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百鬼夜行抄 二次創作

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伶(蝸牛):絹の父・八重子の夫 覚:絹の兄・長男 斐:絹の姉・長女 洸:絹の兄・次男 環:絹の姉・次女 開:絹の兄・三男 律:絹の子 司:覚の子 晶:斐の子

527

ふと目が覚めると久さんは隣にいなくて、もうお仕事行っちゃったのね、と寂しくなる。
気だるい。
昨日は久しぶりに久さんが本気で求めてきた。
もう無理、と何度繰り返したかわからない。
こほっ、と一つ咳。
枕元のお茶を飲んで寝返りを打つ。
私が起きるのはお昼になってもかまわない、あの人はそういう人。
安心して二度寝をする。
きっと起きたら久さんが横にいる。
首輪が目に入った。
手にとって眺めるとなかなか手の込んだものだった。
パチン、と音がしたのは磁石でくっつくのね。
縫い目は、これは手縫いね。端も綺麗に始末してある。
ちゃんとした職人さんに作ってもらったのかしら。
少し恥ずかしいけれど何かうれしい。
触っているうちにいつしか寝てしまって夢を見た。
久さんに職人さんのところへ連れて行ってもらう夢。
首にメジャーを当てられる。
布地を選ぶ。
そんな夢だった。
次に目が覚めると久さんは横に座って私の髪をなでている。
「おはよう。よく眠れた?」
手に首輪を握り締めたまま寝ていたことに気づく。
これじゃまるでして欲しいみたいであわてて隠した。
「トイレ連れて行こうか?」
そういわれると尿意を感じてうなづく。
軽々と久さんは私を抱き上げる。
あ、裸。
ちょっと恥ずかしい。
トイレの便座におろされて、久さんは楽しげに私がするのを見る。
これはちょっとじゃなく恥ずかしくて好きじゃないのに、久さんは好きみたい。
たまにしている最中にキスしてくるのはやめて欲しい。
大きいほうの時だけはがんばって追い出すのだけど。
始末をしたらまた抱き上げられて布団へ連れて行かれた。
寝巻を着せてもらってもう一度寝るか聞かれる。
まだ眠気はあるけれど空腹感が強い。
お鮨を取ってくれるという。
いつものところ。あそこはおいしくて好き。
届くまで、と久さんが言って私をなぶる。
せつなくて、気持ち良いけれど人が来る前にというのは恥ずかしくて落ち着かない。
でもきっと久さんはここしばらくずっとしてないから、私を欲しているのだと思うから。
快感だけを追いたくなってこのまま、と思いそうになる。
私のもので汚れた指をなめさせられて口の中もなぶられた。
久さんはひどい人…。
余韻に浸っているとピンポンがなり、久さんが出て行く。
きっとお鮨がきたのね。

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526

翌朝、出勤しようとしたら先生が目を覚ました。
「もうそんな時間?」
眠そうにしつつも見送ってくれた。
かなり久しぶりかもしれない、これは。レアだ。
ということでやる気が出て仕事も好調だ。
GW明けではあるのでそんなに売れないが。
先生にイセエビ食いたいかと聞く。それよりは白身の魚、というので目板鰈をチョイス。
お造りにして盛り付けて持って帰った。
「ただいま」
「おかえりなさい。何もって帰ってきたの?」
皿を渡して着替える。
「あらお刺身、おいしそうね。何のお魚?」
「メイタですよ、こっちでは煮付けにするんでしたっけ?」
「あれをお刺身にしたの? おいしい?」
「うまいですよ、保証します」
後は何かいろいろ作ってくれていた。
「買い物いったんだ?」
「だって冷蔵庫、何にも入ってないんだもの。ほら、座って? もうできるから」
「はーい」
食卓の上も片付いていて、洗ってある布巾が置いてある。
やっぱり先生は完璧だなぁ。
お味噌汁におひたし、お漬物、メイタ、それと俺には肉の味噌炒め。
「足りるかしら」
「少し多いかも知れないな、最近そんなに食べてなかったから」
「あら、そうだったの?」
「急ぐから適当に軽く食うようになっちゃって」
「だめよ、ちゃんと食べないと」
そうだよな、と返してご飯を食べる。
「うん、やっぱり先生の味付けはうまいなー」
「そうね、朝ごはんくらいしか作らなかったから」
うまくて飯がすすむ。
「ご飯とお味噌汁、おかわりいらない?」
「あ、欲しいな」
にこっと微笑みつつよそってくれた。
いちいち台所に立つの面倒だろうにそんなことは毛ほども見せない。
お変わりしたのも食べつくして、おかずもなくなった。ご馳走様。満腹満腹。
「お粗末さま」
洗い物は引き受けた。
先生は広告を見ている。何か良いもの載ってるのかな。
「ねぇ、久さん? 三越だめかしら」
「良いですよ、行きましょう」
水を切って手を拭いて、それじゃ着替えるか、と声をかけた。
俺も部屋着だが先生もだから銀座へ出るのにはちょっとそぐわない。
先生が着替えを済まして顔を直すのと、俺が着替えるのが同じくらいの時間。
着慣れてる差が出る。
トイレに行ったらお出かけだ。
久々に先生が綺麗に装っているのを見た。
普段は化粧も薄くしかしないし着物だってお稽古着か普段着だからね。
「なぁに?」
「綺麗だな、って思ったんだよ」
「あら嬉しいわ」
三越へ着いて先生は早速にも呉服売場へ。
単の着物、夏の着物。
その中の一反に目を止めた。
「これどうかな」
「あら、良いわね。涼しそう」
「惜しむらくは正絹だ。お稽古に使えないけど」
「うーん、でも良いわぁ
 帯をこういうのにしたらどうかしら、こういうときに着るのには良いんじゃない?」
「あ、そりゃいいですね」
店員さんが寄ってきたのでもう3本、帯を持ってきてもらった。
並べてためつすがめつ。
やはり最初のものがよさそうだ。
「仕立てはどうなさいます?」
「あ、そのままで結構です」
「すざきに頼むんですか?」
「そう。あそこもほら、大変だったでしょ、だからちょっとでもと思うのよね」
後は足袋を二足買い、それからミセスのファッションフロア。
めったに着なくても見るのは好き、というのはわからなくもない。
ストールの感じの良いのを見つけたようだが値札を見て戻した。
「買ってあげるから戻さなくて良いよ」
「だって悪いわ」
「俺の金で好きな女が綺麗に装う、そういうの良いじゃないですか」
あ、耳赤くなってる。
「さらっとそういうこと言うわよね、あなたって…」
ふふっと笑って買ってあげた。
ストールは着物でも洋服でも使えるからコスパ高いんだよね。
よく見ると米沢織。なるほど高いわけだ。
後は夕飯になりそうなものを地下で買って先生の明日の朝飯分も確保する。
帰宅。
お茶を先生が入れてくれてなんとなく落ち着いた。
「あぁ楽しかった。久しぶりだわ」
「心の余裕ですね」
まぁこの後その余裕はなくなるだろうけど。
くつろいでいる先生に着替えてくるように言い、支度をする。
久々でもあるし、そんなに飛ばしては大変だから今日の所は軽めに気持ちよくしてやろう。
ペニバンはどうするか。
とりあえず使えるようにだけしておくか。
無理そうなら入れなくても別に良いわけだし。
あ、シャワーの音。
別に入らなくても良いのに。
まぁいいか。俺も脱いで入ってやろう。
風呂場の戸を開けると先生が驚いている。
うーん、良い体だ。
背中から抱きしめる。
首筋にキスを落としてあちこちに手を這わせた。
「だめ、こんなとこで…」
「たまにはいいだろ?」
乳首をつまみ転がし、もう片方の手を股間に這わせる。
敏感なところに触れると身じろぎするがシャワーの音であえぎ声は聞こえない。
「声を出して」
「やだ、恥ずかしいもの…」
啼かせたくなり、少しきついが先生の片足をかかえた。
「あっ、こんな格好、だめ、ねぇっ」
浴室の鏡になぶられる股間が映って顔を背けている。
黒々とした毛の中に俺の指が埋まってうごめいて。なんとも淫靡だ。
先生は俺の腕をつかみ指が動くたび呻く。
俺が男ならこのまま突っ込んでしまうんだが。
そうも行かないので一度逝かせ、ぐったりした先生を風呂場から回収した。
「もうっだめって言ってるのに」
「だめ? 今日はだめは通用しないよ」
にっこり笑ってやる。
「絹、首輪。出来てるからね」
「えっちょっと、い、いらないわよ」
「ほら、これ」
渡してやると顔を赤らめて俺と首輪を何度か見る。
手から取り上げて環を外し、先生の首にあてがった。
パチン、と音を立てて首輪が締まる。
「サイズ、ちょうどだね」
「外して…、おねがい」
「鏡見てごらん、似合ってるよ」
鏡を見せると震えている。
ふと女のにおいがして先生の股間に手を這わした。
「随分濡れてるじゃないか。気に入った?」
首を横に振ってさらに外してと訴えてくる。
いやなら自分で外せばすむんだけどね。
俺は鏡越しのプレイが好きだからそのまま背後から弄ることにした。
さすがに首輪の視覚効果は抜群だ。
俺が興奮してしまい少し荒くなってしまったが先生とて被虐心を揺さぶられたようだ。
声も大きくなり、俺の荒さにもよく応えてくれている。
「もうだめ…」
かすかに聞こえた頃、手を止めた。
気づけば暗い。
電気をつけると先生のあちこちに擦れた痕が残る。
キスマークも。
首輪を外してやると首にもこすれた痕。
あわてて軟膏を塗りこむ。
先生はぼうっとしてされるがままだ。
うーん。
明日以降しばらくはコンシーラーか何かでごまかすか。
苦しくないよう少し余裕を持たせたのが仇になったかな。
ホットタオルを作って体を拭いてやると気持ちよさそうだ。
足の指の間まで拭いていると先生の腹が鳴った。
「おなかすいた…」
「飯にしますか」
「うん、でも起きれないわ」
布団の上で食べられるようセッティングをしてお盆に載せて出した。
一口ずつ口に運んでやる。
「おいし…」
今日は弁当ではなく惣菜を買ったので先生は俺の分を残そうとしている。
「好きなものは全部食べたら良いよ。俺は残ってるの食うから」
「でも…」
「品数多目に買ってるし、俺が嫌いなものは買ってないよ」
「そう? じゃ遠慮なく」
嬉しそうに食べてる姿を見るのも楽しい。
暫くしてもうおなかいっぱい、というので下げて寝かせる。
「太っちゃう…」
そう言いながら、うとうととしている。
気持ちよさそうな、幸せそうな顔して。
sex中の気持ちよさとは違った気持ちよさなのだろう。
先生が寝付いたのを確認した後、俺も食べて片付けた。
寝室のあれやこれやも片付けて先生の横に潜り込む。
規則正しい寝息に誘われてあっという間に寝た。

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525

夜中、一度八重子先生がトイレに起きたのに付き添う。
翌朝からは無理をせず、ゆっくりと家になれることを重点においてくださった。
GWの三日を過ごして退院はできそうだ、と先生との意見は合致した。
明日、律君付き添いで病院に戻ってお医者様と退院日を決められるそうだ。
ひして先生のお稽古お休みの三日間は先生がうちへ来てくださる。
俺が帰って掃除をする暇はない。
というか掃除をするために来てくださるそうだ。申し訳ない。
翌朝、律君が二人を乗せて病院へ行った後、掃除をして、律君のお昼を用意して置いた。
先生達が戻ってきたのでその足で俺の車に乗せて帰宅する。
「何か久しぶりねぇ、あなたの家に行くのも」
「そうですねえ」
連れて帰って第一声は「汚なっ」だった。
本気で呆れられて、あきらめた顔で指示をくれる。
もうここまで放置してるとどう掃除して良いか自分ではよくわからんのだよね。
雑然とした部屋が先生の指示に従っているうちにだんだん綺麗になる。
不思議な気分。
整頓も先生が言うようにするとちゃんと収まる。
終わったころはもう日が落ちていて、先生はお疲れである。
「とりあえず銭湯行きましょうか」
「あぁお風呂、洗ってないわね、まだ」
着替えと風呂セットを持って先生と近所の風呂屋へ。
「銭湯って久しぶりねえ」
「久しぶり続きですね」
「あら」
もちろん女湯に入る。番台が一瞬変な顔をした。
俺はたまに仕事帰りに入るから気づいたようだが。
この時間帯、女湯はほぼ無人ゆえ気兼ねなく先生が脱いでいるのを眺めつつ。
汚れを落としてすっきりして、先生の髪を乾かし涼んでから着替えた。
それから飯を食いに出る。
先生のご希望でスパゲティ。
豆乳を使った和風のスープスパに先生は舌鼓を打ち、俺はカレーのスパを食う、
こっちをみてお子様ね、と笑った。
「お子様じゃない所、うち帰ったら見せてあげましょうね」
にやっと笑うと恥ずかしそうにしている。
可愛いね、簡単に墓穴掘っちゃう。
そんなつもりじゃなかったのに、という感がありありと出ている。
先生のスパは半分ほど食べた後ゆず皮のおろした物をかけるようだ。
多分うまいんだろうなぁと思う。
見ていたらスープをすくって俺にくれた。
「あ、うまいな、これ」
「でしょ? あなたもたまには頼んでみたら良いのに」
「でもカレー好きなんだよ」
くすくす笑ってるのも可愛いなぁ。
食べ終えてアイスレモンティと温かいほうじ茶。
「さてと、帰って寝ましょうか」
「あ…はい…」
会計を済ませて手をつないで帰宅した。
さて寝る前に布団を取り入れてシーツをかけねば。
先生がくつろいでる間にそれらを済ませた。
では、と。
「おなかこなれた?」
「ちょっと待って」
トイレに行った。我慢してたのか?
着替えてベッドで待ってると先生が鍵を確かめ、リビングの電気を消して戻ってきた。
そっと浴衣の帯を解く。
「待った、今日はやらないつもりだから」
「えっやだ、恥ずかしい…」
あわてて直して布団にもぐりこんできた。
「だってあなた今日は疲れているでしょう?」
「いいの?」
「良いんだよ、ほら、早いけど寝ましょう」
背中をなでているうちに先生の体が温かくなりあくびが出た。
「おやすみなさい」
「おやすみ」

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524

翌日。
仕事の後、先生のお宅で稽古が終わるまで家事をしていると斐さんが来た。
「おじゃまするわよ、あら、お稽古中?」
「こんにちは、どうされたんですか?」
「あぁ山沢さん。お母さんのことでね、一時退院」
「うーん、今日は私じゃお稽古変われないんで…お待ちいただけますか」
「夕飯は作ってきたから大丈夫よ」
「なんなら一緒に食べて行かれます?」
「あら、いいの?」
「先生も大勢がいいってよく言ってらっしゃいますし」
「じゃ遠慮なく」
「とりあえずお茶かコーヒーかどっちがいいですか?」
「コーヒーいただこうかしら」
「渋目かあっさり目かどちらがお好きでしたっけ」
「あっさりがいいかしらね」
「はーい」
戻ると斐さんがご自宅に電話されている。
軽いお菓子とコーヒーをお出しして、それから食事の支度を開始した。
しばらくして斐さんが覗きに来る。
「何作ってるの、手伝うわ」
「豚と水菜の炊いたのですよ。手伝ってくださるならちょっと鍋見ててください」
冷凍庫から味噌漬けを出す。
困ったときのストックだ。
それと万願寺を買ってあったのをじゃこと炊くことにした。
メインはそれで良いだろう。
先生もあまり好きじゃなかった銘柄の酒を沢山入れる。
「そんないいお酒、お料理に使うの?」
「いや私も先生もこの酒好きじゃないので…料理に使う方が良いじゃないですか」
「でもいっぱい入れるのねえ」
「あ、下がっててください、燃やしますから」
「えっ、きゃっ」
さっと青い火が上がり、すぐに赤い火になった。
日本酒はそこまでアルコールが高くない。
「乱暴ねえ、沸騰させるだけでいいのに」
「あれ、そうなんですか? 昔からずっと火を入れてました」
「危ないじゃない」
「まぁそうですけど」
苦笑しつつ料理を続ける。
「意外と手際いいわねえ」
「はは、八重子先生に仕込まれました」
もともと自炊できないわけでもなかったし。
そろそろ支度が終わりそうになったころ、玄関の音。
生徒さんが帰られたようだ。
ご飯が炊けて、食卓を拭いて用意をしていると先生が戻ってきた。
「あら、姉さん。いつの間に来たの」
「もうちょっと前よ、お稽古の邪魔になるから待ってたの」
食卓に配膳する。
「あ、おいしそう」
「山沢さんって結構上手ねえ」
「そうでしょ、おいしいのよ。助かってるわ」
「まぁとにかく食べましょうか、おなかすいてるでしょう?」
「わかっちゃう?」
「わかっちゃいました。どうぞ」
「いただきます」
食事を始めてから先生が斐さんに何で来たのか聞き始めた。
「あぁそうそう、お母さんね、外泊でGWの間どうかしらって先生がおっしゃってるの」
「良いですね、丁度練習になる」
「そうする?」
そうしよう、ということで食事が終わった後、斐さんが帰って行った。
「ごめんなさいね、GW遊ぶって言ってたのに」
「いやぁそんなことより戻ってきてもらうほうが良いでしょう、俺とはいつでも遊べる」
「うん、そうね。じゃあ明日、お母さんのところ行くわね」
「はい」
お風呂に入る前に今日は抱くことにして、先生は翌朝風呂に入られた。
「んー、気持ち良いわ」
「今日も暑くなりそうですね」
「じゃ早めに行こうかしら」
「そうしましょう、用意してきますね」
先生の身支度が整ってから八重子先生の下へ。
3日間の外泊、という形で帰宅してもらうことになった。

GWに入る前の夜。
律君が八重子先生を連れ帰ってきた。
普段通りの生活ができるか、試しにということだ。
それだからいつもの部屋に玄関から歩いて上がることになった。
少し大変そうではあるが危なげ、というほどでもない。
ゆっくりと杖を使って歩き、部屋に入られた。
「やっぱり落ち着くねえ」
「でしょうね、あ、今日は俺、隣の部屋で寝ますから」
「そうしてくれるかい?」
「もちろんです、たぶん大丈夫でしょうけど。見た感じ」
「そりゃあリハビリ頑張ったもの」
「長かったですよねえ」
「嫌になったこともあったけどお手水も自由にいけないのはごめんだからねぇ」
「男の人はそうじゃないらしいですけどね」
とりあえずはいったん居間に戻っていつもの場所へ。
やっぱり収まりが良い。
先生が水屋の片づけから戻ってきた。
「どう? 大丈夫そう?」
心配そうに覗き込んでいる。
「まぁなんとかなるだろ」
「とりあえず、ご飯にしましょうか」
夕飯を食べてゆっくりして。
「そろそろお風呂、どうする?」
「明日のお昼に入るよ」
じゃあと律君と先生が入った。
「あんたは?」
「俺は明日、八重子先生と入ります」
「そうしてくれるの?」
当然だろう。
退院後初めて一人で風呂に入るときは怖いもんだ。
いつものように火の元と施錠を確かめて、八重子先生の隣の部屋に布団を敷く。
先生は八重子先生の部屋に布団を敷いたり寝かせたりしているようだ。
寝る前にトイレに行こうと思うとちょうど先生も出てきたところだった。
「あ、お布団敷いた? じゃ寝ましょ」
俺の部屋に向かおうとするから止めて先生は自分の部屋で寝るよう伝える。
「どうして?」
「俺、横の部屋で寝てますから。ほら、なんとなく心細かったりしません?」
「あら、そうね。じゃそうしてくれる?」
「はいはい、じゃおやすみなさい」
「おやすみなさい」
っと寝る前のキスはしておきたい。
腕をつかんで振り向かせてキスをして、ちょっと胸を揉んだ。
「こら」
こつん、と額を叩かれて笑って離してあげて別れた。

翌朝。
早くに目が覚め、一つのびをして八重子先生の部屋を伺う。
もう起きてらして着替えておられた。
「朝ご飯、作ろうかねえ」
「俺、作りますからいいですよ」
「じゃ見てるだけ」
先生も起き出してきて台所はいっぱいいっぱいだ。
「暑い…」
「二人とも居間に行っててくださいよ、暑い」
狭い台所に三人はさすがにきつい。
先生たちが居間に行って多少気分的にも涼しくなった。
朝飯をとった後、八重子先生がお稽古を、という。
電熱で、ということで用意して先生に俺のお稽古をつけてもらった。
八重子先生が入院してからあまり稽古ができてなかったからずいぶんと直される事に。
少しへこみはしたものの、仕方がない。
それに退院されたら多少先生にも余裕が出て、もっとお稽古つけてくださるはずだ。
何度もお稽古をつけてもらううちにおなかがすいてきた。
八重子先生が気づいたらいなくて台所からおいしそうなにおいがする。
「久さん、よそ見しない」
「はい、すいません」
「まぁでもお昼過ぎちゃったわね…」
気を取り直して点前を終えた。
八重子先生がお昼を食べなさいと呼びに来てお昼ご飯をいただく。
「あぁおいしいわぁ、久しぶりね、お母さんのご飯」
「うん、うまいですよねえ」
「久しぶりに台所に立ったけどやっぱり疲れるね」
「じゃ食べたら寝てください」
「そうさせてもらうよ」
食後、先生が八重子先生を寝かせに行って俺が茶室の片付けをした。
居間へ戻って買い物に行くことを告げる。
「んー、アイス買ってきてくれる?」
「辻利? バニラ?」
「バニラが良いわ」
「了解、行ってきます」
夕飯の献立に従い買い物をして、最後に近所のコンビニでアイスを買って戻った。
「ただいま」
「おかえり、アイスは?」
どうぞ、と渡して台所へ。
ゆったりと休みの開放感を楽しんだ後夕飯を作って八重子先生を呼んでもらい。食事。
それからお風呂。
八重子先生と入った。
できるだけ手は貸さず、見守る。
浴槽へは試行錯誤。
事故もなく風呂から出て居間でくつろぐ。
先生のあくびを契機に寝ることにした。

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523

次の日、仕事が終わってから先生のお宅へ。
挨拶をすると少し照れくさい、と言った表情だ。
いつものように家事をして合間合間にお稽古の様子を伺う。
やはり稽古中は落ち着いて指導されているようだ。
買物へ行って夕飯の支度をする。
もうそろそろご飯が炊けるという頃生徒さん方が帰られた。
茶室へ入って片付けを手伝う。
「今日はなに作ってくれたの?」
「サワラの柚庵と菜の花のおひたしと、あとレンコンの金平。モズク好きですか?」
「もずく? 嫌いじゃないわ」
「それじゃそれもつけましょう。風呂は掃除しておきました」
「ありがと。お茶、飲みたい?」
「飲みたいです」
「薄?濃?」
「どちらでも」
黒楽を先生が取って点ててくれた。たっぷりと濃茶を練って。
「おいしいなぁ…」
俺がもうちょっと欲しい、と思ったのを先生が察してもう一服点ててくれた。
「眠れなくなっても知らないわよ?」
「あぁ、帰るときに安全運転できますね」
「……そうね」
「どうしました?」
「帰っちゃうんだったわね…」
「今日、平日なの忘れてましたか」
あ、顔が赤くなった。
うっかり屋さんめ。
「泊まるのは明日ですよ、明日。寂しい?」
「寂しいわよ。お父さんもいないもの」
「律君はいるでしょ」
「いるわ、でもねぇ…」
「ずっと4人だったから?」
「わかってるなら…ううん、だめね。お仕事だものね」
「俺も一緒に居たいんだけど」
「わがまま過ぎるわよね、ごめんなさい」
「いや、可愛いからいい。それよりGW、俺も3連休なんだけど」
「あ、お稽古は3日から10日までお休みよ」
「了解、じゃ週前半になるね、遊べるの」
「そうね」
暫くGWの予定など話して片づけを終わり、台所へ。
丁度炊けたところだ。
「ただいまー」
ナイスタイミングで律君も帰ってきた。
「手を洗ってらっしゃい、ご飯できてるわよ」
「はーい」
律君がいると一気にお母さんの顔になるな。
食卓に並べてご飯をよそいお味噌汁をつける。
「おいしそうだね、いただきます」
「いただきます」
「はい、どうぞ」
食べてる途中先生が俺のお茶を急いで飲んだ。
「どうしました?」
「鷹の爪噛んじゃったのよ」
「それは災難、熱いお茶じゃ辛いですよね」
空になった湯飲みに注いでまた冷めるのを待つ。
律君はそれを見て鷹の爪をよけて食べている。
「ねぇ、お父さんからいつ帰ってくるとか聞いてないの?」
「うーん。聞いてないけど大丈夫だと思うよ」
「そう…」
しょげているので可哀想になる。
どうしても空気が重くなってしまうなあ。
「きっと孝弘さんの事だからひょっこり何事もなかったかのように戻ってきますよ」
「うん、多分」
「喧嘩したわけじゃないんでしょう?」
「…んー、そうなんだけど。ちょっと怒っちゃったのよね、その前に」
「なにに?」
「ご飯前にお櫃の中身食べられちゃったのよ。時間がないのにって」
「あー…なるほど。でもそれが理由なら二日くらいで戻ってきてるんじゃないですかね」
「大丈夫だって、お母さんは心配しすぎだよ」
「そう?」
「疲れてるんですよ、ほら、さっさと飯食ってゆっくり寝ちゃいましょう」
「そうしたら?」
「なんだったらマッサージもしますよ?」
「今日はいいわよ」
あまり食欲のない先生もなんとか食べ終えて、風呂へ。
「洗ってあげますよ」
「山沢さんって本当にお母さんに甘いよね」
「そりゃあね」
にっと笑って先生を風呂に入れる。
肩が凝っているようだ。
洗うついでにゆっくりとほぐしすと先生はうっとりとしている。
「疲れが取れるわねえ」
「また温泉行きたいですね」
「そうね、お母さんが帰ってきてからね」
「沢山なかせてあげる」
「ば、ばか…」
「可愛いな、好きだよ」
「もぅ」
恥ずかしがっているが本当に可愛いんだから仕方ない。
のぼせないうちに風呂から出て律君が入った。
「アイス食べたいわ~」
「はいはい、バニラがいい?」
「買ってきてくれるの?」
「俺も食いたいから」
「じゃ律の分もお願いね」
近所のコンビニへちょいと行って、いくつか買って帰った。
「はい、どっちがいいですか?」
ソフトとカップアイスを出す。
先生はソフトを取った。律君はチョコ。
俺は抹茶。うまい。
「辻利?」
「いぇーす」
「明日買ってきて」
「なんだ、食います?」
「食べかけはいらないわよ」
「俺ちょっと先生のそれ食べたいなあ」
ひょいと一匙、俺の口へ入れてくれた。
「うん、あっさりしててうまい。あー、俺は明日はシャーベットにしよう」
くすくす笑っている。
「明日寒かったらどうするの」
「そりゃあ温かいココアでも作りますよ」
食べ終わって先生があくびをしている。
「もう寝ますか?」
「あなた帰るんだったわね。見送るわ」
「律君、先生の布団敷いといて」
「あ、はい。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
羽織を着て鞄を持って玄関へ。
「じゃあまた明日」
「待ってるわね」
「おやすみなさい」
「おやすみ。気をつけて」
別れて帰宅した。

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