朝、起きる。
先生は布団にいない。
あれ?
寝過ごしたかな、と時計を見る。
そうでもない。
身づくろいして台所に行くと既にお味噌汁の匂い。
「おはようございます」
「おはよう」
「早かったですね」
「なんだか目覚めが良かったのよねーうふふ」
それはよかった。
「お手伝いすることありますか?」
「お膳拭いてお父さん起こしてきてくれる?」
「はい」
布巾を絞って食卓へ。拭いてお箸などを出す。
それから離れに行き、孝弘さんにそろそろ朝食と呼びかけた。
っと律君もいた。
「あれ?」
「司ちゃん遅くに来て僕の部屋で寝ちゃって」
「ああ、それでお父さんの部屋に避難?」
「他の部屋だと寒くて。夏はいいけど」
「八重子先生の部屋には行かないんだね、やっぱり男の子だなぁ」
「いやおばあちゃん朝早いですし」
そっちか。
居間に戻ると司ちゃんが配膳を手伝っている。
「おはよう、山沢さん」
「司さん、おはようございます」
「おばあちゃんも起こしてきてくれるー?」
台所から指示が飛ぶ。
はいはい、と。
珍しく遅いようだ。
八重子先生の部屋の前で声を掛けると良い所にきたと招じ入れられた。
どうやら髪とボタンが絡んで四苦八苦してたらしい。
ほどいてやっと八重子先生が着替えを再開できた。
帯をちょっと手伝って居間に連れ立つ。
「おはよう」
「ああ、おばぁちゃん、今日は遅かったわねえ」
「髪がねぇボタンに絡まってね。山沢さん来てくれて助かったよ」
「あらー」
座って先生にハイとご飯を渡されていただく。
今日は茗荷とナスの味噌汁、だ。
ちゃんと俺のは具なし。
と思ってたら麩が入ってた。嬉しいなあ。
にこにこと朝食をいただいて律君と司ちゃんは大学へ。
洗い物を片付けて戻ると孝弘さんも外出してしまったらしい。
八重子先生がトイレに立った。
「ねえ、昨日みたいなのだったらもっと年取っても大丈夫だと思うわ」
「え?ああ、昨夜のことですか」
「うん、あれなら。朝起きられるしいいわ」
「良かった、じゃ何年かたったら徐々に切り替えましょう」
「そうね」
ふふっと先生も笑って、俺も笑う。
いつまでこういう生活が出来るだろうか。