翌日はげんなりしたまま憂鬱に仕事をして、しっかりと寝た。
やっぱりちょっと寝不足だったからなあ。
そして稽古日だ。
本日は見取り稽古と水屋のみ。
前回のあの騒動のせいでお稽古できないんだよね。
稽古場の用意を手伝う。8寸足らずをあけて台子のセッティング完了。
私のときは4寸半。体格差だという話だ。
あれ?生徒さん来ないな。
どうやら電車事故で遅延らしい。またか。
絹先生がなにやらお困りの様子だ。どうしたのだろう。
「町内会の方が2時半ごろ来られるのよ…。
生徒さんと時間かぶっちゃったらどうしようかと思って」
今日は八重子先生急用で居ないからなあ。
「今日の生徒さんってどのあたり教えてましたっけ?」
内容によっては私が見ればいいわけだが…。
「円草と行之行なのよ…あなたまだ円草は苦手でしょう?」
ですね。
じゃあ来客があれば私がそちらの時間稼ぎをしましょう。
ってことで生徒さん待ちである。
暇なので内緒でお稽古していただく。
お稽古という形をとってはいけないだろうからと道具はエアで(笑)
30分ほどして生徒さん到着。
これならお客さん来てもなんとか持たせられるかな。
生徒さんのお稽古を見て次の手順を思い出しつつ確認。うん。
次はああなってそれからこうやって…。
おっと次の生徒さん来た。次客のとこに座ってもらおう。
この方は行之行だから道具は…。
水屋に用意をしておいて、見取りを続ける。
円草が終わる頃来客、町内の人のようだ。
「山沢さん、お願い」
玄関から部屋に案内して、お茶を出す。
「お約束いただいていたのにすみません、電車事故でお稽古が押してまして。
ご用件を伺うよう言い付かっております」
「ええと、あなたは?」
「あ、申し遅れました、弟子の山沢と申します」
話を聞くとどうやら私で返答できるようなネタだった。
少々お待ちいただいて先生に一応お伺いを立ててから返答する。
お客様を送り出して稽古場に戻りご報告。
見学に戻る。
まだこの稽古に入られて浅いので大まかな流れを覚えてもらうようだ。
角度とかにはあまりこだわらず教えておられる。
つい生徒さんの手元より先生を目で追いそうになる。
自分がお稽古振られないと思うと気がそれていけない。
次の方の準備でもしよう。うん。
先生の手帳をチラッと見ると次の方は和巾か。
中次を用意せねば。仕覆は荒磯緞子でいいかな。
和巾はどれ使おうかなあ。青海波があった。これなら言い間違うまい。
対角の所に電熱の風炉を出して釜を据える。
茶碗などなどの用意を整えて居ると次の方がこられた。
微妙に焦っているな、先生。
スムーズに移れるように先の生徒さんの使っているものの後始末をして行く。
先の生徒さんの点前が終わってすぐ次の方のお客に入れた。
てきぱきと進む。いい感じだ。
だったのに更に来客。
今回は私では駄目で先生をお呼びする。
結局本日のお稽古は30分遅れ程度になってしまった。
時間もないので水屋の始末は私、お夕飯は先生が支度することにした。
「山沢さんお魚でもいい?」
「うー。白身なら」
釜や炭などすべて始末を終えてお台所に行く。
あれやこれや手伝い食卓に出して孝弘さんを呼びに行く。
戻ると八重子先生が帰って居られた。
私と孝弘さんの顔を見て何か微妙な顔をされている。
八重子先生が感づいているのだとしたら…娘の不倫相手と娘の旦那。
内心複雑になるのはわからなくもない。
お櫃を出して孝弘さんの横に座る。
孝弘さん→八重子先生→私→絹先生の順にご飯が出される。
くっ白身は白身でもグレか。
絹先生が見てないうちに孝弘さんのお皿に乗せる。
孝弘さんがにやっと笑って食う。
八重子先生が変な顔している。見られてた。
微妙な空気が私と八重子先生の間に漂うのも気づかぬ絹先生。
孝弘さんへにこにこしながらおかわりをしてあげたり。
他のおかずで食って、うん、うまかった。
ごちそうさまです。
孝弘さんが部屋に帰って、絹先生は台所に立つ。
私も手伝おうとしたが八重子先生に引き止められた。