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百鬼夜行抄 二次創作

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伶(蝸牛):絹の父・八重子の夫 覚:絹の兄・長男 斐:絹の姉・長女 洸:絹の兄・次男 環:絹の姉・次女 開:絹の兄・三男 律:絹の子 司:覚の子 晶:斐の子

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20

何度かのお稽古日が過ぎた。
今日は芝居を見に行く日である。
私の仕事時間の関係で、現地近くで待ち合わせとなる。
一旦帰宅し、シャワーを浴びて着替える。
10月に入ったから袷だ。胴抜きにしてある。中は絽の長襦袢にしよう。
お召に羽織で良いといってたからそうしよう。
先生は付け下げか訪問着って言ってたな。
楽しみだなぁ。
わくわくしつつ、家を出る。
デートだ♪
待ち合わせ場所に40分も早く着いた。
先生は携帯を持ってないからちゃんとわかる場所にいなくては。
待つ時間も楽しい。
と思ったらすぐ来られた。
付け下げにされたようだ。綺麗です、と褒めると、あなたも格好良いわ、と言われた。
時間が早いのでお茶を飲みに行くことにした。
実は先生は先日会場に行ったそうだ。
下見ではなく、展覧会が有ったという。お茶仲間とだ。
京都で私は見ているが、お茶の先生としては見てはおかねばなるまい物。
お茶仲間の付き合いも大事だからね。うん。
言い訳みたいにしなくても良いんだよ。
可愛いなぁ。
さて。手水を使ったらばそろそろ入って席に着きますか。
うん、良い席だ。出やすくて、見やすい。
今日は小さいお茶を二つ、音の出ない甘いものをいくつか持ってきている。
大きいお茶は結構残して荷物になる&ガサ音は不快。でもなんぞ欲しい。
席について軽く見回すと知った顔がいくつかあるなあ。
先生に手出しはできないな、気をつけよう。
おっと開演前のブザーが鳴った。
暗転。今のうちと手の甲にキスをする。
照れてる照れてる、うんうん。
芝居を楽しむ。
時代だなぁ…今ならばどうだろう。
師を捨てて女を取るか。それとも駆け落ちでもするか。
月は晴れても、心は闇だ…。
すっと先生が私の手を握ってきた。
その手の上に、もう片方の手を重ねる。
あーキスしたい、そう思いつつ手の甲を撫でる。
私だけにわかる声で駄目、とささやかれた。
撫でる手を離し、芝居に気を戻す。
一流の役者の織り成す世界は良いなあ。
拍手の元、終了した。余韻。
先生の手を引いて会場の外へ出ると、時はちょうど頃合、料亭へと歩く。
うん、ここだな。
「予約していた山沢です」
どうぞどうぞと通されたのは個室。
懐石の順番どおり出てくる。どれも美味だ。
楽しく食事が終わり、支払いを終えて外へ出ると意外と冷え込んだようだ。
先生がふるっとした。私は羽織を脱いで包み込む。
「袖、通して…」
着せて差し上げる。
「このまま、私のうちへ来ませんか?」
はっと先生は私を見る。
「駄目…帰らないと…」
手を握って翻意を促すが、無理そうだ。今日のところはお帰ししよう。
手をつなぎ駅へ向かう。
帰したくない。だが駅についてしまった。
先生が羽織を脱ごうとする。それを押しとどめた。
「着て帰ってください。あなたに添えない私の代わりに羽織だけでも。
 帰り道にナンパ、されないでくださいね」
頬を染めて可愛いなぁ。
じゃ、また稽古の日に、と別れた。

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