御節をいただいて暫く団欒の後、皆さん帰られた。
司ちゃんと晶ちゃん、律君が残って部屋で騒いでるようだ。
絹先生が書初めしようと言うので用意を手伝う。
山沢さんも、と言われて。さあ困った。下手なんだよなあ。
初春、と書いた。
先生に書道を習いなさい、と言われてしまった。
人に教えるようになれば字を書かねばならないことが増えるからと。
「通信教育とかじゃだめですかねえ…」
「いいんじゃない?うちにきたときにすればいいわよ」
どこか探すか。
「先生は段位とかお持ちじゃないんですか?」
「初段くらいなら持ってるわよ。学校でとったもの」
「先生に教えていただくことはだめですか?」
「無理よ」
ばっさり断られてしまった。
「だって律君も字が上手じゃないですか。先生が教えられたんでしょ?」
「教えてないわよ」
ええ~。
「だって身内になんて甘くなって勉強にならないもの」
「そうだねえ、絹にお茶を教えるのも結構大変だったねえ」
あ、八重子先生。
「私の教えてもらった頃は先生は物差片手に持ってねえ、怖かったものだよ」
「今それやると生徒さんいなくなりそうですよね…」
「山沢さんなら耐えれるんじゃない?ふふ」
「え、いや、ちょっと遠慮します」
「今年からはビシバシといこうかしら」
「これからは先生の資格取るんだからねえ、そうしたほうがいいかもね」
うひー、怖いなぁ。
八重子先生もさらっと書かれる。草書か。読めん。
和顔愛語、と書いたらしい。
もう一枚、半紙に寿と書いてみた。
「あら、これはそれなりにいいわね」
「永、と書いてごらんよ」
書いて見る。
「うーん、別段悪くはないねえ…なのになんでああも下手なのかねえ」
なんででしょうね。
あれやこれや書かされる。
払いがだめだとか、横棒がまっすぐじゃないとか。
一文字一文字はまだ見れるが二文字になるとバランスが悪いとか。
先生が上から握りこんで、払いを。あ、こういう感じなのか。
「力、入りすぎなのよ。いつもそうだけど力任せじゃだめよ?」
「ああ、力があるとそれに頼りがちになります。柔らかいものも強く握ってしまったり」
先生の手に更に左手で触れた。先生がビクッとする。
ゴンッと拳骨が頭に落ちた。
八重子先生だ。
痛くはないけどね。
交代して八重子先生が私の手を握りこんで草書でなにやら書かれる。
何か面白い感覚。
まったく読めないが。磨穿鉄硯と書いたそうだ。
意味は?と聞くと鉄の硯に穴が開くほどの努力とか。
つまり俺に努力しろと言うことですね、どれとは言わないが。
ひとしきり色々書いて片付ける。
先生の手に墨がついている。私も付いてた。
一緒に洗いに立った。
「先生、手、また荒れましたね」
「どうしても水仕事するから…山沢さんはざらついてるけど切れなくていいわね」
「仕事柄脂っ気があるんですよね。だから切れにくいんです」
そっと手を取りひび割れたところを舐める。
「だめよ。ほら、手を洗って」
「はい」
手を洗ってついてないか確かめる。先生もついてないか確かめて。
拭いて、先生の頬に手をやりキスした。
頭を撫でられてもう少しだから我慢するように言われ、居間に戻る。
お酒を飲みつつ、つまみを食べつつ更け行く。
夜ご飯に御節。そろそろ先生も飽きてきたようだ。
作るほうはそうなるよね。
俺は美味しくて手が止まらないけれど。
なますと叩きごぼうはすでになく、田作りもなくなってしまった。
今晩は空いたスペースにりゅうひを詰めた。
鯛りゅうひと平目りゅうひ。
律君や司ちゃん、晶ちゃんは初めて食べるようで恐る恐る食べている。
先生方は一度懐石で食べたことがあるそうだ。
なるほど出てきそうな気がする。
飲んで食べて。
先生と律君が同時にあくび。
気が緩んでるね、みんな。
司ちゃんも晶ちゃんもお泊り。同じ部屋でと言うことだ。
皆が部屋に引けたので戸締りや火の用心をして先生とゆったりと飲む。
足を崩して私にもたれかかってお正月番組を見ながら飲んでる。
可愛い。
もう膝の上に乗せたい。
見ている番組が終ったので部屋に連れ帰る。
布団に入れて抱きしめているとあっという間に先生は寝てしまって、参った。
沢山人が来ていてそれが兄姉であってもきっと気疲れするのだろう。
仕方なく先生の体臭を楽しむ。ちょっと酒臭い。
そのまま寝てしまった。