翌朝食事の支度をしてると律君が行ってくる、と台所に顔を出した。
「行ってらっしゃい」
「お早うお帰り」
「気をつけるんだよ」
三者三様に送り出して配膳。
孝弘さんも出てきた。
朝ご飯を食べて、今日は平日だからお洗濯やお掃除のお手伝い。
「山沢さんちょっと、お買物行ってきて」
メモを持たされて買物へ。
重い洗剤類とトイレットペーパね。
買い揃えて帰る。
「トイレの洗剤頂戴」
渡すとすぐトイレの掃除に取り掛かられた。
「俺、ふろ洗ってますから」
「うん」
風呂を洗い終え、ひょいと出たら律君と近藤君がいた。
「うわぁっ」
ありゃ。
律君が慌てて近藤君を後ろ向かせて連れてった。
「どうしたの?」
ぱたぱたと先生が駆けてきた
「や、気づかなくて」
長襦袢を着て長着を手に。
先生に叱られた。
なんでだ。
長着も着て居間に戻ると八重子先生がお昼できた、と言うので台所へ取りに行く。
配膳を済ませて孝弘さんを呼びに。
先生は律君たちを。
食卓についてお昼をいただく。うまい。
近藤君がすぐ目をそらすんだよな。
仕方ないか。
「お昼の後は草むしりね」
先生にそういわれて台所を片付けた後麦わらを借りて庭に下りる。
小鳥の声、木のざわめき。
そんなものを聞きつつ。
お、でっかいみみず発見。八重子先生のガーデニングエリアに放つかな。
草むしりをしていると時間がわからない。
あっという間に日が暮れて美味しそうなにおいがする。
先生がお夕飯そろそろだからと呼びに来た。
手袋を脱いで手を洗い、ついでに顔を漱いで居間へ。
すでに配膳が済んでいた。
座るとご飯を渡されていただきます。
筑前煮メインに俺にはしょうが焼きがついてきた。
草むしりを手伝ったご褒美、と言ったところか?
野菜もそれなりに食べさせられた。
満腹満腹。
先生が台所に片付けに立った。
八重子先生がお茶を入れてくださり団欒。
先生が洗い物を終えて戻ってきたとき、何かに蹴躓いて俺の上に転んだ。
「きゃっ」
「うぅ、いてて」
後頭部打った。
暫く呻いて先生も起き上がれずじたばたしてる。
「ただいまー。え?」
あ、司ちゃん…。
「えーと、その。おばさん?」
「あら? 司ちゃん? あらあらあら」
「痛い、先生、そこっ」
手を突いたところが悪い。痛い。
「ご、ごめんなさい」
先生も慌ててる。
「ただいま。って何してんの?」
「あー、律君良いところに。悪いけどお母さん引っ張りあげて」
よいしょっと律君が先生を引き上げてくれてやっと起き上がれた。
変な風に乗っかかられて力が入らなかったんだよね。
「ああ吃驚した。あんたらご飯食べてきたの?」
「いやまだ。何かある?」
「んー、そうねえ。筑前煮まだ残ってるしお漬物とお野菜の煮たのとあるわよ」
「それでいいよ。おなかすいた」
「はいはい」
後頭部を擦り擦り、先生が出すものを食卓に並べる。
「さっきなんであんなことなってたの?」
司ちゃんも聞きたそうだ。
「それ、そこの。先生が躓いてね」
畳縁から出ている小さい何かを指差す。
「あ、ほんとだ」
「見えない…なにかあるの?」
「うん、なんだろう」
律君たちが食べてるのを見つつ、先生にそろそろ、と挨拶をする。
「明日もお仕事だものねえ。お稽古は来れないんでしょ?」
「はい、残念ながら。土曜日にはきますから」
「わかったわ、気をつけて帰ってね」
「ええ、有難うございます」
玄関まで送られて、人目のないのを確認して唇を合わせてくださる。
少し頬を染めてて可愛い。
「連れ帰りたくなるな」
「駄目よ…また、ね」
「わかってます。じゃあ」
「おやすみなさい」
「おやすみなさい」
別れて帰宅し、風呂に入ってすぐに寝る。
明日は営業をしなければならない。