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百鬼夜行抄 二次創作

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伶(蝸牛):絹の父・八重子の夫 覚:絹の兄・長男 斐:絹の姉・長女 洸:絹の兄・次男 環:絹の姉・次女 開:絹の兄・三男 律:絹の子 司:覚の子 晶:斐の子

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「こんにちは」
「あら、いらっしゃい。今日は何かねぇ」
「ツバスにアワビ、それからこれ」
「…気持ち悪い」
「あはは、うまいんですよー」
「そうなのかい? あんたにまかせるわ」
「はい、任されました。先生は食事中ですか?」
「まだ茶室だよ。おぜんざいの番してるから代わってやってくれる?」
「あーー…今日は炉開きですか」
「忘れてた?」
「すっかり」
「あんた初炭だよ」
「はい、…出来るかな」
「絹が横にいるから大丈夫だよ。行ってやってくれるかい?」
「では」
ひたひたとひんやりした廊下を歩き水屋に顔を出す。
「先生」
「あ、いらっしゃい」
「こんにちは。おぜんざい引き受けますからどうぞ、お昼食べてきてください」
「あらそう? じゃ悪いけど」
すっと立って俺の横を通り抜ける。
「この間はごめんなさいね」
かすかにそう言って居間へ行った。
ちゃんと謝るのがいやなのかなんなのか。まぁいいか。夜で。
煮詰らない様、火加減をして待つ。
三々五々、生徒さんが集まりだした。
「あら、良い匂いねぇ」
「ほんとねぇ」
おいしそうなのかな?
暫くしてまずは八重子先生が来た。
そろそろ時間だ。
先生が来る前に集まった生徒さんの前で八重子先生が席を振り割りしている。
少し八重子先生が整理して先生が戻ったところでご挨拶。
「おめでとうございます」
茶人の正月とも言える炉開きである。
お正月の挨拶。
それから初炭に指名されているので私が立ち、諸道具を持って出た。
炉横に羽箒を置き、鐶を膝横、炭とり中心より左に、火箸を羽箒と炭とりの間に置いた。
香合を取り扱って鐶の横に置き、釜の蓋を閉め、鐶をかけ、紙釜敷を置き炉縁まで出る。
肘を膝につけて持ち上げ、肘を上げてから状態を起こし、釜敷に置く。
鐶を一旦釜に預け、一膝左へ向き釜敷ごとずるずると横へ移動させたら鐶を外し、置く。
炉に向き直って羽で炉縁、炉壇を清めたら火箸を取って下火の手前のを奥の五徳右へやる。
火箸を一旦戻して炭とりを移動させ灰器を取り湿し灰を撒いた。
再度羽で清めて炭をつぐ。
一番大きい胴炭は手で入れるので懐紙で拭く。
後は決まった所に良いように炭を置いた。
だけど炭の形によってはちょっと変な置き方をしたりもする。
お湯が沸かないような炭の置き方をしてはいけない。
もう一度羽で清めたらお香をつぐ。
「香合の拝見をお願いします」
正客の所望があったので拝見に出してから斜めに向く。
鐶を釜に掛け、また滑らせてもとの位置に戻し炉に向き直り釜を持ち上げる。
ゆっくりぶつからないように五徳の上に降ろした。
鐶を釜に預けたら釜敷を取り炭とりの上で一弾きして払い懐中する。
釜が斜めになってないか、中央にあるかなど確認したら羽で釜の蓋も清め、蓋を切る。
そして諸道具を持って帰った。
やれやれ、と一息ついてお善哉の支度を手伝う。
香合は順調に生徒さんの間を回っているようである。
暫くして回り終えたようなので戻り、香合の形や窯元、香名などをお答えして持ち帰った。
「はい、よくできました」
「ありがとうございました」
先生と挨拶を交わし、潮吹昆布と梅干を菓子鉢に盛って各人へ。
お善哉を皆にとりわけ、餅はちょっとと言う方は汁だけに。
先生方は朝にいただいたとかで汁のみ。
いただきます、と食べてみなさんほっこりされたところで濃茶の点前。
ベテラン組から大貫さん。
主菓子をまわして濃茶をいただく。
点て出し組の我らは後で頂くんだけど先生と三人でひたすら人数分。
5人1碗くらいで練った。
最後に頂いて。
次はお薄のお点前、これは中堅の中谷さん。
お二方とも安心して見ていられる。
奥で点て出しに励み、先生とともにお運びをする。
生徒さんは大変恐縮されている。
最後に総礼で締めてほうっと皆さん息をついて場が緩まった。
若い生徒さんのお濃茶おいしかったよねって声も聞こえて嬉しい。
次回のお稽古のお知らせなどの話しの後、散会した。
「あ、山沢さん、あなたはお稽古するからお台子出してくれる?」
「えっあっはい? 今からですか」
「ほら、前回できなかったから」
あーなるほど。
「唐金皆具よ、間違えないで」
「は、はい」
ほっとしてたのも束の間、格の重い、献茶式などに使うあの点前のお稽古だ。
塗りの台子を設置し、唐銅の皆具を定位置に。
そのまま真の炭手前をして点前にはいる。
先生の視線が怖い。
何とか叱られもせずに終わり、交代で先生がお稽古された。
流石に流れるようなお点前でうっとりと眺めていると八重子先生から叱責が飛んだ。
柄杓の扱いが違ったらしい。
それ以外は何もおかしいところはなく、きちっとしたお点前で終わられた。
たまには見せていただくものだなぁ。
さて、俺は水屋の片付けに入り先生と八重子先生はお台所に立たれた。
「お夕飯、簡単なものになるけどごめんなさいね」
今日は仕方ないよな。
「そうそう、エビはどうするんだい?」
「あー、あぁ! 忘れてました。お湯沸かしておいて貰えます?」
「…お釜のお湯つかったら?」
「それはいいですが足りません」
「足りない分だけ沸かしたら良いじゃないの」
釜を始末する前に鍋に取り分けて、先生に渡した。
台子を片付けたり皆具を清めていると声がかかった。
「はい?」
「お湯沸いたわよ」
「2匹湯がいてください」
「あんなの触れないわよ、ほら。掃除は明日でいから」
困った顔が可愛くて思わず笑みがこぼれる。
あ、ふくれた。
可愛い。
清めたのを仕舞って、台所にはいる。
味の素を少し落としてからうちわエビを2匹、湯に落とした。
それから後2匹を焼いて、もう2匹は刺身にした。
先生は気持ち悪そうに見ている。
アワビはさっと蒸して柔らかくし、うちわえびとともに盛りつける。
後はもう手助けはいらないから食卓を片付けてご飯の炊けるのを待つ。
「そろそろ呼んできてくれるー?」
「はーい」
律君と孝弘さんを呼び配膳を手伝って席に着いた。
「なにこれ」
「うちわえび。おいしいよ」
「うーん…」
流石に見た目が気持ち悪いからか手が伸びないようでお造りをまずは食べている。
「あ、これおいしい」
「ふふふ、それがそのエビだよ」
「おいしいの? だったら…」
先生が焼いたエビに手を出した。
「あら。ほんと、おいしいわ」
「どれどれ。あ、ほんとだねえ」
「私がまずい魚持ってくると思いますか?」
「ごめんなさい」
よろしい。
笑いつつ、野菜炒めを食べる。
先生が時間がないときは定番になってしまった。
今日は少し塩が強いのは先生がお疲れだからだな。
食事の後の後片付けは引き受けて先に風呂に入ってもらう事にした。
多分あの様子じゃ風呂上がったらすぐに寝るだろう。
台所を片付けて茶室の掃除をして戻ればお二方ともお風呂から上がられていた。
「あんたも入っといで」
「はい。先生、眠ければ先にどうぞ」
「うん…」
既にうとうとしてるのに待たせるよりは。
風呂へ入って汗を流し、戻ってくると八重子先生が舟こいでる。
「風邪引きますよ」
「ん、そろそろ寝ようかね」
「待っててくださったんですか?」
頭をなでられた。
「今日はお疲れさん。あんたも早く寝るんだよ」
「はい、おやすみなさい」
戸締りや火の始末を確認してあくび一つ。
寝間に入ると既に先生が布団に納まって寝息を立てている。
流石に今日は疲れたと見える。
横にもぐりこんでも微動だにしない。
頬にキスして俺も寝た。
夜半、何かもぞもぞと動くので目が覚めた。
「どうした?」
「ん、寝れなくて…ほら、お濃茶飲んだから」
「ちょっとだけでしょう?」
「朝から3回頂いてたのよ…」
「なるほど」
寝付けないなら寝付けないでもいいから、と懐に抱いて撫でて。
先生からキスして来た。
でもそれ以上は無し。
「あ、そうだ。木曜の稽古休ませてください。出張です」
「どこ行くの?」
「間人です」
「…どこ? たいざ?」
「ええと京都です。海の」
「京都って海…あれは琵琶湖よね。あったのね」
「あるんですよねー」
「ねぇ、私も行きたいわ」
「それはうーん、宿がOK出るかと言う問題と、あなたお稽古でしょう」
「お願い」
「明日、八重子先生に交渉してみて下さいね」
「嬉しいわ♪」
頻繁に連れ歩くのは罪悪感があるんだけどなぁ、俺は。
でも八重子先生が甘いからきっと連れてくことになるんだろう。
先生になつかれてるうちに寝息が聞こえてきた。
可愛いよなぁ。
だけどこんなに俺になついちゃって良いのかな。
俺は凄く嬉しいけど。
そのうち眠くなって寝て。

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