翌朝起きて先生が熟睡しているのを置いて行こうとしたがしがみつかれた
脱皮のごとく先生の腕に浴衣を残し着替えて台所に立つ。
さすがに昨日の今日で寝過ごすと八重子先生に叱られるからな。
納豆に焼き魚、お漬物、味噌汁、おひたし。
ご飯が炊ける良い匂い。
先生が起き出して来て食卓を片付けている。
八重子先生が起きだしてくるより早く起きてくれて助かった。
先生が律君を起こしに行ってる間に八重子先生も起きてきて配膳をすます。
孝弘さんも起きてきた。
普段どおりの和やかな朝食。
律君が大学へ行けば静かな日常。
「今日も草引きお願いね」
先生は俺に野良着と麦わらを渡して洗濯や掃除を始めた。
八重子先生は茶室の掃除に行ってしまった。
塩砂糖水を作りコップに入れておき、着替えて庭へ。
黙々と作業する。
喉が渇けばその水を一口飲む程度だが。
今日は曇ってどんよりとして…別に塩水にしなくても良かったかもしれない。
お昼になってご飯に呼ばれ、手を洗っておにぎりをいただく。
小さめのおにぎりだが中が全部違う。
俺のためだけに作ってくれるおにぎりもまた美味しい。
お昼からもそのまま草むしり続行だ。
先生は八重子先生と二人で掃除に余念がない。
これまではどうしても庭は後回しになってたらしい。
ま、俺が出来る間はしてあげても良い。
謝礼は美味しいご飯と先生の体ってことで。
あ、来客。
先生が部屋にお通ししてなにやら歓談されている。
暫くして喉が渇いた。
「先生、すいません。お茶下さい」
「はいはい、これで良い?」
先生の飲みさしのお茶を俺の湯飲みに移動して渡してくれた。
丁度ぬるくて飲みやすい。
ふぅ、と人心地ついてよく見たら安藤さんだ。
「こんにちは、安藤さん」
「あら? 誰かと思ったら山沢さん? そんな格好してるから驚いちゃったわ」
「今やんないと盛夏じゃ出たくもないですからねえ」
「絹先生ったら飲みかけたお茶渡されたからどうして?って思ったんだけど。納得だわ」
「猫舌ですから新しいの入れてもらったら悲しいですねー」
先生がクスクス笑いながら新しいお茶を入れている。
「じゃ続きしてきますね」
「ん、お願いね」
黙々と抜いてたら帰られた気配と、先生が茶室に行く気配。
後は夕方まで。
「ごはんできたよ、手を洗っといで」
八重子先生に呼ばれて野良着を脱ぎ、手を洗って着物に着替えた。
ごはんごはん。
お二人の作るご飯はやっぱり美味しくて。
塩気が足りないのは後で補えば良いだけのことだ。
夕飯を頂いてしばし団欒を楽しみ、一人さびしく帰宅する。
先生も少しさびしそうなのが救いだ。
だが帰り道思い出した。
6月だ。ホテル営業行かなくて良いんだった。
明日も会えるじゃないか。
にやり、とにやけたが幸い車だから見てる人もいない。
さびしい気分も吹っ飛んだまま帰宅して、寝る。