お夕飯の買物と、日用品の買出しだ。
トイレットペーパーは律君も買ってきてはくれるが生理用品は流石にね。
洗剤なども選んで。
そうこうするうち少しは気が晴れてきたようだ
「あ、そうそう。連れてってくれるの?」
「はい、八重子先生から許可でました。温泉ありますよ」
「あらーほんと? 嬉しいわ」
「ただそんなに期待しないでくださいよ。仕事で行く予定だったんで」
「いいの、いいの」
すっかり機嫌が直ったようだ。良かった。
沢山の買物をして積み込み、車を走らせる。
「ね、あっちの家行ってもいいわよ」
「夜するのは嫌ですか」
「だって朝起きれないんだもの」
「OK、じゃ参りましょう」
連れて行って暖房を入れ一服してから脱がせた。
「寒…うぅ、お布団もまだ冷たいわねぇ」
「すぐに暑くなりますよ」
まずはキスして。
サブイボが出ていて滑らかではない肌を丁寧に撫でていく。
つん、と乳首が立っていてつい齧った。
「痛いわ…」
甘噛甘噛、問題ない。
暫く両乳首を弄ってるとサブイボも落ち着いたようだ。
布団も先生も俺の体温で温まってきた。
でもまだ背中が冷えてるな。
手を隙間に押し込んで温める。俺の手は暖かいからね。
目がとろんとしてきた。
「寝そうになってるでしょ」
「あ、ごめんなさい、つい」
「優しく、と思うとすぐ寝ちゃうよね、先生。やっぱり激しいのが良いのかな」
「だ、だめよ。帰らなきゃいけないもの…」
「だよね」
寝ない程度に優しく、やや声が出る程度に抱いて布団が暑くなった。
「お風呂入るわ、汗かいちゃった」
「洗ってあげよう」
「ダメ、そう言ってまたする気でしょ。そろそろお夕飯の支度しないといけないのよ?」
「へーい…」
頬を両手で挟まれてキスされた。
先生は俺の長着を羽織って着替えを持って風呂に入る。
えらいよなー。
俺ならそのまま裸で入って裸で出るぞ。
さてちょっと物足りなくはあるが俺も着直さなくてはなぁ。
もぞもぞと布団から出て下着を替えて手早く襦袢を着る。
長着は先生が脱衣所に持っていったんだっけ。
取りに行くと先生が風呂から上がってきた。
うーん、綺麗だ。
ふっと先生が笑って浴衣を羽織る。
「ね、先生、もう一度だけ」
「だめって言ってるでしょ。着替えるから待ってて」
ちぇっ。
長着をまとって待てば着替え終えた先生が帰ろう、と仰る。
仕方なく共に先生のおうちへ戻ると八重子先生にふて腐れた顔していると指摘された。
苦笑しつつ夕飯の支度をする。
先生は湯冷めしちゃ行けないから居間でゆっくりして貰い、下拵えが終わって呼ぶ。
後は味付けだけだからお任せして俺は居間のコタツに足を突っ込んだ。
「うぅーぬくい」
「明後日のお稽古は来るのかい?」
「あ、はい。水曜から行く予定です」
だから明日帰宅したら荷造りしておかねばならん。
明後日もこっち泊まるし。
「久さん、取りに来て頂戴」
「あ、はーい」
ぬくぬくしてたら呼ばれてしまった。
お盆に載せて運んで。
律君も孝弘さんも匂いに釣られて出てきた。
「んー、おいしそう」
「でしょ? 一昨日テレビでやってたのよ」
なるほど、これがさっきのあれか。
何を作らされてるのか良くわかってなかった。
食うと実際うまい。
綺麗さっぱり無くなってご馳走様をしてお片付け。
それから風呂に入って、まったりして戸締り火の用心、寝間に移動した。
休みって早いよな、時間経つの。
あくびを連発する先生を懐に抱いて寝て気づけばもう朝だ。
今日は流石に先生も早起きで朝食を二人でこしらえ、皆で食べる。
昼までにあちこちを片付けた。
お昼ごはんは八重子先生作。三人だからと丼物。
食べた後先生に荷造りのこと、出発時間とうちに来る時間の話を詰めた。
「結構移動時間かかるのねぇ」
新幹線で京都まで、そこから乗り換えはしだてで宮津。そっからはレンタカーだ。
9時半にうちを出て3時半にチェックインの予定をしている。
但馬空港直結の飛行機でも飛んでたら良いんだが。
「乗り遅れると京都からレンタカーで3時間ですからねー」
「電車のほうが楽よねぇ」
「一応特急ですし、トイレついてますしね。車内販売はありませんが」
「ないの? お昼どうするの」
「乗換えが15分程度ですし、新幹線で買って特急で食べましょう」
ホームが端から端の移動ゆえに危険を冒したくはない。
俺だけなら6分有ればいけるけど。
「あ、でもちょっと待って」
電話を掛ける。
まだ予約できるかと聞いたら今日までとのこと。
一旦電話を切り、先生とタブレットで弁当一覧を見る。
先生は結局400kcal台弁当、俺は仙台黒毛和牛弁当とチキンサンドを頼んだ。
新横浜で車内販売の人経由での受け取りになる。
「お肉の弁当に更にチキンサンドねぇ…」
そういいつつ俺の腹肉を抓む。
「何で太らないのかしらね」
「それなりに動いてますから」
「いいわよねぇ」
「あっ」
「どうなさいました?」
「お茶室掃除するの忘れてたよ」
「しときました」
「え、いつ?」
「当日中に。いつも先生仰ってますから」
「なら良かった。うっかりしてたわ」
「偉いわねぇ」
先生が髪を混ぜ繰り返す。
「セットが乱れるー」
くすくす笑ってセットなんてしてないくせにー、と撫で付けてくれた。
「何で七三ですか」
「なんとなく? うふふ」
夕方になってそろそろ、と別れ、帰宅した。
旅行の荷物を作る。
寒いかもしれないので荷物が大きくなる。
…先に宿に送るか、仕事用の上着とか。予備あるし。
天気予報を確認する。特に荒れそうな気配はない。
送ろう、うん。
荷物を作り、クロネコに持ち込んだ。
そうすると持っていく荷物は少なくなり、先生の荷物を持って歩くことが出来る。
用意を終えて食事に出た。
もう時間は遅いから軽めに焼肉を食べに行って、それから寝た。
おやすみなさい。
翌朝、出勤して仕事をする。
暇である。
しょうがない。
社長に出張の時に先生を同伴することを言うと小遣いを貰った。
流石にすべて二人分となるとこの給料でも痛いっちゃ痛いから助かる。
仕事を終え一旦帰宅し風呂に入って先生のお宅に向かった。
お稽古を手伝い、食事を頂いて先生を連れ、うちへ戻る。
先生は少し疲れた表情なので即就寝。
俺は朝食の買物をしてから先生の横に潜りこんだ。
そんなわけで出張当日だ。
先生が簡単な朝ご飯を作ってくれ、食べた後支度をする。
俺は洋服、先生は着物。
「支度、よろしいですか?」
「いいわよー」
「じゃ行きましょうか」
9時半過ぎに家を出て順調に新幹線に乗り京都へ。
寝てるように言ってあったので早々に寝息を立てている。
新横浜を過ぎて車内販売がきた。
支払って弁当を受け取り、バッグから保冷バッグを出し、弁当を入れた。
新幹線の中は暖かいからね。
少し大きいしかさばるがしっかり保冷できるバッグだ。
いわゆる業務用だから柄とかなくて無骨だけど。
後は京都まで電車に揺られて。
先生を手前で起こして乗り換え準備。
降りたら先生の手を引いて足早に山陰線方面へ移動した。
電車は既に到着していたが、時計を確かめれば指定の車両までホームを移動可能だ。
自販機でお茶を購入して指定の車両に乗車し席を確かめて座る。
ふー、と先生が息をつくとドアが閉まった。
「乗り換え出来たわね。なんとか」
「あとはまた駅まで長いので落ち着いたら飯にしましょうね」
宮津までディーゼルが唸る。
弁当を出し先生に預けて保冷バッグを畳んで仕舞った。
ちゃんとひんやりしている。
温かいお茶と共に暖かい車内で食う分には問題ない。
欲を言えば熱々のものを食いたいが。
駅弁を食い尽くしたら先生は車窓風景を楽しんでいる。
俺は続いてサンドイッチを食う。
食べ終わった頃、トイレに行かれた。
戻ってきてすっかり目が冴えたようである。
俺がちょっと眠そうなのを察したのか、肩を引き寄せられた。
「ねぇ。起きてるから寝ても良いわよ」
「ありがとう」
ほんの少し寝ることにして、先生の体温と匂いを楽しむ。
夜には軽めにだが抱いてしまおう。
どうせ寝坊をしても食事の支度をする必要はないから。
揺り起こされて気づけば次は宮津とのことだ。
下車準備をする。
先生にもコートを着せ、俺も上着を着た。
到着、下車。
「さむーい…やっぱり日本海側ねぇ」
「まだ日があるから暖かいですよ。日が落ちると冷えますから早く行きませんとね」
レンタカーを借りに行く。
真っ赤な車体に先生がこれが良いという。
デミオか、まぁいい。
割と剛性あるらしいし4WDみたいだし。雪も降ってないし。
ナビに宿をセットして先生を後部座席に、荷物をバケットに積み込む。
助手席に座れないのはいつも不満らしいけど。
初めて乗る車だから安全運転に勤める。
先生は俺が眠くならないように色々話しかけてくれる。
1時間ちょっと走らせて宿につくとやっと気が楽になった。
大事な人を乗せて長い時間運転はやはりしたくない。
部屋に通される。予想していたより良い部屋で先生も嬉しそうだ。
荷物も届いていたのでさっと片付ける。
早速お風呂に行きたい、と仰るので一緒に行った。
今日は着物じゃないから脱衣所で間違えられても平気だし。
掛湯をして湯に入る。
「うぅー」
「気持ち良~ぃ」
「ぬくいですねぇ」
のんびりと、出張と言うことを忘れそうになる。
湯から上がると先生が洗ってあげる、と持ってきたボディタオルを。
泡を沢山立てて撫でるように洗ってくれた。
俺もお返しに洗って差し上げる。
先生の滑らかな肌が好きだから雑になんて出来ない。
綺麗に濯いだら再度湯に浸かる。
とん、と先生がもたれて来た。
乳が湯の浮力で上向きになっている。若いときはきっと…。
いやまて、ずっと着物生活なら若くても垂れてたか。
「なぁに?」
「なんでもない」
流石に今聞くのはどうかと思う。
「そろそろ上がりましょ」
「はい」
着替えて部屋に戻りくつろぐ。
「ねぇ、あなた明日、朝早いの?」
「あはは、昼からですよ」
「そう。なら良いけど」
「ご飯食べたら寝ちゃうのかしら、って」
「旅に来てそれは顰蹙ですね」
くすっと先生が笑う。
「今日は疲れたでしょ、だから眠くなっちゃったんじゃないかと思ったのよ」
「そうだなぁ。あなた以外となら寝ちゃうかもしれませんね、ほっといて」
だけど恋人と一緒にいて、触り放題なのになんで寝たくなろうか。
「おいで」
呼んで懐に抱く。
「食事まではこうしていたいな」
「そうね…」
昨日久さんと一緒におうちへ行って、先に寝ててと言われて布団に入った。
楽しみで寝付けないかと思ったけど気づけば朝で、久さんが横で寝息を立てている。
朝御飯、作ってあげなきゃ。
でも冷蔵庫に何があるのかしら。
お手洗いを済ませ、冷蔵庫を覗き込むと意外と色々入っていた。
あら? もしかして昨日買いに行ってたのかしら。
助かっちゃったわ。さ、作りましょ作りましょ。
ご飯を炊いてお味噌汁の具を切って。
おかずは…んー…これにしましょ。
手早く作り終えると久さんが起きてきた。
「あー腹減った、うまそう」
「こら、おなかすいたって言いなさいよ」
ほんと男の子みたいなんだから。
めしーと言うので叱りつつ配膳させて朝ご飯を食べる。
嬉しそうよね。
こちらも嬉しくなって。
食べ終わってから身づくろいをしていざ旅行へ。
新幹線では眠くなったら寝て、と言われて寝てしまい、そろそろ降りるよ、と起された。
荷物は全部久さんが持ってくれて手を引かれて乗り換えの電車へ。
電車が動いてすぐ。公園が見える。
「ここ、俺の通ってた学校の裏。であっち。俺の元職場。んでこの下、俺の前の家です」
「あらー。ほんとすぐそこなのね」
何か荷物が多いような、と思ったらお弁当。私に預けて入れ物を仕舞ってる。
「さていただきましょうか」
「冷たいのね」
「車内暖かいから悪くなるよりは、と。ほい、温かいお茶」
山沢さんなりに気を使ってるみたい。
私はお野菜たっぷりのお弁当を頂いて久さんはお肉。
おいしそうだけど私なら胃が重くなりそう。
こっちにして置いてよかったわ。
久さんが食べ終わったと思えばサンドイッチも食べ始めた。
見ているだけで胃が重くなりそうで窓の外を見る。
風景がうちのあたりとは違うわねぇ。
そろそろお手洗い行きたいかも。
久さんがガサガサと片付けだしたので捨てついでにお手洗いへ行った。
…新幹線で行っておけば良かったわ。
ちょっと後悔しつつ席に戻ると久さんが眠そう。
肩を抱いてもたれさせ、寝かせた。
こうしてると他の人からはどう見えるのかしら。
親子やツバメと言うには久さんは若くない。
旦那さんと言うには若い。恋人かしら。不倫カップル?
気持ち良さそうに寝息を立てる久さんを見ているとイタズラしたくなるけれど。
時折山間に町が開ける車窓を楽しみに。
ゆっくり時間が過ぎて次は宮津、とのアナウンス。
久さんを揺り起こし目を覚まさせた。
大きなあくびをして荷物を下ろし、私にコートを渡してくれた。
手早く着ると山沢さんはジャンバー姿。
最近着物姿しか見てなかったから違和感があるわねぇ。
洋服といえば衿のあるものばかりだったもの。
荷物を全部持ってくれて駅に降りる。
電車内との温度差に身をすくめた。
車を借りるから、とレンタカーショップに行くと色々並んでる。
「赤いのが良いわ、あれ可愛いじゃない」
久さんが性能など聞いている。私にはさっぱりわからないけれど大丈夫みたい。
助手席に乗ろうとしたらあなたはこっち、と後部座席。
それも久さんの後ろに座らされる。
「いつもここよねぇ」
「一番そこが安全なんです。シートベルトもしてくださいね」
「あなたの運転で怖いって思ったことないわよ」
「いいからいいから」
納得はしてないけどみっともないから諦めた。
いつもより久さんは緊張して運転しているようだけど。
眠くならないよう適度に話しかけていたらついた。
お部屋に通されると素敵な部屋。
「あ、結構良いな。ランクアップは頼んであったけど心配だったんだ」
「嬉しいわ。ね、お風呂はどうなのかしら」
「はいはい、行きましょう行きましょう」
着替えを手にとって二人連れ。
脱衣所も綺麗で嬉しいわね。
久さんを洗ってあげたら代わりに私も洗ってもらってゆったりお湯に浸かる。
丁寧に洗ってくれるから任せていられる。
お風呂から出て部屋でくつろぐ。
ご飯までもう少し、少し久さんは眠そうにしている。
食べたら寝たら? と言ったけど勿体無いから起きてるって言うの。可愛いわよね。
暫く抱っこされてたんだけどそろそろ時間ね。
ちょっと身づくろいをして。ここは部屋食らしいから。
山沢さんも敢えてちゃんと離れてくれている。
運ばれてくる食事は豪華でおいしそう。
「かには明日頼んでありますからね」
「そうなの?」
「まだ解禁してませんもので…すいませんねえ、他の産地のものならあるんですよ」
仲居さんがすまなさそうにしている。
「だから明日。良い奴頼んでありますからねー」
「で、久さんはやっぱりお肉なのね」
「あはは、これ丹後牛なんですよ。聞いたことないでしょ?」
「ないわねぇ」
「もともと農耕用ですが改良して肉牛になったんですよ。
中央第二市場を通すと京都肉ってブランドになりますが」
「京都でお肉ってイメージないわねぇ」
「米のイメージもないでしょ。海のイメージもないし」
「ないわー」
「京都の人は東京の米のイメージもありませんけどね」
「そうでしょうねぇ」
おいしい、おいしいと食べていると久さんが微笑んでいる。
「太っちゃうわね」
「運動しませんとね」
うふふ、と笑い返してデザートもおいしい。
満腹で幸せ。
お酒も頂いたし。
「ねぇ、これだけ山があるんだから鹿や猪もいるの?」
「いますいます。食いたいなら昼に食いますか?」
「ううん、折角海の近くだからお魚が良いわ」
だって両方うちのあたりにもいるって話だもの。
仲居さんが片付けに来てテーブルを綺麗にして行った。
上げ据え膳、やっぱり良いわよね♪
お酒だけ残してあって久さんが注いでくれる。
ん、おいしい。
返杯。
もう少し飲みたいのに取り上げられちゃった。
「お風呂、入るんでしょう? ならこの辺にしましょう」
沢山飲んではいると良くないんだそう。
脱衣かごに浴衣を脱いで落とし、久さんと二人で部屋の露天に浸かる。
やんわりと久さんに抱き締められて、手が胸を揉み、股間に伸びてくる。
乳首をこじられるとお腹に不快ではない響き。
早く下にも触れてほしいけれどじらされる。
久さんはいつもそう。私から求めるのを待っている。ずるい。
「そろそろのぼせるね、出ようか」
湯船から出されてバスタオルで拭かれた。
そのまま指が股間を這う。
「あ、だめ、ここじゃ…」
まだ外だもの、聞こえちゃうわ。
「たまにはいいだろう?」
耳元で言われてゾクゾクする。
「ほら、随分と濡れてるじゃないか」
恥ずかしい…。
音を立てて弄られてからだが熱くなる。
「して欲しいんだろ」
思わずいやいやをする。
「正直じゃないなぁ」
久さんが笑って一番敏感なところを刺激してきた。
「そ、そこだめ、声出ちゃ、あっ、うぅっ」
キスされて声を封じられて頭が真っ白になる。
体が痙攣して後はされるがままになった。
久さんのいやらしい問いにうっかり答えては、なぶられて。
私のすべてをむさぼられているような、そんな気がするのよね。
足の指の一本一本まで舐められたり。
「嫌がる顔、良いね。ここはくすぐったい?」
くすぐったいけど感じてしまう。
でもお尻の穴をいじるのだけはやめてほしい。
いつかここにも太いのを、なんていうけど無理よ。
指だけでもこんなに入ってる感じがするのに…。
「あれ? 便秘?」
ばっと顔に血が上った。
「ほら、これ」
「きゃっ中で動かさないでっ」
あ、お手洗い行きたくなってきちゃった。
そう言うと指を抜いてくれて離してくれた。
慌ててお手洗いに入ると久々に出てスッキリ。
手を洗うと既に久さんは浴衣を着て座敷に座ってお酒を飲んでいる。
私も浴衣を着て傍に座った。
「出た?」
「あ、うん…」
「そりゃ良かった。今度便秘になったら言うといい」
「何言ってんのよ…」
恥ずかしいじゃない。
「出させてあげるよ?」
久さんなら確かにいろんな事知ってそうだけど…。
「浣腸とかって言うんでしょ、自分でするわよ」
イチジクくらいしたことあるもの。
「ま、それでも出なけりゃね。出るようにしてあげますよ」
恥ずかしがってたらコップを渡された。
ん、おいしい。
けどお酒じゃなくお水だった。
「風呂の後は血が濃くなるって言いません?」
コップを置いたら杯を渡されて注いでくれる。
いくつか飲んで眠くなりもたれかかった。
「疲れたみたいですね。そろそろ寝ますか?」
「うん…」
抱き上げて布団に入れてくれる。
腰、大丈夫なのかしら。
私から身を離した。すっと温かみが消えて寂しくなる。
あ、お膳を片付けてるみたいね。
そんなのいいのに。
暫くして私の横にもぐりこんできた。
ひんやりしている。
「うぅあったけー」
「行火じゃないわよ」
笑いながら抱き締めてあげて撫でてあげる。
お休みのキスを交わして睡魔に身をゆだねた。
朝、目が覚めて横を見ると先生は幸せそうな顔して寝ている。
やっぱり疲れたんだろう。
起さないようにそっと身を抜いてトイレに行く。
酒臭いな、俺。
シャワーを浴びることにして脱ぎ捨てて風呂。
頭を洗って露天風呂にはいる。
んー、涼しい中、熱い風呂。いいね。
湯を楽しんでいたら先生も起きてきて風呂に入ってきた。
掛湯をして俺の横に。
「綺麗だなぁ、ね、抱いて良いですか」
「こら、朝から何言ってるの。朝御飯の時間もうすぐよ」
「そりゃ残念」
軽くキスだけして温まったらすぐに出て着替える。
朝ご飯を取ってゆっくりとくつろいで先生は昨日の疲れを回復するかのように寝始めた。
昼前に起して、食事に誘うと食事はいらないから仕事してるのを見たいと仰る。
仕方なく俺の着てきたものを着せ俺は仕事着。
あまり動き回らないよう指示して取引先の社長を訪ねた。
その後案内をつけてもらいセリを見学。
購入し当日便で送ってもらう。
先生のお宅に2匹、会社に8匹。
生きたままだ。
運送賃込み30万で話がついて現金で支払った。
宿の買出し人もそれなりのものを仕入れているようでほっとする。
その後取引先の人に教えてもらった店で遅い昼飯を食い、宿へ。
「…かにってあんなに高いのねぇ」
「いやご祝儀相場ですからね」
「え?」
「ほら、築地でも正月にマグロに凄い値段つけるでしょう」
「あ、じゃこれから値下がりするの?」
「しますします」
なぁんだ、と笑って。
「どうします、この後。観光? それとも抱かれる?」
「バカ、もうすぐそんな事言うんだから。観光ってどこかあるの?」
「ここから1時間ほどで野田川っていいまして。ちりめんの資料館かな。あります」
「あら、いいわねぇ。ちりめん…」
「白生地買って染めに出すのも良いですね」
うっとりしてる。
そんなわせで先生を後ろに乗せて歴史館へ。
見学をして、後は先生に色々買って差し上げた。
お土産を宅急便に頼み、宿へ戻り冷えた体を大浴場で温める。
風呂から出て一服したころ、夕食が運ばれてきた。
「あ、かに」
「はい、今日解禁しましたものですから」
「良いかにだね」
「久さんは見てわかるのねぇ」
「この甲の黒いつぶつぶ。これが多いのはうまい奴なんですよ」
「良くご存知ですねぇ」
そりゃこれで商売してるからな。
「で、何で大きいのは一匹? 久さんもしかしてあなた」
「当たり、好きじゃない」
先生が笑って背中をバシバシ叩いてくる。
なんかツボに入ったらしい。
「痛いですよー。ほら、食べましょ」
席に着いておいしい夕飯。
先生は途中から無言になっている。
カニって食うと静かになるよね。
ふと気づき、立っておしぼりを濡らし緩めに絞る。
「先生、ちょっと」
一旦手を拭いてあげた。
「身、出してあげましょうか?」
「お願いするわ…お料理冷めちゃいそう」
せっせと身を出してあげて、味噌も食べ易いように。
セコも外子と内子を取り出して手が汚れず食べれるようにしてあげた。
足も出してあげると驚いている。
「足は食べれないんだと思ってたわ」
「あー手間なんでやらないだけですよ」
蟹味噌に燗酒を入れて渡す。
「おいしいわねぇ。うふふ」
こっぺといえばおやつだから、というと高いんじゃないの? と聞かれた。
「ヤケって言って見た目が汚いのがあるんですよ。売れないんですよね、これがまた」
中身一緒なんだけどねー。
全部綺麗に出してあげて俺は手を洗って自分の飯を食う。
足を1本2本食ったりはするんだけどね。
すっかり満腹になってお酒を楽しみ、お土産を買って戻ると電話。
八重子先生からだ。
生きた蟹が怖くて触れないらしい。
笑いつつ茹で方を教えて律君にやってもらうように言う。
ハサミはぐるぐる巻きにしてあるから挟まれる心配はないはず。
って電話中なのに先生が俺の乳を触ってくる。
良いけどね。まぁ。
電話を切ってからキス。
「いつもやめなさいって言うくせに…先生がそういうことしちゃ駄目だろう?」
「"いつも"のお返しよ」
なるほど。
うまく言うものだ。
少しひんやりしてきた足を撫で、抱きかかえる。
「もう一度風呂に入りましょうか。それから布団にね」
「そうね」
そういいつつ再度キスをして暫く抱いていた。
とん、と先生が胸を押して立ち上がる。
あ、トイレね。
はいはい、と行かせて風呂に入る。
先生はトイレから出てから掛湯をして入ってきた。
「あぁ温か~い」
「やっぱりもう冬にかかってるんですよねぇ」
「湯冷めしちゃう季節よねえ」
「しないように風呂から上がったら早めに布団に入りましょうね、これから」
「あら、そのまま寝かせてくれるの?」
「んー…。三回に一回くらいなら良いですよ」
「なぁに? どうかしたの?」
心配そうな顔をして覗き込まれた。
「何で?」
「だっていつもはすぐにしたいって言うのに…」
「俺にも一応性欲の波ってものがあるんですよ。流石に常にと言うことはなくてですね」
「じゃあ今は?」
「ここで抱いてしまいたい程度には」
自分で聞いておいて照れんなと言うのに。
まぁ可愛いけど。
体が十分温まったので風呂から上がり、寝る準備を整え先生が布団に入った。
俺は荷造り。ある程度は送ってしまうから。
片付けるものはすべて片付けて布団に入ろうとすると寝息が聞こえている。
待たせた俺が悪いのかもしれないがそれは無いだろ…。
かといって寝入りばなを起こせば不機嫌だし。
腹が立つのとそのまま一緒の布団に入れば襲ってしまいそうなのとで。
苛々ともう一つの布団にもぐりこんだ。
布団が冷たい。
明日は帰る日だから今晩は疲れさせるわけに行かない、などと自分を落ち着かせる。
何とか折り合いがついた頃やっと布団も温まり、なんとか寝た。
朝、起きると布団に先生がいて俺の胸に顔を寄せている。
「…おはよう」
「お早う。昨日はごめんなさい」
わかってるなら…諦めるしかないかな。
起きるにはまだ早いから無言で抱いていると、あれ? なんか震えてる?
「どうした? 寒い?」
「あの、怒ってる…わよね。ごめんなさい、許して…」
「怒ってないよ。気にしないで」
背中をなでて落ち着かせる。これは俺が悪かった。
少しして先生は脱力した。
「もう少し寝る? それとも大浴場行く?」
「ん、折角だから…」
「風呂ね。了解」
起きてざっくり整えて羽織を着て風呂へ。
「目が覚める…うぅー」
おっさんみたいな声が出てしまった。
先生が思わず笑って、慌てて顔を背けた。
相変わらずだなぁ、良いって言ってる時はさっさと元に戻ったほうが良いのに。
変に気を使って俺がイラつくパターンに陥りかけた。
幸い他所の人が入ってきた事で険悪化を免れたが。
体を洗ってやってもう一度浸からせる。
その間に俺も体を洗った。
実のところ先生の洗い方は緩くて洗ってる気がしないんだ。
ざっと濯ぎ俺も浸かる事にした。
先生の横に座る。
水ははじかないが綺麗な肌だよなぁ、この人は。
じっくり見てたら恥ずかしそうだ。
可愛いな。
「先、出るわね」
「いや俺ももう出ますよ」
「そう? もうちょっと入ってたら?」
「暑いから」
風呂から上がって体を拭き、脱衣所で着替える。
部屋に戻ったら朝飯か。
今日は何かなぁ。
先生にじゃれたくなって部屋に帰ってから押し倒した。
「あっ、ちょっと…もうすぐ朝御飯なのよ?」
「Hはしませんよー、時間がない。何もしないから上に乗ってよ」
そういうことならと体を入れ替えてくれた。
んー、温かいなー。
頭をなでてキスをするとほんの少し頬を染めている。
おっと何もしないっていったんだった。
「あれ。先生太りましたね?」
「やっぱりわかっちゃう? 重くてごめんなさい」
「もうちょっとくらいは問題ないですよ。でもあれだ、運動しましょう」
あれ、赤くなった。
話題そらしたつもりがHで運動すると思ったらしい。
いいけどね、そっちでも。
暫く感触を楽しんでそろそろご飯の時間。
離してあげて衣服を整え、朝食を頂く。
うん、うまい。
後は着替えて帰るだけだがその前に荷物を送る手続きと支払いを。
先生を部屋に残しフロントへ。
カニ代が結構つくが想定済みだから現金で支払った。
財布が軽くなったなぁ…。
とは言え想定外の出費は今回は無く、余裕はある。
部屋へ戻ると先生が化粧を直しているようだ。
「久さん、あなたもそろそろ着替えないといけないんじゃない?」
「そうですねぇ」
昨日帰ってから外干ししたから服の匂いは随分薄くなっていた。
先生は気にならないと言うのでそれに着替えて帰ることになっている。
少し不本意だが。
とりあえず着替え、忘れ物が無いか点検した。
先生がトイレを済ませ、俺もトイレに行ってからチェックアウト。
車に乗って宮津へと向かう。
助手席と強く要望されたが却下してやはり後部へ座らせた。
早い時間の出立だがすべては電車の本数が少ない為だ。。
特急が少ないものだから…。
ただこの電車に乗れると昼に京都につける。
ゆっくり京都でランチが楽しめるってわけだ。
少し飛ばして駅に着き、車を返却する。
ホームへ行き乗車した。
またこの車両、と先生が微妙な顔をしているが国鉄車両よりは良いだろうと思う。
京都駅まで揺られて着いて、お昼をどうするかと相談すると駅弁で良いと。
駅弁を買って中央口近くの窓口で指定席を問い合わせる。
のぞみのグリーンが普通に取れてホームへ上がった。
「あら? 高くなかった?」
「狭いの嫌だったから」
特にうっかり3人席なんか取られちゃったら最悪だし。
お弁当を早速に広げていただく。
「んーおいしいわねー」
すっかり機嫌を直したようだ。
俺も肉々しい弁当に手をつけ始めた。
うまい。
「ほんとお肉すきねえ」
「うまいじゃないですか。で、何で先生はまたそれなんですか」
「だっておいしかったんだもの。失敗したくないじゃない?」
「失敗を恐れず開拓しましょうよ」
「いやよ、勿体無いわよ」
苦笑し車内販売のコーヒーを買った。サンドイッチも。
「やっぱりまだ食べるのねぇ」
「だって少ないじゃないですか」
「何で太らないのかしら、本当に…」
「そういう体なんじゃないでしょうかね」
綺麗に食い尽くしてごみを捨てに立つ。
「あ、久さん。お茶買ってきて。温かいので良いわ」
「はいはい」
ごみを捨てて温かいお茶を2本買う。
戻って手渡せば既に眠そう。
「ちょっと寝て良いかしら」
「どうぞ」
乗り物って意外と疲れるからなぁ。
先生が眠りについた後は暇で。
早く着かないかなぁ…。
途中先生が一度トイレに立ち、入れ替わりで俺も行っておいた。
それからは多少すっきりしたようでお喋りをして東京に到着。
先生はそのまま家へ一旦帰るから、と別れた。
これからまた1時間半だから一旦うちに来いと言ったのだが帰りたくなくなるからと。
残念だ。
俺も帰宅した後は疲れていたようですぐに寝てしまった。
翌日出勤し仕事をして土産を配る。
カニは送った翌朝すぐ買われていったそうだ。
ただ次回出張は一人で行きたいなぁ。
ちょっと疲れたし。
仕事が終わってお稽古に行き、夜は今度こそと思ったが疲れてるからとお願いされた。
まぁ確かに俺も疲れてる。
諦めて抱きかかえて寝ることに。
申し訳なさそうな顔を見てると可哀想になって頭をなでてしまった。
暫く背中をなでているうちに先生が寝て、俺も寝て。
翌朝は一緒に朝ご飯を作って食べてから旅行の荷物を広げて洗濯。
先生の下着や俺の下着も。
それからお土産の箱を開く。
ちりめんの白生地を10反と小物類。
染めも縫いも先生のお知り合いのところに頼まれるそうだ。
重目から軽目まで色々。
八重子先生は軽いのが最近はお好みだそうで。
一番重いのを律君のにしようか、など仰っている。
俺は知ってる染屋というと京都になるので自分の分はそのまま預けてきた。
そんなには着ないから3反だけ。
先生も八重子先生も嬉しそう。
今日の昼から早速染屋に持っていくと仰るが休みではないのかな。
そう言うと既に電話してあるんだそうだ。
ま、俺は荷物持ち兼アッシーだろう。
なんだかんだしていたら時間が過ぎた。お昼ごはんにしよう。
軽いものを作って食べて落ち着いたら先生方と荷物を積んで先生のナビで染屋へ。
色々と先生方が色見本を見せてもらって相談している。
京都とは色の選び方がやはり違うよね。
依頼をして帰宅する途中、夕飯の買出しもした。
なんだか疲れたが先生方はそうでもないらしく夕飯の支度をしている。
俺はちょっとごろ寝。
暫くしてそろそろ出来るから、と起こされたがハーフケットを掛けられていた。
ごろ寝のつもりが熟睡していたようだ。
夕飯を頂いて帰宅し、また寝た。
意外と疲れてた?
翌週は普通の一週間でいつものようにお稽古を手伝い、つけてもらい。
火曜の夜は軽くではあるが抱いて。
そんなこんなで週末。
稽古中に違和感に気づきトイレへ行くとやはり今日からだ。
部屋へ寄って下着を替え、用意をして戻った。
今日はお稽古は無し、と言うことにしていただく。
夕飯を頂くと早く寝るように言われた。
「顔色悪いわ…うちのことはいいから」
あんまり勧められるので先に布団に入らせていただいた。
布団が冷たい。
これなら起きて先生を抱っこしてるほうがなんぼかいいじゃないか。
とは思うもののそういうわけにも行かず。
それなりに布団が温まった頃少し転寝をした。
物音で目を覚ますと先生が寝間に入った音で丁度良いからトイレに立つ。
戻ると先生も寝る準備を済ませて布団に入るところだった。
「うー、さむ」
「寒いわよねぇ」
「抱かせて」
「…早く寝なさい」
呆れられた。
「やだ。却下。抱きたい」
「まったくもう。わがまま言うわねぇ」
仕方なさそうに俺の手を掴み胸に差し入れてくれた。
「冷た…」
「あっ、ごめん。手洗ったから」
ふぅ、と先生が息をついて俺を引き寄せる。キス。
しっかり絡ませて唇を離す頃には少しは温まってきた。
俺を煽るのも最近はお手の物のようだ。
布団の中で静かに、優しく抱いて。
耳元で囁かれるうわ言のような俺を好きと言う声に、より大切にしたくなる。
あそこも舐めて十分に楽しみすっかり満足して横に転がった。
すっかり寒くは無くなってむしろ暑い。
「トイレ行ってくる。何なら先寝てて」
「ん…」
ぺたぺたとトイレに行く途中律君に会った。
「うわっ」
慌てて後ろ向いてる…。
自分のなりを見た。これはいけない先生に叱られる。
ざっと直す。
見なかったことにしてくれと頼み、トイレへ。
とは言え見ちゃったんだろうから見なかったことには出来ないか。
明日叱られそうだ。
トイレから戻ると眠そうにして待っていてくれた。
嬉しくて抱きかかえて寝る。
朝は少し先生が遅れて起きてきた。
俺に炬燵に入るように言ってくれてタッチ交代。
うまそうな匂いが漂ってくる。
机の上を片付けて出来るのを待っていると律君が起きてきた。
「おはよう。あれ?」
「あらおはよう。どうしたの」
「いや今日はお母さんが作ってるんだ?」
「私の具合が良くないと気を使ってくださってね」
「お母さん、出来たわよ。あら、律。おはよう」
「はいはい」
八重子先生が配膳して律君が孝弘さんの分を持って行った。
先生の作る御飯が好きだ。
なんだろう、俺が作るのと何がどう違うんだろう。うまいんだよね。
味わって食べて。
お腹が膨れたので洗い物をと思ったのだが律君がやるからと持って行ってくれた。
「優しいなぁ、律君。良い子に育てましたね」
「でしょ。でも学校の成績はねぇ…」
「まぁまぁ、あの大学には入れてちゃんと続いてるんですから」
「でも今度は就職口があるかねぇ」
「文系は今難しいですからね。開さんと二人であっち系をやるか…」
「それは困るわよ」
八重子先生も嫌がっている。
「ところであんた昨日浴衣羽織っただけで夜中お手洗い行ったんだって?」
「あ、ははー…あんな時間誰も遭わないと思ってました」
「久さん…? もしかして律に見られたの? ちゃんとしなきゃ駄目じゃないの」
二人から責められてごめんなさいをした。
「道理で目をあわさないようにしてると思ったわ…」
まぁ幸い昨日は先生にキスマークもつけられてないし、噛まれてもいなかったし。
「いやでも律君、女の裸に耐性無さ過ぎですよね」
ごつん、と頭に拳が落ちてきた。
「あなたみたいに裸でうろうろしないわよ」
まったくもうっと怒られて。
その手を引き寄せる。
「普通お母さんの裸とか見てて気にならなくなるもんですけどねぇ」
「そんなもんかねぇ」
「だって一番身近な女、でしょ? 母親や女兄弟」
「あんたも?」
「いや私は流石に物は同じもんついてますし。むしろ兄貴のはどうなってるかなとか」
「あ、それはわかる気がするわ」
先生もやっぱり気になった時期はあったようだ。
初夜に大きくなったあれ見て吃驚したって。
お兄さんたちはうまく見られないように処理していんだな。
可愛い大事な末っ子の女の子だもんな。
環さんあたりはうっかり見てそうだ。
「で、なんか初心なまま今に至る、ですか」
「そうねぇ。今はあんたの所為ね」
ぴんっと鼻先をはじかれた。
地味に痛い。
「さてと、そろそろ洗濯物しようかね」
「じゃ久さんは…んー。お茶室の拭き掃除お願いね。ゆっくりでいいから」
「はーい」
「私はおふろ洗ってくるわね」
家事を分担してバラバラに動く。
いつもなら俺が風呂掃除だがアレだから外したようだ。
障子の桟や棚の上など気にしつつ拭く。
最後は畳の目にそってしっかりと。
きょろきょろと見回して掃除のやりのこしがないか確認した。
こんなものかな。
腹減ったな。そろそろお昼か。
台所に顔を出すと八重子先生が何か作ってる。
「なに作ってらっしゃるんですか?」
背中から覗き込んだ。
「ん、今日はね。チャーハンにしようと思ってるよ」
「あら、なにべたべたしてるの?」
先生も作業が終ったらしい。
「人聞きの悪い。スキンシップです」
「ほら、手が空いてるならそのハム刻んで頂戴」
先生が包丁を取ってハムを切り始めた。
「何入れるんです?」
「普通のだよ。卵とか。あんた高菜大丈夫なら高菜も入れるけど」
「あ、大丈夫です」
「はいはい、それじゃ食卓片付けてきて頂戴」
「はーい」
ぱたぱたと台所から出て食卓をきれいにしていると先生たちの会話が微かに聞こえる。
何かぼやいて、たしなめられてるみたいだ。
微妙にだけど先生嫉妬してたよね。その辺かな。
炒めてる音がしている。良い匂いだ。
孝弘さんも出てきた。
「もう少しみたいですよ、待っててくださいね」
「律は?」
「10時頃に出かけてくるって出て行かれましたよ」
「できたわよ」
「あ、はい」
台所に取りに行って配膳する。
孝弘さんのは大盛だ。
おかずより米が良いとかいいつつ、おかずがうまいと上機嫌なんだよな。
そんなわけで付け合せの大根のさっと煮がうまい。
飯がうまいのは幸せである。
食べ終わったら洗い物を引き受けて台所へ。
片付いたらコーヒーを淹れて。
4人でコタツの住人だ。
のんびりした日曜が過ぎる。
うつらうつらと気づけば孝弘さんも俺も寝ていた。
いかんいかん。
目が覚めたのを見計らって先生からお夕飯の買物に誘われる。
コートを羽織ってお供した。
「さむーい」
「ですねー…これからもっと寒くなるんでしょう」
「いやねぇ」
「ほんっと嫌ですがしょうがない」
先生が袖口に手を引っ込めちゃったので懐手をして。
「…それはよしなさい」
「じゃ手ぇ繋ぎましょうよ」
「しょうがないわねぇ。ほら」
手を出してくれたので手を握って歩く。
先生はもう気にならないようだ。
色々買って流石に繋いでもいられなくて離したけど。
帰宅してご飯を作って。いただいたら帰る時間だ。
「帰りたくないなぁ。仕事行きたくないや」
「ダメよ。ちゃんと稼いできてね」
「はーい」
軽くキスして別れた。
電車で居眠りしつつ帰宅。
寝巻きに着替えてすぐに布団に入った。
おやすみなさい。
寒い中の一週間が始まり、火曜は先生のお宅でいつものように抱いて。
眠くなってきた頃。
「あ、そうだわ。日曜朝から出かけるのよ。久さんは土曜日帰る?」
「んん?」
「ほら、出来ないのに一緒の布団は嫌とか言ってたでしょ」
「言ってたけど…おでかけかぁ。お友達?」
「そう、お茶の。でどうするの?」
「どうしようかな。考えておく。今すぐ決めろってことじゃないよね」
「土曜までに決めてね」
「OK、じゃ今日は寝ましょう」
軽いキスをして寝かしつける。
木曜の朝、会社から指令があった。丁度良い。
八重子先生に電話して土曜の稽古を休む理由を告げてから稽古場へ行った。
いつものようにお稽古を済ませ、夕飯を頂く。
土曜に来ない旨を告げたら先生は少し嫌な顔をした。
「すいません。ちょっと用がありまして」
「しょうがないわねぇ…」
「まぁまぁ、仕事だって言うんだから仕方ないじゃない」
八重子先生のとりなしもあり、何とか機嫌を直していただいて帰宅した。
忙しき連休前の仕事をこなし土曜の仕事を終えて帰宅する。
昼寝をして夕方、料亭へ。
業者会だ。
「あら、お久しぶり」
「姐さん。お元気そうですね」
宗直さんだ。
「今日はお稽古日だったんじゃないの?」
「やーぁたまには休んでみました」
「不真面目ねー」
稽古の進捗具合を喋って飲んで。男共は若い芸者とはしゃいでる。
今日の参加者で女は俺一人だ。
いつものばあちゃんも今日は息子が代わりに来ている。
話し相手不在になるところだったから宗直さんがいて助かった。
先生から夕飯写真のメールが来た。
姐さんに見られて少し気恥ずかしい。
暫く騒いで業者会がお開きになり三々五々帰宅する。
久しぶりにしっかり飲んだ。
帰りにつまみと明日の朝の分を買って。
ストーブをつけて少し飲み直してから布団に入った。
布団が冷たくて、何でここに先生がいないのかと思う。
少し腹を立てつつも寝た。
翌朝早く、先生から遊びに出た旨メールがある。
折角の連休なのに俺は一人か。
苛立ちのあまり部屋を掃除した。
熱が入ってしまい、昼飯も食わず気づけば外が暗い。
外に食べに出ることにし、着替えて近くの居酒屋へ行く。
ガッツリ食って飲んで憂さを晴らす。
いい加減帰ろう、と思ったのは11時半を過ぎていた。
家に帰ると鍵が開いていて、草履がある。
あぁ、また家に帰らずこっち来ちゃったのか…。
和室を覗けば着物が脱ぎ捨ててあり、ベッドを覗くと寝巻姿で布団に潜り込んでいる。
苦笑して和室の着物を衣桁に掛け、肌襦袢を洗濯籠に入れた。
それからシャワーを浴びて先生の横に潜り込む。
いつもと違いお酒の匂いや化粧の匂いがする。
男の匂いがしないだけマシか。
寝てるの起こすと機嫌が悪くなるのはわかっているがやりたくなって。
熟睡してるから反応は薄い。
途中で目が覚めたようで怒ってる。
それでも構わずに反抗できなくし抱いた。
先生は終った後不満そうに背を向けて寝てしまった。
むかついたので明日いじめてやろう…。
翌朝、9時を過ぎた頃目が覚めた。
先生もまだ寝ている。
腹減った…。
冷蔵庫の中、なんもないんだよな。
ガサガサと冷凍庫を掘り返していると先生が起きた。
「おはよう」
「おはよ、もう早くはないけどね」
「おなかすいたの?」
「なんかないかと思ったけどなんもなかった。買物行くけどどうする」
「そうねぇ、ちょっと待てる? 待てるなら喫茶店行きましょ」
「待ってる。着替えてきて」
先に洗面所を使わせて先生と交代で洗面所を使う。
俺の着替えはすぐ終わるしね。
着替えている先生を見るとむらむら来るが朝からは叱られるしそれより腹が減った。
先生が普段着に着替えて俺も着替え終えて、煙草と財布と携帯だけを身につけた。
トイレだけ行って、外に出る。
先生が俺にくっついてくる。
「寒いわねぇ」
「うん」
近所の喫茶店に入ると暖房が効いてて自然と先生が離れる。
席に着いて先生はホットケーキを頼んだ。
「好きですねえ」
「あんたこそ」
ま、俺もまたカレーを頼んでしまったわけだが。
「昨日、何時帰ってきたの?」
「11時半過ぎてたかな。帰ったら鍵開いてるし草履はあるし。
着物も脱ぎ散らかしてあったよ。どんだけ飲んだんだって思った」
「あら。そうだった? ごめんなさい、記憶がないのよね」
「これで男の匂いでもしたら問い詰めようかと」
「ばか、女の人よ。昨日会ってたの」
「でも飲みにいったんでしょ? そこで何かあったら。記憶ないんでしょう?」
「…記憶はないけどそんなことするような女だと思ってるのかしら」
「あなたからしなくても男からする奴がいてもおかしくない」
「あなたみたいに?」
食事がきたので話は一時中断。
「本当にあなた嫉妬深いわよね」
食べつつ深い溜息をつかれてしまった。
良い女だから取られそうで怖いとも言えず、苦笑をこぼすしかなかった。