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百鬼夜行抄 二次創作

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伶(蝸牛):絹の父・八重子の夫 覚:絹の兄・長男 斐:絹の姉・長女 洸:絹の兄・次男 環:絹の姉・次女 開:絹の兄・三男 律:絹の子 司:覚の子 晶:斐の子

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31

朝、目が覚めたが先生はまだお休みだ。
なめらかな肌の感触を楽しみつつそっと割れ目に手をやる。
ゆるりと刺激すると徐々に濡れてきた。
ぬるぬると滑らかになり、中指を入れると目が覚めたようだ。
「や…朝から、駄目よ…ねえ…」
「やめて欲しいですか?後でしたくなってもしませんよ?」
先日つらかったのを思い出したようだ。諦めて快感を追い始めた。
逝かせた後、まだ食事までに十分すぎるほど時間がある。
使ってないほうのベッドに先生を寝かせると、すぐに寝息。
私は浴衣を羽織り、大浴場に向かった。
朝ぼらけの温泉は気持ちよく、疲れもすっきり取れそうである。
さて、今日はそのまま帰るのではなくもう一つ何か見て帰ってもよい。
後で仲居にでも聞くか。
しかし 随分噛まれたものだな(笑)
風呂から上がり、体を拭いてていると他の客が来た。
私が晒で胸を締め、下帯をつけ浴衣を着る姿を見て驚いてる様子。
着ちゃうと男に見えるからわからなくもない。
お先に、と声をかけ、部屋へ戻る。
先生はまだ寝ていて気持ち良さそうだ。
30分ほどしたら起こさなくては。食事の時間が有るからな。
昨日脱ぎ捨てた浴衣や帯を拾い、ざっと畳み纏める。
どうせすぐに着るが、美しくない。
湖水を見る。
琵琶湖とはまた違った趣だ。
いい日和だなぁ……。
うぅん、と声がする。起こすまでもなく起きたようだ。
まだ時間は早いというと部屋露天に入られた。
「大浴場に行かないんですか?」
と聞くと朝御飯の後で、と仰る。
湯に入る先生はやはり綺麗だ。もう一度やりたくなり、苦笑する。
見とれていると風呂から出てこられた。
体を拭うのをうっとり見ていると私の前まで来られた。と思ったら。
膝をつき私の顎に手をかけキスをされた。
ふふっと笑って立ち、肌着を着け浴衣を着なおされる。
くっそう、からかわれた。
今この時間からなら襲われないことを知っててキスするとは…!
やられたなぁ…。
「お食事、行きましょ」
と仰るので食事処へ移動。
腹減ってるし余計に朝御飯が美味しいなあ。
食後、一緒に大浴場に行こうというので連れ立つ。
先客は居ない。よし。
着物を脱いで籠に入れる。
「あら…こんなに痕ついて…ごめんなさいね…」
あー。噛み痕か。指でなぞられる。
ぞくっときた。
くすぐったいからやめなさい(笑)
胸の晒を解き、下帯をはずし、手拭を持って浴室へ入る。
掛湯をして湯へつかる。
先生、綺麗だな…。
「あらら、こんなところも噛んじゃったのねえ」
ああ、昨日私の乳噛んでたね、あれはちょっと痛かったよ。
だから指でなぞるのはやめろというのに。くすぐったい~っ。
ついでに乳首をつまむのはやめたまえ。
「駄目ですよ、そういうことをしちゃあ。ここで襲いますよ?」
あ、手が引っ込んだ。
引き寄せて軽くキスをし、ちょっと手を出そうかと思ったら他の客が来る気配。
残念(笑)
洗い場に出て先生の背を流す。ついでに少しマッサージ。
もう一度湯に浸かって風呂を出た。
下帯をつけ、胸にさらしを巻いて行く。
肌襦袢、浴衣を纏い付け、帯を締めると先生が少し直してくれた。
ほんの少し直されるだけで自分で着るより男前が上がる。
部屋に戻って先生を後ろから抱きしめる。
ペチッと手を叩かれて逃げられた。
その手を掴み更に引き寄せ抱き込んだ。
ディープキスをしつつ、裾を割る。
早濡れ始めたそこを堪能する。
抗う手が段々しがみつく手に変わる。
喘ぐ声が色っぽい。
片手で先生の体を支え、逝かせてやった。
息が落ち着くまで待って解放してあげると詰られた。
一旦すべてを脱ぎ、露天で股間を濯いでいる。
私も手を洗い、出立の用意をする。
浴衣を脱ぎ、長襦袢をつけ長着を着る。
先生と私の浴衣を畳み鞄に仕舞い込んで忘れ物はないか確認する。
よし。
「この後どうします?そのまま帰るかどこか立ち寄るか。城がお勧めらしいですが」
「お城?」
「ええ、なんか再建した城があるらしいです。それともあの白鳥の遊覧船乗ります?」
お城でいい、ということになった(笑)

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30

食事も終わり、部屋に戻る。
部屋は少し暖房が入っているようだ。
先生が窓から湖面を眺めている。
私は後ろから覆いかぶさり、早速だが胸を触り始めた。
窓に手をつかせてなぶるというのは一度やってみたかったのだ。
期待通り恥ずかしがって、いやいやをしている。
そっと裾を割り、太腿を露わにする。
「あぁっ…だめよ、見られちゃうわ…」
「龍神様に?」
湖に面しているこの部屋の窓を人が覗こうと思ったら望遠鏡が必要だろう。
そんなことをいいつつも結構濡れている。
「暴れるなら縛っちゃいますよ」
耳元でそう言うとぶるり、と震えが走ったようだ。
前に少し縄を使ったときのことを思い出したのか、されるがままになった。
ちぇっ、残念(笑)
眉間にしわを寄せて耐える姿は美しい。
立っているのが辛そうだ。そろそろベッドに行こう。
指を入れたまま歩かせようとするが、こんなの無理よぅ、と言って動けない。
くいくいと指を中で動かすと、半歩ほど動くがどうしても無理なようだ。
仕方ない、抜いてあげた。
半泣きですねたような顔をしている。
可愛いなあ。
ベッドに連れて行き、浴衣を脱がせる。
湯文字も取り、全裸にする。
何度も肌を合わせているのに恥ずかしがる様はとてもよいものだ。
キスをあちらこちらに落とす。キスマークをつけてはいけないので気を使う。
乳首も強く噛んでは痕が残るから、ソフトにソフトに。
具は噛み跡をつけてもばれないが(笑)
襞をくつろげてしとどに濡れた穴に指をうずめる。
はぁっという息が聞こえた。
先生は私の背中に手を回ししがみついた。
段々とのぼり詰めるに従い先生の足が私の足に絡みつく。
声が出そうになった先生は私の肩に噛み付いてやり過ごそうとしている。
結構な痛みとともに、差し込んだ指の締まる感触が強くなる。
ぎゅっぎゅっと締まり、ひくひくと痙攣している。
逝ったようだ。
指を抜こうとしたら、先生からもう一度、と言ってきた。
初めてのことだ。
前回、さっとしかしてなかったからか?
嬉しくなって少しやりすぎかという程に何度も逝かす。
浅く、深く。
幾度も。
そのたびに私の肩や腕に噛み痕が増える。
背中に引っかきあともついているが名誉の負傷(笑)
もう噛む力もなくなってきたようなのでそろそろ終了。
舐めて綺麗にしてあげる、というとちょっと抵抗された。
でももう力入らないからされるがままである。
恥ずかしそうにしていて大変によろしい風情だ。
終わりがけにチロリと尻の穴を舐めたらそこはダメ、と抵抗された。
いつかここも開発したい。
抱きしめて背中をなで耳朶にキスを落とし、
愛していると囁いているうちに先生は眠りに落ちた。

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29

翌日10時半過ぎ。
支度をして連れ立った。
あちらは涼しいだろうということで袷だ。
秋の装い。綺麗だなぁ。
私はまあ男着物なので大して代わりはない。羽織に長着。
荷物と言っても一泊だ、大して荷物はないので一つに纏め、私が持つ。
電車に乗り、一路諏訪へ。
諏訪でもし展示が微妙なら諏訪大社へ行くも良し、遊覧船に乗るも良し。
乗車している間も袂の下で手を握って照れさせたり、
駅弁を食べたり車窓風景に見とれたりであっという間だった。
駅についてタクシーで美術館に向かう。
途中、宿泊先の前を通る。あそこか。
美術館は規模が小さい気が…。
名物裂の展示ではあるがここは国宝を収蔵していることで知られる。
また印金・金襴、緞子、間道、錦・モール、木綿などの名物裂だけではなく
名品の茶道具の数々もある。
そして国宝の茶碗を拝見する。
気品のある茶碗だ。手触りはどうなのだろう。たまには使われているのだろうか。
先生もため息を吐いて観賞しておられる。
お連れしてよかった。
喫茶エリアでお茶をいただいて、諏訪大社に行こうかという話になった。
美術館のスタッフに聞くと車で20分程度のようだ。
タクシーを呼んでもらい、大社へ。
…自分が予想していたのとはちょっと違った(笑)
しかしさすがに休日、それなりに人はいるなあ。
本当は神詣りは午後はいけないのだが、これも時間の都合だ。
日没までに離れればよい。
さすがに信濃の一宮と感心したり本殿がなくて驚いたり。
どうやら本殿に見えたのは拝殿らしい。
しかし怖い言い伝えのあるお諏訪様だが、別にそういう感じがしないのは意外だ。
そろそろ日没が近い。宿へ行こう。
昨晩電話したときに特別室とは聞いていたが、さてどんな部屋だろう。
通されてみるといかにもな和洋室だ。
湖面がよく見える。
衣擦れの音がして振り返ると先生は早速持ってきた浴衣に着替えていた。
というのもやはり宿の浴衣は胸元がだらしなくなりがちだからだ。
シュッと貝ノ口に帯を締められた。
私も浴衣に着替えた。唐桟縞である。
先生は遠州綿紬。秋の浴衣だ。ざっくりとした感触が楽しい。
温かみのある色で思わず抱きしめたくなった。
お風呂行かない?というのでご一緒する。
大浴場は湖水がよく見える。日没。美しい。
夕日に照らされる先生もまた美しく、溜息が出た。
風呂から上がり、浴衣を身につけられた姿も更に好く、何か誇らしい思いがした。
そのまま食事処に行き、いただく。
中々うまい。見目もよい。
前日に言って取れた宿でこれ、というのは結構な幸運ではないか?

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28

翌日。
仕事の後、一人展覧会へ行く。
台風が来るらしく暑い。長袖なんて着なきゃよかった。
そう思いつつ観覧していると宗直姐さんに会った。
さすが茶名持ち、こういうのも見に来るのだな。
展覧は時期的に名残の揃え。
でも10月半ばでこうも暑くては名残といってもなあ。
などと話しつつ、品々を楽しむ。
ついでに先日のおどりの会の話を振る。
立方・地方も茶名持ちでやると面白いのではないか?
茶人なら茶人の歌いよう・舞いようがあるだろう。
やるんなら客も茶人をそろえればどうだろうね。
そんなお堅い宴席はいやだそうだ(笑)
近くの喫茶店でお茶を飲んで別れた。

お稽古日。
さて今日はなんだろうなあ。
人数によっては花月かな。
ありゃ、誰もまだ来てない…。
「あ、山沢さん。あんた台子でしないかい?」
どうやら朝の人・乱れ、夜の人・台子らしい。
つまり出して仕舞うのが面倒(ry
他の方が来るまでは乱れをやろうという話になった。
紋付じゃないけど心構えをすればよい、口と手を清める。
正客に八重子先生、次客に絹先生。
二人から指導が入る入る入る。
結局午後の稽古の終わるまで誰も来なかった。
早めに切り上げてお夕飯の支度を手伝う。
「山沢さん、煮物苦手なの?」
と絹先生。そうだと答えると教えてあげるから作るように仰る。
いや、出来ないというわけでは。
自分が作ったものの味が気に入らない。
「うちの味でよければ同じ分量で作れば良いじゃないの」
いやいやこちらは4人分、うちは1人分。
分量そのまま割ったらいいというわけにはいかんのです。
濃茶を一人分練るのが難しいようなもので…というと納得された。
「それでも結局慣れよ?」
うう、まあたしかにそーですが。
たまには作るという約束をさせられてしまった。
手早く夕飯を頂き夜のお稽古の準備。
私は初心の方への割り稽古の指導をする稽古をつけてもらう予定だ。
水屋や釜を整えていると夜の生徒さんたちが来た。
と思ったら数奇屋袋を投げつけられた。
「ひどいわ!連絡待ってたのに!他の女とデートするなんて!」
ええっ?なんの話だ!?
投げつけてきた人は先日私に名刺を渡してきた女だ。
周囲がざわつく、絹先生をチラッと見ると額に青筋が。やべぇぇぇぇっ!
「ええと、あのう、何のお話で…?」
「ふざっけんじゃないわよ!昨日根津で女と!一緒にいたくせに!」
あ…あれか…宗直さん。たしかに女だ。古いけど。
「話を整理しましょう。
 まず私は女ですので女とどこで遊んでいても問題はないはずです。
 それに私はあなたに連絡を差し上げるとは一言も言っていません。」
「嘘つくんじゃないわよ!どこが女なのよ!」
周囲がとりなしてくれない、仕方ない、脱ぐか。
袴の紐を解き、着物の帯を解き、長襦袢の紐をはずそうとする。
八重子先生が騒ぎに気づいて止めてくれた。
ほっとする。
さすがに大人数に裸身をさらしたくはない。
誤解から生じたものとして処理され、名刺の女は取敢えず今日は帰ってもらうことに。
そして私は稽古場を騒がせたので一ヶ月稽古差し止め。
すごくショックだ。
来るなら来ても良いが水屋か見取りのみしかさせないという。
取敢えず今日のところは水屋要員するしかない。
場の重さに引きづられたまま皆さん黙々とお稽古され、本日の稽古終了。
絹先生に呼ばれる。二階に。
「デートってどういうことなの?」
うっわそっちか、怒ってる。
「た、たまたまですよ、たまたま、知り合いに会っただけです」
「どういうお知り合いなのかしら」
「同門!同門です!」
「あらそお?」
だめだ、信じてもらえてない気がする。
「70代の方ですよ、勘弁してくださいよ…」
「えぇ?あらぁ…いやねえ」
あ、よかった納得してもらえたかな。
「ね、さっきの方だけど…連絡って?」
「ええと先日のお稽古のときにですね…」
かくかくしかじか、と説明する。
「何で言ってくれなかったの?」
「あなたに嫉妬させたくなかったから…」
抱きしめてキスしたその時、絹ー?と八重子先生が呼んでいる声が聞こえた。
くっそう。
絹先生が降りて行き、時を置いて私も降りた。
居間に行くと八重子先生に座ってと言われ、絹先生の横に座る。
昨日の出かけた先と相手の確認をされた。
「絹を誘って行けばよかったじゃないか」
「朝思いついたものですから…それにまさかこうなるとは」
「とにかく、差し止めといったからには私は稽古をつけないよ。
 稽古の時以外で絹が稽古をつける分にはかまわないけどね」
「いいんですか!?」
[絹がいいならね」
さっと座布団から降りて、絹先生にお願いする。
いいわよって仰ってくださった。良かった。
もう時間も遅いことだし、と八重子先生は部屋に戻って行かれた。
絹先生は火の始末などをしてから話があると私の寝間へ。
部屋の奥の机のところに二人で座る。
話ってなんだろう。
「あの…さっき、嫉妬してごめんなさい…」
「話ってそれですか。何かと思いましたよ」
可愛いなあ。ついなでなでしてしまう。
「私、こんなに嫉妬がきついなんて思わなかったわ」
「んー私よりはましではないかと思いますが。
 私なんぞ律君と先生が一緒に歩いてるだけで…」
「ええっ!」
ちょ声が高い声が!
「お母さん、どうしたの?」
うぉわっ、律君だ!
「なんでもないわ、大丈夫だから」
先生も声が慌ててる。
間の悪い奴め…。
そう?といって廊下を歩いていく音がした。
ハーーー、と息を吐く。
ああ焦った。
そっとキスをする。
「律が戻ってきたら困るわ」
「目の前に居るのに出来ないのは辛いな…。明日、どこか行きませんか」
なんなら昨日の根津でもいい。
デートして連れ帰って食べてやる。
先生は頬を染めてこくり、とうなづいた。
たしか諏訪で展覧会が有ったな…八重子先生に泊りがけを許可してもらおう。
時計を見る。まだいけるか。携帯をとり、ホテルに空きがあるか確認する。
取敢えず確保を依頼し、八重子先生の部屋へ行く。
起きて居られるか声をかけると、まだ大丈夫だった。
明日、諏訪の美術館へ行きたい旨申しあげる。遠方ゆえ泊りがけにしたいと。
名物裂の展覧と言うと構わないといっていただいた。
部屋に戻る。
「明日、展覧会へ行きましょう。泊りがけで。いいのあるんですよ」
「お母さん、いいって?お稽古日なのに…」
「名物裂の展覧といったらすぐOK出ましたよ」
「あなた色々知ってるのねえ…」
そりゃまあデートのネタになるのでチェックしてるのですな。
明日の用意もあるからと先生は部屋に戻っていった。
私も用意しないとな。会社に休むとのメールを出す。
鞄の隠しに縄を入れておこうか…。

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翌朝。
今日は先に先生が起きたようだ。
風呂を使う音がする。
外は良い天気だ。
うんとひとつ伸びをして浴衣を脱ぎ捨てた。
カラリと風呂の戸を開けると先生は露天風呂に入っている。
綺麗だなぁ。
「おはようございます」
「おはよう」
露天のほうへ声をかける。
私もシャワーを浴び、露天風呂につかることにした。
綺麗だなぁ…キラキラ光る湯と、先生と。
「先に上がるわよ」
見とれているとあがられてしまった。
私が上がる頃には身づくろいを済ませ、布団を整えていた。
私もざっと浴衣を羽織り、脱ぎ捨てた浴衣を畳んで布団を整える。
和室に私が出た頃にはお茶を入れておられた。静岡茶だ。
どうぞ、とすすめてもらって飲んだ。うまい。
茶葉が良いのか、先生が入れるのが上手なのか。
少しニュースなどを見ると食事の時間になった。
食事処へ行き洋食の朝食をいただく。
ごはんとおかゆを選べる。先生がおかゆを頼んだ。
私はごはん派だ。梅干食べたいし。
デザートとコーヒー。
チェックアウトの時間と電車の時間を決める。
昼のお稽古に間に合うように帰らなきゃいけない。
少し早いチェックアウトになる。
部屋に戻って常着に着替え、荷物を作る。
フロントに電話し宅配を頼む。
ぱたぱたと支度を済ませ、小一時間ほどゆっくりできそうだ。
お茶を頂き、テレビを見てまったりする。
「もう帰んなきゃいけないんですねぇ」
「そうねえ」
ゆったりと時は流れるがそろそろ時間ではある。
「帰りましょうか」
そう言って手を取ると少し照れている。
草履を出して履かせる。
忘れ物はないか確認してフロントへ。
チェックアウト。
駅まで送ってくれるとのことで私は助手席へ、先生は後部座席へ。
私を後部座席の奥へ、という誘導だが、酔うのでと断った。
新幹線に乗り、帰路へつく。
旅も終わり、だ。
乗車中、私が手をずっと握っているのに何もおっしゃらなかったが、
一駅前になり、そろそろ気を入れ替えないと、と先生モードに入られてしまった。
降車後、軽いお昼を駅で取ってタクシーで先生のお宅へ。
「ただいまぁ」
「戻りました」
「はい、お帰り。生徒さんもう来てるよ」
そのままお稽古に投入されてしまった。
本日は花月の逆勝手。足がわからなくなる。
左側がお客さんなわけだから~上座はあっちな訳で…
などと悩み悩みの稽古時間が過ぎ、やっとお稽古終了。
八重子先生にお土産を渡して展覧会や起雲閣の凄かった所などを話し、辞去した。

そんなある日。
会社に電話がかかってきた。
オーイ飯島さんから電話ー! と会社の若いのから電話を受ける。
はいよ、と電話を取ると八重子先生だ。
今日は上級クラスの稽古日だから私は行ってないのだが、
どうやら予定していた七事式をやるのに人が足りないという。
まあ予定もないことだ、伺うことにしよう。
そんな会話をしている私の横では、ちんぽちんぽまんこーと叫んでいるのやら
早くしろコラー!と怒鳴る声が聞こえている。電話、筒抜けだってば…。
電話が終わり、仕事をする。
定時になりいったん帰宅する。着替えねば。
そろそろ単衣も秋の気配を取り入れたいなあ。
先生宅に着いたが早すぎたようだ。
まだ皆さんそろっておられないようだ。
「あらあなた、男の方?珍しいわねぇ」
おっと上級クラスは私を知らない人が結構いるんだった。
「中野さんその方女性よぉ」
知ってる人が笑いつつ紹介してくださる。
「あれ、山沢さん今日お稽古でしたっけ?」
おや律君だ。
「こんにちは、そう、朝電話いただいてね」
「だったら上生菓子は4つで良いですね…」
うんうん、それでいい。それでいい。
「あらいただかないの?」
と中野さん。好きそうだよなあ、和菓子。
呼ぶ手が見えて水屋に入ると絹先生だ。干菓子を二つもらう。
うまい。
花や炭の用意を手伝うと挨拶の声、人はそろったようだ。
本日は五事式。きっついなあこれは…。
上級クラスだとこんなのやるんだね。
本当は茶事で懐石があって春にするらしい。
夏なのに炉を開いてお稽古することがあるとは思わなかった。
来春茶事をするためのお稽古、といったところか。
炭つぐのも花生けるのもまだまだ私には難しいね。
お香、炭、花、いろいろなものを修練しないといけない。
私にとっては怒濤のように過ぎた4時間半だがさすが上級の皆さん、
するすると遅滞なく動かれる。
八重子先生によると上の方の教授だけで行えば3時間半もかからないそうだ。
確かに花月8分とか言うからそうなんだろう。恐ろしい。
水屋の始末を手伝っているとお夕飯食べていかない?
と絹先生がおっしゃるのでそれに甘える。
でも大抵、孝弘さんの隣なんだよなあ。
「山沢さん、あんな人ばかりのところで仕事してるのかい?」
食事中、八重子先生に朝の電話の時の背後の声について言われた。
えぇ、まあそういう所です。
「なにかあったの?お母さん」
八重子先生は説明しがたいようだ。そりゃ言いにくかろう。
「電話の背後が怒声や卑猥な言葉だっただけですよ」
あ、律君がむせた。
こっそり孝弘さんのおかずに魚を増し増しにしておいた。
「稽古場でそういう言葉遣い出ないようにしとくれよ」
気をつけてます、ええ。
食後くつろいでると打診された。
「あんたそろそろ真之行やらないかい?」
まだ早くないかなぁ。
「一応あんただって助講師とってるんだから早くはないよ。それに…」
どうやら研究会などは大円真以上の規定が結構あるらしい。
家庭のある人には行けないような泊りがけの研究会に連れて行く人がいないと。
そういうことなら取りましょう。取りましょう。
申請のお願いをし、明日のお稽古について申し合わせてから帰宅した。

数日後、会社の関係である芝居のチケットを入手した。
さてこれはどうしてくれよう…。
大先生の趣味なら譲っても良いな。
次の稽古のときにでも渡すか。

そして次のお稽古日…。
「お邪魔しまーす!」
早くついたから稽古場の用意をする。
「あれ、早かったね」
八重子先生だ。ご挨拶して芝居のチケットの話をする。
残念ながら趣味ではなさそうだ。
どうやら絹先生は趣味の様子、あんたら二人で行っといで、と言われた。
昼の部と夜の部のどちらが良いだろう。
翌日休みだからどちらでもいける。
夜のほうが気楽かな?芝居の前に喫茶店入って、見て、それからメシ。
「遅くなってもよければ3時始まりの部でどうですか?
 11時始まりだと食事時間が微妙ですよね?」
3時間から3時間半くらいはあるだろう。
あ……
「八重子先生。芝居の後、絹先生を食事にお誘いしても?」
「行っといで行っといで」
ケテーイ。
どこ行こうかな、メシ…。
「絹先生、食事、何かご希望はあります?
 懐石が良いとかイタリアンが良いとかステーキ食べたいとかでも結構ですが」
料亭もあの辺りならあるし、ホテル飯もできるし…。
「そうねえ、考えとくわね」
まだ日、あるしね、それでいいか。
他の人が来た。この話は打ち切り、お稽古の用意、用意。
今日は小習事復習日。さて何を振られるか…。
「山沢さんは台天目と貴人ね」
あっ、やられた、油滴と曜変が用意されてた。うぅ…。
キモい…。できるだけ直視しないように半眼でやってると叱られた。
他の方に、台天目と貴人の違いを教えておられる。
台天目は茶碗が主眼、相手は地下でも貴族でも良い。
貴人は客が主眼、高位の人をもてなすときのやり方だ。大抵茶碗は白。
ちなみに台天目は小習ではないが、違いを教えるためのチョイスだろう。
嫌がらせでは有るまい、と思いたい。
他の方は茶入荘、茶碗荘、茶杓荘などなど。
なんだかんだ稽古時間はすぐに過ぎ去る。
茶碗を丁寧にとっとと片付ける。見たくない見たくない。
水屋の片付けもして、終了。解散。

翌日、絹先生から携帯にお電話をいただく。
食事の件だ。
京懐石があれば、という。
あのあたりだと、なだ万とかあったような気が…。
「ちょっと遠くてよろしければ辻留、柿傅、三友居などありますがどうします?」
なに、そこまでは肩がこる?了解。
いくつか要望を聞いて本日在宅か聞き、電話を切る。
会社の人にお勧めの京懐石を聞くと、そのあたりで一つ二つ出てきた。
詳細をプリントアウトする。
あの家パソコンないからなあ。律君が壊しちゃうんだろうな。
俺の使ってないノート置いとこうかな。リモートツールいれて。
仕事もそろそろ良い時間だ、帰ろう。
帰宅し、着替えてから資料を持って先生のお宅へ。
「お邪魔します」
「はいはい」
あれ?律君だ。
「ごめんなさい、母、ちょっと今出ちゃいまして」
「ありゃ。じゃあ八重子先生はおられるかな」
「あ、いますいます、どうぞ」
迎え入れてもらう。八重子先生は庭に居られた。
横まで行ってみると茶花の手入れをされている様子だ。
「ああ、山沢さん。どうしたんだい?」
芝居の後の食事の件についてとりあえず資料持ってきたのだが、
絹先生が不在なのでどうしようかと。
すぐ戻ってくるとのことで待たせてもらうことにした。
昼は暖かくて良い日和だなあ。
パタパタと足音がして、
「ごめんなさい、山沢さん、待ったでしょ?」
と絹先生が走りこんできた。そんなに焦らなくて良いのに。
そういうとこ、可愛いよな。
「時間を決めて来た訳ではないですし、気にしないでください」
もうちょっと待てる?というので待っていることにした。
八重子先生がお茶を入れてくださり、向いに座られた。
お茶が熱い…。
「町内の方で揉め事があってねえ、ちょっとばたばたしてるんだよ」
へえ、町内ねえ。
「昔うちに来てたお弟子さんと、うちの町内の方が不倫してたらしくてねぇ、
 駆け落ちだってさ」
へぇぇ!駆け落ち?
「で、なんで絹先生が?」
「昔絹に粉かけてたんだよ、その人」
あー…そういうことか。
「良かったですねえ、そんなのに引っかからなくて」
本当だよ、とかなんとか話していると戻ってこられた。
ハイお茶、と絹先生にもお茶が出る。
私のもそろそろぬるいはずだ。一口いただく。
「疲れちゃったわあ」
「肩、揉みましょうか?」
頼める?というので揉んでいると八重子先生がぎょっとしている。
「お母さん?」
あ、見た感じ男が娘の肩をもんでいるという変な光景か。
絹先生は気にせず愚痴っておられる。
「お母さんちょっと えっ」
律君が驚いている。うん、変な光景だね(笑)
胸にあるツボ押してるもんね、今ね。
「あら、どうしたの?」
うん、素だね、絹先生。どういう風に見えてるのかわかってない(笑)
肩をぽんぽん叩き、終了。
律君もただの肩揉みと気づいたようだ。用件は今日遅くなるというだけだった。
さてさて、愚痴も終わったようだし、本件に入ろうじゃないか。
メシはどこに行こうかねー。
仮の案として二件ほど見せる。ほん近くにある京懐石のお店と、ちょっと遠い店。
ほん近くの方が良いかな?と決まった。
時間は7時スタートで。早く幕が降りても喫茶店よれば30分潰せるかな。
その場で予約を取る。OK、すぐ取れた。
ということで本案件終わり。
明日のお稽古ですることなどの話をして、3時過ぎに帰った。

何度かのお稽古日が過ぎた。
今日は芝居を見に行く日である。
私の仕事時間の関係で、現地近くで待ち合わせとなる。
一旦帰宅し、シャワーを浴びて着替える。
10月に入ったから袷だ。胴抜きにしてある。中は絽の長襦袢にしよう。
お召に羽織で良いといってたからそうしよう。
先生は付け下げか訪問着って言ってたな。
楽しみだなぁ。
わくわくしつつ、家を出る。
デートだ♪
待ち合わせ場所に40分も早く着いた。
先生は携帯を持ってないからちゃんとわかる場所にいなくては。
待つ時間も楽しい。
と思ったらすぐ来られた。
付け下げにされたようだ。綺麗です、と褒めると、あなたも格好良いわ、と言われた。
時間が早いのでお茶を飲みに行くことにした。
実は先生は先日会場に行ったそうだ。
下見ではなく、展覧会が有ったという。お茶仲間とだ。
京都で私は見ているが、お茶の先生としては見てはおかねばなるまい物。
お茶仲間の付き合いも大事だからね。うん。
言い訳みたいにしなくても良いんだよ。
可愛いなぁ。
さて。手水を使ったらばそろそろ入って席に着きますか。
うん、良い席だ。出やすくて、見やすい。
今日は小さいお茶を二つ、音の出ない甘いものをいくつか持ってきている。
大きいお茶は結構残して荷物になる&ガサ音は不快。でもなんぞ欲しい。
席について軽く見回すと知った顔がいくつかあるなあ。
先生に手出しはできないな、気をつけよう。
おっと開演前のブザーが鳴った。
暗転。今のうちと手の甲にキスをする。
照れてる照れてる、うんうん。
芝居を楽しむ。
時代だなぁ…今ならばどうだろう。
師を捨てて女を取るか。それとも駆け落ちでもするか。
月は晴れても、心は闇だ…。
すっと先生が私の手を握ってきた。
その手の上に、もう片方の手を重ねる。
あーキスしたい、そう思いつつ手の甲を撫でる。
私だけにわかる声で駄目、とささやかれた。
撫でる手を離し、芝居に気を戻す。
一流の役者の織り成す世界は良いなあ。
拍手の元、終了した。余韻。
先生の手を引いて会場の外へ出ると、時はちょうど頃合、料亭へと歩く。
うん、ここだな。
「予約していた山沢です」
どうぞどうぞと通されたのは個室。
懐石の順番どおり出てくる。どれも美味だ。
楽しく食事が終わり、支払いを終えて外へ出ると意外と冷え込んだようだ。
先生がふるっとした。私は羽織を脱いで包み込む。
「袖、通して…」
着せて差し上げる。
「このまま、私のうちへ来ませんか?」
はっと先生は私を見る。
「駄目…帰らないと…」
手を握って翻意を促すが、無理そうだ。今日のところはお帰ししよう。
手をつなぎ駅へ向かう。
帰したくない。だが駅についてしまった。
先生が羽織を脱ごうとする。それを押しとどめた。
「着て帰ってください。あなたに添えない私の代わりに羽織だけでも。
 帰り道にナンパ、されないでくださいね」
頬を染めて可愛いなぁ。
じゃ、また稽古の日に、と別れた。

----絹

「ただいまあ」
帰宅して居間にいる母に声をかける。
「はい、おかえり。どうだった?」
「良かったわよー、お芝居もお食事も」
「あれ?あんたそんな羽織持ってたかね?」
「ああこれ、山沢さんのなのよ。ご飯食べて外に出たら結構冷えてて。
 家まで着て帰ったらいいって貸してくれたのよ」
敷きたとうを出し、その上で脱ぐ。
羽織を脱いで見ると羽裏は結構手が込んでいる。
「あら…織ね」
帯を解き、伊達締めをとくと胸から何かが落ちた。
母が拾ってみるとぽち袋だ。お車代と書いてあり、3万円が入っていた。
「いつの間に入れたのかしら…?」
そのまま寝巻きに着替え、衣桁に着物をかけて片付ける。
母にお芝居と食事の話をしながら。
もう遅いから、とすぐに寝ることにした。

翌昼、庭を掃除してると母に来客。
私が男性と見詰め合っていたとか、料理屋から二人で出てきたとか
夜の街を仲良さ気にくっついて手をつないでいたとか、母に言ってる。
見られてたみたい。困ったわ…。
母が私と仲のよい弟子で女性と説明してるけど…納得してもらえるのかしら。
掃除を終えて居間に戻ると、お客さんはもう帰ったみたいで、
母が山沢さんの羽織を見ている。
「いい羽織だ。この柄は何かねえ、雅楽の楽器?」
「ひちりきっていうんじゃないかしら。あらでもこの柄、お寺よねえ?」
今時こういう羽裏は珍しい。
「山沢さん、案外女遊びになれてる人なのかもしれないねえ」
「えっどうして?」
「あんた昨日ぽち袋入ってたの気づかなかったんだろ?
 贔屓の芸者の一人や二人いるかもしれないねえ」
そうなのかしら…。
嫌だわ…。
そう思いつつ、羽織を畳んでたとうに仕舞った。


お稽古日。
今日は何のお稽古かな。
ん?先生の表情が曇っている。
なにかあったのだろうか。
少し稽古が厳しい。
お稽古が終わった後、八重子先生と話していた。
先生は水屋に居られるようだ。
「あんた実は芸者に贔屓とかあるんじゃないのかい?」
「ああ、前は一人、毎週料理屋に呼んでましたよ。その芸妓はもう引退してしまって、
 その人に頼まれたのを今は贔屓にしてます。最近呼べてませんけど」
ありゃ驚かれてしまった。
どうしたのか聞くと羽裏の件や車代の入れ方などからそう思ったそうだ。
あの羽裏はどこのかと聞かれた。西陣の織元に頼んだものだ。
思ったものがなかったから頼んでみた。
「おばあちゃん、お客さん」
律君が呼びに来た。
はいはい、と八重子先生が出てゆく。
私は水屋へ入り絹先生の手を取る。ふりほどこうとされる。
「嫉妬、してるんですか?」
「だって贔屓の女、いるんでしょう?」
「ただの話し相手です、芸を見に行くだけですよ、ああいうところへは」
「本当に?」
「ええ、あなただけです」
ほっとした表情をしている。信じてくれたみたいだ。
「そういえばなんで雅楽の楽器とお寺なの?」
ん?ああ、羽裏か。
「もともと雅楽は神社より寺とつながりの深いものなんですよ。
 だけど結婚式のイメージとともに神社のイメージなんでしょうね。
 菩薩っていう曲もありますよ。」
結婚式と越天楽のセットだよなー。
葬式用の越天楽もあるんだぜー。
くだらない話もしていると次の生徒さんが来た。
ではまた次のお稽古で、と挨拶して帰る。
帰り道、思わずにやけてしまった。嫉妬してくれるとはね。

あっ、羽織持って帰るの忘れた(笑)

次のお稽古のときに今週末のお稽古を休むことを言った。
珍しいわね、とおっしゃるが秋のおどりの会を見に行かねばならない。
お稽古日じゃなければ先生をお誘いするのだが…。
羽織を返してもらって帰宅した。

久々に京都へ戻る。
おどりの会を楽しみ、その後は得意先の料理屋に馴染の芸妓を呼ぶ。
久しぶりだと皮肉を言われつつ芸を楽しんだ。
店への支払いは現金で済ませ、ビジネスホテルに泊まる。
自宅に戻っても良いのだが長くあけている分、錆水とか面倒くさい。
寝るだけならビジホが楽だ。シャワーを浴び、寝た。
翌朝、東京へ。
新幹線の中で携帯が鳴った。珍しいな、先生からだ。
「どうしました?」
展覧会が今日までらしい。行けないかというお誘いだった。
時間を聞くと家に寄る時間はなさそうだ。
降車駅を変更して、シャツ売ってるところ探してシャツだけでも着替えるか。
降りるまでにどこにあるか調べると、駅直結のところにシャツ専門店があるようだ。
駅について慌しく売り場へ向かう。
おおよそのサイズで買いその場で着替える。
鞄に着ていたシャツを押し込んで急いで乗り換えた。
予定の車両に乗れた。一息ついてスーツを確かめ、きちっと体裁を整える。
整髪剤と手拭きを出す。ささっと櫛で整え手についた整髪剤を拭取る。
うーん駅についたら手を洗おう。

駅に降り立ち、手を清めてタクシーに乗る。
現地についてみるとすでに先生が待っていた。
「お待たせしてすいません」
「ううん、急にごめんなさいね、今日までだったの忘れてたのよ」
今日も綺麗だなあ。
手を取って入館し、観覧する。
あらかた見終わった頃。
「昨日はどうしてお休みだったの?」
「秋の温習会の時期でして花街の踊りの会を見に行ってたんです。
 それと顔つなぎですね。」
「…馴染の方と、会ってたのね」
つねられた。
手を取るとその手を払われた。
怒ってるのか。可愛いじゃないか、おい。
退館してタクシーを待つが触れると手を振り払われる。
ムカっとしてきた。
タクシーに乗車し、先生が駅までというのをとどめ、あるホテルを指定した。
いわゆるラブホだ。
下車し、腕をしっかり掴み引きずるように部屋に入れる。
「いや…怖い…」
少し涙声だ。知るか、犯してやる。
「脱ぎなさい」
恐々と脱ごうとしている。
「早くしないか!」
ヒッと息を呑んで慌てて脱いで行く。
湯文字一つになった先生の腕を掴み、ベッドに投げ出した。
「胸に歯型でも付けてやろうか?コラァッ!」
私の迫力に押され、本気で泣いてしまった。
「ごめんなさい、ごめんなさい…」
泣く様子に我に帰る。まずいな、ブチ切れてた。
そっと手を取ると震えている。
「芸妓と会ってたくらいで嫉妬しないでください。
 その人とはそういう関係じゃないんですから。私はあなただけなんです。
 乱暴にしてすみません。」
そういって先生の涙を拭き、唇にキスを落とす。
まだ怖いみたいだがゆっくり優しく愛撫するうちに震えも落ち着いてきたようだ。
耳朶を甘噛みし、好きです、と囁いて力を入れず抱きしめる。
「ん…」
青かった顔色にも赤みがさしてきた。
このまま抱いてしまおうか。
逡巡、時計を見る。駄目だ時間ががが…。
ふうっと息を吐いて身を離す。
「帰りましょう。着物、着て下さい」
いいの?と言うが時間がなあ。
フロントに頼んでタクシーを呼んでもらった。
先ほど乱暴に脱がせた着物を着てゆくのを見る。
さすがに本職、着るのは早い。そして美しい。好い女だなあ。
タクシーに乗り駅ではなく直接先生のおうちへ向かってもらう。
ここからなら時間は変わらない。
だったら余人を交えず一緒に居たいじゃないか。
タクシーの中で先生の髪の乱れを整髪剤で撫で付ける。
うん、こんなもんだろう。
「うちへ帰ったら洗髪して下さいね」
手拭きを3枚くらい使ってやっと拭取れたほどの強い整髪剤だからね。
「今度、うちに来ませんか」
返答できないようだ。
手を握って無言のうちについてしまった。
先生を降ろして私は最寄の駅で下車し電車で帰宅した。


---絹

「どうしたんだい?なにかあったのかい」
食後、居間でお茶を飲んでいると母に見咎められた。
「山沢さんに何か言われたのかい」
「その、山沢さんをちょっと怒らせちゃって……怖かっただけで…」
思い出したら涙が…。
「お風呂、入ってくるわ」
慌てて居間から出てお風呂へ。
お母さんが呼んでるけど理由を聞かれても困るから。


---山沢

うーん、やはり怖かったまま帰してしまったかな。
八重子先生にバレるの覚悟で抱くべきだったか。
取敢えず明後日になるまではわからない。
ああ。…明日熊野神社に行って誓紙を貰って来よう。
信じられぬというならば起請すればよかろう。
ああいや待て、起請誓紙を遊女のものだと思われていたら怒るか。
参ったな…。


稽古日。
一応熊野誓紙を鞄に入れて来た。
先生は…出てこられない。
動揺してしまった。八重子先生の指導だが簡単な点前を間違う始末だ。
稽古が終わり居間へ呼ばれた。
「山沢さん…この間いったい何があったんだい。絹は何も言わないんだよ。」
「すみません、カッとして怒鳴りつけてしまって。あの、絹先生にお会いできますか」
表から一番遠い奥の部屋にいるという。
そんなに怖かったのか。フォローが足りてなかったか。
八重子先生に断って奥へ行く。
襖を開けると驚いた顔をされた。入って閉めると後ずさり。
「…私が怖くなりましたか」
「あ…」
無意識の行動だったようだ。
「この間は乱暴にしてすいませんでした。
 二度とああいうことはしませんから、どうか嫌いにはならないでもらえませんか」
「嫌いじゃないわ!…怖くて」
私が一膝進むと、一膝下がられる。
「うぅん…それは…。あなたからなら近づけますか?」
先生は少しずつ、近寄ってくる。
私はできるだけ動かないようにしている。
手を動かせば捉えられるほどに近くまで来た。
「私はあなた以外誰も欲しくはない。あなただけが好きです」
懐から熊野誓紙と筆ペンを出し、誓文を書き、小刀で親指を切り血判する。
それを先生に渡した。
「これを、持っていてください。私の思いです」
それから…。
「あなたがお嫌なら、芸妓と手を切りましょう。二度と会いません。
 もう一枚誓紙を書いたって良い」
「山沢さん…」
「それでも信じられぬというのならこの指落としましょう」
左手の小指に小刀を当てる。
先生がその小刀を慌てて取り上げた。
「信じる、信じるわ、だからやめて」
鞘を、というので渡すと収めて遠いところに滑らされた。
先生は私の手を取り親指の傷を舐めてくれた。
血の赤さで彩られた唇は扇情的で、思わずキスをしてしまった。
「駄目…ここじゃ…」
「今なら誰も来ませんよ」
それでもやはり気になるようだ。
「やっぱりうちに来ませんか…あなたを抱きたい」
懐に引き寄せてそういったがお稽古日だから途中で生徒さんに会うと気まずいという。
困ったなぁ。
そのまま懐に抱いたまま小半刻。日が暮れてきた。
ほぅ、と先生の息が聞こえた。
「まだ、怖いですか?」
そう聞くと、もう大丈夫という。でもあんな風にされるのは怖い。
「私が嫉妬したからだけど…」
まあ悋気を起こさせた原因は私だからなあ。
「まったく嫉妬されないのもそれはそれで微妙ですけどね。気をつけます」
ん?そろそろ夕飯の支度しないで良いのかな。
そういうと慌てた顔をして支度しないとっていうので手伝うことにした。
台所でパタパタと立ち働き、夕飯を作る。
生徒さんたちも引けたようだ。作るだけ作って今日は帰ることにした。


---絹

母が台所に来た。
「お母さん。明日山沢さんのところ行ってくるわ」
「ああ、話、ついたのかい?」
「ええ」
支度ができて食卓へ。
今日は私と母の分だけと甘鯛の酒蒸しを山沢さんが作ってくれた。
お父さんと律にはサワラの西京焼、これも山沢さんがたまに持ってきてくれる。
甘鯛があっさりしているのに甘くておいしい。
「そういえば山沢さんって煮物はしないよね」
あらそういえば焼いたりお刺身はしてくれるけど煮物は手伝ってくれないわね。
「苦手なんだってさ。それに家によって味が違うからって言ってたよ」
そうなのねえ…。


---山沢

帰り際、先生が明日うちに来るといってくれた。
部屋を掃除せねば!
勢いで連れ込むなら少々アレでもいいが半日あるんだから目に付くところだけでも。
明日は駅まで迎えに行けばいいことになっている。
帰宅後すぐ玄関から片付け始める。夜2時、なんとかなった。
翌日10時過ぎ、風呂に入って身支度して先生を迎えに行く。
1番出口を指定しておいた。エレベーターであがれるから。
先生が出てきた。私の姿に驚いている。
ポロシャツにチノパン姿はそういえば初めてかもしれない。
先生は紬の普段着姿…いつもはしない口紅が良い。
拾って連れ帰る。
玄関の鍵を閉めてすぐ、抱きしめてキスをした。
たまらん、もう無理だ…。
「今すぐ抱きたい…」
そう言うと先生は頬を染めて体を預けてくれた。
ベッドのある部屋に連れて行き、帯締めを解くと背の太鼓がほどける。
それだけで色気を感じ、また先生も恥ずかしくなるらしい。
帯・着物を脱がせて衣桁にかける。
長襦袢姿もやはり好い。
襲い掛かりたくなるのをぐっと我慢しながら優しく緩やかに、と心がけて。
長襦袢、肌襦袢を脱がせて後は湯文字一つ。
上気した柔肌をそっとなで、キスを落としてゆく。
腕に青あざ、先日掴んだときにできたようだ。
くっきり手の形になっている。申し訳ない。自己嫌悪。
今日は特に丁寧に、嫌がったらできるだけやめて意思を尊重しよう。
壊れ物のように大切に。
二度ほど逝かせた後、先生のおなかが鳴った。
ああ、もう昼すんでるじゃないか。
「メシ、どこか食いに行きます?それとも何か取りましょうか?」
動けなさそうなので鮨を取った。
届いた後先生を呼ぶと素肌に長襦袢をまとっている。
もう一戦やりたくなった。
まあでも取敢えずメシ食うか。
ちゃんとした鮨屋の桶なので結構良いネタを使っているのだ。
やっぱりウマイなあ…と食べているのは実は卵だったりするが。
食後、酒を出して先生に飲ませると少し酔ったようだ。色っぽいぜ…。
襲い掛かりたくなる。
そういう思いが伝わってしまったようで照れて背を向けてしまわれた。
そっと後ろから抱きしめる。
何度しても恥ずかしがるその姿がぐっとくるんだよなあ。
ベッドに連れ戻して再戦3度。
疲れて寝てしまわれた。
手を洗って長襦袢を着物ハンガーにかける。
この手触りはポリではないなあ。半襟も白じゃなく刺繍半襟か。
長襦袢の柄行も普段には着てこないような柄で…。
私に会うためなのに、手の込んだものを…嬉しいじゃないか。
寝顔を眺めているうちに私も眠りに引き込まれた。
夕方、目が覚めた。先生はまだ眠っている。
疲れさせてしまったようだ。
先生のお宅に電話するか。晩飯一緒に食ってから帰らせると。
電話を取り八重子先生に連絡する。
絹は?と聞かれたが今コンビニに、とごまかした。
食事の件は普通にOKが出た。
電話を切って、どこに食いに行こうか考える。
いつもいく割烹で良いかなあ。
ああ、起きたみたいだ。
シャワーを浴びるようにすすめる。
風呂場の外から晩飯の希望を聞くと、任せるといわれた。
割烹で良いかと聞くとそれで言いという。
席が空いてるか電話で確かめ予約する。
風呂から出て肌着を着け、長襦袢をまとい、長着を着る。
美しい。
ドキドキするじゃあないか。
私も身づくろいをして格を合わせる。
外を二人並んで歩き、割烹に着く。
大将が目を細めている。どうだ、好い女だろう!
食事を美味しくいただいて、先生を駅まで送って行く。
別れ難いが明日お稽古だからまた会える。
手の甲に軽くキスして別れた。

翌日のお稽古。
早くつきすぎてしまった。
まだ午前の生徒さんが稽古している。
朝の生徒さんはレベル高い人多いんだよな。
先生との会話聞いててもさっぱりわからん悔しいな。
早く自分も余裕かませるくらいになれれば、なあ。
八重子先生がおいで、という。真之行を見学せよということだ。
今日とってもカジュアルな格好なのですが…。
皆さんちゃんと五つ紋、その中にこの格好はちょっとまずくないですか、
そう聞くと今日は偶発的な見学だから、と正客に。
うーわー…見てるだけでこれ次覚えるのかと。
落ち着いて、すべてを丁寧にやればいいお点前だから出来る様になる、という。
先に見せた理由は心構えだと。
なるほどつまり必要な知識は自習して来いと。
陰陽五行八卦、皆具の違い、まあ色々今は自力である程度はわかるな。
精進します。
でもそれより前回みたいな心の乱れを点前に出さないようにしないと駄目だな。
午前の部はそれでお開き、皆具を片付けて昼の部の用意を手伝う。
用意が終わったところで先生方はお昼ご飯。
私は庭先を借りて喫煙。
外で吸わないと折角の炭に仕込んだ香が煙草の匂いに負けてしまう。
口と手を清めてから先に茶室に戻った。
本日は四ヶ伝の日。
上の方のお点前をするための割り稽古だ。
点前手順は入ってて当然にならないと上に進んではいけない。
道具を見ながら頭の中でざっとさらう。
おおよその流れは思い出したぞ。イメトレイメトレ。
30分前になって絹先生が稽古場に戻ってきた。
すでに先生モードだ、というか今日は厳しい稽古になる予感。
相違せず微妙な角度、持ち方、細かく指導を受けた。
そして今日は私の後に来る生徒さんのお稽古を指導する稽古だ。
人に教えるほど難しいものは無く、自分の中で消化できてないと出来ない事はなはだしい。
結果惨敗、先生からツッコミがすごく来た。
教えてもらったとおりに教える、それが難しい。
結局夕方までみっちり教える稽古や他の方のお稽古の客をして終了。
今日は仕事の都合のため、夜はこちらに居れない。
なぜ居れないかは八重子先生のみぞ知る。
絹先生には絶対知られてはならないのだ…。

まぁつまり、あんなことのあったあとでのお座敷遊びなのである。
同業の集まりでメシと芸者、半玉を呼んで騒ごうというもの。
たとえエロ要素皆無でもまた嫉妬されてああなるのは避けたいものだ。
直接指定の料亭へ移動する。
すでに何人かは来ているそうだ。
今日のお姐さんは誰が来るのか聞くと、大きいお姐さんばかり、ホッとする。
あいてるところへ適当に、というのでいつもの人の横へ座る。
同業としては仲の良い人で、そろそろ80が近い婆さんだ。
火種を借りて一服つけるとぞろぞろと他の連中が到着した。
乾杯して芸者衆の歌舞を楽しむ。
若い連中はトラトラや金比羅で遊んでいる。
宗直姐さんがこちらに来た。
「今日はなにお稽古したんです?」
四ヶ伝、怒られ通しだというと怒られるうちが花、と慰められた。
この方芸者だが同門茶名もち、お茶の話題で盛り上がる。
まあ盛会のうちにお開き、明日も仕事だから皆よそへ行かず帰宅となった。

翌朝ちょっと二日酔い、仕事が捗らねえな。
グダグダしつつ仕事を終え、帰ってひたすら寝たが、体調は今ひとつだ。
次の日の午前中盛り返しはするが気が乗らない。
お稽古へ行くと快晴好日、人が多い。
水屋要員をすることにしてサボる。
人に使われていることの気楽さを満喫。
なぜか最近入会された若い生徒さんに手を握られ名刺を渡された。
ご連絡お待ちしてますって…これはナンパなのか?
取敢えず後で八重子先生にご報告だな、注意しとかないと。
しかし最近の女性だなあ、電話とメールとLINEのアカウントだけ書いてある。
お稽古が終わり、絹先生が山沢さん泊まっていくでしょ?と仰る。
かったるさも吹き飛ぶお誘いだ。
とはいえ、別に何も出来ないわけだが。
夜、絹先生が風呂に入ってる間に八重子先生に申し上げる。
しばらく様子見と決定した。
八重子先生に気取られぬようしつつ風呂から上がる絹先生に目を細め、
それなりの時間になったので寝間へ。
夜半、絹先生の部屋に忍ぶ。
誰かが来ても按摩と言い抜けられる程度にボディタッチ。
声が出そうになって、我慢する姿はなんとも色っぽい。
煽るだけ煽って逝かさず、部屋に戻って寝た。
自分でしただろうか、できるようには思えないが…(笑)
翌朝、絹先生に会うと恨めしげだ。
可愛いな。
昼から律君は大学の友人と約束があると出て行き、
八重子先生も所用で二・三時間戻ってこないという。
昨日仕立てが終わった袷を絹先生に見せていたら着付けてあげる、と仰る。
脱いで真新しい袷を羽織る。
前合せを正しくしてもらい、帯を締めてもらう。
先生の頬に手をやると、じっとして、と言われてしまった。
いやだって膝を突いて上目遣いって何というかエロいんだよ。
立って襟などを少し整えられる。
「昨日はひどいわ…」
「なにがです?」
わかってるけど聞いてみた。頬を染めて何も仰らない(笑)
軽くキスする。そっと着物の上から太腿をなでると色っぽい声が聞けた。
続きをして欲しそうだが、身を離す。
口には出さないが恨めしそうにしてる。
「二階、上がりませんか?」
あそこならわざわざ孝弘さんが来ることもないだろう。
絹先生は頬を染めてうなづいた。
上にあがり襖を閉めるとしなだれかかってきた。
「ねぇ、おねがい…」
「なんでしょう?」
あえて何もしないでいると困った顔をしている。
ああもう駄目だ、いじめるのはヤメだ、抱いちまえ!
裾を割り、まさぐる。
先生はぎゅっと私にしかみつき、押し付け、声が漏れないようにしている。
「んんっあ、はぁっ、もう駄目…」
逝ったようだ、ガクガクしている。
事後の顔も色っぽくてもう一発やりたくなる。
が、まあなんだ、邪魔が入ると非常にまずいことになるからなあ。
手拭で後始末をしてさしあげていると、上気していた頬が一気に青ざめた。
どうやら孝弘さんは在宅だったことを思い出したらしい。
「もう一度、しましょうか」
わざとそう言うと「ひどいわ、わかってる癖に」と詰られた。
しばらく抱きしめて落ち着ついたところで喉が渇いたからと居間に戻ることにした。
お茶をいただいて一服、先生は眠そうだ。
「ちょっと寝ますか?」
お座布を枕に先ほど脱いだ長着をタオルケット代わりに掛けて寝かす。
気持ち良さそうな寝息が聞こえてきた。
昨日煽ったから寝れなかったのかな…可愛いな。
ゆったりした時間が流れる。
あ、八重子先生戻ってきたかな、玄関の開く音だ。
「おや、寝てるのかい?」
「ええ」
起こしますかと聞くといいと仰る。
お茶を勧められて、頂く。
「山沢さん、あんた、…」
え、なんだろ。
「……この間の休んだ日、踊り見てきたんだって?どういう演目だったんだい?」
そ、そっちか、はははは…。
「一つはお茶に関する曲ですよ。歌の中に茶壷やら竹台子やら出てきます。
 前半お茶、後半お香で全体的に恋愛の曲ですね。
 二つ目は重陽、三つ目は楠公、四つ目は確か秋の曲で虫の音や雨音、恋。
 それと棒縛りです。」
「そんな曲があるんだねえ、お茶のかい」
「一説には二代目川上不白の作詞とも」
「江戸千家のかい?」
「ええと…四代目のお家元ですか」
「そんな曲なら寂びた感じなのかねえ?」
「江戸らしくてそういう感じじゃありませんねえ。出は良いんですけど」
おやどこぞで七つの鐘をついている。もうそんな時間か。
絹先生が起きた。
ぼんやりしている。まだ頭の中は寝てるようだ。
「お茶のむかい?」
という八重子先生の問いかけにうん、とだけ答えて。
珍しく寝起きが悪い。
「さて、そろそろ…」
帰らなくてはならない。
「うわっ」
先生に抱きつかれた。だー、寝ボケだ!
「もう夜まで寝かしちゃったらどうですか?部屋お連れしますよ?」
八重子先生にそういうと苦笑いしている。
抱え上げて絹先生の部屋まで連れて行くと八重子先生が布団を敷いてくれた。
布団に転がして寝かしつける。
私の長着はしっかり握ったままだから置いていくしかないな。
部屋を出て居間に向かう。
八重子先生は何か言いたそうだが言わない。
また明後日のお稽古にうかがうといい、辞した。

翌日。
仕事の後、一人展覧会へ行く。
台風が来るらしく暑い。長袖なんて着なきゃよかった。
そう思いつつ観覧していると宗直姐さんに会った。
さすが茶名持ち、こういうのも見に来るのだな。
展覧は時期的に名残の揃え。
でも10月半ばでこうも暑くては名残といってもなあ。
などと話しつつ、品々を楽しむ。
ついでに先日のおどりの会の話を振る。
立方・地方も茶名持ちでやると面白いのではないか?
茶人なら茶人の歌いよう・舞いようがあるだろう。
やるんなら客も茶人をそろえればどうだろうね。
そんなお堅い宴席はいやだそうだ(笑)
近くの喫茶店でお茶を飲んで別れた。

お稽古日。
さて今日はなんだろうなあ。
人数によっては花月かな。
ありゃ、誰もまだ来てない…。
「あ、山沢さん。あんた台子でしないかい?」
どうやら朝の人・乱れ、夜の人・台子らしい。
つまり出して仕舞うのが面倒(ry
他の方が来るまでは乱れをやろうという話になった。
紋付じゃないけど心構えをすればよい、口と手を清める。
正客に八重子先生、次客に絹先生。
二人から指導が入る入る入る。
結局午後の稽古の終わるまで誰も来なかった。
早めに切り上げてお夕飯の支度を手伝う。
「山沢さん、煮物苦手なの?」
と絹先生。そうだと答えると教えてあげるから作るように仰る。
いや、出来ないというわけでは。
自分が作ったものの味が気に入らない。
「うちの味でよければ同じ分量で作れば良いじゃないの」
いやいやこちらは4人分、うちは1人分。
分量そのまま割ったらいいというわけにはいかんのです。
濃茶を一人分練るのが難しいようなもので…というと納得された。
「それでも結局慣れよ?」
うう、まあたしかにそーですが。
たまには作るという約束をさせられてしまった。
手早く夕飯を頂き夜のお稽古の準備。
私は初心の方への割り稽古の指導をする稽古をつけてもらう予定だ。
水屋や釜を整えていると夜の生徒さんたちが来た。
と思ったら数奇屋袋を投げつけられた。
「ひどいわ!連絡待ってたのに!他の女とデートするなんて!」
ええっ?なんの話だ!?
投げつけてきた人は先日私に名刺を渡してきた女だ。
周囲がざわつく、絹先生をチラッと見ると額に青筋が。やべぇぇぇぇっ!
「ええと、あのう、何のお話で…?」
「ふざっけんじゃないわよ!昨日根津で女と!一緒にいたくせに!」
あ…あれか…宗直さん。たしかに女だ。古いけど。
「話を整理しましょう。
 まず私は女ですので女とどこで遊んでいても問題はないはずです。
 それに私はあなたに連絡を差し上げるとは一言も言っていません。」
「嘘つくんじゃないわよ!どこが女なのよ!」
周囲がとりなしてくれない、仕方ない、脱ぐか。
袴の紐を解き、着物の帯を解き、長襦袢の紐をはずそうとする。
八重子先生が騒ぎに気づいて止めてくれた。
ほっとする。
さすがに大人数に裸身をさらしたくはない。
誤解から生じたものとして処理され、名刺の女は取敢えず今日は帰ってもらうことに。
そして私は稽古場を騒がせたので一ヶ月稽古差し止め。
すごくショックだ。
来るなら来ても良いが水屋か見取りのみしかさせないという。
取敢えず今日のところは水屋要員するしかない。
場の重さに引きづられたまま皆さん黙々とお稽古され、本日の稽古終了。
絹先生に呼ばれる。二階に。
「デートってどういうことなの?」
うっわそっちか、怒ってる。
「た、たまたまですよ、たまたま、知り合いに会っただけです」
「どういうお知り合いなのかしら」
「同門!同門です!」
「あらそお?」
だめだ、信じてもらえてない気がする。
「70代の方ですよ、勘弁してくださいよ…」
「えぇ?あらぁ…いやねえ」
あ、よかった納得してもらえたかな。
「ね、さっきの方だけど…連絡って?」
「ええと先日のお稽古のときにですね…」
かくかくしかじか、と説明する。
「何で言ってくれなかったの?」
「あなたに嫉妬させたくなかったから…」
抱きしめてキスしたその時、絹ー?と八重子先生が呼んでいる声が聞こえた。
くっそう。
絹先生が降りて行き、時を置いて私も降りた。
居間に行くと八重子先生に座ってと言われ、絹先生の横に座る。
昨日の出かけた先と相手の確認をされた。
「絹を誘って行けばよかったじゃないか」
「朝思いついたものですから…それにまさかこうなるとは」
「とにかく、差し止めといったからには私は稽古をつけないよ。
 稽古の時以外で絹が稽古をつける分にはかまわないけどね」
「いいんですか!?」
[絹がいいならね」
さっと座布団から降りて、絹先生にお願いする。
いいわよって仰ってくださった。良かった。
もう時間も遅いことだし、と八重子先生は部屋に戻って行かれた。
絹先生は火の始末などをしてから話があると私の寝間へ。
部屋の奥の机のところに二人で座る。
話ってなんだろう。
「あの…さっき、嫉妬してごめんなさい…」
「話ってそれですか。何かと思いましたよ」
可愛いなあ。ついなでなでしてしまう。
「私、こんなに嫉妬がきついなんて思わなかったわ」
「んー私よりはましではないかと思いますが。
 私なんぞ律君と先生が一緒に歩いてるだけで…」
「ええっ!」
ちょ声が高い声が!
「お母さん、どうしたの?」
うぉわっ、律君だ!
「なんでもないわ、大丈夫だから」
先生も声が慌ててる。
間の悪い奴め…。
そう?といって廊下を歩いていく音がした。
ハーーー、と息を吐く。
ああ焦った。
そっとキスをする。
「律が戻ってきたら困るわ」
「目の前に居るのに出来ないのは辛いな…。明日、どこか行きませんか」
なんなら昨日の根津でもいい。
デートして連れ帰って食べてやる。
先生は頬を染めてこくり、とうなづいた。
たしか諏訪で展覧会が有ったな…八重子先生に泊りがけを許可してもらおう。
時計を見る。まだいけるか。携帯をとり、ホテルに空きがあるか確認する。
取敢えず確保を依頼し、八重子先生の部屋へ行く。
起きて居られるか声をかけると、まだ大丈夫だった。
明日、諏訪の美術館へ行きたい旨申しあげる。遠方ゆえ泊りがけにしたいと。
名物裂の展覧と言うと構わないといっていただいた。
部屋に戻る。
「明日、展覧会へ行きましょう。泊りがけで。いいのあるんですよ」
「お母さん、いいって?お稽古日なのに…」
「名物裂の展覧といったらすぐOK出ましたよ」
「あなた色々知ってるのねえ…」
そりゃまあデートのネタになるのでチェックしてるのですな。
明日の用意もあるからと先生は部屋に戻っていった。
私も用意しないとな。会社に休むとのメールを出す。
鞄の隠しに縄を入れておこうか…。

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