朝起きると空気がひんやりしている。
天気予報は昼から雨。
と言うことは客は買物控えめかな。
長袖を着て出勤する。
荷物は少なめだ。
やや暇ではあるものの、それなりに売れた。
ヨコワを一尾売り損ねたから持って帰る。
先生に食べてもらえば良い。
着替えて先生のお宅へ。
「こんにちは」
居間に顔を出すと先生が驚いてる。
「あら? 営業は良いの?」
「月替わりましたから。八重子先生、台所にヨコワあるんで今晩どうぞ」
「あ、ありがとう」
「今日はお稽古何されます?」
「ええとねぇ、そうね。荘物したいの」
「わかりました。支度しておきます」
「吃驚しちゃったわ。来ないと思ってたから」
「おや何か後ろ暗いことでも?」
「ばかなこと言ってないで支度して頂戴」
突き放されて水屋に入る。
雨音。
ついに落ちてきたか。
用意が終ったころ、生徒さんが来られた。
「こんにちは、降って来ちゃったわねえ」
「ええ、もう入梅ですね」
「辛気で嫌よね」
先生が入ってきた。
「先生、こんにちは。今日もよろしくお願いします」
「はいこんにちは」
生徒さんが支度を整え、先生も座られた。
お稽古開始。
湿度で空気が重い中、生徒さんが入れ替わり立ち代りのお稽古。
先生が少し倦んだ気配を見せた。
もう一人だから我慢して欲しいなあ。
目が合うと気配を払拭された。
ん、そうじゃないとね。
生徒さんが他のお稽古を終えて送り出す。
茶室に戻ると先生がもたれてきた。
「疲れましたか?」
「うん、ちょっとね。でもあなたのお稽古はするから」
「しんどいなら土曜でも構いませんが」
「良いわ、出来るときにしないと。だから用意してらっしゃい」
「はい」
ささっと用意をしてお稽古をつけてもらう。
「んん、まぁいいでしょ」
納得はされてない。
だがもう一度見てもらうのは今日は無理そうだ。
「そろそろ片付けるわよ」
そう仰ったがてきぱきとはされなくて。
ふと思い立ち額と額をあわせてみた。
「なぁに?」
「ん、熱はないですね」
ただの疲れか。
「まぁ、でも俺やりますからそこで座っててください」
「そう?悪いわね」
あれやこれや片付けていると先生が転寝しだした。
気を許してる感じが可愛くてたまらん。
すべて片付け終えて茶室と水屋の電気を消す。
そっと先生を抱えるようにする。
あ、いかん、ここでしたくなってきた。
だめだめ、と自分をいさめて抱え上げて居間へ。
座布団枕にタオルケットを掛けてあげておく。
「ん? 寝てるのかい?」
「何か疲れるようなこと朝ありました?」
「ああ、ちょっと町内会のことで色々あったからね」
台所を手伝って律君が帰ってきたので食事を取る。
先生が寝てるからごはんは八重子先生がよそってくれる。
「あんたのはレモンステーキとかいうのにしたからね」
雑誌で読んだらしい。
横では孝弘さんがおかわりをしている。
先生の分あるのかなあ。
なければまた味噌漬けにしちゃう?
「ちゃんと取ってあるよ」
八重子先生が察して教えてくれた。
ならいいか。
食事を終えて後片付け。
まだ先生は寝てる。
八重子先生は半襟をつけ始めた。
雨の日の手仕事、俺は入り込めない。そろそろ帰るか。
八重子先生にご挨拶して雨の中帰った。
雨の夜は好きじゃない。
おやすみなさい。