夜半。
俺にとっては朝。
先生を置いて出勤するのは本当にいやなのだが仕方ない。
きっと帰ったらもう居ないんだろうなぁ、稽古日だし。
クーラーを入れたまま速やかに出勤する。
会社は既に暑い。
仕事中出来るだけ水分を取っているが。
うなぎの後と言うこともあり、全体的に暇で仕事を終えた。
暑い。
一旦帰ってから何か食おう。
帰宅。
すぐさま風呂に直行し、ぬるま湯で体を冷やした。
お帰りなさいの声が追いかけてきていたが。
やっと冷えて人心地つき、風呂から上がるとバスタオルで拭かれた。
「どうしたの?」
「ありがとう。 ただいま。暑くて」
頭をタオルで拭かれてそのままクーラーの効いた居間に。
「浴衣、もうちょっとしてからで良いから着て頂戴ね」
少し心配げだ。
腕を取って引き寄せる。
ん、いい匂い。
「だめよ、ご飯食べるでしょ」
「もうちょっと」
暫くして解放した。
浴衣に着替える間においしそうな匂いがしてきて、すぐにお昼ご飯が出てきた。
「暑くなかった? 買物いったんでしょう?」
「行ったわよ、朝のうちに。でもこっちは朝から暑いのね」
「夜に温度が下がらないから。メシおいしいです」
「メシなんてダメよ。ご飯ってちゃんと言いなさい」
「ご飯。うまいです」
「だからねえ…。もういいわ」
呆れられてしまった。
食べ終わって先生がお皿を洗っている。
一服していると洗い物を終えたらしく横に座ってきた。
手が伸びて俺の頭をなでる。
「ん? あれ、そういえば今日稽古…」
「今気づいたの? お母さんにお願いしちゃったわ」
「あー…。計画的行動だったんですね?」
「そうよ。たまにはいいじゃないの」
「お稽古サボりはダメだって言ってるでしょう」
あ、いじけた。
「しょうがない人だ」
ひょいと膝に乗せて背中を撫で、キスをする。
かわいいなぁ。すねてるのも。
「でもまだ終ってないのよ…あれ」
「えー。あ、そうか。まだか」
生理中はなぁ俺は良いけど先生の体に障るよなぁ。
「ごめんね」
「ま、そういう日もありますよねぇ。出来ないけど一緒に居たいとか」
「そうよ、うちだとこんなことできないもの」
バランスを崩して押し倒された。
「いてて」
「大丈夫? 頭打ってない?」
「ん、大丈夫。そのままそのまま」
床でごろごろするのも悪くない。
浴衣や寝巻きだとこういう格好はするが、先生がお太鼓のままと言うのも珍しく。
絽の紬だから襦袢がすけてうつるのも色っぽい。
やっぱり夏は透け感がいいよね。
麻も良いんだけど、涼しくて。
「うっ?」
先生が俺の乳首を摘んで遊んでる。
夏の浴衣だから透けてるし薄いしでわかりやすかったらしい。
「これもうちではできないから、ですか?」
「してもいいわよ?」
「できないくせに」
むっとしたらしく強くつねってきた。
「痛いよ」
「痛くしたんだもの、当然でしょ」
手が侵入してきた。
さわさわと撫でられてるうちに寝息が。
あー、寝ちゃったよ。
しょうがないなー、と帯を解いて脱がせた。
寝巻きを着せて一緒にベッドへ潜り込む。
お昼寝お昼寝。
夕方、おいしそうな匂いで目が覚めた。
「久さん? そろそろご飯よ」
「うー」
「早くいらっしゃい」
「はーい…」
もそもそと起きて食卓に着く。
先生は寝巻きのままだ。
珍しく着替えなかったらしい。
「そーいえばあなたの襦袢って重くないですか」
「ん? なぁに?」
「ほら、冬の襦袢。俺のより重いでしょ」
「袷の? だってあれは裏ついてるもの。久さんのはついてないでしょ」
「裏?」
「着物と同じよ、全部裏がついてるの。暖かいわよ」
「なるほど。先生のお宅寒いですもんね、冬は」
「そうなのよ。はい、これ出して」
おかずを渡されて並べる。
「ん」
お茶碗とお味噌汁。こぼさないように。
「足りる?」
「余裕」
先生の作るご飯はうまい。幸せ。
「あまりご飯しないのに良いお米使ってるのねぇ」
「米がまずくて一人で食べるの辛いでしょうが」
納得されたようだ。
食後ゆっくりしてから風呂に入り、再度ベッドへ。
「明日は帰ったら居ないのかな」
「いるわよ。あさってもいても良いわよ」
「お稽古サボっちゃダメだよ。あなた。俺も仕事サボりたくなるじゃないか」
「久さんはダメよ」
はいはい。
サボってでも一緒にいたい気分らしい。
たまに甘えるよね。可愛いけど。
でも良妻賢母をくずさないという約束をしてるのになあ。
耳を舐めるも反応がない。
あ、寝た。
諦めた。俺も寝よう。
明日もうちにいるみたいだし。
おやすみなさい。
よく寝たなぁ、と目が覚めて横で眠る先生を見れば涎。
俺の胸が濡れてる。
枕もとのティッシュで拭いて布団を整えて。
出勤の用意をしようか。
部屋を出て出来るだけ静かに用意をして、出る前にそっと先生の様子を伺う。
気持ちよさげに寝ている。
行くか。
出勤、今日も暑い。
ぬるい空気と湿気の中、仕事をする。
やはり30度を超えると辛くなってきた。
お客さんも皆すぐ送風口の前で座ってしまうくらいだ。
近くで何かイベントがあるお店しか忙しくないのが最近で、どこも困っているようだ。
仕事を終え、いそいそと帰ろうとしていると先生から電話があった。
松屋にいるからくる気があるなら来いとな。
時計見て30分の猶予を貰って慌てて帰宅、シャワーを浴びて着替えて駆けつけた。
「どこにいます?」
「3階にいるわよ」
携帯にかけるとそう仰る。
エレベータで上がり再度電話した。
「上がりました」
「ヴィトンのところにいるわよ。すぐ近くにサービスカウンターのあるところよ」
ああ、あそこか。
でも3階は紳士ものじゃなかったっけ?
思ったとおり先生はヴィトンではなくその向かいの靴を見ていたらしい。
「ねぇこれどうかしら?」
「こっちは?」
「ん、それと悩んでるのよ」
「履いてみました?」
「まだよ」
「じゃ履いてみましょうよ」
先生を座らせ、足袋を脱がせサンダルを履かせた。
「はい、立って」
手を取り少し歩かせる。
もう一度座らせ、履き替えさせた上で歩かせた。
「どうしよう…」
「どちらがよかった?」
「どっちもいいのよ、悩んじゃうわ」
「両方買ってあげましょう」
「良いの? でも悪いから一つは自分で買うわ」
「はいはい、気になるんですね。そうしましょう」
それから中でお昼を食べて呉服売り場を経巡ってキッチン用品を見る。
女の人だよなぁ、凄く楽しげだ。
ほしいというものはすべて買ってあげたくなる。
流石にそれをすると八重子先生からお叱りが来るんだが。
真鍮の風鈴を買った。
先生のうちの俺の部屋につけたいと先生が言うので。
後は結局帯を買った。今締めれる帯。
帰宅後も買ったものを眺めて嬉しそうにしている。
可愛くてつい頭をなでてしまった。
持って帰れるように包んで車に入れて、疲れたというので暫く床に寝転んだ。
自堕落な生活も楽しい。
「今晩…帰るわ」
「わかりました、送りますよ」
「いいわよ。荷物土曜に持って来てくれる?」
「いいの?」
「だって明日もあなたお仕事じゃない。帰したくなくなるもの」
ついキスしてしまって深くしっかりとキスをしなおして。
着物を脱がせ一度抱いた。
ちょっと先生の色香に耐えかねた。
幸いアレは終ってたから良かったけれど。
先生が落ち着いてシャワーを浴び、洗濯してある肌襦袢を身につけた。
買って来た弁当を食べ、駅までお送りする。
「じゃまた明日ね」
「はい。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
見送って帰宅。
明日も早い、寝よう。
おやすみなさい。
先生を置いて出勤するとき寝ている先生を穏やかに見れるのは…。
きっと昼にはまた逢えるとわかっているからだ。
いつも本当に気持ち良さそうに寝ていて幸せな気持ちになれる。
性癖はクリアできなくとも、十分だ。
いやいつかある程度は許容してくれたらいいとは思うけれど。
出勤。
今日は更に暑いとの予報だ。
土曜日の割にそこまで忙しくなく、ただ暑さに負ける。
仕事が終わり帰宅、シャワーを浴び先生のお宅へ。
暑い…。車なのに。
少しいらいらしつつ先生のお宅に着いて、でも先生の笑顔を見て少し治まった。
茶室のクーラーをつけ暫く扇風機を独り占めさせてもらい、それから支度。
先生が来られて俺に一つ点ててくださった。
「落ち着いた?」
「はい」
「生徒さんも暑くていらだってるかもしれないから」
「気をつけます」
わかってたらしい。
気を良くして生徒さんを待つことが出来た。
やっぱり気遣いの人だなぁ。
俺とは違う。
しかし先生の点てるお茶はおいしいなぁ。
いつものように水屋をして、俺のお稽古をつけていただく。
少々厳しいのには慣れた。
水屋を片付けて夕飯をいただく。
んー、うまい。
「山沢さんってさ、いつもおいしそうに食べるよね」
「実際おいしいからね」
それでも苦手なものはこっそり孝弘さんに食べてもらっているが。
先生に見つかると叱られる。
「明日お昼味噌炒めにしようかしら」
「あ、いいですねえ」
「あなた好きだったわよね、じゃ多い目に作るわね」
「茄子入れて欲しいな」
「う…」
「はいはい、分けて作ってあげるわよ」
「すいません」
律君が笑ってる。
食後はテレビを見つつ団欒。
「律、お風呂沸いたからお父さん呼んで来てー」
「うん」
順繰りにお風呂に入って俺が最後に掃除をして出た。
「ふー…」
と、息をついて先生の横に座る。
冷たい麦茶を貰って一服。
ぷに。
先生が俺の乳をつかんで玩ぶ。
「何してんですか」
「出来ないくせにって言ってたからよ」
八重子先生が呆れてるじゃないか。
「律君きたら困るんじゃないですか。いつもなら怒るでしょうに、胸はだけてたら」
「律、もう寝ちゃったのよねえ」
早っ。
先生の太腿に手を置いたらベシッとはたかれた。
ったく。
一旦立ち上がり帯を解いて着なおす。
先生の後ろに膝を突いて肩に手を掛けた。
「え…ちょっと」
肩を揉む事にした。慌ててるの可愛い。
八重子先生は声を上げて笑ってる。
先生は一人恥ずかしがっている。
胸の辺りもマッサージするともう良いから、なんて。
慌てて戸締りしに行ってしまった。
そろそろ寝る時間のようだ。
八重子先生も引き上げたので火の元を確かめ、先生と寝間へ。
うーん、クーラー要らずというのは体が楽だね。
扇風機すらつけずとも先生の体がひんやりしている。
乳房、とか。
太腿とか。
でもすぐに先生の体温は上がってしまう。
熱い息。
ゆったり抱いてると先生は幸せそうだ。
一度逝かせるともはや眠たげだ。
キスして寝かせた。
俺はホットタオルを作って先生の体を清めてから寝た。
朝、すっきりとした目覚め。
先生が先に起きていたけれどまだ布団から出たくはないようだ。
まぁたしかにいつも起きたら俺が居ないわけで。
朝のひと時は大事だね。
身支度をして今日は二人で台所に立つ。
朝飯を食った後、先生が風鈴を俺の部屋につけた。
ちりん、と涼しげな音だ。
ふと引き寄せてキスをした。
「だめよ…」
先生はするりと腕から抜けて買物へと誘う。
お昼と夕飯の買出し。
暑いから夕方に買物したくないらしい。
昨日言っていたとおり味噌炒めの材料と、それから夜は筑前煮を作るらしい。
後はなぜかカプレーゼが食べたいとのこと。
チーズは多めに買った。
なす入りの味噌炒めを作って律君を呼ぶ。
配膳したり、孝弘さんを呼んできてもらう間に先生が俺の分を作ってくれた。
野菜、妙に多い。
先生は俺を健康にしたいらしい。
律君が俺への野菜責めを見て笑ってる。
先生がご飯をよそってくれておいしくお昼をいただいた。
お皿を洗って戻ると先生が何か読んでいる。
ああ、教本か。
「珍しいですね」
「んー、それがねぇ。私のと生徒さんのでは違うみたいなのよ」
「お家元が代替わりしたからでは」
「あら…そうね、そうかも」
「八重子先生は?」
「お母さんならさっきお友達のとこ」
「うーん、また講習会でお聞きになっちゃどうでしょう」
「そうねえ」
パタン、と閉じて片付けて、帳面を開いてなにやら書き物されている。
暇で、眠い。
あくびをしたら手招きされて昼寝。
先生の尻に俺の背をつけて。
ふと次に目が覚めたら先生が居なくて晶ちゃんが居た。
「あれ? こんにちは。先生は?」
「こんにちは。今おばさんお手洗い」
「あぁ」
ぼんやりしてると先生が戻ってきた。
「あら起きたの? まだ眠いんじゃない?」
「うん…じゃない。もうメシの支度する時間では」
「ご・は・ん」
「…ご飯。しないと」
晶ちゃんが横で笑ってる。
台所へ立って下拵えをして先生と交代。
まだあくびが出る。
と、自分の足に蹴躓いてこけた。
「あっ…」
「痛っう」
「どうしたの!? あらぁ…山沢さん、立ちなさい」
晶ちゃんを巻き込んでたようだ。
「すいません、こけました。晶ちゃん、どこかぶつけてない?大丈夫かな」
先生が晶ちゃんに見えないよう俺の背をつねってる。
「うん、大丈夫。でも山沢さん、もうちょっと寝たほうが良いんじゃない?」
ふぅ、と後ろで先生が息をついて。
「そうしなさい、出来たら起こしてあげるから」
「はい。すいません」
部屋の邪魔にならないところで座布団を枕にもう少しだけ寝た。
ご飯のおいしそうな匂い。
揺り起こされた。
「ご飯よ」
むく、と起きて食卓を片付ける。
八重子先生はもうお戻りだったようだ。
晶ちゃんが孝弘さんと律君を呼びに行って夕飯をいただく。
おいしいなぁ。
「これなに?」
「チーズの味噌漬け。お昼に山沢さんが作ってたのよね」
「へぇそんなのも味噌漬けになるんだ?」
「あ、おいしー」
黙々と俺は食べる。
うまい。けど眠い。
これはきっとアレだな、先生のが感染った。
ご飯の後洗い物をし終わり、居間に戻ると先生が特別に濃い濃茶を点ててくれた。
車で来ているから眠気を飛ばさないといけない。
頂いて暫くすると目が覚めてきた。
「やっと起きた、という感じねえ…大丈夫?」
「ん、今なら帰れそうです。効いてるうちに帰ります」
頭をなでられた。
「気をつけて帰るのよ? また明後日ね」
「はい、気をつけます」
なんとか眠気を追い払って車で帰宅できた。
着替えてすぐにベッドに潜り込む。おやすみなさい。
翌朝出勤するも台風の影響で入荷減。
ま、月曜で需要もそうないんだが。
あまり商売にもならず帰宅した。
眠気に負けてずっと寝てしまい昼を食いそびれ、目が覚めたらもはや夕方だ。
カレー、でいいか。
レトルトのカレーを温めて食べた。
侘しい。
あ、メール。
先生のおいしそうなお夕飯。
明日になったら食える。
あ、今から食いたいもの頼んどこう。
返事、返ってきた。
お肉ばっかりじゃダメよ。なんて。
野菜は先生のセンスに任せりゃ大丈夫だろうし。
と少し甘えれば何か考えておいてくれるとのこと。
嬉しいなぁ。
あぁ。
抱きたい。
逢いたい。
メールは後に残るから。
電話しよう。
せめても声を聞きたい。
先生の食事が終るころを見計らって電話をした。
声を聞きたくなった、といえば少し間が空いて…。
私も…、と返って来た。
どうやら自室に戻ったらしい。
明日、抱いて良いね? そう問えば恥ずかしげに。はい、と言う。
「たとえ台風が来ようと。行くから」
それはだめ、とか言われてしまった。なぜだ。
「逢いたくないのか?」
違う、と言う。
何かあって二度と逢えなくなる方が嫌、と。
なんだ、そういうことか。
その後暫く喋って、先生も電話を切りたくなさそうだ。
あぁでも八重子先生が呼ぶ声がする。
渋々、という風情で先生がまた明日来てね、と言う。
勿論と返して電話を切った。
心の充電完了。
よし、寝て明日は頑張ろう。
おやすみなさい。
本日は昨日に増して暇だ。
台風の余波は相当酷いが関東は別段まだ何もなく、先生のところに悠々と到着。
先にあちらの部屋に色々仕込みをして鼻歌を歌いつつ気楽に玄関くぐれば微笑む先生。
「いらっしゃい。暑かったでしょう」
「ええ、少し」
麦茶を頂いて一服入れてから支度をする。
整った頃生徒さんがいらっしゃった。
先生が冷たい麦茶を振舞われてからのお稽古。
生徒さん方も先生の気遣いがうれしいようでなごやかにお稽古が進む。
今日は俺への厳しいお稽古も気にならない。
お稽古を終え水屋を片付ける。
先生と目が合った。
ふっと笑むと目をそらせ、早く片付けるよう言う。
可愛いね。
絹
昨日山沢さんから電話を受けた。
声を聞きたいって。嬉しくて。
抱きたいって言われて暫くドキドキしたわ。
もっと喋っていたかったけどお母さんが呼ぶから電話を切って。
でも珍しいわねぇ、電話してくるなんて。
居間へ戻って喋っているとお盆について山沢さんはどうするのか、と言う話に。
「帰省するのかしらねぇ」
「正月も帰らなかったしどうだろうね」
「ふふ、またうちに泊まるのかしら」
「どうだろうね、お盆は流石に来ないかもしれないしね」
「明日聞いてみるわ」
そういうことで今日山沢さんが来たのだけど機嫌が良さそうで、鼻歌まで歌ってる。
何か良いことでもあったのかしら。
暑いから麦茶を飲ませて支度してくれている間にお昼を食べた。
お手洗いも済ませて着物や化粧を直してお稽古に望む。
生徒さん方も外の熱気に辛そう。
冷えた麦茶を差し上げて山沢さんに指示を出しつつお稽古。
いつものように何人かのお稽古が済み、山沢さんを厳しくしごく。
機嫌がいいときは少々厳しくてもいいみたい。
二回、上のお点前の稽古をつけてあげるといい時間になって片付けることにした。
指示を与えなくてもうちの水屋はちゃんと山沢さんがわかっていて教える事はない。
ふと目が合う。
山沢さんの笑みにドキッとしてつい目をそらせてしまった。
片付け終えて居間へ戻り食卓を片付け、律とお父さんを呼びに行く。
山沢さんはお母さんを手伝って配膳をしてくれる。
今日は山沢さんのリクエスト通りのお夕飯。
「あれ、珍しいね。おばあちゃんこんなの作るんだ?」
「そうだろ、今日は山沢さんが作って欲しいって言ってね」
キッシュとブロッコリーのベーコン炒め。人参の金平かしら?
食べてみたら金平じゃなくてサラダ。
「おいしいわねぇ」
「うまいです。嬉しいなぁ」
ぱくぱくと食べていて可愛いかも。
いつもは格好良いのに食べてる時は子供みたいなんだもの。
「おかわり」
お父さんのご飯をよそって渡す。
「はい、どうぞ」
お父さんも嫌いじゃないようで結構食べているわね。
「今日本当、暑かったねー」
「そうね、今年最高なんじゃない?」
「そうみたいだよ、こっちで37.2度だってさ」
「うわ、道理で暑いと思った」
「あっち、クーラー予約かけてありますから」
「えっ」
「あれ、後で飲むからって昨日約束しましたよね」
「あ、うん」
吃驚するじゃないの、もう。律の前なのに。
「あと風呂もお湯張り予約してありますんで」
「わかったわ」
「山沢さんってお酒好きなんだねー」
「うん、そうだね。取り寄せる程度には好きだよ」
こちらを向いて笑顔で今日は特別なの用意してるから、と言う。
…お酒よね、そうよね。
食後、山沢さんが洗い物をしてくれる。
お母さんは今朝のうちに山沢さんに聞いていたみたい。
明日のお昼以降に、って。
はい、って栄養剤渡されちゃった。
「お酒飲むだけかもしれないじゃない…」
「ないだろ」
袂を弄って恥ずかしがってたら山沢さんが戻ってきた。
「さて、いいですか?」
「ほらほら。いっといで」
「あ、はい…」
慌てて立って山沢さんに手を引かれた。
外は昼に比べると涼しいけど…。
いつもの部屋に着いて中へ。
「あら涼しいわね」
うちより涼しくて。あら何か敷物が敷いてあるわね。
「座ってて」
山沢さんが冷えたグラスとお酒を持ってきた。
京都の淡麗辛口大吟醸を4本も。
高そう。
「まぁ俺には辛くてなんなんですが、あなたなら甘く感じるでしょう」
そういって4つのグラスに注いでくれる。
「どうぞ」
少しずついただくとどれもおいしい。
山沢さんは違う瓶を飲んでいる。
「ね、あなたのもちょっと頂戴」
「いいですが甘いですよ」
新しいグラスを取ろうとするのでそのまま止めて山沢さんのをいただいた。
「あら。凄く甘いわねぇ…」
「すいすい飲めて一升瓶が空になるような、でしょう」
「危ないわね」
私のグラスが空いたのを見て新たに注いでくれる。
「どれだけ飲ますつもり?」
「ふふ、もう少し飲まないと出来ないんじゃないですか。普段と違うこと」
ドキッとして、横を向くと引き寄せられた。
「特別、っていったでしょう?」
一気に酔いがまわってきて。
耳まで熱くなっちゃった。
その耳に山沢さんの唇が触れて。
「あ…」
そのまま着物を脱がされて敷物の上に運ばれた。
「なに、するの?」
少し冷たい液体を体中に塗られ、山沢さんの手が這うごとにゾクゾクする。
なぜか下帯をつけられ、腕と、足を縛られた。
何をされるのかしら…。
「これ、わかるね?」
あ…蝋燭…。
怖い。
背中から私を抱いてまず山沢さんが自身の手に落として確認してる。
「ん、よし。大丈夫だから力、抜いて」
そういわれても怖くて。
身をすくめてると笑ってる。
ほつ、ほつっとお腹に落とされ、そのたびに体がはねる。
段々と慣れてきたころ乳首に落とされた。
「あぁっ」
お腹より熱くて吃驚しちゃった。
山沢さんは私がはねて声を上げるのを楽しんでいる。
乳首も乳輪も見えなくなるほどにされてもう熱くはない。
すると今度は太腿、あそこに近いところに落としてくるの。
酷いわ、本当に楽しんでて…。
体中を赤く染められたころ、やっと蝋燭が尽きた。
山沢さんにキスされて縄をほどかれ、痺れはないか確認された。
それから蝋をはがしてあげる、と乳首を弄られて気持ちよくなり…。
喘いでたらそのまま下帯を剥ぎ取られて一度逝かされちゃった。
すべてはがしてもらってお風呂に入って出てくると敷物もすべて片付いていた。
「続き、飲みましょうか。それとも」
「飲むわ、注いで頂戴」
ふふっと笑って注いでくれた。
暫く飲んでから山沢さんがお風呂に入って。
その間にグラスを片付けてると寝巻きの袖から縛った痕が見える。
これ、明日消えるのかしら。
お風呂から出てきた山沢さんと一緒にベッドに入る。
「ねぇ、久さんこれ」
「あー随分暴れてたから。お稽古ないから大丈夫でしょ?」
「お母さんにわかっちゃうじゃない」
「いいじゃないですか」
「恥ずかしいのよ?」
「わかってますよ、可愛いなあ」
髪をくしゃくしゃと撫でられてキスされた。
私のほうが先生で年上なのに、すぐこうやって子供みたいに扱うんだから。
「好きだよ」
「私もよ」
本当は好きになっちゃいけないんだけれど止められない。
そのまま背中をなでられているうちに眠くなって。
おやすみなさい。
夜半、先生がモゾモゾと擦り寄ってくる。
クーラーを止め、窓を開けた。
効きすぎて寒かったようだ。
トイレへ行ってからベッドに戻る。
肌がひんやりとしていて風邪を引いてないか心配だ。
密着させてお腹だけでも温まれば良いかな。
朝になって、暑くて目が覚めた。
先生も布団を蹴っ飛ばしてるのでクーラーを入れた。
トイレから戻ると流石は部屋が狭い、良く効いている。
設定を緩めて再度添い寝をした。
涼しくなるとちゃんと俺にくっついてくる。
年上なのに可愛い、と思ってしまうんだよね。
あ、むらむらとしてきた。
久々に朝からしちゃおうかな。
緩めたクーラーを再度強くして先生の胸をなでる。
乳首、立ってきた。
寝てると乳首だけでは逝かないから適当なところで下に指を這わす。
うん、ちゃんと濡れ始めてる。
暫く弄ってたら起きてしまったようで鼻をつままれた。
キスをしてから股間に潜り込む。
敏感なところをうまく舐めると声が溢れる。
中に指を入れくじる。
ちゃんと感じてくれてるようだ。
ひっくり返して腰を持ち上げて弄る。
よがってる隙に尻の穴を舐めた。
「っあ…、だめ」
そっと小指を入れる。
「あ…ぅ…」
突起を責めつつなので力が入らないようだ。
ゆっくりと出し入れすると感じてきたようで背中を反って喘ぐ。
3点攻めで逝った。
指をぬいて手を洗いに立ち、戻ると枕で叩かれた。
枕ごと抱き締めて押し倒してキスを。
「もうっ…ばかっ」
いてててて、乳首に爪を立てるなって。
それでもそのまま抱き締めてキスをすると次第に抵抗がうせる。
ペニバン持ってきてたらもう一度抱きたい程度にまだしたい気分なんだが。
そういうと恥ずかしそうだ。
先生の乳首を弄っていると股間に誘導された。
よしよし、いい子だ。
沢山啼かせて楽しんだ。
風呂の湯を落としてないので風呂に入らせてから喫茶店に朝ご飯を食べに行く。
たまには良いだろう。
手を洗って着替え、風呂上りの先生にキスをして着替えさせた。
喫茶店でモーニングをいただく。
「あら、珍しいですね、先生」
昔生徒さんだったらしい。
「ほほほ、たまにはね」
先生のウインナーを貰って食べる。
「そうそう。戻ったら天気も良いから布団を干すわよ」
「あ、はい」
ゆったり紅茶を飲んで支払い、店を出た。
まずは部屋に戻り、干す。
それから家へ戻って孝弘さんや律君の布団も干した。
「良く乾きそうねえ」
「そうですね」
チラッと手首の痕が見えた。
あ、いかんな、さっき喫茶店で気づかれてないと良いんだが。
「先生、もしこれなんか言われたら…昨日庭仕事してたらそうなったと言って下さい」
一応手拭の上からかけたんだけどなぁ。
クリームを取ってマッサージする。
薄くなってきた…ような気もするが。
ふと顔を上げキスをした。
頭に拳骨一発、八重子先生が戻ってきてた。
あいたたた。
ま、でもクリームが消えるまで暫くマッサージ。
八重子先生が入れてくれたお茶を頂いて買物に出た。
今頃先生は昨日何されたか聞かれてるのか。
聞かないであげて欲しいけどね。
買物から帰ると冷たい濡れタオルと麦茶をいただいた。
「暑かったでしょう?」
「いやぁもうギラギラ油照りですね」
背中を拭いてくださってすっきりして台所へ向かう。
今日は豆乳のスープスパゲティ。
お豆腐と油揚げとネギを炊いてつけた。
同時にお夕飯の下拵えを済ませて冷蔵庫に入れて置く。
孝弘さんが居ないときはスパゲティやパン食でも良いと言われている。
「あら、おいしそう」
「どれどれ」
「結構いけるわね」
「スープもおいしいねぇ」
嬉しくなる。
その後、家事を手伝って、お三時。
おやつをいただく。
「あんたお盆はどうするの?」
「あー。そうだ、忘れるところでした。明日お稽古お休みしていいですか」
「いいけどどうしたの?」
「六道参り、明日からなんですよ。だから」
「なぁに、それ」
「ええと。六道珍皇寺または六波羅蜜寺で鐘を突いて。
先祖を呼び出してもらい連れ帰る行事がありましてそれをするために戻ります」
ただ、実の所、市中心部の慣わしと見えて市周辺部の出身者の俺は良くわかってない。
それでもしないのは変な気がする。
そういうわけで毎年帰省して迎えに行くのだが。
「そんなのあるのねぇ」
「結局お盆はどうするんだい」
「えーとですね。何もしないで居られる自信がないんで来ません」
スパーンと先生に新聞で叩かれた。
「むしろですね、盆明けに俺、岡山に出張あるんで一緒にどうかと思ってるんですが」
「岡山?」
「ええ、もし来られるのなら有給とれますから近くの温泉に三日ほどと」
「この暑いのに温泉?」
「プールがよければそちらでも」
「行ってきたら。どうせ生徒さんもちらほらお休みだからねぇ」
「でもお母さん大変でしょ。いいわよ」
「わかりました、じゃ涼しくなったら考えましょう」
「そうして頂戴」
うーん、残念だ。キングベッドの部屋をとっているのだが。
と言うかその部屋しかなかった。
温泉の仮押さえしてあったのを断っておやつをつまむ。
「お夕飯、何作る予定なの?」
「一応ささみアスパラ炒め、小松菜と厚揚げの煮びたし、金目を煮ようか焼こうか」
お夕飯の支度をするにはまだ早いのでしばし団欒を楽しむ。
「はらへった」
孝弘さんにお饅頭を渡してそろそろ夕飯に取り掛かろう。
「あ、待って。その前にあっちの布団取り入れて頂戴」
そうだった、忘れてた。
取り入れに行って戻ってくると先生方が調理を開始している。
「お帰り、うちの布団も取り入れてー」
「はいはい」
各々の部屋に取り込んで、洗濯物も取り入れた。
しかし律君のか孝弘さんのか、下着は良くわからん。
流石に何履かしてるまでは把握してないからなぁ。
とりあえず畳んで積み上げた。
八重子先生が戻ってきて仕分けしてくれてそれも各々の部屋へ。
孝弘さんのは箪笥の中へ。
食卓を用意していると律君が帰ってきた。
「おかえり、洗濯物は部屋に置いておいたよ」
「あ、すいません」
部屋へ行って、すぐに引き返して台所へ行った。
何か先生と喋ってるようだ。
暫くして律君が孝弘さんを呼びに行く。
配膳を手伝って夕飯をいただいた。
金目は焼いたようだ。
おいしい。
先生が楽しげに俺や孝弘さんを見る。
どうも沢山食べるのが見ていて楽しいらしい。
ご馳走様をしてしばし団欒を楽しめばもはや帰る時間。
明日、明後日と会えないから少しさびしい。
玄関先で頭をなでられた。
「土曜日待ってるから。明日気をつけて」
「はい。じゃ、また」
「またね」
送り出されて帰宅した。
翌日。
仕事を済ませ、着替えて京都へ。
京都はやはり暑い。
東京とは違ったじっとりとした暑さだ。
げんなりしつつ、観光客にもまれつつ清水道より1つ北の停留所へついた。
六道参り、と道の上に幕が張ってある。
坂を下って六道珍皇寺へ。
塔婆を書いてもらって鐘の列へ並ぶ。
相変わらず暑いのに沢山の人だ。
行列は角を3つ分。
この日差しの中待つのは辛いが仕方ない。
首の汗を拭い扇子で扇ぎ、麦茶を飲む。
やや曇っていてこれだから晴れてなくて良かった。
汗が滴る。
列はじりじりと進みやっと寺の裏口が見えてきた。
もう少し。
寺内に入る。
鐘を突いてからお参りし、水回向。
それから西福寺。
ここは地獄絵図で有名だ。
九想図絵もある。
そして六道珍皇寺で鐘を突き、お参りをした。
実家に帰ってその足で先に墓参り。
親たちは盆の連休に行くそうだ。
ついでに結婚はしないのか、などと言う話が出た。
一応考えている人はいると返しておいたが…。
あまりに汗だくなのでシャワーを浴びて着替えてから東京へ戻ることにした。
風呂から出るとメシが出来ていて久々に食う自宅の飯。
肉が沢山、魚はちょっと。
ガッツリ食って満腹。
そのまま寝てたいけど明日も仕事だから。
「んじゃ帰るわ。暑いし体調崩さないように」
「あんたも気ぃつけや」
「あ、服」
「洗て送ったげるから」
「頼むわ」
「はいはい、ほなね」
「またね」
タクシー呼んでもらって京都駅へ。
京都駅も暑い、蒸してる。
時間はあるので少し先生に土産を買った。
新幹線に乗って転寝、終点だから問題ない。
次は新横浜のアナウンスで目が覚めた。
車販のコーヒーを買って飲み終えると東京だ。
あくびひとつ。
バスに乗り換えて帰宅した。
暗くて暑い部屋の電気をつけクーラーをパワフル運転にする。
眠い。
やらなきゃいけないこともなし、寝ようか。
携帯がなる。
先生からだな。
手首と足首の写真。
手首はほぼ残ってないようだが足首はしっかり残ってる。
あの時八重子先生来たからマッサージできてなかったもんなぁ。
風呂でよくマッサージする事と、写真は削除するように言う。
証拠は残すべきじゃない。
今からお風呂と言う返事があった。
どれほど残っているか確認したいところだが。
土曜のお稽古では流石に残っちゃ居ないだろう。
俺は先に寝る、と返してベッドに潜り込んだ。
おやすみなさい。
出勤し、仕事。やはり暇だ。
というか荷物が来ないから売るに売れず。
普段三千円の魚も八千円ではねぇ。
外は暑い。
ああでも昨日の京都に比べれば涼しいね。
今日行けばよかったか?
とはいえ昨日の疲れで眠い。
だから今日行ってたら明日お稽古が辛くなってるはず。
仕事を終え、帰宅してすぐに寝た。
夕方起きて食事を取る。
先生からメール。
明日台風の様子を見て来れないようなら来るなと。
きっと台風は来ない大丈夫。
だから行く。
逢いたいし。
心配させてもいけないから、その時の判断で行くか行かないか連絡すると返す。
来れるなら来て、と書いて返って来た。
勿論だ。
何度かメールを交わし、お休みの挨拶を交わした。
シャワーを浴び、寝た。
翌朝テレビを見ると九州四国方面は大変そうだ。
しかしながら関東にはこなさそう。
先生のところへは余裕でいけるだろう。
時化と台風で出足が悪いのとで大して売れず。
さっさと先生のお宅へと移動した。
「あら、いらっしゃい」
「こんにちは」
「早かったねぇ」
「あ、そうでしたか?」
「いま朝の生徒さん帰られたところよ」
「ああ。じゃこれからお昼ですね」
「あんた食べてきたの?」
「ええ」
部屋に鞄を置きに行って水屋の支度。
さっと茶室の畳を拭き掃除した。
一旦居間に戻ると見合い写真の山を先生が見ている。
「あ、あんたも見る?」
「…開さんの?」
「そう。いい加減身をかためさせないとねぇ」
「え。俺とって話は消えたんですか」
「だってあんた、最近会ってないだろ」
「そういえば見ませんね」
「これ」
「ん? あ、先生じゃないですか。孝弘さんとの見合いの?」
「あら違うわよ、成人式の時に撮ってもらったのよ」
「うーん、やっぱり綺麗で可愛いですね。清純ってかんじ」
そういうと頬染めて可愛らしい。
「あとは晶の見合いが来ててね」
いくつか見せてもらった。
「を、これイケメン」
「あらほんと」
「先生もこういうの好みですか?」
「んー私はちょっと」
「孝弘さんが好みなんですもんねぇ、先生は」
ほほほ、と笑っている。
「さてと、そろそろ生徒さん来るよ」
「あらもうそんな時間? お手洗い済ませておかなくちゃ」
ぱたぱたと行かれた。
先生が戻られる前に生徒さんがいらっしゃったのでお相手を。
おいでおいでをされて近寄る。
「先生まだいらっしゃらないから聞くけど…あなたAVお持ち?」
「え、ああ、はい」
「息子がね。変なAV持ってたのよ。誰か相談できないかと思って…」
「変な、と言うと」
「先生には変態って言われそうなものなのよ、だから相談できないの」
あ、足音。先生が来た。
「お稽古が終ったらお聞きします」
「お願い」
先生が入ってこられた。
「こんにちは、中村さん」
「先生、こんにちは。よろしくお願いします」
「はい、じゃ今日は…」
お稽古が始まる。
長板をお稽古される間に次の方の用意を整えた。
そして中村さんのお稽古を終えるころ、次の生徒さん。
ご挨拶。
入れ替わられたあと隣の部屋で話を聞く。
聞いてみたが軽いSMが入ってただけでたいしたものではなかったようだ。
部屋に道具類があるかも確かめる。
まだそういうものはないそうだ。
「一過性で憧れを持ったりすることはよくあると思います。ただ…」
これからそういう道具やビデオを集めるようになったら諦めるように、と。
のめりこむ人は一定数いるし。
「非難しても性癖はどうしようもありませんから」
「そういうものなの?」
「軽いものなら普通に暮らせますよ。奥さん貰って子供も作って」
「重いと?」
「奥さん以外にプレイ相手が必要になります」
「浮気なんじゃないの?」
「そういう感覚ではない人が多いでしょうね。奥さんにはできないことをしているだけ」
気持ちはわかる。俺はしてないけど。
少し納得されたような。
内緒にして欲しい、と言われて帰られた。
お稽古に戻る。
夜になって先生と寝間に入った折に聞かれた。
「なんだったの?」
「ん、ああ。息子さんの部屋からAV見つけたって」
「あら。なんだそんなこと」
「律君の部屋にあっても平然としてるのかな、あなたは」
「男の子だもの…」
「ふぅん? そうかなぁ」
「第一あの子の部屋、テレビないわよ」
「あ、そうでした。じゃエロ本。俺が見てるようなのとかどうです」
「あなたが見てるようなのならお説教ね」
「見せてみようかな」
「やめなさい」
「選択肢」
「許しません」
「あなたは見るだろう?」
「見ないわよ」
「俺の部屋の、読んだくせに」
「あれは…」
後ろから抱いて耳を舐める。
「あれはなに?」
胸に手を差し入れて揉みしだくと喘ぎそうになっている。
股間をまさぐると体がはねて。
耐えてるのが可愛い。
ぎゅっと俺の腕を掴む力が強くなり、すぐ脱力した。
逝った様だ。
ハァ、と息をついてもたれてくる。
「もう、だめよ…布団入りましょ」
ふふっと笑って引き入れた。
「明日、また縛ってあげようか」
「だ、だめよ。それは。痕残っちゃって大変だったんだから」
「見るたびに思い出した?」
「…その…やだ、何言わせるのよ」
「ほんと、かわいいなぁ。いつかここにも蝋燭落としてあげるよ」
股間を弄り回しながらいうと随分と濡れている。
「や、こわい…」
「こわくないこわくない」
中を弄りつつキスをして気持ちよくなってる隙にまたお尻に指を入れた。
「んぅぅ…んっ、んんっ」
俺の胸に手をやり押し返そうとしているが力は入ってないね。
いや入らないんだろう。
尻の穴だけでは無理だけど他のところも同時刺激で逝けたようだ。
うー、色っぽい。
「抜いて、ねぇお願い…」
あんまりにも可愛らしくてお願いを聞いてしまった。
「手、洗ってきて頂戴よ」
「はいはい」
布団から出て洗面所で洗う。
その前に嗅ぐ、なんてことはしない。
スカ趣味はないからな。
浣腸も必要があれば、だ。
出すところを眺める趣味はあるが。
それはそれ、恥ずかしがるから見たいんであって。
部屋に戻り、布団に潜り込む。
背を向けてる先生を抱き締めた。
「お尻、駄目よ…。ね、聞いてるの?」
「んー、ふふ、可愛かった」
「ばかっ、もうっ」
そろりとお腹に指を這わす。
「もう一度、する?」
「お尻、しないで」
「しょうがないな。わかった」
今度はゆったりと普通に抱く。
「愛してる…」
「嬉し…ん、キスして」
深く浅くキスも交わし、逝かせて眠くなった先生を寝かせた。
俺も寝るか。
おやすみ。
翌朝、やはり先生は良く寝ている。
しょうがないよね。
寝顔も可愛い。
朝飯の支度をしてると八重子先生が起きてきて一緒に用意。
もう最近は遅い理由は聞かれない。
配膳する頃先生が起きてきて孝弘さんと律君を呼びに行った。
「いただきます」
食事中先生が律君に今日の予定を聞いてる。
台風来るからね。
今日はレポート片付ける、と言う。
朝食後は家事。
先生はまだ眠たげだがお昼寝はお昼食べてからね。
お風呂を洗って茶室の掃除をしてお買物。
お昼と晩、明日の朝の分も。
台風がどうなるかわからないから。
眠そうな先生は置いていくことになった。
リスト片手にお買物。
帰宅すると先生は繕い物をしている。
「痛っ」
「今日は止めたらどうだい、さっきから何度刺してるの」
ぷっくりと指先に血を出して、困った顔している。
「お昼にしましょう。そんでお昼寝したら良いじゃないですか」
「ん、そうね」
てきぱきとお昼を作って出す。
嵐の前の静けさか、のんびりとした雰囲気だ。
テレビでは関西が大変なようでL字枠が出ている。
「あんた実家のほう大丈夫なの?」
「ああ、あっちは災害来ないですから」
「電話くらいしたほうが」
「良いですよ、問題ないですって」
いっつも警報すら出なくて子供の頃は腹が立ったもんだ。
食べ終わって洗い物を済ませて戻れば座布団枕に先生が寝ている。
浴衣だからお太鼓じゃない分寝易そうだが…文庫に結んだ帯を貝の口にしてあげた。
寝息が気持ちよさげだ。
ゆったりのんびりしているとテレビで関西の状況をやり始めた。
なんだ、また桂川氾濫注意か。
「…あんた本当に電話したら?」
「うち、川も山も近くないんで大丈夫ですよ」
「そう?」
「ええ」
まったりとお茶を飲んでゆっくり。
少し雨だが気温が下がって気持ち良いようで先生はよく寝ている。
こんな休みも良いね。
玄関から物音。
「おばさーん、律いる?」
んん、と先生が呻く。
ばたばたと司ちゃんが入ってきた。
先生起きちゃったじゃないか。
「んー…、あ、司ちゃん。律なら部屋よぉ」
「あ、ごめんなさい、寝てたんだ」
司ちゃんが律君の部屋に行って先生が寝返りを打つ。
俺の膝を枕に。
すっかり甘えるようになった。
ほつれ髪を直してあげる。
夕方、八重子先生が夕飯を作る、と立った。
先生をそろそろ起こすべきかと思ったがそのままと仰る。
二人でいるとちょっかいを出したくなって困るんだが。
ふっくらとした胸とか。
気配がわかったのか先生が起きた。
「ん、何時?」
「もう夕方。5時半ですよ」
「あら。お夕飯…どうしよう」
「いま八重子先生が」
パパッと身づくろいして慌てて台所へ。
俺は痺れが切れて悶絶。
流石に足の組み換えなしはきつい。
「山沢さん? どうしたの」
「痺れ切れただけです、って触ろうとしてますよねっ」
「うふふ」
「くすぐるのもナシっ」
くっくっくっと笑い声がして振り向けば律君。
「絹ー」
「あ、はーい」
ぱたぱたと先生が台所へ戻ってった。
「うー…律君、メシはまだだよ、まだ」
「いや、ね。司ちゃんがお酒切れたっていうから」
「あぁこの間補充したの持ってって。良いよ」
「ありがとうございます」
暫くしてやっと治ってきた。やれやれ。
食卓を片付けて台拭きで拭く。
台所に顔を出した。
「あ、そろそろお父さんたち呼んでくれる?」
「はーい」
離れへ行って孝弘さんを呼び、律君の部屋へ行き二人を呼ぶ。
先生が配膳するのを手伝ってお夕飯。
今日もおいしい。
お味噌汁の具が麩。みんなは茗荷。
この家はなすと茗荷の味噌汁好きなんだよなぁ。
ご馳走様をしたら帰らねばならない。
「また明後日来ますね」
「気をつけてね」
「またね、山沢さん」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
先生がちょっと寂しそうだが仕方ない。
流石に司ちゃんもいるからキスどころか手も触れなかった。
残念。
帰宅してベッドに潜り込む。
あ、そろそろ股間の白髪抜いて上げなきゃなぁ。
なんて思いつつ眠りに落ちた。