先生がこれは弟子でと断りを入れている。
二人になったところで、先生がこちらを伺うような目をする。
「あの…気にしないでね?」
「ん?どうしました?」
「ただの弟子って言っちゃったから…」
「あぁ、あれはそう言うしかないでしょう」
「ごめんね」
「それより八重子先生は気を使ってくれたんですね。あなたと二人になれるように」
「そう…かしら」
「きっとそうですよ、俺、あなたと買物してるの結構好きです」
「どうして?」
「あなたと何を買おうって会話がなにか楽しくて。あなたはどうですか?」
「私…も好きよ。あなたの食べたいものを買えるもの」
ゆっくりと帰ろう。
「どこかこのあたりに部屋借りようかなぁ…」
「ん?どうしたの、急に」
「ご兄姉や司ちゃん晶ちゃんが来たときにあなたを抱ける場所が欲しい」
「あ…」
先生は顔を赤くして、袖で顔を覆った。
「可愛いな…。そういう場所、あったらどうです?抱かれてくれますか?」
「……えぇ」
「嬉しいな。開さんに相談してみましょう」
「えっ兄さんに?それは嫌よ」
「嫌ですか?」
「その…するために部屋を借りるなんて。兄さんに知られるのは嫌よ」
「何をバカ正直に言う必要があるんですか。
皆さんが居るときの俺のごろ寝と安眠場所として借りる、でいいんですよ」
「あっ、そ、そうね、そういえばいいのよね」
ああ、もう。いちいち可愛い。
なんだかんだ喋りつつ、家についてしまった。
台所に下ろす。
「絹ー?帰ったの?山沢さんちょっと手伝ってー」
「はいはい、なんでしょう」
茶室へ行くと、釜が上のほうにあっておろせないとのこと。
確かにあの釜を頭上からおろすのは女性の苦手とするところだろう。
下ろして中を確認。
これでよかったようだ。
「司さんも初釜のお手伝いなさいますか?」
「えっいや、私っ大学あるんで、それにお茶わからないしっ」
「司にはまだ無理だよ。それより絹は?」
「なぁに、おばあちゃん」
水屋にいたようだ。
「ああ、ちょっとおいで。この釜にしようと思うんだけど重さ、大丈夫かねえ?」
「初炭は中野さんに、後炭は平田さんにお願いしたから大丈夫と思うけど」
「ああ、あのお二人ならいけますよね」
「もし危なそうなら山沢さんが手伝えばいいわよね」
「はいはい」
初釜の準備や打ち合わせ。
女手が有ると凄く助かるんだなぁ。
「懐石は頼んだしお菓子もお願いしたし…」
「あれ、先生、煙草盆の中身がありませんがいいんですか?」
「あっそういえば蛇が出て困るからって使っちゃったんだわ。どうしよう」
「蛇は確かに煙草を嫌うといいますが…この辺に売ってる煙草屋ありましたっけ?」
「吸わないからわからないわ」
「とりあえず私の入れときましょうか。売ってるところ見つけたら買ってきます」
「そうしてくれる?」
「山沢さんって煙草吸われるんですね」
「この家だと司さんのお父さんは吸われるんでしたっけ?」
「そうそう、覚は吸うよ」
「そろそろお夕飯の支度しないといけないわねえ。山沢さん手伝ってくれる?」
「はい。八重子先生、重いのあったら呼んで下さい」