次のお稽古のときに今週末のお稽古を休むことを言った。
珍しいわね、とおっしゃるが秋のおどりの会を見に行かねばならない。
お稽古日じゃなければ先生をお誘いするのだが…。
羽織を返してもらって帰宅した。
久々に京都へ戻る。
おどりの会を楽しみ、その後は得意先の料理屋に馴染の芸妓を呼ぶ。
久しぶりだと皮肉を言われつつ芸を楽しんだ。
店への支払いは現金で済ませ、ビジネスホテルに泊まる。
自宅に戻っても良いのだが長くあけている分、錆水とか面倒くさい。
寝るだけならビジホが楽だ。シャワーを浴び、寝た。
翌朝、東京へ。
新幹線の中で携帯が鳴った。珍しいな、先生からだ。
「どうしました?」
展覧会が今日までらしい。行けないかというお誘いだった。
時間を聞くと家に寄る時間はなさそうだ。
降車駅を変更して、シャツ売ってるところ探してシャツだけでも着替えるか。
降りるまでにどこにあるか調べると、駅直結のところにシャツ専門店があるようだ。
駅について慌しく売り場へ向かう。
おおよそのサイズで買いその場で着替える。
鞄に着ていたシャツを押し込んで急いで乗り換えた。
予定の車両に乗れた。一息ついてスーツを確かめ、きちっと体裁を整える。
整髪剤と手拭きを出す。ささっと櫛で整え手についた整髪剤を拭取る。
うーん駅についたら手を洗おう。
駅に降り立ち、手を清めてタクシーに乗る。
現地についてみるとすでに先生が待っていた。
「お待たせしてすいません」
「ううん、急にごめんなさいね、今日までだったの忘れてたのよ」
今日も綺麗だなあ。
手を取って入館し、観覧する。
あらかた見終わった頃。
「昨日はどうしてお休みだったの?」
「秋の温習会の時期でして花街の踊りの会を見に行ってたんです。
それと顔つなぎですね。」
「…馴染の方と、会ってたのね」
つねられた。
手を取るとその手を払われた。
怒ってるのか。可愛いじゃないか、おい。
退館してタクシーを待つが触れると手を振り払われる。
ムカっとしてきた。
タクシーに乗車し、先生が駅までというのをとどめ、あるホテルを指定した。
いわゆるラブホだ。
下車し、腕をしっかり掴み引きずるように部屋に入れる。
「いや…怖い…」
少し涙声だ。知るか、犯してやる。
「脱ぎなさい」
恐々と脱ごうとしている。
「早くしないか!」
ヒッと息を呑んで慌てて脱いで行く。
湯文字一つになった先生の腕を掴み、ベッドに投げ出した。
「胸に歯型でも付けてやろうか?コラァッ!」
私の迫力に押され、本気で泣いてしまった。
「ごめんなさい、ごめんなさい…」
泣く様子に我に帰る。まずいな、ブチ切れてた。
そっと手を取ると震えている。
「芸妓と会ってたくらいで嫉妬しないでください。
その人とはそういう関係じゃないんですから。私はあなただけなんです。
乱暴にしてすみません。」
そういって先生の涙を拭き、唇にキスを落とす。
まだ怖いみたいだがゆっくり優しく愛撫するうちに震えも落ち着いてきたようだ。
耳朶を甘噛みし、好きです、と囁いて力を入れず抱きしめる。
「ん…」
青かった顔色にも赤みがさしてきた。
このまま抱いてしまおうか。
逡巡、時計を見る。駄目だ時間ががが…。
ふうっと息を吐いて身を離す。
「帰りましょう。着物、着て下さい」
いいの?と言うが時間がなあ。
フロントに頼んでタクシーを呼んでもらった。
先ほど乱暴に脱がせた着物を着てゆくのを見る。
さすがに本職、着るのは早い。そして美しい。好い女だなあ。
タクシーに乗り駅ではなく直接先生のおうちへ向かってもらう。
ここからなら時間は変わらない。
だったら余人を交えず一緒に居たいじゃないか。
タクシーの中で先生の髪の乱れを整髪剤で撫で付ける。
うん、こんなもんだろう。
「うちへ帰ったら洗髪して下さいね」
手拭きを3枚くらい使ってやっと拭取れたほどの強い整髪剤だからね。
「今度、うちに来ませんか」
返答できないようだ。
手を握って無言のうちについてしまった。
先生を降ろして私は最寄の駅で下車し電車で帰宅した。