翌朝、よく寝ている先生を置いて出勤する。
朝のうちに帰るよう書置きをして置いた。
でないと今日は先生はお稽古がある。
暇な仕事をして食事を買って帰宅した。
当然鍵は閉まっていて人の気配はない。
ちゃんと帰ったようだ。
ほっとしつつも少しさびしい。
八重子先生はうちの嫁になれば立場が安定するというけれど。
会えない日にさびしいのは一緒なんだよなあ。
後お付き合いは最低1年くらいすべきではないかと思う、うん。
だからもう少し様子見て欲しいなぁ。
ん? メールが来た。
先生が笹を飾ったようだ、暇なら来て書くようにと
あー今日は七夕か。
夕方行くと返事をして少し寝て。
おやつの時間に起きて風呂に入って着替えて、電車に乗った。
夕飯の用意はしてくれるとのことだから楽しみだ。
最近先生が作る、と言うの食べてないからなあ。
浮き浮きして先生のお宅に着く。
「あら山沢さん、さようなら~」
月曜の生徒さんと玄関前でかち合った。
挨拶を交わして中へ入る。
「あぁ、来たの。居間に短冊あるから書いてね。ご飯は今から作るから」
「はい」
鞄を置いて居間に入ると机の上にいくつか短冊、そして硯と墨と筆。
んん、何を書こうかな。
一人3枚までとか書置きしてあるからとりあえず1枚は上達に関することを。
もう1枚はやはり仕事かな。
後1枚には先生とのことを書きたいが人目に触れてはいかん物はかけない。
けど書かないと拗ねられる気がする。
暫く悩んで書き始めた。
笹に括りつけて手を洗って台所へ。
「書けたの?」
「括りつけときましたよ」
「ご飯もうちょっとだから待ってて」
「あんた律に見られて困るようなこと書いてないだろうね?」
「いやーさすがにそれは書けませんよね」
笑い飛ばした。
暫くして雨に濡れた律君帰宅。
「もー参ったよー夕立」
「あら、おかえり。山沢さーーん、律にバスタオルやってくれる?」
「もう貰ったよ」
「お風呂入ったほうが良いと思うけど。凄いずぶぬれだし」
「そうね、入ってらっしゃい。ご飯まだだから」
そうするよ、と律君が風呂場へ行った。
料理の音って良いなぁ。
今日はご飯、なんだろう。
きっとおいしいものだろうけど。
「あ、ねえ、机の上片付けてお父さん呼んで来て頂戴」
「はーい」
言われたとおりして、呼びに行って戻ると配膳されていた。
うまそう。
「律が戻ったら食べましょ」
皆が席に着いて律君がタオル片手に戻ってきた。
いただきます。
うーん、やっぱりうまい。
胡瓜の酢の物に俺にはなますもつけてくれた。
暑いからさっぱりしたものが良いでしょ、と律君に言ってる。
珍しく揚げ物が並んでいる。
暑いのによくやるなぁ。
と思ったらフライパンで揚げ焼きにしたらしい。
その手の絆創膏はそういうわけか?
ご飯の後聞いてみたら違った。
朝、庭で転んだらしい。
「庭のつっかけが壊れちゃったのよね」
「でどうしたの?」
「お昼に買ってきたわよ」
「手はよく洗いました? 流水で」
「兄さんがいたからホースでしっかり洗ってもらったけど…痛かったわよー」
「でも土は良くない菌が一杯いますからね」
「うん、兄さんもそういってたわ」
「お昼って開さん何しに来てたの? お母さん」
「蔵の鍵貸してっていってたけど…何してたかは知らないわ」
少しお酒を取ってきて縁側に移動した。
「あまり見えないわねえ」
八重子先生が蚊取豚に線香を仕込んでくれた。
先生はうちわ片手に足を崩して俺にもたれてる。
律君も少しだけ飲んで、レポートがあるからと部屋に戻った。
もたれてたのがいつしか枕にされて、可愛いけど困るな。
このまま泊まるなら問題ないけど明日も仕事だし。
小一時間ほど寝かせて八重子先生が起こした。
「あんたそろそろ山沢さん帰さないと。これ、起きなさい」
「ん、もうちょっと」
「これ、絹、起きなさい」
「まぁ10時くらいまでなら何とかなりますから、電車」
「すまないねえ」
ゆったりした時間が流れ、先生が目を覚ました。
あふ、とあくびをして。
「さて、起きられたようですので私はそろそろ」
「あら帰っちゃうの?」
「絹、あんたもう11時半だよ。終電なくなっちゃったらどうするんだい」
「最近お疲れですね」
頭をなでて手を離させた。
「気をつけて帰ってね。明日またお稽古来るのよね」
「来ますよ勿論」
八重子先生が台所に消えた隙に軽くキスした。
頬が赤くなって可愛い。
「じゃ、また明日」
「ん、またね」
「八重子先生、失礼しますねー」
台所に声を掛けて玄関を出た。
振り向くと軒先で見送ってくれている。
手を上げたら先生も手を上げて。
戻りたい気分を抑え、帰宅し、すぐに職場へ向かった。