翌朝、先生の方が先に起きていたようでお味噌汁のにおいがする。
朝飯を作ってくれてるのか。
長襦袢を羽織るだけで出て行ってみた。
すでに焼き魚、味噌汁、ごはん、玉子焼き、香の物が並んでいる。
「おはよう、顔洗ってらっしゃい」
「オハヨウゴザイマス」
なんというか完璧だ。
つまみ食いしようと手を伸ばして叱られた(笑)
とっとと顔を洗い長襦袢をちゃんと着なおして戻る。
食卓につき、いただく。
「勝手にお台所触ってごめんなさいね」
「いや、嬉しいです」
なんでうちの味噌汁がこんなにうまいんだ。
魚はアレだな、こないだ漬けておいた平目の味噌漬だな。
玉子焼きもうまい…。幸せ。
ごちそうさまをして、お茶をいただく。
「先生が嫁さんだったらなあ…」
「うん?どうしたの?」
「いや、仕事する気が100倍くらい出るかなと思いまして。
朝晩とうまいもの食えて、夜は楽しめて」
あ、顔赤くなった。
「夜だけじゃないくせに…」
そっちか(笑)
「今日、どうします?家に居たらずっと楽しんじゃいそうなんですが」
って弄るのはやめよう。
「ふふ、展覧会か何か、探して行きましょうか」
「そうね」
恥ずかしそうにしている。うーんいいなあ。
パソコンからざっと展覧会情報を呼ぶ。
うーん。
2件だけ見つかった。
「今ちょうど展示入れ替え時期なんですね。どっちがいいです?」
どちらもピンと来ず、浜離宮散策ということにした。
近いしね。
んじゃあちょっくら着替えましょうかね。
俺の方が時間はかからないので台所の後始末を引き受けて、着替えてもらう。
水仕事を終えて和室を覗くと後は帯だけのようだ。
帯枕を渡したりしてちょっと手伝う。
帯締めをきりっと締めて。うん、綺麗だ。
私も長襦袢を脱ぎ、晒をまいて肌襦袢、長襦袢を纏い、長着を着る。
先生が細かいところを整えてくれた。
その頤に手をやってキスする。
「駄目よ」
照れつつも私に羽織を着せ、行きましょ、と仰る。
行くか。
さてさてぶらりと浜離宮。
歩くのもかったるいので近距離タクシー。
近すぎて来たことがないんだよね。というか一人て来てもなあ。
タクシーを降りて橋を渡り、門をくぐる。
ビル群の中の庭園はなにか面白い。
日傘を差した先生とさくさくと土を踏み、共に歩く。
木々はよく手入れがされており流石である。
なごやかに穏やかな優しい時間が過ぎる。
のんびりと歩いていると、中島の御茶屋だ。
お茶をいただけるらしい。
「どうします?」
「あ…替え足袋持ってきてないわ」
「あー。一応いつも鞄に入れてますよ、私。2足。ストレッチの」
じゃあ、ということで渡して入口で履き替えていただくことにした。
まあ一般の人が多いところだから、必要はなかったかもしれない。
けどね、お茶の先生と弟子の身としては履き替えないわけにもいかん。
温かいのと冷たいのをいただけるそうだが二人とも温かい方を。
点て出しだ。結構に美味。
お茶をいただいて、ほんわかとした気持ちで更に散策。
人通りなさそうな道へ連れ込む。
木陰でキス。そっと胸を揉む。
「あっ…こんな所で…だめ…見られたらどうするの」
「こんなところに人はきませんよ…静かに、ね。してたら大丈夫」
太腿に手を這わせる。
ぎゅっと私にしがみついて声を我慢し始めた。
人目につかないように中を弄り、かすかな喘ぎ声を楽しむ。
秘か事ほど楽しいことはあるまい。
首を噛まれた。
「良いですよ、噛んでてください」
ちょっ…と痛いけど。涙目になれる程度には。
太腿の痙攣と共にぐっと先生の体重がかかってきた。
逝った様だ。
ぬめる指を懐紙でふき取る。
裾を整えて抱きしめる。息が整うまで。
落ち着いてきた先生になじられて、でも幸せで。
先生が歩けるようになって、手を引いて散策を続ける。
恥ずかしげで美しい。
「水上バス、乗ります?浅草まで行きますよ」
一旦うちへ戻りたいそうだ。
ああ。股間のぬめりが気になるのか。
可愛いな。
最短距離を選んで門へ。タクシーに乗り連れ帰る。
戻るとすぐに和室へ入られ、私がお茶を入れてる間に浴衣に着替えてきた。
私の横に座っていただきお茶を差し上げる。
「ひどいわ、外でなんて…」
温かいお茶を喫しながら詰られる。
「もっと人気がないところだったらどうです?
いや。人が来そうだからいいのかな、ああいうのは」
「見られるのはいやよ。困るわ…」
「知ってる人に見られそうだから?それとも知り合いがいない土地でも?」
「…どっちも恥ずかしいわよ」
ですね(笑)
「どうしても嫌ですか?」
うん、とうなづく。
「先生、可愛いですね。そういうところ」
お茶をよけ、ひょいと引き寄せる。
「あっ…もう…またするの?」
ええ、またです、すいません。
「だって先生が可愛くて。何度でもしたくなるんですよ。駄目ですか?」
「…知らない」
くっそ可愛くて駄目だ、がっついちまう。
好い声を何度も出させて、腕が攣るほどに玩んで楽しんだ。
早日暮れ、先生は動けない有様になっている。
その様すら好くて肌に触れて楽しむ。
このままずっとこうしていたい…。
まあそういうわけにもいかないわけで。
とりあえず晩飯の支度しないと…って無理、疲れた。
鮨頼もう鮨!
いつものところに電話して持ってきてもらおう。
電話して、先生をベッドに運んで、着物着なおして。
しばらくすると届いた。
先生食えるかな?
お昼も食べずにしてたから腹は減ってるようだけど。
起こしてあげれば食えそう?よしよし。
ベッドの上で裸の先生と鮨を食う。
ちょっかいを出したくなる光景だが、食事中はお行儀が悪い(笑)
「ね、このまま泊まっていきませんか。明日私仕事ですけど」
「そうね…っていいたいけど流石にお母さんに言いにくいわよ」
知らない頃なら言えたかもしれないが知られてからのほうが言いにくいな、確かに。
「でも帰れますか、立てもしないでしょう?」
ぐったりしてるしね。
「疲れさせたのは誰かしらねえ」
私ですな。しょうがない。
「わかりました、私が電話しますよ」
電話を掛ける。
『はい飯嶋です』
「あ、山沢です、こんばんわ。
すいません、絹先生もう一晩お借りしてもよろしいでしょうか」
『……あんたねえ、山沢さん』
呆れられた。絹先生を見ると恥ずかしげだ。
「いや、あちこち連れ回したら疲れちゃったようでして…その」
『しょうがない子だね、あんた。そういうことにしといてあげるよ。
明日の稽古までに戻っといで、と言っといてくれるかい?』
「はい、ではそのようにお願いします」
電話を切る。
「お母さん、どうって?」
「御稽古までに戻れって仰ってましたよ。よかった」
「そう…」
なんとなく眠そうだ。
「ちょっと寝ますか?」
背をなでると寝そうになってる。
裸のままだが布団に入れて桶の始末をして寝室に戻ると寝息。
うん、いいね。この無防備さ。
明日の用意をしたら俺も寝よう。
俺の明日着る服一式と、先生の着て帰る着物一式を用意して、
あとはうちの合鍵をテーブルに書置きと共に残すか。
先生が起きる頃には俺はもう仕事だからな。
用意も整った。さあ寝るか。
翌朝、まだ寝ている先生をそのままに出勤の支度をする。
幸せそうな寝息にこのまま一緒に寝て居たくなる気持ちを振り切って、出勤。
仕事がんばろう!
それなりの忙しさで仕事を終えて、帰宅。
ちゃんと鍵がかかっている。
中に入るとテーブルに書置きが。お昼ごはん冷蔵庫に有る!やった!
お味噌汁もある!食う。うおーうまい!
でも塩が甘い。こればっかりは仕方ないなぁ。
完食してシャワーを浴びる。
あ、ちゃんと先生もシャワー浴びてったようだ。
着物に着替えて、と。
鞄の点検。ヨシ。行こう。八重子先生に叱られに。
でも幸せだな。
電車に揺られてバスに乗って到着。
直接居間へ。
「こんにちは、八重子先生。すいませんでした」
「はいはい、こんにちは」
あれ?人が多い。
「ちょうどいいわ。これが覚、こっちが開。覚えといてちょうだい」
「あ、山沢と申します、よろしくお願いします」
ん?今日平日…だったよな。
どうやら覚さんは休出の代休、開さんは無職らしい。
…不動産屋はやめてたのか。
「あとうちに出入りするのは潮くらいかねえ」
ああ。今回みたいにならないための引き合わせでしたか。
「潮さんというと晶さんのお兄さんでしたっけ」
「あら、あんた会ってたかねえ?」
ええとたしかチャラいあんちゃんだった気が。
「母さん、こちらは?」
「ああ、この子は絹の友達みたいなもんでね。生徒さんなんだけど。
最近うちによく泊まったり、絹がこの子の家に泊まったりしてるんだよ」
「絹が?」
おっと朝のお稽古終わったようだ。
絹先生が戻ってきた。
「こんにちは、絹先生」
「はい、こんにちは。あら兄さんたち来てたの? 山沢さん水屋頼むわね」
「午後はどなたでしたっけ?」
「安藤さん、平野さん、原田さん、大村さん、西尾さん、斉藤さんよ」
お稽古手帳を繰る。
「斉藤さんは竹の台子で他の方は中置の風炉でよかったですか?」
「お母さん、それでいいかしら?」
「それでいいと思うよ」
んじゃ準備してきましょう。
茶室へ行って朝の人たちの後片付けをしてざっと掃除。
台子を出して組み立てて設置し、電熱風炉を置く。
皆具をセット。湯はまだ沸かさない。
対角に中置きの位置に風炉をセッティングする。
こっちは炭だ。安藤さんは初炭手前してもらおう。
まあ半分は嫌がらせだけど。中置の炭手前。
用意が終わったので台子の前でイメトレ。
いくつか引っ掛かりがある。
やっぱりここしばらく稽古できてないからなあ。
後半月も稽古できないのか。
ここは一つお願いして稽古日以外にお稽古つけてもらおう。
しばらくして安藤さんが来られた。
炭手前の用意を見て顔を曇らせている。
苦手なことほど沢山やるほうがいいんだよ、と思いつつ内心悪い笑み。
と、絹先生が戻ってきた。
「今日は、お稽古よろしくお願いします」
「はい、よろしく」
うーん、この人は嫌いだけど流れるような手前で綺麗なんだよなあ。
とはいえさすがに中置だと一瞬流れがよどむけど。
その後は平野さん、原田さん、大村さん、西尾さんと次々にお稽古がすすむ。
沸いた湯を台子のお釜に指して電熱器のスイッチを入れて待つ。
斉藤さんが来た。
濃茶だから次客に座ってといわれて久々のお客様をする。
お茶をいただく。うん、うまい。
綺麗にお点前を終えられた。
炉のお点前もこれくらいできるようになったら次だな。
お稽古も終わり、水屋を片付けてから台所へ顔を出すと夕飯の支度をされていた。
「今日は食べてくかい?」
「いや明日も仕事なんで今日のところはこの辺でと」
「あらぁ。そうそう、鍵。返すわね」
「鍵?」
「私、仕事の時間早いので合鍵を置いていったんですよ。
ああ、絹先生、昼飯うまかったです。ありがとうございました。鍵はいいです」
八重子先生にも挨拶して今日のところは退散、叱られずに済んだな。
翌日の仕事は流石に気を抜くわけにもいかず疲れて帰宅。
買物に行き、下ごしらえのみして寝る。
明日のために疲れを取っておくべきだからな。
流石に明日の夜は淫らな事はできないだろうけどね。
夕刻、電話があり起きる。
何かと思ったら仕事の電話だ。
目が覚めたら腹が減った。何ぞ食って寝よう。
昨日、作ってってくれた残りで食らう。
うーん、うまい。幸せだ。
少し晩酌して寝直す。
明日は稽古だ。
さて週末とも有り仕事は忙しく、怒濤のように時間は過ぎた。
急いで帰宅しシャワーを浴び、着物に着替えて飛んで出て行く。
慌てて水屋に顔を出す、セーフ!よし!
居間に顔を出して挨拶をすると今日は花月だからということで、
風炉の準備や折据を用意する。壷が出てるからこいつもか。
そろそろ口切だなあ。
炉開きの日は会社休みだといいな。去年は仕事だった。
そうこうしていると何人か集まってきた。
壷?という顔をしている。
絹先生が来て、壷はやらないからしまっていいといわれた。
どうやら朝の方々のお稽古で使っただけのようだ。
花月は見ているだけでも楽しい。
4回ほどまわしてお稽古終了。
水屋を片付け、お台所を手伝う。
今日もうまそうだ。
お父さん呼んできてくれる?と言われ孝弘さんを呼びに行く。
食卓について晩飯をいただいて。
律君は今日は合コンらしい。青春だな。
孝弘さんにご飯のお代わりを勧めてる絹先生が微笑ましく可愛らしくて良い。
八重子先生は微妙な顔をしているが。
食事を終え片付けを手伝ったら居間へ。先生方とお茶をいただく。
「台風来るのかしらねえ」
「どうなのかねえ」
「明後日昼以降から酷いらしいですね」
「山沢さんうちに来れるのかい?」
「多分大丈夫だと思います。泊めて頂けるのなら」
今更だけど。
絹先生は照れくさそうだ。
「台風のさなかに帰れだなんていわないよ」
微妙な顔のまま八重子先生に言われてもなあ。
「あ、そうだ。行之行のここの手なんですが…」
お稽古のときに引っかかったところを聞いておく。
色々お話している間に夜は更けて行く。
部屋に戻ると絹先生が来た。
「あの、山沢さん…今日ね、アレなの…だから」
ああ、月の物ね、今日稽古中も席立ってたもんなあ。
「冷えとか、大丈夫ですか?だるいとか」
「あ、それは大丈夫よ」
「どうしたんです?」
「…したいんじゃないかって思って」
ああ!そういうことか。
「したいっちゃあしたいですが、生理中にまで押してするほどではないですよ。
この間十分楽しみましたしねえ。ああ、でも」
頬に手をかけて深くしっかりとキスをする。
「これくらいはいいでしょう?」
「…もう」
「ふふ、おやすみなさい。温かくしないと駄目ですよ。それとも一緒に寝ますか?」
「山沢さんがしたくなるでしょ?駄目よ」
おやすみなさい、といって戻って行かれた。
ちょっとしたくなったのは事実だ。
着替えて布団に転がる。
あっという間に眠気がきた。
翌朝。
朝食をいただいていると律君が帰ってきた。
昨日お友達がべろべろに酔って介抱してたら終電を逃したらしい。
合コンで男友達にお持ち帰りされてどうする。
一緒に朝飯を食って、そのまま寝てくる、と部屋に戻ってしまった。
絹先生も眠そうだ。寝てきたら?という勧めに従って部屋に戻られる。
八重子先生と二人きりだ。
「……あんた、する方なんだって?」
へっ?何を?
「されるのは苦手なのかい?」
「えーと?何をでしょう」
「あぁ。絹とするときの話だよ」
「絹先生から聞かれたんですか?参ったな」
そんなことを親に話さなくてもいいのに…。
「んー…絹先生にはされたくないというかどう言ったらいいんでしょうか。
他の人やそれこそ男となら受けるほうは可能ですが」
「複雑なもんだねえ。というか男とできるんだね、あんた」
「可能か可能じゃないかという意味ではですよ」
やりたくはない。
「たとえば私があんたにする、とかだったら出来るのかい?」
「できるんじゃないでしょうかねえ」
「でも絹からはされたくないと」
そういうことですな。
八重子先生はよくわからないというような顔をしている。
さて、そろそろ掃除をしよう。
風が結構ある中、庭を掃除する。枯葉多いな。
庭掃除を終えて戻る。
お昼ご飯の用意をそろそろしないと。
絹先生は寝てるから八重子先生と作る。
主婦って大変だよなあ、毎食違うもの作るんだから。
俺なんか…。
と思ってたら八重子先生も自分だけならあるもの食べて済ますそうだ。
孝弘さんの分があるから作るらしい。
そんなもんか。
しかし毎回炊くご飯の量がすごい。エンゲル係数すごいんだろうな。
お昼の支度も出来たので絹先生を呼びに行く。
ぼんやりしているのでキスしてみた。
…駄目だ、ヤりたくなる。慌てて離れた。
孝弘さんと律君も呼んで昼飯。
団欒。いいね。
お昼を食べ終わり片付けていると八重子先生にお客様だ。
絹先生はお茶を出して戻ってこない。
私は部屋に戻って縫い物の残りを少しやることにした。
しばらくして絹先生が来た。
ほっといてごめんなさいね、と言うが客じゃなし、別にいい。
と言うと拗ねてると思ったのか身を寄せてくれた。
針などを除けて、先生を引き寄せる。
可愛くて。したくなって困る。
中学生かっ。
キスをしたいが、したら止まりそうにない。
そう思っているのに先生からキスをしてきた。
たまにイタズラしたくなるようだ。
「いけません、今日はしませんよ」
律君もお客様も居るのに。
でも離れるのは嫌だな。
人が来ない間は抱きしめておきたい。
ぬくもりが手放し難い。
1時間くらいそうしていただろうか、八重子先生の呼ぶ声で我に帰った。
絹先生が慌てて離れる。
部屋を出て呼び声に答えると、律君と八重子先生は出かけるとのこと。
帰りは夜なので待たなくて良いとのことだ。
お見送りをして絹先生と居間に戻る。
普段ならなんという好機!だがそうもいかない。
というかむしろしてはいけない理由が一つだけというのは却ってきついかもしれない。
参ったな。
「今日は早く帰ろうかと思うのですが…」
「…アレでできないから帰るの?」
ああ、むっとしてる。
どうしよう。
いい事思いついた。
「そうだ、お稽古つけてもらえませんか?」
これなら時間潰せて更に一緒に居れてしたいしたい思わなくて済む!
ため息一つ落とされて、お稽古つけてあげると仰っていただいた。
水屋の用意をして、お稽古をお願いし行之行を3度ほどやると良い時間になった。
そして水屋を片付け晩御飯の支度を手伝い、名残を惜しみつつ辞去した。
翌日の仕事は台風が近いこともあり、入荷量整わず暇で。
天気予報やニュースを見るとやはり明日直撃の予報である。
うーん、本当に明日、いけるのだろうか。
帰宅後、雨ゴートの用意などをする。
傘は絶対役に立たない。むしろ危険だ。
今日は早めに寝ておこう。
さても夜中から結構な雨である。
出勤しても客が来ないほどの有様だがとりあえず仕事を終えて帰宅する。
軽く食事を取り、風呂に入る。
着替えて雨ゴートを纏い、首元を防水布で覆ってレインキャップ。
後頭部から背中まで被う防水布が付いており、前は透明シールドになっているものだ。
普段、雨降りに自転車に乗るときに使っているものだが着物の時には結構役に立つ。
足元は防水脚絆。雨ごしらえをしっかりとしてさあ行こう。
…洋服で行けばいいのでは、という突っ込みはなしで!
結構な雨の中、電車は動いていて順調にたどり着く。
「こんにちはー」
「よく来たねえ、こんな雨なのに」
軒先で雨コートや帽子などを吊るして、脚絆も取る。
足洗にと桶に湯を持ってきてくれた。ありがたい。
洗ってくれようとするが流石にそれは断って自分で濯いだ。
からげていた袴も下ろして家にあがる。
お稽古は?と聞くとやはり今日は皆さんお休みとか。
「お稽古お願いしていいですか?」
と聞くとかまわないと仰る。
いそいそと用意をしてお稽古すること4時間、外は風が強くなってきた。
そろそろお仕舞いにして、ということで水屋を片付けていると近くに雷が落ちた。
絹先生が思わず私に飛びつくほど地響き。
耳を済ませて火事になってないか探る。大丈夫そうだ。
今の今まで先生として厳しく稽古つけてらしたのに、この可愛さ。
思わず水屋だということをわかっていながらキスしてしまった。
「駄目…ここじゃ…」
うぅ…わかってますよ、わかってますって。
深呼吸して落ち着く。ふぅ。
「さっさと片付けちまいましょう」
片付けを済ませ、居間に戻った。
ご飯の用意できてるから、と八重子先生。
孝弘さんを呼びに行く。
律君は司ちゃんの家に泊まることにしたらしい。
家まで送っていったが電車が止まったとのことだ。
司ちゃんを律君のお嫁さんに~と先生方がニコニコしている。
いい加減それはないと思うぞ、司ちゃんには星野君という彼氏いるし。
しかし孝弘さんは外の嵐を見て楽しそうだな。
食事も終わり、テレビの台風情報を見ると今夜半から朝方がきつそうだ。
八重子先生は早く寝るといって部屋に退けて行かれた。
残るは絹先生と私だけである。
…とりあえず戸締りと火の始末、しましょうということになり動く。
確かめて、私のいつもの部屋に先生を連れ込む。
「ああ、そうだ。アレ、終わりました?」
「…ええ、この間は八つ当たりしてごめんなさい」
え?八つ当たりされたっけ?
あれか、気づかなかっただけで八つ当たりされてたのか。
会話しつつ布団を敷く。
先日、そろそろ客じゃないので自前の布団、ダブルを持ち込んでいた。
寝相が悪いからシングルだと寒い、とかなんとか言って。
八重子先生はわかってるだろうけど。
ちょっと高いが綿をシンサレートにした。厚手で軽く温い。
さてと。
座ってる先生の前に膝を突いて、まずはキスを。
「ここならいいでしょう?」
先生は頬を染めてうなづいた。
キスをしつつ、帯締めに手を掛け。帯揚げ帯枕をほどき、帯を解く。
脱ぐから待って、というので一度離れる。
着物ハンガーを持ってきて帯を掛け脱いだ着物をかけている。
AVなんかだと脱ぎ散らしてヤってたりするが。
どうしても着物を掛けたくなる。貧乏性なのだろうか?
まあ、その間に私も脱いで着物と襦袢を衣桁にかけた。
うっ寒。秋の夜はひんやりとしているな。
まだ長襦袢の先生を布団に引きずりこんだ。
しばらく抱き合っている。うう、ぬくい。
布団の中で長襦袢と肌襦袢まとめて脱がせ、胸を弄りはじめた。
先生の荒い息が耳に心地よい。
あまり声が出ない程度にあちらこちらを弄り、煽る。
逝かさず逸らさず、楽しむ。もう少し焦らすか、それとも…。
ああでもせつなそうだ。
いいところを探そうとして腰が動いている。
それを敢えて外して楽しんでいると、お願い、と辛そうに言われた。
可愛いなあ。
そろそろ、いいか。
さっきまで外していたスポットを重点的に刺激する。
私の肩を噛んで声を潰し、しがみついて逝った。
荒い息。
背を撫でる。
うちだったらなあ、声出してもいいんだけどな。防音だし。
さすがにこの家で声を立てられると困るんだが噛まれるの痛い…。
先生が噛み痕を舐め、くすぐったくて驚いた。
なんだ、もう落ち着いたのか。
「ねえ、山沢さん…私にされるのは無理ってお母さんに言ってたみたいだけど…」
はいはい、いいました。
って俺の乳を揉むんじゃありません。
「イタズラするなら腕縛っちゃいますよ?」
と言ってるのに先生の手が下腹に伸びる。
その手首を握り少し力を入れ、耳朶を噛む。
「駄目と言ってるでしょう?」
「どうして?」
どうしても、ですよと言いつつ先生の乳首を摘む。
ビクッとして楽しい。
布団の中にもぐりこんで濡れているそこを舐めると好い声が漏れる。
「罰として声は自分で我慢してください」
先生は枕に顔を押し付けて声が漏れないようにしている。
指を入れ、まさぐると我慢するのがつらそうだ。
いいスポットに当たったらしく枕の下からくぐもった声が聞こえる。
楽しい楽しい楽しい。至福。
ぎゅうっと指が締め付けられて、足が痙攣して。
私を掴む手が強く握られて。
感じてくれて逝ってくれるのは嬉しいなあ。
涙目になってるその瞼にキスをして。
唇にも、首筋にも、鎖骨にもキスを落とす。
そのままゆっくり背中や腕を撫でていると先生の荒い息は寝息に変わっていた。
ふぅ。
しかし先生は何をしようとしていた?まさか、な。
…一応ちゃんと浴衣着て寝るか。
夜半、風雨の音に目が覚める。
酷くなってきたな。
もぞもぞと先生が動いている。寝返りか。
うっ。
下帯の中に指を滑り込まされた。
どうしていいかわからないらしく、まさぐられているだけだが。
「駄目と言ってるの、わかりません?」
「だって…山沢さんにも気持ちよくなって欲しいんだもの」
苦笑。
「そんなことしなくてもいいんですよ。
あなたが気持ちよくなってるのだけで十分、私は気持ちいいんですから」
「でも…」
そっと乳首に触れられた。
びくっとなりそうなのを耐えて、先生にキスする。
「そんな気力があるならもう一戦しましょうか。今度は腕を縛りますよ」
「それは…もう無理よ」
私の下帯から手が外された。
「山沢さんも結構濡れてるのね」
まあね。
先生の手を拭いてあげて、もう少し寝ましょと誘う。
眠くはあったらしくすぐに寝てしまわれた。
ったく。
どうしたものか。
早朝、よく寝ている先生を置いて庭に出ると快晴。
空気が澄んで…寒い。
火鉢の用意しておくか?
部屋に戻ると先生も目が覚めたようでぼんやりしている。
キスをして、洗濯した肌襦袢と長襦袢をまとめて羽織らせる。
それすらひんやりしていて、思わず先生は私に身を寄せる。
朝っぱらからしたくなるじゃないか。
んー時間、まあいいか。
嵐がうるさくて眠れなかったとか言って寝坊したことにしてしまえ。
直接先生の足の間にもぐりこむ。
まだ濡れてもいないその場所を念入りに舐めていると押し殺した声が聞こえる。
濡れてきた。中指を差し入れて探ると声が出る。
腕を差し出すと噛まれた。
しがみつかれて背中に引っかき傷つけられて腕や肩に噛み痕付けられて。
楽しい。
気持ちいい。
たまんねえな。
自分の手で好きな女が気持ちよくなってる。
嬉しすぎる。
どうやったらそれがわかってもらえるんだろうなあ。
してもらうのが苦手なことも。
そう思いつつ中を楽しんで。
切なげにひそめる眉を見て。
追い詰めて、はぐらかして。
お願いされて逝かせる楽しさ。
逝った後の可愛いさ。
これで十分幸せなのに。
肩で息をしているのをなだめて、落ち着かせて。
頬を染めて。潤む瞳。いいな。
朝からなんて、と詰る唇にキスをして文句を封じる。
寒くなくなったでしょ?というとペチッと額を叩かれた。
先生は肌襦袢、長襦袢を着直して、取敢えずは私の着物を着た。
部屋で着物に着替えてくるという。
まあ対丈の着物だとちょいと着易いから着てってくれていいんだけどね。
八重子先生に出会ったら昨日してたの丸わかりというね。
とりあえず布団片付けるか。
身づくろいを済ませて台所へ顔を出すと八重子先生が支度をしている。
「おはよう。遅かったね」
「おはようございます。風雨の音が凄くて寝過ごしてしまいました」
「絹は?」
「女性は身づくろいに時間かかりますしね」
ってもういいや、一緒に居た前提だな。
手伝ってると絹先生も来た。
「遅くなっちゃったわ~、お母さんおはよう」
「あ、手伝うよりそろそろ孝弘さん呼んできてくださいよ」
「はいはい」
食卓に配膳して行く。
台所に戻ると八重子先生に手招きされて、近寄ると腕にガーゼを貼られた。
噛み痕が袖から見えてみっともないそうだ。
これは朝からしてたのもばれてるのかなあ…。
食卓につき朝ごはんをいただく。メシがうまい。
メシが終わったら嵐のあとの片付けだな。
きっと庭が枯葉で凄いことになってるだろう。
食事の片付けをして絹先生が洗濯に忙しくしている間に庭掃除をする。
やっぱり枯葉に枯れ枝が随分吹き込んでいるな。
洗濯物を干す絹先生に見とれて手が止まっていたら八重子先生に叱られた(笑)
さっさと片付けよう。
洗濯だけは手伝わせないのは下着の存在の模様。
私もいつも持って帰って洗ってるからなあ。
特に律君は嫌がりそうだ。
さて濡れ落ち葉は燃やすと煙ばかりで始末に悪い。
晴天だからしばらく纏めておいて置くか。
しかし裏が山だし木造だから焼却炉置いたほうがいいと思うんだけどなあ。
ま、今は律君がやってくれるからいいんだろうけど。
休日のゆったりした空気っていいなあ。
「お昼は何にしようかねえ」
なんて会話も仕事している日には聞けないし。
ここに来ない日は食わずに寝たりするし。
「お母さん、ちょっとー」
おや、この声は…環さんかな。
「あら、お客さんだったの?」
「いやこの子はいいんだよ、どうしたんだい?」
「姉さん、どうしたの?」
「開の事なんだけど…」
お茶を出して、部屋に控えていることにする。
というか畳にごろ寝。
秋の空だなあ。
うとうとしてたらお昼ご飯と呼びに来た。
無意識で引き寄せる。
「キャー!」
ん?慌てて起きたら環さんだった。
「すいません、寝ぼけました!」
「なんなの!?」
「どうしたんだい?」
あー、八重子先生いいところに。
「いや声が似てて…」
「はいはい、ご飯できてるから早くおいで」
ハイ。
環さん怖いんだよなあ、俺。
というかなんで環さんが呼びにくるんだ。
そそくさと食卓に着いたがずっと睨まれている。
とほほ。
気まずいままお昼ごはんをいただいて。
すぐに環さんは帰っていった。
台所で片付けをしていると絹先生が来た。
「さっき姉さんと何かあったの?」
「…間違えたんですよ。声。
それに部屋まで来るのは八重子先生か絹先生と思い込んでましたし」
「そんなに似てるかしらねえ」
「口調でわかりますけどね。寝ぼけてたんでご飯しか聞こえなくて」
「やあねえ」
くすくす笑ってる。
片付け終わったその手で先生の頬に触れる。
「冷たいわ」
おっとそりゃすいません。と思いつつキスをする。
「山沢さん!あんたするなら部屋でしなさい!」
ぎゃっ!八重子先生いたんだ!?
絹先生は慌てて台所から逃げた。今日は調子が出ないなぁ。
「すいません、つい」
「なんでそんなにしたいのかねえ、あんたは」
何でっていわれてもなあ。
「付き合いだしてすぐってそういうもんじゃないでしょうか?」
納得されたようだ。
居間に戻ってお茶をいただく。
「絹。あんた今から山沢さんの家に行きな。山沢さん、いいだろ?」
「お母さん? どうして?」
「かまいませんが…?」
「いいから、泊まっといで。明日の稽古は良いよ。土曜の稽古に間に合えば」
えーと、それはそのー、3泊でしまくっていいという?
絹先生、顔、赤い。
「ほら、早く用意しといで」
パタパタと用意をしに部屋に戻られた。
「あの、いいんですか?」
「孝弘さんに見られるよりは良いだろ」
なるほど。
見られたところで多分孝弘さんは問題ないと思うが、絹先生がなあ。
「それに…やっぱりこの家は人出入りも多いからね」
でも覚さんや開さんなんかは理解有りそう。孝弘さんの中身知ってるし。
先生が戻ってきた。それでは先生をお借りして。
すっごく先生が恥ずかしそうなのにそそられつつ電車を乗り継いで我が家へ。
途中、食材を買い込む。
うわーなんか楽しい。同棲してる奴ってこういう楽しさがいつもか。
買物袋を提げて自宅へ。先生を部屋に上げて食材を冷蔵庫にしまった。
もう3時半だ。
先生にお茶を入れて、一服。
少し冷えるな、ストーブつけよう。
暖かいほうが脱がせやすいし。
いったん落ち着く。
「ちょっとびっくりしました…その、泊まって来いっていうのは」
「私もよ。まさか、ねえ…」
「でも正直なところ嬉しいです。やっぱりその、声とか聞きたいですし」
先生は一気に赤くなってしまった。
「家だと我慢されてるでしょ?いやあの我慢してて漏れる声も好きですが」
やはり我慢できないほどにしてみたい。
「ばか、もう」
恥ずかしがってて可愛い、可愛すぎる!
引き寄せて抱きしめる。
「そうやって恥ずかしがってるところ、可愛い。好きですよ」
「やあね…からかわないで」
「からかってなんかいませんよ。抱きたいって思ってるだけです」
耳をかじる。
ビクッとして顔を上げた。
唇にキスをする。
むさぼるように何度も深く。
離すと息が荒い。
ベッドのある部屋に連れて行く。
解いた帯や脱いだ着物をハンガーにかけて、一糸纏わぬ姿にする。
美しい。まじまじと見ると恥ずかしがって嫌がるが、綺麗だ。
姿見の前に連れて立たせる。
背中側に立ち後ろから乳房をなで、私の指が先生の乳房に食い込む姿を見せつける。
息が荒い。
乳首をつまみ、こねると早くも声が出る。
視覚に煽られるというやつだな。
下腹部に指を伝わせ翳りをかきわけるともうすっかり濡れている。
ベッドに座らせて足を開かせた。
やはり背後から弄るさまを鏡に映してみせる。
「こんなのいやよ、恥ずかしい」
というがいつもより良く濡れて、好い声が出ている。
お、軽く逝ったらしい。でも手は止めてあげない。
足を閉じようとするが、がっちりと私の足で閉じれないようにする。
中に指を一本差し入れて探る。
少ししてもう一本追加する。
好い声が出るようにあちこち探ってゆく。
指を一度抜いてベッドに伏せさせる。
手をつかせ腰を持ち上げて膝立ちにさせた。
そのまま後ろから舐めると好い声が聞こえる。
指を再度入れて楽しむ。
また逝ったようだ。さらに続ける。
ついている手では持ちこたえられなくなったようで突っ伏している。
声はさっきから止まらない。
腰も私が支えているからあがっているだけで脱力している。
限界を探るように、好いポイントを刺激する。
しばらくして不意に力が入り痙攣、どうも限界のようだ。
指を抜いて掴んでいた腰を下ろし足を伸ばさせた。
荒い息。背中を撫でる。
涙目だ。美しい。
もう一度したくなるが我慢だ。
時間はまだ沢山ある。
少し息が落ち着いてきたその唇にキスをする。
「もう…ひどいわ…こんなの」
「おや、まだ序の口のつもりだったんですが」
「ええ?何をする気なの?」
「もっとすごいこと。色々したいですねえ」
頬を染めて可愛い。
「2、3日立てなくなるくらいしたいですね」
「そんなの困るわ…」
まあ自分の体力も持たないが。
暫くからかったりして、会話を楽しんでいると空腹、そろそろ6時か。
「先生、どこか食いに行きませんか」
まだ立てないほどはしてないはずだぞ。
シャワーを浴びさせて、着替えさせるとやはり美しくて。
少し私の着付けを手直しされて。
近くの割烹で飯を食うことにした。
それなりに流行っていてそれなりにうまい店だ。
お酒も頼んで、うん、うまい。
先生も上機嫌だ。
酔客に絡まれるような店ではないので安心して飯が食える。
ああ、うまかったー。と店を出るとやや寒い。
ショールだけの先生は寒そうだ。私の羽織を着せる。
「前も借りたわね」
ああ、あったなあ、そういうこと。
ほろ酔い加減がさめないうちに部屋に戻ってきた。
もう少し飲みたいので先生もどうかと誘う。
冷蔵庫から日本酒の瓶を出し盃を渡す。
まずは先生に一献。お注ぎする。
先生から私に。
何度か盃を交わして、いい感じに酔った。
先生が私にキスしてきた。
色っぽいな…。
くらくらする。
先生は立って着物を脱ぎ始めた。
ぎょっとしたがすべてを脱いで浴衣に着替えている。
ああ、なんだ吃驚した。
鼻歌交じりに着物を片付けて、それから私の膝の上に横向きに座った。
…え?
「ねえ、山沢さん?私とするの、好き?」
「え?あ、はい、好きですよ?」
「じゃ、しちゃ駄目っていったらどうするかしら?」
「困りますね、きっと」
「じゃあ駄目」
と言って先生はふふっと笑っている。
「困りますけど、したいんだからしちゃいますけどね」
胸の合わせに手を差し入れるとその手を叩かれた。
「だめよぅ」
くすくす笑ってる。
なんだこれは、焦らされてるのだろうか。
「なんで駄目なんです?」
「だってたまにはしないでこうしてたいもの」
ああ、なるほど。そういうことか。
先生からキスされる。
くっそ可愛くてやりたくて仕方ない。
先生の腕を撫でて我慢しよう。
「山沢さん、あったかいわ~」
はいはい。
体温高いですよ、発情してますからね。
先生が私の懐に手を入れた。
「寒いんですか?」
指が冷たいな。
手を伸ばして先生の足袋の上から足指をなぞる。
ああ、ちょっと冷えてる。
「暖房の温度、上げましょうか?」
「ううん、こうしてて…」
「抱かれればすぐに温まりますよ?」
ぺちっと額を叩かれた(笑)
笑ってしばらく密着する。
先生の静かな呼吸の音を聞いて、冷えている腕や足をさすって。
落ち着きすぎることもない程度に先生にイタズラしかけられて。
何度目かのキスをされたとき、ベッドに連れて行きますよ、と声をかけた。
うん、と先生が答えて抱えあげ連れて行く。
寒いから浴衣は着せたままでいいだろう。
そっとベッドの上に降ろして覆いかぶさる。
「どうして欲しいですか?優しく?強く?それとも酷く?」
「聞かないで…山沢さんの好きにして…」
「いいんですか?酷いの一択ですが」
「ええっ…酷いのは駄目よ」
思わず笑っちゃったじゃないか。
「はは、やっぱりあなた、可愛いですね。優しくしてあげますよ、酷い事」
うなづいて、しばらくして。
「だから酷いことは駄目よぅ」
ああ、気づいた(笑)
「酷いことってどんなことでしょうねえ」
「…お尻、嫌よ?」
「他には?」
「…縄、とか」
「他にはありませんか?」
「…道具?」
「よく出来ました、全部やってあげましょう」
顔が引きつって逃げようとしてる(笑)
「冗談です、しませんよ」
さっき焦らされたお返しだ。からかっちゃった。
耳を撫でて。
キスして。
優しく、優しく抱いて。
気持ち良いところは焦らさず。
好い声を沢山聞いて。
好きだ、愛してると囁いて。
先生が幸せそうに微笑んでくれて。
嬉しくて、幸せで。
終わった後もそのまま抱きしめて寝てしまった。
翌朝は仕事のため布団に先生を置き去りにする。
まだ幸せそうに寝ている。
そういう顔を見ているともう一度やりたくなるの半分、幸せなの半分。
取敢えずは仕事がんばってこよう。
書置きと、足りないものがあればと手文庫から数万円置いて行く。
職場はまあ、暇…。
早く帰って続きがしたいものだ。
携帯が鳴って取ってみると先生からだ。
『ねえ、このあたりに割烹着売ってるところないかしら。忘れてきちゃったの』
「ありますが多分たどり着けませんよ?私帰るまで待てます?」
『うん、朝は浴衣のままだから紐を襷にかけてしたんだけど』
「そんじゃ買って戻ります。あと今日はアコと足赤えび持って帰る予定なんですが」
『あら美味しそうね。割烹着はお願いね。待ってるわ」
暇な間にいくつか電話して持ってるか聞くと、やはり持っている店があった。
まあ無ければないでちょっと足伸ばして百貨店か大型ショッピングセンターにでも
行けばあるはずだが。
仕事が終わり、帰りに店によって買って帰る。
色が無くてねえ、と渡されたのは白色。うん?普通は白じゃないのか?
どうやらグレーとか臙脂とか水色とか有ったらしい。
白が一番いいじゃないか、清げで。ちゃんと洗濯されてたらの話だが。
割烹着を持って、魚も持って足早に帰宅する。
ドアを開けるとおかえりなさい、と言われて嬉しくなってただいま帰りました、と返す。
割烹着を渡して魚を冷蔵庫にしまう。
下処理は会社でして来た。
アコのあらを出汁用に持って帰ってある。
というと早速出汁を取るからと割烹着を身につけられた先生に渡す。
「もう焙ってあるの?」
会社で焼いてきた。家でやると掃除が面倒くさい。
先生に台所をお任せする。狭いから二人で立つには邪魔になる。
ふと窓を見ると…うわあ、洗濯干されてる。
うぅ、なんか恥ずかしい。
シーツも洗って干されて掃除機がかけられていて。
嬉しいけど恥ずかしいじゃないか。
「山沢さん…あのお部屋…」
先生はちらりと連れ込んだことの無いはずの部屋に視線を走らせる。
「ごめんね、見ちゃったの。ちょっと吃驚しちゃったわ」
…道具一杯出したままだったよ。
「使いましょうか?今から」
もうへこたれて床に寝転んでしまった。
あー、着替えなきゃなー。
「……聞かなかったことにするわ」
はいはい。そーしてください。
取敢えずは着替えてシャワーを浴びよう。生臭い。
「ねえ山沢さん?アコのあらってそのままあら煮にしてもいいんじゃなかったかしら?」
ん?そうだった気もしなくもない。
ちょいちょいとノートパソコンからキジハタを調べる。
なるほど潮汁もあら煮もよいとある。
シャワーを浴びる。ざっと洗ってすすぎ、温まる。
どうしても冷えるんだよなあ、職場。
風呂を出てささっと拭き、浴衣を羽織る。
台所へ行くと先生は調理中だ。
包丁も火も使ってないのを確認して後ろから抱きつく。
「あっ駄目よ、もう。包丁使ってたらどうするの」
「ちゃんと確認済みですよ」
今日のお昼ご飯は鮭のムニエルだ。
ちゃんちゃん焼きにしようと思って冷凍庫に突っ込んであった奴だな。
うまそう。
「もうできるわよ、机の上片付けてね」
はいはい。
片付けて台拭きで拭いて。
先生ががムニエルのお皿ともう2品ほどを渡してくれるのを並べて、
昨日一緒に買ったお茶碗を渡し、お箸を並べ、取り皿をを置く。
ふふふ、夫婦茶碗である。お箸と湯飲みもおそろいだ。
ご飯をよそって貰った。
お櫃が無いからなあ、この家。
先生がお茶を片手に台所から戻ってきて、座って。
お茶をついで。いただきます。
ムニエルとか面倒くさくて長いこと作ってなかったなあ。うまい。
ふんわりとしてて、よくこんな面倒なもの作るなぁとまじまじと先生を見てしまった。
「どうしたの?」
「いや、美味いな、と。私こんなに手間かけるの面倒で。だから今幸せです」
てきとーに作ると固くなるんだよなー。
ああ、先生も照れている。
他の二品も美味しくて、家でしっかり昼を食べるなんて久しぶりだ。
前回しっかり食ったのも先生に作ってもらったときだったな(笑)
完食。ごちそうさまでした。
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