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百鬼夜行抄 二次創作

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伶(蝸牛):絹の父・八重子の夫 覚:絹の兄・長男 斐:絹の姉・長女 洸:絹の兄・次男 環:絹の姉・次女 開:絹の兄・三男 律:絹の子 司:覚の子 晶:斐の子

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342

さてさて予想通りに暇な市場。
帰ろうかなー、と思っていると社長が今日から営業月間、と言い出た。
そういえば木曜はホテルまわりでお稽古お休みに、とお願いしたんだった。
先生もあの様子では忘れてるはず。
慌てて電話を入れる。
八重子先生が出てくれた。
いけないことを説明すると八重子先生も忘れてた様子。
前日に気づいてよかった。
先生に言っておいてくれるようだ。
しかし。
土曜まで会えないのか、ちょっと厳しいな。
とりあえず今日は休養日、身体を休めねばならん。
帰宅して風呂に入って寝ることにした。
後は夕方までぐっすりで、腹が減って目が覚める。
飯を食って、そしてまた寝る
ここ数日ずっと先生に触れていたから一日触れないことに違和感がある。
明日も、明後日もか。
土曜は…覚悟を決めておいてくれると良いな。
おやすみなさい。
さて出勤したらやっぱりダメだ、暇すぎる。
8時ごろには9時過ぎの雰囲気を漂わせている。
連休明けだし平日だしどうしようもない。
一旦帰宅してスーツに着替え、営業だ。
会社概要を10部、名刺を大量に持ってホテルへ。
価格交渉もするにはするがメインは購買ではなく料理する人たちだ。
どれほど手間を省けて良いものが持っていけるか。
種をまく作業だ。
とりあえず10軒まわって帰宅する。
げんなりとしたが気分を変えるためにジムに行くことにした。
定番のトレーニングをするがやはりここ暫くしてなかったから回数も落ちている。
今月は木曜はジム通うことにしよう。
身体を疲れさせて帰宅した。
きっと良く寝れるだろう。
布団に潜り込んで熟睡。
10時ごろ妙に温かく重いことに気づく。
また先生が気づかぬうちに来ていたらしい。
可愛いなあ。
「ん、起きちゃった?」
「うん。来ちゃったんですか」
「来ちゃったの。お稽古の後ね、こっち出てくる用が有ったから」
「泊まっても良いって?」
「明日お稽古もないから…いいでしょ?」
「うん。でも今日はしないけど」
「え、あの、期待して来たんじゃないわよ…」
「わかってるよ、照れてるあなた、可愛いなぁ」
「もうっ。寝ましょ、ね?」
「キスだけ」
ねだってキスをしてもらって先生を撫でて一緒に寝た。

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341

布団の中に二人もぐりこんで先生の胸に触れる。
摘んだりなでたりくすぐったりするたびにかすかな反応があり楽しい。
「ねぇ…」
「なんです?」
「…寝ちゃうわよ?」
「寝れちゃいますか。じゃこっち」
太腿の間に手を差し込む。
「こんなにしてて寝れるんですか?」
「ばか」
結構に先生の身体を堪能してそろそろ疲れたというので寝かすことに。
眠そうな先生も可愛いんだよな。
翌朝、やっぱり起きれない先生を置いて食事の支度。
今日は八重子先生と蔵整理の続きの予定。
ぶつくさ言ってるので俺が泊まった翌日は仕方ないですよと宥めた。
怪我してようとなかろうと朝は使い物にならない。
お昼ご飯を昼前に起きれた先生が作って食事をとる。
午後から草引きかな。
曇り空で少し冷えるが、汗かかなくて済むし。
「午後はどうします?」
「あんたは草むしり頼むよ。絹は蔵の整理手伝って」
「え、あ、そうね」
「だったらこれ使ってくださいね」
白い手袋とナイロンの手袋を鞄から出す。
こないだ買ったのを入れたままだった。
「ありがと。それじゃそろそろ」
はいはい。
「これかぶって」
麦藁帽子だ。
この間うなじがひりひりする、と言ったからだな。
黙々と草を引く。これは雑草じゃないって言ってたな。
あ、ひなげし。
外来種の奴。こんなところにも生えてるのか。
種が落ちないようにむしって捨てる。
少し冷えて、少し暗くなってきた。
玄関からただいまの声。
律君が帰ってきたようだ。
八重子先生と先生は気づいてなさそう。
「あー疲れたー。お母さん、お土産…あれ?」
「おかえりなさい。君のお母さんは蔵で整理してるよ」
「山沢さん…なんか…凄い格好」
「野良着姿? そういえば見たことなかったっけ?」
ははっ、と笑って草引きを再開する。
「えーとおばあちゃんは」
「八重子先生も蔵だよ」
帰った挨拶してくる、と蔵へ行ったようだ。
数分後先生が夕飯の買物に行く、と慌てて出て行った。
どうやら忘れてたらしい。
お夕飯までの間もうちょっと片付けてしまいまおう。
しばし熱中してると先生がお夕飯と呼びに来た。
腰を伸ばす。
着替えて手を洗って食卓へ。
「手抜きで御免ね」
「いや、おいしいです」
「うん結構いけるよね」
「勿論いつもの飯もうまいですが」
「おかわり」
手抜きでもそれなりのものを作れるのは長年主婦をしてるからかな。
おいしくいただいてごちそうさま。
台所を片付けて一服。
「お疲れ様。はい」
チョコとお茶をいただく。
「明日はお仕事なのよね?」
「そうです。で明後日がお稽古ですよね」
「そう。連休だと曜日の感覚がわからなくなるわよね。
 律、そんなとこで寝たら風邪引くわよ」
「んー…」
「部屋で寝なさいよ、お布団敷いてあげるから」
お母さんだなぁ。
「なぁに?」
「母親してるなぁと思って」
「母親だもの」
ほほ、と笑って布団を敷きに行った。
「律君、ほら起きて。布団敷いてくれたよ?」
ダメだなー、起きない。
「あんた悪いけど布団に入れてやってくれる?」
「良いですが服どうします?」
「絹に脱がさせたら良いよ」
ほいほい。
担いで部屋につれてって布団の上に転がした。
俺が脱がそうとしたらそれはちょっとと言われて。
先生がズボンのボタンとチャックを外して脱がせてる。
なんだかなぁ…。
へんな光景に見えてしまうのは俺がそういう目で見るからだよね。
シャツも脱がせてパジャマを着せて。
孝弘さんで慣れたらしい。
ここまでやってまだ寝てる律君も凄い。
一緒に居間へ戻って少し喋って。
そろそろ、と帰宅することにした。
「気をつけてね。また明後日来て頂戴ね」
「はい、じゃまたです」
離れ難いけど仕方ない。
電車を乗り継いで帰宅し、着替えてすぐに寝た。

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h26

朝、起きると先生と目が合った。
「おはよう…あの、昨日はごめんなさい、寝ちゃったのよね?」
「おはようございます。また次のときに沢山しますからいいですよ」
くすくす笑いながら背中をなでる。
「それとも今からしましょうか」
「したいの? 困ったわね…もうそろそろ起きないと朝御飯作る時間よ?」
はっと時計を見れば確かにそんな時間。
「うーん…」
もぞもぞと尻をなでる。
「ちょっと、もう。だめよ」
「だめ?」
「ダメよ。戻りましょ、ねぇ、ダメったらダメ!」
「…しょうがないなぁ」
そのかわり、としっかりキスして先生を解放した。
ぱさっと俺の寝巻を着せてトイレへ立たせる。
俺はひとつ伸びをして布団を畳んで洗面へ。
トイレから出てきた先生が歯を磨いてる俺の背中から手を回して胸を揉んできた。
「…ゔ?」
磨き終え口を漱ぐ。
「先生、指冷たい」
「あらそう?」
「顔洗ったら交代しますから手、どけて。水かかるから」
手が引っ込んだのでざぶざぶと洗って交代。
タオルで拭いてると先生は寝巻を着たまま器用に洗っている。
よく袖濡れないなぁ。
タオルを欲しそうに手が泳いでるので先生用のタオルを渡す。
俺のタオルは固め。先生のはふわふわ。
干し方が違うらしい。
うちでも先生用のタオルだけはふわふわだ。
先生はそのまま顔の手入れをしている。
俺は手櫛で髪を整えて、トイレへ。
出てくると先生は髪を整えてる。
ふむ。
そろりと後ろから胸を揉んだ。
「これ、ダメよ。早く服着なさい」
ピシャッと腕をはたかれてしまった。
俺の胸は揉んだくせに。
ちぇっ、と思いつつ着物を纏う。
先生も着替えに戻ってきた。
着替えてるのを眺めてると引き寄せたくなる。
くすっと先生が笑ってキスしてきた。
うーん、遊ばれてる。
先生は貝ノ口に帯を締めてショールを羽織った。
「さ、戻りましょ」
「はい」
音を立てないよう玄関を開けて台所へ。
「おはよう」
「おはようございます」
「絹は?」
「ショール置いてくるっておっしゃ…、あ、きた」
「お母さんお早う」
「はい、おはよう。酒臭いねぇあんた」
「半分くらい飲まれて即寝ですよ」
「あぁ、じゃ昨日はしてないのかい」
「ええ」
「お母さん、朝からそんな話しないで頂戴よ」
先生がちょっと拗ねてるようで可愛い。
お味噌汁を作って朝御飯の支度。
律君が大あくびで台所に来た。
「おはよ~今日は何ー」
「あんたスクランブルエッグとベーコンか目玉焼きとウインナーかどっちがいい?」
俺はベーコンがいいなー、なんて思いつつ律君の返答待ち。
「んー、スクランブルエッグ」
ちっ。
お味噌汁はサツマイモ。
付け合せは温野菜とトマト。
「中野さんがねぇトマトのお味噌汁美味しいって言うんだけど」
「トマトを味噌汁ですか? なんかやですね」
「温かいトマトってピザくらいしか思いつかないなぁ」
なんていいつつ朝御飯。
「お母さん昨日も飲んでたの?」
「あらやっぱり匂うかしら」
「やっぱりもうちょっと量は控えましょうよ」
「そうねぇ、ちょっと二日酔い気味よ」
「味噌汁沢山飲んでください」
「あなたも結構飲んでたのに二日酔いにならないのねえ」
「飲める体質飲めない体質ってやつでしょうね。今度しじみ見つけたら持ってきます」
「そうね、司ちゃんもよく二日酔いって言ってるから」
「二日酔いになるほど飲まなけりゃいい話なんですがねえ」
律君が笑ってる。
「ほんと二人、仲良いよね」
「律君と司ちゃんみたいなものさ」
うん、春野菜がうまい。
アスパラとか面倒で家じゃ絶対入れないからな。
あ、りんごも入ってた。マヨネーズかけちゃったよ。
まぁいいか。
トマトも食べて完食。ごちそうさま。
先生はやっぱりまだ眠いようであくびをかみ殺してる。
「寝てきたらどうですか」
「んー…」
「そうしなさいよ」
「じゃちょっと寝てくるわ。後よろしくね」
八重子先生とお茶を頂きつつまったり。
「お昼はなに作ろうかねぇ」
「本当、主婦は大変ですね。食べてもすぐ次の献立ですもん」
「あんた何食べたい?」
「う、食後に考えられないです。…カレー?」
「……いいけどね、買物行ってきてくれるかい」
「いっつも何入れてましたっけ?」
「肉と人参と………」
と列挙するのをメモに取りお買物へ。
どうせ先生寝ちゃってるし。
俺と八重子先生じゃ会話が変な方向に進みやすいし。
指定されたものを買い揃えて帰宅。
下拵えにかかる。
座り込んでジャガイモや人参の皮を剥いてると孝弘さん。
何かないかと聞くのでさっき買ってきたお饅頭を。
10個入の箱ごと持って離れに戻っていった。
ほんとによく食うな。食後なのに。
剥き終わったころ八重子先生が台所に来て仕込み開始。
先生はまだ寝てるかな。
「あんたも眠そうだねえ。お昼出来るまで一緒に寝ておいで」
「いいんですか?」
「Hはだめだよ」
「あ、はい」
いそいそと先生の元に行く。
俺の部屋にはいなくて先生の部屋かな。
良く寝てる。
そろり、と横にもぐりこんで先生を抱きしめて寝る。
あったかいなぁ。
良い匂いだし。
酒臭さは少しあるけれど。
うつらうつらと眠りに飲み込まれ、美味しそうなにおいで目が覚める。
先生は俺の胸に顔を埋めて寝ている。
「お母さ…えっ?」
ぱっと律君が襖を開けて呼びかけてきた。
「あー…ご飯できた?」
「えーと、はい」
後ろ向いて答えてるのはあれか。律君の位置から俺の胸が見えてるんだろう。
先生をそろりと胸の上から布団に下ろす。
「うぅん…」
起きる? いや寝息。
もう少し寝かせておこうか。
帯を解いて前を合わせ直して部屋から出て台所へ。
カレー皿を配膳する。
うーまーそー♪
「絹は?」
「まだおやすみです」
「じゃ先食べようかね」
ということでいただきます。
「あれ? おばあちゃん牛肉入れたの?」
「山沢さんが買ってきたのが牛肉だったからね」
「関西は牛肉なのでつい」
幸せだなぁ。おいしい。
カレーなんて一人だと作らんから。
ちゃんと買ってきた福神漬も乗せてある。
「おばあちゃんおかわりある?」
「まだ沢山あるよ」
俺が食べ終わった頃先生が起きてきた。
「起こしてくれたらよかったのに」
と言う先生にカレーを渡す。
「あらお肉が牛肉ね。これもおいしいわ」
先生が食べ終わって洗い物を片付ける。
残りのカレーはタッパーに入れて俺が持って帰ることに。
まぁ一人分ちょいではどうにもならんもんな。
スパゲティにして夜食おう。
先生方と団欒を楽しんで夕方帰宅。
スパゲティを湯がいてカレー粉で炒め、そこにカレーを乗せたら出来上がり。
うまい。
満腹になって睡眠。
今日は先生をたっぷり抱っこできたから腕に感触が残っている。
よく眠れそうだ。おやすみなさい。
翌朝出勤して仕事。
暇だ。こりゃ明日が思いやられる。
仕事を終え食事を取って帰宅。
雨気。
今日はそう暖かくもない。
寝てしまおうか。
いや、掃除してしまわないと。
窓を開けてそこらを片付け掃除機をかける。
トイレと風呂も掃除してさっぱり。
うし、風呂入ろう。
その頃には晴れてきて風呂上りにビール。
…ちょっと寒かった。
飲み干して暖かい布団の中へもぐりこんで昼寝。
夕飯何しようかな…。
などと考える暇もなく寝入って起きたら真っ暗だ。
はらへった。
何も考える気力なくスーパーに行くとわさび焼きそば?
ためしに買って帰るか。
作って食う。
……むせそう。ヤパい。ビールをもう一本出して流し込む。
目にも来た、ヤバい。
なんとか食べ終えた頃先生から今晩のご飯写真が届く。
くっそ、うまそう。
こっちは涙目で悶絶してるのに。
何度かメールを交わして布団にもぐりこむ。
夜が更けて再度眠りに落ちる。
…ヤりたい。
明日、夜出来るから我慢だ。
おやすみなさい。
さて火曜の朝が来てやっぱり仕事は暇で。そして冷えている。
お客さんもだらだらと時間を潰すような具合。
早仕舞い、といかないのは仕方ない。
それでもいつもよりは早く終って帰宅してお稽古へ。
いつものように水屋の用意、いつものように生徒さんのお稽古。
そして俺のお稽古。
厳しい稽古にも少しは慣れ、先生も手加減をしてくれるようになった。
夕飯をいただいてすぐ、八重子先生の指示もあり、あちらの家へ。
というのも先生が俺の手を触るから。
無意識みたいだが。
入ってすぐにキスされた。
あ、もしかして生理前だったりするだろうか。この大胆さは。
さっさと脱がせて一戦する。
もっと、とかいってるからやっぱりそうかも。
俺も抱きたいしで何度か楽しんで結構ぐったりするまで抱いた。
とはいえまだ日付が変わっていない。
「少し飲みます?」
酒がまだ残っているので乾物なつまみを展開してコップ酒。
先生は俺にもたれてないと起きていられないらしくて。
口移しに飲ませてみたり。
眠くなってきたようだ。
可愛いなぁ。
布団に抱えあげて一緒に寝ることにした。
酒・つまみは明日で良い。
おやすみなさい、とかすかに聞こえる。
おやすみ、と答えて背中をなでているとすぐに寝息。
軽くキスして俺も寝た。
朝、起きてもう一戦して先生は風呂。
俺は先に帰って朝飯の支度。
食卓に並ぶ頃ちゃんとした格好で先生が戻ってきてご飯をいただく。
律君は今日も1限目からあるらしい。
暖かい日差しにのんびりしていると先生。
「さ、用意するわよ~」
え?と首を捻る。
「何してるの? あなた。お台子出して頂戴。炭は用意したから」
「お稽古?」
「そうよ。早く覚えてくれないと。円真も申請してあるのよ」
「早くないですか?」
「早くないわよ、許状きたらすぐにするわよ?」
うわ、マジか。
頑張らねば。
茶室へ行って台子を出し、水屋の用意も整える。
釜にたっぷりの湯が沸いたところで手や口を漱いでお稽古開始だ。
お昼休憩を挟んでお稽古は続く。
玄関からただいまの声。
律君帰宅か、と思った瞬間に間違えて叱責を食らった。
その声に驚いたようだ。
「お母さんどうしたの?」
律君が入ってきた。
「あぁ、あんたもお客様しなさいよ。コート脱いで手を洗ってきて」
いい加減先生ももう飲めないようである。
「え、おばあちゃんは?」
「おばあちゃんはお夕飯の支度。あんたかわり出来ないでしょ」
しばらくしてやれやれ、と言う顔をしてお客様をしてくれた。
たっぷり濃いの、は辞めて出来るだけ薄茶にして出す。
律君がほっとした顔で飲んでいる。
先生を正客に見立て挨拶。
何度か叱られてお稽古が終る。
「他の生徒さんへのお稽古とは違うんだね」
「早く覚えてくれないと困るもの」
「どうして?」
「早く先生の資格とってもらって、お母さんとかおばあちゃんがお休みでも
 お教室できないといけないでしょ」
「え、でも」
「あんたがお茶とお花と出来るお嫁さん貰ってくれると話が早いけど」
「いや、それは…まだ彼女もいないし」
後始末しながらつい笑ってしまった。
「そうだなぁ、お花のセンスいい子がいいですよね」
「そうそう。山沢さん壊滅的だわよね」
「あっ、酷いなぁ。たしかに自覚はありますけど」
ほほほ、と先生が楽しげに笑っている。
「ごはんできたわよー」
八重子先生の声がかかり、急いで片付けた。
火の元は念入りに確かめる。
さてお夕飯はなんだろう。
……山菜。
「えーと急用を思い出したので帰り…」
「食べなさい。好き嫌いしないの!」
くっ、バレた。
律君が凄く笑っているのを横目でにらみつつ、
孝弘さんが横からお箸を出してくるのを先生が叱りつつ。
食べると食えるものがいくつか出てきた。
意外。
やっぱりダメだ、食べれないと言うものは流石に二度食わそうとはされず、
孝弘さんのお皿に収まった。
角煮などもいただいてごちそうさま。
さてさてそろそろ帰らないと。
先生が何か食べ物を持たせてくれた。
寝るまでにお腹すくでしょ?と。
帰宅して開けてみたら木の芽和えで凄くうまい。
うれしいなぁ。
そして何より太らないような食い物だ。
感想をメールして風呂に入り寝る。
おやすみなさい。
さて、今日も仕事を適当にこなしてお稽古へ。
台所に魚をいくつか入れて水屋の支度。
待っていると生徒さんより先に先生が来た。
「まだ早いですよ」
「うん、あのね。今週の土日なんだけど…」
所用で先生は居られないらしい。
「お稽古は八重子先生ですか」
「お休みにしようと思ってるのよ」
「おやどうしてですか?」
「どうせ炉灰も上げなきゃいけないし。
 でね、あなたは土日来てお母さんを手伝って欲しいのよ」
「ああ、はい、いいですよ」
「あなた先生になるならどうせやらなきゃいけない事だし今からね。覚えて頂戴」
「お稽古ですね?」
そう、と先生が笑ってる。
まぁ確かに覚えておくべきことか。
生徒さんが来てお稽古開始。
いつもの生徒さんは楽だ、縁談持ってこないからなー。
本当に名目だけ開さんと結婚してもいいかもしれん。
なんて思うくらいくどい人もいる。
お稽古が終わり夕飯。
鱧の湯引きに甘鯛の酒蒸し、天然鯛のお造り。
なんとなく魚尽くしをしたい気になって持ってきた。
お稽古の後にするのは正直疲れるんだけど、先生が嬉しそうだから。
「冬と春と夏だねえ」
「そうですねぇ」
疲れて言葉少なになりつつ俺は野菜炒めを食べる。
八重子先生の炊いた蕪も美味しい。
ご飯を食べた後、帰る用意。
玄関まで見送ってくれた先生に連れ帰りたい、と手を引いてボソッと言ったが…。
明日も教室はあるから、と却下された。
残念だ。
頭をくしゃりとなでられてあきらめて手を離し、帰る。
家に帰宅してすぐに寝た。
仕事頑張る気になれないなぁ。
今週仕事頑張っても先生に会えない訳で。
なんてぐだぐだしつつの金曜日。
手を抜いて帰宅し転寝してたら家に先生が来た。
朝のお稽古終わり次第すぐにこちらへ来たらしい。
明日の御用事はうちからの方が行き易いとか。
なるほ。
中継地点ね。
「食事は取ってきてます?」
「まだなの。あなたは?」
「俺もまだって言えばまだですね。何食いたいですか」
あくび一つして着替えた。
「喫茶店のピラフ。ダメかしら」
「そんなのでいいんですか」
髪を撫で付けて一緒に近所の喫茶店へ。
俺はカレー。
「この間食べたのにまたなの?」
「オムライスかピラフかカレーだったらカレーですよ」
「どうして?」
「カレー好きなんですよね」
「ハンバーグも好きよね。お子様?」
ふふっと笑ってそんなことを言う。
「どうせお子様ですよー」
「お子様ランチとか今度頼んであげようかしら。旗がついてるようなの」
「それは流石にやめてください」
くすくすと俺をからかいつつ食べてる。
食べ終わって先生はレモンソーダを頼み俺は紅茶を。
俺のところにレモンソーダが運ばれた。
カレーに紅茶じゃないんだろうな。
先生にレモンソーダを滑らせてすぐに紅茶が来た。
ここの紅茶結構うまいんだよね。
先生も飲み終わったので支払って帰宅する。
天気が良いからゆっくり歩いて。
手が触れる。
「……今日乾燥してますね、空気」
「そうねえ」
先生の手がかさついてる。家帰ったら化粧水とワセリン塗るかな。
のんびりと帰ってきて手を洗う。
先生が手を洗った後俺の化粧水をたっぷり先生の手になじませてみた。
凄く吸うんだけど。どれだけ乾いてたんだろう。
ついでに手をマッサージ。
こんなものかなー。
さっきよりはしっとりとした手になった。
お礼はキス。
「カレーの味がするわね」
「ああ、歯を磨いてきます」
でないとあそこ舐めたらひりひりしそうだしな。
きっちり漱いで戻る。
先生がお湯を沸かしていた。
「あーお茶切らしてますよ?」
「えっそうなの?」
「お抹茶なら冷凍庫にありますが。それともコーヒーがいい?」
「お茶碗どこかしら」
「薄ですか?」
「濃、あなたも飲む?」
「じゃこれで」
黒楽を出して水につける。
その間に冷蔵庫から上等の濃茶を出した。
先生が点てて飲むんだったらやっぱり上等がいい。
茶筌も通して茶碗も温めて缶から直接投入だ。
うちの台所で先生が点てるのはなんとも言えず…似合わない。
やっぱり先生は茶室で点ててるか台所で料理してるのが合う気がする。
お茶をいただいてお茶碗を漱いで乾かす。
先に先生がお座布に腰を落ち着けた。
うん、やっぱりこの方がいい。
後ろから抱きつく。
「どうしたの?」
「ん、暫くこうしてて」
「いいわよ」
しばらくしてもぞりと手を動かした。
つい胸を揉んでしまう。
「したくなったの?」
「うん」
先生をお座布から俺の膝の上に移動させた。
「脱いで」
しゅるり、と帯を解いて行く。
「ね、離して。脱ぎにくいわ」
そう言われ開放。
脱いだと思ったら着物を持って和室へ行き、浴衣を羽織って戻ってきた。
俺の膝へくるかと思ったら寝室へ行こうとする。
「どこ行くんですか」
「ベッドに決まってるでしょ。そんなとこいやよ」
「じゃいいや。やらない」
「何拗ねてるのよ」
「拗ねてないよ。明日泊まりなんだから痕残せないの思い出しただけ」
「あら。そんな理由? 違うでしょ?」
「違うけど違わない」
先生が困った顔でこっちを見てる。
「じゃ膝枕…してあげるわ。それでどう?」
あ、それはいいな。
ベッドへ行って先生の膝枕。
転寝途中で起こされたこともあり、先生の膝にいるうちに寝てしまった。
暗くなった頃、起きたら俺の胸を枕に先生が寝てた。
時計を見ると6時。飯を食わなきゃな。腹減った。
ほんと言うと飯より抱きたいんだが。
明日は温泉らしいから本当に痕は残せない。
してはならないといわれるとしたくなる。
そうこうしてるうちに先生も起きた。
寝ぼけ眼でこちらを見るのが可愛くてついキスをしてしまう。
とまらなくなった。
噛まないよう、吸わないよう、強く抑えないように気をつけてむさぼる。
寝起きの先生を抱くと色々混乱してるのがよくわかる。
俺じゃなく孝弘さんの名前が出てくることも有る。
ちゃんと起きてる時はそういうの無いんだけどなぁ。
先生にとっての一番は孝弘さんだから仕方ないが。
俺の性欲が収まった頃、先生は息切れしていた。
あー…腹減った。
すし出前してもらおう、うん。
部屋を出て鮨屋に電話して頼んだ。
それから浴衣を纏い先生のそばへ戻る。
「先生、すし頼みましたけど食いますか」
返事は出来ないようで、軽くうなづいてる。
咳。
背中をなでて落ち着かせた。
汗だくだ。
飯食ったら風呂に入ろうかな。
それとももう一度抱いてからにしようか。
考えてると先生の手が俺の懐に。
乳首をつねる。
腫れるからやめろというのに。
「痕つけますよ」
そういうと離してくれた。
先生にも浴衣を着せた頃すしが来た。
取りに出て戻る。
おいで、と手招いたら首を振るのでどうしたのかと思ったら立てなかったらしい。
先にお手水、と言うのでトイレに抱きかかえて行ってそれからお座布の上へ。
後ろから抱えてもたれさせ、食べさせる。
おいしそうに食べてるのを見てると俺の腹がなった。
先生が笑って俺の口に胡瓜巻を入れてくれる。
「いいから」
そういって先に食べさせて先生をベッドに戻した。
それから自分の分を食べる。
ご馳走様をして桶を洗い、表に出して先生のそばへ行く。
「久しぶりだな、あなたが立てないって言うなんて」
「あなたがしたからでしょ、もう」
「はは、おいしそうだったからね、ついつい」
喋ってると先生は段々眠くなってきたようだ。
「もう寝ましょうか」
「うん」
「ね、明日どこ行くんでしたっけ」
「白子温泉よ」
「九十九里浜ですか、いいですねえ」
「美肌の湯らしいわよ~」
先生の肌がますます綺麗になるのか、そりゃいいなぁ。
もぞもぞと先生の手が俺の胸をまさぐる。
何か触ってると落ち着くらしい。
背中をなでているうちに先生の寝息。
ふと思い出したのだが先生ってそろそろ生理じゃなかっただろうか。
温泉大丈夫なのかなぁ。
入れなかったら可哀想だよな。
先生に聞こうにももう寝てしまっているから旅行から帰ってからだな。
次に会えるのは火曜日か。
そう思えば寝るのが勿体無い気がする。
けれど明日は仕事だからと仕方なく寝た。
翌朝寝ている先生を置いて出る辛さ。
帰ったら居ないんだよなー…。
くちづけを落とし、渋々出勤する。
ぱたぱたと仕事をこなす間は忘れていられるが。
手が空くと今頃先生は、と考えてしまう。
それでも女友達と、と言うからいいか。
まさか俺以外とそういうことはしないだろうし。
仕事が終ってお稽古場へ移動。
いつもよりは少し遅めだ。
ついたら丁度八重子先生は食事を終えたところで一緒にお茶をいただいた。
今日はお稽古なしだから気が楽だ。
炉の灰を上げて炉壇を抜ききれいにした後は畳替え。
なるほどこれは八重子先生だけでは大変かな。
それから風炉に灰を入れて八重子先生がササッと灰を形作って行かれる。
手早い。綺麗。
俺がやるとどうにも時間はかかるし形は悪いし。
やっぱり長年のお稽古かな。
「灰の教室行ったら?」
そう仰るが中々スケジュールが。
「ま、普段うちのお稽古でしてもいいけどねえ、他の生徒さんがお休みのときとか」
「それいいですね、お願いします」
丸半日が風炉への支度で潰れた。
汗を沢山かいたので八重子先生と風呂。
気持ちいいなー。
先生も今頃は温泉を楽しんでいるのかな。
新しい傷が増えてるが最近は八重子先生もあまり言わない。
たまに手当てをしてくれることはある。
背中は見えないので化膿しかけててもわからない。
だから気づいたときに抗生物質を塗ってくれたりする。
さて、夕飯を作って食べてゆったりした夜。
「あんた今日絹居ないけど一人で寝るのかい?」
「律君と寝ましょうか」
「えっいやそれは駄目だって!」
律君が慌ててて面白い。
「冗談だよ。たまには一人で寝ましょうか」
「私と寝るかい?」
う、なんとなく怖い気がする。
でも最近はないし。
「じゃそのように」
孝弘さんがにやっと笑った。
しばらくして戸締りし、寝ることに。
八重子先生の部屋にもう一組布団を敷く。
別の布団なら問題あるまい。
布団に入ってすぐ。
隣で八重子先生の寝息が聞こえた。
疲れたから寝てしまったようだ。
ふっと笑えてそのまま寝た。
翌朝目が覚めて八重子先生と朝食を作る。
何事も無く先生の居ない日曜日。
ふとついた溜息に八重子先生が頭をなでてくださる。
お昼過ぎ、家路につくことにした。
帰宅してトイレに入ればなるほど今日からのようで、道理でだるい。
転寝しようと思っていると電話。
先生からだ。どうした。
先生もなっちゃってだるくて直帰はしんどいからうちに寄りたいらしい。
珍しく同じ時期になるとはね。
うちにもう帰ってるというとちょっと驚いてる。
迎えに行きましょうか?と聞くとそうして欲しいとのこと。
現在ランチ前らしい。
待ってるというので車を走らせる。いいドライブ日和だ。
駅についてメールを入れた。
現在地を教えてもらって迎えに行く。
先生がご友人方と話しこんでるのを見ると楽しそうだ。
「お迎えに参りました」
そう声を掛けると先生がご友人方に迎えが来たから帰るわ、と仰る。
「あら彼氏?」
「絹ちゃんやるわねー」
「お茶の内弟子よ。ここから近いからお願いしたの」
「そんな便利使いしちゃっていいの?」
「通いのお弟子さんに使いっ走りさせるって先生もいらっしゃるわよ」
「先生、車で待ってます。先に荷物積みますから」
「じゃこれお願いね」
はい、と答えてボストンバッグを預かる。
暫くして先生が皆さんに別れを言ってこちらへ来られた。
後部座席に、と言ったけど助手席がいいらしい。
しっかりシートベルトをさせて運転席に乗り込む。
見えなくなったころ、一つ息を落とされて。
やっぱり少しは緊張してたらしい。
「寝てるとき、他の人に抱きついたりしませんでした?」
「え?」
「よく俺の胸弄ってたりするでしょう。寝てるとき」
「あぁ。大丈夫よ、ベッドだったから」
ほっとしてるのを見て笑われた。
「そんなこと心配してたの?」
信号で止まったときに撫でられてしまった。
「あんまりそのー近寄られると抱きたくなるんですが」
「あら」
「ほら、そこのホテルとか。入りたくなりますから」
「あらあら、ダメよ」
「アレだから?」
「それにお昼間よ。人に見られても困るわ…」
「まぁね、わかってますけど。あ、今度SMホテル連れて行きたいな」
「SMホテル?」
「普通のラブホとは違って面白いですよ。誰かに見られたら社会見学ってことで」
「見られるの前提なの?」
「前提で言い訳を作っとくとばれたときに慌てなくていいからね」
「…私にも何か嘘ついてそうねえ」
「今のところはありません」
「あらこれからつく予定あるの?」
「ないですよ」
あちらもこちらも生理中だからどうしても絡み絡まれになる。
うちについて先生がトイレに行く。
手を洗ってると背中に重みと温かみ。
「眠い?」
「うん」
「おうち、電話するから少し寝ましょうか」
「そうしてくれる?」
「ええ。着替えてらっしゃい」
背中が軽くなって温かみが離れていく。
追いたくなるが電話が先。
八重子先生は2コールで出てくれた。
事情をお話しする。
明日はお稽古もないから泊まりたいというなら泊めても良いと仰る。
ありがたく受けて、でも実際どうするかは先生次第かな。
電話を切って俺も寝巻に着替えトイレへ。
ベッドに先生ともぐりこむ。
温かくて重い先生の身体が心地よい。
俺も先生もすぐ眠りに引き込まれて行く。
ふと目がさめると美味しそうな匂い。
先に先生が起きたようだ。
時計を見れば七時半。
もしかしたらもっと早く起きてて焦れて自分のだけ作って食ってる?
のっそりと部屋から出る。まぶしい。
「うるさかったかしら」
「いや…俺の分もあるんですか」
「あるわよ。起きなかったら冷蔵庫入れようと思ってたけど。今食べる?」
「あなたは食べたんですか」
「うん、さっきご馳走さましたところよ」
「俺、起きませんでした?」
くすくす笑ってる。
「しがみついてるの剥がしたのに起きなかったわよ、起きててわざとか疑ったわ~」
ありゃ。
座るように言われて座ってるとご飯とおかずが出てきた。お味噌汁も。
「帰ろうかしらと思ったんだけどお腹すいちゃったのよね」
「あ。八重子先生が明日お稽古ないから泊まってもいいって仰ってましたよ」
「あら、どうしよう…」
「お好きなように」
飯がうまい。
ちょっと迷っているようだ。
「泊まりますか?」
「そうするわ。でも…」
「しませんよ」
ほっとした顔をする。
「されたいって言うなら別ですが」
ニヤッと笑うと顔を赤くしてる。
「もうっ。そんなわけないじゃない!」
「おやそうですか」
「すぐからかうんだから」
きゅっと鼻をつままれた。
じゃれあいもそれなりに楽しい。
はは、と笑ってごちそうさまをする。
食器を洗ってお片付け。
先生はテレビを見はじめた。
「ねぇ、コーヒー入れて頂戴」
「こんな時間から飲んだら眠れなくなりますよ」
「だってお茶っ葉切らしてるんでしょ」
「買ってきます」
「いいわよ」
「俺も飲みたいから」
「そう? どこ行くの?」
「とりあえずコンビニへ行こうかと」
「じゃプリンもお願い」
「はい」
着替えてちょっと買物へ。
緑茶緑茶、と。
あった。
あんまり見ないメーカーだ。おいしいのかなぁ。
静岡茶らしい。
プリンと共に買って帰る。
先生にお渡しすると既にお湯を沸かしていたようで急須にとって入れている。
着替えて戻れば既に湯飲みに。
プリンは冷凍庫に入れたらしい。凍らせたのを食べるのも好きなようだ。
少しぬるくなったのを見計らい飲む。
あ、それなりにうまい。
ほぅっ、と落ち着いていると先生がもたれかかってくる。
ゆったりとした時間が流れる。
「あなた明日お仕事?」
「ええ」
「じゃ、そろそろ寝る?」
「ドラマ終ってからでもいいですよ」
「先に寝てもいいわよ?」
「なんであなたがいるのに一人寝ですか」
「あらあら」
くすくす笑ってる。
後30分くらいでドラマは終るらしい。
俺の手を触りつつ集中して見ている。
しばらくして番組が終った。
「お待たせ。じゃ寝ましょ」
「はい」
歯を磨いたり化粧を落としたりトイレへ行ったり。
先生と布団にもぐる。
寒いようで俺に冷えた手先や足先をつけてきた。
苦笑してしまってあった毛布を足した。
夜半には多分暑くなるはず。
その頃には俺が居なくなるからきっと丁度いいだろう。
背中をなでつつ寝かしつける。
暫くして寝息に変わった。
俺もそのまま寝て夜中起床する。
出勤の用意をして良く寝ている先生の唇に口付けを落として出ていった。
仕事は休み明けの休み前と言うこともあり結構に荷物も動き忙しく終った。
やれやれ、と帰宅すると先生がお昼を作ってくれている。
「お帰りなさい、お仕事お疲れ様」
「ただいま帰りました。
 美味しそうな匂いですね。だるいなら作らなくてもよかったんですよ?」
「あら、そんなに外食ばかりダメよ。もう出来てるから食べるでしょ」
部屋着に着替えて戻る。
先生の手を取ると冷えていて顔色も少し悪い。
「無理しちゃダメですよ。外食でも出前でもあなたの体調が悪くなるよりいいです」
座ってて、と食卓の前に座らせて盛り付けや配膳をした。
これだけでもしないとね。
しっかり食べたあと先生を脱がせ寝巻を着せて布団に放り込む。
食器を片付けて俺も布団へ。
「お昼間から寝るなんて…」
「具合が悪いんだからいいんですよ」
「でも」
「ちゃんと俺に飯作ってくれて。ありがとう」
だきしめるとほんのりと頬が赤らむ。
冷えた身体を俺の体温で温めるように抱き締めて撫でる。
上半身はそれなりだが足がまだ冷えてるかな。
足元にもぐりこんで懐に足を入れた。
「あったかいわ…」
そのうちに寝息が聞こえる。
ちょっと抱きたくなったけど具合も悪いしなぁ、仕方ない。
一緒に寝るとするか。
夕方になったらおうちまで送ろう。
足を懐から出して、先生の横に戻って寝た。
薄暗くなった頃目が覚めて先生を見るがまだ良く寝ている。
顔色は少し良い。
眺めているとうっすらと目を開けた。
もぞもぞと先生の手が俺の胸を這いまわる。
寝ぼけてるなぁ。
俺の乳首を弄ってるうちに目が覚めてきたようだ。
軽くキスして起きる。
身づくろいを整えてコーヒーを淹れた。
「ねぇ私にも頂戴」
「トイレいってらっしゃい。その間に淹れますから」
「うん」
先生はどれが好みだっただろうか。
少し酸味のあるコーヒーにしてみた。
お座布に座った先生に渡す。
「おいし…」
「飲み終わったら着替えて。おうちまで送りますよ」
「あら。明日までいるつもりしてるのに」
「いいんですか?」
「だってあなたも顔色悪いもの」
おや気づかなかった。
「それにお夕飯の分も買物しちゃったし」
「何作るんですか?」
「あなたの好きな味噌炒めよ」
嬉しくなってキスしてしまった勢いで押し倒した。
「ちょっと、もう。ダメよ」
ついつい胸を揉んでしまって叱られた。
胸元を直して先生は起き上がり、台所へ立つ。
もう作ってくれるようだ。
昼前に下拵えは済んでいたらしく、手早く炒めている。
作り起きの副菜を出してご飯をよそえば夕飯の完成。
先生は食欲は沸かないらしい。
だるいそうだ。
「前からそうでした?」
「ううん、最近。更年期かしら」
「まだ早いですよ。一応婦人科行ってみたらどうでしょう。筋腫とかかも」
「痛くはないのよ」
「じゃ貧血かなぁ…疲れてるとか」
「疲れてるというのはあるかもしれないわねぇ。あなたとしすぎて」
「…そんなに疲れますか」
「疲れるわよ」
「来月生理前の週はしないで寝ましょうか」
「それで持つの?」
「難しいけど…具合の悪いあなたを見ているよりは俺が我慢すべきでしょ」
「終った後が怖いわねぇ」
ころころと笑っている。
お風呂は明日はいることにして早々に布団にもぐることにした。
「今日一日ずっと寝てる気がするわ」
「ちゃんと飯作ってくれてたじゃないですか。お買物も行って」
「明日はどうしようかしら」
「体調よければ朝はモーニング食べに行って散歩してもいいですね」
「あら、いいわね、お散歩」
布団の中でおしゃべりしているうちに寝て、朝6時過ぎ。
「流石に寝足りたわ~」
「ですねぇ」
「あ、お風呂借りるわね」
「どうぞ」
先生が出た後俺も入ってすっきり。
風呂から出ると先生が洗面所でドライヤーを使っている。
「体調どうですか」
「いいわよ。って何か着なさいよ」
「じゃモーニングいけそう?」
「行くから早く着なさい」
「はーい」
身支度を整えていると先生に頭を拭かれた。
「ドライヤー空いたわよ」
「別にいいんだけどな」
「風邪引いたら困るわ、ほら」
はいはい、とドライヤーを使って乾かす。
先生はその間に化粧を軽くして紫外線対策をしている。
「あなたも対策しないとしみになるわよ」
「うーん、面倒で」
「ほんと面倒くさがりよね。いいわ、行きましょ」
近所の喫茶店のモーニングセットを食べる。
俺はちょっと足りないから更にトーストを頼んで。
ここは色々選べる。トーストorピザトーストorフレンチトースト。
サラダにオムレツ、ベーコンorソーセージとスープ。
そしてコーヒーか紅茶。
先生はフレンチトーストを頼んでいる。
オムレツがちょっと多く感じたのか半分食べてと仰って俺の胃袋に。
ご馳走様をしてお散歩に。
「少し曇ってるわねえ」
「これから雨かな。早めにお帰ししたほうがいいかもしれませんね」
「そうねえ、雨の中運転するのって大変そうだもの」
「お昼前にしましょうか」
「そうね」
流石に先生も帰りたくないとはごねないな。
うちへ戻って先生は帰る用意をしている。
と言っても洗濯物を持って帰るだけらしいが。
「じゃそろそろ帰るわ」
「はい。荷物積みましょう」
「ん、お願いね」
トランクにボストンと洗濯物をつんで先生のお宅へ。
「ただいまぁ」
「あら、お帰り」
「あーお母さん。お帰りなさい」
「こんにちは」
「あぁこんにちは。どうしたの」
「荷物ありますから電車より車が楽なので送ってきました」
「洗濯するから洗濯籠のところ置いてきてくれる?」
「はい」
「あんた調子はどうなの」
「まーまーってとこですねー。だから今日は帰りますよ」
「あら泊まってかないの?」
「明日仕事ですから」
「あらあら、そうだったのね」
「そうそう、あんたらお昼ご飯は食べたの?」
「いやまだです」
「んじゃ用意するよ。山沢さんも食べて行きなさい」
「ありがたく」
お昼をいただいて一服して帰宅した。
さて明日は暇なのか忙しいのか…。
とりあえず早めに寝よう。
朝方雨が落ちてきて、やっぱり雨降りかと嫌気が差す。
雨だとどうしても客足が鈍る。
客の方でも明日買えばいいなんて雰囲気だ。
暇なまま仕事が終わり雨の中帰宅した。
明日…もできない。
明後日も出来ない。
つまらないなぁ。
逢えるだけマシなんだろうけれど。
あれ? 明日お稽古あるのかな。
もしかして、ない?
となると土曜まで会えないのか。
いや土曜も休みだからお稽古はないはず。
来週火曜日も、ない。
会うの、来週の木曜?
出来るの、来週の土曜?
うわ、きついな。
頭を抱えていたら先生から電話がかかってきた。
先生もこの事実に気づいたようで、どうする?と仰る。
どうするってどうしよう。
「お母さんがね、金曜日お稽古にいらっしゃいって。風炉のお稽古するから」
「あ、来週の木曜までお稽古ないかと思って今」
「大丈夫よ」
「その時にしていいですか? ダメかな」
暫く無言。
「それはその時に。じゃ、またね」
すぐに電話を切られてしまった。
今のはどっちだ。呆れられたか? それても照れくさかったのか。
まあとりあえず明日さえ過ごせば明後日には会える。
だったら俺が今やるべきことは…復習か。
イメトレしておこう。
先に昼飯を食ってきっちりイメトレして、夜になった。
さてと。寝るか。
木曜も何のことはない、暇だ。
なんせ明日あるからなぁ。
ぼんやりと仕事をしてぼんやりと帰る。
うーん、張りがない。
急に暇になるとすることが…あ、着物縫いかけて放置していたっけ。
縫うことに集中していると、ふと気づけば薄暗い。
もう夕方か。
伸びをして夕飯を取りに出る。
親子丼でも食おう。
そう思ったところで気づく。雨だ。
ピザ、取るか。
Sサイズとサラダと何かサイドメニューかな。
……わびしい。
先生から美味しそうな夕飯のメールが来る。
いいなぁ。
うらやましい。
そうメールしたら明日お昼を食べずに来るようにメールがあった。
一緒に食べましょ、と。嬉しくなってしまった。
よし、明日仕事頑張ろう。
そんで先生方とお昼を食べてお稽古しよう。
そのためにも早く寝よう。
おやすみなさい。

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h25

一服をしてから掃除。平日だからね、先生も主婦業をしないといけない。
俺も指示を貰いつつお手伝い。
廊下を拭いたり、庭の雑草を取ったり。
3時になっておやつをいただいたらお買物。
トイレットペーパーなどかさばるものも買って、焼酎も買う。
司ちゃん用のを切らしてたらしい。
「ほんと助かるわぁ…律もほら、大学あるから遅いでしょ」
「お夕飯の買物には間に合いませんよね」
「あなた力持ちだし」
「ま、仕事が仕事ですからね」
帰宅して先生の決めたメニューに従って下拵え。
今日はメイン肉じゃが。
と言うことでジャガイモの皮を剥く。
…肉じゃがなのに豚肉なのはいまだに違和感があるが仕方ない。
後は色々副菜を用意してお夕飯をいただいた。
食後お茶をいただいたら日のあるうちに帰宅の途へ。
ま、明日も会えるから。
しかしお稽古、明日からは真の行か。大変そうだなぁ。
頑張るしかないな。
帰宅して、布団に入って寝る。
朝、起床して出勤し仕事をして帰宅。
すぐに先生のお宅へお稽古に。
「いらっしゃい。今日からあなた真の行よ」
「はい、お願いします。他の方はどうなさいます?」
「平点前にしようと思ってるの。今月で炉も終りだもの」
「じゃ用意してきます」
教えてもらったように真の台子を組み立てて端に置いて、あとは普段の用意を。
生徒さんが来られてお稽古スタート。
平点前のお稽古に皆さん慌てておられる。
意外と普段やらない上に少し上の点前をすると混ざるからわからなくも無い。
先生はそれでも優しく指摘されたりしていて、焦れた風を見せない。
人に教えるにはこうでなきゃいけないのか…俺できるかなぁ。
今日は俺がいてもいなくても大して意味はないな。
ゆったりとお稽古時間が過ぎて、ずっと次客。
皆さんが帰られるころ、着替えて口を清めるよう言われた。
昨日教えていただいた真の行のお稽古だ。
最初だからと先生もやさしく次はこう、それをこうしてと教えてくださる。
2回やってみて覚えられそうにない、と言えば半年はかかるわね、と仰った。
半年で覚えられるかなぁ。
「月曜日もいらっしゃいよ、見てあげるわよ」
「うーん来たいんですが流石に時間が…」
「そうよねえ…遠いものね」
「こういうときは普通の仕事がうらやましいとは思いますけど。
 だけど普通の時間の仕事じゃ昼からここに、なんて真似できませんからねー」
片付けつつ、おしゃべりを楽しむ。
普通のサラリーマンならやっと仕事が終る時間だろう。残業なしで。
「時間の都合つくときにはいらっしゃい」
「はい」
「さ、もうそろそろお夕飯できたかしらね」
と台所へ。
今日はメインは炒め物。と、カツだ。
「あれ? 揚げ鍋ありましたっけ?」
「ああ、揚げ物は買ってくるんだよ。危ないからねぇ」
「確かに天麩羅火災多いですしね」
配膳して夕飯をいただいて、帰宅。
職場が先生のお宅に近ければなぁ、って無理だけど。
先生も職場が家だからこればかりはどうにもならない。
いつか定年退職したら先生の近くのあの家に住みたいな。
そう思って就寝。
翌朝出勤すると結構に忙しい。
桜終ったんじゃないのかよ。
ばたばたと仕事をして、少し終るのが遅くなった。
だけど本日はお稽古はないからいい。
帰宅後いい天気なので散歩することにした。
ゆったりと散歩を終え、掃除し洗濯物を取り入れる。
いい感じにパリッとした。
やっぱり乾燥機にかけるより日干しが良い。
面倒くさいから滅多にしないけれど。
お昼寝をして、夕飯。何食おうかなー…。
あ、春キャベツとじゃこと桜海老のパスタが食べたい。
どこで見たっけ。
思い出して調べる。夜もやってた。
よし行こう。
軽めの夕食を食べて帰宅。
もうちょっとにんにく利かせて家でつくってもいいな。
お稽古の前は絶対出来ないけれど。
先生から夕飯のメール。
じゃこと春キャベツの卵チャーハンだった。
俺の食ったものをメールするとすぐに返事が返ってきた。
何たる同調か。
明日は蛍烏賊を持っていこうかな。時期だから。
酢味噌だから味噌を買っていかねば。
とメールに買いたら酢もないから買ってきて欲しいそうだ。
千鳥酢にしようかな。
チロリアンではない。
いやチロリアン買って行ってもいいけどさ。
そろそろあくびも出てきて寝る時間だ。
おやすみなさいのメールをしてベッドにもぐった。
寝酒にウイスキーを煽っておやすみなさい。
翌朝、腹が減って目が覚めた。
苦笑して出勤、朝飯を食いつつ仕事をこなして仕事終了。
面白い土産とともに先生のお宅へ。
「こんにちは」
「あら、なぁに沢山」
「天ハマチと蛍烏賊、それとこれ!」
とロマネスコを見せたら先生が後ずさりした。
「なんなのこれ…」
「それと酢と味噌とおやつ。それはロマネスコといいまして。
 ブロッコリーとカリフラワーの合の子みたいなもんです。両方の食感と味ですよ」
「そ、そうなの?」
「使い方もブロッコリーと同じで湯がいてもいいですし炒めてもいいですし」
「……どうしようかしら」
「とりあえずお台所置いてきますね」
台所にアレやこれやを仕舞って手を洗って水屋の用意を整える。
お台子も出してと。
生徒さん達が来てお稽古開始。
土曜の生徒さんは若い方でも割りと気がゆっくりされてる方が多い。
それはまあ、明日が休みの日だからと言う気楽さからくるのかもしれないけれど。
点前中にお喋りする方がいらっしゃる。
まぁ所詮趣味だから仕方ないかな。
先生も優しくお相手されてることだし。
「優しい先生が教えてくれるお教室」が人気の秘訣かな。
にこにことみなさんを見送られて、さて俺のお稽古。
…既に厳しいじゃないか。
「一昨日言ったでしょ。考えて」
しばし悩んでこうか、とやってみると正解だった。
ほっとしつつ流れだけは教えていただけて進んで行く。
だが詰まっても中々教えてはいただけない。
上級に進んだ人は皆こうなのだろうか。
「お稽古に真剣さが足りないから忘れるのよ」
それはその通りです…。
とりあえず最後まで通したら、もう一度、と言われた。
茶碗を仕込みなおして建水を清めて再度点前に立つ。
「さっき言ったのができてないわよ」
ぴしゃり、と叱られた。
慌ててやり直す。
「落ち着いてもう一度やりなさい」
「はい」
きちり、きちりと真剣にお稽古をして、やっと水屋へ下がった。
「今日はこれくらいで」
と先生から声が掛かり、ほっとした。
やれやれ、と片付けに入る。
頭を撫でられた。突然。
「お稽古厳しくて驚いちゃったかしら」
「あ、はい」
「早く覚えて欲しいの。だから暫く厳しいと思うわよ。ついて来れる?」
「頑張ります」
「普段はそんなに畏まらなくていいわよ。これのお稽古のときだけ」
ほっとしてしまった。
普段のお稽古もこの調子だと流石にきつい。
台子を仕舞って釜なども片付けて着替えてお台所へ。
「ああ、終った? じゃお刺身してくれる?」
「はいはい」
「酢味噌もよろしく」
「はい」
はまちをさばいてお造りにして、わさびを練る。
八重子先生が微妙な顔で見ているのはロマネスコだな。湯がいたらしい。
酢味噌を作って味見をしてもらう。
「あら? あまりツンとしないのね」
「酢が違いますからね。もう少し甘いほうがお好きですか?」
「んー、こんなものだと思うわよ」
「じゃそろそろ孝弘さんたちお呼びしましょうか」
「そうしてくれる?」
はい、と答えて律君を呼びに行き、孝弘さんを離れから拾ってくる。
「うわ、なにこれ」
どん引きの律君に先生が苦笑する。
「山沢さんのお土産よ」
「なんでフラクタル? うーん…」
「…おいしいのかしらねえ」
「ま、食ってみて下さい」
八重子先生が好奇心に負け手を伸ばした。
結構新しいもの好きだよね。
俺は普通にマヨネーズでぱくつく。見た目が駄目なだけで美味しいから。
「なんだカリフラワーじゃないの」
「でしょう?」
律君が動揺のあまり蛍烏賊にマヨネーズつけた。
美味しいような気もしなくもない。
アタリメにマヨネーズつけるし。
一度食べたら別に変なものではないとわかったようで律君も食べだした。
孝弘さんは最初から何も気にしてない。
ハマチは今日は天然が安かったので、と言うと先生は嬉しそうだ。
俺の為にちゃんと肉のたたきを買ってきてくれてあって美味しくいただく。
満腹。ご馳走様。
ロマネスコも全部売り切れた。
よしよし。
洗い物を片付けて戻ると八重子先生はお風呂に。
律君は勉強かな。レポートだそうだ。
「ね、先生。あっちの家行きませんか」
「えっ…」
「だって多分今晩は律君夜更かしですよ」
「あ、そう、そ。そうよね。でもお母さんに言うの恥ずかしいわ…」
「風呂入ったら先行ってますか? 俺から言います」
「そうしてくれる?」
頬染めてて可愛い。
はい、とチロリアンを渡して二人で食べる。
「あら、おいしいわね」
「千鳥酢を見た瞬間にチロリアンが浮かんだものですから買ってきちゃいました」
「どうして?」
「チロリアンは千鳥屋」
「あら、やだ。ほんとね」
などとなごんでいると八重子先生が風呂から出てきた。
代わりに先生が風呂に立つ。
八重子先生にも差し上げてお願いした。
「あー…いいけどね。ちゃんと明日のうちに帰してやっとくれよ」
「いや築地のじゃなくてですね、近くの部屋のほうです」
「それならいいよ。じゃあんたも一緒に入ってきたらどうだい」
「来る前に入ってますからいいですよ」
「そうかい?」
お茶いれて、ゆったりとした時間。
暫く喋ってたら先生が風呂から上がってきたので支度してつれて出る。
冬に比べれば暖かいから湯冷めの心配がそんなにない。
先生はちょっと恥ずかしそうだ。
鍵を開けて暖房をつける。
火の気がないから中は冷え込んでいた。
ストーブの前で先生を膝に乗せて座り込み、キスした。
暫くキスしてると暑くなってきて、先生もそう思ったようで膝から降りた。
ベッドを見るとオレンジのシーツに変わっている。
「また変えたんですか?」
「だって寒色はやっぱり寒々しいもの。夏はいいけど」
「抱かれるときは暗くするからわからないでしょうに…それとも電気つけてしたい?」
「いやよ…」
「そういわれるとしたくなるな。脱いで」
「やだわ」
「そのまま抱かれたい?」
うっ、という顔をしてあきらめて帯を解いた。
貝ノ口に〆ていた半幅をほどいて、しゅるり、しゅっ、と紐を抜いていく。
鎖骨が見えて、そっと指でなぞるとびくっとして可愛い。
「ほら、手が止まってる」
「だって…」
「なに? 早くしないとそのまま抱いちゃうよ?」
「やだ…」
顎に手を当ててキス。
そのまま抱かれると思ったようで焦って脱ごうとしている。
くくっと笑ってしまった。
脱ぎ終えて、裸身をさらす。
恥ずかしげで美しい。
俺が触れる指、一手一手に反応が返る。
「ベッド…お願い…床じゃいや」
はいはい。
ベッドに手を引いて連れて行くと自分で布団めくって入った。
照明を半分くらいに暗くして俺も入る。
「あ、カーテン」
「開けたままでいい」
「でも…」
「月、綺麗ですよ。ほら」
「本当…あっ」
乳首を舐めつつ股間をまさぐる。
暫く弄ってると喘ぎ声が結構出ていて楽しい。
丁度月明かりと照明で表情もよく見える。
我を忘れて喘いで呻く姿も綺麗で、もっと腰が抜けるほどしたくなる。
何度か逝かせ、うつ伏せにして腰を持ち上げて舐める。
「こんな格好いや…」
なんていいつつも気持ち良さそうで。楽しい。
息が切れ始めたのを見て逝かせて一旦終了。
苦しそうで可哀想にも思うけど。
暫くなでていると息が整って落ち着き始めた。
ベッドの上に座り、膝の上に抱き上げ窓を向かせる。
「えっ…」
足を開かせて外を股間を見せ付ける格好でまさぐっていく。
「やだやだいやよ…お願い」
「だーめ」
ちゃんと感じてるしね。
きっちり逝かせてから布団の中に戻した。
少し涙目になっていて可愛くて目尻に舌を這わせる。
「いじめるなんてひどいわ」
「嬉しいの間違いでしょ? 気持ち良さそうでしたよ」
「…ばか」
可愛いなー可愛いよー。
キスをせがまれてたっぷりキスして。
背中をなでていると徐々に寝息に変わっていく。
お疲れ様でした。
寝てるところも可愛いんだよなー、とにんまりして眺める。
こんないい女を自分の恋人にしているなんて去年の俺には想像できなかっただろう。
そうなりたいとは思っていたけど。
たたまあ性癖からするともうちょっとM寄りだったら助かるが。
それはしょうがない。
普段の先生では考えられないようなことをさせてるだけで満足とすべきだ。
寝ている先生に軽くキスして、俺も寝ることにした。
お休みなさい。
翌朝目覚めると先生がシャワーを使っているようで湯音がする。
時計を見れば6時半。
意外と早く目覚めたらしい。
風呂場を覗くと身体を洗っているようだ。
昨日舐めまくったからな、うん。
洗顔して着替えていると風呂から出てきた。
まじまじと見ると恥ずかしがる。
「そんなに見ないで頂戴」
「いやキスマークとか残ってないかと」
「ないわよ」
そういって着替えだした。
「早くしなさい。戻るわよ。まだ律起きてないでしょ」
ああ、そういうことね。
「はいはい、昼寝したらいいですもんね」
「そういうこと」
着替えてベッドを直し、ストーブを消した。
「忘れ物、ないわね」
「はい」
「じゃ戻りましょ」
早朝の綺麗な空気に晒され静かに帰宅して、台所へ。
八重子先生が支度している。
「あらおはよう。早かったね」
「律君が起きない内に、と仰ったので」
先生が昨日着てた着物などを起きに行って戻ってきた。
俺は冷蔵庫から日本酒をちょっと取って先生に渡す。
「なぁに?」
「昨晩飲んで騒ぐかも、とあちらに行ったんですから。
 ちょっとくらい酒の匂いがありませんとね」
「あぁ、そういうこと。じゃ頂きます」
とクイッと飲んで杯を返して、それから食卓を整えに居間に行かれた。
なんだかんだ酒つよいよね。
お味噌汁の味見をさせてもらって今日は麩の味噌汁だ。
おいしい。
ごはんにお味噌汁。お漬物、焼き魚、納豆。
日本の朝飯だね。
おいしいなぁ、お味噌汁。
お漬物は昨日八重子先生がキャベツを塩漬けしてたもの。
「お母さんお酒臭い」
「あらそう? そんなに匂うかしら」
「レポートできたのかな、律君。遅くまで頑張ってたみたいだけど」
「ええ、なんとか目処がつきそうです」
「この後も書くのかな」
「うーん、今日中に書き上げたいんで」
「じゃ煩くしないよう気をつけるよ」
魚の半分を孝弘さんのお皿にこっそり移動させつつ食事。
ごはんがうまい。幸せだ。
食べ終わって洗い物を片付けて居間に戻れば早くも先生が眠そうだ。
「布団敷きますから部屋で寝てたらどうですか?」
「そういってるんだけどねぇ」
横に座ったら膝を枕にされてしまった。
「それじゃ山沢さんがお手洗いにいけなくなるだろ」
と言うのも聞こえてないらしく早くも寝息だ。
「いいですよ、寝入ったら座布団とチェンジしますから」
寝息が気持ち良さそうでいいなぁ。
八重子先生が溜息ついてお茶を入れている。
「はい、お茶」
「あ、有難うございます」
「昼から私ちょっとお茶仲間の家に行ってくるから。
 あんたらで適当にお昼作って食べなさい」
「はい。あ、ランチされるんですか」
「そうなんだよ、古い馴染みでね。たまにはお昼でも一緒にってね」
「そりゃいいですねぇ」
「あんた、昔の友達と呑みに行ったりするの?」
「ここ半年はないですが前はたまに休みに戻ってましたから。
 居酒屋で出くわしたりしてましたね。そのあと飲みに行ったり」
「帰らなくてもいいのかい?」
「たまには空気入れ替えては貰ってますから、家は」
このまま10年とかだと引き上げてきてもいいな。
「今は…この生活が楽しいですね」
「そう。ならいいんだけど」
テレビを見て八重子先生とお喋りしてゆったりとした日曜の朝。
10時半ごろそろそろ用意を、と八重子先生は部屋に着替えに行った。
先生はまだすやすやとおやすみだ。
髪が唇にかかっているのをちょいと除ける。
ふと人の気配に後ろを見たら晶ちゃんがいた。
「こんにちは、晶さん」
「あ、こんにちは。え、と律は…」
「部屋でレポート書いてるようだよ」
そうですかとそそくさと行ってしまった。
ぼんやりと先生のお顔を見ていると…耳掻きないかな。
朝あわてて出てきたからチェック忘れたんだろう。
きょろっとしたらピンセットを見つけた。
そぅっと掴んで取る。
見えてるところにはもうないね。
ルーテェ型のピンセットなら奥のほうまでやれるが。
ピンセットを片付け、紙に包んで懐へ。後で捨てよう。
「さて、行ってくるよ」
「いま晶さんいらっしゃいましたよ」
「晶が? ん、じゃ悪いけどお昼あの子の分も頼むよ」
「はい。行ってらっしゃい。お気をつけて」
お早うお帰り、とは流石にこちらの人には通じないのは慣れている。
八重子先生が外出した気配…車、ではないな、良かった。
やはり車を使われるのは不安だからね。
小一時間ほどそのまま膝に乗せて寝かしていたが流石に起きてきた。
「ん…何時?」
「そろそろ11時半ですかね」
「あぁ…お昼の用意しないと…」
「何食べたいですか、俺作りますよ」
気だるげな先生もいいなぁ、うん。
「ピラフ食べたいわ」
「具は何がいいですか」
「カレーピラフ食べたい…」
「あ、やっぱり。においに釣られましたね」
ご近所がカレーを仕込んでいるようでカレーの匂いがさっきからしている。
「カレー粉あるから。よろしくね」
「はいはい、じゃ付け合せはサラダとスープかな」
頭を軽くなでて台所へ。
ピラフと言うかチャーハンと言うかどっちでもいいんだけどカレー粉を捜索しよう。
見つからん。もしかしてルーか。ルーはあるな。
細かく具材を刻んで炒める。
同じく微塵にしたルーを入れて香ばしくなってきたらご飯投入。
炒める。やっぱりガスは良いなぁ。
というかこういう大きいフライパンをちゃんと手入れしてあるのが不思議だ。
八重子先生が振ってたのか? この重いフライパンを。
まずは4人前、横でコンソメでスープを。
冷蔵庫に4半玉残ってたキャベツを具にした。
春キャベツは美味しいし、色が綺麗だ。
芯に近い方は刻んでサラダに。
人参とピーマンも。
「何かお手伝いすることあります?」
晶ちゃんが台所に来た。
「あ、じゃあピラフお皿に取り分けてもらえるかな。孝弘さんの分作るから」
「おじさんさっきお昼要らないってどこか行かれましたよ」
えー…。みじん切りした具をどうしよう。
卵あったっけ?
3つ。オムレツ作ろう。うん。
鮭フレークもあったはず、冷凍庫を探して発見。
炒めて混ぜてオムレツにしてしまった。
サラダの1人前残ってるのは俺が食うか…。
とりあえず配膳するために居間に行くとまた寝息立ててる。
「先生、カレーピラフできましたよ。起きてください」
「んー…」
律君が部屋から出てきた。
「あれ、お母さんまた寝てるの?」
「昨日遅くまで飲ませてたから眠いんだよ」
ピラフもスープも配膳して整ったころやっと目が覚めたようだ。
「あぁよく寝た。あら晶ちゃん。いつきたの?」
「おばあちゃんが出て行く前だから10時半ごろじゃない?」
「あら、そうなの。いらっしゃい」
「あはは、お邪魔してます」
「律、お父さんは?」
「お昼要らないってどっかいった」
「ということでオムレツに化けました。サラダ食っちゃっていいですか?」
「それは食べなさい」
「あ、結構美味しい。ドライカレー?」
「うーん、どうなんだろ。チャーハンとピラフの違いがよくわからないから」
そんな会話をしつつ食べ終わって洗い物に立つ。
台所から戻ればまだ先生はあくびをしてる。
「お母さん、布団で寝なよ」
「本格的に寝ちゃうもの、いいわよ」
「おこたじゃ風邪引きますよ」
「あなた眠くないの?」
「私こそ今寝たら夜中に起きてそのまま出勤ですよ…」
「いいじゃない、そうしなさいよ」
ちょっと迷ったがそういうのも一度くらいはいいか。
「じゃ布団敷きますから。律君、夕方起こしてくれるかな」
「あ、はい」
「晶ちゃん、悪いけどおばさんちょっと寝ちゃうから」
「おやすみなさい」
微妙な顔してるなぁ…。
だけどこうでもしなきゃ布団で寝てくれそうにない。
布団を敷いて着替えて、昼の暖かい日差しの中先生を懐に昼寝。
うん、これも中々にいいな。
気持ち良さそうな寝息。
先生の甘い匂い。カレー臭…は邪魔だけれど。
あ、ダメだ、俺も寝ちゃうなこれは。
ふっと意識が落ちて次に気づけば夜で。先生は懐にいない。
居間に出て行けば先生方がお茶を飲んでた。
「あぁ起きたの? お腹すいてないかい?」
「すいません、夕飯作るつもりだったんですけど」
「いいわよ、お昼作ってもらったもの」
「よく寝てたねぇ。律が呼んでも起きなかったって言ってたよ」
「晶さんは」
「お夕飯食べて帰ったわよ。はい、こんなものしかないけど」
「あ、いただきます」
軽く食事をいただいて食器を洗いに立ち、片付けて戻る。
「ねぇ、もう帰るの? 夜中?」
「どちらでも」
「明日きてくれる?」
ふっと笑ってしまった。なんか可愛い。
「これそうなら」
「来てね」
ふふっと先生も笑って。
「しごいてあげる」
うっ…。
「…来れないかも」
くすくすと先生が笑う。
遊ばれてるなぁ。
八重子先生は微笑んでこちらを見守っている。
先生に頭を撫でられた。
「月曜、来るならあなたのお稽古の時間だけでもいいわ。水屋しなくていいから」
「わかりました」
キスしたいな。無理だけど。
だから、帰ることにした。
「じゃそろそろ帰ります」
「どうして?」
八重子先生がいるのに言える訳がない。
苦笑しつつ玄関まで送っていただく。
八重子先生はついてこない。
「このままいたらあなたを抱きたくなるから」
耳元に囁いて掠めるようなキスをした。
ぽっと頬染めて可愛らしい。
「じゃ、また来ます」
「待ってるわ…」
別れて車を運転して帰宅。
結構しっかり寝たから食後でもそう眠気は来ない。
急ぐこともなし、ゆっくりと注意して運転して帰宅する。
さてと。
束の間だけれど寝るとしよう。
おやすみなさい。
翌日は月曜とはいえど暇で。
これはお稽古行ってもよさそうな気がする。
やはり早い目に仕事が終わり帰宅できた。
風呂に入って着替え、移動する。
「こんにちは」
勝手知ったる、で部屋に鞄を置き支度して茶室へ行く。
「あらいらっしゃい。とりあえずお客さましてて頂戴」
4客で真の行を見せていただく。
優しく八重子先生がお稽古されていてうらやましいの半分。
「じゃ山沢さん。支度して。次あんただよ」
「あっはい」
水屋で息を整えて返ってきた道具を整え、さあ行くぞ。
何度も詰る毎に叱責を受けつつ厳しいお稽古を先生から受ける。
「次の方まだいらっしゃってないから…もう一度やりなさい」
「はい」
水屋に戻ると姉弟子さん方に心配された。
絹先生のあんなに厳しいのは初めて見たとか。
だろうなぁ。
でも何かお考えのあってのことだろうから、と再度点前へ立つ。
やはり何度か叱られて終了。
水屋へ戻って次の方のために調えて客の席に戻る。
正客に座らされ拝見の稽古。
間違って叱られた。
他の生徒さんがそわそわしてる。
点前の方が水屋に戻られたのでこの辺で失礼します、と挨拶した。
「はい、また明日ね」
茶室から出て部屋に戻り鞄に道具をしまい、帰宅した。
夕方前に帰宅するのは久しぶりだ。
部屋着に着替えて途中で購入した弁当を食べる。
おいしくないなぁ。
少し気落ちしたまま食べ終わり、寝る用意をした。
ベッドに入って暫くすると先生からメールだ。
美味しそうな夕飯。
食べ物もメールで転送できたらいいのに。
いやこの場合ほしいのはどこでもドアだな。
返事を半分ほど書いているうちに寝てしまったようだ。
夜中だが続きを打って送った。
きっと朝に見るだろう。
もう少し寝て出勤。
…暇だ。
火曜日は仕方ないなぁ。
仕事を終えて帰宅。シャワーを浴び着替えて先生のお宅へ。
少し早いから寄り道して羊羹買って行こうかな。
ああ暖かいなぁ乗り過ごしそうだ。
ゆったりした気分で先生のお宅に着いた。
「こんにちは」
「いらっしゃい」
「これお土産です、羊羹」
「あらありがと。後でいただくわね」
「いい匂いですね、何食べてるんですか?」
「焼きそばよ~」
「お稽古前にしっかり歯を磨かないといけませんね。青海苔」
「そうなのよねぇ、お好み焼きも焼きそばもついちゃうのよね」
軽く歯磨きするだけじゃたまに残ってるんだよな。
ま、とりあえず水屋の準備をしてこようか。
今日は天気も上々で暖かくゆったりと楽しげに皆さんお稽古されている。
ほほえましい。
俺も自分の稽古がなければそういう気分だ。
皆さん帰られたので手・口を清めて俺のお稽古。
先生が怖い…。厳しいし。
涙目になる程度にきつくお稽古されて八重子先生が見かねてストップかけてくれた。
先日いじめたから仕返しかな…。
「半年で仕上げたいのよ? 今厳しくしないとだめよ」
「そんなこと言ったってあんまりにもかわいそうだろ。手加減してやんなさいよ」
「仕方ないわねぇ…その代わり明日もお稽古しますからね!」
「うぅ…はい」
まったりした春の日差しの中でゆったり二人で、とか思ってたのになぁ。
台子などを片付けて、水屋をしまう。
八重子先生が入ってくれた。
頭をなでられて、悪気はないんだよとなぐさめてくれた。
悪気があるんなら夜に声ださせてしまいそうだ。
夕飯をいただく。
既にお稽古モードから切り替えできている先生が優しい。
ほっとして、ご飯の後の食器を洗う。
居間で先生と八重子先生が何か話しているのがかすかに聞こえる。
片付け終わって戻る。
「ね、山沢さん。明日もお稽古するけど…今日ほどは厳しくしないから」
「お稽古するの嫌になるだろ、流石にあれじゃ」
「えぇと、あー…はい」
昨日とかその前くらいのなら耐えれる、かな。
その後は普通に会話して、今日は早めに寝ようということになった。
先生と布団に入る。
するりと俺の懐に先生がきたが…なんとなく気が乗らない。
先生からキスされて、胸に手を持っていかれた。
「どうしたの?」
なんとなく先生の乳首を弄って立たせてみる。
…気が乗らない。
先生の寝巻をひんむいて伏せさせた。
「え、ちょっと…」
マッサージに変更しよう。
黙々と先生の背中を揉み解す。
結構凝ってるなぁ…。
少し声が出てるが構わずに揉んでいると部屋の外に人の気配。
…律君かな。
背中から尻へと揉み進めて太股はリンパを流すように。
足首まで終えて先生に仰向けになるように言う。
少し恥ずかしそうに寝返りを打ったところで部屋の外の人影に気づいたようだ。
焦った顔でこれまでに変な事言ってないか考え出してる先生を楽しむ。
さっと立ち、障子を開けた。
「律君、どうしたのかな? 眠れない? 寝かしつけてあげようか?」
「い、いや結構です。って何してたんですか?」
「マッサージ。結構肩こり酷いね。君は…凝ってなさそうだけど」
「あぁ気持ちよかった。律、あんたもしてもらう?」
あ、先生が復活した。
「いいよ凝ってないし!」
反応がうぶで可愛いね。
「あらそう?」
「じゃ続きしましょうかね。おやすみ、律君」
にっこり笑って追い払って横に戻る。
先生と顔見合わせて笑った。
「あぁ吃驚したわぁ…いつからかしら」
「腰の辺りかな。くすぐったがってた頃」
そのまま胸に手を這わせる。
「こうしてる時じゃなくてよかったですね」
「ばか…」
「もう少し、マッサージしましょうね」
愛撫込みのマッサージをして行く。
足の指の先までして、あとは中のマッサージ。
つぷり、と中指を入れてゆっくりほぐして行く。
気持ちよさげだ。
先生を楽しませて俺も楽しんで夜が更けた。
翌朝食事を取り、律君を送り出してからのことだ。
昨日は危ないところだったのよ、と八重子先生に話を先生が振った。
「やっぱり家でするのはよした方がいいんでしょうけど、その、つい」
あんまり八重子先生にこういうこと言わないでほしいなぁ…。
「あんたら夜はあっちの家行ったらいいじゃないか」
「毎回ってわけには…どうかと思いますし…」
それに歯止めが利かなくなるから壊しちゃいそうで。
「ま、その辺は適当にしなさいよ」
「はあ…」
「さてと、そろそろお稽古の準備するよ」
炭の用意や釜のかけ方なども一緒に教えていただきながらの準備。
これもいい勉強だ。
八重子先生は俺のギリギリを見ているようで、嫌にならないところまで詰めて下さる。
先生は多少俺に対する甘えも有るとかでギリギリアウトまで責めてこられる。
俺がMならば先生のやり方でも嬉しいんだろうけれど。
一旦お昼ご飯の休憩を挟み、午後もお稽古。
おおよその流れはつかめそうだ。
3時半過ぎ、大学から律君が帰ってきた。早いな。
「じゃそろそろ終ろうかね」
と八重子先生が仰って片付けへ。
「あんたも羊羹食べる? 山沢さんにいただいたんだけど」
「うん、あ、お父さんの分もある?」
「あるわよー」
律君と先生の会話がほほえましい。
俺も心を切り替えないといけないなぁ。
すっかり落ち込んでいるから。
ん?甘い匂い。
水屋を片付け終えて居間へ行くと台所から先生に呼び止められた。
「これ、あなたの分」
ホットケーキだ。なんでだ?
首を捻ってると頭を撫でられた。
「羊羹食べないんでしょ? 甘いものこれしかないのよね、今」
「食べた後のあなたの口は甘いんじゃないですかね」
ついニヤッと笑って言ってしまったらつねられた。
「さっきまで涙目になってたくせに…そういうこと言うのね。
 明日もっと厳しくしちゃおうかしら」
「勘弁してくださいよ」
ホットケーキと切り分けられた羊羹を持って居間に行く。
八重子先生がお茶を入れてくれていて、俺はぬるいお茶にありつけた。
メープルシロップは切らしていて蜂蜜とバターでいただく。
コーヒーや紅茶ではなく緑茶なのが難だがおいしい。
「ん? この渋味は?」
「あぁ蜂蜜、こしあぶらなのよ」
「それでですか。道理で」
あ、孝弘さんに狙われてる。
それに気づいた先生が笑って更にもう2枚焼きに立った。
が、焼いてる間に1枚は孝弘さんのお腹に納まってしまった。
「あらあら、お父さん、山沢さんの食べちゃったんですか?」
じゃあ、と一枚ずつ配分してくださった。
んーうまい。
孝弘さんもおいしそうに食べていて、それも見ている先生も幸せそう。
律君だけが微妙な顔をしている。
昨日のマッサージ、と言うのが納得いかないのかなあ。
虫やしないに美味しく食べ終わって少しゆったり。
「そろそろお買物行きましょ」
「あ、はい」
「律ー、あんた何か食べたいものある?」
「…冷しゃぶかな。この間テレビでしてた奴」
「春キャベツのかしら、わかったわ」
キャベツうまいよな、この時期。
お買い物についていって先生の荷物もち。
豚のスライスとキャベツを2玉と卵を買った。
それ以外に人参葉、かぶ、ウインナー。
何作るんだろう。
台所に入り指示通り下拵え。
人参葉はおひたしに。
かぶとウインナーでスープ。
それから湯通ししたキャベツのざく切りを下にして上に冷しゃぶを乗せ、
更に温泉卵のようにしたものを乗せてある。
うーん、うまそう。
そしてやっぱりセンスがいい。
盛り付けで結構変わるよな。
お夕飯をしっかりいただいて明日の仕事、頑張って来てね、と見送られて帰る。
帰宅したらすぐに寝て明日に備えた。
木曜日。やはり仕事は暇だ。
桜も終った。
暇していると社長からお話が。
来月営業強化で木曜の昼2時まで営業かけろと。
こりゃ水屋が出来ないな。先生に言わなきゃいかん。
変わりにやっぱり月曜行こうかな。
でもそうすると木金と逢えなくなる。悩ましい。
仕事が終って帰宅し、身を清めてお稽古へ。
いつものように生徒さん達のお稽古を見守り、帰られてからが俺のお稽古。
涙目直前程度が先生もわかってきたようだ。
少しの手加減を加えてもらえてる。
お稽古が終わり、夕飯をいただいた。
その後先生方にご相談。
来月までに対応策を考えてくださるそうだ。
とりあえず今日のところは帰宅して、土日かな。
本日は雨。
花粉があまり飛んでないから会社の人もくしゃみをしていない。
仕事もやっぱり雨だから暇で。
バカ話をしつつ仕事の時間は過ぎて行く。
今日の昼は何を食べようかなぁ。
チャーハンと餃子でいいや。
帰り道で食べて帰宅。
少し昼寝をしよう、とベッドにもぐりこんでいると先生からメール。
お昼ごはんの写真。
すっかり使いこなしているようだ。
食後なのに美味しそうに感じる。
食べたい、とメールして昼寝。
ふと物音で目が覚めた。
ベッドから這い出してみると居間で先生が新聞読んでた。
「あら起きたの?」
「なんで?」
「食べたいってメールしたじゃない。持ってきたわよ。今食べるわよね」
マジか。
ちょっと待ってて、と鍋を温めて食卓に並べてくれた。
ちょうどお八つ時でおいしくいただいて。
汁まで飲んだら笑われた。
「他所ではしませんよ? でもあなたの味付け美味しいから」
「あらあら」
にこにこと笑っている先生は綺麗で可愛い。
「それよりこれ食べさせるためだけにうちに来たんですか?」
「そうよ?」
「俺はあなたも食べたいな」
「えっ…そんなつもりで来てないわよ、ちょっとストップ、だめ!」
抱きしめてキスしたら抵抗された。どうしたんだろう。
「お風呂入ってきてないのよ。昨日も入れてないし」
ぶふっと笑ってしまった。
「はいはい、俺がいいって言ってもイヤなんですね? 風呂入ってらっしゃいよ」
くっくっと笑ってると怒ったようなそぶりでお風呂に行った。
可愛いなー。
台所に行ってタッパーと鍋とお皿を洗ってしばし待つと先生が出てきた。
抱かれるために風呂に入る、と言うのはやっぱり恥ずかしいようだ。
ソファからおいでおいでと手招きして膝の上に横座りに乗せた。
浴衣の合わせから太腿がのぞいて、慌てて直している。
可愛いし色っぽいしで。
「向かい合わせのほうがいいのかな…足、開いて?」
頬染めてそのまま固まっている先生が本当に可愛くて手荒くしたくなって困る。
「別にひどいことはしないよ? キスしにくいでしょう? この格好」
「あ、うん、そうね」
両腿をきっちりくっつけたまま俺の膝に座りなおした。
「がばっと開けて密着したらいいのに」
「恥ずかしいわよ」
「今さらでしょ? ほら」
手で割り開いて引き寄せた。
力をこめて抵抗していたが流石に俺の力にはかなわないようだ。
「もうっ、ばか、こんな格好させないで」
「もっとえっちな格好がいい? そうだな、ペニバン使って立ったままするとか」
赤くなったり青くなったり。
「ってのは冗談ですよ」
ぺちっと額を叩かれた。
キスして暫くゆっくりと腕を擦る。
徐々に肩の力が抜けていって俺にもたれかかってきた。
「ね、するならベッドでお願い…」
「ここじゃいや?」
「うん…」
言うことを聞く振りしてソファの上で組み敷く。
実際抱くとなると落ちるから戯れだ。
抵抗。
「可愛いなぁ」
笑って引き起こしてあげてベッドへ連れて行き、抱いた。
終った後少し愚痴を言われたが。
「で、晩飯どこか行きますか?」
「そうねぇ…お鮨食べたいわ」
「ああ、いいですね、久しぶりに。待っててください、席あいてるか聞きます」
「着替えてくるわ」
問い合わせればあいてるとのこと、カウンターをお願いして俺も着替え。
先生は少しけだるげで綺麗で。
ん、もう一度したくなる。
キスだけにしてお鮨屋さんへ行くことにした。
戸締り戸締り。
先生は家から出たらしゃっきりして、崩れた雰囲気など毛ほども出さない。
それに釣られて俺も背筋が伸びる。
でも、俺の手にそっと手を重ねてくるところは可愛い。
お鮨屋さんはおまかせで頼み、先生のおいしそうに食べてるのを楽しむ。
俺のはちゃんと白身の魚や胡瓜やおこうこや梅や卵など食えるものだけが出てくる。
先生のはイクラや中トロも出てきて美味いところを少しずつ沢山の種類出してくれた。
「幸せ~♪」
やっぱり年々量が食べられなくなってる、と言う。
まだそんな年じゃないでしょ、と答えた。
「あなたもこの年になったらわかる…その食欲じゃわからないかもしれないわねぇ」
「ははは、これでも懐石なら満腹になってますよ?」
一気食いはどうしても量食べるけど。
お茶をいただいてお会計。
先生は先に店から出て待っている。
「ご馳走様、美味しかったわぁ」
つれて歩く途中も先生はニコニコしている。
さて、車に乗せておうちまで行こうかな。
「電車で一人で帰るわよ」
「もうちょっと一緒に居たいんですけど」
「明日も来るでしょ?」
「行きますけど…べたべたできないし」
「ばかねぇ…あちらの部屋に行けばできるじゃないの」
「いいんですかね?」
「いいわよ、お母さんもそうしなさいって言ってたわよ~。
 律に気づかれるよりいいじゃないって」
「八重子先生、何でそうまでしてくださるのか…」
「聞いてみたら?」
「そうします」
駅について、お別れだ。
ちょっと切ない。
「じゃまた明日いらっしゃい」
「はい、参ります」
手を振ってくださって振り返す。
見えなくなるまで見送って、帰宅した。
着替えてベッドにもぐりこんですぐに寝る。
翌朝。
それなりに荷物も動いて疲れて帰宅。
ほんの少し一服してから移動する。
ちょっと電車の中で寝て、先生のお宅へ。
「こんにちはー」
「はい、いらっしゃい」
「これお土産。晩飯にどうぞ」
「あらっ なあに?」
「鯛の子の炊いたんと飯蛸の炊いたんです」
「あらーいいわねぇ、おいしそう」
「冷蔵庫入れときますから」
「うん、お願いね」
タッパーを冷蔵庫に入れて水屋の支度。
「あ、山沢さーん、今日は小習もちょっとするから。荘物の用意しといてくれる?」
「はい」
今日やったものを風炉一回目にもする、という中々生徒さんには大変な。
用意を済ませて茶室で待つ。
……先生も来たけど生徒さんが来ないぞ。
電話が鳴る。
八重子先生が受けているようだ。
「絹ー? 生徒さん電車乗り過ごしちゃって遅れるんだって」
「あらそうなんですか。どれくらい?」
「30分か1時間ってさ。山沢さんのお稽古しちゃったらどうだい」
「そうねえ、そうしましょうか。山沢さん、入って」
「はい」
真の行のお稽古を一度終って落ち込んでいると次の生徒さん。
「あら? 山沢さん、どうしたの? 何か落ち込んでるみたいだけど」
「いやぁ覚えが悪くて叱られてるだけです」
「やーねーそんなに簡単に覚えられたらお稽古する必要ないじゃないの~」
ばっしばっし背中を叩かれる。
おばちゃんは強い。
ほほほ、と先生も笑っているが、先生が怖いのはこの生徒さんは知らないからなぁ。
その後は遅れた生徒さんが来たりおやすみの生徒さんもいたり。
うまく時間を都合してお稽古が進む。
みなさん荘り物は苦手かな。
先生はうまく生徒さんを誘導したり世間話にも少しは付き合ったり。
上手だよなぁ人あしらい。
皆さん帰られて、更にもう一度俺へのお稽古。
先ほどまでの和やかムード一転、だ。
怖い。
やっぱり厳しい。
「今日はこれまで。片付けておいてね」
「…はい」
台子や釜、水屋をしまい、火の気を確認して戻る。
ん、いい匂い。なんだろう。
八重子先生がお大根を炊いたらしい。
今日は煮炊物だな。
俺の分に、とハムステーキ。
ソースは八重子先生が作っていてレモンバターにパセリかと思ったら大葉だった。
レモンが強めで美味しい。
苦味が出てないのは八重子先生の握力のなさだろう。
しかし律君。
大学生の男の子が土曜の夜に家で晩飯を食うんじゃない。
合コンとかデートとか友達と遊びに行くとかないのか。
先生たちは律君の一人暮らしは否定的だ。
男の子が外泊するのに家に電話している姿と言うのもなんだかなぁ、と思うんだが。
どうしても食事が心配、と仰る。
確かに毎日作る習慣がないから大変だろうが…開さんだってしてたし。
なんとかなんじゃないか?
「山沢さんの食事見てるとねぇ…」
「それを言われると。
 だけど家に女の子を連れ込んだりとか親のいる家にはしにくいでしょう?」
「連れ込むなんてそんなの許しません!」
「へ?」
「責任取れないでしょ!」
「あ、そっち? 責任って結婚すればいいと思いますけど」
「それにそんな…男の家に上がりこんで泊まるような子いやだわ」
「あ、たしかにそれはちょっと。結婚するつもりならわかりますが」
「でしょ?」
「できたらお茶お花、出来る方がお嫁さんだといいですね」
「そうねぇ。お教室続けやすくなるものね」
「でもお嫁さんに俺にしてるようなお稽古はやめたほうがいいですよ」
「どうして?」
「嫁いびりと間違えられますから」
「あらあら」
先生がぷっと笑って思わず俺も笑う。八重子先生も笑ってる。
「晶さんならそんなこと考えずに済みますけどね。
 おばあちゃんはおばあちゃんのままですし。おばさんがお義母さんになるだけで」
「あら。晶ちゃん?」
「晶さんにいい縁が来なければ考えてもいいんじゃないですか?」
「…そうだねえ」
などとしゃべっているうちに夜が更けて冷えてきた。
八重子先生が冷えてきたから寝る、と言い出し、じゃ私たちもと思ったが…。
「あんたらはあっちの家行っといで。律まだ起きてるから。お酒持っていきなさい」
「はい、そうさせていただきます」
「お母さん、もう…」
先生が恥ずかしがってて可愛い。
八重子先生が部屋に行ったので戸締りや火の元を確かめてお酒を持って外へ。
玄関の鍵を締めて先生と二人歩く。
先生の羽織っているショールはすべすべと月光をはじく。
「シルク?」
「ん? これ? そうよ」
「綺麗だな」
「これお気に入りなの」
「じゃなくて、あなたが」
頬を染めて黙ってしまった。
手を引いて部屋に入る。
「何黙ってるんですか? 怒った?」
「そうじゃないわ」
「じゃあどうしたんです?」
「なんでもないわよ、飲みましょ」
グラスを出してきて俺のに注いでくれた。
俺も先生のグラスに注ぐ。
くいっとグラスを開けてもう一杯注ぎ、半分ほど呷って先生にキス。
口移しに飲ませた。
そのままキスして胸をまさぐる。
息が荒くなって少し首筋もほの赤い。
「もうちょっと、飲んでから…ね、そうしましょ」
お願いする先生が可愛くてつい聞いてしまう。
最近甘いなー。
恋人だからしょうがない。
いける口だからとおいしそうに飲んでいる。
美味しいから沢山いただくのは好きだけど沢山飲んで酔うと正体をなくすから。
だから飲みたくないらしい。
「たしかにいつだったか間違って飲んで律君の前で俺にキスしちゃってましたね」
「それ、困るでしょ。だからあまり飲まないのよ」
おいしー♪とご機嫌さんだ。
つまみはさっきの夕飯の残った飯蛸や鯛の子。
「律君公認になれたらいいんですけどね、男の子は母親に幻想持つから無理かな」
「律には言わないで…」
「言いませんよ。ばれたときの話」
頭をなでる。
「あなたを律君の前で抱いたりとか…」
びくっとしてる。
「しませんから大丈夫」
「ばか、驚いちゃったわよ」
「そういうとこ可愛いなあって思ってるわけですが」
「もうっ」
ちょっと怒りつつお酒を飲んでる。
何杯か飲んでるうちに先生がうとうとしてきた。
ヤらせず寝る気か。
いいけどさ、たまには。
すっかり寝息に変わった。
脱がせてベッドに放り込み、食べたものを片付けた。
今度からあまり飲ませないようにしないとなぁ。
自分も着替えて先生の横にもぐりこむ。
先生のいい匂い。
抱き込んでおやすみなさい。

拍手[0回]

h24

翌朝、今日は一日雨かーとブルーになりつつ、出勤した。
さすが雨、客の買う気のなさよ。
やる気が出ないなぁと思いつつ仕事をこなす。
ちゃんとしないと土曜日させてくれなくなりそうだからな。
帰宅して先生のお宅へ。
「こんにちは、雨ですねえ」
「はい、いらっしゃい」
玄関先で雨コートを脱いで掛け、居間へ行く。
窓も湿気で曇っている。
ぽつぽつと生徒さんが稽古に来られるのをさばき、俺の稽古をつけていただく。
今日は俺の機嫌を察してくださったようで若干優しい。
終って片付けも済んで台所に行けば俺のためにとホウレン草の胡麻和え。
他の献立も見るに鉄分多目メニューと見た。
「先にこれ食べて炬燵に入ってなさい」
と渡されたのはチーズ。カルシウムね。
手伝いもせずおこたにはいるのは心苦しいが正直助かる。
足が暖まって少し痛みが緩くなる。
先生が配膳して下さって食事。
うーん。うまい。
ちゃんとしたご飯で、多分俺のために献立考えていただいて。
美味しくいただいた食後、ぼんやりしているとなでられた。
ん?と先生を見ると少し心配そうな顔をしている。
「一人で帰れる?」
「あぁ、ぼけてるだけですから。車じゃないから大丈夫ですよ」
「明日お仕事じゃなかったらいいのにねぇ」
「ま、しょうがないです。これで稼いでるんですから」
「雨降ってるけど本当に大丈夫? 律に送らせる?」
「律君に負担ですよ、いくらなんでも。無理だと思えばタクシー拾いますから大丈夫」
「そう? 無理しないでね」
ぼんやりと引き寄せてキスしたら抵抗された。
あ、八重子先生の前だった。
先生が耳まで赤い。可愛いなー。と笑って。
そろそろ帰りましょう、と立ち上がる。
見送っていただいてそれなりの雨の中帰宅する。
少し貧血気味の自覚はある。
帰ったらすぐに寝るとしよう。
途中、そろそろ危険か、と駅からタクシーに乗り帰宅した。
すぐに着替えてトイレに行き布団へ入った。
翌朝、何とか布団から抜け出し出勤。
仕事を頑張ってこなし、帰宅して直ぐ就寝するなど。
外の大荒れの天候にも気づかず。
夕方にはなんとなく体調も落ち着いて夕飯を食べに出た。
先生から電話。
明日のお稽古はお休み?
どうやらこの天気の加減で休みたい方と、花見をするため欠席の人が重なったそうだ。
「じゃ明日うちにきますか?」
考えさせて、と言うので明日の午前中までによろしく、と電話を切った。
思い切りが悪いなぁ。
少し不機嫌になり飯を食って帰って風呂に入る。
ざっとタオルで拭いて着替え、ベッドに転がって寝た。
ふと何かの気配がして目を覚ますと抱きしめられて驚く。
「来ちゃった」
あ、先生か。
「時間遅いから寝てて…」
「いま何時ですか?」
「多分11時半くらい」
むくり、と起きると先生が慌てて謝ってきた。
「いやトイレ行くだけですよ」
どうも急に来たことに怒ったのか、と思ったらしい。
トイレから戻って先生のいる布団へもぐる。
「…先生、冷えてる」
「ごめんね、外寒かったの」
「温めてあげようか。中から」
「え、あ…あなた明日朝早いんだからダメよ」
慌ててて可愛い。
くすくす笑ってるとからかってるの、とケンのある声で聞かれた。
「からかってなんかいないよ。どうする? どうしてほしい?」
「…一緒に寝てくれるだけでいいんだけど…だめかしら」
「いいですよ、今日はね」
懐に抱いて冷えてる先生の身体をなでながらいつしか二人眠りに引き込まれた。
朝、起きて先生を置いて出勤する。
出勤して直ぐだが早く帰りたい。
寒いし。
客足も早く引けて帳面とあわせ早々に帰宅。
「ただいま」
「早かったわねぇ、お帰りなさい。お風呂はいる?」
「あー、はい」
「良かった、いま沸かしたところだったの」
「先入っていいですよ」
「お洗濯もうちょっとあるのよ」
「ああ、それなら先に入らせていただきましょう」
風呂に入って湯に浸かる。
温まるなぁ。
のんびりと伸びて、風呂から上がる。
タオル片手に上がってくると叱られた。
「裸で上がってきちゃだめっていったじゃない。見られちゃうわよ」
「この家で? あなたしかいないのに」
「カーテンあいてるもの」
「いまさらですよ、窓開いてても気にしてないですよ夏は」
「気にして頂戴よ…見せたくないわ」
「そういうあなたが可愛いな。ほら、風呂入って。メシ食いに行きましょ」
「もうっ」
ぶつくさ言いながら先生がお風呂に入って俺は暫く涼む。
落ち着いて着替えたころ先生が出てきた。
ん、湯上り美人。
綺麗だよなぁ。
「メシよりあなたを食いたくなったな…」
「とか言ってお腹なってるじゃないの」
まぁ、ねえ。
「お昼ごはん、何食べたいです?」
「和食がいいわー」
「んじゃ懐石でどうですかね」
「ん、それでいいわ」
「1時間後?」
「30分。お腹すいてるんでしょ」
「じゃ席とります」
連絡して出かける用意をする。
先生の着物を着るのはいつもながらに手早い。そして綺麗だ。
化粧も髪も整えて丁度20分。
「さ、行きましょ」
「はい」
連れ立って食べに行く。
んー、先生と歩くと視線が。
やっぱり美人さんだからなぁ。
見せびらかすじゃないがいい女を連れて歩くのは気分がいいものだ。
店に入って一番いいのを頼んでゆっくりとお昼をいただいた。
先生もおいしそうに食べていて、見ているこっちまで嬉しくなる。
快く食べ終わって帰宅する。
「んー、寒かったわねー外」
「お湯落としてないならもう一度入りますか」
「そうしましょ」
そうぬるくなってはいないが温めなおし、脱いで二人ではいる。
浴槽が大きいのは別に要らないと思ってたけどこうなるとやっぱり良いものだ。
炭酸タブを投入してみた。
股間に泡が直撃して慌てるのが可愛くて抱きしめちゃったり、そのままキスしたり。
「ねぇ久さん…好きって言って」
「どうしたの? 珍しいな」
「たまには言って欲しいのよ」
「可愛いな、女の人ってそういいますよね」
「ねえ」
「好きだよ、愛してる。あなただけをね」
「本当?」
「本当。どうしたの? 今日は」
「だって私…あなたがしたいこと出来ないから…」
「してるじゃないか。こうやってあなたを抱いたり泣かせたり」
「雑誌に載ってるようなこととか…。我慢してるんでしょ」
「…何読んでるんだか」
「ベッドの下にあった雑誌…ああいうの、したいのよね?」
「されたいんですか?」
慌てて首を振る。
「俺ね、確かにしたいことは沢山ありますよ。
 でもね、あなたがこうやって俺を愛してくれてるのに…、
 あなたの意に沿わない事したくないって大抵は思ってるんですよね」
「でも」
「今のところは大丈夫、しなくても」
「いつかはするの?」
「どれのことをいってるんですかね」
どの雑誌を見てそういってるのかがわからん。
アナルフィストとかの特集の雑誌だったらそれはかなり先生には怖いと思う。
「ま、とりあえずそろそろ風呂から出ないとのぼせそうです」
「うん…」
風呂から出て、暑くて裸でいたら浴衣を羽織らせられた。
「ね、どの雑誌見たんです?」
肘を取ってベッドに連れて行き、座らせてどの本のどのページか言わせた。
凄く恥ずかしそうで可愛くていい。
こういうのもありだな。
指定された雑誌の、このページ、と言うのを見た。
…なんだこりゃ。
うーん。これを俺がやりたがってるように思ったのか?
「さすがにこれはやれないな…というか俺、どっちですか。食う方か食わせる方か」
「あ、よかった…」
「良かったじゃないよ…あぁ、気抜けした。衛生的にありえん」
「だってあなた、この間アレ終ってないのに舐めたじゃないの…」
「アレは別に雑菌とか問題ないでしょ。これに比べりゃまだ小便飲む方が雑菌少ない…。
 あぁ、そっちならあなたできるかな?」
「え、ちょっと、いやよ、そんなの…」
「ってかね、Mさんでもないのにこんな雑誌読まないで下さいよ」
「だってあなた、どういうことしたいのか興味があって」
「好奇心、猫を殺す。知らないほうがいいですよ、あなたは」
「知らないことされるのは怖いわ」
「知ってるほうが怖いことだってありますよ」
だからたまにビデオを見せたりするんだが。
「怖いのはいやだわ…」
「気持ちよくしてあげますよ」
そっとキスをして。
ベッドに押し倒した。
「明日…展覧会か花見か行きませんか…それとも寒いだろうからずっとこうしてますか」
「好きにして…」
「そんなこと言ったらずっと抱いてたくなる」
「じゃお花見行きたいわ」
「はいはい。お花見ね。そんなに俺にずっと抱かれてるのは辛い?」
「年考えて頂戴よ…」
「そういう意味か。抱かれるのいやなのかと」
「違うわ…怖いのはいやだけど。優しい久さんは好きよ」
「じゃ特別に優しくしてあげましょう」
ゆったりと優しく抱いて少し声が上がる程度に。
何度か逝かせると満足げな顔で寝息を立て始めた。
たまにはこういうのもいい。
俺も噛まれないし引っかかれないし。
しかしなぁ、怖いのがいやなのにうちに来るのはなんでだろう。
小一時間ほどして起きた時に聞いてみれば、やはり家だと気を使うのが大きいようだ。
「たとえば…家に誰もいなければ家でも良いのかな?」
「ええ? ん、でも何かいやなのよ」
「旅行とかなら良い?」
「そうね」
「じゃ今度また旅行しましょう。5月は無理だけど」
「あら、嬉しいわ。どこがいいかしら」
「ま、気になるようでしたら展覧会を絡めていただければ」
「温泉もいいわねぇ」
「温かくなってから温泉ですか?」
「湯冷めしないもの」
「…俺と一緒だとのぼせるんじゃないですかね」
「やだ、もう」
ちゅっと音を立ててキスして布団から出る。
「さて、夕飯どうしましょうかね」
「久さんが作る開化丼がいいわ」
「いいけどそんなのでいいんですか?」
「食べたくなったんだもの」
「じゃ、付け合せの希望は?」
「お味噌汁。海苔の」
「野菜がないですよー」
「別にいいわよ」
「じゃお買物行きますがあなたどうします?もうちょっと寝てる?」
「一緒に行くわ。待ってて」
はいはい。
その間に米を炊く仕込をして振り返ると着替え終わっていた。
俺が着替えてる間に髪を整え軽く化粧をして、さてと買物へ。
冷え込んでいるので先生が俺にくっついてきてて嬉しい。
食材を買い込み、おやつにとプリンを買った。
「あなたといると太るのよね…」
「へえ、そんなこと言うならカロリー消費させますよ」
「えっやだ、そんなつもりじゃ」
「二人で散歩とかね」
「もうっ」
「で、太ったってどの辺かなぁ、この辺?」
と着物の上から胸を揉んだら怒られた。
「ご飯、作るんでしょ」
「はいはいはい作ります」
出汁を作って肉と玉葱を煮て、卵とあわせてさっさと作る。
アオサで味噌汁をして。
パパッと作ったものだけど、先生がおいしそうに食べてくれた。
「汗かいた後って山沢さんの作るの、美味しいのよねえ」
「あー…塩分だ、そりゃ。味付けじゃなくて」
「そうかしら?」
お茶を先生がいてくれてまったりとした土曜の夜。
不意に先生が俺を見た。
「ね、しなくていいの?」
「あぁ、つい見とれてた。ドラマ見たいんじゃないんですか?」
「見たいけど…」
「見ながらでもいいんですか? 集中できないでしょ?」
「うん…」
「なら後で。いいからいいから」
ごろり、と先生の横に転がって先生の足に顔を寄せて寝る。
そのままうつらうつらとまどろんで。
次に起きたときは先生が俺の髪を撫でていた。
「起こしちゃった?」
寝返りを打って先生の腿の間に顔を埋める。
んー、いい匂い。
くすくす笑い声が聞こえて。
そっとお尻をなでまわしてると吐息になってきた。
「ベッド、行きましょうか」
「うん、そうしましょ」
テレビを消して戸締りをして。
電気を消してベッドに入る。
昼よりはしっかり抱いて、泣かせて。
手加減はしているけれど息が荒くなるほどに。
逝き過ぎると涙目になっていて可愛くて綺麗で。
耳元で好き、と言ってくれるのが嬉しい。
さて、明日はどこへ花見に出ようか。
先生の胸をなでつつ考えてたら先生が俺の乳首を噛んだ。
「な、んで噛むんですか。しかも突然…うわっ、だからしちゃだめだってばっ」
ちょ、突然すぎる。先生の指が俺の股間に来襲した。
「なんとなく?」
うふふ、と先生が笑った。
「なんとなくじゃないでしょう。そんなことするならもう一戦しちゃいますよ。
 優しくなんてしてあげませんよ」
「あら、それは困るわねえ」
俺ので汚れた指を舐め取ってやって、布団に押し込む。
油断も隙もない。
「大人しく寝ないとお尻舐めますよ」
「いやよ」
「あした花見行くんでしょ?ちゃんと寝て。拗ねないで下さいよ」
俺の乳を摘んだり引っ張ったりしてぶつくさ言ってる。
「乳首が伸びるからやめなさい。遊ばない」
「立ってきてるのに?」
「そりゃ弄れば立つもんです」
「気持ちよくならないの?」
「あなたほどにはね」
「ちょっとくらいは?」
「まぁ…ってか俺をまた抱きたい気分なのかな」
「そこまでじゃないけど」
「…触ってると落ち着く?」
ぱっと顔を輝かせた。
そっちか!
諦めてもうやりたい放題触らせるか。
多分途中で寝るパターンだ。
と思って触らせてると中を弄ってみたり色々しつつやっぱり寝た。
指入れたままで。
腹を枕に。
そっと腕を掴んで抜いて、頭を枕に乗せてちゃんと寝る体制に持って行ってあげて。
手を拭き取って布団の中に入れて。
さて、俺は。
トイレ行って一発抜いて寝るか。中途半端は流石につらい。
かといって先生にやられるのは嫌なんだが、と自分で逝って。
シャワーを浴びて布団にもぐった。
ん、先生のにおい。
温かさ、肌触り。
幸せな気分で寝た。
翌朝、先生にとっては少し寝過ごした時間に目が覚める。
既に朝日が差し込んでいた。
ぼんやりとしてる先生もいいなぁ。
だけどそろそろ布団から出て朝飯の支度をしなきゃな。
昨日の味噌汁があるから麩を足して。
鯛を焼いて食っちまおう。
ホウレン草のバター炒めでいいや。
ぼんやりと作って用意したら起きてきた先生にセンスがない、と言われてしまった。
なんで鯛を焼いたのにバターなの?と。
味・匂いの強いものと一緒に出したらダメだと叱られた。
「勿体無いじゃないの」
「まぁそうですけど」
ちょっとしょんぼりしてたらキスされた。
「いいわ、食べましょ」
ご飯をよそって渡す。
いただきます。
ホウレン草をメインに食べてたら苦笑されて。
「ちょっと待ってなさい」
そういって冷蔵庫から何か取り出して焼いてる音?
ん?この匂いは。
「そっちの鯛頂戴、私が食べるから」
ベーコンエッグが出てきて、菜の花の漬物が先生の手に。
俺洋食、先生和食になってしまった。
「このほうがいいでしょ?」
「はい」
乾通りの公開がニュースで取り扱われている。
「あら、ね、今日のお花見。あそこ行かない?」
「いいですね」
「あ、でも着物、そういう着物じゃないわ」
「俺の、どれでも着れるでしょ? 一つ紋位でいいんじゃないですか?」
「じゃそうしましょ」
「でも随分並ばないといけないと思いますが」
「…でももしかしたら今回限りかもしれないじゃない」
あ、たしかに。
ごちそうさまをして、洗い物をする。
「お風呂に入ってくるわ、あなたは?」
「俺は昨日のうちに入りましたよ」
「あら。いつの間に」
先生が脱衣所で脱いで、風呂に入る気配。
覗きたくなって突撃した。
「お背中流しましょう♪」
「あっ、もう。だめよ」
泡をたっぷり付けて先生の胸を弄って。
そぉっと股間に指を伸ばせばそれなりに濡れている。
きっちり逝かせてくたり、と俺にもたれかかる先生を洗ってあげた。
髪も俺の膝の上でゆっくり洗って。
気持ち良さそうにしてる。
かわいいな。
「ハイ、終りましたよ」
「ん、顔洗うわ」
泡たっぷり立てて洗ってる。
さすがに洗顔中は手を出せない。
鼻の中に泡が入ると辛いからなぁ。
洗い終えたので全身にシャワーをかけて。
ん、綺麗な身体だなぁ。
「どうしたの?」
「綺麗だな、と思って」
「あら。たるんできてるわよ、こことか」
「じゃ若いころはもっといい身体だったんだ。見たかったなぁ」
「そりゃ17,8のころとは違うわよ。あなたも若い子がいいの?」
「若い身体もいいけど…いまのあなたの身体が好きですよ」
キスして。
あ、だめだ、またしたくなる。
「お花見行くんでしょ」
ちょっと叱られて風呂から出て着替える。
髪を乾かした先生が念入りに化粧をして着替えている。
つい笑顔になってしまう。綺麗で。美人さん。
俺を上から下までじっくり見て、少し手直しされた。
タクシーで近くまで行き列に並ぶ。1時間半ほどかかるとか。
「凄い人ですねぇ」
「そうね、やっぱり日曜だもの」
ゆっくり流れる人の波にそって進むとボディチェック。
時間かかってるのはこれか。
花を楽しみ、先生との会話を楽しむ。
「こういうものいいわねぇ」
「そうですねぇ。職場の花見はカラオケと仮装とドンチャン騒ぎなので」
「あら面白そう」
「遠くから眺める分には面白いですよ。中の人になるのは御免です」
人が一杯だなぁ。押されて先生が俺に寄りかかる。
写真は一枚撮ったら進んでくださーい、と警察の方の声。
「先生も写真撮りますか?」
「いいわよ別に」
「いいんですか?」
「だって私が撮るより綺麗な写真集、あるもの」
「じゃ俺が先生撮りたい」
くすくす笑っていいわよー、と仰るものの人の波。
撮れそうにない。
「後でどこか良い桜があったらそこで撮りましょ」
「はい」
中で30分ほどか。桜と皇居を楽しんで乾門を出た。
「さて、そろそろお昼ご飯の時間ではありますね」
「お弁当買って皇居東御苑で食べない?」
「いいですね。でもどこか売ってるのかな」
丁度いいところに警察官が通りがかったので聞いてみる。
残念ながら中で売っている弁当は売り切れの由。
靖国に流れて近くでランチを取る人も多いという。
どうします?と先生に聞けばそれでいいとのことでお礼を言って移動する。
笑顔で気持ちよく挨拶を返していただいた。
先生の残念そうな顔にほだされたのかもしれない。
そのまま靖国方面の人の流れに載ることにした。
ま、いい食事処がなければ三越とか。
先生を連れて歩くと視線がそれなりにある。
見せびらかしたいような、見せたくないような。
靖国の桜も増して見事で近くの方が桜をバックに写真を撮ってくださった。
先生が帰られるときに印刷して渡そう。
「夫婦…に見えてるんでしょうかねえ」
「多分そうよね」
「孝弘さんとも昔は行ったんですか」
「行ったわ…色々行ったわよ」
「今は花より団子ですからねぇ」
「そうなのよねー」
もうちょっと風流を解する男に育てられなかったんだろうかと思う。
無理か、環境からしたら一番いいもんなー。
ゆっくり桜を楽しんで、神社から出る。
まずは九段下付近にお店はいくつかあるだろう。
が、しかし…どこも1時間待ちとやら。
「三越行って見ます?」
「そうね、そうしましょ」
三越についてレストランエリアへ上がる。
「イタリアンがすいてるみたいですが」
「あら和食のお店は混んでるの?」
「8人待ちですね」
「じゃイタリアンでいいわ」
席へ案内してもらってメニューを選ぶ。
俺は一品多いプランを。
組み合わせを伝えて食前酒を頼む。
あ、そうだ。
「作陶展やってるみたいですが後で見ますか?」
「勿論よ」
食前酒の口当たりもよく先生も笑顔だ。
美味しい食事をいただいて、満腹になってデザート、コーヒー。
「あなたねぇ甘やかしすぎよ? こんなにおいしいものばかり食べさせて」
「太る?」
「そうじゃないわよ」
「好きな女と美味しいものを食べるのも幸せなんですよ。私を甘やかしてます」
「ばかねぇ、もう」
食後会計してそのまま美術フロアに流れる。
先生は茶碗など眺めてうっとりして。
そのまま晩のご飯も買って帰りましょ、と言われて地下へ。
サラダやメインになるものなど買って帰った。
「あぁ疲れちゃったわー」
「はいはい、鞄とコートもらいましょう。脱いできてください」
「ん、よろしく~」
ぽいぽいと脱いで浴衣を着て出てきた。
ベッドにごろり、と寝転んでる。
俺はその脱いだ着物を片付けて自分も着替えて先生のそばへ。
あれ、既に寝息だ。
結構疲れたらしい…。
ま、いいけどね。俺も少し横になろう。
夕方起きて二人でご飯を食べる。
自堕落な生活。
「今晩のうちに帰るんですよね?」
「ううん、明日の朝帰るわよ」
「いいんですか?」
「そういってあるもの」
「じゃ…後で抱かれてくれます?」
あ、頬染めてる。可愛い。
「いいわよ…」
ニッと笑って食事が進む。
「あ、でもその前にお風呂入りたいわ。結構汗かいちゃったもの」
「はいはい。一緒に?」
「入りたいの?」
「ええ」
「いいけどえっちなことはだめよ」
「そいつぁ残念」
ぺち、と額を叩かれた。
ご飯を食べ終わって一服し、風呂を沸かす。
沸かしてる間に…先生の股間を舐めようとする。
汗などで蒸れてるから凄く嫌がっていて、それでもと言うと諦めてくれた。
しょっぱい、と言うと…。
「だからいやっていったのに、ばか」
そういう会話もまた楽しく。
お湯が沸いたようなので脱がせて連れてはいる。
「昼みたいに洗ってあげましょうか?」
「だめよ…あなたも早く洗いなさい」
ふふっと笑いながらお尻を撫でて怒られたり。
「お風呂で遊んじゃダメよ」
といなされたり。
温まって風呂から出て、そのままベッドへ連れ込む。
「髪乾かしてないのに」
「ドライヤーで乾かすのって傷まないんですかね」
でもドライヤーじゃないと先生の髪は寝癖つくのかな。
髪にもキスして。いい匂いだなぁ。
先生を沢山気持ちよくして、明日も早いから、と早めに切り上げることにした。
加減はしたのだがやはり先生は疲れてしまったようだ。
「おやすみなさい」
「ん、おやすみ……」
寝てるし。半分寝言だろこれ。
背中に密着して先生の肌に触れながら寝た。
朝、置いて出勤するのが惜しい気もして。
出る前にしっかりとキスをして出勤。
仕事から帰ったらもう先生はいなくて、お昼ご飯の用意だけがされていた。
おいしいけれど…一人で食べるとおいしくない。
あ。写真。
そうだ、昨日印刷しようと思って忘れてたな。
写真専用機で出して、と。
うん、綺麗だなぁ。先生も桜も。
変なものは写りこんでないようだし、と。
封書に入れて鞄に仕舞う。
明日忘れないようにしよう。
さて、昼寝。
夕方起きて飯を食ってさらに寝る。
朝起きた。
今日はお稽古日。
仕事頑張って先生に逢いに行こう。
やはりまあ、火曜は暇で。
他の社員たちも今日は花見に行こうと早く帰る支度をしている。
さっさと帰宅して用意を整えて先生のお宅へ。
「こんにちは」
「いらっしゃい」
あ、八重子先生だけだ。
「これ、写真です。花見の」
「どれどれ? へぇ、カメラ持っていったのかい?」
「携帯ですよ。結構綺麗に撮れてますでしょ?」
「あら、もう来てたの? いらっしゃい」
先生が台所からお昼を持って出てきた。
「今日は暇でしたから…ん? 甘茶?」
「潅仏会よ」
「あー…花祭りですか。忘れてました」
「あと今日もあなた円草ね」
「うっ」
「他の方は今週と来週は平点前するから」
「基礎大事にですか」
「来月は風炉だもの。確実にしないと」
「わかりました」
「ああ、そうだ。引次は茶事しようかと思ってたんだけど…。
 許状来てるのあんた以外いなくてねえ」
「三人でしようかって思ってるのよ」
「とするといつもとは違う曜日のほうが良いですよね」
「明日どうかしら」
「心の準備が」
「三人だし茶事でもないし大丈夫よ」
「そうそう、私か絹かが点前してあんたに教えるだけ」
「今日の夜でもいいけどお風呂にも入って着替えてって思うとねえ」
「だから今晩はなしね」
甘茶ふいた。
素で言われるのはどうかと思うんだ…。
八重子先生が溜息をついて先生はなんか変なこと言ったかしら?って顔をしている。
「…水屋の用意してきます」
そそくさと立ち退いて水屋へ行き、お稽古の用意をする。
しばらくして生徒さんが来て、先生がにこやかに現れてお稽古スタート。
和気藹々とお稽古が進む。
「絹先生、日曜に山沢さんとご一緒してらした?」
「え? ええ、一緒でしたけど」
「ああやっぱり! 皇居で母が先生と男の方がご一緒だったのを見たと申しましてね」
「乾通りの通り抜けに行ったんですよ。凄い人でした」
「あらー、いいですわねぇ」
「一時間半待ったんですよ、セキュリティチェックが時間かかるので」
「そんなに? 大変ねえ」
「それでも今年限りかもしれませんからね」
「ですから山沢さんお誘いしたんですの。ほほ」
「八重子先生はご一緒じゃ?」
うっ、と詰まった気配。
「なんせ1時間半待ちですしね」
あぁうんうん、と生徒さんも納得。
他の方々もお稽古が終わり後は俺を残すのみ。
俺へのお稽古は雑談もなく厳しく。
終って水屋を片付け。
「見られてたわねぇ…」
「やっぱり外出は気をつけないといけませんね」
「でも私と一緒にいる男性は山沢さんってみんな思ってくれてるのかもしれないわね」
「だといいですねぇ。それなら不倫の噂にはなりませんから」
「そうね。あ、そうそう。明日あなたの格好なんだけど」
「はい?」
「3つ紋か5つ紋かの色留持ってきてたでしょ? それ着て頂戴」
「え、あ。はい」
「袋帯は締めてあげるから」
「女装ですか…」
ちょっとげんなりしてたら笑われた。
「いいじゃないの、たまには」
片付け終えて台所へ。
もう食事は出来ていて、食卓へ配膳してお夕飯をいただいた。
律君が暫くして帰ってきた。
先生が味噌汁を温めなおしている。
八重子先生が律君に俺と先生の写真を見せてる。
「いまどきは携帯でこんなに綺麗に撮れるみたいだよ。いいねぇ」
「へぇ、すごいね。っていうか山沢さん、お母さんと花見行ってたんですね」
「朝ニュースで皇居の公開って言っててね、じゃ行きましょうってことで並んでね。
 でもこれはすぐ近くの靖国で撮ったんだよ」
「え、なのにこんなにクリアなんだ?」
「あらなぁに? 一昨日の写真?」
「うん、綺麗にとれてるなーと思って」
律君が頂きます、と言って食べ始めた。
先生はにこにこと孝弘さんや律君の世話を焼いてあげていてほほえましい。
「律君は誰かと花見行った?」
「うーん。うちにあるから」
「お友達といったらいいのに」
「近藤? 彼女いるからあいつ」
「あんたも彼女作れば?」
先生、そりゃ酷な。作ろうと思って作れるものじゃないし。
俺は先にご馳走様をしてくつろぐ。
「御免ください、宅配です」
玄関から声。
「あ、ちょっとお願い」
「はい」
パタパタと玄関へ行き受け取る。
サインをして荷物を持って台所へ。ビールらしい。
送り状をもって居間に戻り、お渡しする。
先生は引き出しから帳面を取ってなにやら書き付けて送り状を仕舞った。
お返しとかするんだろう。
律君も食事が終わり、残ったものを孝弘さんが平らげて片付ける。
洗い物を仕舞い終えれば風呂をすすめられ、いただいた。
さてと。今日はなしか。
抱っこだけか、ちょっと辛いな。
先生は気にしてなさそうだけれど。
おしゃべりをして夜が更けて布団へ。
懐に抱いてると、今日はダメよ、そういって腕を絡めてくる。
扇情的で手を出したくなるのにしてはいけない。
くすくす笑われて、寝なさい、と仰る。
ふっと息をついて先生の胸元に耳をくっつけてゆっくりと呼吸をしていると撫でられた。
先生の呼吸が寝息に変わり、俺も寝た。
まだ夜も明けないころ目が覚める。
先生の寝顔が可愛らしい。
抱きたいな、と思うが…今日はダメだったと思い出す。
トイレに立って手を洗って布団へと戻る。
「うぅん…」
おっと起こしてしまうか?
いや、寝息。
気持ち良さそうに寝ている。
寝返りを打って俺の腕を胸に引き入れた。
やわらかいなぁ、乳。
揉みたくなっちゃうじゃないか。酷いな。
まだ眠いから寝てしまえばいいが。
うつらうつらと先生の寝息にあわせて寝て、朝が来る。
起きたらしっかりと俺の手が先生の乳にフィットしていたらしく。
先に起きた先生が困っていた。
起こすに起こせず、だったらしい。
そういうところが可愛くてついキスしてしまった。
ぺち、と額を叩かれて朝飯の支度に台所へ行く。
朝ご飯を食べて一服したら炭や釜などの用意。
最初からの用意を手伝わせていただくのは久々で、指示を貰ってその通りにするばかり。
用意が整って、着替える。
流石に先生方はすばやく着替えられ、俺が帯を締めようというころには終えられていた。
先生が着付けをちょっと直して二重太鼓に締めて下さり、席入り。
お点前は八重子先生、半東と次客は先生が二役を。
黒塗りの台子。
初炭からだけど…いつもの初炭とは少し違う。
「真台子の初炭は違うのよ」
解説を一つずつしてくださりつつ、進む。
唐金の皆具の真台子は背が高いので八重子先生はちょっと大変そうだ。
「真はすべて省略せず、すべてこれまでにしてきたことだから覚えるのは簡単なの」
うーん、たしかに見ていてわからない、と思う点はない。
これまでにやってきたことを本式できっちりすればいいという感じではある。
「ただこれを覚えると他のお点前のときに混ざるんだよねぇ」
と八重子先生。
あ、たしかに省略していい行のときにやっちゃいそう。
「だから初級クラスの人は見ちゃいけないのよね。混乱しちゃうのよ」
続き薄にするわね、と仰って薄茶もいただいた。
お点前がすべて終って総礼。
「どうだった?」
「確かに見ているとこれまでのことで出来そうな気はしますけど…。
 点前するとなると違うんでしょうね」
「基本的にメモをとるのも写真もビデオも残しちゃいけないって言うけどね、
 覚えるまでは取ってもいいよ。覚えた頃にはいらなくなってるから捨てなさい」
「あ、はい」
「支部の講習会なんかはこういうのをやったりするから。
 あんたが先生になってからの話だけどね、わからなくなったら暫く封印して
 支部までお稽古お願いに行くんだよ」
「そうなんですか?」
「私らも曖昧になることがあるからね、たまにお稽古に行ってるだろ」
「そうだったんですか」
「七事式もここではそんなにはしないからね。支部ならあるから」
色々とお話をしていただいて、じゃ着替えて片付けようということになった。
普段着に着替えて茶室に戻り釜を下ろそうとしたら先生が濃茶を一服所望された。
先ほどの真の行でかと思ったが作法要らないからただ点ててと。
気が楽になりしっかりと練る。
こんなものだろうか。
八重子先生が正客として一服され、お服加減を問う。
惜しい、もうちょっと。と言われてしまった。
先生に茶碗が渡って、確かにもうちょっとねぇと言われて。
茶碗を漱いだらそのまま先生と点前座を交代して先生が点ててくださった。
やっぱり美味しい。
ほほほ、と先生が笑う。
「こうなるまでに私も山沢さんのようなお茶点ててたわよ」
「自分で飲みなってよく言ってたねえ」
さてさて片付けてる間に先生はお昼作ってくると台所へ。
八重子先生が真台子の組み立て方や片付け方、皆具の片付けなども教えてくださった。
引次を終えて片付けも終えてすっかりほっとした気分で許状をいただいた。
お昼ご飯を食べて縁側で先生と日向ぼっこ。
のんどりしていると八重子先生も縁側に。
お茶とおせんべい。
「お天気いいわねぇ」
「気持ちいいですねえ」
一服をしてから掃除。平日だからね、先生も主婦業をしないといけない。
俺も指示を貰いつつお手伝い。
廊下を拭いたり、庭の雑草を取ったり。
3時になっておやつをいただいたらお買物。
トイレットペーパーなどかさばるものも買って、焼酎も買う。
司ちゃん用のを切らしてたらしい。
「ほんと助かるわぁ…律もほら、大学あるから遅いでしょ」
「お夕飯の買物には間に合いませんよね」
「あなた力持ちだし」
「ま、仕事が仕事ですからね」
帰宅して先生の決めたメニューに従って下拵え。
今日はメイン肉じゃが。
と言うことでジャガイモの皮を剥く。
…肉じゃがなのに豚肉なのはいまだに違和感があるが仕方ない。

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