孝弘さんが食べ終わって台所へ食器を返し、洗い物を。
片付けて居ると先生が後ろに立つ。
「どうしたんですか?」
「さっきはごめんなさいね」
「なにがです?」
「お稽古。厳しくしちゃったから」
「普段がこうだから厳しくなるんでしょう。馴れ合っちゃいけない、と思って」
「わかってくれるの?」
そっと先生の手が背に触れる。
温かみを感じる。
「それくらいはわかってます。それに…。
内弟子が花月で怒られてちゃ様になりませんもんね」
「そうよ、そうなのよ。だからつい」
洗い物が終って手を拭いて居間に戻る。先生も横に。
…お酒、持ってきてた。
「飲むでしょ?」
先生が八重子先生に、その瓶を引き取って俺が先生に注いでそのまま俺のぐい飲みにも。
一口いただく。
う、辛口かこれ。
「お酒、どうしたんです? これ300mlじゃないですか」
いつもこの家にあるのは一升瓶だ。
去年沢山買ったやつとか、料理用とか。
「昨日帰り道の酒屋さんでね、フェアしてたのよ。美味しかったから買っちゃったの」
「先生が飲むくらいならこっちのほうが味がへたれないんでいいんでしょうね」
先生の杯が空いたので注ぐ。
八重子先生も美味しそうに飲んでいる。
うん、やっぱり二人とも辛口がすきなんだよな、俺に比べりゃ。
「あぁ、おいしいわ」
「あんた飲まないのかい?」
「…取ってきていいですか、別の酒」
「あら、口に合わなかった?」
「辛くて。むせそうです」
律君が通りすがりに笑ってる。
しょうがないじゃないか。
台所から割りと甘口の酒をコップに注いで戻る。
「あら、コップ酒? 飲みすぎないでよ」
ゆっくり飲んでると八重子先生があくび。
「先に休ませてもらうよ」
そういってお部屋へ。
それじゃ俺らも呑み終わったら寝ようか、と話す。
ゆっくり飲みながらニュースを見る。
「あら、首都高で火事?怖いわねぇ…」
ゴツい火事だな、大丈夫だったのかな、あの辺の奴ら。
律君が顔を出して戸締りはしたから、と言う。
「そう、ありがと。おやすみなさい」
「おやすみ」
律君が部屋に戻るのを見て少し俺にもたれてきた。
「後二口ほどですね、飲んで寝ますか」
「そうね」
くいくいっとあけてしまわれて、先に洗顔してくるという。
火の始末をして俺も部屋へ入れば先生が着替えている。
化粧を落としてトイレも済ませたようだ。
俺も寝巻きに着替え、布団を敷いた。
上に座ればするり、と身を寄せてくる。
ふふ、可愛いな。