「んん…」
先生の寝返りで目が覚めた。
気持ち良さそうな寝息だな…じゃなくて外が明るい。寝過ごしたか!
時計を見る。6時すぎ。
「先生、起きて。寝過ごしてますよ」
揺り起こすが起きてくれない。
…仕方ない、私だけでも台所手伝いに行くか。
身づくろいをさっと済まし、慌てて台所へ行くと八重子先生に叱られた。
「昨日は何もしてませんよ!戸締りして戻ったらもう寝てらしたんですから」
ぼそぼそと言い訳をしながら朝御飯の用意を手伝う。
ある程度整ったので孝弘さんを呼びに行く。
居間に戻ると律君がお母さんは?と八重子先生に聞いてる。
ただの寝過ごし。と説明してごはんをよそって、お味噌汁を出す。
ふーん、と食事を取る律君、微妙に視線をこちらに送る八重子先生。
早く起きてきてくれないだろうか…。
食後、律君は大学のご友人と遊びに、とかで出て行ってしまった。
八重子先生の入れてくれたお茶をいただいていると絹先生がやっと起きてきた。
まだ何か眠そうだ。
「おはようございます」
「おはよう。寝過ごしちゃったわ。お母さん、ごめんなさいね」
……。
「ちょーっと私、庭のほう居ますんで」
ええい、居辛いっ。
庭に出てついでなので掃除していると八重子先生が絹先生に何か言ってる。
絹先生は青ざめてる様子だ。ということはバレた件の通告か。
ああ、うなだれてる。
掃除が終わって居間に戻ると困った顔で見上げられた。
「ええと、まあ、そういうことで」
何を言ってるんだ私。
「お茶、さめたから入れなおそうか?」
「あー、いや、そのままでいいです。それで…どこまで話されたんでしょう」
「あんたから襲って、何回くらいして、いつだったかってところだよ」
うっ、それ娘に聞くかあ…?
「じゃ夕べは何もなかったのわかられました?」
「そうみたいだね、てっきりそうかと思ったよ…」
「やー、ほんと、戸締りして戻ったら寝てはるし起きはらへんし
部屋覗いたら布団敷いたーらへんしで私の部屋で寝ていただいたんですよ」
「…山沢さん、訛ってないかい?」
おっと!焦ったら素が出た。
「ところでいつから絹のこと好きだったんだい?」
「あー大体2年位前じゃないかと」
「そんなに前から?やだ、気づかなかったわ」
「こういうの気づかれてどうするんですか。
ってか八重子先生はどこで気づかれたんですか?」
「絹の態度だよ。贔屓の芸者の話のとき、絹が何か嫌そうな顔をしたのとか、
あんたに怒られて泣いてるのとか。あんたって客がいるのに昼寝してるしねえ」
「ははは…それは気づいてしまいますね」
絹先生は顔を赤らめている。
「で、なんでそれでもいいということに?」
「だってあんた、子供は出来ないじゃないか。それに…」
…あ。なるほど男ならガキ出来ちまったら困るが女同士では出来ようはない。
「それに?なんでしょう」
「孝弘さんがああだからね、仕方ないと思ってるよ」
まあ最初が誤認だしな。
俺と八重子先生が話しているが絹先生は赤くなったままうつむいて…可愛い。
そっと机の下で手を握る。
「ま、他にはわからないように気をつけとくれよ」
そういって八重子先生は出かけるからと居間から出て行った。