お稽古日。
今日は何のお稽古かな。
ん?先生の表情が曇っている。
なにかあったのだろうか。
少し稽古が厳しい。
お稽古が終わった後、八重子先生と話していた。
先生は水屋に居られるようだ。
「あんた実は芸者に贔屓とかあるんじゃないのかい?」
「ああ、前は一人、毎週料理屋に呼んでましたよ。その芸妓はもう引退してしまって、
その人に頼まれたのを今は贔屓にしてます。最近呼べてませんけど」
ありゃ驚かれてしまった。
どうしたのか聞くと羽裏の件や車代の入れ方などからそう思ったそうだ。
あの羽裏はどこのかと聞かれた。西陣の織元に頼んだものだ。
思ったものがなかったから頼んでみた。
「おばあちゃん、お客さん」
律君が呼びに来た。
はいはい、と八重子先生が出てゆく。
私は水屋へ入り絹先生の手を取る。ふりほどこうとされる。
「嫉妬、してるんですか?」
「だって贔屓の女、いるんでしょう?」
「ただの話し相手です、芸を見に行くだけですよ、ああいうところへは」
「本当に?」
「ええ、あなただけです」
ほっとした表情をしている。信じてくれたみたいだ。
「そういえばなんで雅楽の楽器とお寺なの?」
ん?ああ、羽裏か。
「もともと雅楽は神社より寺とつながりの深いものなんですよ。
だけど結婚式のイメージとともに神社のイメージなんでしょうね。
菩薩っていう曲もありますよ。」
結婚式と越天楽のセットだよなー。
葬式用の越天楽もあるんだぜー。
くだらない話もしていると次の生徒さんが来た。
ではまた次のお稽古で、と挨拶して帰る。
帰り道、思わずにやけてしまった。嫉妬してくれるとはね。