古が終わり後は俺を残すのみ。
俺へのお稽古は雑談もなく厳しく。
終って水屋を片付け。
「見られてたわねぇ…」
「やっぱり外出は気をつけないといけませんね」
「でも私と一緒にいる男性は山沢さんってみんな思ってくれてるのかもしれないわね」
「だといいですねぇ。それなら不倫の噂にはなりませんから」
「そうね。あ、そうそう。明日あなたの格好なんだけど」
「はい?」
「3つ紋か5つ紋かの色留持ってきてたでしょ? それ着て頂戴」
「え、あ。はい」
「袋帯は締めてあげるから」
「女装ですか…」
ちょっとげんなりしてたら笑われた。
「いいじゃないの、たまには」
片付け終えて台所へ。
もう食事は出来ていて、食卓へ配膳してお夕飯をいただいた。
律君が暫くして帰ってきた。
先生が味噌汁を温めなおしている。
八重子先生が律君に俺と先生の写真を見せてる。
「いまどきは携帯でこんなに綺麗に撮れるみたいだよ。いいねぇ」
「へぇ、すごいね。っていうか山沢さん、お母さんと花見行ってたんですね」
「朝ニュースで皇居の公開って言っててね、じゃ行きましょうってことで並んでね。
でもこれはすぐ近くの靖国で撮ったんだよ」
「え、なのにこんなにクリアなんだ?」
「あらなぁに? 一昨日の写真?」
「うん、綺麗にとれてるなーと思って」
律君が頂きます、と言って食べ始めた。
先生はにこにこと孝弘さんや律君の世話を焼いてあげていてほほえましい。
「律君は誰かと花見行った?」
「うーん。うちにあるから」
「お友達といったらいいのに」
「近藤? 彼女いるからあいつ」
「あんたも彼女作れば?」
先生、そりゃ酷な。作ろうと思って作れるものじゃないし。
俺は先にご馳走様をしてくつろぐ。
「御免ください、宅配です」
玄関から声。
「あ、ちょっとお願い」
「はい」
パタパタと玄関へ行き受け取る。
サインをして荷物を持って台所へ。ビールらしい。
送り状をもって居間に戻り、お渡しする。
先生は引き出しから帳面を取ってなにやら書き付けて送り状を仕舞った。
お返しとかするんだろう。
律君も食事が終わり、残ったものを孝弘さんが平らげて片付ける。
洗い物を仕舞い終えれば風呂をすすめられ、いただいた。
さてと。今日はなしか。
抱っこだけか、ちょっと辛いな。
先生は気にしてなさそうだけれど。
おしゃべりをして夜が更けて布団へ。
懐に抱いてると、今日はダメよ、そういって腕を絡めてくる。
扇情的で手を出したくなるのにしてはいけない。
くすくす笑われて、寝なさい、と仰る。
ふっと息をついて先生の胸元に耳をくっつけてゆっくりと呼吸をしていると撫でられた。
先生の呼吸が寝息に変わり、俺も寝た。
まだ夜も明けないころ目が覚める。
先生の寝顔が可愛らしい。
抱きたいな、と思うが…今日はダメだったと思い出す。
トイレに立って手を洗って布団へと戻る。
「うぅん…」
おっと起こしてしまうか?
いや、寝息。
気持ち良さそうに寝ている。
寝返りを打って俺の腕を胸に引き入れた。
やわらかいなぁ、乳。
揉みたくなっちゃうじゃないか。酷いな。
まだ眠いから寝てしまえばいいが。
うつらうつらと先生の寝息にあわせて寝て、朝が来る。
起きたらしっかりと俺の手が先生の乳にフィットしていたらしく。
先に起きた先生が困っていた。
起こすに起こせず、だったらしい。
そういうところが可愛くてついキスしてしまった。
ぺち、と額を叩かれて朝飯の支度に台所へ行く。
朝ご飯を食べて一服したら炭や釜などの用意。
最初からの用意を手伝わせていただくのは久々で、指示を貰ってその通りにするばかり。
用意が整って、着替える。
流石に先生方はすばやく着替えられ、俺が帯を締めようというころには終えられていた。
先生が着付けをちょっと直して二重太鼓に締めて下さり、席入り。
お点前は八重子先生、半東と次客は先生が二役を。
黒塗りの台子。
初炭からだけど…いつもの初炭とは少し違う。
「真台子の初炭は違うのよ」
解説を一つずつしてくださりつつ、進む。
唐金の皆具の真台子は背が高いので八重子先生はちょっと大変そうだ。
「真はすべて省略せず、すべてこれまでにしてきたことだから覚えるのは簡単なの」
うーん、たしかに見ていてわからない、と思う点はない。
これまでにやってきたことを本式できっちりすればいいという感じではある。
「ただこれを覚えると他のお点前のときに混ざるんだよねぇ」
と八重子先生。
あ、たしかに省略していい行のときにやっちゃいそう。
「だから初級クラスの人は見ちゃいけないのよね。混乱しちゃうのよ」
続き薄にするわね、と仰って薄茶もいただいた。
お点前がすべて終って総礼。
「どうだった?」
「確かに見ているとこれまでのことで出来そうな気はしますけど…。
点前するとなると違うんでしょうね」
「基本的にメモをとるのも写真もビデオも残しちゃいけないって言うけどね、
覚えるまでは取ってもいいよ。覚えた頃にはいらなくなってるから捨てなさい」
「あ、はい」
「支部の講習会なんかはこういうのをやったりするから。
あんたが先生になってからの話だけどね、わからなくなったら暫く封印して
支部までお稽古お願いに行くんだよ」
「そうなんですか?」
「私らも曖昧になることがあるからね、たまにお稽古に行ってるだろ」
「そうだったんですか」
「七事式もここではそんなにはしないからね。支部ならあるから」
色々とお話をしていただいて、じゃ着替えて片付けようということになった。
普段着に着替えて茶室に戻り釜を下ろそうとしたら先生が濃茶を一服所望された。
先ほどの真の行でかと思ったが作法要らないからただ点ててと。
気が楽になりしっかりと練る。
こんなものだろうか。
八重子先生が正客として一服され、お服加減を問う。
惜しい、もうちょっと。と言われてしまった。
先生に茶碗が渡って、確かにもうちょっとねぇと言われて。
茶碗を漱いだらそのまま先生と点前座を交代して先生が点ててくださった。
やっぱり美味しい。
ほほほ、と先生が笑う。
「こうなるまでに私も山沢さんのようなお茶点ててたわよ」
「自分で飲みなってよく言ってたねえ」
さてさて片付けてる間に先生はお昼作ってくると台所へ。
八重子先生が真台子の組み立て方や片付け方、皆具の片付けなども教えてくださった。
引次を終えて片付けも終えてすっかりほっとした気分で許状をいただいた。
お昼ご飯を食べて縁側で先生と日向ぼっこ。
のんどりしていると八重子先生も縁側に。
お茶とおせんべい。
「お天気いいわねぇ」
「気持ちいいですねえ」
一服をしてから掃除。平日だからね、先生も主婦業をしないといけない。
俺も指示を貰いつつお手伝い。
廊下を拭いたり、庭の雑草を取ったり。
3時になっておやつをいただいたらお買物。
トイレットペーパーなどかさばるものも買って、焼酎も買う。
司ちゃん用のを切らしてたらしい。
「ほんと助かるわぁ…律もほら、大学あるから遅いでしょ」
「お夕飯の買物には間に合いませんよね」
「あなた力持ちだし」
「ま、仕事が仕事ですからね」
帰宅して先生の決めたメニューに従って下拵え。
今日はメイン肉じゃが。
と言うことでジャガイモの皮を剥く。
…肉じゃがなのに豚肉なのはいまだに違和感があるが仕方ない。