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百鬼夜行抄 二次創作

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伶(蝸牛):絹の父・八重子の夫 覚:絹の兄・長男 斐:絹の姉・長女 洸:絹の兄・次男 環:絹の姉・次女 開:絹の兄・三男 律:絹の子 司:覚の子 晶:斐の子

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156

戻ると先生が部屋から出ていて、すぐに抱きつかれた。
ちょ、裸、ドア開けるなりは見えるから、外に。
慌てて鍵をかける。
「どうしたんですか、いったい」
「だって起きたらいなくて…どこ行ってたの」
「コンビニ。あなたが良く寝てたから…腹減っちゃいまして」
「いなくならないで」
「といわれましても冷蔵庫何も入ってないんで」
「そうじゃなくて…行くなら起こして一声かけて。お願いだから」
「え、あ、はぁ…わかりました。腹減ってます?」
「……もうっ!」
あれ、なんで怒ってるの?
わけがわからん。
ま、いいや。抱き上げて食卓の前に座らせる。
机に袋を置いた。
「食べます?」
きゅっとつねられた。
「もう、なんなんですか。そんな顔して。なに拗ねてるんです?」
「わかってるくせにっ」
「わからないな、言ってくださいよ」
「言わないっ」
「言わなきゃわかりませんよ」
「なんでわかってくれないの?」
「夫婦は他人の始まり、といいますよね。俺達、夫婦ですらありませんよね。
 ちゃんと言って下さらなきゃわからない事だってあるんです。どうしたんですか?」
「他人だなんて…」
「ああもう、そんなところにひっかからんでください。ほら、泣かないで」
なんで泣くんだよ…。
そう泣かれたら俺も悲しくなるじゃないか。
参ったな。
暫く懐で泣かせて、背中を撫でる。
ああ、ぐしょぐしょだな、胸。
洗濯に出さなきゃいかんなぁこれは。
暫くして落ち着いたようだ。
「ごめんなさい…」
くぅきゅるる~。
腹が返事してしまった。
少し先生が笑って、和む。
「あのね、起きてあなたがいなくて。置いて出て行ったんじゃないかしら、
 わがままをたくさん言ったから嫌いになっちゃったんじゃない?
 他の女の人のところに行ったんじゃないかしら、なんて思ったの」
「ちょっと俺、信用なさ過ぎですね。それは」
「なのに帰ってきたあなた、ご飯のことしか言わないんだもの。腹が立っちゃったのよ」
「腹減って一時間ほどたってましたからねえ」
「本当にお腹すいてたのね。もうこの時間じゃどこもあいてないかしら?」
「まだ9時前ですよ。着替えて9時過ぎでしょう。余裕ですよ」
「じゃ、行きましょう。着替えてくるわ」
俺も着替えないとな、この格好では。幸いネルシャツだったからいいけど。
脱いで洗濯籠に投げ込んで着物を着る。
先生が着替えている間に電話をした。
よし、空いてる。時間もラストオーダーに1時間半もある。
先生がささっと化粧をして戻ってきた。
「綺麗だ…」
「あら…嬉しいわ、行きましょ」
タクシーを止めて先生とともにホテルへ行く。
席に着いてメニューを見る。コースはまだ頼めるかと聞くといけそうだ。
どうしますか、と聞くとそれでいいという。
一番いいコースを頼んで、シャンパンを頼む。
「こんな時間からしっかり食べるのもどうかとは思いますが…」
「だってお腹すいてるんでしょ?」
「ええ、まあ。先生はどうなんです?」
「すいてるわよ」
「ならいいか。結構に夜景見えますね」
「そうねえ。ロマンチックね」
前菜が来て、スープと続きコースがすすんで行く。
先生は魚、私に肉をメインにしてもらった。
うまいなぁ。
デザートまで美味しく頂き、エスプレッソを飲む。
「この後どうします?バーにでも行きますか?」
「ううん、久さんの家がいいわ」
「あ…はい、そうしましょう」
支払いを済ませタクシーで戻る。ずっと手を握られていた。
うちへ入って鍵をかけて。
先生が寝巻きに着替えた。

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155

二人とも汗だくだ。
「シャワー、浴びません?」
「え、あ、そうね…」
「お昼なに食べたいでしょう?そろそろ腹減ってますよね?」
「今考えられないわ…」
まぁ余韻のさなかだもんなあ。
抱えて風呂場に連れて行く。
シャワーで汗をざっと流しソープを泡立て満遍なく泡だらけにする。
乳房や股間では喘ぎ声を楽しむ。
「あなたも洗ってあげる」
と言うので任せて見たところ同じように私の乳房や股間に指を這わせてきた。
「そこまでにしないとだめですよ」
ちょっと不満そう。
「先生、お仕置きされるの好きですか?」
「……ずるいわ、そうやって封じるなんて」
ずるくて結構。
「してほしいんじゃないですか、実は。だから私を煽るんでしょう?」
「ち、違うわよ、私はただ…」
「はいはい、私を触りたいだけって言うんでしょう。わかってますって」
ほっとしたようだ。
泡を流して風呂から出る。
「さて、なにが食べたいでしょう」
「そうねえ、お肉は昨日の夜いただいたから…
 ねえ、いつものお鮨屋さん、今日は開いてるの?」
「5日か6日からだと思いますが一応聞きましょうか」
電話してみる。おやっさんが出た。
やってるか聞くと今日は予約のみだとか。
二人無理か?と問えば俺が魚あまりいらないから何とかなるとの事。
30分後と頼んで支度をする。
着物を着て羽織を整えた。
先生も着物を着なおして美しい。
手を握ってぶらぶらと歩いて向かう。
お正月だなあ。
静かで。
ついてゆったりとお鮨をいただく。
美味しそうに食べるなあ。
おやっさんもついニコニコとしている。
良い食べっぷりにおまけ、とエビ出してきた。
さっきまで生簀に泳いでたやつだな。
天然活車海老…よく生きてたなぁ。
温度管理とか結構大変だからな。すぐ死ぬんだ。
満腹になってお茶をいただいて支払って出る。
天気もまあまあ良くて、暖かい。
手を軽く握って歩む。
外だとこれ以上は難しい。
不倫ってやだなあ。
とは思うが先生と別れるなんて思いたくもなく。
自宅なら好きに出来るから我慢するさ。
うちにもどってお茶を入れた。
先生が年賀状をちらっとみて、お仕事の?と聞かれた。
「友人からも数枚来ましたね」
「見ていい?」
どうぞ、と見せる。
女性からの年賀状を読んで私の腕をつねる。
どうした、なにか嫉妬するようなこと書いてあったかな。
ああ、また泊まりにおいでって書いてある。
くすくす笑って、これは小学校の頃の友人、と教えてあげた。
小さい頃は泊まったり泊まらせたりとか、そういうのはよくある話だったから。
「可愛いな。そんなことで嫉妬してくれるんだ?」
「だって…」
「私があなたを好きで仕方ないの、わかってるでしょう?」
「でも…離れていきそうで怖いわ」
「うーん、なんでそう思っちゃうんでしょうね…」
「わからないけど…」
「けど?なんですか?私があなたを求めてるの、もっと体に覚えこまそうかな」
「ちょっと、だめよ、押し倒さないで!」
ずいっと近寄ったら慌てて面白い(笑)
「はいはい、たまにはあなたから求めて欲しいですね」
あ、真っ赤になった。
「で、できるわけないじゃない、恥ずかしいわよ」
ふふっと笑っていざなう。
「ベッド行きましょう。おいで」
「…はい」
ベッドルームに連れ込んで脱がせる。
恥ずかしそうで、凄く嬉しくなる。
すべてを脱がせた。
私がまだ脱いでないのをなじられる。
ずるい、らしい。
自分だけ恥ずかしいのはずるい?
可愛くてキスしてしまう。
「ごまかさないでよ…」
「ごまかしてなんかいませんよ、あなたが可愛くて」
恥ずかしいのか、先生の体が温かい。
先生に帯を解かれた。
その手をとどめて、紐類を中から抜いて纏めて脱ぐ。
さらしも解いて。
「これでいいですか?」
「だめ、これも」
と下帯をはずされる。しょうがないな。
二人とも一糸纏わぬ姿でベッドに入った。
うつぶせにさせて、背中を舐める。
くすぐったい、と笑っていたけれど腰の辺りまで来るとびくっとしたりする。
お尻を撫でつつ双丘のあわいを舐めると息が荒くなってきた。
つうっと下ろしてお尻の穴を舐めるとそこはだめ、と言う。
「耐えれない?」
「そんなに…どうしてもしたい、の?」
「どうしても、といったらどうします?」
「出来ないなら別れる、なんていうなら…困るけどしてもいいわ」
「ほんっとあなた可愛いな。言いませんよ、そんなこと。
 わかりました、こっちだけにしましょう」
そういって濡れそぼつ中に指を入れる。
もうたっぷりと濡れていて、嬉しくなってしまう。
「後ろからはいや、ねえ、お願い」
「わがままだなぁ」
「あの…だめ?」
うおぅ、もうすっごく甘やかしたくなる。
指を抜いてひっくり返す。
キスをされて、先生からディープキス。
その状態で突起をなぶり、中をなぶると舌の動きが止まる。
口が離れて喘ぎ声。
ぎゅっと腕を握り締められて、こりゃ痕がつくかもしれないな。
沢山泣かせてもう無理、の声を聞くまで楽しんだ。
「足、攣りそう…」
「運動不足かな、毎日してたらもう少し長くできるかもしれませんね」
「馬鹿…まだ足りないの?」
「足りてるように見えます?」
「見えないわね、まだしたいって書いてるわ」
「まぁ今日中に回復するようならその時、明日になってからでもいいですけどね」
「壊れちゃうわ」
「壊さないように今やめたんですが」
「うん…そうなんだけど…」
「それとも狂うほどにされたい?」
あ、怖くなっちっゃたようだ。身を縮めて顔を俺の胸につけてしまった。
「ねえ本当は山沢さんって…酷いことするの、好きなのよね?」
「うん?どうしました?」
「私、出来ないから。嫌いになったりしないかしら、と思ったのよ」
「ああ、そういうことか。勿論したいですけどね、でも嫌いになるとかないです。
 させてくれれば確かにこの飢えはおさまるかも知れませんが。
 …そっちの意味で泣かせたいとは思ってませんよ。大概酷い自覚はありますし」
胸をもまれた。おい。
「こういうこと、したら酷い目に合わされるのよね?」
「そうですね。あわせちゃいますね。だからやめてくださいね」
「ずるいわ…本当にずるいんだから」
「酷い目に遇う度胸はありますか? ないでしょう?」
「ある、って言ったらどうするの?」
「抱かれてあげますよ。そのかわり凄く酷いことをしますけれど」
「それじゃできないじゃないの…」
「おとなしく抱かれててくださいよ」
「おとなしく抱かれてあげるわ」
よしよし、となでているとすぐ寝息。ありゃ。晩飯はどうするんだ。
髪をなでる。
可愛いよなあ。
うつらうつらしながら様子を伺う。良く寝ている。
もうこりゃ晩飯は食いそうにないな。
布団から出てコンビニへ。とりあえずはデニッシュパンを買うか。
玉子とベーコンかハムも買っておこう。
日持ちするからなあ。

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154

朝、起きて隣に先生がいないことを不思議に思う。
たった数日、一緒に寝ていたからってそう思うとは。
とりあえず腹減った!とばかりにパンを食べてコーヒー入れてゆったりと。
昼前かなぁ、先生来るの。
テレビを見ながらゆっくりと年賀状の仕分け。
うーむ、出してないところはなさそうだな。
友人から数枚。
9時半すぎ。
チャイムが鳴る。
出てみると先生だ、早っ。
「いらっしゃい。早かったですね」
「律も早くに遊びに行ったから…出てきちゃったわ」
鍵を閉めて、すぐキス。
「待ってた…こうできるのを」
先生が私の懐に入り込む。
抱き寄せてそのまま持ち上げて部屋まで連れて行く。
「あ、待って、まだ草履…」
「えぇ?脱いでなかった? も、いいです、ベッドの上で脱いで」
ベッドの上に降ろして草履を脱がせる。
玄関まで持って行って、手を洗って戻るとすでに長襦袢姿。
「先生、綺麗…というか色っぽい」
今すぐ襲いたい。
先生は頬を染めて長襦袢を脱いだ。
よし、もういいだろう。
肌襦袢のままベッドに押し倒す。
先生の息が荒い。
荒々しく胸をまさぐり股間に手をやった。
「…溢れてる。期待してたんですか?」
バチッ!と俺の頬がなった。
え、あ、ビンタ食らったのか。
「すいません、恥ずかしかったですね。ごめんなさい」
拗ねたような顔つき。
「ねえ、こっちむいて下さいよ」
「いや」
「キスしたい。ダメですか?」
そっとこっちを向いてもらえた。
ディープキスをしていると、トンと胸を押される。
離れると肌襦袢と湯文字を脱がれた。
私も着ていたものを脱ぎ捨てる。
勢いを出来るだけ抑えて首筋に、鎖骨に、デコルテ、乳房、乳首、お腹、へそ。
手を這わせ舌を這わせる。
先生の荒い息に釣り込まれる。
微かな喘ぎ声に興奮して荒々しくなりそうな手を頬の痛みを思い出して我慢をする。
先生の求めているのは荒々しくされることではない。
優しく愛されること、だ。頑張れ俺!
太腿をなでて、ふくらはぎを舐める。すべすべして白くて。
翳りの内が光っている。本当に溢れていて、淫靡で。
舐めたくなって、舐めてしまった。
むんず、と私の髪を握る。
舐めないで、と声が聞こえるが無理。
喘ぎ声が大きくなってきた。
太腿が締め付ける。
しばらくして脱力、逝ったようだ。
キスするといやいやをする。
舐めた口でキスされるのはいや、という。
少し落ち着いたようなので中に指を入れて探ってゆく。
うん、いい声だ。
「俺のこと、好き?」
耳元で聞く。
「あぁっすき、すきよ。あぅ、や、そこ、だめ」
可愛いなあ、可愛い。
年上だけど可愛い。
4回ほど指で逝かせた頃、空腹を感じた。
時計を見れば12時前。なるほどもうこんな時間か。早いな。

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153

今日は朝までぐっすりと。俺もどうやら気疲れしていたようだ。
朝御飯の支度に台所へ。
「あら、お母さんどうしよう」
「どうしたの?」
「お餅が足りないわ…」
「…もしかして山沢さんの分足して頼むの忘れた?」
「あら?…そうかも」
「丸餅まだ余裕ありますが何個足らんのですか?」
「三つかしら。ある?」
「あります。誰を丸餅にします?」
「んー私とお母さんと山沢さんでいいでしょ、ねえお母さん」
「はいはい、それでいいよ」
今日で仕舞い、とばかりにお重に詰めて出す。
今晩は何か肉を食べるとか。
じゃ明日の昼はなに食べに行こうかな。
先生が食いたいものを食いにいこう。
律君達は食事後遊びに行ってしまった。
さて俺もそろそろお暇を。
「もう帰っちゃうの?」
「ええ、大掃除ちょっと残ってますし、洗濯とかしとかないといけませんし」
「あらぁしてあげるのに」
「いや、いいです。自分でやりますよ。それより明日。お待ちしてます」
「…ええ」
顔を赤らめていて可愛らしい。
では、と別れて帰宅。
自宅は寒々しく、そして散らかっている。
落ちてる洗濯物を拾って洗濯籠へ。
シーツも洗って掃除機をかけて台所を片付けて。
洗濯機からシーツを出して干して。
籠の洗濯物を洗濯機へ。乾燥までやってしまえ!
先生が触れなかった納戸を片付ける。
使う予定のものを前のほうへ。
使わないものは奥のほうへ。
アブノーマル系グッズは使わないから。
んー痕の残らない手縄だけは出しておこうか。可愛いファーのついてるやつ。
手錠とか革のカフスよりはされる側にとって負担は少ない…のかどうかは知らんが。
ニップルリングはいくつか18金とサージカルステンレスのものを入手した。
どれを気に入ってもらえるだろう。
夜、冷蔵庫をあさる。
うーん。何もないなあ。
買出しに行くか、とりあえず明日の朝の分も必要だ。
コンビニでいいか。
お弁当と朝のパンを買って戻る。
暫く先生の料理に慣れた口ではコンビニ弁当のまずさがわかる。
苦笑して久々の自宅、一人寝。
ちょっと寂しいが明日への期待。
おやすみなさい。

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152

御節をいただいて暫く団欒の後、皆さん帰られた。
司ちゃんと晶ちゃん、律君が残って部屋で騒いでるようだ。
絹先生が書初めしようと言うので用意を手伝う。
山沢さんも、と言われて。さあ困った。下手なんだよなあ。
初春、と書いた。
先生に書道を習いなさい、と言われてしまった。
人に教えるようになれば字を書かねばならないことが増えるからと。
「通信教育とかじゃだめですかねえ…」
「いいんじゃない?うちにきたときにすればいいわよ」
どこか探すか。
「先生は段位とかお持ちじゃないんですか?」
「初段くらいなら持ってるわよ。学校でとったもの」
「先生に教えていただくことはだめですか?」
「無理よ」
ばっさり断られてしまった。
「だって律君も字が上手じゃないですか。先生が教えられたんでしょ?」
「教えてないわよ」
ええ~。
「だって身内になんて甘くなって勉強にならないもの」
「そうだねえ、絹にお茶を教えるのも結構大変だったねえ」
あ、八重子先生。
「私の教えてもらった頃は先生は物差片手に持ってねえ、怖かったものだよ」
「今それやると生徒さんいなくなりそうですよね…」
「山沢さんなら耐えれるんじゃない?ふふ」
「え、いや、ちょっと遠慮します」
「今年からはビシバシといこうかしら」
「これからは先生の資格取るんだからねえ、そうしたほうがいいかもね」
うひー、怖いなぁ。
八重子先生もさらっと書かれる。草書か。読めん。
和顔愛語、と書いたらしい。
もう一枚、半紙に寿と書いてみた。
「あら、これはそれなりにいいわね」
「永、と書いてごらんよ」
書いて見る。
「うーん、別段悪くはないねえ…なのになんでああも下手なのかねえ」
なんででしょうね。
あれやこれや書かされる。
払いがだめだとか、横棒がまっすぐじゃないとか。
一文字一文字はまだ見れるが二文字になるとバランスが悪いとか。
先生が上から握りこんで、払いを。あ、こういう感じなのか。
「力、入りすぎなのよ。いつもそうだけど力任せじゃだめよ?」
「ああ、力があるとそれに頼りがちになります。柔らかいものも強く握ってしまったり」
先生の手に更に左手で触れた。先生がビクッとする。
ゴンッと拳骨が頭に落ちた。
八重子先生だ。
痛くはないけどね。
交代して八重子先生が私の手を握りこんで草書でなにやら書かれる。
何か面白い感覚。
まったく読めないが。磨穿鉄硯と書いたそうだ。
意味は?と聞くと鉄の硯に穴が開くほどの努力とか。
つまり俺に努力しろと言うことですね、どれとは言わないが。
ひとしきり色々書いて片付ける。
先生の手に墨がついている。私も付いてた。
一緒に洗いに立った。
「先生、手、また荒れましたね」
「どうしても水仕事するから…山沢さんはざらついてるけど切れなくていいわね」
「仕事柄脂っ気があるんですよね。だから切れにくいんです」
そっと手を取りひび割れたところを舐める。
「だめよ。ほら、手を洗って」
「はい」
手を洗ってついてないか確かめる。先生もついてないか確かめて。
拭いて、先生の頬に手をやりキスした。
頭を撫でられてもう少しだから我慢するように言われ、居間に戻る。
お酒を飲みつつ、つまみを食べつつ更け行く。
夜ご飯に御節。そろそろ先生も飽きてきたようだ。
作るほうはそうなるよね。
俺は美味しくて手が止まらないけれど。
なますと叩きごぼうはすでになく、田作りもなくなってしまった。
今晩は空いたスペースにりゅうひを詰めた。
鯛りゅうひと平目りゅうひ。
律君や司ちゃん、晶ちゃんは初めて食べるようで恐る恐る食べている。
先生方は一度懐石で食べたことがあるそうだ。
なるほど出てきそうな気がする。
飲んで食べて。
先生と律君が同時にあくび。
気が緩んでるね、みんな。
司ちゃんも晶ちゃんもお泊り。同じ部屋でと言うことだ。
皆が部屋に引けたので戸締りや火の用心をして先生とゆったりと飲む。
足を崩して私にもたれかかってお正月番組を見ながら飲んでる。
可愛い。
もう膝の上に乗せたい。
見ている番組が終ったので部屋に連れ帰る。
布団に入れて抱きしめているとあっという間に先生は寝てしまって、参った。
沢山人が来ていてそれが兄姉であってもきっと気疲れするのだろう。
仕方なく先生の体臭を楽しむ。ちょっと酒臭い。
そのまま寝てしまった。

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