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百鬼夜行抄 二次創作

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伶(蝸牛):絹の父・八重子の夫 覚:絹の兄・長男 斐:絹の姉・長女 洸:絹の兄・次男 環:絹の姉・次女 開:絹の兄・三男 律:絹の子 司:覚の子 晶:斐の子

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朝、気づくと先生が懐の中にいた。
ああ、またか。
しょうがないな、と寝てる唇にキスを落とし出勤した。
まぁいつもの暇な火曜日、と言ったところである。
仕事が終りそうなころ、先生からメール。
そろそろ終るから帰ると返事をする。
しかしピーマンを食べさせたがるのはなぜだろう。
別に苦手ではないんだが。偏食のイメージ=ピーマンなのか?
ゴーヤは遠慮するが。
帰宅すると先生が炒め煮をしていて、3色+ちくわだった。
待ちきれない、と言うとこれ食べる?とくれたのはピーマンのチーズ焼き。
「あ、冷蔵庫に佃煮もあるから明日食べるなら食べて」
「どんだけピーマンかったんですか」
「だって安くていいものだったからつい、買っちゃったの」
えへ、と笑ってるのはかわいいんだけどさ。
「明日半分持って帰るから、ね」
メインは生姜焼きだった。
飯がうまい。
お味噌汁は麩と人参少々。
佃煮に入りきらなかったようだ。
手は掛けてない、と言うがちゃんと美味しくて、その辺が長年の主婦と言うことか。
おいしくいただいてごちそうさまをする。
お茶を飲んでふうっと一息ついた。
「そろそろ着替えてお化粧直すわ。洗い物してくれる?」
「はい」
フライパンや鍋を洗い、味噌汁の残りは冷蔵庫へ。
夜うちで食べるのなら温めなおそう。
あ、佃煮。こんもりと鉢に入ってるな。
台所も食卓も片付いて、じゃ俺もそろそろ用意をしようか。
着替え終わったころ先生も化粧が終わり、トイレに行ったようだ。
一応袱紗なども用意しておく。
「さ、そろそろ行きましょうか」
「はい、そうしましょう。忘れ物ありませんか? 袱紗とか懐紙とか」
「あ、一応確認しなきゃね、うちなら予備有るけれど」
確認して二人連れ立つ。
まずは新宿アルタ前へ移動した。
暫くすると和服の奥さん二人が見える。あれがそうだろうか。
先生も気づかれて会釈を交わす。
それから近くまで寄ってご挨拶を。
弟子の山沢です、と挨拶し、男の方って珍しいわねーなどと話題にされる。
女の先生と男の弟子、と言うのが珍しいのである。
いや年寄りの女師匠に男弟子、というのは良くあるんだが。
その方々にご案内いただき連れて行ってもらった。
結構なお宅で、茶室もしっかりとしたものだ。
いらっしゃい、と迎えてくださったのは老齢の先生で、七事式がお好きな方だとか。
後お二方見えるから、と和室に通され、昆布茶をいただいた。
うーん、うまい、体が温まる。
ほどなくしてお二方が見えられた。少し先生より上くらいかな。
その方々も用意されて少しお茶を飲んで落ち着かれて茶室へ入る。
さぁ、見学だ。
大変にややこしい花月の一種をスムースにこなされるのを見るとやはり凄いと思う。
見とれているとあちらの先生からお茶を一服いただいた。
あ、濃茶。お一人でどうぞ、と仰っていただき一口。
お服加減は、と聞かれる。
大変に甘くて美味しい、と答えすべて飲み、どこのお茶か聞いた。
あぁ、お家元好みか。
器は黒楽。口当たりが良くて素敵だ。
お返ししてお礼を言えば、濃茶を美味しいといわれるのが嬉しいと仰る。
自分はまずい濃茶を練ってしまう確率は高いから…美味しいといわれるのは嬉しい。
だけどこの先生方だとそういうことじゃないのでは?
と思えば、最近の方は濃茶の美味しさを知らない、と仰った。
一番最初が安い薄茶だと、あれが濃くなったもの=苦そう、または本当に苦かった。
そうなっちゃうから仕方ない。それに…練るの下手なもの同士で飲むわけで。
先生方が練られたお茶を最初にいただければ、お茶の甘みがわかるのかもしれない。
お稽古は進み、〆に数茶、との事で先ほどの先生と私も席へ。
これは絵合わせの趣向で同じ絵柄を引いた人が飲める。
煙草もOK。
って煙草盆回ってきた。
スルーしようかと思ったら吸いなさい、と仰って一服いただく。
ちょっと辛いのは乾燥してるんだな。
ゆったりとしたお茶のお稽古が終わり、一旦和室へ。
そこで生姜湯が出されて、いただく。
「外は寒いから」
とのことだ。
亭主の気遣いとはこういうものか。
ではそろそろと皆さんで辞去し、各々別れた。
「先生、夜、どうなさいます? 食事にどこか、ってんならこのまま行きましょうか」
「んー…あなた何か作って頂戴よ」
「いいですけどなに作りましょうかね」
「お魚の焼いたのと、煮物とおひたしでいいわよ」
「煮物、うぅん、何作ろうかな。大根はどうです?あと南瓜とか」
大根と昼のちくわの残りを炊いてしまえ。
南瓜を炊いたら彩りもいい。
おひたしはホウレン草だ。
魚は昼に食おうと思って持って帰ってたメバルがある。
酢橘か何か買って帰ろう。
算段をして帰り道に買物をし、帰宅。
着替えて手を洗ったら調理開始。
先生は居間でテレビを見てる。
しばらくしてご飯も炊けて魚が焼けた。
先生が台所に来て盛り付けて配膳してくれる。
冷蔵庫から佃煮を出した。
食卓について、いただきます。
「味付けがうちとはやっぱり違うのねぇ。けどおいしいわ」
「あぁおいしいならよかった」
ぺろりと食べ切ったが佃煮は流石に残った。
冷蔵庫に戻してお茶を入れる。
先生にもお茶を渡して横に座ると頭をなでられた。
なんだ?
そのまま俺の頭を先生の膝へ持っていかれて、ああ、膝枕ね。
先生の手が頬をなでる。
唇を細い指がなぞる。
その指を少し舐めると手が止まった。
先生の膝頭をなでる。
びくっとしているが…着物じゃ何も出来ないんだよね。
寝巻きの浴衣なら割と簡単に突っ込めるんだが。
「ねぇ先生。お腹落ち着いたら抱かせてください」
「あ…」
何も言わずに俺の腕をなでている。
一時間ほどして足が痺れた、と膝から下ろされた。
その足をつついてみたりとじゃれて、立てるようになったころ。
「脱いで」
「あ、うん…」
肌襦袢一枚になって着物を片付けてる先生にむらむらとして襲い掛かりたくなった。
片付け終わってこっちへ向いた先生が後ずさりするほどに。
抱き上げてベッドへ。
今晩は割と普通に抱いて、でも少し羞恥を煽って。
先生も軽く煽るとますます濡れて、どこか被虐のケがあるようだ。
リバってやつか? 俺を弄って楽しむところもあるからな。
「自分でして見せて」
そういうと出来ない、したことがない、という。
「俺を泣かせたいなら稽古が足りないな。
 自分で稽古してどうすれば気持ち良いかしてみればいい」
そういって先生の手を掴んで先生の股間に持っていくものの、やっぱりできないようだ。
泣きそうになってて可愛くてたくさんキスをしてしまった。
そのままもう一戦して眠い、と言うので寝かした。
朝、やはり寝過ごして8時前。
はらへった。
パンを焼いて蜂蜜をたっぷり塗って食べる。
ぬるいエスプレッソ。
しばらくして先生も起きてきた。
頂戴、と言うので新たに焼いて蜂蜜かバターか、といえば蜂蜜。
コーヒーかエスプレッソ、と聞けばコーヒー。
ミルクはこの家に今日はない。
まだ眠そうだ。
「もうちょっと寝てたらどうですか?」
「あなたも一緒に寝ましょ」
「俺は別に眠くないですよ?」
「いいから」
「はいはい、甘えたいんですか?」
「悪い?」
「悪くない。良い気分ですよ」
ふふっと笑って抱きしめて、抱き上げる。
「でもえっちはだめよ? 眠いんだから」
「しょうがないなぁ」
ベッドに入り頬をなでる。
「キスくらいはいいわよ」
そう言われたから深くキスした。
「まだ眠い?」
「ばか。寝かせてっていったのに」
「一度したらまた眠くなるかもしれないね」
軽く乳首に触れるとビクッとして。可愛いなぁ。
「ちゃんとするか、直接こっちで軽くかどっちがいい?」
「…軽くでお願い」
「OK」
するりと股間にもぐりこみ、突起を舐めて逝かせた。
汁を舐め取り先生にキスすると叱られ。
怒るところも可愛くてつい懐に抱きしめてしまうと叱る声が止んだ。
「可愛いなぁ、愛してる。寝てもいいですよ」
ぐっ!乳首つねられた。
「だ・か・ら! なんでそこを抓る」
「痛がるからかしらね。じゃおやすみなさい」
はいはい。
汗が引いてきたころ布団をかける。
寝息。気持良さそうだな。
眠くはなかったのに誘われるように寝てしまう。
次に起きたら昼過ぎだった。
先生にお手水行きたいから手を離して、と起こされた。
一緒についてって抱きしめてトイレに入ろうとしたら脛を踵で蹴られた。
思わず放した隙にトイレに入られてしまった。失敗。
出てきた先生にランチの美味しいところ連れて行ってとねだられ、着替える。
和食、とのことで懐石系のお店へ。
外は雨だった。
入店し、コースを頼む。
先生が幸せそうに食べてて俺も幸せ。
食後、このまま帰るか聞いてみた。
雨の中また出てくるのがいやだというかもしれないし。
「そうねぇ…そうしようかしら。着物とか明日持ってきてくれるわよね」
「お持ちしますよ」
「だったら、うん、もう帰るわ」
「俺としちゃ、帰したくないんですけどね」
「あら」
頭を混ぜられ髪を崩される。
「可愛いわ、そういうところ。いつも可愛かったらいいのに」
「あなたを可愛がるほうが好きですから」
ぽっと頬を染めて、ん、可愛らしい。
電車の乗り場まで送って別れる。
さて、と。晩飯の惣菜は昨日のがあるし。
飯もまだ一膳分はある。
そのまま帰ろうか。
いやプリンだ、食われたプリンを買いなおそう。
コンビニへ寄って帰宅して。
後は縫い物を少しして夕飯を食べておやすみなさい。
翌日、思い出してメールする。
ピーマンのことを。
使っておくか持ってくるかどっちでもいいとのことで持っていくことにした。
仕事が終わり、シャワーを浴び着替えて先生の着物とピーマンを持ってお稽古場へ。
台所にピーマンを置き居間へ行って着物をお渡しする。
「あ、今日は濃茶で花月するからわかってるわよね」
「そうでしたね。うっかり折据回しそうです」
「ん、最初の正客は私がするから」
「お願いします」
ほっとして用意をする。
生徒さん達が来られて濃茶付花月をする。
4回して、やっと時間が来て終了。
やっぱり苦手だなぁ。
片付けてるとご飯食べて帰るでしょ?と言われたが…。
やっぱりピーマン。
肉詰めね。いいけどね。
野菜の炒め物と。
美味しくいただいて今日は帰る。
「じゃまた土曜日お邪魔します」
「またね」
と軽くキスされて。
いや律君に見られたらどうするんだよ。
最近大胆だなぁ、と思いつつゆっくりと帰宅した。
翌朝の支度をして就寝。
うちの布団にも先生の匂いがして、いないのにいるような気がする。
だからいないにもかかわらず幸せな気分で眠れた。
翌朝、金曜なのにそれなりに荷物は動き。
仕事が終って外に出れば天気もよく温かい。
こんな日は散歩しようか。
昼を食べた後、掃除を済ませ散歩へ。
汗ばむ程度の散歩だが清しい。
桜が咲きはじめていて思わず写真にとって先生へ送る。
久々に思い立ってトレーニングもしてしまった。
風呂に入ってのんびり。
浴衣をまとって出てみるとメールあり。
先生からお花が綺麗に活けれたから、と写真が来ていた。
うーん、春だなぁ。
2通目は、と見ると八重子先生の仕業だな、先生が花を抱えているところの写真。
ん、綺麗だ。
八重子先生もそう思ったのかな?
そうじゃなきゃ俺が見たがるだろうから送ってくれたのかな。
嬉しくなってパソコンにも転送した。
ゆったりと気分のよいまま夕方になって、何を食べようか。
まだピーマンの佃煮はある。
味噌汁は久々に作ることにして…あ、味噌がない。
ってことは味噌屋に寄って来ないといかんな。
塩鮭あるから納豆と卵。
ん、朝食になってしまうな。まぁいいか。
買い物へいこう。
夕方とはいえまだ温かい中買物を済ませ帰宅してシャケを焼いて味噌汁を作る。
ごはんはレンチンだが…久々に食べるとまずい。
炊き立てご飯にはかなうわけもないな。
なんて思いつつ平らげて、ごちそうさま。
歯を磨いたらおやすみなさい。
朝、気分よく起きて出勤。
その気分も束の間、温かさと土曜日と言うのもあり怒涛のように荷物が動く。
ぐったりして時計を見上げれば8時過ぎだ。
早いなぁ。
あ、メール入ってる。
先生からだ。
今朝から弄 …ああ、生理かな? 月のマークか。
ちょっと残念に思いつつも残りの仕事を片付けて帰宅し、お稽古の用意をした。
さて先生のお宅へつくと先生はちょっとぴりぴりしてらっしゃる。
ま、この時期は仕方ないね。
八つ当たりされるかもしれないなぁ、気をつけて振舞おう。
意外とそんなこともなく、生徒さんにも優しげにお稽古が進む。
凄いな、お稽古だと大丈夫なんだな。
生徒さん達が帰られて水屋を片付けてたら何か不機嫌そうだ。
手を掴まれた。
「どうしました?」
手が白くなるほどに俺の腕を掴んでるけどそれほどには痛くない。
握力20くらいかな、この感じは。
「早く片付けましょう、足冷えますよ? ここ板の間ですし」
「あ、ああそうね」
「じゃなきゃ居間に戻ってコタツにもぐっててください」
「そうさせてくれる? 悪いわね…」
もしかしたら不機嫌じゃなくて生理痛だったかな?
手早く片付け台所を覗く。
「ああ、もうできるから食卓片付けとくれ」
「はい」
食卓を片付けていると先生がする、と言い出したが、そのままそのまま、と。
台所からおかずや味噌汁などを運び出して展開し、孝弘さんたちを呼んだ。
今日はご飯をよそうのも私だ。
先生は気だるげに黙々と食べている。
律君はそんなお母さんの様子はスルーだ。
いつものこと、と言うところか?
孝弘さんは、あれ? ちょっと気にはしてるのか。
おかわり、と言いにくそうにしている。
気配を察知して聞いてあげたり、先生の取り皿におかずを乗せたり。
食後、先生はこたつに横になった。
「布団敷きましょうか?」
「ちょっとこうしてたいだけだから」
眠いのかな。
背中が冷えないようハーフケットを掛けて、片付けに立った。
洗い物を終えて戻ると八重子先生が痛み止めまだ持ってるかと聞く。
「あ、ありますよ、鞄に。どこか痛むんですか?」
「絹がねぇ…」
「ああ、生理痛ですか。それじゃあ先日の薬でいいですね、取ってきます」
「悪いわね」
渡すと八重子先生がお白湯を渡して飲ませている。
横に座ると先生が俺の手を握る。
痛いときって心細いのかもしれない。
そのうち薬が効いてきたのか、あふ、とあくび、そして寝息。
握る手から力が抜けて畳の上に落ちた。
可愛いなあ、とついニヤついてしまった。
「布団、敷いてきます」
「あ、お風呂どうする? 入る?」
「最後に浸からせて貰っていいですか?」
「ん、それならお湯は落としといてくれるかい」
「ついでに風呂洗っときましょう」
「そうしてくれると助かるよ」
寝間に布団を敷いて先生の寝巻きを出す。
さて、部屋につれてきて着替えさせるべきか。
あちらで着替えさせ布団に突っ込むべきか。
とりあえず居間にもって行くか。
戻ると八重子先生は既にお風呂に行った様だ。
先生の横に座って寝顔を眺めて。幸せ。
髪をほどいて帯を緩めて行く。
帯締めをほどいて、帯枕を抜いて。
さて、帯は流石にほどけないな、起こさないと。
髪を撫でて人の気配がないのを良いことに軽くキス。
ゆったりとお茶を飲んでいると八重子先生がお風呂から上がってきた。
交代で入る。
ぬるめの湯にしっかりと温まって、湯を落とし風呂を洗う。
先生は明日はいるだろう。
ん、ピカピカになったはずだ。
体を拭いて浴衣を羽織って出れば律君と行き会った。
律君は顔を赤くして立ち去る。
ん?と思ったら羽織ってるだけだから見えてたか、いろんなものが。
先生も裸でうろうろしないから見慣れないのだろうか。
苦笑し、居間に戻る。
まだ先生は寝ていて八重子先生にここで着替えさせていいか聞いてみた。
構わないというので上体を起こして抱きとめて帯を解く。
紐をすべて抜いてまとめて脱がせ、浴衣を着せる。
「相変わらず上手にするもんだねえ」
「着せるほうは無理ですけど脱がすんなら簡単ですよ」
「さて、寝ようかね。ああ、火の始末と戸締りはもう確かめてあるから」
「ありがとうございます、おやすみなさい」
コタツを切って先生を担いで寝間へ行こうとしたらさすがに目が覚めたようだ。
「お手水行ってくるわ…」
と、よろけて柱にぶつかった。
苦笑して手を引いてトイレにお連れする。
「中で寝ないで下さいよ、着物片付けてきますから」
「ん…」
片付けて寝間に戻ればまだいない。
一応トイレに声を掛けるとやっぱり寝てた。
ちょっと笑って出てくるのを待ってつれて帰る。
先生は布団に入ってすぐに寝てしまった。
俺も寝よう、おやすみなさい。
あけて翌日は曇り空。
降るって話だけど。
さて朝御飯をいただいて先生は昨日とは違って元気だ。
「掃除手伝ってくれるかしら」
「はいよ、どこしましょ?」
「お庭お願い。お風呂洗ってくるから」
「風呂は昨日洗いましたよ」
「あらそうだったの? 悪いわねえ。じゃ座敷掃除してるから」
「ういっす」
明らかに雑草、と言うものも片付けて焼き払うべく落ち葉の上へ。
火の番は律君と決まっている。
俺がやるんなら焼却炉置きたい。
どうせ今日は焼けない。湿度からすると雨だし、夜に少し降ったようだ。
明日は晴れるのかなぁと思いつつ落ち葉をはいて草をとって。
鳥に少しおやつをやる。
桜のつぼみがほころんできて美しい。
眺めていると花が一つ、二つ手に落ちてきた。
鳥のお礼か。
先生がお茶を入れてくれたのでそこに浮かべる。
「あら、風流ね」
「あの桜の、鳥のおすそわけですね」
「もう春ねえ」
「春ですねえ…お花見か。宴会はしないんですか?」
「晶ちゃんたちはするかもしれないわね」
「先生は混ざらないんですか?」
「親世代が混ざっても子供たちは面白くないでしょ?」
「先生が混ざるなら俺も混ぜてもらおうかと思ったんですけどね」
「晶ちゃんに手、出しちゃだめよ?」
「出しませんよ」
「だったらいいけど」
「たしかに晶ちゃんも司ちゃんも先生と似たところありますよね」
「まあねぇ姪だもの。だからって」
ついくすくすと笑ってしまう。
「なによぅ」
「可愛いな、と思っただけですよ」
少し膨れてるのも可愛い。
「お昼できたよ、孝弘さんに持ってとくれ」
「あー、はいはい、俺が行きます」
今日のお昼ご飯はオムレツか。色々入ってるなぁ。
それと肉の炒めたの。
スープがついてる。
これはうまそうだな。
「なんだ、お前か。あれは具合が悪いのか?」
「昨日はそうみたいでしたけど今日はそうでもないですね」
お櫃が空になるまで平らげてお膳を返してくれる。
お膳を引いて台所へ返し、戻ると俺の分が遺してあってそれをいただく。
スープはちゃんと温めなおしてくれた。
オムレツにはシャケのフレークとネギか。いやピーマンがまたいた。
昼はどうしても残品整理になるよね。
と思っていたら追加で先生が一品くれた。
「足りないでしょ?」
嬉しいなぁ。
「あんた山沢さんには優しいねえ」
「そうかしら」
「お稽古だと厳しいですよね」
「あらだって上級取るんでしょ?」
「助教授取れたら良いなぁとは思ってますが」
「厳しくしないと覚えられないわよ」
だよなぁ、先生が俺のためを思って厳しくしてくれてるのわかるから反発心がわかない。
お茶をいただいてゆっくりしているとかなり曇ってきた。
そろそろ降るのかな。
見ている間にぽつっと落ちてきた。
「ああ、降ってきましたね」
「明日は晴れるかしらね」
「晴れたら沢山洗濯物を干すんでしょう?」
「お布団もね」
八重子先生に頼まれて道具の目録作りを手伝っていると止んできた。
「あんた今日は早くお帰り」
「何かありましたか」
「今日は冷蔵庫の在庫整理だからね」
「ああ。じゃ、かえって何ぞ食べます」
「あんた…あんまり絹を甘やかすんじゃないよ」
「う、それは難しいです。甘えられると嬉しくて」
「わかるけどね」
「ただ私も生理前だと…ちょっとしたことでイラつくので。
 もしかしたらその時は喧嘩になる可能性はあるかとは思いますが…」
「あぁ人によっては苛々するって言うからねぇ、あんたはそういうタイプなんだね」
「ええ、妙にいらいらすると思ったら翌日とかあります」
なんか頭なでられてしまった。
キリのいいところで終了し、片付ける。
「さてと、それじゃ帰ります」
「あら、もう帰っちゃうの? もうちょっといたらいいのに」
「また火曜日来ますから。その時は、ね」
頬染めて可愛いなー。
見送られて帰途に着く。
帰り道に食料調達して帰ってすぐ手を洗って飯を食い、寝た。
さて本日は決算だ。
事務方が今日は早くから事務所に立てこもってピリピリしている。
大変そうだなぁとは思うものの、現場だと別にやることはない。
普通に買って普通に売るだけだから。
事務方が早く現場事務を終らせたいようでせっつく。
と言うことで早く仕事も終わり、ゆったりした気分で帰宅した。
良い天気だ。
せっかくだから散歩しようかな。
ぶらり、ぶらりと歩く。
帰って昼寝をして。
良い気持ちだ。
夕方一度起きて食事を取る。
ごはんと鯛のお造り、味噌汁。
さっと簡単に食べて。
布団にもぐった。
明日は…先生、もう生理終わってるのかな。
ちょっとメールしてみよう。
暫く待つと明日には終わりそうとのお返事だ。
うーん、微妙。
少々まだでも俺は構わないんだけどね。
それよりそろそろお花見したい、とメールに書いてある。
今週の土曜日かな…。
明日その話を詰めましょう、と送って俺は寝ることにした。
風呂は明日!
おやすみなさーい。
さて、本日エイプリルフール。
と言うか本日より消費税増税の話で持ちきりで、嘘をついて遊ばずに仕事が終りそうだ。
先生の教室では洒落っけのある人や余裕が有る人も多いからやってるかな?
シャワーを浴びて先生のお宅へ。
「こんにちはー」
「はい、こんにちは」
「あ、山沢さん、こんにちは。お久しぶりね~。丁度よかった~これ教えて~」
朝の生徒さんだが、どうやら最近スマホを入手したようだ。
「ああ、これはWiFiが飛んでないと…えぇと、WiFiがわからないですか。
 おうちに光回線とかネットとかされてます? ああ、で、それは無線でネットしてる。
 その無線をWiFiっていいます」
「あらじゃうちじゃないとだめなの?」
「駅とか、マックなんかは公衆無線回線ありますからそれに繋がると思いますよ」
「そうなのね~ありがと。じゃあ先生、失礼しますね。山沢さんもまたね」
ま、実はこの家にも無線は飛んでるわけだが。
じゃないとタブレット使ってられん。
「スマホって面白そうだねえ」
「あー…機能は多いですよ、でもあの小さい画面ですからね。
 指先が鈍くなってると使いにくいですよ。
 むしろ私の持ってるやつより少し小さめが使い勝手がいいと思います」
「山沢さんのそれ、電話できないだろ」
「出来ますよ」
「画面に向かって会話するの?」
「別にそれでもいいですし、イヤホンとマイクがセットになったのをつけて、
 それで会話してもいいですし…あ、それとこのタブとは無線で連携できますからね」
こんなの、と鞄からヘッドセットを出してみせる。
「既に連携されてるのでこれをつけて…画面から呼び出します」
先生の電話が鳴る。
「廊下のあちらまで行きますのでそれから出てみてください」
廊下の端から通話開始。
「聞こえますか?」
「聞こえるわ! 凄い。ほら、お母さん、これ出てみて」
「八重子先生聞こえます?」
「本当だねえ、へぇ~」
「じゃ切りますよ」
終了して横へ戻る。
「ただこれ、鞄に入れたままで通話できるんですけど…へんな人に見えるんですよ」
「…そうかも。独り言に見えるわよ」
「回避するのに携帯のモックといって模型みたいなものがありまして。
 それを手に持って耳に当てるというワザもありますが」
「まぁその話は後にして早くご飯食べないとお昼の生徒さん来ちゃうわね」
では俺は水屋を。
「あ、山沢さん、今週は荘り物中心にって決めたからよろしくね」
「茶筌荘りとかですか?」
「そう」
「わかりました、用意します」
水屋で状態の良い茶入と茶杓、茶筌と茶碗と水差しを用意した。
稽古が始まって今日は先生も気楽そうだ。
普段は上の方の手前に近づくに従い、やはり緊迫感が出てくる。
簡単なお点前でも生徒さんには優しいけれどきっちりお稽古されている。
楽しそうにお稽古されてるのを見ているのも幸せで。
皆さん帰られてから私のお稽古は厳しくて。
お稽古が終ってからその落差にちょっと拗ねたら笑われた。
苦笑してお夕飯をいただく。
先生がお風呂に消えて、八重子先生は町内会の会合へ。
しばらくして先生がお風呂から上がってきた。
「あら、おばあちゃんまだ帰ってないの?」
うわ、色っぽい。
するり、と私の横に座ってきて…ドキドキしてしまう。
「先にあなた、入ってきたら?」
「あ、いやしかし。それでは風呂掃除が」
「明日するわよ」
「だったら…一緒に入ればよかったですね」
「あら」
頬を染めてる。うー可愛い。
裸なんてそろそろ見られ慣れてるだろうに。
「じゃあ先にいただくことにします」
ふっと笑って湯に入りに行った。
しっかり温まって体を拭いて出ると律君。
なんでか風呂から出たときに会うのは通り道だからだろうか。
いい加減見慣れろ青少年(笑)
「お先、頂きました」
八重子先生が戻ってきてた。
「はいよ。じゃ入ってこようかねえ」
くしゃくしゃっと八重子先生に髪をなぶられた。
なんだろう。
まぁいい、と先生の横に座る。
すぐに先生がもたれてきた。
「そういえば。アレ、終ったんですか?」
「ん? ……あぁもうちょっとかしらね、明日くらい?」
あ、なんか耳赤くなってる。
「ふぅん…ところでですね」
「な、なに?」
「さっきから先生、俺の手敷いてるんですよね、結構痛いんです」
「あらっ」
慌てて膝を浮かせてくれて手を抜けた。
「ごめんね、凄く赤くなってるわね」
「ちょうど膝の下、って奴ですな」
「あ、ねぇ。律がこの間からあなた見ると横向いちゃうんだけど…何かあったの?」
「ああ、律君はなんというか間が悪いってのかな、あれは。
 丁度風呂上りの裸に近いときに出くわすんですよ。
 見慣れてないんでしょうね。先生も裸でうろつかないから」
「あらやだ、あなた裸見られたの? も~ダメよ、ちゃんと着なさいよ」
浴衣の合せをキリキリと〆られてしまった。
「暑いんですよね」
そのまま引き寄せる。
「すぐ冷えるくせに…ダメよ?」
「冷えたらあなたで温まろうかな」
「ばか」
きゅっ、と太腿をつねられて笑って手を離す。
「あとで、ね。今は律君もまだ起きてるからこんなところではダメでしょう?」
「そうよだめよ」
暫くおしゃべりを楽しんで、そろそろ戸締りと火の始末をしましょ、と立つ。
よし、玄関OK。
お勝手もOK、火の始末は先生がOKを出した。
居間へ戻ると八重子先生がおこたに。
「戸締り・火の始末大丈夫です」
「はいはい、じゃあんたらはもう寝ると良いよ。ここは私がするから」
「はい、お願いします。ではおやすみなさい」
「おやすみなさい、お母さん」
「はい、おやすみ」
八重子先生はどうやらテレビが見たかったようだ。
「昨日はお母さんずっとテレビ見てたわよ…歌番組で古い曲ばかりしてたの」
「上海帰りのリルとかですか?」
「私お風呂入ってて途中からだったから昭和44年あたりだったわよ、見たの」
「あ、その辺ですか。おひまなら来てね…あれは30年代だったかな」
「鼻歌で歌ってたわよ、朝」
「へぇ、一緒に見たかったなぁ」
「あなたそんな歌も歌えるのねえ…歌じゃないけど来て欲しいときもあるのよ」
「呼んでくださればすぐにでも」
話しつつ布団を敷いて寝床の用意を整えた。
少しおしゃべりをして、先生はトイレに立つ。
やはり少し冷えてきたな。
昼はあんなに暖かかったのに。
先生が戻ってきて、抱き寄せる。
そっと障子を閉めた。
「まだ、終ってないわ…だめ」
「どれどれ?」
布団の上に押し倒して股の間に頭を突っ込む。
「なんだ、本当にあと少しなんですね」
「わかったんならはなして、あ、ちょっと…ん…だめ、汚いわよ…」
懐から手拭を出して先生の尻の下に入れ、あそこを舐めて楽しむ。
なんだかんだ言ってそれなりに先生も気持ちよくなってくれて。
だけどキスしようとしたら本気で嫌がられた。
「口をすすいできて頂戴よ、お願いだから…」
仕方なく起きて洗面所へ。
口を漱いでから部屋に戻る。
先生は乱れた寝巻きを直していて、うん、それも綺麗だ。
後ろから抱きしめてうなじを舐める。
「もぅ、だめよ…土曜日ならあなたの家かあの部屋行ってあげるから。
 ね、今日はもういいでしょ」
「勿論土曜日もしますけど…もっとあなたを抱きたいな」
胸に手を差し入れて揉む。
上気して色っぽくて。
キス、それから徐々に手を下にやる。
お腹もすべすべして気持ちいいが浴衣が邪魔だ。
脱がせて裸にして。さっきの手拭は一応のためもう一度敷いておいた。
先生の反応を見つつ中に指は入れない。
別に入れなくても逝かせることは簡単だし。
生理中に入れると細菌感染したりするって聞く。
免疫が落ちてるらしいから。
中に入れたいけど我慢し、たっぷり先生の身体に触れていると先生も幸せそう。
嬉しくなる。
沢山キスもして、そろそろ、と逝かせて。
声を上げたそうで、せつない顔がまた愛しい。
後始末をしているとダメって言ったのに、となじられた。
「も一度しましょうか」
「えっ…」
身体をよじって逃げようとしてて、思わずくすっと笑ってしまった。
「しないから逃げないでいいよ」
「ほんとにしない?」
「そうだな、嫌がったらするかも?」
「いじわる…」
「おいで」
そろりと懐に身を寄せてきた。
きっとされるのかされないのかドキドキしているんだろう。
暫く抱き込んでゆっくり腕を撫でて。
先生が落ち着いたころ、寝巻きを着るように言い、俺は洗面所へ手拭の始末に立った。
大して汚れてはなくて少し石鹸で揉めば綺麗に落ちた。
部屋に戻るとやはり恥ずかしげにしてて、ほんっと良い。
劣情をそそるというか。
だけどこれ以上は我慢、土曜日まで待て!だ。
手拭を干してから布団にもぐれば、そっと横に入ってくる。
何かしようと思う暇もなく寝息が聞こえてきた。
相変わらず寝つきがいい。
でも俺もうちょっとしたいんだよなー…仕方ないか。
我慢して寝る努力をして、寝た。
朝、起きるとまだ先生は気持ちよさげに寝息を立てている。
とりあえずキスしたくなってキスをする。
あ、起きちゃった。
「もう起きる時間ー?」
「ええ、そんなような時間ですね」
「まだ眠~ぃ…」
「構いませんよ、メシできたら起こしに来ますから」
「ん、お願いねー」
手がひらひら振られて台所へ行く。
さてと今日は何を。
八重子先生が起きてきた。
「おはようございます。今朝は何しましょうかね」
「おはよう。絹は?」
「眠そうだったから置いてきました」
「あんた甘い。とりあえずそうだね、何か魚焼いてくれるかい」
冷凍庫を見て。ん、サワラでいいかな。
軽く味噌を洗ってからグリルへ。
八重子先生と朝御飯を用意して先生を起こしに行く。
「先生、ごはんできてますよ。そろそろ起きてください」
「んー…んん?もうそんな時間なの?」
「7時半前ですよ。味噌汁が冷めちゃいますから」
もぞもぞと布団から出て身支度を簡単に整えている。
「あなた食べたの?」
「先生と食べようと思ってるのでまだです。律君たちはもう食べ終わってるかと」
「あらそう? 待っててね、すぐ用意するから」
着替えを手伝って一緒に居間へ食卓に着く。
お味噌汁を温めご飯をよそい、先生の前へ出して一緒にいただく。
「行ってきます」
「あ、行ってらっしゃい、気をつけてね」
律君は1時限目から学校らしく慌てて出てった。
「ことしのお花見ねぇ、お茶会しようかって言ってたけどだめだねぇ、雨の予報だよ」
八重子先生がテレビの天気予報を見ながら。
「うーん、散りそうですか?」
「散っちゃうかしらねえ」
「じゃお昼に三人で花見したいです」
「しちゃう?」
「あったかいしね」
食後、そのために色々用意をする。
三人だけだから茶事じゃなく、普通にお茶を点てていただいた。
お昼に軽く食べて、濃茶。美味しい♪
「綺麗ねぇ…」
「ええ」
ひらり、と花びらが薄茶の上に。
緑のお茶に薄紅の花、風情を感じる。
サワサワと風、鳥の鳴き声。
春だなぁ…。
お客さんが来て八重子先生が相手をしている。
先生をおいで、と招いて膝枕をしてみた。
しばらくしてあふ、と先生のあくびが聞こえる。
「まだ眠いですか」
「ゆったりしてるから、ついね」
ぼんやりと桜を見上げているうちに寝息が聞こえてきて。
寝顔が可愛いなぁと見とれているとそこにも花びらが落ちてきていて。
お客様が帰ったようで八重子先生が戻ってきた。
ハーフケットを持って先生にかけて。
「もう一服いる?」
「あ、ありがとうございます」
お茶を点てていただいて美味しいなぁと思ってると先生が膝でもぞもぞ動く。
うーん、早く飲まねば溢しそうで怖いな。
吸いきってお茶碗を返すと八重子先生が笑ってる。
俺も甘いけど八重子先生だって甘い。
先生が起きたのを切りに曇り空も広がってきたのもあるからと片付けた。
「お買物、行きましょ」
「ええ」
二人で買物に出て色々と買い込む。
「あら空が…」
「ああ、早く戻らないと降るかもしれませんね」
うちに戻って台所へ。
「どうする? 降る前に帰っちゃう?」
「んん、そうしましょうか。降られると厄介ですし」
「そうよね、じゃ気をつけてね」
「本当は帰りたくないな」
八重子先生が台所にいないのをいい事にキス。
「明日もお仕事でしょ…だめよ」
「あなたは俺を帰したくないとか思わないんですかね…」
ぷっ、と先生がふきだした。
「なぁに、拗ねてるの? やぁねぇ」
くすくすと笑ってバシバシと俺の背中を叩く。痛い。
「拗ねちゃいけませんか」
私の頬に手を添えて先生からキスしてきた。
「ばかね、明日も来てくれるんでしょ?」
「勿論です」
「だったらお仕事に影響が出ないようにするのは社会人なんだから」
「ええ、まあそうですけどね。引き止めて欲しかったな」
頭をなでられてしまった。
うーん。
「土曜日はあちらの部屋でもいいわよ」
「良いんですか?」
嬉しくなって見返すとそんな俺を見て先生がくすくすと笑ってて…後悔させたくなった。
「だから今日は早く帰ってちゃんとご飯食べて寝て、明日もお仕事ちゃんとしてね」
「ま、そういうことなら帰りましょう」
うふふ、と先生が笑って。可愛い。
「じゃ雨に降られないうちにね」
「はい。ではまた」
軽くキスして別れ、電車に乗って帰宅しても雨は降らずじまい。
メシ食ってから帰ればよかったと後悔しつつ、途中で買った弁当を食べた。
今日の夕飯、とメールが来て美味しそうでうらやましくなる。
食べたかった、残念!とメールを返して寝る準備。
寝る前にトイレに行けば、ああ、今日からか。道理で。
と始末をしてそれから布団へ。
明日は雨か…。

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h22

もう朝だ! 仕事だ…。
幸い今日は天気がよく、暖かい。
帰ったら布団を干したい。
仕事をしているとメールの着信音。
手が開いたときに見ると先生からで、昨日のちょっと痛いらしい。
気になるようなら病院行ってください、一人じゃちょっとと言うのなら一緒に行きます。
そう返事をして様子を見る。
9時半頃、メールが来た。一緒に行きたいと。
俺の行ってる病院が良いと言うことだ。
やっぱり自分のいく病院にそういう理由でいくのは気恥ずかしいのか。
俺の家に一旦寄って待っているとのことで仕事をさっさと片付けて特急で帰宅した。
「ただいま、どうですか具合。着替えるから待ってくださいね」
「おかえりなさい。うーん、ちょっと痛いのよ…」
「出血とかありませんか?」
「それはないんだけど」
手を洗ってさっと着替えて一緒に病院へ。
「どうします?カルテ残したくなければそのように出来ますが」
「えっそんなのできるの?」
「ええ、まぁ。そんなに通わなくてもいいとかなら」
「そうしてほしいわ、だってほら通知来るでしょ、保険証の。どこにかかったとか」
「ああ、来ます来ます。八重子先生に見られても問題はないでしょうけど」
「他の人はねぇ」
「ま、更年期でって人もいますけどね、早いと俺くらいの年からですし」
「でもねぇ」
「っとここです。便宜上…飯田春子でもしますか」
「なんでもいいわ」
受付に伝え問診票を貰う。
手が止まった。
痛みの場所とかは書けたがどうしてかが書けなかったようだ。
取り上げて書き込む。
受付に渡して暫くして呼ばれた。
一緒に入って問診を受けるのを横で。
「で、心当たりのところね。これ、んー」
頬を染めている。
「遊ばんで下さいよ。素人さんなんですよ、勘弁してくださいや」
「すまんすまん、じゃ内診しようか」
「ついでにがん検診もしといてください」
「勿論だ。こんなものは一度で済ますに限る」
手馴れた様子でさっさと終えて、ちょっとした打ち身のようなものと説明された。
「がんは問題ないね、検査には出しておくけど今見たところはね。だけど…」
乳がんの検診もそろそろ受けるように、と言う。
「うちは機械がないからね、かかりつけにマンモが有るならそこで受けると良い」
ふむふむ。
俺に上半身脱げという。
ぽいと脱ぐと乳がんの触診はこんな感じでやるから、と先生に見せる。
「ま、こんなカンジね。よし、どうせだからお前もマンモ受けとけ」
「あれ痛いって聞くから…やだなぁ」
「手術のほうが痛い。それに男が受けるのに比べればましらしいぞ」
ごそごそと服を着て先に会計へ。
支払いを終えしばらくしてから先生が出てきた。
少し恥ずかしげなのはどうしたことだ。
聞けば俺にへんなことをされてないか聞かれたらしい。
あ、DVね。
望まぬセックスとか。
医者には出来る相談ってのはあるもんなぁ。
部屋に戻って色々話していると、お尻を舐められるのが困る、と言ったとのこと。
うーん…。
次回の検査のときに何言われるか。
苦笑しつつ貰った抗炎剤を渡す。
痛むようだったら、とのこと。
「そういえばお昼食べました?」
「ううん、まだよ」
「じゃなんか食いにいきましょう。何か食いたいものあります?」
「……天麩羅たべたいわ」
「ああ、家だと揚げ物面倒ですもんね」
「油の匂いも凄いでしょ」
「ああ、そうか、結構匂うか。じゃ行きましょう行きましょう」
電話で席があいてるか確認して着替え、二人連れ立つ。
天麩羅久しぶりかも。
ほんの少しお酒を頼んでキスやあなご、メゴチ、エビ。
他色々、野菜も色々。結構しっかり食べて満腹に。
「あぁおいしかった!」
「うまかったですねー」
「でも胃もたれしないのよね」
「良い油使ってるんでしょうね。さてと、送りますよ」
「いいわよ、お昼間だしあなた明日もお仕事でしょ」
「あ、そうだ、思い出した。水曜日仕事あるんですよ、だから明日は帰りますから」
「あらそうなの? わかったわ」
なでなで、と俺の頭をなでてくる。
「なでるの、癖ですか?」
「つい撫でちゃうのよね、なんでかしらね」
「俺を下に扱いたい心の顕れ?」
「そうかも?」
「はいはい、いいですよ。夜以外は」
ぽっと頬を染めている。可愛い。
駅についてお見送り。
ばいばい、と車窓から手を振る先生。
さて。帰って寝るか。
帰宅してちょっとあれこれ家事をして、睡眠。
夕方腹が減って目覚める。
散歩がてらコンビニへ行き、帰って食べてまた寝る。
早朝出勤して仕事。
今日は暇そうだなぁ。
仕事中にメールを打つ。
春だから鯛を持っていこう。
あったかいなぁ。
途中で上着を一枚脱いで仕事する。
少し波が高いから入荷は少ないけれどどうせ火曜日だ。
そんなに買われないから良い。
ゆったりと仕事が終って帰宅する。
風呂に入り着替えて。さぁ稽古に行こうか。
電車に乗ってると先生からお電話。
見学者がくるの忘れて生菓子が足りない?
はいはい、と数を聞き途中下車して和菓子屋へ。
立ち寄った所は上生菓子が6種類。
足りないのは5個。
全種1個ずつお願いし、更にその他の菓子をいくつか買った。
ゆったり時間がある中到着して先生に菓子を渡す。
「あら、こんなに沢山?」
「孝弘さん、こういうのもお好きでしょ?」
「そうなのよねぇ」
水屋に入って支度をしよう。
あ。そうだ。
「先生、今日の見学の方はどうされます?」
「ああ別に用意は要らないわよ、椅子だけ出しといてくれるー?」
「ラジャー」
人数分椅子を出して置いた。
しばらくして生徒さんたち到着。
…たち?
「今日は花月よ。折据出して」
しまった、忘れてた。
俺を特訓するの先生も忘れてたよねっ。
まずは八畳平花月、とのことで。
正客と亭主を折据で決める。
折り紙の箱みたいなものの中に表側同じ模様で裏に数字札と月・花の札がある。
一番最初に月を引けば正客で花を引けば亭主だ。
ランダムに決まるため、引いた瞬間ゲッと思ったりもする。
やはり花を引いた人がげんなりした顔をした。
お菓子をいただいてからスタート。
先生にお願いします、と言ってからお正客がお先に、と席入りする。
そのまま続いて皆さん席入り。
八畳の席入りはまだいい。スムーズだ。
さて亭主はまずは迎えつけの挨拶で総礼。
客は全員袱紗をつける。
と言うのもこの後飲む人点てる人はまたもくじ引きだから。
4畳半の中へ移動したら亭主が折据を正客の前に。
一膝斜めに向いてから水屋へ戻り茶碗を持ち点前座へ。
茶碗を勝手側に1手で割付け棗を棚から下ろして茶碗を3手で置き合せる。
水屋に戻って建水を持ち出し踏み込み畳に置いて仮座へ。
正客から折据の中の札を取り伏せて置き、折据を回していく。
亭主も取ったら折据をおいて皆で開く。
花が名乗り、全員が札を折据に入れて返してゆくが、花は数字札と変えて戻し、
数字札を持って点前をしにゆく。
「今回は繰り上げなしで」
と声がかかり、空いた所に亭主が移動する。
茶杓を取れば折据を回し、お茶が点ち次第札を取る。
月・花・松!と札通りに言うが松は今点前した人が言うことになっている。
札を戻して月がお茶を飲み、茶碗を返したら移動。
花が点てに行き、さっき点ててた人が戻って空いた所に座る。
それを3服。
最後は斜めにして折据を回し、末客は茶碗が置かれる場所より下座に置く。
茶碗が出たら札を取り今度は月だけ名乗り取りに出る。
お点前して居る人は客の方を向き折据に札をしまって同じ場所に返す。
末客は折据を取りに行き、札を返してゆく。
お茶碗が帰ってきたら総礼してお点前して居る人は道具の片付け。
お客は元々いた場所に戻る。
その間に棚に柄杓と蓋置と棗を飾り、建水を持ってバックで戻り、
最初に建水を置いた位置に座って置く。
そして四畳半の元いた席へ戻り、亭主が建水を片付け、茶碗を下げる。
正客は折据を持って亭主の取るべき場所に置く。
亭主は水次を持ち出して置いたら客の方を向いて総礼をして折据を回収。
水指に水を足して水次を持って帰ると同時に全員席を立って八畳へ下がる。
亭主が戻ってきて斜めに座ったら総礼。
亭主が帰ったら皆で福佐を外して懐へ入れ、扇子を前に置いて次の人にお先に、と。
挨拶して順々に帰っていく。
皆で水屋で挨拶するところまでが花月である。
9割がた先生の指導が絶え間なく入る。
100回やっても何か良くわからないのがこれである。
なんでやるかって?
今どういう状況でなにをすべきか、というのがすぐにわかるようになるための稽古だ。
なれてきたらゲームではある。
飲む人が3回連続で当たったりする。
急に当たってお点前なんてのも良い鍛錬だとか。
俺は平花月は何とかなるけれどもっと上のほうになるとよくわからないものもある。
3回繰り返してなんとなく、という顔を皆さんしておられる。
最後の一回は見学の方が居られて、凄い凄いーなんて声が上がっていた。
一回目見せてたらダメだったかもしれない。
お稽古を終えて生徒さん方が帰られ、八重子先生と見学の方がお話されている。
今回は先生がお夕飯か。
水屋を片付けて台所の様子を伺う。
「あら終った?」
「はい、八重子先生はまだ話しておられますよ」
「あ、今日泊まらないのよね、ご飯どうするの。もう出来てるから食べて帰ったら?」
「いいんですか? じゃお相伴させていただきます」
「嬉しそうねえ」
「やー帰って作る気にはなれませんものですから」
お台所で一人分を分けてもらいそのまま食べる。
うまいなー。
「食卓で食べたらいいのに…」
「お客様いらっしゃるのではちょっと落ち着きませんし」
「おかわりあるわよ」
ほんの少しだけ貰って食べる。
「うーん帰りたくないなぁ」
「お仕事なんでしょ? だめよ」
先生は俺の頭をわしゃわしゃと混ぜて髪型を崩す。
「なにするんですか、もー」
ぺろりと食べ終えて洗い物を。
「いいわよ、置いといて。皆が食べたときに洗うから」
「すいません」
「じゃ気をつけて帰るのよ」
「はい、ではあさって…も花月ですか」
「そうよ、復習しておきなさいね」
「わかりました」
じゃ、と別れて帰宅して、そして寝ることにした。
花月は疲れる。
おやすみなさい。
翌朝出勤ってやっぱり水曜だなぁ。
お客さんが来ないし売れないし、本当に今日なんて休みにした方がいいね。
いつもなら先生といちゃいちゃ出来るのにな。
もっと忙しけりゃ仕方ない、と思うんだけれどこればっかりは。
稼がなきゃ会うこともできないからな。
仕事が終って、さぁ今日はどうしようか。
と、帰ったら先生が部屋にいた。
「…えーと、ただいま? なんでおられるんですか」
「おかえりなさい。さっきお友達と東京駅でお茶してきたのよ。
 ここまで出たついでだから、だめよ、お掃除ちゃんとしないと」
「う、一応先週掃除機はかけたんですが」
「戸棚の上とか拭いてないでしょ。あとお布団干しちゃったから後で取り込みなさいよ」
「はい。ありがとうございます」
「で。お昼は食べたの? まだなら何か作るわよ」
「あーまだです。何か食いに行きますか」
「ダメよ、お野菜食べないんだから。一緒にお買い物行きましょ」
「んー、いやメシ食いに行ってそのままホテルであなたを食べるほうが」
先生の拳骨が。
「せんせ、せめてパーでお願いします…痛いですってば」
そのままぐりぐりとこめかみを押されて諦めて買物に出ることにした。
「着替えるからちょっと待ってて下さい」
「あら、そのままでいいわよ。すぐそこでしょ」
「あーですがこの格好であなたと並ぶのは。匂い移りもしますし。すぐですから」
ささっとその辺にあったカーゴパンツとシャツを着て、パーカーを取る。
「そういう格好初めて見るわね」
「あなたに逢うときはいつもそれなりの格好してますからね」
お買物に一緒に出て、菜っ葉ものをメインに色々と先生が買う。
何を作る気だろう。
お肉は少し。
帰宅して手を洗って先生は割烹着をつける。
「お野菜洗って頂戴」
先生はフライパンを用意してごま油を落とし、どうやら野菜炒めを作るようだ。
同時進行で大根葉のお味噌汁。
人参葉の胡麻和え。
小松菜の煮浸し。
作ったものの半分は冷蔵庫へ。
「これはお夕飯に食べてね」
ご飯は買物前に先生が仕込んでいたので丁度炊けた。
いただきます。
あ、少し塩強めにしてくれてる。
たっぷりの野菜。少しの肉。
うまいなぁ。
「作るの面倒って思わないんですか?」
「思うときもあるわよー、でもおいしそうに食べてくれるから」
「あー孝弘さん、ほんとうまそうに食べますよね」
「あなたもね。ご飯粒ついてるわよ」
っと手を伸ばして唇の横についてるのを取られて、それを食べられてしまった。
そのしぐさにちょっとドキッとして。
「このまま泊まっていきませんか」
「明日も朝からお稽古よ。それに…明日うちに泊まるでしょ?」
「でもあなたのおうちではそんなに強いことは出来ないから」
「なにするつもりなのよ…」
にっこりと笑ってると怖がられた。なんでだ。
「ご飯食べたら帰るから。だめよ」
「仕方ないなぁ」
食べ終わって、ちょっとお腹が落ち着くまで抱っこして。
抱っこくらいさせろ、とごねたわけだけど。
懐に居るとやはり先生も少しはドキドキするらしくて肌がほんのり紅潮している。
それでも流石の精神力。
「もういいでしょ、帰るわ」
そういって帰っていってしまった。
残念。
やれなかった気持ちを落ち着けるためにと縫い物をする。
ちょっと疲れてきた頃、仕舞って布団を取り入れお昼寝を。
夜、目がさめて作り置きしてもらった野菜類で晩飯を済ませて寝なおした。
翌朝仕事をしてるとメール。
今朝からの雨で梅が散ってないか心配、と言う。
散ってたら散ってたでどこか食事でもしましょう、と返した。
一応休み前ってことでそれなりに荷物は動く。
仕事を終えて飯を食って帰宅。
ざっとシャワーを浴びて先生のお宅へ。
挨拶をして水屋へ。
湿度が高いなぁ、やっぱり。
玄関先の雑巾とタオルを取り替える。
「こんにちは、山沢さん。遅れたかしら」
「ああ、小野さん、こんにちは。まだ余裕ですよ。タオルどうぞ」
「ありがとう、酷い雨ねぇ」
雨ゴートを軽くはたいてハンガーに。
10分ほどの間に残りの4人が来た。
やった、俺抜きだ。
時間になり先生が来て先日の花月の復習。
水屋に篭っていたら引っ張り出された。くそう。
亭主を引いてしまった。
がっくりしつつ亭主を務める。
なんとか間違いもなく花月が終わった。
抜けて水屋にまた避難。
「次回のお稽古日は濃茶付をしますからね」
うーん、濃茶付は難しいんだよなぁ。
「じゃ今日はここまでにしましょう」
「ありがとうございました」
玄関先で皆さん雨ゴートをまとって足元をカバーし、雨の中帰って行かれる。
ん、台所からいい匂い。
「山沢さん、あなたこっちきて」
茶室に呼ばれた。
「二人だけど今から濃茶付花月するわよ。用意しなさい。あなた亭主ね」
うっ、と半歩引いたら睨まれた。
渋々座って挨拶をする。
月と花のみの札の折据を使って濃茶付の稽古。
札を引く意味はなく交互に花と月を繰り返して仕舞い花を先生がして、
そこから終るところまでを俺がした。
何度か叱られて。
「ダメよ、こんなので間違ってちゃ。あなた教える立場にこれからなるんだから」
「すいません」
「最低この二つは教えられるくらいちゃんと覚えなさい」
「はい」
人の気配。八重子先生が部屋に来ていた。
「絹も中々覚えれなかったものねえ、花月は。私だって且座なんかは悩むね」
「することが多くて。勉強会でお稽古するけど私もたまにわからなくなるわよ」
「基本だからね、八畳は。まずはこれちゃんとできるようにね」
「中々覚えられないです」
「花月百遍朧月ってね、5年10年かけてやっと身につくからね」
「聞香は茶碗と逆に回すくらいしか記憶にないです…且座は」
「あんまりやらないからねぇ、あんたが来る日は」
「今度上級の日に来なさい、混ぜてあげるわよ」
「い、いや他の方にご迷惑ですからっ」
「あら、他の生徒さんだって最初はそんなものよ」
「そうだね、来週の月曜、来なさい」
「うぅ…わかりました」
「見学だけにしてあげるから」
「あ、それなら」
ほっとして参加表明する。
「さてと、ご飯の支度、続きしてくるよ。山沢さんは水屋片付けとくれ」
「はい」
「絹は台所に来てくれるかねぇ」
「はいはい」
手早く水屋を片付けて茶室も片付けた。
「山沢さーん、そろそろご飯よー」
よし、こんなものかな。
今日は何だろう。
きっと美味しいものだろう。
食卓に着く。
生姜焼きと八宝菜、お味噌汁、ごはん。
付け合せはきのこのバター炒めか。
お味噌汁は大根だ。
きぬさやも入っている。
おいしいなぁ。
先生は俺の食べてるのをみてニコニコしている、が。あの笑い方は…。
「…先生何に何を入れました?」
「うふふ、わからないならそのまま食べちゃいなさいよ」
いいけどね、うまいし。
綺麗さっぱりすべて食べ終わる。
今日の隠してあるものは八宝菜にナスが入ってたらしい。
律君が首を捻る。
「紫色のものないよ?」
「皮剥いて入れたのよ。見えなきゃわかりにくいでしょ」
なるほどなぁ。
孝弘さんが食べ終わって台所へ食器を返し、洗い物を。
片付けて居ると先生が後ろに立つ。
「どうしたんですか?」
「さっきはごめんなさいね」
「なにがです?」
「お稽古。厳しくしちゃったから」
「普段がこうだから厳しくなるんでしょう。馴れ合っちゃいけない、と思って」
「わかってくれるの?」
そっと先生の手が背に触れる。
温かみを感じる。
「それくらいはわかってます。それに…。
 内弟子が花月で怒られてちゃ様になりませんもんね」
「そうよ、そうなのよ。だからつい」
洗い物が終って手を拭いて居間に戻る。先生も横に。
…お酒、持ってきてた。
「飲むでしょ?」
先生が八重子先生に、その瓶を引き取って俺が先生に注いでそのまま俺のぐい飲みにも。
一口いただく。
う、辛口かこれ。
「お酒、どうしたんです? これ300mlじゃないですか」
いつもこの家にあるのは一升瓶だ。
去年沢山買ったやつとか、料理用とか。
「昨日帰り道の酒屋さんでね、フェアしてたのよ。美味しかったから買っちゃったの」
「先生が飲むくらいならこっちのほうが味がへたれないんでいいんでしょうね」
先生の杯が空いたので注ぐ。
八重子先生も美味しそうに飲んでいる。
うん、やっぱり二人とも辛口がすきなんだよな、俺に比べりゃ。
「あぁ、おいしいわ」
「あんた飲まないのかい?」
「…取ってきていいですか、別の酒」
「あら、口に合わなかった?」
「辛くて。むせそうです」
律君が通りすがりに笑ってる。
しょうがないじゃないか。
台所から割りと甘口の酒をコップに注いで戻る。
「あら、コップ酒? 飲みすぎないでよ」
ゆっくり飲んでると八重子先生があくび。
「先に休ませてもらうよ」
そういってお部屋へ。
それじゃ俺らも呑み終わったら寝ようか、と話す。
ゆっくり飲みながらニュースを見る。
「あら、首都高で火事?怖いわねぇ…」
ゴツい火事だな、大丈夫だったのかな、あの辺の奴ら。
律君が顔を出して戸締りはしたから、と言う。
「そう、ありがと。おやすみなさい」
「おやすみ」
律君が部屋に戻るのを見て少し俺にもたれてきた。
「後二口ほどですね、飲んで寝ますか」
「そうね」
くいくいっとあけてしまわれて、先に洗顔してくるという。
火の始末をして俺も部屋へ入れば先生が着替えている。
化粧を落としてトイレも済ませたようだ。
俺も寝巻きに着替え、布団を敷いた。
上に座ればするり、と身を寄せてくる。
ふふ、可愛いな。
いい気分のまま抱いて寝入って朝が来る。
起き抜けにキスされて朝からしたくなって困らせ、一戦交わして起床する。
先生が朝風呂に入って俺が朝御飯の支度。
八重子先生も起きてきた。
「おはよう。絹は?」
「お風呂です、昨日入り損ねたからって」
「今日どうするんだい? 天候は回復したけど」
「散っちゃってませんかねえ…」
「あそこは期間長いから大丈夫だよ」
「じゃ行きましょう」
「それじゃお弁当の下拵えもするかね」
「はい、なに入れる予定ですか?」
「御節と似たようなもんだけどね、春らしくしようね」
ちらし寿司の稲荷とか桜でんぷで彩を添えていくようだ。
先生がお風呂から上がってきて、律君も起きてきた。
「おばあちゃん、ご飯できた?」
「はいはい、もうちょっとだよ。お父さん起こしといで」
下拵えをしてから朝御飯。
うん、おいしい。
「律、今日はどこ行くの?」
「晶ちゃんとフィールドワーク。三連休だから泊りがけ」
あ、そうか世間は三連休か。
「そう、私達は梅を見に行くからお昼間はいないから」
「結局行くんだ?」
「お天気よくなってるからね」
「お弁当作らなきゃね」
「もう下拵えはしてあるよ」
「あれ、お父さんも連れてくの?」
「どうして? 皆で行ったほうが楽しいじゃない」
食器を下げて洗い物をしたらお弁当の準備。
変な気分だ、食後に飯の支度。
雨が降ったらいけないから絹物はやめとこう、なんて話をされてる。
シルック小紋にしようと仰る。
「おばーちゃん、おかーさん、行ってくるから」
「ハイハイ、気をつけなさいよ」
「いってらっしゃい」
お弁当を作って、着替える。
さあ俺たちも行こうか。
現地へついてルートどおりに進む。
「綺麗ねえ」
「いいですねえ」
「あらこれまだつぼみだわ」
「遅咲きなんでしょうか」
「はらへった」
ハイ、とお饅頭を渡す。
ゆっくり観覧してそろそろお昼に、とござを敷いてお弁当を囲む。
自分も作ったとはいえ、やっぱり美味しい。
孝弘さんも美味しく食べてるので先生も嬉しげだ。
八重子先生がでんぷでピンクに色付けしたおにぎりをくれた。
甘い、うまい。
少しだけお酒もいただいてお重を空にする。
ゆったりと腹ごなしに歩いて残りの梅を観覧。
暖かくて雨も降らないうちに帰れた。
一度帰宅して先生とお買物に出る。
「明日もあなた来るんでしょ、お夕飯何が良いかしらね」
「あ、俺すき焼き食べたいです!」
「すき焼き?」
「鍋にしてもすき焼きにしても一人だとわびしいんでやらないんですよね」
「そうねぇ、そうかもしれないわね。でも律いないときにしたら恨まれるかしら」
「うーん、またしたらいいじゃないですか、居るときにも」
「じゃ明日、すき焼きにしましょ」
「それで今日は何作るんですか」
「今日はねぇ、なにしよう」
野菜の前で悩んでいる。
「あら先生、お夕飯の買物ですか?」
「吉崎さん。そうなのよ~何にしようかと思って」
「山沢さんもお買物?」
「先生の荷物もちで。その代わりお相伴させていただいてます」
「白菜なんか重いでしょ、助かるのよ」
「カサ高いものとかも一人じゃ大変ですしね」
「仲が良くてうらやましいですわ」
ホホホ、オホホと先生たちは会話をしている。
俺は青梗菜が食べたくなっていつ言い出そうかと思って悩む。
吉崎さんがそれでは、と言って肉屋の方へ行った。
「先生、俺、青梗菜の炒め物が食べたい」
「んー、そうねぇ。お肉が良い? 揚げが良い?」
「勿論肉です」
クスクス笑ってわかったわ、と仰って青梗菜を。
「後は何にしようかしら」
「治部煮」
「はいはい、決まりね」
お買物をして帰宅。
「お帰り、なに買って来たの?」
「治部煮と青梗菜の炒め物にするわ」
「あらそう、じゃ支度しようかね」
そしてご飯拵えにかかる。
八重子先生に指示を受けてかぶを適当に切り、椎茸等投入する。
青梗菜とホウレン草を洗って切った。
ホウレン草は湯がいておき、治部煮の皿に投入すべく置いておく。
青梗菜は先生の手により肉と炒めてあんかけに。
「あ。あんかけにしちゃった…」
「あんたばかだねぇ、治部煮をあんかけにしようと思ってたのに」
新たに片栗粉を八重子先生が溶いてるその横で伏見甘長をじゃこと炒めて。
丁度ご飯が炊けた頃全部が出来上がる。
食卓について食べ始めた。
「山沢さん、そんなに野菜嫌いじゃないわよねぇ。なのにどうして食べないの?」
「一人分、色々作るのが苦手なだけですよ」
「そうかねえ?」
「だってホウレン草1把で3食持ちますよ? 他の野菜も食べたいとかになると」
「あ、同じ食材暫く食べることになるのね」
孝弘さんが甘長のじゃこ炒めに手をつけない。
それは青唐辛子の辛くない奴、と言うと手をつけた。
「前に辛いの食べちゃって躊躇するようになっちゃったのよ」
「ししとうですか」
この間俺も当たったよな。
それでも好きなんだよなーじゃこ炒め。
うーん、全部美味しかった、満足満腹!
お夕飯の後お茶をいただいて。
「明日お仕事なかったらこのまま泊まりなさいって言うんだけどねぇ」
「ありますからねー…」
げんなりする
「でも市場の方がお仕事してくれるから私達は新鮮なもの食べれるのよね、仕方ないわ」
「ま、そう思わなきゃやってられませんね」
ふー、っと息をついて気合を入れて帰る用意。
「明日も花月だから。休んじゃダメよ」
「はい」
「休んだりしたら且座の亭主させるわよー」
げっ酷い脅し方だな。
孝弘さんも八重子先生もいないので軽くキスしてやった。
「そんな脅ししなくても…逢いたいから来ますよ」
一気に顔が赤くなった、可愛い、たまらん。
「じゃ、また明日」
「ばか、もうっ。また明日ね」
くすくす笑いながら別れて帰宅する。
すぐに寝ることにした。
朝起きて、また仕事か、と思う。
でもまぁ今日は。先生に逢いにいけるし。
忙しい思いをしつつも何とかこなしてると先生からメール。
いつもの肉屋が休みだからすき焼き食べたければ肉を買って来いとな?
了解していつも買ってる肉の量を聞き、自分の分も足して買って先生のお宅へ。
先にお勝手から入り冷蔵庫に入れて、居間へ。
「こんにちは。冷蔵庫に入れときましたんで、肉」
「あらありがと。今日も花月だけど人が足りないから。私も入るわよ」
「で、私が指導するからね」
「豪華ですね。今日の生徒さんはラッキーだ」
「用意してきて頂戴ね」
「はい」
茶室に行くと台子が出ている。
「先生、台子でされるんですか?」
「あ、仕舞っといて頂戴~、片付けるの忘れてただけよ」
「はーい」
「あ、ねぇねぇ山沢さん、勉強会一緒に行かない? 東貴人仙遊なんですって、次回」
「…絶対無理です」
「あら楽しいのにどうして?」
「短歌とか突発で詠めませんって。その上東が貴人なんて絶対無理」
「あら見学でもいいのよ、行きましょ、ね?」
「絶対に混ぜないと仰るならですよ! 混ざるのは無理ですから」
「うふふ、じゃ予約しておくから」
「っていつですか?」
「今度の火曜日のお昼からよ」
「ここのお稽古は?」
「お母さんが見てくれるわ」
「そうですか。場所はどちらで?」
「ええと、新宿のどこだったかしら。とりあえず駅で待ち合わせなのよ」
「新宿駅で待ち合わせというと。アルタ前?」
「そう、そこ」
八重子先生が戻ってきた。
「ああ、山沢さん来てたのかい」
「こんにちは、お邪魔してます」
「いま山沢さんに勉強会一緒にって言ってたのよ」
「濃茶付で大変なのに大丈夫かねえ」
「や、見学で」
「じゃないと無理だろ」
「だからお母さんお稽古お願いね」
「はいはい」
トイレを借りて、それから水屋に待機していると生徒さんが来始めた。
今日は3人しか集まらない。
やっぱり3連休だからね。
「八重子先生、絹先生、こんにちは」
と皆さんご挨拶。
「今日は他の方お休みだけど花月しますよ」
花月と聞いてみんな微妙な顔をする。
お菓子を運んで食べる。
「あれ、先生も?」
「そう、他の方お休みだから私も入るわよ」
「山沢さんは?」
「入りますよ」
食べ終わったのを見計らって折据をまわす。
月!花!一!二!三!と先生が次客、俺が四客。
八重子先生にお稽古お願いします、とご挨拶。
そして正客からお先にと挨拶を送って座に着く。
今回の亭主は中井さん。
迎えつけの挨拶。すんだら客は袱紗をつけ四畳半へ移動。
「今日は繰り上げするよ」
うっ、ややこしいな。
折据が正客に座った下西さんの前へ。
亭主が仮座に入ったので折据が回りだした。
さぁ初花は誰だ。
一斉に札を開ければ三客の堀田さん。
繰り上げて俺が三客の場所へ、四客の場所へ亭主が来る。
あとは普通に花月だ。
幸い私は何度かで平花月では怒られなくなっていたが、
後の3人は足がわからなくなったり、見とれて動きが遅くなったり。
優しく指導が入る。
俺以外にはすごく優しいよね…。
3回繰り返し、お稽古が終ってご挨拶。
生徒さん達が帰られてご飯の支度を。
「今日はすき焼きだからね、下拵え要らないから楽でいいよねぇ」
「お水屋よろしくね用意してくるから」
「はいっ」
すき焼き♪
にんまりして水屋を片付ける。
仕舞い終わったので食卓を片付けて拭く。
「できたわよ、これコンセント挿して頂戴」
IHのクッキングヒーターか。
1000Wか…ブレーカー大丈夫なのかな。
500Wに設定した上にすき焼きの鍋が載る。
「先生、一応お聞きしますがこの家のブレーカーはどこですか」
「大丈夫よ、この部屋は他よりかなり大きくしてもらったの」
「そうそう、前に何回か落ちちゃってね、それで変えてもらったんだよ」
「ならいいですけどメシ食ってる最中に落ちると大変ですから」
「なんだかんだこの部屋は結構電化製品あるからねえ」
はい、ごはん。と先生がお茶碗を渡してくれた。
「食べましょ」
先生も笑顔だ。
おにくおいしー。麩もよく味をすっている。
しいたけに人参、玉葱も入ってる。しらたきかな、これは。
春菊がうまい。
八重子先生はやっぱり肉少なめに野菜沢山食べている。
お豆腐♪
おいしーーく頂いて綺麗さっぱり。
「〆になにかいる?」
「いや、満腹です」
「お父さんだとこの後うどん入れるのよ」
「ああ、定番ですよね」
ご馳走様をして後片付けを手伝う。
「ご飯に卵とこの汁をかけて食べるのは好きですよ」
と言うと塩分取りすぎ、と背中をつねられた。
「イテテテ、ところで孝弘さんは?」
「律に呼ばれて開兄さんが送ってったのよ」
「あぁー…そうでしたか」
ヘルプだな、そして相変わらず電車に一人じゃ乗れないのな。
洗い物をしていると先生は俺の首を舐めてみたり胸をつついてみたりとじゃれてくる。
八重子先生に見られたら雷落ちるぞ。
「ダメですよ、俺がやったら怒るくせに」
「いいじゃない」
あれだな、律君も孝弘さんも居ないから気が緩んでるな。
「そんなことしてるとここで抱きますよ」
「いじわるねぇ」
きゅっと乳首に爪を立てられた。
地味に痛い。
片付け終わって居間に戻る。
温かいお茶を貰ってコタツで温まる。
ふー、と落ち着くと先生が俺の手を弄る。
それを八重子先生が見ていたようだ。
「さてと、私は寝るから。あんたらもさっさと寝なさいよ」
と席を立ってまだ早い時間なのに部屋へ帰っていかれた。
多分見てられないって奴だろう。
するっと先生が俺の懐に入ってくる。
うぅ、先生の匂い、体温。
「戸締り、しないと」
「あとでいいじゃない」
びくっとなった。先生の手が俺の股間に伸びている。
相変わらずぎこちなくて。
「ぐぅっ…」
そこに爪を立てるのはやめろ…。
「やっと声が出たわね」
「先生、それ、違う。メッチャ痛い…。痛めつけるの趣味ですか」
「あら?」
あいたたた、なんちゅうとこに爪を立てるんだ。
乳首ならまだしも。
「自分のそこ、同じ強さでやって御覧なさいよ。痛くてたまんないと思いますよ」
「そんなに痛かったの?」
「乳首噛まれたときくらいは痛かった」
「ふぅん…じゃ後で噛んであげるわ」
「勘弁してくださいよ…」
クスクス笑ってる。
「ほら、手を離して。部屋行きましょうよ」
カラカラカラ、と玄関の開く音に先生が慌てて飛びのいた。
「おーい、母さんいるかー?」
あの声は覚さんか。
先生をおいて玄関へ向かう。
「八重子先生ならお部屋ですよ、今晩は」
「ああ、こんばんは。もう寝てるのか」
「どうでしょうかねぇ」
そのまま覚さんが八重子先生の部屋に向かう。
居間に戻ると先生がコタツに入って頬を赤くしてる。
「あぁ驚いたわ~」
「こんなとこであんなことするからですよ。さてと」
「なぁに?」
「部屋に布団を敷いてきます。早いけど寝る用意しましょう」
「え、まだ兄さん居るからダメよ?」
「わかってますよ、用意だけ」
ついでに歯も磨いてこよう。
布団を敷いて寝間を整え、寝巻きに着替えて歯磨きし戻る。
居間では覚さんが先生と喋ってた。
先生がお茶を入れてくれる。
横に座ってコタツに足を入れる。温かい。
春とはいえ夜はまだ冷えるからなぁ。
会話を聞くのも楽しい。
先生の声をぼんやり聞いてるのがいい。
覚さんが煙草を吸ってるのを見て先生が一本頂戴、と言う。
「えっ吸うのか?」
「違うわよ、はい、どうぞ」
俺に渡してくれた。
「山沢さん煙草まだ買ってないでしょ?」
「良いんですか?」
「あ、ああ、どうぞ」
「じゃ失礼して」
と一服、久々の煙草がうまい。
しばらくして覚さんがそろそろ、と席を立った。
お見送りして戸締りをする、その玄関でキスした。
「だめよ…ほら、早く火の始末して部屋戻りましょ」
「さっき俺にあんなことした罰に…こういうところで抱かれる、とかどうですか」
「いや…勘弁して、ね、ほら、部屋…」
もう一度キスして引き寄せると先生は抵抗しつつあまり力が入ってない。
抱えあげて寝間へ。
「え?」
「火の始末してきます。今のうちに化粧も落としちゃっててくださいね」
「あ、うん」
お勝手へ行って火消壷とガスの元栓をチェック。
煙草の吸殻も湿してから始末する。
勝手口の鍵を確かめたら寝間へ。
寝巻きに着替えて化粧を落とした先生は…綺麗だ。
ちろり、と耳を舐めると少し声が出た。
「今日は声、出しちゃいますか?」
「いや、お母さんに聞こえちゃうのは」
「孝弘さんとしてたとき、声出してなかったのかな?」
「す、少しくらいは出てたかもしれないけど」
「だったら気にすることはない」
「いやよ…ゆるして、ね、いじめないで、お願い」
「可愛いな、本当に」
そのまま襲って声が出そうで出ない程度に抱いて。
疲れ果てた先生が眠りに落ちた。
可愛いなぁ。と撫でて。でもちょっとし足りなくって。
寝てるのに弄って起こしてしまって叱られた。
叱られてるのに手を動かしていたら反応してて。
「だめっていってるのに、もうっ…」
といいながら俺の腕を噛む。
「もう一度だけ、そうしたら終わりにするから」
最後は少し声が出てしまい、八重子先生に聞こえてないといいけど、と思う。
俺の気分も落ち着いて懐に抱いて寝かしつける。
荒い息が収まり、寝息。
おやすみなさい。
翌朝、中々起きない先生を置いて台所へ。
八重子先生が先に起きてきていて、昨日のことを揶揄された。
やっぱり聞こえてたようだ。
朝御飯はトーストとオレンジジュース、サラダにベーコンエッグ。
「珍しいですね」
「孝弘さんが居るとご飯炊かなきゃだけどね」
なるほどね、この家がパスタ・パン食じゃないのはそういうことか。
朝飯を食って一時間ほどして先生が起きてきた。
「あぁおなかすいた」
「はいはい」
台所に立ってトーストとベーコンエッグを用意する。
サラダとジュースは冷蔵庫から。
「旦那を尻に敷く妻、みたいだねえ」
先生がちょっとむせて、俺は笑ってしまった。
ゆったりとした休みの日を送り夕方、律君たちが帰ってきた。
「じゃ買物行って俺も帰るとしますかね」
「そう?食べて行ったら。お夕飯何にしようかしら」
「晶、何食べたい?」
「うーん、おばさんの肉じゃが好きだな。私」
「あんたは?」
「え、僕? 梅とシソがまいてある奴かな」
「中はささみが良い?お肉が良い?」
「私ささみがいいな」
「晶ちゃんがそれが良いなら僕もそれでいいよ」
「山沢さんは?」
「それでいいですがお野菜足りなくないですか?」
「そうねえ、胡麻和えでもしましょ」
お買物に二人で行って、戻って料理を手伝う。
「ゴマ当たってくれる?」
はいよ、と当たり鉢を取ってごりごりざりざりと。
お砂糖や醤油も入れて。
配膳して食べる。うまいなぁ。
ご馳走様をして食器を洗い、目を盗んで軽く先生にキス。
「さ、そろそろ失礼しますね」
居間へ戻って八重子先生にも挨拶をして、帰宅した。
さて明日は仕事か。
仕事はいいが帰って無人の家でただ寝るだけというのがつまらないじゃないか。
って着物縫わなきゃいけないな、途中にしていた。
あさってはお稽古はお稽古だが新宿か。
帰り、うちにつれて帰れるかな。
だったら明日は掃除もしよう。
布団へもぐり、そんなことを算段しつついつしか寝ていた。
翌朝仕事をこなして帰宅。
連休明けは暇だね。
さあ部屋の掃除と台所やトイレや風呂の掃除をしなければ。
昼を食べて汗だくになりつつ掃除を完了。
もう夕方か。
作業していると時間が経つのが早い。疲れた。
晩飯を買いに出てコンビニで真空の惣菜などを買い、帰宅。
ドアを開けると…先生がいた。
「お帰りなさい」
「……メシ食いました?」
「うぅん、まだよ」
「そうですか、じゃどこか行きましょうか」
「あのね、ここ行きたいの」
と冊子を見せられる。ステーキ特集?
「んー、いいですが予約とかしないと一杯のような気が」
「電話してくれる?」
「はいはい。第一候補はどこです?」
「ここ、赤坂のがいいわ」
電話を取って席があいてるか聞く。
OK、あいてた。
40分後、と予約を入れ電話を切る。
手を洗って着替えよう。
着替えつつ聞く。
「どうして急に?」
「明日、出稽古でしょ。こっちからが近いからいいかなって思ったのよ」
「それなら電話くださいよ。俺がメシ食っちゃってたらどうするんですか」
「あら、それなら何か買いに行って食べるわよ。その羽織よりこの羽織の方がいいわね」
「これのほうが合いますか。あなたは着替えなくても良さそうですね」
「明日着る物はそこに掛けてあるから。あなたはいつものお稽古のでいいわよ」
「はい、じゃトイレ行ったら行きましょうか」
「先に入るわ」
「鞄用意してきます」
玄関先に鞄を置いて先生と交代でトイレに。
「さてと。じゃ行きますか」
「うん」
先生から手を繋いできた。
タクシーに乗って赤坂へ移動。お店の前で降りた。
時計を見れば丁度かな。
入って予約した山沢、と告げると席に案内され、飲み物を聞かれる。
軽いものを選ばねば俺は明日仕事だし先生はお稽古だし。
お勧めのワインをハーフボトルにした。
先生が何を食べても美味しいというのが楽しい。
機嫌良いなぁ。
ご馳走様、と全部食べて幸せそうだ。
お会計をして出ると少し冷えてきている。
さっと羽織を着せると笑ってる。
「何度目かしら、ショールだけ持ってきちゃって寒くなるの」
「さぁ、3回目くらいですかね?」
車を拾って乗せ、家まで帰る。
「あぁおいしかった」
そう言って和室に入り着物を脱ぎ浴衣に着替える。
「あんたも着替えなさいよ」
はいはい。
「で、この後どうするんですか」
「んん? 寝るだけよ?」
「えっちは」
べしっと額を打たれた。
「明日お稽古よ」
「んじゃあ別に布団敷きます」
「どうして?」
「だって懐に居るのに抱けないのは切ない」
「そろそろ慣れて頂戴」
「無理。抱かせろー」
っと床に押し倒した。
「だめよー。あなたも明日お仕事でしょ。どいて頂戴よ」
ごろり、と先生を上にして転がる。
「しょうがないな。じゃ俺の腕から逃れられたら抱かないであげる」
「もうっ、そんなこと言って。あなたが本気出したらどうやっても逃げれないでしょ」
「あははは、確かにそうですね。逃がさないことは出来ますね」
「明日ならいいけど今日はダメよ」
「じゃ、キスして」
「しょうがないわねぇ」
深いキスをたっぷりとしてもらい、手を離す。
俺の胸に手をついて起きた。
「一緒の布団だと危ないから、お布団敷いて頂戴」
「はーい」
布団を敷いて枕を置く。
「お茶入れたけどいる?」
「あ、いただきます」
うーん、おいしい。
先に飲み終えた先生が俺の膝を枕にしてテレビを見ている。
30分ほど見ていまいち、と俺の股間を玩び始めた。
「明日仕事でしょとか断っといて人の、触るのかな?」
「あなたタフなんだからいいでしょ」
「それ以前の問題として触られても嬉しくないんですけどね」
「ふぅん」
そういってるのに触るのをやめない。
「そんなことしてると抱きますよ。それとも。お仕置きのほうがいいのかな」
あ、止まった。
「明日、立つのが辛いほどしちゃいましょうか?」
「…ずるいわ」
「ほら手を離して。シャワー浴びてきてくださいよ」
むくり、と起きて不機嫌そうに俺の手を引く。
「背中流して頂戴」
「はいはい、風呂行きましょ行きましょ」
苦笑して一緒に風呂場へ。
スポンジに泡を沢山作って背中をマッサージするかのように。
段々機嫌が良くなってきた。
そのまま泡を滑らせて胸もマッサージ。
「だめよ。前は自分で洗うから」
残念。
先生が洗い終えて濯ぐ。
髪はどうするかと聞けば明日朝洗うとのこと。
「先に出てるわよー」
と出られて俺はざっと頭も身体も洗う。短髪だからすぐ洗えてすぐ乾く。
浴衣を引っ掛けて居間へ行くと先生がプリン食べている。
「もらったわよ」
うーん、食われた。
いいけどさー。
「太りますよ?」
「やなこといわないでよ、折角美味しいのに」
「食べたら歯を磨いて寝ましょう。布団かベッドかどっちがいい?」
「どっちでもいいわ」
「じゃ客用布団でどうぞ、和室に敷いてありますから」
結局俺の胸にもたれて眠くなるまでテレビを見ていた。
あくびをして歯を磨きに立ち、それからおやすみなさい、と声を掛けられた。
「おやすみなさい」
俺も居間の電気を消して部屋に入り、ベッドへ。

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h21

翌朝出勤して、仕事をして終えて先生のお宅へ。
生徒さんのお稽古が終り次第、さっと用意される。
「じゃ山沢さん、律が帰るまでお留守番お願いね」
「はい、お気をつけて。楽しんできてください」
水屋を片付けて居間でくつろぐ。
しばらくして電話。
取ると律君。
『あれ?山沢さん? 母は?』
「お芝居行かれたよ」
『あ、そうか、今日だった…遅くなりそうなんですけど父の食事、何か聞いてます?』
「いや律君にまかせてあるからと。なんだったらピザか何かとろうか?」
『あー…お願いします』
「孝弘さん、ピザ何枚くらい食べるかな」
『えーと、3枚、いや4枚かな』
「わかった、5枚頼んでおくよ。私も食べるしね」
『お手数かけます』
どうせだからいろんな奴頼もう。
孝弘さんの部屋に顔を出して一応どれがいいか聞いてみた。
やっぱりどれでもいいらしい。
ピザをおかずにご飯とか言い出しそうだったがそれは大丈夫なようだ。
5枚注文して暫く待つ。
を、きたきた。
食卓に広げると匂いに釣られたか、孝弘さんも来た。
全種類から1カットずつ抜いて好きなようにどうぞ、と食べさせる。
しかし沢山食べるなぁ。
綺麗に食べ切ったようなので手拭きを出した。
ちゃんと手を拭いてから部屋に戻っていったところを見るに先生の躾の成果か。
箱を片付け、食卓を拭いて台所へ。
布巾を洗った。
さて。この静かな家で先生を待つのか。
多分9時半くらいに帰りの電車だろうし。
その頃には律君帰ってくるのかな。
先日途中にした繕い物をすることにして時間を潰す。
時計の音だけが聞こえる。
丁度の時に鳴る音に時折手を止めて。
まだこんな時間かと。
カラカラと玄関の音がする。
「ただいま」
律君か。
「おかえりなさい」
「すみません、遅くなっちゃって」
繕い物があと少しだからそれが終ったら帰ることにしよう。
ちくちくと縫う。
「ただいまぁ~あぁこれ、絹!」
あ、帰ってきた。っておい。
ふらふら~っと俺の前に来たと思ったら抱きついてキスしてきた。
「お母さん!?」
ああ、律君に見られたよどうしよう。
つーか痛い、針刺さった。
唇を離して肩に顔を埋めた、と思えば寝息。
「律君、ごめん、鞄とってくれる?」
鞄の中から10徳ナイフを出す。
ペンチにセットした。
「悪いけどこれで抜いてくれるかな、針」
手の甲貫通しちゃってるよ…。
律君がプルプルしながら抜いてくれた。
はい、と八重子先生が絆創膏を貼ってくれる。
「それで、これどういう状況ですか、酒臭いんですが」
「お芝居の帰りに食事に行ってそこでお茶頼んだらねぇ。
 店の人が間違って絹のグラスがウーロンハイだったみたいでねえ。知らずにぐーっと」
あー、泥酔ね泥酔。
「相変わらず酔っ払うとキスしてきますね」
「だからあんまり飲まないようにしてるのにねえ」
「こないだ開さんにしようとしてましたよ。面白かった」
「…お母さんキスする癖あったんだ?」
「結構キス魔だよ。寝ぼけてるときとか」
「山沢さん、あんた抱きつく癖あるだろ」
「あー、年末でしたっけ、八重子先生を布団に連れ込もうとしたらしいですね」
「絹に聞いたの?」
「いつだったか聞きました、凄く笑われましたよ」
「…僕に山沢さんを起こしに行かせないの、それでだったの?」
「前に環さんも引き寄せたことが…」
「ほんとあんたら二人は…律はそういう癖はないとは思うけど」
「うーん、そこまで飲んだことないから」
そんな話をしつつ先生の帯を解いて紐をほどき肌襦袢の紐まで全部抜く。
パジャマに着替えた八重子先生が絹先生の寝巻きを取ってきてくれた。
一気にまとめて全部脱がせ、寝巻きを着せる。
前をあわせるには…どうしよう。
背中にマジックベルトをあてがい、仰向けに寝かせて前をあわせてとめた。
これなら苦しくもないだろうしほどけないしいいかな?
「それでなんであんたここにいるんだい?」
「僕がさっき帰ってきたから。僕が帰るまでってお母さんが言ったんだって」
「で、これ縫い終えたら帰ろうと思ってたんですよね」
「もう泊まって行ったらいいよ」
八重子先生が絹先生の着物を片付けながらそう仰る。
甘えることにした。
片手で裁縫箱をしまい、繕い物を片付けた。
「律、あんた戸締り見てきてくれるかい、私ゃ火の始末見るから」
こっちを向いて、俺にはもう部屋に行って二人で寝とけと。
はいはい、と先生を担いで寝間に入る。
布団を敷いて寝かせた。
ったく気持ち良さそうに寝息を立てて。
吃驚したよ、本当に。
さて律君はあれで納得してくれたかなぁ。
トイレと歯磨きを済まし、寝巻きに着替えて布団にもぐりこむ。
先生がぬくくて気持ちいい。
もぞもぞと先生が動いた。
…俺の胸を触るの好きなのかな。寝てるとき割と触るよな。
ま、いいか。
おやすみなさい。
朝、起きてまだ先生は寝ている。
多分あれだけ酔ってたら起きてくるのは昼前かな?
台所に行って朝ごはんを作る。
八重子先生も起きてきて新聞を読んでいる。
お味噌汁が出来た頃律君も起きだしてきて孝弘さんを起こしに行った。
配膳をして、いただきます。
「お母さんは?」
「まだ寝てたよ。多分昼ごろには起きてくると思うけど」
「滅多に飲まないからねぇ」
「おかわり」
はいはい。
お櫃も空になってお片付け。
八重子先生も手伝ってくれて、手早く昼の下拵えもしておく。
居間に戻ってお茶をいただいた。
「頭いたーい…」
先生が起き出して来た。
「むかつきは?」
「それは大丈夫だけど…」
うー、と唸って私の横に座ってもたれてくる。
「あら?なんで山沢さん居るの? 泊まらないって言ってなかったかしら」
「昨日あの後律君のご帰宅が遅くなって、律君が帰ってきて30分くらいか、
 そのあたりで先生方が帰ってこられたんですよ。で、遅いからと」
「あー、そうだったのねー…」
「あんた山沢さんにキスしてそのまま寝ちゃったから大変だったんだよ。律の前で」
「ええっ?」
頭を押さえてうめきつつ。自分の声で頭が痛いとと言う奴だな。
「酔うとキスをするタイプと言うことにしておきましたけどね、焦りました」
「勢い良く抱きついたから山沢さんの手に針は刺さるし」
「ま、それはもうふさがりましたけどね」
「あらー…あいたたた、お母さん、痛み止め頂戴」
「はいはい、ちょっと待ってなさい」
暫くして戻ってきたが何も持ってない。
「切らしちゃってたよ」
「あ、じゃちょっと待っててください」
と先生の横から抜け出して部屋へ行き、鞄をあさって鎮痛剤を出す。
居間に戻ってハイ、と渡し飲ませた。
お白湯で薬を飲んだ後、お茶を飲んでいる。
意味ないよな、お白湯で飲む意味が。
「あんたなんでも持ってるんだねぇ…ペンチとか」
「胃腸薬・風邪薬・鎮痛剤・安定剤・ニトロ・気管支拡張剤くらいは持ち歩いてますよ」
「ニトロ?なんで?」
「むかし目の前で発作起こされて大変だったんでつい持ち歩くように…」
安定性の問題から定期的に更新してるけど。
まだなんか眠そうだな、先生。
いや薬が効いてきたのか?
「おなかすいた…」
八重子先生は呆れた顔をしてる。
お昼にはまだまだ時間が有るなぁ、かといってお櫃にご飯は残ってない。
「喫茶店、行きますか? それとも何か買ってきましょうか」
「着替えるの面倒よ…買ってきて」
「はいはい。何がいいですか?」
「ホットケーキ」
「…作ればいいんですね、わかりました」
冷蔵庫を見て卵と牛乳はあるか見る。
卵はあるけど牛乳がないな。
バターあったかな。
あるね。
じゃ買うものはホットケーキミックスと牛乳とシロップと。
外、寒いなあ。
と買物に行って、戻ってすぐに台所に入り、混ぜて混ぜて焼く。
「あ、いい匂いー。あれ、山沢さんが焼いてるの? おばさんは?」
「司さん。こんにちは。居間にいらっしゃいますよ」
「あ、そうなんだ。じゃぁ」
ん、焼けた。お皿に乗せて。バターとシロップ持って。
居間へ行こう。
「あれ、おばさん。珍しいですね、寝巻きのままって」
「あぁ司ちゃん…こんにちは」
先生の前にホットケーキを置いてシロップとバター、ナイフとフォークを置く。
「おいしそう」
先生が嬉しそうに食べている。
「おいしいわよー」
「山沢さん、まだあります?」
「ミックス? まだあるよ。卵もあったと思うけど」
「あんた作ってやってくれるかい?」
と八重子先生が言うので腰を上げて再度台所へ。
司ちゃんが着いてきた。
さっきと同じようにしてもう一度焼く。
出来たのを渡して洗い物。
台所から戻ると3枚焼いたのに先生は全部食べたようだ。
と思ったらお父さんに1枚食べられたという。
いつの間に。
「絹、あんたもうちょっと寝といで」
「うん、そうするわ」
「歯、磨いてからじゃないと虫歯なりますよ」
「あらそうね…昨日も磨いてないものね」
洗面所へ行って、それから寝間に行くのが見える。
「おばさん、具合でも悪いの?」
「二日酔いだよ」
「えぇー、珍しい。そんなになるまで飲むなんて」
「お茶だと思ったらお酒だったんでしたっけ?」
「あー、飲み会でウイスキーの水割りがウイスキーの焼酎割にされてたりするけど。
 そんな感じ?」
なにその濃いの。
「いやウーロン茶を頼んだらウーロンハイになってただけだよ。
 今の学生はそんなことしてるのかい? 危ないねえ」
うんうん、危険すぎる。
「あ、司ちゃん来てたんだ?」
「うん、これ晶ちゃんから律に渡しといてって頼まれてたんだけど」
「なんだろ」
ちら、と目をやる。
「……律君。それ円照寺向け案件だと思うな」
「…そうですね」
「司さんって本当、強いな」
「なんだい? それ。ただの箱だろ?」
「八重子先生、ご住職を呼んでいただけます?」
「持って歩かないほうがいいのかな」
「うん、司ちゃんか八重子先生なら大丈夫だと思うけど」
八重子先生が電話してくれて暫く。
住職が来た。
「うーむ、これは。また強烈な」
律君となにやら相談している。
今の内に先生の様子見てくるか。
寝間に入り、先生の寝顔を覗きこむ。
気持ち良さそうだな。
暫く見てたら目が覚めた。
「なぁにー?」
「んー、可愛いなって」
「ばかね。いま何時? お昼済んだ?」
「まだですよ、まだそんな時間経ってません」
「そう? ちょっとすっきりしたわ」
「あ、居間に行かれるんなら着替えて。円照寺さん来て貰ってるんで」
「あらどうして?」
「司ちゃん持込の物品がありまして、どうも律君に不向きみたいですよ」
ふーん、といって着替えだす。
「ちょっとここ押さえてて」
「はい」
帯を締めて鏡を見てちょいちょいっと整えて。
うん、綺麗だ。
後ろから抱きしめようとしたら叱られた。
折角きれいに着れたのにって。
じゃあ、とキスだけして一緒に居間へ行く。
「を、これはお邪魔しとります」
「律がお呼びしたようで…」
「いやいやこれはわしが持ち帰らねば律君にはちょっと」
「じゃお願いします」
「うむ。ではわしはこれで」
住職を見送って、さてお昼の支度をしようか。
下拵えはしてあるのでちょっと手を掛けてお昼ご飯になった。
孝弘さんを呼んできて皆で食べる。
流石に先生と司ちゃんは半分ほどだったけれど、その分は孝弘さんの胃袋におさまった。
いいよね、いつも何も残らないの。
洗い物を片付けて先生方とお茶をいただく。
なんてことのない日常。
日曜日の昼下がり。
「ああ、そうだ。明日のお稽古、山下さん以外お休みだから」
「えぇ?珍しいわねぇ」
「インフルエンザだってさ。だからあんた今から山沢さんと遊びに行ったらいいよ」
「あらそう? じゃどこ行こうかしら」
「うーん、根津は今は刀ですしねえ…畠山がまだ利休やってたような」
「三越は?」
タブレットを取ってきて検索。
「うーん…白金のほうでいいわ」
「ああ、じゃどこか山沢さんに食事つれてってもらって、山沢さんちに泊まっといで」
「それでいい?」
「あ、はい。んー食事、あの辺…懐石でいいですか?」
「うん、いいわよ。心当たりあるの?」
「一応ありますが現地行ってどれくらいかかるかで開始時間とか変わりますし…」
「断られたらどこでもいいわよ」
そんじゃまあ、着替えますか。
八重子先生が着物を選んでくれてそれを着た。
先生が着替えて出てくる。
あ、いいなぁ、美人さんだ。
どうせ司ちゃんを送るからと律君が駅まで車を出してくれた。
優しい息子さんだ。
そういうと先生はうふふ、と笑っている。
新宿まで出てタクシーに乗った。
電車だと乗換えが多くて面倒くさい。
20分ほどで着いた。
中に入ってざっと規模を確認し、受付に行って外で電話予約をする。
よし、予約確保。
中に入ると先生は掛け物を見てにこやかにしている。
綺麗だなぁ…。
先生のショールを預かり、バッグも邪魔そうなので預かる。
凄く嬉しそうに見ているのをみるともっと連れてこないとなぁと思う。
あ、お雛様。
時期は済んでるが会期の間出てるのか。
「ね、あなた飾った?」
「いや、うちはないんで…飾ってません」
「あらーじゃ来年はうちに来なさい」
「覚えてたらお邪魔します」
「お茶入れどこかしら」
「黒棗に濃茶じゃないですか? 棗が出てますし」
「あらほんとねぇ」
ゆっくりと展示を楽しんで、それから茶室を外から見て。
自分では気づかないようなところに先生は気づかれる。
茶人ならではの目の行き届き方だ。
その後、食事へ。
近くの懐石の店だ。
メニューはたった一つ。お酒は選べる。
すべて美味しくいただいた。
先生が嬉しそうで俺も嬉しい。
お店を出て、帰りましょ、といわれたが…。
ちょっと飲みに行きたいと誘ってみた。
タクシーを拾い恵比寿へ。
あのあたりならいくつか知ってる。
一応運ちゃんにお勧めを聞けばガーデンプレイスの店もいいとか。
前につけてもらって入った。
なるほどいいね。
ゆったりとお酒を頂き、楽しむ。
先生のは少し軽めのものを飲んでいる。
「ちょっと酔っちゃったわ。そろそろ帰りましょ」
俺が4杯目をあけた頃、そう仰った。
カードで会計を済ませてタクシーに乗り、帰宅する。
先生はタクシーの中で俺にずっともたれていてそういうところが可愛い、なんて。
家の中に入ると俺にしなだれかかってきた。
「脱がせて…」
はいはい。
綺麗さっぱり丸裸に剥いて、ベッドに放り込む。
布団をかけておいて着物を片付けた。
俺も寝巻きに着替えて。さてと、寝るかね。
先生の隣にもぐりこむ。
あったかい。
キスされた。
「ね、しないの?」
「今日はいいですよ、寝ましょ」
「だってもう一週間してないわ。大丈夫なの?」
「今日は別にそこまで飢えてないんですよね」
「…誰かとしたの?」
「今何想像しました?」
「ひどいことを他の人にしてきたのかしら」
「そんなことしてたらキスすらあなたとしてませんよ」
「じゃどうして?」
「というかしたいんですか?」
「…ばか、そんなこと言えると思ってるの?」
「いや、んー。したいんでしたらしますよ。したくないなら寝ますが」
手をつかまれて股間に持ってかれた。
「言えないの?」
こくり、とうなづく。可愛い。
「軽くがいい? 激しくがいい?」
「どっちでもいいわ…酷いのはいやだけど」
もう濡れ始めてる。いいねぇ。
「酷いの、ね」
ちょっとだけ突起を強く掴んだ。
「きゃっ」
そのまま扱く。
あっあっ、と制御できない声が出ている。
ひゅっと一瞬声が途切れ痙攣しだした。
まずは一回。
息がおさまるのを待つ。
「酷いの、だめって言ったのに…」
「おや、軽くしただけなんですけどね」
俺の頭に手。
押されて先生の乳首の辺りに唇が触れる。
「舐めてほしいの?」
これもうなづくだけ。
少し噛んでやった。
軽く悲鳴が心地よい。
「もっと優しくして、お願い…」
「わがままな人だな」
きゅっと股間の突起を軽く捻る。
「いやいやいや…」
ククッと笑ってゆっくりと優しく胸を愛撫する。
幸せそうな吐息に変わってきた。
どちらもいいね。
そのままゆっくりおへそを舐めたり、下の毛を触ったり。
それから、濡れそぼつそこを舐める。
気持ち良さそうで、いい。
俺の頭を掴みながら、喘いで。
中を指でかき回して楽しむ。
先生を楽しませて力尽きるところまでやりこんで、時計を見ればそろそろ俺は起床時間。
久々の完徹決定。
うつらうつらしてる先生を置いて洗面、着替え。
出勤だ。眠い!
入荷少な目、客普通。
仕事は早く終った。
さっさと帰宅して玄関を開ける。
あれ、静かだ。
トイレに行って手を洗い、寝巻きに着替えて寝室に入れば、やはりまだ寝てた。
そろり、と横に進入して抱っこして寝る。
幸せ。
先生の温かい滑らかな肌に触れて、深く眠りにつく。
つんつん、と頬をつつかれて目が覚めると美味しそうな匂い。
「お昼ご飯、食べる?」
ぽー…と先生に見とれてたら頭を撫でられた。
その手を取って引き寄せようとしたら鼻の頭にデコピンされて目が完全に覚めた。
「うー、ご飯ね、ご飯。食べます」
イテテテ。
ベッドから降りてトイレに行って食卓につく。
ご飯にお味噌汁、目玉焼きとベーコン。ほうれん草のおひたし。お漬物。
おいしそう。
「軽いものしか作れなかったけど」
「十分ですよ」
炊き立てご飯に作りたての味噌汁は幸せだ。
恋人が作ってくれたのは更に美味しい。
「何時ごろ起きたんです?」
「1時くらいかしら。あなたいつ帰ってきたの?」
「俺は10時かな。今日は早く終ったから」
「じゃ、まだ眠いんでしょ? ご飯食べたら寝る?」
「もうちょっといちゃいちゃさせてくださいよ。寝るのは夜寝ますから」
「あら」
少し頬染めて、こういうところ可愛いな。
「…あれ?白味噌落としました?」
「うん、あなた前そうしてたから。ちょっと入れてみたの」
「おいしいです。嬉しいな、覚えててくれたんだ」
「甘くて辛くて濃いの、好きよね。でも成人病になっちゃうわよ」
「ん、そうですね、事務職になったら考えないといけませんね」
「あなたも若くはないのよ? そろそろ控えないとダメよ」
「はい」
ご馳走様をして片付ける。
お茶を先生が煎れて、俺の分も煎れておいてくれる。
洗い物を終えて座ると、先生が膝の上に乗ってもたれてきた。
可愛いじゃないか。
「いい匂いする…」
「あぁ、お風呂いただいたから」
「気づかなかったなぁ」
「良く寝てたもの。昨日は寝てないんでしょ?ごめんね」
「徹夜くらい。あなたが気持ちよくなってるの沢山楽しめたしね」
「…私から誘うなんて。恥ずかしかったわ」
「嬉しいですけどね、求められるのも」
暫く会話しつつ、べったりとくっついたまま。
4時半ごろ、先生がそろそろ帰らないと、と言い出した。
「晩飯、食ってからにしたらどうです?」
「帰りたくなくなっちゃうから」
「うれしいこと言ってくれるじゃないですか」
そういいつつもまだ俺にもたれたままだ。
「帰したくないなぁ。けど明日お稽古朝からですもんねえ」
「そうなのよね…」
ふー、と耳元で溜息一つ。身を起こす。
なんとなく、急にしたくなってキスをした。
先生はふふっと笑って俺の頭を撫でる。
「また明日、うちに泊まって頂戴」
「はい、お邪魔しますね」
「着替えてくるわ」
「はい」
すっと立って和室へ。
俺はトイレへ。
先生の帰り支度を整え、俺も着替えた。
家まで送る、と言うと寝不足の人に運転させられない、駅までで良いという。
ほんと優しいなぁ。
羽織とショールで防備して二人でゆっくりと駅まで歩く。
「じゃあまた明日」
「待ってるわね」
「気をつけて帰ってくださいね」
「ええ、じゃ、また」
先生が改札をくぐって電車に吸い込まれる。
発車するのを見届けて帰途、寒いなぁ。うどんでも食うか。
近くの店に入り親子丼を頼んで食って帰宅。
トイレへ行って着替えておやすみなさい。
何度か目が覚めてトイレに行き、朝になった。
出勤し、物がない、寒いなど暇な火曜日。
早く仕事が終らないものか。
はぁっと息をついてふぐを何本かさばいてもらった。
先生のところに持っていこう。
メールを作成。今日はふぐ、と打ち込む。
返事は夕飯に鍋、だ。
寒いから丁度いい。水菜をちょっと買って持っていこう。
追加でメールが来た。
あなたは豚、とだけ。
…あぁ、豚肉で何かしてくれるんだろう。うん。
双方仕事中だと電報以下になってしまうなぁ。
客も早く引けた。
仕事を早めに終らせて、ふぐと水菜を積んで先生のお宅へ。
「こんにちはー」
「はい、こんにちは」
「いらっしゃい、ごめんね、さっき。充電がなくなっちゃって」
「ああ、そうだったんですか。何かと思いましたよ」
「なに送ったんだい?」
「あなたは豚、が本文のメールです」
「山沢さんそんなに太ってるように見えないけどねえ」
「先生より10キロほど重いですよ」
「へぇ意外だねえ」
「じゃなくて豚の炒め物かしゃぶしゃぶか何か、と書きたかったのよ」
「わかってますよ」
ふふっと笑って水屋へ入る。
朝の後始末とお稽古の準備をして、待機。
いつもの生徒さん、いつものお稽古。
今日は寒いといいつつ皆さんいらっしゃって生徒さん達が引けてから俺のお稽古。
「随分よくなってきたわねぇ。もうちょっとね」
「有難うございます、精進します」
お稽古を終えて水屋を片付ける。
夕飯に豚と水菜を炊いてくれるそうだ。
冷しゃぶでも良いんだけど。
「明日の朝御飯、一緒だけどいいわよね?」
なるほどそれは名案。
と言うことで水屋を八重子先生と交代されてお台所へ。
「そうそう。昨日の展覧会どうだった?」
「お雛様がありましたよ。節句が終ってから飾ってあるとは思いませんでした」
「へぇまだ飾ってるんだねえ」
「先生からお聞きじゃなかったんですか」
「バーに連れてってもらったのが印象的だったみたいでね」
「そりゃあんまり行くところじゃないでしょうけど。
 展覧会の後はそのまま帰るほうがいいのかな…」
「だけどそうそうあんたと出かけさせるのもねぇ、律に言いにくいし」
「そうなんですよねぇ。ほら、青梅の梅祭り、あんなのも行きたいんですけど」
「あんたあれ来年はないよ、行くなら早くいかないと」
「え、なんでですか?」
「梅の病気で全部切っちゃうらしいよ」
「ええー、あれをですか、勿体無い」
「感染る病気だからしかたないんだってさ」
「ありゃー…そんじゃ絶対今年行かないと見納めですねえ」
「来週の春分の日にでも行ったらどうだい?」
「あ、いいですねえ、次の日仕事ですけどまぁ一日だけですし」
「その日なら律も旅行に行くって言ってたからね」
「じゃ孝弘さんとお留守番ですか」
「そういうことになるね」
「いいんですか? みんなで一緒にでもいいですが」
「あたしらが一緒だと気を使うだろ」
「ああいうところで羽目を外したら後で噂になりますよ」
「だったら一緒に行ったほうがいいのかねえ」
「お暇でしたらお願いします」
水屋の片付けも終わり、台所に向かえば孝弘さんをそろそろ呼ぶようにと言われた。
離れへ行ってごはんできたそうですよ、と呼び一緒に食卓に着く。
「今日はふぐ鍋よ~」
お鍋から白菜や豆腐やしいたけを貰いつつ、豚水菜を食べる。
うまいなぁ。
「塩分取りすぎになるわよ」
汁まで全部飲んだら叱られた。
「鍋のあとのポン酢飲むのも好きです」
「も~だめよ~」
律君も笑ってる。
お鍋以外を片付けて、雑炊。
俺は雑炊は一杯だけいただいて後は孝弘さんがペロリだ。
お台所の片付けを済まし、先生方はお風呂。
俺は今日は遠慮して一緒に布団に入る。
先生は今日は疲れていたのかすぐに懐の中で寝息を立て始めた。
夜半、ふと違和感に目を覚ます。
「どうしたんです?」
「ん、起きちゃった?」
「今日は下はダメですよ」
「どうして?」
「生理中ですもん」
「そう…」
そのまま俺の身体のあちこちを気のすむまで触って、ふぅ、と息。
「おやすみなさい」
「うん」
ぺたり、と俺の胸に耳をつけてしばらくして寝息。
ま、そんな時もあるよな、と俺も寝なおした。
翌朝、豚水菜で朝食を済ませ掃除にとりかかる。
先生は洗濯物を干したり座敷を掃除したり。
お昼をいただいたあと縁側で日向ぼっこ。
「暖かくなりましたね」
「そうねえ、お洗濯が良く乾きそう」
手に触れてしばらくゆったり。
「あんたら年寄りみたいだよ」
後ろを振り向けば八重子先生だ。
庭掃除を指示されて庭に下り、先生は風呂掃除へ。
八重子先生は茶道具の手入れだ。
こればかりは俺ではなんともしようがない。
掃除を終えて手を洗って居間へ行くと先生がお茶を入れてくれた。
「おせんべいたべる?」
孝弘さんはその辺でごろ寝しておせんべいを食べている。
あー、折角さっき先生が掃除したのに。
と思ったらちゃんと広告を下に敷いてる。
先生の躾か!
おせんべいを貰って先に袋の中で砕いてから食べる。
「あら。ぼろぼろこぼして子供みたいって言おうと思ったのに」
「さすがにそこまでこぼしませんよ」
ぬるくなったお茶を頂きつつおせんべいを食べて。
「そろそろお夕飯のお買物行かなきゃねえ」
「今日は何されるんですか? 魚?」
「あなた食べて帰るならお肉にするわよ」
「いや今日は暖かいうちに帰ろうかと。明日もありますし」
「そう? お買物は付き合ってくれる?」
「重いものあるんでしょ、行きますよ」
よっこらしょと腰を上げて上着を羽織る。
「じゃ、ちょっと買物に出てきますから」
先生は孝弘さんに言い置いた。
「お母さーん? お買い物行くけど何か買うもの有ったかしら」
茶室にも声を掛ける。特にはないようだ。二人で買物へ。
大きいかぶと白菜など重量系を買って帰宅。
野菜を洗って下拵えまでお手伝い。
「さ、そろそろ帰ります」
「うん、じゃまた明日ねぇ」
久々に暖かいうちに帰宅だ。こんな日が続けばいいなぁ。
帰りがけにお惣菜を買って帰宅。
メシだ!
食ってしばらくしてから寝た。
縫い物しなきゃなぁ…。
朝、出勤、本日は雨の予報。
今日は先生のところへは車で行くべきかなぁ。
沢山降るなら。
大して客も来ないまま仕事が終る。
ま、明日も平日だし…雨だし仕方ないか。
気温も上がってきて予報を見れば戻る頃だけかな、酷いのも。
まぁ適当な駅からタクシーに乗るなり何なりすればいいだろう。
支度をして電車に乗る。
少し雨が落ちてきた。
あまり降るようなら生徒さんは少ないだろう。
晩御飯はどうするかメールが来た。
どうしよう…。
メニューは?と聞くと肉じゃが&白菜とかぶの炊いたもの。
うまそう。これは食いたい。
食べさせてください、とメールを返す。
晩飯という楽しみもあり、いそいそとお稽古にお邪魔する。
普段なりに生徒さんも来てお稽古が進む。
「今度花月してもいいわねぇ」
「ああ、最近してませんよね、私も足がわからなくなりそうです」
「足はこうよ」
と、歩いて見せてくださる。
「行きなのか帰りなのか、ちゃんと考えれば歩けるでしょ」
「うーん、そうなんですよね、考えればいいんですけど…つい」
「あなたは且座の正客をしないんだからそれくらい覚えて頂戴よ」
「はい」
お花が苦手すぎるのでいつも外してもらってるんだよね。
「土曜日に特訓しようかしら。夜は暇でしょ。日曜のお昼からと」
「う…わかりました」
「ほんと苦手なのねえ」
「や、その」
「なぁに?」
「いや、いいです」
「なんなのー?」
あ、八重子先生。
「ご飯もうすぐできるから早く片付けなさい」
「はい」
「はーい」
水屋を片付けてお台所へ。
「ほら、これ持って行って」
配膳をしてご飯の用意。
孝弘さんも出てきた。
「あら律は?」
「遅くなるんだってよ」
「じゃいただきましょうか」
「いただきます」
うーん、おいしい。幸せ。
ご飯が美味しいっていいなぁ、帰ると美味しいご飯が待ってるとか幸せだよなあ。
その上可愛い嫁が待ってるとかもっと最高だよな。
若い頃の孝弘さんって幸せ者だよな。
そのまま普通に先生と夫婦をしてたら俺なんて入り込む隙、針の穴程もなかっただろう。
うまそうに食ってる俺と孝弘さんを先生はニコニコと見ている。
食後、雑談しているときに最近の血液検査で中性脂肪が下がったなんて話をする。
TGは体脂肪率関係なく上がるらしく。
何かしてる?と医師に聞かれて最近の食生活を話すと続けるように言われたと。
「先生方の作ってくださる食事のおかげですねー」
「普段からお野菜食べないからよ~」
「あんたできるだけうちで食べなさいよ」
「はい、ありがとうございます」
「あ、そうそう。これ。ホワイトデーだから」
「嬉しいな。俺も後でお渡ししようかと。クッキーじゃないけど」
「あら。嬉しいわ」
一旦部屋に戻ってとってきた。
はい、とお渡しする。
風呂敷三段重。
「あら、なにかしら」
マールブランシュの茶の菓とマカロン&ムラング、生茶の菓だ。
うち二つが京都限定となっている。
取り寄せたった。
先生もよろこんでくれている。
でもこんなものより、先生がくれたクッキーのほうが価値がある。先生の自作だ。
にこにこしたまま今日も帰途につく。
帰ったら食べよう。
会社の奴らに自慢してやる。
雨降りの中帰宅、部屋で美味しくいただいた。
幸せなままおやすみなさい。
翌朝出勤し、貰った自慢をする。
バレンタインにも貰ったというと大変うらやましがられた。
仕事を終えて一服していると先生からメール。
八重子先生と広げて全種類ちょっとづつ食べたらしい。
太りますよ~、とメールすると太っちゃったら運動に付き合ってね、と帰ってきた。
可愛いなあ。
さって今日は身頃を縫おう。
先生は今頃お食事でその後はお花のお稽古だろう。
以前花を持って帰ってくるのを見かけたけど綺麗だったなぁ。
美人は花を持てばますます綺麗っていうね。
ちくちくと縫ってたまに針を指に刺したり折れたり。
なんで折れるんだろう。
握力?縫い方?
背縫いを終えてふと気づけば暗い。
え、もう夕方か?
なんだ、曇ってるだけだった。
でもそろそろ夕飯何か買ってこないとなあ。
先生は今日は何を食べるのだろう。
本当に主婦って大変だよなあ。
俺なら食いたいなと思うもの買ってきて食えばいいし、どこか食いに行けばいいが。
皆の分作って、これが嫌いとか今日は食べたくないとか。
先生のお宅で手伝うのは出来ても毎日のメニュー考えろって言われるとね。
……親子丼で良いか。
もうちょっとしたら食べに行こう。
畳んで片付けて。
そろそろしっかりと掃除しないとなぁ。
納戸に掃除機を取りに入ると、先生はここに入るのを嫌がってたのを思い出す。
掃除機をかけて、まぁこんなもんでいいか。
片付けて手を洗って着替えてメシ!
外寒いー。
ぶるり、として近所の定食屋へ。
親子丼一つ。
山椒たっぷりかけていただく。
あったかくてうまい。
腹に物が入るとやっぱり温まってよい。
帰宅して風呂に入って頭を乾かして。
さあ寝ようかな。
ベッドにもぐりこむとメール。
今晩のおかず、と先生から写メが来た。
やり方がやっとわかったとのことだ。
くっそめちゃくちゃうまそうなメシじゃないか。
ご飯はもう食べたけどもう一度食べたくなったとメールを返す。
暫くメールを交わしてからおやすみなさい、と打ち込み寝た。
翌日の仕事はまぁ土曜日だし、それなりに忙しい。
はっと気づけば昼前で慌てて帰宅し風呂に入ってお稽古に駆けつける。
電車の中で走っても意味はないのでちゃんと整ってるか確かめて。
駅からタクシーを使って駆けつける。
セーフ。
「こんにちはー」
「はい、いらっしゃい」
水屋の支度は…おや整ってる。
「朝の方が少なかったのよ~、だからしちゃったわ」
「あ、そうでしたか」
「あんたもお茶のみなさいよ。丁度ぬるいわよ」
「ありがとうございます」
一息つかせてもらってそれからお稽古。
とんとん、と間も良くお稽古は進み自分のお稽古も。
「この調子で続けたらなんとか夏前に出来そうねえ」
「そーなるといいですねー」
「そうなるようにするのよ。でなきゃもっと厳しくするわよ」
「うっ…頑張ります」
今日は先生も自分の稽古をしたいからとお付き合い。
八重子先生に指導してもらうのを横で見学。
台子だから碗建箸なのだが自分がすると悩むんだよね。
これは先生でも一瞬手が戸惑うらしい。
教える側に回るとちゃんと違うってわかるとか。
二度続けて。
さすが先生一度言われたことは次には全部直ってる。
「さてと。水屋は山沢さんに任せてご飯の支度、終らせないとねぇ」
「あら、まだできてなかったの?」
「そうだよ、あんたお稽古したいって言うから」
くすくす笑ってみてたらペシッとはたかれた。
「じゃれてないで」
八重子先生が呆れてる。
先生方が台所へ行って俺は水屋を片付ける。
もう少しで、と言うところで先生がご飯よー、と呼びに来た。
いま行きます、と答えて手早く片す。
手を拭きつつ食卓へ向かう、いい匂いだ。
「ろーるきゃべつ?」
「春キャベツの春巻きよ。中はパプリカとカニカマと菜の花と長芋なの」
「ヘルシーですね」
「ちゃんとお肉も有るわよ。はい」
野菜の肉巻きだ。
「今日はキャベツがいいのが安くてねぇ。だからキャベツ尽くしだよ」
と八重子先生から渡されたのはコールスロー。
「梅と大葉が入ってるの、おいしいわよ」
「明日の朝はホイコーローとかどうかねぇ」
「朝から多いんじゃない?」
「山沢さんなら食べれるでしょうけど私は朝からはちょっといやねぇ」
濃すぎるのか。
「スープ煮とかされたらどうです?ポトフとか」
「あ、それはいいねえ」
「サラダだったら汐昆布とごま油で和えるとかいいんじゃないですか」
「でもそんなんじゃあんた足んないだろ?」
「あら、ベーコン足したらいいわよね?」
「あー、はい、十分です」
八重子先生も何かとメシに気を使ってくださる。助かる。
おいしくいただいてると先生はこちらを見てうれしそうだ。
しっかり食って満腹。
孝弘さんが食べ終わって台所を片付ける。
先生が明日の朝御飯の仕込みをするというので手伝いつつ。
いろいろ剥いて鍋へ。
ベーコンとウインナーも投入して煮込む。
おでんと一緒で一度炊いて次の日が美味しいらしい。
いい匂いがするなぁ。
先生が作るのを眺めつつ、少し色気を感じる。
「居間にいたら? 立ってたら疲れるでしょ?」
「いや、ご飯拵えしてる姿って結構好きなんですよね」
「そう?」
「ええ、手をだしたくなる」
きゅっと口を捻られた。
「そういうこと言わないの」
じゃれてるうちにそろそろ火が通っただろう、と言うことで火を落として居間へ。
先生はそのままお風呂。
八重子先生はもうとっくに、と言うことで俺も先生と。
と思ったのだが断られた。
今更だが何か気恥ずかしいらしい。
お茶をいただいてゆっくりしていると先生が上がってきた。
「ごめんなさい、うっかりお湯落としちゃった」
ありゃ。
まぁいいけどね、風呂は一応入ってきてるし。
そんじゃ戸締りを確かめますか。
八重子先生が火の始末を確かめて居る。
お勝手も確認して、おやすみなさいと八重子先生と別れて先生と寝間へ。
さて、と。
布団を敷いて寝巻きに着替えた。
先生が髪を纏めているのを後ろから抱きしめる。
「もうちょっと待ってて」
「待たない」
もぞもぞと先生の胸やお腹をまさぐる。
「待って頂戴、ね、あの、お手水行ってから。ね?」
苦笑。
「はいはい、行ってらっしゃい」
パタパタとトイレへ走っていった。
戸締りしてる間に行っとけばいいのに。こうなるのわかってんだから。
少し待つ。戻ってきた。
「寒~い」
ぱっと俺に抱きついてくる。
…障子閉めようや。
布団に押し込んで障子を閉め、それからもぐりこむ。
「見られたかったんですか?」
「ち、違うわよ、寒かっただけよ」
「いいですよ、今日良い月ですから庭でも」
「違うって言ってるでしょ…ん、ぁ…」
いい感触だなぁ、胸。
身体を撫で回して堪能する。
沢山撫でた後、股間に手をやれば結構に濡れている。
中に入れず外側を玩びつつキスしてたら唇を噛まれた。
むっとしてたらそれがわかったのか身を縮こまらせて謝ってきた。
一瞬もうやめちまおうか、とも思ったが。
恐々と入れて欲しい、と言うのを見れば可哀想になってそのまま中を探って逝かせて。
二度、中で逝かせると眠たげだ。
そのまま始末もしてないのに寝息に変わった。
息をつき、股間を拭いて寝巻きを着せなおして手洗いに立つ。
そのまま庭へ出て暫く月を眺めた。
カタン、と音がして振り返れば八重子先生だ。
「寒いのに何してるんだい?」
「月が綺麗だと思いまして」
手が伸びて額に触れる。
「眉間にしわ寄せて綺麗もないだろ」
苦笑する。
暫く八重子先生に見つめられて。
ぽんぽんと頭を撫でられた。
「風邪引かないうちに寝なさいよ」
「はい」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
また月を見ながら自分の中を治める努力をして折り合いをつけて部屋に戻った。
先生は気持ち良さそうに寝ていて。可愛い。
そう思えるようになっていてほっとして布団にもぐりこんで寝た。
翌朝、起きると先生がいなくて外が明るい。
寝過ごしたようだ。
布団の中でぼんやりしてると先生が起こしに来た。
「あら起きてたの? ご飯食べるでしょ?」
早く着替えてきなさい、といわれて布団から這い出る。
身づくろいをして食卓につけばポトフ。
寝ぼけ半分に食べてもうまい。
…トマト。温かいトマトはいやだ。
手が止まっていると孝弘さんが食べてくれた。
「あっお父さんダメよ、人のおかず食べちゃ」
「いいんじゃないの? 山沢さん苦手っぽいし」
律君が笑って言ってくれて新たな温かいトマトを回避できた。
野菜を沢山食べて腹いっぱいになる。
「さてと、ちょっと手伝ってくれるかい」
八重子先生に呼ばれて茶道具の整理を助ける。
重い釜の移動に体力を使ってくたびれてしまった。
「お昼ご飯できたわよ」
その声に中断されご飯をいただく。
昼からはどうするのかな。
お昼ごはんは孝弘さんが居ないそうでスパゲティ。
くっ、辛っ!
にっこりと先生が笑う。
「しし唐、当たったの?」
涙目でうなづく。
「普段の行いかな」
と呟いたら八重子先生が笑っている。
「そうかもしれないわねー」
先生までもがのんびりとそんなことを言う。
俺の分は2人分だったらしく、八重子先生とは明らかに量が違う。
まぁその分当たりを引きやすい。
「暖かいわねぇ。あとでお昼寝したいわね」
「ですねぇ」
「年寄りみたいなこと言ってないで片付け手伝っとくれ」
「サー・イエッサー」
ぷっ、と先生が噴出した。
「映画、見た口ですか?」
「アメリカの映画でしょ?」
おしゃべりしながらお茶碗や水指などの入れ替え。
冬向きのものは奥へ、春夏のものを手前へ。
「ことしもお花見の茶会しようかねえ」
「そうねえ」
「去年は参加できなかったんですよね。今年されるなら参加したいです」
先生がにこっと笑って私をなでる。
「なんで撫でるんですか」
「ん、なにか可愛かったからよ」
ハイハイ。
「あらこれ…懐かしいわ」
「あ、綺麗ですね。夏向きですか?」
「どれどれ? そりゃ夏だね。盛夏に使ったらいいよ」
切子の水指はさぞや涼しげだろう。
「それとそろいのお茶碗もあるよ」
「棗はどういうのと合わします? 木地ですか? 黒棗?」
「それもいいけどちゃんと揃いであるんだよ、その水指。ただどこに仕舞ったかねえ」
「…来年夏までに見つけましょう」
「あんたが手伝ってくれたら見つかるかもしれないね」
出来るだけ道具が一具になるようにリストも作って行くことにした。
中身の写真を撮って箱につけていくのもいいな。
そんな相談もしつつおやつタイム。
今日はカステラだ。
「八重子先生ってよく太りませんね」
「あら。おばあちゃんお医者さんに甘いものは控えめにって言われてるわよ」
「え、でも結構」
「前はもっと食べてたからねぇ」
これで控えめだったのか。
カラカラと玄関の音。
「八重ちゃんいるかしら」
おっとご友人か。
お茶を出すと八重子先生から先生とあちらの家に居るようにと言われた。
内密のはなしかな。
ということで移動して鍵を開けて中に入る。
少し違和感。なんだろう。
ああ。シーツの色が変わってる。
カチャカチャと先生が鍵を閉め、後ろから抱き着いてきた。
ふっと笑っているとうなじをなめられた。
「何をしてんですか…」
そのまま右手が俺の懐へ…残念ながら晒越しである。
「したいのかな?」
「ううん、なんとなく」
「俺は…あなたを抱きたくなった」
「えっ、まだ明るいわよ」
「あなたが俺に触れるからですよ。さ、脱いで」
ちょっと引いてるようだ。
「もたもたしてるとそのままでやりますよ。俺はそれでもまったく…」
言ってるうちに脱ぎ始めた。
そのままは嫌なようだ。
着物を脱いで長襦袢を脱いでちゃんと衣桁にかけて帯も畳んで。
待ってるのがなんともね。手持ち無沙汰でいけない。
脱いでそのまま、と行きたいけれど。
肌襦袢姿の先生を膝の上に乗せて胸を弄る。
上がる声に煽られてもっと、と思う。
もっともっとなかせたい。
腰巻を脱がせて膝立ちにさせ股間に顔を埋める。
「こんな格好いや…」
「いやと言う割には…随分と。期待してるんでしょう? ほら」
突起を摘んで苛めながら中を抉るとお尻の穴までひくひくとしてて可愛い。
ちろり、とそこを舐めると悲鳴を上げて膝立ちが崩れてしまった。
はずみでぐりっと中を抉ってしまったようでちょっと痛かったようだ。
中を痛めつけるのは好みではない。
今日のところはこれまで、だな。
まだ逝けてないようなので突起を弄って逝かせて、仰向けにさせる。
涙目になってるのが可愛くて、まぶたにキスをしてみた。
するり、と先生の手が俺の背に回る。
唇を合わせていると先生の手が下りてきた。
そっと俺の股間を触る。
「……やっぱりやりたいの?」
「あ、違うの、ごめんなさい。なんとなく触っただけよ」
なんとなくねぇ。
先生を上にして転がると重みが心地よい。
「ねえ先生、今度21日、梅を見に行きましょう。八重子先生と孝弘さんも一緒に」
「いいわねえ。あ、お墓参りどうしよう…」
「お彼岸か。忘れてた。先生のお父さんがしてる最中に出てきちゃ困るな」
がつんっと殴られた。
いてててて。
「先生最近暴力的…」
「そういうことをあなたが言うからでしょ」
「ね、俺のこと好き?」
「何よ突然。好きよ。あなたは?」
「俺も好きですよ。愛してます」
「ふふっ」
さっき殴ったところを撫でられてキスされた。
たまに行動がつかめない。
先生の携帯がなる。
八重子先生からでそろそろ戻ってOKとのことだ。
さっとシャワーを浴びてもらって着物を着なおして戻る。
中でお茶をいただいて、さ、俺はそろそろ帰りましょうかね。
「じゃまた火曜ね」
「はい、ではまた」
別れて帰宅する。
メシを適当にとって布団にもぐる。
なんだかんだ疲れるわけで。
おやすみなさい。

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h20

サイドテーブルにとりあえず置いといて、続き続き。
指を入れて中を探る。
声の沢山出るポイントを捕らえて責める。
お腹がひくひく動いて必死に息を吸って喘ぐ。
少し悲鳴のような、普段聞けないような声が出て逝った。
足首の縄を外す。
涙と少し鼻水。吸ってやろうとしたが足首に使った手拭を奪われた。
息が荒いのが落ち着くまで待つ。
っと、ティッシュ頂戴、と言うので渡した。
洟をかんで捨てて、少し咳をして、俺の飲み差しのペットボトルのお茶を飲む。
少しして落ち着いたようだ。
ベッドに伏せて大きく一息つき、こちらをちらっと見て手招きする。
横に行くと首を絞められた。
え…何を。
突然のことに身動きもとれず呆然としていると苦しくなってきて先生の手を掴む。
ほんの少し時間を置いて放してくれた。
「けほっ…なんで?」
「これくらい苦しかったんだから…。はい、お茶」
一口飲んで蓋を閉める。
「何をするのかと思った。殺したいくらいうらまれたかと」
「殺したりなんかしないわよ、ばかね」
息が落ち着くとそろそろ寝ましょ、といわれる。
先生は寝巻きを着てトイレに行った。
枕元にもう一本お茶を用意して先生が戻ったので俺もトイレに。
ふと洗面所の鏡を見ると首に指のあと。
明日残ってたら襟巻きするしかないなぁ。
ベッドに潜り込んで先生の背中を撫でると、あふ、とあくびが聞こえる。
「もう一度、って言ったらどうします?」
「え?」
目をあわせ見つめる。
先生は目をそらせて少し赤くなった。
「身体、持たないわ」
そういって俺の懐に顔を埋めた。
可愛いなぁ可愛い、やっぱりもう一度したくなる。
顔をあげさせてキス。
耳を舐め、齧る。
「だめ?」
そっと寝巻きの上から胸を揉む。
太腿の上から手を這わす。
手を潜り込ませて突起に少し指を掛けるといい声が出る。
ちょっと声が出る程度になぶって楽しむ。
暫く焦らせば諦めたのか、中に入れてとおねだりされ、中の良い所をなぶる。
今回はちゃんと息も出来るよう見図りつつ逝かせた。
汚れた股間を舐め取り、先生が落ち着いたので懐に寄せて寝た。
夜中目が覚めるとベッドの中にいない。
リビングに出てみるとテレビ見てた。
横に座るともたれられた。
ひんやりとしている。
「風邪引きますよ。あと電気つけたらどうです? 見るなら」
「ちょっと見たくなっただけだから」
「どうせ明日休みなんですし、ちゃんと見たらいいじゃないですか」
「そう?」
うん、といって羽織るものを取りに立つ。
電気をつけてヒーターの温度を上げた。
羽織らせてお茶を渡す。
ペットボトルだけど。
「すごいわねぇ」
「スキー行きましょうか。もう今年は遅いかな」
「私は滑れないからいいわ…あなたは滑れるの?」
「いや、俺も滑れませんけど」
「だったら温かいところで見てるだけがいいわよ」
フィギュアが終ったら寝る、と言ってそのまま俺にもたれてテレビを見ている。
「エキシビションは楽しそうよねえ」
「メダルや順位関係ないから表情も柔らかいし、自由でいいですよね」
…ちょっとまて、テレビ何時まで?
番組表を見ると朝4時まで。
俺が途中で寝てしまいそうだな。
先生は綺麗なものを見るのが好きだから、こういうものも好きなんだな。
俺はそういう先生を見ているのが好きだけど。
暫く見ているうちに腹が減る。
そういえば昨日は常備菜で軽く食っただけだったか。
冷蔵庫には何もない。
「先生、ちょっとコンビニ行ってきますが何か欲しいものあります?」
「どうしたの?」
「ちょっと腹減りました」
くすくす笑ってる。
「こんな時間に食べたら太るわよ?」
「いつもあと1時間ほどで朝食ってます」
「あら、そういえばそうね。じゃ…プリン食べたいわ」
「プリンですね」
ささっと着替えて買物に出ようとする。
呼び止められてマフラーを渡された。
「首、痕になってるわ」
ふっと笑って首に巻き、コンビニへ買いに出た。
なに買おうかな。
パンを2つ選んで缶コーヒーを取り、プリンを4種類選んで帰った。
戻って先生の前に出す。
「どれにします?」
「なぁに?こんなに買ってきたの?」
選ぶ楽しさってあるよね。
一つ選んで食べ始めた。
「おいし…」
横でパンを食べているとそんなに沢山食べるの?と仰る。
多いかな?
コーヒー飲みつつ食べ終わって、手を洗って歯を磨いて戻る。
先生はプリンを食べ終えてテレビに夢中だ。
「ねぇ、牛乳有る?」
「ありますよ」
「カフェオレ飲みたいわ」
はいはい、作ってきましょ。
牛乳を温め、コーヒーを淹れてカフェオレを作る。
しかし最近の牛乳ってロングライフなんだな。
昨日買ったこれなんて常温で5月18日までとかいてある。
「お砂糖は?」
「一つ入れて頂戴」
入れて混ぜてとかしてから渡す。
マグカップを両手でもって美味しそうに飲んでいて可愛いな。
あくびをしながらテレビを見ている。
眠いより見たい気持ちが勝ってるようだ。
「素敵よねえ」
よくわからんけどきれいは綺麗だな。
3時半ごろ、眠くて仕方がなくなったようで俺にもたれてあくびを連発している。
「もう寝たらどうですか」
「だってあとちょっとなのに」
しょうがないな、寝ちゃったらベッドまで連れて行こう。
うつらうつらとしだして、番組が終る。
「さ、寝ましょう」
「ん…お手水行ってから…」
ふらふらよろよろとトイレに行って…あれ?戻ってこない、寝てるんじゃないだろうな。
トイレの前まで行けば出てきた。
「あぁ、寝てるのかと思いましたよ」
「ごめんね、ちょっと大きいほう」
頬染めてそんなことを。
それが可愛くてふっと笑ったらぺち、と額を叩かれた。
抱えあげてベッドにつれて入る。
すぐに寝息。
さて、何時まで寝るつもりだろう。昼に起こせばいいのか?
俺ももう少し寝ようかな。
ならばとトイレに行って電気を消しストーブの温度を下げてからベッドへ戻った。
先生の寝息を聞いて一緒に寝る。
昼前、目が覚めて食事の買物に出た。
買物から戻っても先生は良く寝ている。
ハムエッグとトースト、サラダとコーヒーでいいかなぁ。
用意するのはもう少し待つか。
先生が起きてからにしよう。
小一時間ほど暇つぶしにテレビを見ていると起きてきた。
さて、用意しますかね。
「先生、ベーコンかハムかどっちがいいですか」
「ベーコンがいいわ。あら、お昼作るならするわよ?」
「あーじゃ俺サラダの野菜洗いますんでお願いしますね」
寝巻の上に割烹着を着て、ベーコンエッグとハムエッグを焼いてくれてる間に
野菜を洗って適当にちぎる。
人参は切った。
ドレッシングは…コールスローのがあったな。
食卓に出して、パンを焼く。
「先生、パンは食パンかフランスパンどっちがいいです?」
「んー?食パンでいいわよ」
食パンね。
ベーコンがいい匂いだ。
「あ、何枚?」
「薄いの?薄いなら2枚頂戴」
分厚いので先生は1枚、俺は3枚。
2枚ずつ焼いてバターを塗り、お皿に。
先生もハムエッグとベーコンエッグを食卓に出している。
コーヒーを入れて、お砂糖を用意した。
「いただきます」
おお、俺の分は卵が二つだ。
透明のボウルにぶっこんだサラダだが、先生がもっと食えもっと食えとせっつく。
サラダも沢山食べてごちそうさまをする。
ふと先生がこっちを見て笑う。
「どうしました?」
「髭そらないとダメよ? 生えてるわ」
洗面所の鏡で確認する。最近先生抱きたくて仕方なかったからか。
男性ホルモン優位になってるなぁ。
髭をそって戻るとゆっくりと先生がコーヒー飲んでる。
洗い物をしてお片付け。
先生はコーヒーを飲みきって普段着に着替えようとする。
その腕を取って抱きしめた。
「あら、まだしたいの?」
「昼間っからなんてうちじゃないと出来ないでしょ?」
「そうだけど」
「だから着替えないでそのまま、そのまま」
横に座らせる。
「あなたねぇ…私の年、わかってるの? 結構疲れるのよ?」
「でしょうね、あんなに暴れてちゃ」
「わかっててするの?」
「だめですか?」
「月に一度くらいにしてくれる? じゃないともたないわ」
「うーん、出来るだけ希望に沿いますが。たまに暴走しそうです」
「暴走する前に言って頂戴…」
「ってええと、うちでするのを月1ですよね?まさか普段を月1じゃないですよね」
ブッと先生がふきだしてお腹押さえて笑ってる。
「なんですか、もう」
「普段はいいわよ、普段は」
笑いすぎて喉を鳴らしながら言われた。
「良かった、あれもなしで月に一度だけとか無理です」
「あら、私がもっと年を取ったらそういうかもしれないわよ」
「その頃には私の性欲が落ち着いてるかもしれませんし…疲れない方法考えるかな」
「そうじゃないと二人ともが辛くなるわよー?」
「でももうちょっと俺はあなたを乱れさせたいな」
「あら…」
「刺したり叩いたり、とまではしませんが」
「え…」
先生がぶるっと震えた。
引き寄せて懐に。
「怖いですか?」
「…怖いわ」
「なに、外で縛ったりする程度ですよ」
「そんなの、無理よ…」
「あなたに危害は加えさせません」
「他の人に見られちゃうの?」
「見られたらどうしよう、くらいがいいと思いますが」
くちゅり、と先生の股間に手をやると濡れている。
「想像しちゃいましたね?」
あぁ、と喘ぐ。
昨日片付けようと思って忘れていた縄を取り手首を軽く。
そのまま胸縄をかけて行く。
「あっだめ、そんなの」
簡単な、相手がされてくれる気がなくてもかけられる程度の縄を。
「ほら…足開いて」
いやいやをしている。
「いつも俺がしていることしかしないから、安心したらいい」
「でも…」
くいっと顎に手を掛けてキスをする。
「それとも。もっとハードなのをご希望かな?」
「いや…怖い…」
寝巻の上から乳首を摘んで弄る。
「してみたい、の間違いでしょう?」
あそこがいつもより濡れている。
中に指を入れて楽しむ。
「いやよ、しない」
「こんなに濡らして…体は正直ですよ」
「だめ、だめだめ…」
中をゆっくり混ぜて少しずつあげてやる。
きゅっと腰が浮いて指を食い締める。
逝ったようだ。
そのまま続けて中を刺激する。
きゅっと突起を捻ると緩くなっていた中が締まる。
「ベランダに出てしようか」
お、もっと濡れた。
「あぅ、いやぁ…」
ククッ、と笑いながら言葉で弄り、身体のほうはゆっくりと逝かせた。
荒い息が整いだす。
縄をほどき、手の痺れはないか、ちゃんと動くか確かめた。
先生は私の懐にもたれて顔を赤く染めて何もいえないで居る。
息も落ち着いたみたいだ。
顔をあげさせてキスをする。
「もう無理…いわないで」
胡坐をかいた膝の上に乗せ、背中を撫でた。
「でも気持ちよかったでしょ?」
顔を俺の首筋に伏せて何もいわない。
でも耳まで赤いところからして恥ずかしがってるだけのようだ。
「本当ならこっちも」
とお尻の穴をつつく。きゃっと声を上げてその手を掴まれた。
「楽しみたいんですけどね、つつくだけにしてあげますよ」
「つつくのも嫌よ、恥ずかしいわよ」
恥ずかしいからやりたいわけで。
「アレを入れるのは許してあげる、と言ってるんですよ?ふふっ」
「入れるところじゃないでしょっ」
ちょいちょいっとビデオを操作してアナルファックのシーンを探す。
あったこれだ。
「先生、テレビ見て」
視線が動いた。再生する。
ガッツリ入って出し入れさてるのを見て、嘘…と呟いてる。
「最近は普通のカップルにもお尻でする人が結構居るんですよね」
「えぇ? 病気になったりしないの? 汚いわよ」
ビデオを止めてテレビを消す。
「男はちゃんとコンドームしてますから」
「でも」
「女は浣腸したりね」
「浣腸なんて酷い便秘のときにするものでしょ? お腹痛くなるじゃない」
「ぬるま湯使うんですよ。体温と同じくらいの。一時期コーヒー洗腸とかあったでしょ」
「ああ、なんか前にテレビでしてたわね」
「生理食塩水のぬるま湯なら痛くなく、酷い便秘の人もやわらかいのが出るというので、
 お年寄りとか、普通にお医者さんでもやったりするようですよ」
「そうなの?」
「何度かやればお湯だけ出ます。それからするんですよ。
 そういうシーンもありますが見ます? ってスカトロは苦手でしたっけね」
「見たくないわよ…」
「まぁ、指、入れるくらいなら浣腸しなくても別に。ちょっと汚れるけど」
「汚れるって…」
「手袋とか指サックとかしたりね。なければあそこを触る指とは別の指だけ使う」
あ、顔赤い。
前に入れたときのことを思い出しちゃったようだ。
「結構な性感帯なんですよ。排便すると気持ちいいでしょ? あれが続くわけで」
「でも嫌よ」
「はいはい、こればっかりは中々ね。入れないであげましょう」
可愛いなぁ、うんうん。
「あ、そういえば刺すって? なぁに?」
うん?
「ほら、刺すとか叩くとかって言ってたじゃない。私にはしないって」
ああそれか。
膝から先生をおろしベッドの下から雑誌を取り出す。
もう一度先生を膝に抱え上げ、雑誌を見せた。
「ほら、これ」
乳房に注射針が放射状に刺さっている写真や、乳首を貫通させている写真、
棒ほど太いものを左右の乳首に貫通させている写真。
それから陰唇を貫通させている写真などを見せる。
先生は酷く震えてる。
「怖いでしょ?」
「……こんなこと、したいの? 怖いわ。やめて」
「しませんよ。あなたの肌を傷つけるようなこと。勿体無い」
そういいながら乳首を玩ぶ。
「ここにね、針を。刺すんですけどね。
 注射針じゃなく待ち針なんかだと結構皮膚の弾力に負けてね」
「うぅ…怖いわ…」
「じりじりと刺していくとね、痛がる表情とか恐怖に震えるのとかが見れてね。
 すっごく楽しいんですよねえ」
「やだ…」
「針、指をついたことあるでしょ? あれってたまたまだから刺さるんですよ。
 刺そうと思うと中々針先が入らないんですよね。
 だから刺される人はじりじりと刺されるわけ。エイヤッと刺せば一瞬ですが」
「久さんって本当に酷いわよね…私いじめて楽しんでるでしょ…?」
「それが俺の性癖ですからね。諦めてください」
「ばか」
「あなたが怖がってるの、可愛くて好きだな」
本当に可愛くて。もう一度抱きたくなってきた。
「もう一度しても良い?」
そういいながら乳首を弄っていた手を股間に下ろしていく。
「もうっ、そんなの良いとか言う前にしてるくせに…。
 するならベッドでして。ここはいやよ」
「ここでされてたんだからいいじゃないか」
「やだ、だめよ…」
そのまま弄って更に一回逝かせた。
膝の上で啼かれると何度でもしたくなってしまう。
先生がそのまま寝られなくて俺にしがみつくしかないからどうしてもね。
でもこれ以上は流石に先生の体力がやばい。
ぐったりしてるのを抱えあげてベッドへ。
「お昼寝、一緒にしましょ」
と俺も引き込まれた。
「ちょっと待って、俺も脱ぐから」
部屋着とはいえ脱がねば寝にくい。
寝巻きを取ろうとしたがそのまま引っ張り込まれた。
下帯一つで先生を抱きしめてお昼寝だ。
夕方、目が覚めると先生が風呂から出たところだった。
「あら起きたの? お風呂借りたわよ。あなたも入ってきたら?」
「ん。メシどうします?」
「そうねえ」
「去年行ったあのホテルのフレンチとかどうですか」
「いいわね。お着物借りていいかしら」
「どうぞ、適当に漁ってください」
のそのそと風呂に入り、ざぶざぶと洗う。
拭いてタオルを頭にかぶって出てくると、はい、と下帯を渡された。
下帯をつけて浴衣を引っ掛けてぼんやり座り込む。
そのタオルで頭をわしゃわしゃと拭かれた。
「早く乾かさないと風邪引くわよ。ドライヤー終ったから早く乾かしてきなさい」
その前に、とフレンチの店に予約を入れる。
髪を乾かして暑い、と部屋に戻れば先生がお茶飲んでた。
飲みかけのぬるいのを貰って、それから着替える。
先生も着替えて化粧をしている。
パチン、と音が聞こえた。
「山沢さん、用意できた?」
「はい、いいですよ」
「お手水行った?」
「いやまだですけど」
「行かなきゃダメよ」
「子供じゃないんですから。先生、先どうぞ」
先を譲ってる間に先生が着てきた着物を畳んでバッグに。
車のトランクに入れた。
先生がトイレを出たので交代で入ってそれからホテルへ車で。
フレンチは流石にそれなりに美味しくて。
先生も満足そうだ。
食後、車に乗せてそのまま先生のお宅へ走らせる。
「あら? どうして?」
「うちに連れて帰ったらまたしたくなっちゃいますもん。もうしんどいでしょ?」
先生はくすくす笑ってる。
「やあねぇ、もう。本当に底なしなんだから」
「だってあなたを好きすぎて」
信号待ちでキスをした。
「このままどこかホテルに入りたいくらいにね」
「だめよ」
先生がくすくすと笑ってるのが耳に心地よい。
安全運転で先生のお宅まで。
トランクからバッグを出して渡す。
「上がってお茶飲んでいきなさいよ」
「帰りたくなくなっちゃいますよ」
「明日お仕事なのに?」
「ええ」
「おや、山沢さんじゃないの、こんばんは。絹、送ってきてもらったの?」
「お茶飲んでいきなさいって言ってるのに帰るって言うのよ」
「あんた、首、どうしたんだい?赤くなってるよ」
「あー、ははは…まぁちょっと。明日仕事ありますんでもう帰りますね」
「はいはい、気をつけてね」
「じゃ明後日ね」
「失礼します」
別れて帰宅。自分から帰らせてもさびしいものはさびしいなぁ。
戻って着替えてすぐに寝た。
翌日仕事をこなし昼寝。
先生もきっと今日は一日中あくびしているんだろう。
八重子先生にはばれてるだろうな。
夕方、買物に出て一人鍋。
一人暮らしには慣れているけど先生が帰ってしまった後は何かわびしい。
さて、久々に動画の整理をしないと。
DVDに動画を焼き、パソコンから消して行く。
ふと、こんなこともしてみたい、などと思いつつ見てしまう。
きっと嫌がるだろうけど。
結局ペニバンも使いたがらないし。
なんだかんだ意見通すよね。
そういえば乳首のリング、いつからつけてくれてないんだろう。
ある程度焼き終えて、一旦終了だ。
おやすみなさい。
火曜日、仕事を終えお稽古に行く。
そのまま水屋を手伝い、お稽古を終らせ夕飯をいただいた。
ゆったりと喋って風呂に入ったりでなんだかんだ寝る時間だ。
今日は別に抱かなくても大丈夫。
たっぷり抱いたから。
布団に入れて背を撫でる。
やわらかいなあ。
「ねぇ、今日はしないの?」
「ん?俺は別に今日は大丈夫ですよ」
「そう? 私は…してほしいわ」
え?
「なぁに?」
「や、あなたからそういうとか思ってなかったので」
「私だってそういうときくらいあるわよ?
 いつもはほら、言わなくてもあなたしてくれるから…」
あーたしかに。言わせる暇もなく抱いてるか。
「ね、いいでしょ?」
「勿論。だけどこの間、あれほどしたのに」
「だからよ…」
……ああ、なるほど、しばらくは感触残ってたりするもんなあ。
「どうしてほしい?」
「優しくに決まってるでしょ? うちなんだから」
「恥ずかしいからって怒らんで下さいよ。激しくとかするはずないでしょう、ここで」
真っ赤になって怒ったようなそぶりでその実、凄く恥ずかしがってるんだよね。
そうだ、あれだ。年をとったときのために考えてた遣り方で一丁行ってみようかな。
キスをして、なでて。ほのかにほのかに感じるように。
一気に、じゃなく。
あ、なんか幸せそうな顔してる。
ゆっくりゆっくりとなでて、先生のそろそろ、というタイミングを逃さず入れる。
中もゆっくりと、一気になんてせずにじっくり。
いつもの俺ならじれて一気に揚げてしまうけれど。
今日はまだ大丈夫。
先生が逝った。
気持ち良さそうだ。
これならどうだろうか。
時計を見れば2時間もたっていて、いつもに比べると時間を取ったなぁ。
結構俺が疲れる。
ま、それくらいのほうがいいのかな。
うつらうつらと先生がしだした。
俺の懐に顔を埋めて、すぐに寝息。
つられて寝てしまいそうになる。
よし、感想は明日だ、寝よう。
朝、起きる。
先生は布団にいない。
あれ?
寝過ごしたかな、と時計を見る。
そうでもない。
身づくろいして台所に行くと既にお味噌汁の匂い。
「おはようございます」
「おはよう」
「早かったですね」
「なんだか目覚めが良かったのよねーうふふ」
それはよかった。
「お手伝いすることありますか?」
「お膳拭いてお父さん起こしてきてくれる?」
「はい」
布巾を絞って食卓へ。拭いてお箸などを出す。
それから離れに行き、孝弘さんにそろそろ朝食と呼びかけた。
っと律君もいた。
「あれ?」
「司ちゃん遅くに来て僕の部屋で寝ちゃって」
「ああ、それでお父さんの部屋に避難?」
「他の部屋だと寒くて。夏はいいけど」
「八重子先生の部屋には行かないんだね、やっぱり男の子だなぁ」
「いやおばあちゃん朝早いですし」
そっちか。
居間に戻ると司ちゃんが配膳を手伝っている。
「おはよう、山沢さん」
「司さん、おはようございます」
「おばあちゃんも起こしてきてくれるー?」
台所から指示が飛ぶ。
はいはい、と。
珍しく遅いようだ。
八重子先生の部屋の前で声を掛けると良い所にきたと招じ入れられた。
どうやら髪とボタンが絡んで四苦八苦してたらしい。
ほどいてやっと八重子先生が着替えを再開できた。
帯をちょっと手伝って居間に連れ立つ。
「おはよう」
「ああ、おばぁちゃん、今日は遅かったわねえ」
「髪がねぇボタンに絡まってね。山沢さん来てくれて助かったよ」
「あらー」
座って先生にハイとご飯を渡されていただく。
今日は茗荷とナスの味噌汁、だ。
ちゃんと俺のは具なし。
と思ってたら麩が入ってた。嬉しいなあ。
にこにこと朝食をいただいて律君と司ちゃんは大学へ。
洗い物を片付けて戻ると孝弘さんも外出してしまったらしい。
八重子先生がトイレに立った。
「ねえ、昨日みたいなのだったらもっと年取っても大丈夫だと思うわ」
「え?ああ、昨夜のことですか」
「うん、あれなら。朝起きられるしいいわ」
「良かった、じゃ何年かたったら徐々に切り替えましょう」
「そうね」
ふふっと先生も笑って、俺も笑う。
いつまでこういう生活が出来るだろうか。
さてと、庭掃除でもしましょうか。
庭の枯葉や枝を始末して纏める。
先生が廊下の土埃を掃き落として、俺は靴脱ぎ石を掃く。
庭を掃き清め、居間に戻る。
八重子先生が丼物を作り、軽くお昼をいただいた。
お茶室の拭き掃除を手伝ってお買物へ。
「あなた何食べたい?」
「うーん。あ、昨日シャケ持ってきてますしチャンチャン焼きとかどうです?」
「あら、いいわね。じゃお野菜かいましょ。後は筑前煮作ろうかしら」
「あー筑前煮好きです」
にこっと先生が笑って野菜を選んで行く。
会計して店を出た。
「あっそうそう、トイレットペーパー忘れるところだったわ」
戻って二つ購入する。
「あら飯島さん。旦那さん? お元気そうじゃない」
「あ、いえこの方はお教室の生徒さんですの」
「あらあらそれは失礼しました、てっきり」
とトイレットペーパを見てる。
先生もそれに気づいた。
そりゃね、普通生徒さんとは買いに来ないよね。
生理用品入った袋も提げてるわけだけど。
携帯が鳴った、取ると客からだ。
書く物を、と手振りで示すとボールペンと懐紙を下さる。
ササッと控えてお返しした。
電話の間に適当にお知り合いと別れたようだ。
「また噂になっちゃうかしら」
「何度か立ち上がっては消えてますし。そろそろ噂する人も少ないとは思いますが」
「だといいわねえ」
パパッとクラクション。
「絹ー」
っと八重子先生だ。助手席に孝弘さん。どうしたんだろう。
なにやら孝弘さんを車で回収することになったそうで、その途中で俺らを見たと。
そういって後ろに乗せてくださった。
しかし運転席に八重子先生、助手席に孝弘さん、後部に先生と俺じゃ傍から見るとね。
まるで親世代と子世帯の夫婦が乗ってるようで何かおかしい。
かといって俺が運転して先生を助手席にするのも。
孝弘さんを助手席に座らせて俺が運転するのがいいのかなぁ。
そうこうしてる間に到着。
荷降ししてお夕飯の用意だ。
野菜を洗って先生に渡せばおかずになって行く。
ことことと良い匂い。
おいしそうだな、早く食べたい。
しばらくして食卓を片付けできたものから配膳する。
先生は律君の分を除けている。
「お父さん、お夕飯ですよ」
「ん」
ご飯をよそってもらってお夕飯をいただく。
やっぱりうまいなー。
食後、一服して先生と別れる。
「じゃまた次のお稽古日に」
「はい、いらっしゃいね」
にこっと笑って別れた。
さて翌日、仕事はやはり暇で。
時間も余るからと和菓子屋で羊羹2棹を購入する。
それから風呂に入ったり着替えたりして先生のお宅へ。
「こんにちは。早く終ったんでこれ、買ってきましたよ。孝弘さんお好きでしょ?」
と羊羹を八重子先生に渡す。
「あら、ここの結構美味しいのよね。三国屋さんのお菓子も美味しいけど」
先生が嬉しそうだ。
「ね、お昼の生徒さんにお出ししてもいいかしら」
「どうぞ。余って干からびるよりゃいいですもんね」
「うちは余らせたりしないわよ?全部お父さんが食べちゃうから」
そりゃそうだ。
お稽古のときに生徒さんにも出されて、残り1棹は孝弘さんのものに。
律君が勿体無いなんていってる。
笑って本日は辞去した。
翌日の仕事はちょっと忙しく疲れて帰宅。
昼と夜のお弁当を買って、昼を食べる。
明日のために昼寝をしておこう。
夕方起きて食事。
ちょっと散歩に出る。最近歩いてないからなあ。
ぶらぶらと銀座を歩く。
銀座の女たちの出勤時刻か。
最近の銀座の女の着付けが今一つなんだよな、ぐっとこない。
どうも自分で仕立てない、自分に合った着物を作ってない世代が増えたからだそうだが。
自分で仕立てられるとここは詰めてここは抜いてここを広く、なんて。
体をより美しく見せる仕立てをしたりしてたらしい。
自分で縫わないまでもそんな注文を出して作っていたとか。
今はと言うと標準割り出しで作っちゃうんだそうな。
っと良い着物に目が留まる。
うーん、こんなの欲しい。
って値段が凄いな、130万か。
苦笑してふとその横の太物に目移りする。
会津木綿か。
普段着を作るのにいいな。
いくつか見せてもらって3反購入した。
仕立てはどうされます?と言われたが木綿だし普段着だし。
自分で縫うからと引き取ってきた。
しかし安い。
良い練習になるな、特に裁ち方の。
帰って手を洗ってまずは1枚目を見積もって印をつけて裁つ。
袖を縫い終わって一旦終了。
先生のお宅のへら台は折りたたみ式だったな。
うちにあるのは1枚もの。
いわゆる裁ち台で、足が取り外せるものだ。
見た目ただの板だけど。
普段はナイロンをかけて納戸においてあるが、先生はあるのも知らなかったらしい。
納戸に入るの嫌がってたからだろう。
さてと、そろそろ寝ようか。
針の数を調べて、よし合った。
片付けておやすみなさい。
翌朝、出社。
忙しいというかややこしい半日を過ごし帰宅、すぐ風呂、着替えて先生のお宅へ。
慌しくお宅に飛び込めばぎりぎりセーフ。
先生がくすくす笑ってる。
落ち着いてからでいいわよ、と居間に残されて暫く深呼吸。
用意を整えて水屋に入る。
今の生徒さんの用意は先生がされてお稽古が始まってしまってた。
ギリアウトだったようだ。
失敗失敗。
次の方の用意をして客の席に控えることにした。
正客の稽古だ。
次の生徒さんが来られた。
先生に挨拶、今の生徒さんが終られればすぐにお点前に入れるよう支度なさっている。
お点前を終られたので正客の座を譲る。
次の方の用意、後は次客として。
そんな感じでお稽古は進み皆さん帰られてから俺のお稽古。
「そろそろ真の行、と思うけれど円草をちゃんと覚えたらね」
「はい」
中々スムーズに動かないんだよね。
「許状はもう来てるのよ。だから早く覚えなさいね」
「あ、来てるんですか」
「夏前に引次式したいからそれまでにね」
「うー、頑張ります」
お稽古が終わり水屋を片付ける。
今日の晩御飯は何かなー。
いーいにおいだ。
孝弘さんがメシに執着する理由のひとつは絶対うまいからだろう。
美味しくご飯をいただいて、ゆったりとした時間。
ふと気づくと先生がうつらうつらとしている。
俺にもたれて。
律君をちらりと見る。気にしてないようだ。
暫くこのままでいいか。
孝弘さんと律君が風呂から出て、八重子先生が風呂に。
良く寝てるなぁ。
しばらくして八重子先生が上がってきた。
そろそろ起こして寝かせたら、と言う。
呼んでも起きないので脱がして布団にと言うことに。
ごそごそと帯を解き、着物を脱がせて長襦袢にした。
「もうそのままでいいよ、布団入れてきてやってくれるかい。着物は畳んどくから」
部屋に抱えて入り、布団に押し込む。
居間に戻ると風呂入っといで、とのことで風呂をいただく。
すっかりあったまって出てきた。
「最近どうなんだい?」
「どう、といいますと?」
「絹にされたりしてないかい?」
「ああ、あの2回程度でその後は特には」
「それならいいけどねえ」
炬燵でお茶を頂きながら八重子先生とお話しする。
今週の土曜の夜は先生方はお芝居に行くので家にいない、とか。
んじゃ泊まらず帰りましょう。
「さてそろそろ寝ようかね。戸締りしてきてくれるかい?私は火の始末見てくるから」
雨戸を確認し玄関の戸締りを確かめ、お勝手へ。
八重子先生が火消しつぼの中身を確かめたりガスの元を閉めている。
よし、戸締りの確認完了。
「じゃおやすみなさい」
「おやすみなさい」
部屋に入って先生の寝ている布団にもぐりこむ。
今日は出来ないけど先生の甘い匂いに包まれて気分良く寝た。
朝、目が覚めると先生が先に起きてた。
俺の頭を撫でている。
「おはよう」
「おはよーございます」
まだねむい。
先生は昨日俺が布団入る前に一度トイレに行ったらしい。
眠かったのは生理だそう。
結局出来ないのは一緒だったようだ。
まだ起きる時間には間があると思っていると先生が俺の胸を舐めた。
「なんでなめる?」
「なんとなく?」
疑問符で返されてしまった。
ぺたぺたと身体を触られているが。まぁいいか。
そういう時だってあるよな。
ぴたっと手が止まった。
「そろそろ起きないといけないわねえ」
「ん、そんな時間ですか」
「寒くて。お布団から出たくないわ、でも起きないと」
「俺はお布団より…」
「だめよ」
「はーい」
仕方ないのではなれて布団から出る。
「あ、そうそう、土曜なんだけど」
「お芝居でしょ?昨日八重子先生に聞きましたよ」
「うん、悪いけど。一週間開いちゃうけど大丈夫?」
「火曜日にまぁちょっと我慢してもらうかも?」
「あら、あんまり無茶はしないで頂戴ね」
ふふっと笑いながら身支度をして台所へ。
先生は化粧をするから俺よりほんの少し遅れて。
手早く用意して食事、律君は大学へ。
八重子先生はお友達のところへ。
「お掃除手伝いましょうか?」
「あぁ…それよりお洗濯干してくれる? ちょっと軽い貧血みたい」
「了解、そこで寝といてください」
洗濯機から出して一度畳み、物干しに干して行く。
律君の下着や孝弘さんの下着、八重子先生の下着や先生方の腰巻なども。
はたはたと洗濯物がなびく。
先生は帯だけ解いて横になっている。
「茶室、掃除してきますね」
「ん、おねがい」
窓を開け放ち上から下へ掃除をする。
こんなものかな?と思って居間へ行くと斐さんがいた。
いつの間に。
「こんにちは」
「悪いわねぇ、絹のすることさせちゃって」
「姉さんは茶室はわからないもの、仕方ないわよ。ね、山沢さん」
「じゃなくて洗濯物よ」
「相身互いじゃないですか。具合が悪いときは」
「あら、今時聞かない言葉ねぇ」
「最近は個人主義ですもんね」
ぬるくなった先生のお茶を俺の湯飲みに移動して熱いお茶を煎れる。
「え? ぬるいの捨てたらいいのに」
斐さんは俺が猫舌と知らないんだった。
「この子凄い猫なのよね。濃茶のお正客すると口つけずに隣へ渡すのよ」
「あらあら、じゃお薄はどうしてるの?」
「点てる人がお湯をぬるくして点てるの、それもお稽古よ」
「そうなの?」
「熱いのが好き、濃い目が好きお客様は色々だからそれに合わせるのが本来だもの」
「へぇ。そんなものなのねえ」
「家にお客様きたらその人の好きなもの出すじゃない?」
「ああ、そういうこと」
「そうよー。呼ぶ人が決まってると合わせるの。
 あ、山沢さん。チョコあられ取ってきてくれる?」
ほいほい。
冷蔵庫に入った雛あられのチョコがけを取って居間に戻る。
「お皿」
はい。
気がつきませんでした。
お皿にあけて、お茶のお菓子に。
「やーねー、絹ちゃん。あんた」
「なぁに?」
「旦那を尻に敷いてる奥さんみたいに見えるわよ」
ぶっ。思わず笑ってしまったじゃないか。
「あらー、そう?」
「ただいまー、あぁ寒かった」
「おかえり」
「おかえりなさい」
外は昼前なのに寒いようだ。
「お母さん、おかえり、待ってたのよ」
「あら斐、どうしたんだい」
「それがねぇ…」
身内の話になりそうなので居間から自室へ。
半襟を付け替えたり足袋をつくろったり。
しばらくして先生が部屋に来た。
「布団敷いてくれる?」
「だるい?」
「うん、そうなの」
布団を敷いてる間に先生は寝巻きに着替えた。
敷き終わったところへ横になる。
「そろそろ更年期かしらねぇ…」
「ああ、早い人は35からって言いますしね。
 でもそれならあなたが良いようにしていかないといけませんねぇ、夜」
「夜って?」
「女性ホルモンの量が減るからですよね、更年期」
「そうよ」
「減ると分泌も減るんですよね。
 潤いがないのに無理にしたりして膣炎になったりしやすい。だから」
あ、顔赤くしてる。
「してる途中に乾くようならやり方改めないと辛いだけでしょ?」
「ばか…」
あー、枕に顔を伏せちゃった。
ふふっと笑いつつ、繕い物を続ける。
しばらくして寝息が聞こえ出した。
裁縫箱を片付けて居間へ。
お昼ごはんはどうしようかな。
「絹は?」
「お休み中です」
「お昼どうしようかねえ。あの子の分。ま、いいわ、おなかすいたらなんか作るでしょ。
 あんたら何食べたい?丼でいいのかい?」
「あー、はいなんでも」
「そうねぇ、お肉有るなら開化丼食べたいわ」
「…開化丼?」
「苦手?」
「いや聞きなれないので。何が入ってるんですか?」
「お肉と玉葱をとじたものよ」
「ああ、なんだ他人丼ですか、好物です」
「他人丼なんて初めて聞くわねえ」
「結構色々名前変わりますよね。中身とか。
 私はどこかでカツ丼頼んでソースカツ丼だったのはショックでした」
「それはショックかも」
なんて話しつつ八重子先生とお台所へ。
一緒に作って3人でいただく。
「孝弘さんはいいんですか?」
「私帰ってくるときに出かけてくるって出てっちゃったわよ」
ありゃ。
ふと外を見れば雨雲。
「洗濯物内干しにしましょうか、雨降りそうな気がします」
「ん?あー本当だね、取り込んでくれるかい?」
斐さんと八重子先生が内干しすべくロープなど用意してる。
大物から取っては渡し、取っては渡し。
部屋が多いっていいなぁ。
最後に下着類。
持って入った途端雨が落ちてきた。
セーーーフッ!
八重子先生が少し恥ずかしげなのはやはり下着は他人に触られるのは嫌なんだろう。
俺も先生に下着洗われたりとか嫌だからなあ。
おこたでゆっくりして、さてそろそろお暇しようか。
先生の様子を部屋に伺いに行く。
いい感じに寝息。
寝顔も気持ち良さそうな。
可愛いなぁ。
さてと。
先日お貸しした着物を持って帰ろうと思ってたがあいにくの天気だ。
置いて帰ろう。
手荷物だけ持って八重子先生と斐さんに辞去を伝える。
気をつけてお帰り、と見送られて帰宅した。
うちへ帰る頃には本降りで。八重子先生に持たされた傘が役に立った。
寒いなぁ。
帰宅してニュースや天気予報を見れば今週から来週は真冬の気温か。
また仕舞った服を出さねばならんのか。
面倒くさい。
明日着る物を用意して、軽く飯を食って寝た。
翌朝やっぱり寒い。
客も少なめ。そりゃ寒いしな、来たくないよな。
買う量は多目。明日絶対入荷がないとにらんでだろう。
配達の依頼は沢山ある。
っと先生からメール。
昨日寝たまま見送りもしなかったことの侘びが書いてある。
可愛いなー、ほんわかとなって気にしてないことを返事して仕事に励んだ。
さっさと終らせてお稽古行くぜ!
てきぱきと仕事を終えて先生のお宅へ。
「こんにちは、寒いですねー」
「寒いわよねぇ、いらっしゃい。ちょっとおこたに入ってからにしたら?」
「有難うございます。うぅ」
炬燵に入れてもらって少し温まる。
落ち着いてふっと息をついて水屋の支度を。
今日は…やっぱり何人か、キャンセルの連絡があるとか。
「山沢さんをしごくいい機会だわ」
なんて先生が楽しそうにしている。怖い。
指示をいただいて生徒さんの分と自分のお稽古の用意を整える。
生徒さんが居るときは中級までしか出来ないから。
復習セットだそうで5種目させられた。
忘れてるいろいろを叱られつつ。
生徒さん方が帰られたので続いては円草。
ちょっとは叱られる回数が減ってきた。
「さ、そろそろ片付けましょ」
「はい」
二人で水屋を片付けた。
「お夕飯食べて帰るわよね、あ、でも冷え込まないうちのほうがいいのかしら」
「それともこれからうち来ます?」
にやっと笑っていえばペシッとはたかれた。
「アレ、終ったんでしょ?」
「終ったけど…だめよ。あなたの家だと身体が持たないわよ」
可愛いねえ。
ふふっと笑って許してあげることにしたが。さて飯ねぇ。
空を見る。
雪雲は出てないな。
「お夕飯いただいて帰ろうかな」
「そうしなさいよ、どうせコンビニ弁当でしょ?」
台所へ行くと八重子先生いわく司ちゃんも来てるとのこと。
飯の用意を手伝って、一緒にいただく。
寒いから温かいものにした、と。
厚揚げうまいなー。
ご馳走様をして、片付けようとしたらあんたはもう帰りなさい、と言われた。
今日来たときの格好じゃ夜は寒いから、と。
「あっそうそう、駅まで一緒に行くわ。買い忘れたものがあるのよ」
「今日必要なのかい?」
「明日の朝、要るのよ。今の内に行かないと」
先生がぱたぱたとコートやショールをとってきて、一緒に駅へ。
「寒いですねえ」
「うん…あのね、明日朝から人が来るのよ。だから」
「あー、そりゃうちには来れませんね」
「じゃなくて、いやそうだけど。そのお客さんのために必要なものがあったの」
「ああ! そりゃ失礼しました」
思わず笑ってしまった。
「笑わないの」
きゅっと頬をつねられたが笑えてしまうものは仕方ない。
駅前について名残惜しいが…また明後日ね。と頭を撫でられて別れた。
帰宅してすぐに寝る。
家の中が寒い。布団最高…。
途中夢で目が覚めたりして朝。布団から出たくない。
寒い。
うへぇと思いつつ出勤すれば入荷少なく。
風が強いから仕方ないね。
こっちは雪にならないだけいい。
少し忙しく仕事をして、終って帰宅。
昼遊びに行こうじゃないか。
梅見だ。
亀戸から浅草へ抜けて戻るか、平日だからすいてるだろう。
そう決めてふらりと出る。
バスで亀戸まで。
うん、やっぱりすいている。
そして満開だ。
梅はやっぱりいいね。
東は亀戸湯島台っていうし。
それなりに満足してまたバスへ。浅草へ出る。
さてついでだから足袋を買って帰ることにしよう。
足袋と、ついでに羽織紐にいいのがあって買ってしまった。
衝動買いだ…。
どこかでお茶飲んで帰ろうかな。
っとスタバ発見。
さくらチョコラテwithストロベリーフレーバーとベーコンとほうれん草のキッシュ。
言うのに噛んだ…。
先生とこういう店入らないからなぁ。
うん、甘い。コーヒーベースじゃなかった。
なんとか飲みきって身体も温まったことだし、と帰宅。
ストーブをつけて暫く離れられん。
少し温まってから先日の着物を縫う作業をする。
夕飯をはさんで身頃を縫い終えた。
と言うことで片付けておやすみなさい。
明日は…お稽古だけか。さびしいな。
先生の泣き声聞きたいなぁ。
悲鳴とか。
八重子先生にはこんなこといえないぞ。いくらなんでも。
まさか相談とかしてないだろうな。先生。
などと思いつつ熟睡。

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340

疲れを何とか回復した朝。出勤。
競り中に地震、少し慌てたが…まぁなんともなく。
事務方は大変そうだったけど。
朝は少しばたつく。
でもその後は暇になった。
悠々と仕事を終えて帰宅する。
シャワーを浴びてから先生のお宅へ。
「いらっしゃい。ご飯食べてきたの?」
「はい。食べてきてます」
「じゃ、早速だけどお稽古しようかねえ」
先生方も早々に食べちゃったらしい。
「そういえば朝方の地震、大丈夫でした?」
「ちょっと揺れただけよ」
「あんたのとこは結構揺れたんだろ」
「それなりに。ちょっと驚きました。でもなんともないですよ」
「絹が電話、っていったけど止めたんだよ」
「ああ、地震とかの後ってどうせ繋がりませんよね」
「心配はしてたのよ?」
「ありがとうございます」
用意をしてお稽古スタート。
いくつかの種類をする。
先生は指の傷があるため台所も草取りも出来ない。
必然的に俺の稽古だ。
お稽古の合間合間に話をする。
八重子先生はどうやら連休中に草取りと蔵整理を完全にしたかったらしい。
が、先生の怪我で半分くらいしか終れてないのが不満だそうだ。
「怪我しちゃったものは仕方ありませんよ」
「でもねぇ予定がって言われちゃったの」
「来週、もう少し手伝いますよ」
「ごめんね」
「早く治ると良いですね。後で傷見せてください」
「ありがと。じゃ次は何しようかしら」
「時間、まだありますし台子したいです」
「じゃ出してきて」
台子を出して組み立てて皆具を定位置に。
それからお稽古。
少し迷ったり悩んだり。
都度つど厳し目の指導をしていただいてると八重子先生がきた。
「あんたらもうそろそろご飯にするよ」
何度かお稽古するうちに日が暮れてたらしい。
急いで片付ける。
火の始末だけは念入りに。
ご飯何かなー。
横で茶入や棗を仕舞ってる先生が綺麗でついキスして叱られた。
でもなー真剣な顔してるときの顔、素敵なんだよな。
「早く片付けなさい。ここではダメって言ってるでしょ」
「はーい」
コツン、と額にこぶしを当てられた。
てきぱきと片付けて台所に行く。
先生と配膳。
今日は肉じゃがだ。
それも牛肉で。
俺が牛肉の肉じゃがが好きだといってたからだそうだ。
凄く嬉しい。しっかり餌付けされてるなぁ、なんて思いつつ。
「そういや律君はいつ帰ってくるんですか?」
「明日の夕方って言ってたっけねえ?」
「多分そう言ってたような気がするけど…どうだったかしらね」
折角兜が飾ってあるのに本人が居ないとはね。
「そういえば昔かぶってみたことあるなぁ」
「あら、山沢さんがかぶるの? 見てみたいわねえ」
「っていくらなんでももう無理ですよ」
頭に載せられてしまった。
先生は俺でひとしきり遊んでそろそろお風呂と言っている。
兜をなおして先生とお風呂。
菖蒲湯だ。
お風呂で先生を洗い、お湯に浸かる。
気持ち良い。
「ここ何年、いや十年以上こんなの入ってないなぁ」
「男の子が居ないおうちならそうかもしれないわねえ」
「最近は一人暮らしですし」
「銭湯とか行かないの?」
「ああ、そういえば冬至のときは銭湯に行ってました。ゆず湯」
暖まったので湯から出て先生の背中を拭いた。
風呂場から出る前にキスを。
後は布団の中で、と言うことで浴衣を着て先生は居間へ。
俺は部屋へ寄ってから先生のもとへ。
「はい手ー出して」
一昨日貼った分は結構ふやけてしまっている。開封して匂いも確認。
膿んでないね。
くっついてきてるから水で洗って拭きとって密閉。
八重子先生が覗き込んでいる。
「結構きれいについてきたねえ」
「縫うより綺麗にくっつきますよね。膿む心配がないならこれが良いですよ」
暫くテレビを見てくつろいで。
そろそろ寝ようという話になる。
「じゃ戸締り見てきます」
「火の元確かめてくるわ」
ぱたぱたと確認しに行ってお勝手も確認する。
さて寝ましょ寝ましょ。

拍手[0回]