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百鬼夜行抄 二次創作

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伶(蝸牛):絹の父・八重子の夫 覚:絹の兄・長男 斐:絹の姉・長女 洸:絹の兄・次男 環:絹の姉・次女 開:絹の兄・三男 律:絹の子 司:覚の子 晶:斐の子

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22

お稽古日。
今日は何のお稽古かな。
ん?先生の表情が曇っている。
なにかあったのだろうか。
少し稽古が厳しい。
お稽古が終わった後、八重子先生と話していた。
先生は水屋に居られるようだ。
「あんた実は芸者に贔屓とかあるんじゃないのかい?」
「ああ、前は一人、毎週料理屋に呼んでましたよ。その芸妓はもう引退してしまって、
 その人に頼まれたのを今は贔屓にしてます。最近呼べてませんけど」
ありゃ驚かれてしまった。
どうしたのか聞くと羽裏の件や車代の入れ方などからそう思ったそうだ。
あの羽裏はどこのかと聞かれた。西陣の織元に頼んだものだ。
思ったものがなかったから頼んでみた。
「おばあちゃん、お客さん」
律君が呼びに来た。
はいはい、と八重子先生が出てゆく。
私は水屋へ入り絹先生の手を取る。ふりほどこうとされる。
「嫉妬、してるんですか?」
「だって贔屓の女、いるんでしょう?」
「ただの話し相手です、芸を見に行くだけですよ、ああいうところへは」
「本当に?」
「ええ、あなただけです」
ほっとした表情をしている。信じてくれたみたいだ。
「そういえばなんで雅楽の楽器とお寺なの?」
ん?ああ、羽裏か。
「もともと雅楽は神社より寺とつながりの深いものなんですよ。
 だけど結婚式のイメージとともに神社のイメージなんでしょうね。
 菩薩っていう曲もありますよ。」
結婚式と越天楽のセットだよなー。
葬式用の越天楽もあるんだぜー。
くだらない話もしていると次の生徒さんが来た。
ではまた次のお稽古で、と挨拶して帰る。
帰り道、思わずにやけてしまった。嫉妬してくれるとはね。
あっ、羽織持って帰るの忘れた(笑)

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21

----絹

「ただいまあ」
帰宅して居間にいる母に声をかける。
「はい、おかえり。どうだった?」
「良かったわよー、お芝居もお食事も」
「あれ?あんたそんな羽織持ってたかね?」
「ああこれ、山沢さんのなのよ。ご飯食べて外に出たら結構冷えてて。
 家まで着て帰ったらいいって貸してくれたのよ」
敷きたとうを出し、その上で脱ぐ。
羽織を脱いで見ると羽裏は結構手が込んでいる。
「あら…織ね」
帯を解き、伊達締めをとくと胸から何かが落ちた。
母が拾ってみるとぽち袋だ。お車代と書いてあり、3万円が入っていた。
「いつの間に入れたのかしら…?」
そのまま寝巻きに着替え、衣桁に着物をかけて片付ける。
母にお芝居と食事の話をしながら。
もう遅いから、とすぐに寝ることにした。

翌昼、庭を掃除してると母に来客。
私が男性と見詰め合っていたとか、料理屋から二人で出てきたとか
夜の街を仲良さ気にくっついて手をつないでいたとか、母に言ってる。
見られてたみたい。困ったわ…。
母が私と仲のよい弟子で女性と説明してるけど…納得してもらえるのかしら。
掃除を終えて居間に戻ると、お客さんはもう帰ったみたいで、
母が山沢さんの羽織を見ている。
「いい羽織だ。この柄は何かねえ、雅楽の楽器?」
「ひちりきっていうんじゃないかしら。あらでもこの柄、お寺よねえ?」
今時こういう羽裏は珍しい。
「山沢さん、案外女遊びになれてる人なのかもしれないねえ」
「えっどうして?」
「あんた昨日ぽち袋入ってたの気づかなかったんだろ?
 贔屓の芸者の一人や二人いるかもしれないねえ」
そうなのかしら…。
嫌だわ…。
そう思いつつ、羽織を畳んでたとうに仕舞った。

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20

何度かのお稽古日が過ぎた。
今日は芝居を見に行く日である。
私の仕事時間の関係で、現地近くで待ち合わせとなる。
一旦帰宅し、シャワーを浴びて着替える。
10月に入ったから袷だ。胴抜きにしてある。中は絽の長襦袢にしよう。
お召に羽織で良いといってたからそうしよう。
先生は付け下げか訪問着って言ってたな。
楽しみだなぁ。
わくわくしつつ、家を出る。
デートだ♪
待ち合わせ場所に40分も早く着いた。
先生は携帯を持ってないからちゃんとわかる場所にいなくては。
待つ時間も楽しい。
と思ったらすぐ来られた。
付け下げにされたようだ。綺麗です、と褒めると、あなたも格好良いわ、と言われた。
時間が早いのでお茶を飲みに行くことにした。
実は先生は先日会場に行ったそうだ。
下見ではなく、展覧会が有ったという。お茶仲間とだ。
京都で私は見ているが、お茶の先生としては見てはおかねばなるまい物。
お茶仲間の付き合いも大事だからね。うん。
言い訳みたいにしなくても良いんだよ。
可愛いなぁ。
さて。手水を使ったらばそろそろ入って席に着きますか。
うん、良い席だ。出やすくて、見やすい。
今日は小さいお茶を二つ、音の出ない甘いものをいくつか持ってきている。
大きいお茶は結構残して荷物になる&ガサ音は不快。でもなんぞ欲しい。
席について軽く見回すと知った顔がいくつかあるなあ。
先生に手出しはできないな、気をつけよう。
おっと開演前のブザーが鳴った。
暗転。今のうちと手の甲にキスをする。
照れてる照れてる、うんうん。
芝居を楽しむ。
時代だなぁ…今ならばどうだろう。
師を捨てて女を取るか。それとも駆け落ちでもするか。
月は晴れても、心は闇だ…。
すっと先生が私の手を握ってきた。
その手の上に、もう片方の手を重ねる。
あーキスしたい、そう思いつつ手の甲を撫でる。
私だけにわかる声で駄目、とささやかれた。
撫でる手を離し、芝居に気を戻す。
一流の役者の織り成す世界は良いなあ。
拍手の元、終了した。余韻。
先生の手を引いて会場の外へ出ると、時はちょうど頃合、料亭へと歩く。
うん、ここだな。
「予約していた山沢です」
どうぞどうぞと通されたのは個室。
懐石の順番どおり出てくる。どれも美味だ。
楽しく食事が終わり、支払いを終えて外へ出ると意外と冷え込んだようだ。
先生がふるっとした。私は羽織を脱いで包み込む。
「袖、通して…」
着せて差し上げる。
「このまま、私のうちへ来ませんか?」
はっと先生は私を見る。
「駄目…帰らないと…」
手を握って翻意を促すが、無理そうだ。今日のところはお帰ししよう。
手をつなぎ駅へ向かう。
帰したくない。だが駅についてしまった。
先生が羽織を脱ごうとする。それを押しとどめた。
「着て帰ってください。あなたに添えない私の代わりに羽織だけでも。
 帰り道にナンパ、されないでくださいね」
頬を染めて可愛いなぁ。
じゃ、また稽古の日に、と別れた。

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(絹目線)

ええ?なんで降りるの?山沢さん!?
追いかけようにも電車は出発してしまった。
家に帰ったら電話してみなきゃ。
切符を見るとちゃんと最寄り駅まで買ってあった。
大人げ、なかったかしらと鬱々としていると乗換駅に着いた。
乗り換えて最寄り駅に向かう。
タクシーに乗って家まで帰るとお昼ご飯の匂いがする。
「ただいまぁ」
「あら、おかえり。大変だったね。着替えといで。あんたも食べるだろ?」
着替えて、お昼ご飯を済ませたら気が緩んで眠くなった。
「寝るなら部屋で寝といで」
居眠りしてたみたい。
「そうするわ…」
部屋に戻って寝て、起きたらもう夜になっていた。
そういえば山沢さんは…と思って居間に出て来て時計を見ると、
人の家に電話をしても良い時間とも思われず。
どうせ明日はお稽古日、来るわよね。
おなかがすいたので軽いものを食べて、もう一度寝なおした。
翌日のお稽古、山沢さんが来ていない。
疲れたのかしら、気まずいから?
次のお稽古も、その次のお稽古も来ない。
お母さんがお家に電話をした。
…この電話は現在使われておりません。
「どうしたんだろうねえ」
さようならって、もう来ないということだったのかしら…。
心配しながらテレビを見ていると…。
「……先ほど発見された自殺者は京都市右京区の山沢久さんの遺体と判明し、
 現在遺書などの捜索に当たっています」
「ええっ!山沢さん!? 嘘!」
「嘘だろ!?」
なんで…どうして…。
「飯島さーん、書留でーす」
玄関から郵便屋さんの声がする、慌てて出ると速達の手紙が一通。
差出人は…山沢久!
「お母さん!山沢さんから手紙!」
すぐに開いて読むと…。
「……これが届く頃に私はいないことでしょう。
恐らくは原因などの捜査でこちらにも問い合わせが来るかと思います。
もし、私の体面を慮ってくださるのであれば、
"違法物品の売買に関して5千万の損失を受け、それに関する金策ができなかった"
警察にはその程度のことを伝聞としてお話いただければ済むと思います。
飯島先生にはご迷惑をおかけして申し訳ありません」
などと書いてあった。
「絹、あんたあちらにいるときにそんな話とか聞いてたかい?」
「そんな…してなかったわ、そんな話…」
私が拒絶したから?そうなの…?
受け入れたら、良かったというの……?


Fin

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g2

先生は頬を染め、袂で顔を覆っている。
あまりにも可愛く、つい手が出た、出てしまった。
「先生…」
肩に手をやり、こちらに向ける。
「やっ…」
唇にキスを落とす。先生はビクッとしている。
抵抗しようとする手を掴み、首筋にもキスをする。
「んッ…いや…お願い…」
「………聞けません、無理です」
そっと胸に触れる。

先生の抵抗する手が膻中に入って、私が悶絶した隙に逃げられた。
あいたたた…。
先生は緩んでしまった打ち合わせを直されている。
「うぅ…すいません。頭冷やしてきます」
大浴場の水風呂でも入ろう。
「山沢さん…なんで嫌って言ってるのにしようとするの…?」
「…どうやったら嫌じゃなくなるってんですか。合意の上でとかありえないでしょう?」
「それはそうだけど…」
それはそう、なのだなぁやっぱり。
のっそりと起きると、先生が困った顔をしている。
「ラウンジ、行ってきます」
煙草一式持って出ることにした。時間潰さないと二人きりは無理だ。
「あ、はい…」
先生を置いて部屋を出る。
ペッタペッタと草履を鳴らしてラウンジに行く、先客がいるようだ。
何かコニャックかアルマニャックを、と頼むとレミーマルタンが出てきた。
定番だな。ストレートでいただく。飲み過ぎないように気をつけないと。
一口、二口、うまいなあ…。足音。
「山沢さん…」
うわっ、なんで?どうして追いかけてくるんだ…。
スタッフが来て飲み物は、と聞かれた。
「同じものを…」
先生も飲むのね、洋酒。まあレミーマルタンなら飲めるよね。
でもストレートで飲めるのかな、あ、むせた。
私のグラスに移して、スタッフに水割りをひとつ頼む。
「無茶をしないでください」
それきりしばらく会話もなく飲んでいる。煙草を取り出す。
「吸ってよろしいですか?」
「ええ」
煙管に葉を丸め入れ、ライターで着火する。
一服、二服、三服、灰皿に灰を落とす。
先生がこちらを見ている。
「吸われますか?」
「ううん、私、吸わないから」
くいっとグラスに残った酒を飲む。煙草とブランデーの混ざった味。
おかわりを頼もうか、どうしようかと思っていると、
「お部屋、戻りましょ?」
と先生が言う。
「はい」
さらっとサインしてラウンジを二人で後にした。

部屋に戻り、なぜ追いかけてきたか聞いた。
ミニバーからマーテルVSOPのミニボトルを取りグラスを出す。
私が落ち込んでいるように見えたから、追いかけてきたという。
「でもどうしたらいいかわからなくて…」
う~ん。
「私とする気がないのでしたらとっとと寝たら良いんじゃないですか。近寄らずに」
ちょっとムッとされたようだ。手首を掴み、引き寄せ、
「それとも、私としてくれますか」
飲みながらそういってみると平手が飛んできた。
唇が切れたようだ。
手を放して、部屋を出る。
ぐだぐだだな、私。
そのまま、人の来ないエリアに移動する。
さすがに追いかけては来ないだろう。
ふと外を見ると雷雨、今の気分には合うが…。土砂は片付いてくれるのだろうか。
明日にはここを出たいものだ。もう無理だ。
瓶を持ってきたままだ。呷る。しみた。唇切れてたんだった。
馬鹿らしくて笑っちまう。
飲みつつぼんやり眺めているうちに深夜1時、そろそろ寝てるか。
部屋へ戻ろう。夏だから和室で転がっても風邪は引くまい。
そっと静かに入り、様子を伺う。寝息。よし。
座布団を枕に転がった。すぐ眠りに落ちた。

翌朝起きると先生がいない。
大浴場に行ったようだ。
私に羽織をかけてあった。あんなことがあっても気遣いの人だな。
取敢えずは道路状況の確認をするか。
…確認したところ電車は復活したようだ。チケットを予約する。
先生が戻られた。
伏し目のまま無言だ。怒ってるか、仕方ない。
挨拶をして洋服を持ち大浴場に向かう。
先客がちらりとこちらを見る。
どうでもいい。
しばらくして風呂から上がり、洋服に着替えてフロントへ行く。
駅までのタクシーの手配を頼む。
11時半の予約なので10時半に呼んでもらう。意外と混むからな、あの道。
支払いもお願いし、待っているともう食事の時間らしい。
先生が来たが私とは目も合わされず食事の場所に案内してもらっている。
後姿を見送り、支払いを済ませる。
そして案内されて先生の向かいへ座り、食事を取る。
終わりがけ。
「10時半になったらここを出ますから10時までに着替えを済ませてください。
 その頃に戻ります」
そういうとほっとした顔をされた。
食後、部屋に戻る道から私は逸れてヒーリングルームへ。
一時間くらいすぐ過ぎるだろう。
秋の気配の庭を眺めつつ寂寞とした思いにとらわれる。
もはや10時か。
部屋に戻る。あえて音を立てて入室する。
先生はすでに着物に着替えられ、化粧も整えられている。
私はそれをまぶしげに見て、目をそらす。
さっと私は荷物を片し、金庫から財布を出して手渡した。
これで良し、見渡して忘れ物がないか確認する。
ミニバーも私が持って出たマーテルしか減ってない。これは支払い済み。
先生はずっと無言だが、「出ますよ」と声をかけると、「ええ」とのみ返ってきた。
フロントにつくと車がすでに来ていた。
先生を後部へ、私は助手席へ。
駅に着き発券してもらい、乗車。
先生に窓側と通路側どちらでもというと窓側に座られた。
乗車中、私は財布から万札とタクシーチケットを出し、
切符・指定席券とともに先生にお渡しする。
えっという顔をされた。
立ち上がり、さようなら、といって私は降車する。
先生は追いかけることもならず、発車した窓から私を見ておられた。

私は乗り換えて一路京都へ。
京都タワーを見ると帰ってきた、と思う。
バスに乗り、自宅へ戻る。
狭く、本だらけの自室は出たときそのままだ。
さあ机を片して手紙を書こう。

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