ゆったりと床暖の入っている上でおしゃべりを楽しむ。
その内したくなって先生の手を取り、引き寄せる。
「もう…疲れてるの、だめよ」
「じゃあ布団の中でこうされててください」
「それならいいわよ」
ひょいと持ち上げてベッドへ。
懐に抱いて先生の匂いを嗅いで撫で回す。
段々と先生の息が荒くなってきた。
「だめっていってるのに」
と私の乳首を捻られてしまった。
ククッと笑って先生の股間を撫でるとやはり濡れていた。
「明日、昼まで寝てたらいいじゃないか」
「言われなくてもそうなりそうよ」
「抱いて起こしてあげるから」
「そんなことしてたら帰れなくなっちゃうわ」
「帰らないでいつまでもここにいたらいい」
「だめよ初釜もあるしお稽古もあるじゃないの」
「八重子先生に任しておけば良い」
「そんなわけにはいかないわ。ね、いい子だから聞き分けて」
「しかたないな。でも今日はもう止めれない」
先生も今やめられたら寝つけんだろう。
気持ち良さそうで少し辛そうで。
「キスマークつけたくなるな」
びくっとしていやいやをする姿が可愛くて、わざと言ってしまう。
「いじめないで…」
「いじめたくなる」
首にキス。
「あぁ、だめ」
つけないけどね。
「いじめられるの、結構好きでしょう?」
「いやよ、すきじゃないわ」
「口でそう言ってもこっちは、ね」
と音を立ててあげた。
「やっ、やめて恥ずかしいわ」
「可愛い。可愛いな、本当にあなたは。もっといやらしいことしたくなる」
「おねがい、しないで」
「今日は聞いてあげましょうね」
普通に抱いて泣かせて、己の飢えを収める。
先生を逝かせて、落ち着かせた。
ピロートークする暇もなく、いつもすぐ寝られてしまう。
よっぽど疲れるんだろうなあ。
トイレに行って俺も寝た。
朝、出勤前。
良く寝ている先生を起こさずにと思ったが起こさないと怒ることを思い出した。
なので揺り起こし、行ってきますというと、はいとだけ返った。
すぐに寝息。
お疲れだなぁ…俺のせいだけどさ。
とりあえず食卓に置手紙だ。
ええと…帰るなら俺が帰る前に帰らないと帰せなくなる可能性。
帰らないなら、もし作ってくれるなら…と言う前置きで、
お昼にホウレン草のおひたしを食べたい旨を書いた。
出勤。仕事。今日はそれなりに入荷が多くそれなりに売れた。
一服しているとメール。
白身の魚持って帰ってきて欲しいようだ。
何にするのだろう。うち用か先生のお宅用か。と返信する。
どうやらうち用でムニエルにしたいらしい。
うーん。何もって帰ろうかな。
っとタラの半身が余ってる?よしそれにしよう。
ついでだからと切り身にしてもらった。
荷合せ入出庫を終えて帰宅。
「ただいま戻りました」
「お帰りなさい」
「はい、魚。タラにしました」
「あら沢山ねえ。着替えて手を洗ってきてね」
「はい」
先生がいそいそと食事の支度をしているのが可愛くて嬉しくて。
しかしムニエルとおひたしは合うのだろうか。
あ。洗濯籠の服がない。
しまった。またパンツ洗われてしまった。
着替えてベランダを見れば先生の湯文字も干されている。
ああ、ちゃんと陰干しだ。主婦だなぁと実感する。
ただ不思議なのは"男の世話を焼く女"ではなく"母親の仕事"を感じるのである。
普段の作業のついでに洗いました感。
ああ、バターのいい匂いがたまらんなあ。
そういえば先生は俺の家を掃除してくれたりするのだが絶対に納戸はしない。
掃除機の出し入れで入るのもちょっと嫌なのだそうだ。
多分最初に入ったときに見たのが巨大ディルドだったからだな。
あれはネタで、普段は仕舞ってあるのに。
ってこないだは蝋燭が置いてあるのを見て焦ったとか言ってた。
使っちゃったけど。
「出来たわよ」
というのでご飯をよそって配膳。
おお、うまそう。
食べ始めてから聞いた。
「先生。帰らなくて良かったんですか?」
「これ食べたら帰ろうかしらね」
「帰したくないなぁ」
「いい加減帰らないと叱られちゃうわ」
「ですよねえ。あれ?でも湯文字乾くまで帰れないんじゃ…」
「あら、ここに置いていくわよ。どうせまた泊まるんだし」
「さいですか」
うまうまと食事をいただいて満腹に。
台所に出して、それから先生にキスした。
「なぁに?」
「帰る前にしましょうよ」
「だめよ、帰さないつもりでしょ?」
「わかりますか」
胸に手を這わせる。
「もう…だめよ。帰るわ」
「残念だな。本当に帰っちゃうんですか?」
そういってお尻を撫でる。
あ、我慢してる。可愛いな。
もう一度キスすると私の腕をぎゅっと握る。
離すと額をピシャリと叩かれた。
「もうっ、帰るって言ってるでしょ」
「本当に?」
「憐れそうな顔をしないの。土曜日にいらっしゃい」
「うー。わかりましたっ、今日のところは諦めました。土曜日、行きますから」
お昼間と言うこともありおうちまで送らなくても良いという。
電車で帰られるのを泣く泣く見送り、一人、自宅。
ふと思い出して探る。よし、あった、これは見つからなかったようだ。
もう一度隠しこみ、台所を片付けて少し寝た。
夕方、起きて残りのタラで一人鍋をすべく買物をして。
洗濯物を取り入れ、畳み、しまう。
わびしく食べる。
あ、明日は十日えびすじゃないか。
こっちのえべっさんへ行こうか京都まで足を伸ばそうか。
例年通り京都へ行こう。そうしよう。
昨日行って明日も行くなんておかしな話しだが仕方がない。
だったら早く寝てしまおう、明日は京都に寒波の予報だ!
翌朝、仕事を早めに切り上げ、飾ってある熊手を回収し、一路京都へ。
帰りは混むかと車掌に聞けば自由席は確実に、とのことで京都駅に着くなり指定を取る。
四条大和大路でタクシーを降り、混雑の中すすむ。
途中に鼈甲屋があるのだ。
まずはここへ寄って色々と見る。
目玉は35万ほどするかんざしだ。
流石にこれには手が出ない。
15万ほどの程よいかんざしを見つけた。
しばし相談すると普段は25ほどだが、と20のものを見せてもらえた。
なるほど明らかに細工が違う。
35のを見た後では中々思い切れないが、同じ価格帯ではこれが一番良い。
しかも似合いそうだ。
よし、と手付けを打った。
10万を払い、後は明日って銀行休みか。
いっちょ出金して戻ってこよう。
近くにATMはないか聞けばコンビニが四条出て西にすぐにあるとのこと。
なるほどファミマが有った。
15万出金し、引き返す。即金で残額を支払った。
最近は即金で現金で支払う客が少ないとのことである。
というかお宅基本掛売りちゃうん…。
現物は直接先生のお宅に送ってもらうよう手配をお願いして、ゑびす神社へ。
さて今年の京都は景気概況どんなものだろうか。
周囲の買う福笹や熊手でおおよそがわかる。
…やっぱこんなもんか。
いつものサイズを分けていただいて、本殿横を叩いてお願いする。
えべっさんは耳がよろしくないので打ち鳴らして呼ばないといけないとされる。
だからみんな並んで叩く。
人を押しのけて叩く人あり、ちゃんと並ぶ人あり。
裏から出れば人影少なく、すっきりしている。
さくさくと歩きタクシーを拾って駅へ。
指定の新幹線までまで暫くあるが、寄り道厳禁である。
寒風の中耐えて乗車して帰路につき、駅に着けばそのまま会社へ。
いつもの場所に飾った。
ああやっと喫茶店いける…。
喫茶店に入り、一服。肩凝ったなぁ。
明日復活できなきゃ先生にお願いして踏んでもらおう。
今日中に発送してくれるってことだったが…かんざし…。
明日先生の家に居るときについたら良いなぁ。
八重子先生に怒られるだろうか。
金遣いが荒いって言われたし。
でも次に京都に行ったら京紅を土産にするつもりなんだが…。
そのときはあれだ、花びら餅予約しておこう。
晩飯を牛丼屋で食って帰宅。
あー疲れた、寝よう!
おやすみなさい。
翌朝、鏡開きと言うことで会社に鏡餅を持って出勤。
ストーブで焼いていただく。
本物の餅だからうまい。
缶のお汁粉を買ってきたやつが器にあけてその餅を投入して食っていたり。
連休前なのにそんなには忙しくないなあ。
仕事を済ませて帰宅。
シャワーを浴び、着替えて先生のお宅へ。
「こんにちは」
「いらっしゃい、外は寒かったでしょ」
温かいお茶をいただいた。
うまいなー。
自分で入れると高級茶葉でもまずいのはなんなんだろうな。
先生たちはこれから食事らしい。
ああ、そうか、ついいつもの時間に来てしまった。
「あなたも食べる?」
「ありがとうございます、実は朝餅食いすぎて出てくる前に腹が減らなくて。
今ちょっと物足りなくなってました」
「あらあら」
「そういえば鏡開きだねぇ。後で山沢さんにも手伝ってもらおうかね」
「律君と孝弘さんはご飯いいんですか?」
「お父さんねえ、お友達のところって言ってたけどいつ帰ってくるかしらねえ」
「律は晶と出かけてるよ」
おかずを出してくださって、いただいた。
うまいなー。
美味しくいただいてご馳走様をして洗いに立つ。
暫くすると宅配便が来た。
受け取って、開封する気配。
「あらぁ~」
「あらあら、きれいねえ、これ」
ふっふっふ♪
洗い物を追えて部屋に戻る。
「ね、これどうしたの?」
「昨日京都行ったんですよね。それで鼈甲屋に行って買ってきました」
「すごいわ、こんな飴色の…高かったんじゃない?」
「まぁそのへんは聞かないでまずは挿してみて下さいよ」
「お母さん鏡とってくれないかしら」
「はいはい」
鏡を見ながら挿してためつすがめつ。
ほぅっと八重子先生の溜息。
「我が娘ながら…似合うねえ」
「美人さんですしね。似合うと思ったんですよね~」
「あら…」
あ、先生、頬染めて可愛い。
「次は紅かい?」
「ええ、次京都に行ったら必ず」
「なぁに?」
「こっちの話です」
「二人してなんなの~」
「しかしこれは高かったろう、細工も細かいし」
「まぁそれなりに」
「嬉しいわ」
おっと抱きつかれた。
いや、八重子先生見てるから。
「これ、絹。山沢さんが困ってるだろ」
「あら、ごめんなさい、つい」
玄関の開く音。
「こんにちはーおばぁちゃんいるー?」
がらっと襖を開けられて絹先生が焦っている。
「どうしたんだい?」
「お母さんからこれ預かってきたんだけど」
「もう手に入ったんだねえ、ありがとう」
とガサゴソと開封されている。
なんだろう。
「あれ。おばさん、それ、綺麗…」
「あぁこれ?鼈甲なのよ~。いいでしょう?」
絹先生と司ちゃんは簪を見て女の会話だ。
先生の髪に重くなったら司ちゃんに渡るんだろうなあ。
八重子先生の手元を覗き込む。
「司の近所に刃物屋があってねえ」
花鋏か。
「青紙ですか。いいですね、高いでしょうねえ」
「そりゃあねえ」
「昔何も知らないで黄紙買ったんですよね。もうどうにもならなくて」
「あんたみたいな不精者ならステンレスがいいんじゃないかい?」
「今思えばそのほうが良かったですねえ」
「やっと今のを研ぎに出せるよ」
「ああ、自分では中々に砥げませんよね、つい両面研ぎそうになります」
「あんた鋏も研ぐの?」
「私は研いでましたよ、なんせ黄紙ですし。
枝の数本も切れば切れなくなってるの実感できます」
「そんなに黄紙だと切れなくなるかい?」
「普通はそうもならないでしょうが下手に握力がある分、無理に切るので」
「石があれば割れるところを探らずに叩き割るタイプだね」
「まさしくそういうところあります。短気ですので」
簪の話題が終ったようだ。
「司ちゃん今日は泊まってくの?」
あ、それは聞いて欲しい。
「律は今日は…?」
「晶ちゃんと今出てるのよ、夜には戻るけど」
「じゃあ待ってようかな、おばさん、いい?」
ちっ泊まるのか。
八重子先生が笑っている。
「絹、山沢さんと買い物行って来てくれるかい」
「今朝うちのお父さんがねえ、6合食べちゃったのよ。で、お米が心もとないの」
「ああ、はい」
「あ、私も一緒に行った方がいいかな」
「司はうちにいてくれるかい、茶道具出すの手伝っとくれ」
うまく誘導してくれるなぁ。
いそいそと先生と二人でお買物。
結構好きなんだよね、一緒にお買物するの。
野菜や肉などを購入して米を買って担ぐ。
「力持ちの良い旦那さんねー」
なんて言われてしまった。
どこかの資料館に5俵担ぐ女性の模型あるけどあれは無理だと思う。
米どころや米屋なら2袋は軽いらしいが、それすら無理だ。
先生がこれは弟子でと断りを入れている。
二人になったところで、先生がこちらを伺うような目をする。
「あの…気にしないでね?」
「ん?どうしました?」
「ただの弟子って言っちゃったから…」
「あぁ、あれはそう言うしかないでしょう」
「ごめんね」
「それより八重子先生は気を使ってくれたんですね。あなたと二人になれるように」
「そう…かしら」
「きっとそうですよ、俺、あなたと買物してるの結構好きです」
「どうして?」
「あなたと何を買おうって会話がなにか楽しくて。あなたはどうですか?」
「私…も好きよ。あなたの食べたいものを買えるもの」
ゆっくりと帰ろう。
「どこかこのあたりに部屋借りようかなぁ…」
「ん?どうしたの、急に」
「ご兄姉や司ちゃん晶ちゃんが来たときにあなたを抱ける場所が欲しい」
「あ…」
先生は顔を赤くして、袖で顔を覆った。
「可愛いな…。そういう場所、あったらどうです?抱かれてくれますか?」
「……えぇ」
「嬉しいな。開さんに相談してみましょう」
「えっ兄さんに?それは嫌よ」
「嫌ですか?」
「その…するために部屋を借りるなんて。兄さんに知られるのは嫌よ」
「何をバカ正直に言う必要があるんですか。
皆さんが居るときの俺のごろ寝と安眠場所として借りる、でいいんですよ」
「あっ、そ、そうね、そういえばいいのよね」
ああ、もう。いちいち可愛い。
なんだかんだ喋りつつ、家についてしまった。
台所に下ろす。
「絹ー?帰ったの?山沢さんちょっと手伝ってー」
「はいはい、なんでしょう」
茶室へ行くと、釜が上のほうにあっておろせないとのこと。
確かにあの釜を頭上からおろすのは女性の苦手とするところだろう。
下ろして中を確認。
これでよかったようだ。
「司さんも初釜のお手伝いなさいますか?」
「えっいや、私っ大学あるんで、それにお茶わからないしっ」
「司にはまだ無理だよ。それより絹は?」
「なぁに、おばあちゃん」
水屋にいたようだ。
「ああ、ちょっとおいで。この釜にしようと思うんだけど重さ、大丈夫かねえ?」
「初炭は中野さんに、後炭は平田さんだからお願いしたから大丈夫と思うけど」
「ああ、あのお二人ならいけますよね」
「もし危なそうなら山沢さんが手伝えばいいわよね」
「はいはい」
初釜の準備や打ち合わせ。
女手が有ると凄く助かるんだなぁ。
「懐石は頼んだしお菓子もお願いしたし…」
「あれ、先生、煙草盆の中身がありませんがいいんですか?」
「あっそういえば蛇が出て困るからって使っちゃったんだわ。どうしよう」
「蛇は確かに煙草を嫌うといいますが…この辺に売ってる煙草屋ありましたっけ?」
「吸わないからわからないわ」
「とりあえず私の入れときましょうか。売ってるところ見つけたら買ってきます」
「そうしてくれる?」
「山沢さんって煙草吸われるんですね」
「この家だと司さんのお父さんは吸われるんでしたっけ?」
「そうそう、覚は吸うよ」
「そろそろお夕飯の支度しないといけないわねえ。山沢さん手伝ってくれる?」
「はい。八重子先生、重いのあったら呼んで下さい」
台所へ行ってお手伝い。
あ、電話。
絹先生が電話を取って何か話して戻って来た。
「お父さん帰ってくるみたいだから多めに炊かなきゃいけないわね」
7合でよかったかな。
お米をかして、セットする。
いつも思うが大量で、毎回これをやってるのは凄い。
野菜を洗う。俺が居るときは水を触るのは俺。
手あれしないし冷たい水には慣れてるから。
先生の手は以前に比べれば少し、手あれがマシになったという。
後は先生の指示に従えばうまいメシにありつける。
「ねえ山沢さん。煮物できるようになった?」
「う、チャレンジしてないです」
「明日お昼にしてみる?」
「遠慮したいです」
「だめよ、出来るようにならなきゃ」
「先に司さんに覚えてもらいましょうよ」
「そうねえ、律のお嫁さんになるならね。でも今は山沢さんに覚えて欲しいわ」
うーん。味覚が違うからなぁ。難しいんだよね。
味見。うん、俺ならもっと砂糖と醤油を入れてしまう。
基本的にみりん・醤油・酒・砂糖を同率で煮炊きすることが多い。
だから薄味に作る習慣がない。
「今なら懇切丁寧に教えてあげるわよ。それとも厳しいほうがいいかしら?」
「…わかりました、明日でいいです」
「厳しいほうが覚えられるんじゃないの?うふふ」
たしかに覚えらるけど敢えて厳しくされるのはなぁ。
「お茶だけでいいです、厳しいの」
くすくす笑ってる。
作り終えた頃、律君と孝弘さんが帰ってきた。
司ちゃんと先生が配膳している間に調理道具を洗う。
お夕飯をいただき、司ちゃんは律君の部屋へ。
孝弘さんは居間でごろ寝。
私は食器を洗う。
先生方は初釜の細かい打ち合わせ。
洗い終わって戻ると、今度は着物の話に。
女の人はこういう話題好きだなあ。
「去年はあなた訪問着着てたけど今年はどうするの?」
「袴じゃいけませんか」
「いいわよ、それで。でも華やかさが足りないわよねえ」
「司さんか晶さんがやっぱりいいのでは」
「…司ちゃんねぇ。律のお嫁さんになって欲しかったんだけど。彼がいるのよねぇ」
「ホッシーを婿にして司ちゃんにこの家に来てもらう手もありますよ」
「あら」
「そうすれば孫も沢山見られていいかもしれませんね。いや本来なら姪孫ですが」
「でもそれじゃ…」
「ん?どうしました?」
「司ちゃんの彼とあなたとの関係が難しくないかしら」
「…いや律君の嫁さんとでも同じですから、それ」
「あらそう?」
「まぁそのあたりはよく話し合われたほうがいいでしょうけど」
「あんたが開と結婚してもそれはそれでいいと思うけどね」
「えっ?八重子先生?」
「お母さん…またそんなこと言って。山沢さんだって困るわよ」
「ははは…」
「だってねえ、いまのままの環境でいいんだもの。私と絹が料理を教えるくらいで」
「まぁたしかにそうですがお華はどうするんですか。私じゃ無理ですよ」
「あぁそうだったねぇ。そこは司か晶か」
「やっぱり同居しないと駄目じゃないですか」
「あららら」
むくりと孝弘さんが起きて部屋に帰っていった。
ふぅと息をつけばやはり緊張するんだね、と八重子先生に言われる。
一応なぁ、旦那さんだし。口滑らせたらアレは気にしないだろうが先生方がなぁ。
「あらもうこんな時間。お風呂入れてきましょ」
暫く話してお風呂に入って。戸締り火の用心を終えて各自部屋へ。
フツーに先生は私の部屋に来る。
「いいんですか?抱きますよ」
「えっ駄目よ、司ちゃんきてるから」
「わかってますよ、キスくらいはいいでしょう?」
顎を掴んで持ち上げキスをする。
暫くキスしていたがトンと胸を押され身を離した。
「お布団、敷かないと…」
「抱かれたくなりましたか?」
「外から影が見えちゃうから…」
ああ、なるほど見えるね。
布団を敷いて入る。先生も横に入ってきた。
先生を煽るかのように撫で回す。
「駄目よ、意地悪しないで…ねぇ」
そういいつつも太腿をもじもじさせている。
「一度、しないと辛いんじゃないですか」
「ばか、司ちゃんいるのに…んっ」
乳首を摘んで捏ねると甘い声。
こうなると最後までしたくなって、むしろ興奮する。
先生もいつもより我慢しようとして可愛い。
心なしかいつもより濡れていて羞恥に興奮するんだろうと思う。
かすかな喘ぎ声、俺を噛む。達して荒い息。
綺麗で可愛くて。潤む瞳に見つめられ、気持ちよくなる。
「ね、兄さんと結婚するの?」
「は?」
なんでこの場面でそれ?
「あなたが、久さんが兄さんとするの、私嫌だわ」
「そう思うなら八重子先生に言ってください」
「あなたはどうなの?」
「私は先生が望むならってとこです」
「男の人嫌いなのに?」
「私が男なら…あなたの子がほしい。それは前に言いましたね。
あなたと同じ血の流れる開さんの子でもいいかと」
「そうなの?」
「まぁ妊娠出産とか凄く欝になりましょうけどね。あなたの男でありたいから」
「あら…そうね、今いつもの山沢さんの格好でお腹が大きいの想像しちゃったわ」
「何かおかしい光景でしょ?」
「でもほら、狸腹の男性多いからそういう感じに見えるんじゃないかしら?」
「そうなった時、欝のあまり八つ当たりのようにあなたを抱くかもしれませんよ?」
「怖いわねえ…」
「だからうまく八重子先生を説得してください」
そういって手にキス。
「頑張るわ」
「じゃ、寝ましょうか」
「ええ、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
明けて6時半。
昨日そんなに疲れさせてないのでお休みの日としては、
まぁまぁ良い時間に目が覚めたようだ。
「おはよう」
「おはようございます」
もう少しこうしていたいなぁと思うが二度寝しそうだ。
起きて身づくろいをして朝飯をつくりに台所に行く。
お味噌汁お味噌汁。
今日は何を作る?
茗荷と茄子か。
俺が魚を焼いてる間に先生は俺の分の肉野菜を炒めてくれている。
今日はカレー風味か。
この間はトマト風味だった。ちょっとアレは微妙だったな。
あったかいトマトは。
ご飯が炊けた頃、律君と司ちゃんが起きてきて、律君に孝弘さんを呼んでもらった。
司ちゃんと先生が配膳する。
「あれ…?」
「どうしたの司ちゃん」
「このお味噌汁、具が入ってないけど」
「それは山沢さんのなのよ」
「え、具なし?」
「そうなのよ。あ、その野菜炒めも」
「もしかして凄い偏食…」
「ああ、山沢さんって凄く好き嫌い多いよね」
「そうなのよ、子供みたいでしょ」
「はいはい、子供みたいなやつですよ、と。はい、お茶碗」
カレー風味の肉野菜炒めは美味しいんだが、しかしちょっと量が多い。
孝弘さんが欲しそうなので少し差し上げて完食。
律君たちはこれから遊びに行くそうである。
食器を洗って、台所を片付けた。
居間に戻ると八重子先生がお茶を入れてくれる。
うまいなぁ。
「あ、そうそう」
先生がどこかへ行った。
しばらくしてアルバムを持って戻ってきた。
「前に見せるって言ってたでしょ」
結婚してからのアルバムなら探さなくてもあるから、と。
おお若い。可愛い。綺麗。
「これが孝弘さんの若い頃」
「随分人相変わられましたねぇ…」
「ほら、ここにお父さんとお母さんが写ってる」
「仲良さげでいいですね」
「もうこの頃は随分悪かったのよね?」
「そうだねえ、お薬いただいてたねえ」
「一度お会いしたかったなぁ、生きておられる間に」
「気配はたまに感じるのよ…」
「そうだねえ、夢に出てきたりするね」
いくつか焼き増しして欲しい写真が出てきてお願いする。
ネガが出てきたら、と言ってもらえた。
会えないときには見たいからと。
「山沢さんはアルバムはないの?」
「独り身だと写真って撮らないものですよ。二十歳以降と言うと4,5枚かな」
「えぇ?そうなの?」
「はい。他だとここの初釜や茶会で撮ってる写真くらいじゃないですかね」
「じゃ、写真撮ってあげるわ、折々に」
「別にいいですよ…」
「もっと若い頃の写真ならあるの?今度見せて頂戴よ」
「あー京都の自宅にあったかな。卒アルとか…」
「私も見たいねぇ山沢さんの若い頃」
「ああ、今度京都いったら探しておきますよ」
「じゃあそろそろ山沢さん、煮物、しましょうか」
「う………。はい」
アルバムを片付けて台所へ。
「まずお出汁だけど」
「朝に用意してあります。これ」
昆布を水につけておいたものだ。
「まずは山沢さんの思うように作ってみて頂戴」
「はい」
里芋をまずは洗い、軽く茹でて皮をむき、切る。
出汁を2杯、酒・みりんを1:1、塩を一つまみ入れた。
しばし炊けるのを待ち、風味付けに醤油を落とす。
出来たので味を見ていただく。
「あら?意外と美味しいわね。やればできるじゃないの」
「私、味見してなかったでしょう…それ、私が食べると味が薄くて」
「ええ?そうなの?」
「一つ食べてもいいかい?」
「あら、お母さん」
「どうぞ」
「あぁ美味しいねえこれも」
「私、普段煮物といえば酒・砂糖・みりん・醤油1:1:1:1で炊きますから」
「それは濃そうだねえ…」
「うちだと煮っ転がしとか佃煮かしら?」
「保存食向きだね」
「大体京都って保存食文化ですよ基本的に」
「京料理は?」
「今は新鮮な魚が随分入りますからいいですが、昔は魚は塩干物ですよ」
「そうなの?」
「材料がそういうものだからこそ、より美味しくより美しく発展したんでしょうね。
今みたいに良い材料が使えれば野菜も刺身も美味しい塩でうまいじゃないですか」
「あら?そうかも」
「山沢さん、かつお出汁のとり方は知ってるのかい?」
「いや、とったことがないです」
「絹がとってるのは見てるだろ?」
「あー、なんとなく。でもちゃんとは」
「じゃ、やるから覚えなさい」
大体1リットル程度の湯に、これくらい、と鰹節を示される。
30gくらいあるかな?
沸騰したところに入れて弱火にして2分待ち、漉す。
それだけだそうだ。
もっと面倒くさいものだと思っていたのだが。
「で、この出汁で…」
同じように里芋を炊いてゆく。
ちょっとずつ分量が違うのでメモをしつつ。
出来たものをいただいて味に納得する。
「明日この分量で作ってごらん」
「はい、そうします」
「そろそろお昼の支度しなくちゃ。この里芋と後は何にしましょうね」
「あ、俺、大根葉食べたいです」
「そんなのでいいの?」
「卵とじにしたらどうかねぇ」
「それいいわね、そうしましょ」
おじゃこと炒めて卵で閉じられた。
配膳して、いただく。
んーうまい。
幸せ。
台所を片したら後は初釜の細かい打ち合わせだ。
明後日だからね、色々と用意がある。
細々と動いて話し合って。
俺は朝は来られないから。
電話。
律君からで友人宅に泊まるとか。
孝弘さんは離れかな。
何合炊くか変わるから後で確認しよう。
連休と言うのにゆったりとも出来ず、抜け落ちはないかなど確認して。
さぁそろそろ晩御飯を。
孝弘さんは…いない。
「先生、離れにおられませんよ」
「あらそう? どうしようかしら」
なんて会話をしていると電話があり、ご飯不要、どこかに泊まってくるとのこと。
「あらあら、じゃ何食べましょうね」
「手の込まないものでいいですよ、俺は」
「んー、とりあえずお野菜洗ってくれる?」
「はい」
ご飯を炊いて野菜を洗って渡すとササッと炒め物。
お漬物と、ポークチャップとつけあわせ。
美味しく晩飯もいただいて。
お風呂に入る。
風呂上り厚くて胸元を広げてくつろいでると開さんが来た。
「しまいなさい、胸!」
絹先生に叱られた。
そんなに慌てなくともいいのに。
「どうしたの?兄さん」
「家の鍵落とした…」
「なんかよく落としますね。この間も何か落としてませんでしたっけ」
「あー財布?」
「でしたっけ?」
「で、母さんうちの鍵持ってない?」
「ちょっと待って、探してみるわ」
「姉さんは?」
「仕事で帰ってこない」
「会社にとりに行けばいいんじゃないの?」
「姉ちゃんの会社まで遠いんだよ」
引き出しの鍵の中から探しているがどうやら見つからないらしい。
「泊まっていい?」
開さんはがくーっとしている。
「いつもの部屋で寝るの?お布団敷いてくるわよ」
「頼む」
絹先生が布団を敷きに行き、俺はそろそろ熱気も冷め炬燵に入る。
「やーほんと外寒いねえ」
「この辺やっぱり山が近いだけに寒いですよね。風呂まだ湯抜いてないからどうですか」
「ああ、そうしなさいよ。お父さんの浴衣出してあげるから」
「そうするよ」
開さんが風呂に行かれた後、絹先生が戻ってきた。
「あら兄さんは?」
「お風呂ですよ」
「お湯まだ抜いてなかったの?」
「ええ、あとでもう一度浴びようかと思ってたので」
「ふぅん」
八重子先生が浴衣を出してきた。
「山沢さん、これ、開に持ってってやっとくれ。私ゃもう寝るよ」
「もう寝るの?」
「なんだか眠くてね」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
「じゃちょっと持って行ってきます」
「お願いね」
ひたひたと廊下を歩いて風呂場へ。
「開さん、これ浴衣です。八重子先生がお渡しするようにと」
カラリと開けて言うと飛びのかれた。
ここ置いときますね、と風呂場から出てすぐの籠の上に置き、戸を閉めて戻った。
「兄さんが出てきたら私たちも寝ましょうか」
「あ、じゃあ戸締り確認してきます」
勝手口、よし。玄関、よし。
庭側の戸締まりを調べて戻る。
開さんが浴衣を着ていて、寸が足りてない。
「へぇ、怜さんより少し大きいんですね、開さん」
「そうみたいね。山沢さん、男の人が入ってるお風呂の戸を開けちゃだめよ」
「吃驚したよ」
「ああ、失礼しました、つい。まぁ、おあいこと言うことで」
「……ああ、前そういえば見たっけ」
「さて、先生。寝ましょうか」
あ、そこで顔を赤くするなって。
「そ、そうね。おやすみなさい」
あーあ、自室帰っちゃった。
「邪魔してしまったかな」
苦笑。
「飲みますか?酒」
「あー、いや、いいよ。僕も寝るから。絹のところ行ってやって」
「すみません。ではお先に。おやすみなさい」
「おやすみ」
先生の部屋へすすみ、何も言わず襖を開けた。
ぎょっとする先生の腕を取り引き寄せる。
「俺の部屋、行きましょ」
「兄さん知ってるのに…恥ずかしいわ」
「知られてるのだから乱れればいい。聞かなかったことにしてくれますよ」
「いやよ…」
「それともこの部屋でしますか?俺はそれでも構いませんよ」
「いや…」
「部屋においで。聞こえない程度にしてあげるから」
首を振る。
ええい、面倒だ。抱き上げて俺の寝間まで連れて行く。
なじられつつも布団に下ろした。
「ね、俺とするの、いやですか?」
「いやじゃないわよ…兄さんに聞こえたら困るって言ってるのに」
「聞こえないようになら良いの?」
頬を染める。
「恥ずかしいから今日はよして。お願い」
「仕方ないな。今日だけですからね。明々日はしますよ?」
「抱き締めるだけじゃ駄目なのね…」
「というかむしろ抱き締めてるとしたくなって困るというか」
「だったら別の布団」
「は嫌ですね。困るけど別の布団で寝るくらいなら我慢するほうがましです」
ぽふぽふと先生に布団をかぶせて抱き込む。
ぬくい。寒いときは人肌最高!
軽くキスして、おやすみなさいと言えばおやすみなさいと返って来る。
髪をなでればすぐに寝息。
いつも寝つきが良くてうらやましい。
俺はいつも先生の胸や尻を触りたくなって悩ましく寝つきが悪いから。
それでも良く寝て朝になり、朝御飯の支度をして食事をとる。
そろそろ帰ろうかと言う開さんを引き止めて、このあたりに部屋はないかと聞く。
ワンルームでいいから防音。
明日会社に戻ったら探しておいてくれるそうだ。
もしなかったら施工もありと言うことで近場の部屋もピックアップを頼んでおいた。
そのまま一緒に外出する。
このあたりの煙草屋に刻み煙草を求めて。
4,5件回るがどこにもなく、昼過ぎに戻るとお昼が用意されていた。
あーきつねそばだ。甘きつね。うまい。
昔きつねそばを頼んで刻みきつねが出てきて、困ったことがある。
「外寒かったでしょう? あったかい物がいいかと思って」
「ありがとうございます。また寒波とか言ってますよね」
「これからまだ寒い2月が待ってるかと思うとぞっとするね」
「確かにいやですね。仕事も昔から二八の月はお客さんが来なくて余計に寒いです」
「へぇ客商売はそういうんだねぇ」
「寒いと買い物行くの、嫌になるでしょう?暑いといやになるでしょう?」
「ああ、たしかにそうだねえ」
「明日はあったかいといいですねえ。
皆さん寒い外に順応した格好なさるから暖房難しいですよね」
「炭の熱気もあるからねえ、今日はあったかいうちにお帰り」
「そうね、夜はもっと寒いわ。風邪引かないようにね」
「はい。名残惜しいですが早めに帰ることにします」
玄関に出る前にディープキスをして、では明日と別れた。
電車に乗って帰宅して、寒々しい部屋に暖房を入れる。
結局軽く一度しただけの連休だった。
また、うちにつれてこなきゃな。