台所へ行ってお手伝い。
あ、電話。
絹先生が電話を取って何か話して戻って来た。
「お父さん帰ってくるみたいだから多めに炊かなきゃいけないわね」
7合でよかったかな。
お米をかして、セットする。
いつも思うが大量で、毎回これをやってるのは凄い。
野菜を洗う。俺が居るときは水を触るのは俺。
手あれしないし冷たい水には慣れてるから。
先生の手は以前に比べれば少し、手あれがマシになったという。
後は先生の指示に従えばうまいメシにありつける。
「ねえ山沢さん。煮物できるようになった?」
「う、チャレンジしてないです」
「明日お昼にしてみる?」
「遠慮したいです」
「だめよ、出来るようにならなきゃ」
「先に司さんに覚えてもらいましょうよ」
「そうねえ、律のお嫁さんになるならね。でも今は山沢さんに覚えて欲しいわ」
うーん。味覚が違うからなぁ。難しいんだよね。
味見。うん、俺ならもっと砂糖と醤油を入れてしまう。
基本的にみりん・醤油・酒・砂糖を同率で煮炊きすることが多い。
だから薄味に作る習慣がない。
「今なら懇切丁寧に教えてあげるわよ。それとも厳しいほうがいいかしら?」
「…わかりました、明日でいいです」
「厳しいほうが覚えられるんじゃないの?うふふ」
たしかに覚えられるけど敢えて厳しくされるのはなぁ。
「お茶だけでいいです、厳しいの」
くすくす笑ってる。
作り終えた頃、律君と孝弘さんが帰ってきた。
司ちゃんと先生が配膳している間に調理道具を洗う。
お夕飯をいただき、司ちゃんは律君の部屋へ。
孝弘さんは居間でごろ寝。
私は食器を洗う。
先生方は初釜の細かい打ち合わせ。
洗い終わって戻ると、今度は着物の話に。
女の人はこういう話題好きだなあ。
「去年はあなた訪問着着てたけど今年はどうするの?」
「袴じゃいけませんか」
「いいわよ、それで。でも華やかさが足りないわよねえ」
「司さんか晶さんがやっぱりいいのでは」
「…司ちゃんねぇ。律のお嫁さんになって欲しかったんだけど。彼がいるのよねぇ」
「ホッシーを婿にして司ちゃんにこの家に来てもらう手もありますよ」
「あら」
「そうすれば孫も沢山見られていいかもしれませんね。いや本来なら姪孫ですが」
「でもそれじゃ…」
「ん?どうしました?」
「司ちゃんの彼とあなたとの関係が難しくないかしら」
「…いや律君の嫁さんとでも同じですから、それ」
「あらそう?」
「まぁそのあたりはよく話し合われたほうがいいでしょうけど」
「あんたが開と結婚してもそれはそれでいいと思うけどね」
「えっ?八重子先生?」
「お母さん…またそんなこと言って。山沢さんだって困るわよ」
「ははは…」
「だってねえ、いまのままの環境でいいんだもの。私と絹が料理を教えるくらいで」
「まぁたしかにそうですがお華はどうするんですか。私じゃ無理ですよ」
「あぁそうだったねぇ。そこは司か晶か」
「やっぱり同居しないと駄目じゃないですか」
「あららら」
むくりと孝弘さんが起きて部屋に帰っていった。
ふぅと息をつけばやはり緊張するんだね、と八重子先生に言われる。
一応なぁ、旦那さんだし。口滑らせたらアレは気にしないだろうが先生方がなぁ。