---絹
母が台所に来た。
「お母さん。明日山沢さんのところ行ってくるわ」
「ああ、話、ついたのかい?」
「ええ」
支度ができて食卓へ。
今日は私と母の分だけと甘鯛の酒蒸しを山沢さんが作ってくれた。
お父さんと律にはサワラの西京焼、これも山沢さんがたまに持ってきてくれる。
甘鯛があっさりしているのに甘くておいしい。
「そういえば山沢さんって煮物はしないよね」
あらそういえば焼いたりお刺身はしてくれるけど煮物は手伝ってくれないわね。
「苦手なんだってさ。それに家によって味が違うからって言ってたよ」
そうなのねえ…。
---山沢
帰り際、先生が明日うちに来るといってくれた。
部屋を掃除せねば!
勢いで連れ込むなら少々アレでもいいが半日あるんだから目に付くところだけでも。
明日は駅まで迎えに行けばいいことになっている。
帰宅後すぐ玄関から片付け始める。夜2時、なんとかなった。
翌日10時過ぎ、風呂に入って身支度して先生を迎えに行く。
1番出口を指定しておいた。エレベーターであがれるから。
先生が出てきた。私の姿に驚いている。
ポロシャツにチノパン姿はそういえば初めてかもしれない。
先生は紬の普段着姿…いつもはしない口紅が良い。
拾って連れ帰る。
玄関の鍵を閉めてすぐ、抱きしめてキスをした。
たまらん、もう無理だ…。
「今すぐ抱きたい…」
そう言うと先生は頬を染めて体を預けてくれた。
ベッドのある部屋に連れて行き、帯締めを解くと背の太鼓がほどける。
それだけで色気を感じ、また先生も恥ずかしくなるらしい。
帯・着物を脱がせて衣桁にかける。
長襦袢姿もやはり好い。
襲い掛かりたくなるのをぐっと我慢しながら優しく緩やかに、と心がけて。
長襦袢、肌襦袢を脱がせて後は湯文字一つ。
上気した柔肌をそっとなで、キスを落としてゆく。
腕に青あざ、先日掴んだときにできたようだ。
くっきり手の形になっている。申し訳ない。自己嫌悪。
今日は特に丁寧に、嫌がったらできるだけやめて意思を尊重しよう。
壊れ物のように大切に。
二度ほど逝かせた後、先生のおなかが鳴った。
ああ、もう昼すんでるじゃないか。
「メシ、どこか食いに行きます?それとも何か取りましょうか?」
動けなさそうなので鮨を取った。
届いた後先生を呼ぶと素肌に長襦袢をまとっている。
もう一戦やりたくなった。
まあでも取敢えずメシ食うか。
ちゃんとした鮨屋の桶なので結構良いネタを使っているのだ。
やっぱりウマイなあ…と食べているのは実は卵だったりするが。
食後、酒を出して先生に飲ませると少し酔ったようだ。色っぽいぜ…。
襲い掛かりたくなる。
そういう思いが伝わってしまったようで照れて背を向けてしまわれた。
そっと後ろから抱きしめる。
何度しても恥ずかしがるその姿がぐっとくるんだよなあ。
ベッドに連れ戻して再戦3度。
疲れて寝てしまわれた。
手を洗って長襦袢を着物ハンガーにかける。
この手触りはポリではないなあ。半襟も白じゃなく刺繍半襟か。
長襦袢の柄行も普段には着てこないような柄で…。
私に会うためなのに、手の込んだものを…嬉しいじゃないか。
寝顔を眺めているうちに私も眠りに引き込まれた。
夕方、目が覚めた。先生はまだ眠っている。
疲れさせてしまったようだ。
先生のお宅に電話するか。晩飯一緒に食ってから帰らせると。
電話を取り八重子先生に連絡する。
絹は?と聞かれたが今コンビニに、とごまかした。
食事の件は普通にOKが出た。
電話を切って、どこに食いに行こうか考える。
いつもいく割烹で良いかなあ。
ああ、起きたみたいだ。
シャワーを浴びるようにすすめる。
風呂場の外から晩飯の希望を聞くと、任せるといわれた。
割烹で良いかと聞くとそれで言いという。
席が空いてるか電話で確かめ予約する。
風呂から出て肌着を着け、長襦袢をまとい、長着を着る。
美しい。
ドキドキするじゃあないか。
私も身づくろいをして格を合わせる。
外を二人並んで歩き、割烹に着く。
大将が目を細めている。どうだ、好い女だろう!
食事を美味しくいただいて、先生を駅まで送って行く。
別れ難いが明日お稽古だからまた会える。
手の甲に軽くキスして別れた。