翌朝、まだ寝ている先生をそのままに出勤の支度をする。
幸せそうな寝息にこのまま一緒に寝て居たくなる気持ちを振り切って、出勤。
仕事がんばろう!
それなりの忙しさで仕事を終えて、帰宅。
ちゃんと鍵がかかっている。
中に入るとテーブルに書置きが。お昼ごはん冷蔵庫に有る!やった!
お味噌汁もある!食う。うおーうまい!
でも塩が甘い。こればっかりは仕方ないなぁ。
完食してシャワーを浴びる。
あ、ちゃんと先生もシャワー浴びてったようだ。
着物に着替えて、と。
鞄の点検。ヨシ。行こう。八重子先生に叱られに。
でも幸せだな。
電車に揺られてバスに乗って到着。
直接居間へ。
「こんにちは、八重子先生。すいませんでした」
「はいはい、こんにちは」
あれ?人が多い。
「ちょうどいいわ。これが覚、こっちが開。覚えといてちょうだい」
「あ、山沢と申します、よろしくお願いします」
ん?今日平日…だったよな。
どうやら覚さんは休出の代休、開さんは無職らしい。
…不動産屋はやめてたのか。
「あとうちに出入りするのは潮くらいかねえ」
ああ。今回みたいにならないための引き合わせでしたか。
「潮さんというと晶さんのお兄さんでしたっけ」
「あら、あんた会ってたかねえ?」
ええとたしかチャラいあんちゃんだった気が。
「母さん、こちらは?」
「ああ、この子は絹の友達みたいなもんでね。生徒さんなんだけど。
最近うちによく泊まったり、絹がこの子の家に泊まったりしてるんだよ」
「絹が?」
おっと朝のお稽古終わったようだ。
絹先生が戻ってきた。
「こんにちは、絹先生」
「はい、こんにちは。あら兄さんたち来てたの? 山沢さん水屋頼むわね」
「午後はどなたでしたっけ?」
「安藤さん、平野さん、原田さん、大村さん、西尾さん、斉藤さんよ」
お稽古手帳を繰る。
「斉藤さんは竹の台子で他の方は中置の風炉でよかったですか?」
「お母さん、それでいいかしら?」
「それでいいと思うよ」
んじゃ準備してきましょう。
茶室へ行って朝の人たちの後片付けをしてざっと掃除。
台子を出して組み立てて設置し、電熱風炉を置く。
皆具をセット。湯はまだ沸かさない。
対角に中置きの位置に風炉をセッティングする。
こっちは炭だ。安藤さんは初炭手前してもらおう。
まあ半分は嫌がらせだけど。中置の炭手前。
用意が終わったので台子の前でイメトレ。
いくつか引っ掛かりがある。
やっぱりここしばらく稽古できてないからなあ。
後半月も稽古できないのか。
ここは一つお願いして稽古日以外にお稽古つけてもらおう。
しばらくして安藤さんが来られた。
炭手前の用意を見て顔を曇らせている。
苦手なことほど沢山やるほうがいいんだよ、と思いつつ内心悪い笑み。
と、絹先生が戻ってきた。
「今日は、お稽古よろしくお願いします」
「はい、よろしく」
うーん、この人は嫌いだけど流れるような点前で綺麗なんだよなあ。
とはいえさすがに中置だと一瞬流れがよどむけど。
その後は平野さん、原田さん、大村さん、西尾さんと次々にお稽古がすすむ。
沸いた湯を台子のお釜に指して電熱器のスイッチを入れて待つ。
斉藤さんが来た。
濃茶だから次客に座ってといわれて久々のお客様をする。
お茶をいただく。うん、うまい。
綺麗にお点前を終えられた。
炉のお点前もこれくらいできるようになったら次だな。
お稽古も終わり、水屋を片付けてから台所へ顔を出すと夕飯の支度をされていた。
「今日は食べてくかい?」
「いや明日も仕事なんで今日のところはこの辺でと」
「あらぁ。そうそう、鍵。返すわね」
「鍵?」
「私、仕事の時間早いので合鍵を置いていったんですよ。
ああ、絹先生、昼飯うまかったです。ありがとうございました。鍵はいいです」
八重子先生にも挨拶して今日のところは退散、叱られずに済んだな。