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百鬼夜行抄 二次創作

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伶(蝸牛):絹の父・八重子の夫 覚:絹の兄・長男 斐:絹の姉・長女 洸:絹の兄・次男 環:絹の姉・次女 開:絹の兄・三男 律:絹の子 司:覚の子 晶:斐の子

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少し気だるげだが食事処に入る頃にはしゃんとしてメニューを見てすぐ決めた。
一番高いやつは予約制だったので選ぶとはいっても知れているが。
俺はちょっとメニューをご相談、魚と肉をチェンジ。
先生は笑っている。
お酒は少し頂くことにした。
沢山に飲むと次の日に差し支える。
余裕のある日程ならいいが…。
飯はそれなりにおいしく、酒もうまい。
食べ終わって先生が満足そうな息をついた。
「さて、部屋に戻りますか」
「そうね」
戻って寝巻きに着替え、明日の用意を整える。
それからこちらをちらちらと見ては照れくさげな先生を懐に入れた。
「なーに今更照れてんです?」
「だって…」
「かーわいいなぁ~」
「もう、からかわないでちょうだいよ」
「からかってなんかいないよ、うん。可愛い」
「ねぇ、さっきみたく、して…」
「手荒く? 優しく?」
「優しいのがいいわ」
「OK」
ゆっくりと丁寧に心をほぐすように抱いて。
先生が満足したのを確かめて一緒に寝た。
翌朝、二人で風呂に入って着替える。
本当は朝からしたいけど、そうもいかない。
朝食を食べてすぐに出発の支度。
やっぱり午前中がいいからね。
まずは近くのレンタカーで車を借りた。
先生はパッソが良い! というが却下してカムリにした。
文句を言いつつも意外と車内は気に入ったようだ。
スムーズに戸隠へ。
まずは宝光社の前で車を止めた。
これは階段が続くような気がするんだが…。
俺はいいけど先生の足元が、と躊躇したが先生はまったく気にせず俺の腕を引く。
どんどん上ると途中で女坂と看板にある。
そちらを行けば階段は登らなくてよいらしい。
先生と二人そちらを選んだ。
「空気、いいわね」
「そうですね」
朝の気配のまだ残る道を行けば本殿に着いた。
祭神は婦女子・安産・技芸・学問・裁縫の神さんらしい。
先生はやはり念入りにお参りされている。
それから中社へ、となったが歩けば20分くらい、というが車だしと悩んでおられる。
横にいたおばさんがバスで運転手だけ中社から戻るんだよ、と教えてくれた。
どうやら1時間に1度位バスが来るらしい。
そして中社前はタクシー乗り場もあるようだ。
歩くことにした。
緑の綺麗な人通りのない道だ。
涼しい。
伏拝所がある。昔は女人禁制だったから女はここから奥社を望んで拝んだそうだ。
暫く歩くと分かれ道。
火之御子社へは徒歩3分。
それを見た先生に手を引かれて行く。
注連縄をくぐり標識に従うも微妙な道だ。あまり使う人がいないのだろう。
少しすべるので先生は俺の肘を掴んでいる。足元が悪い。
着物だから先生は少し困っている。
「洗える着物にして良かったですね」
「本当、こんな道だとは思わなかったわ」
舗装とは行かないまでも整備されてると思ったんだけど。
とはいえ先生自らこっちを選んだのもあってかそんなに愚痴はおっしゃらない。
ついた。ここのご祭神は天鈿女命。
先生には関係ない。
軽くお参りを済ませもとの道へ戻る。
先生は不安げだ。
それでも俺を杖代わりに歩いていくと舗装路に出た。
歩き易さからか手を離されてしまった。
まぁいいけど。
やっと観光センターについて先生は安堵の息を落とす。
少し整えてもう一息。
階段にうんざりしつつも上りきっての参拝。
ご祭神はオモイカネ…メガテンを思い出してしまった。
違う違う、と思いつつよく読むと常世の神か。
長寿を祈ればいいのかな。
もっと下調べをしてから来るべきだった。
下りてきてバスの時間を見ようとしたときバスが来た。
あわてて飛び乗る。
先生はどこかそのあたりで時間を潰す、と言ってくれた。
バスに数分揺られて戻った。車に乗り換える。
すぐに戻ったが先生はどこにいるのだろう。
携帯を鳴らすと場所を教えてくれた。
駐車場に車を置いてその店へ向かってみれば竹細工の店。
ざるやらかごやら。
家で使っているざるが傷んできた、と先生は買い換えたいようだ。
花籠も。
いくつか買って車に積み込む。
奥社は健脚で徒歩30分と聞き、先生はどうしよう? という顔でこちらを見る。
「明日筋肉痛になってもよければ」
うーむ、と悩んでいる先生に着物ではちょっとやめておいたほうが、と声が掛かった。
それに足元がねぇ、と。
とはいえ先生はなかなかに健脚で雑木林に囲まれている所為か足元が悪くても平気である。
結局、先生は行きたい! と言うので諦めた。
とりあえず奥社近くの駐車場へと走らせる。
見上げて先生は気合を入れた。
「その前にトイレ行っておきましょうね」
「あ、そうね」
意外と綺麗なトイレで小用を済ませ、水のペットボトルを補充。
たぶん上には自販機はない。
戻ってきた先生が足元を確かめ、それから歩き出した。
最初は平坦に近い、楽な道で先生も物見遊山といったところ。
着物姿が珍しいのか少し注目はされた。
門を越えて歩くと杉並木。太い。
建材にしたら良いのが取れるだろう、なんて罰当たりなことを考える。
途中から階段のある山道に変わった。
先生は俺を杖にしたり、もたれて休憩したり。
さすがに先にほかの宮を歩いて回ったのが足に来てるようだ。
先生に水を飲ませたり塩をなめさせたり。
何とか登りきる。下を見れば絶景。
先生の息が整うのを待つ。
少し汗も引いて落ち着いて、手水を使いそれからお参りをした。
ほかの社に比べると…だが、このあたりは雪がすごい。
ということで仕方ないのかもしれない。
と言っていたら横にいた方がこのあたりの方で、木造は雪崩で流されるとの事。
よく雪崩があるらしい。冬はやめとこう。
どうやら屋根の高さ近くまで積もるらしい。
九頭龍社にも参ってそれから下りだ。
これは楽。先生は滑らないよう気をつけて歩く歩く。
やっと下り終えて。
「おなかすいてる?」
「すいてる、わね」
「並んでるみたいだけど」
「いいわよ」
並んでいるとソフトクリームならすぐ食べれることに気づいた。
「あれ食べたいわ」
熊笹ソフトか…。面白そうだ。
保険にバニラソフトも買って食う。あ、意外といける。
食べ終わった頃呼ばれた。
席につくとお通しに漬物と水が出る。
両方うまい。
これは期待できそうだ。
とりあえずは一人前。先生が鴨ざる、俺は天ざる。
食べてみるとやはりうまい。観光地なのに意外。
先生に天麩羅を少しあげて俺はそばを半分追加した。
天麩羅はさくっとうまく揚がっているので先生も胃もたれしないだろう。
おいしい、おいしいと食べて満腹になった。
「さてと。そろそろ行きますか、本当の目的地」
「そうね」
先生も笑っている。
駐車場へ戻り車に乗る前に再度トイレを済ませた。
「あら、ここにもお蕎麦屋さんあったのね」
「ほんとだ、見落としてたな」
帰りに気が向いたら木いちごソフトを買おう。
駐車場からはすぐそこの美術館へ行った。
徒歩5分と聞いていたが車で。
戻るのが面倒だったからだ。
開放感のある場所に美術館はなかなかいい。
先生は草履や足袋を履き替え、裾を点検してから降りてきた。
「塵除け着て来て良かったわ」
「まさに。あんな道とは、でしたよね。着物はどうですか」
「そう汚れてないわ、大丈夫」
先生は塵除けを脱いで薄手の羽織を着た。
「これでいいかしら」
「うん、行こう」
中に入ってすぐの建物はエントランス。
ラウンジや立礼の席があるようだ。
展示棟を見て歩く。柱がない。
横山大観、下山観山、酒井抱一…。先生が説明してくれたがよくわからん。
しかし10点ほどである。
これは戸隠へ行って正解かな。
ゆっくりと先生に従って見て歩き、エントランスにあるラウンジへ入った。
飯がうまそうだ。
でもまだ食う時間には早い。
どうも長野駅にもあるらしいので帰りはそれにしよう。
信州りんごのテリーヌを頼む。
ハーブティと紅茶をひとつずつ頼もうか、と聞いた。
先生はビールを見て飲みたそうにしている。
「良いですけど飲みすぎないでくださいよ」
 志賀高原IPAを注文した。
しかしテリーヌとビールって合うのかな。
食べたいもの食べたらいいけどさ。
ビールが来て先生はおいしそうに飲む。
「うー俺も飲みたくなった」
「駄目よぉ? 飲酒運転になっちゃう」
テリーヌもハーブティもうまい。
後から来た客は弁当を頼んでいるようで運ばれているものを見ると欲しくなる。
ローストビーフの弁当と白ワインで煮た鳥の弁当だな。
車じゃなければその辺のものを頼んでビールを飲んでいただろうなぁ。
その客も着物を着ている。
意外と着物人口は多いのだろうか。
先生はぺろりと瓶を空けてテリーヌもすべて食べた。
昼の蕎麦、少なめだったのが良かったのだろう。
それから車に乗り込む。
走行中も気持ちの良い森の空気が入ってくる。
先生は途中から反応がなくなった。
うつらうつらとしているようだ。
疲れと満腹と酔いと。
乗り心地のよさがあいまっているようだ。
俺の車よりもいいからなあ。
とはいえ魚の積みやすさと言う利点からああいう車しかない。
まさか二台持ちは無理があるからな。
先生がかすかに立てる寝息を聞きつつ市街地へ戻る。
まずは宅急便を送ろう。
先生が寝ているのをそのままにある程度の荷物をその場で梱包して先生の家へ送る。
それからレンタカーを返しに行った。
「起きてください、先生。つきましたよ」
「ん、うぅん…どこ?」
「車借りたところ」
「あら? もうそんなところなの?」
「良く寝てましたね」
先生は苦笑して身支度を整えている。よだれはたらしてない、大丈夫だ。
荷物をすべて手に持ち、返却の手続きをした。
駅へ向かう。
ほんの少し歩いたら駅だから楽だ。
駅の中で先生はさらに土産を選んでいる。
ビール自体は東京でも買えるよ、と言ったらそれならとほかのものを沢山買い込んだ。
あ、宅急便、駅の中にもあったのか。
土産物もひとつにまとめ、送った。

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