「ちょっとこっち来てくれるかい」
一つ奥の部屋につれられた。
「その…、いつからだい?」
「…何がでしょうか」
バレたかついにバレたのか…。
「………絹と、そういう関係なんだろ?」
「…そういう関係とは?」
のらりくらりできぬものか…。
八重子先生は大変いいにくそうだが、心を決めたようだ。
「絹と…ふしだらなこと、してるんだろ…?」
私は足退して手を突く。
「申し訳ありません。そうです」
溜息が聞こえる。
八重子先生は私の前に膝を突いて、私の手を取られた。
「怒ってるわけじゃないんだよ。ただ確かめておこうと思ってさ」
あれ、すげえ怒られると思ってたのになぜだ。
「…仲秋、頃に襲いました。それから、です」
「講習会より前かい?」
「はい」
「絹から、じゃないんだね?」
「一度も絹先生からということはありません。私からです」
八重子先生はしばらく悩んでいる。
「わかったよ。他にはわからないよう、それだけは心得とくれ」
え?
「あ、あのっ、いいんですか?その、この関係…」
「…絹が嫌がったら別れてやってくれれば、いいよ」
改めて手を突く。
しばらくそうしてただろうか、居間に戻るよ、と声がかかる。
私も後について戻った。
居間では絹先生がお茶を飲んでおられる。
「二人で何してたの? 今日は大変だったのよ~」
と八重子先生に。
「なにかあったのかい?」
「電車遅延で生徒さんが遅れたんですよ」
「そうなのよ。町内会の方、山沢さんにお願いしてお稽古見てたんだけど。
その後もお客様いらして生徒さん待たせることになったりして大変だったのよ」
「円草でしたからちょっと私では…」
一人は初級だったから私でなんとかなったけど。
「ああ、そうそう、山沢さんの真之行、今申請しているからね。
もうちょっと待っててくれるかい」
前回は3ヶ月で届いたが半年かかったりすることもあるからなあ。
あれって大量に申請が届いての事務処理が大変なんだろうか。
だって手書きは日付と名前だしなあ。
「でも真之行するようになったら円草わからないって言ってちゃいけないわよ?」
「うっ…。精進します…」
もっとイメトレしてノート作ろう。
「真之行からはお稽古日増えるからね、いつでも稽古できるよ。
山沢さんの職場が近かったらうちから通えばいいんだろうけどねえ」
さすがに始発すら間に合わないからなあ。
しかしなんだってこんなに好意的なんだろう。わからない。
「さて、あたしゃもう寝るよ。火の始末とか頼んだよ」
八重子先生はそういって部屋に戻られた。
絹先生もちょっとお疲れだ。
私は戸締りを確かめ、火の始末をする。
居間に戻ると絹先生がうつらうつらしている。
肩をつついて部屋で寝るように奨めたが私にもたれかかって寝息を立て始めた。
抱えあげて私の寝間に運び、着物を脱がせて布団に入れる。
気持ち良さそうに寝ているなあ…。
着物を片付け、私も寝巻きに着替えて横に転がると、眠りに引き込まれた。