夜半起きて支度する。
先生が寝ぼけ眼ながら手伝ってくれた。
「じゃ、行ってきます」
「無理しないでね」
出勤して気遣われつつ、荷物は若いのに運ばせて売る。
売って売って売りまくり利益は結構に出た。
人を一人余分に使ってるからにはいつもより頑張った。
流石に冷えて少し痛む。
帰宅して先生と一緒にお宅へ向かう。
いつもなら先生を座らせて俺が立つのだが今日は俺を座らせようとする。
乗り換えも俺の手を引いてまるでいつもとは逆だ。
なんだか気恥ずかしい。
最寄り駅に着いて先生が少し悩んだ様子。
そのまま手を引かれてタクシーに乗せられた。
「バスにしようかと思ったけど…歩くの辛いでしょ?」
「あぁそれで。有難うございます」
先生のお宅の前で降りて、先生に連れられお邪魔する。
「あら絹先生。こんにちは」
「はい、こんにちは」
「お帰り、早かったねぇ」
「お邪魔します」
「もう大丈夫なのかい?」
「まだよ。だけど一人で家に置いておくの心配だから連れて帰ってきちゃったわ」
「だったら水屋じゃなくて見学だね」
「そうね」
お昼ご飯を食べてお稽古まで寝かされ、先生が支度をしてお稽古が始まる。
水屋に八重子先生が入られた。
「あら、今日はどうされたんですか。珍しい」
「この子腰を痛めちゃったのよねぇ」
「あらら~大変ですわねぇ」
今日は一日そんな話題をしつつのお稽古で。
俺のお稽古はなしで先生が夕飯を作る。
「出来たら起こしてあげるから寝てなさい」
「すみません」
やっぱりじっとしてるのも疲れるようで少し寝てしまった。
気づくと毛布が掛けられている。
「あら起きたの? ちょっと待ってなさいね」
「よく寝てたねぇ」
ゆっくり身を起こすと8時半を回ったところ。
「あー…寝すぎましたね、食事とっくに終られましたよね」
「あんたの分はよけてあるから大丈夫だよ」
「助かります。ありがとうございます」
座りなおすと温められてご飯が運ばれた。
うまそう。
「いただきます」
「どうぞ」
やっぱりうまいなー。
「あれ、今日って先生ですよね、ご飯」
「あらやっぱりわかる? そうよ、それはお母さんが作ったのよね」
「殆ど違わないのにねぇ」
「いやなんとなくですけど」
全部おいしく頂いて、ご馳走様! 箸を置いた。
「足りた? なにかいる?」
「いや満腹です。はい」
洗い物に先生が立って、八重子先生はお風呂へ。
寝転がると再度眠気に纏いつかれてうつらうつらとしてしまう。
「あら。こんなとこで寝ないでよ。あっちの家行きましょ」
「へ? え? なんで?」
「だってベッドのほうが起き易いじゃない」
なるほど。
「ちょっと待っててちょうだいね」
台所で色々と始末する音が聞こえて暫くして先生が戻ってきた。
「さ、行くわよ」
「あのー八重子先生に言わなくて良いんですか」
「あなたが寝てる間にそうしようって決めたのよ」
「なーる。じゃ参りましょう」
羽織を着せられ先生に手を引かれてあちらの家にはいる。
すぐさま先生が暖房を入れ、風呂に湯を張った。
「ほら、それ脱いでお布団入んなさい」
「あなたは? 一緒に寝てくれないのかな」
「お風呂入ったら寝るから。先に寝てなさい」
えー、と不満げにすると仕方ないわねぇと添い寝してくれた。
やっぱり先生の体の温かみとか、匂いとか。
そういうものは安眠に重要だ。
しっかりと巻き付いて寝た。
先生が風呂に入れるかどうかはわからないが。
おやすみなさい。