忍者ブログ
百鬼夜行抄 二次創作

let

伶(蝸牛):絹の父・八重子の夫 覚:絹の兄・長男 斐:絹の姉・長女 洸:絹の兄・次男 環:絹の姉・次女 開:絹の兄・三男 律:絹の子 司:覚の子 晶:斐の子

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

h2

翌朝。
今日は先に先生が起きたようだ。
風呂を使う音がする。
外は良い天気だ。
うんとひとつ伸びをして浴衣を脱ぎ捨てた。
カラリと風呂の戸を開けると先生は露天風呂に入っている。
綺麗だなぁ。
「おはようございます」
「おはよう」
露天のほうへ声をかける。
私もシャワーを浴び、露天風呂につかることにした。
綺麗だなぁ…キラキラ光る湯と、先生と。
「先に上がるわよ」
見とれているとあがられてしまった。
私が上がる頃には身づくろいを済ませ、布団を整えていた。
私もざっと浴衣を羽織り、脱ぎ捨てた浴衣を畳んで布団を整える。
和室に私が出た頃にはお茶を入れておられた。静岡茶だ。
どうぞ、とすすめてもらって飲んだ。うまい。
茶葉が良いのか、先生が入れるのが上手なのか。
少しニュースなどを見ると食事の時間になった。
食事処へ行き洋食の朝食をいただく。
ごはんとおかゆを選べる。先生がおかゆを頼んだ。
私はごはん派だ。梅干食べたいし。
デザートとコーヒー。
チェックアウトの時間と電車の時間を決める。
昼のお稽古に間に合うように帰らなきゃいけない。
少し早いチェックアウトになる。
部屋に戻って常着に着替え、荷物を作る。
フロントに電話し宅配を頼む。
ぱたぱたと支度を済ませ、小一時間ほどゆっくりできそうだ。
お茶を頂き、テレビを見てまったりする。
「もう帰んなきゃいけないんですねぇ」
「そうねえ」
ゆったりと時は流れるがそろそろ時間ではある。
「帰りましょうか」
そう言って手を取ると少し照れている。
草履を出して履かせる。
忘れ物はないか確認してフロントへ。
チェックアウト。
駅まで送ってくれるとのことで私は助手席へ、先生は後部座席へ。
私を後部座席の奥へ、という誘導だが、酔うのでと断った。
新幹線に乗り、帰路へつく。
旅も終わり、だ。
乗車中、私が手をずっと握っているのに何もおっしゃらなかったが、
一駅前になり、そろそろ気を入れ替えないと、と先生モードに入られてしまった。
降車後、軽いお昼を駅で取ってタクシーで先生のお宅へ。
「ただいまぁ」
「戻りました」
「はい、お帰り。生徒さんもう来てるよ」
そのままお稽古に投入されてしまった。
本日は花月の逆勝手。足がわからなくなる。
左側がお客さんなわけだから~上座はあっちな訳で…
などと悩み悩みの稽古時間が過ぎ、やっとお稽古終了。
八重子先生にお土産を渡して展覧会や起雲閣の凄かった所などを話し、辞去した。

そんなある日。
会社に電話がかかってきた。
オーイ飯島さんから電話ー! と会社の若いのから電話を受ける。
はいよ、と電話を取ると八重子先生だ。
今日は上級クラスの稽古日だから私は行ってないのだが、
どうやら予定していた七事式をやるのに人が足りないという。
まあ予定もないことだ、伺うことにしよう。
そんな会話をしている私の横では、ちんぽちんぽまんこーと叫んでいるのやら
早くしろコラー!と怒鳴る声が聞こえている。電話、筒抜けだってば…。
電話が終わり、仕事をする。
定時になりいったん帰宅する。着替えねば。
そろそろ単衣も秋の気配を取り入れたいなあ。
先生宅に着いたが早すぎたようだ。
まだ皆さんそろっておられないようだ。
「あらあなた、男の方?珍しいわねぇ」
おっと上級クラスは私を知らない人が結構いるんだった。
「中野さんその方女性よぉ」
知ってる人が笑いつつ紹介してくださる。
「あれ、山沢さん今日お稽古でしたっけ?」
おや律君だ。
「こんにちは、そう、朝電話いただいてね」
「だったら上生菓子は4つで良いですね…」
うんうん、それでいい。それでいい。
「あらいただかないの?」
と中野さん。好きそうだよなあ、和菓子。
呼ぶ手が見えて水屋に入ると絹先生だ。干菓子を二つもらう。
うまい。
花や炭の用意を手伝うと挨拶の声、人はそろったようだ。
本日は五事式。きっついなあこれは…。
上級クラスだとこんなのやるんだね。
本当は茶事で懐石があって春にするらしい。
夏なのに炉を開いてお稽古することがあるとは思わなかった。
来春茶事をするためのお稽古、といったところか。
炭つぐのも花生けるのもまだまだ私には難しいね。
お香、炭、花、いろいろなものを修練しないといけない。
私にとっては怒濤のように過ぎた4時間半だがさすが上級の皆さん、
するすると遅滞なく動かれる。
八重子先生によると上の方の教授だけで行えば3時間半もかからないそうだ。
確かに花月8分とか言うからそうなんだろう。恐ろしい。
水屋の始末を手伝っているとお夕飯食べていかない?
と絹先生がおっしゃるのでそれに甘える。
でも大抵、孝弘さんの隣なんだよなあ。
「山沢さん、あんな人ばかりのところで仕事してるのかい?」
食事中、八重子先生に朝の電話の時の背後の声について言われた。
えぇ、まあそういう所です。
「なにかあったの?お母さん」
八重子先生は説明しがたいようだ。そりゃ言いにくかろう。
「電話の背後が怒声や卑猥な言葉だっただけですよ」
あ、律君がむせた。
こっそり孝弘さんのおかずに魚を増し増しにしておいた。
「稽古場でそういう言葉遣い出ないようにしとくれよ」
気をつけてます、ええ。
食後くつろいでると打診された。
「あんたそろそろ真之行やらないかい?」
まだ早くないかなぁ。
「一応あんただって助講師とってるんだから早くはないよ。それに…」
どうやら研究会などは大円真以上の規定が結構あるらしい。
家庭のある人には行けないような泊りがけの研究会に連れて行く人がいないと。
そういうことなら取りましょう。取りましょう。
申請のお願いをし、明日のお稽古について申し合わせてから帰宅した。

数日後、会社の関係である芝居のチケットを入手した。
さてこれはどうしてくれよう…。
大先生の趣味なら譲っても良いな。
次の稽古のときにでも渡すか。

そして次のお稽古日…。
「お邪魔しまーす!」
早くついたから稽古場の用意をする。
「あれ、早かったね」
八重子先生だ。ご挨拶して芝居のチケットの話をする。
残念ながら趣味ではなさそうだ。
どうやら絹先生は趣味の様子、あんたら二人で行っといで、と言われた。
昼の部と夜の部のどちらが良いだろう。
翌日休みだからどちらでもいける。
夜のほうが気楽かな?芝居の前に喫茶店入って、見て、それからメシ。
「遅くなってもよければ3時始まりの部でどうですか?
 11時始まりだと食事時間が微妙ですよね?」
3時間から3時間半くらいはあるだろう。
あ……
「八重子先生。芝居の後、絹先生を食事にお誘いしても?」
「行っといで行っといで」
ケテーイ。
どこ行こうかな、メシ…。
「絹先生、食事、何かご希望はあります?
 懐石が良いとかイタリアンが良いとかステーキ食べたいとかでも結構ですが」
料亭もあの辺りならあるし、ホテル飯もできるし…。
「そうねえ、考えとくわね」
まだ日、あるしね、それでいいか。
他の人が来た。この話は打ち切り、お稽古の用意、用意。
今日は小習事復習日。さて何を振られるか…。
「山沢さんは台天目と貴人ね」
あっ、やられた、油滴と曜変が用意されてた。うぅ…。
キモい…。できるだけ直視しないように半眼でやってると叱られた。
他の方に、台天目と貴人の違いを教えておられる。
台天目は茶碗が主眼、相手は地下でも貴族でも良い。
貴人は客が主眼、高位の人をもてなすときのやり方だ。大抵茶碗は白。
ちなみに台天目は小習ではないが、違いを教えるためのチョイスだろう。
嫌がらせでは有るまい、と思いたい。
他の方は茶入荘、茶碗荘、茶杓荘などなど。
なんだかんだ稽古時間はすぐに過ぎ去る。
茶碗を丁寧にとっとと片付ける。見たくない見たくない。
水屋の片付けもして、終了。解散。

翌日、絹先生から携帯にお電話をいただく。
食事の件だ。
京懐石があれば、という。
あのあたりだと、なだ万とかあったような気が…。
「ちょっと遠くてよろしければ辻留、柿傅、三友居などありますがどうします?」
なに、そこまでは肩がこる?了解。
いくつか要望を聞いて本日在宅か聞き、電話を切る。
会社の人にお勧めの京懐石を聞くと、そのあたりで一つ二つ出てきた。
詳細をプリントアウトする。
あの家パソコンないからなあ。律君が壊しちゃうんだろうな。
俺の使ってないノート置いとこうかな。リモートツールいれて。
仕事もそろそろ良い時間だ、帰ろう。
帰宅し、着替えてから資料を持って先生のお宅へ。
「お邪魔します」
「はいはい」
あれ?律君だ。
「ごめんなさい、母、ちょっと今出ちゃいまして」
「ありゃ。じゃあ八重子先生はおられるかな」
「あ、いますいます、どうぞ」
迎え入れてもらう。八重子先生は庭に居られた。
横まで行ってみると茶花の手入れをされている様子だ。
「ああ、山沢さん。どうしたんだい?」
芝居の後の食事の件についてとりあえず資料持ってきたのだが、
絹先生が不在なのでどうしようかと。
すぐ戻ってくるとのことで待たせてもらうことにした。
昼は暖かくて良い日和だなあ。
パタパタと足音がして、
「ごめんなさい、山沢さん、待ったでしょ?」
と絹先生が走りこんできた。そんなに焦らなくて良いのに。
そういうとこ、可愛いよな。
「時間を決めて来た訳ではないですし、気にしないでください」
もうちょっと待てる?というので待っていることにした。
八重子先生がお茶を入れてくださり、向いに座られた。
お茶が熱い…。
「町内の方で揉め事があってねえ、ちょっとばたばたしてるんだよ」
へえ、町内ねえ。
「昔うちに来てたお弟子さんと、うちの町内の方が不倫してたらしくてねぇ、
 駆け落ちだってさ」
へぇぇ!駆け落ち?
「で、なんで絹先生が?」
「昔絹に粉かけてたんだよ、その人」
あー…そういうことか。
「良かったですねえ、そんなのに引っかからなくて」
本当だよ、とかなんとか話していると戻ってこられた。
ハイお茶、と絹先生にもお茶が出る。
私のもそろそろぬるいはずだ。一口いただく。
「疲れちゃったわあ」
「肩、揉みましょうか?」
頼める?というので揉んでいると八重子先生がぎょっとしている。
「お母さん?」
あ、見た感じ男が娘の肩をもんでいるという変な光景か。
絹先生は気にせず愚痴っておられる。
「お母さんちょっと えっ」
律君が驚いている。うん、変な光景だね(笑)
胸にあるツボ押してるもんね、今ね。
「あら、どうしたの?」
うん、素だね、絹先生。どういう風に見えてるのかわかってない(笑)
肩をぽんぽん叩き、終了。
律君もただの肩揉みと気づいたようだ。用件は今日遅くなるというだけだった。
さてさて、愚痴も終わったようだし、本件に入ろうじゃないか。
メシはどこに行こうかねー。
仮の案として二件ほど見せる。ほん近くにある京懐石のお店と、ちょっと遠い店。
ほん近くの方が良いかな?と決まった。
時間は7時スタートで。早く幕が降りても喫茶店よれば30分潰せるかな。
その場で予約を取る。OK、すぐ取れた。
ということで本案件終わり。
明日のお稽古ですることなどの話をして、3時過ぎに帰った。

何度かのお稽古日が過ぎた。
今日は芝居を見に行く日である。
私の仕事時間の関係で、現地近くで待ち合わせとなる。
一旦帰宅し、シャワーを浴びて着替える。
10月に入ったから袷だ。胴抜きにしてある。中は絽の長襦袢にしよう。
お召に羽織で良いといってたからそうしよう。
先生は付け下げか訪問着って言ってたな。
楽しみだなぁ。
わくわくしつつ、家を出る。
デートだ♪
待ち合わせ場所に40分も早く着いた。
先生は携帯を持ってないからちゃんとわかる場所にいなくては。
待つ時間も楽しい。
と思ったらすぐ来られた。
付け下げにされたようだ。綺麗です、と褒めると、あなたも格好良いわ、と言われた。
時間が早いのでお茶を飲みに行くことにした。
実は先生は先日会場に行ったそうだ。
下見ではなく、展覧会が有ったという。お茶仲間とだ。
京都で私は見ているが、お茶の先生としては見てはおかねばなるまい物。
お茶仲間の付き合いも大事だからね。うん。
言い訳みたいにしなくても良いんだよ。
可愛いなぁ。
さて。手水を使ったらばそろそろ入って席に着きますか。
うん、良い席だ。出やすくて、見やすい。
今日は小さいお茶を二つ、音の出ない甘いものをいくつか持ってきている。
大きいお茶は結構残して荷物になる&ガサ音は不快。でもなんぞ欲しい。
席について軽く見回すと知った顔がいくつかあるなあ。
先生に手出しはできないな、気をつけよう。
おっと開演前のブザーが鳴った。
暗転。今のうちと手の甲にキスをする。
照れてる照れてる、うんうん。
芝居を楽しむ。
時代だなぁ…今ならばどうだろう。
師を捨てて女を取るか。それとも駆け落ちでもするか。
月は晴れても、心は闇だ…。
すっと先生が私の手を握ってきた。
その手の上に、もう片方の手を重ねる。
あーキスしたい、そう思いつつ手の甲を撫でる。
私だけにわかる声で駄目、とささやかれた。
撫でる手を離し、芝居に気を戻す。
一流の役者の織り成す世界は良いなあ。
拍手の元、終了した。余韻。
先生の手を引いて会場の外へ出ると、時はちょうど頃合、料亭へと歩く。
うん、ここだな。
「予約していた山沢です」
どうぞどうぞと通されたのは個室。
懐石の順番どおり出てくる。どれも美味だ。
楽しく食事が終わり、支払いを終えて外へ出ると意外と冷え込んだようだ。
先生がふるっとした。私は羽織を脱いで包み込む。
「袖、通して…」
着せて差し上げる。
「このまま、私のうちへ来ませんか?」
はっと先生は私を見る。
「駄目…帰らないと…」
手を握って翻意を促すが、無理そうだ。今日のところはお帰ししよう。
手をつなぎ駅へ向かう。
帰したくない。だが駅についてしまった。
先生が羽織を脱ごうとする。それを押しとどめた。
「着て帰ってください。あなたに添えない私の代わりに羽織だけでも。
 帰り道にナンパ、されないでくださいね」
頬を染めて可愛いなぁ。
じゃ、また稽古の日に、と別れた。

----絹

「ただいまあ」
帰宅して居間にいる母に声をかける。
「はい、おかえり。どうだった?」
「良かったわよー、お芝居もお食事も」
「あれ?あんたそんな羽織持ってたかね?」
「ああこれ、山沢さんのなのよ。ご飯食べて外に出たら結構冷えてて。
 家まで着て帰ったらいいって貸してくれたのよ」
敷きたとうを出し、その上で脱ぐ。
羽織を脱いで見ると羽裏は結構手が込んでいる。
「あら…織ね」
帯を解き、伊達締めをとくと胸から何かが落ちた。
母が拾ってみるとぽち袋だ。お車代と書いてあり、3万円が入っていた。
「いつの間に入れたのかしら…?」
そのまま寝巻きに着替え、衣桁に着物をかけて片付ける。
母にお芝居と食事の話をしながら。
もう遅いから、とすぐに寝ることにした。

翌昼、庭を掃除してると母に来客。
私が男性と見詰め合っていたとか、料理屋から二人で出てきたとか
夜の街を仲良さ気にくっついて手をつないでいたとか、母に言ってる。
見られてたみたい。困ったわ…。
母が私と仲のよい弟子で女性と説明してるけど…納得してもらえるのかしら。
掃除を終えて居間に戻ると、お客さんはもう帰ったみたいで、
母が山沢さんの羽織を見ている。
「いい羽織だ。この柄は何かねえ、雅楽の楽器?」
「ひちりきっていうんじゃないかしら。あらでもこの柄、お寺よねえ?」
今時こういう羽裏は珍しい。
「山沢さん、案外女遊びになれてる人なのかもしれないねえ」
「えっどうして?」
「あんた昨日ぽち袋入ってたの気づかなかったんだろ?
 贔屓の芸者の一人や二人いるかもしれないねえ」
そうなのかしら…。
嫌だわ…。
そう思いつつ、羽織を畳んでたとうに仕舞った。


お稽古日。
今日は何のお稽古かな。
ん?先生の表情が曇っている。
なにかあったのだろうか。
少し稽古が厳しい。
お稽古が終わった後、八重子先生と話していた。
先生は水屋に居られるようだ。
「あんた実は芸者に贔屓とかあるんじゃないのかい?」
「ああ、前は一人、毎週料理屋に呼んでましたよ。その芸妓はもう引退してしまって、
 その人に頼まれたのを今は贔屓にしてます。最近呼べてませんけど」
ありゃ驚かれてしまった。
どうしたのか聞くと羽裏の件や車代の入れ方などからそう思ったそうだ。
あの羽裏はどこのかと聞かれた。西陣の織元に頼んだものだ。
思ったものがなかったから頼んでみた。
「おばあちゃん、お客さん」
律君が呼びに来た。
はいはい、と八重子先生が出てゆく。
私は水屋へ入り絹先生の手を取る。ふりほどこうとされる。
「嫉妬、してるんですか?」
「だって贔屓の女、いるんでしょう?」
「ただの話し相手です、芸を見に行くだけですよ、ああいうところへは」
「本当に?」
「ええ、あなただけです」
ほっとした表情をしている。信じてくれたみたいだ。
「そういえばなんで雅楽の楽器とお寺なの?」
ん?ああ、羽裏か。
「もともと雅楽は神社より寺とつながりの深いものなんですよ。
 だけど結婚式のイメージとともに神社のイメージなんでしょうね。
 菩薩っていう曲もありますよ。」
結婚式と越天楽のセットだよなー。
葬式用の越天楽もあるんだぜー。
くだらない話もしていると次の生徒さんが来た。
ではまた次のお稽古で、と挨拶して帰る。
帰り道、思わずにやけてしまった。嫉妬してくれるとはね。

あっ、羽織持って帰るの忘れた(笑)

次のお稽古のときに今週末のお稽古を休むことを言った。
珍しいわね、とおっしゃるが秋のおどりの会を見に行かねばならない。
お稽古日じゃなければ先生をお誘いするのだが…。
羽織を返してもらって帰宅した。

久々に京都へ戻る。
おどりの会を楽しみ、その後は得意先の料理屋に馴染の芸妓を呼ぶ。
久しぶりだと皮肉を言われつつ芸を楽しんだ。
店への支払いは現金で済ませ、ビジネスホテルに泊まる。
自宅に戻っても良いのだが長くあけている分、錆水とか面倒くさい。
寝るだけならビジホが楽だ。シャワーを浴び、寝た。
翌朝、東京へ。
新幹線の中で携帯が鳴った。珍しいな、先生からだ。
「どうしました?」
展覧会が今日までらしい。行けないかというお誘いだった。
時間を聞くと家に寄る時間はなさそうだ。
降車駅を変更して、シャツ売ってるところ探してシャツだけでも着替えるか。
降りるまでにどこにあるか調べると、駅直結のところにシャツ専門店があるようだ。
駅について慌しく売り場へ向かう。
おおよそのサイズで買いその場で着替える。
鞄に着ていたシャツを押し込んで急いで乗り換えた。
予定の車両に乗れた。一息ついてスーツを確かめ、きちっと体裁を整える。
整髪剤と手拭きを出す。ささっと櫛で整え手についた整髪剤を拭取る。
うーん駅についたら手を洗おう。

駅に降り立ち、手を清めてタクシーに乗る。
現地についてみるとすでに先生が待っていた。
「お待たせしてすいません」
「ううん、急にごめんなさいね、今日までだったの忘れてたのよ」
今日も綺麗だなあ。
手を取って入館し、観覧する。
あらかた見終わった頃。
「昨日はどうしてお休みだったの?」
「秋の温習会の時期でして花街の踊りの会を見に行ってたんです。
 それと顔つなぎですね。」
「…馴染の方と、会ってたのね」
つねられた。
手を取るとその手を払われた。
怒ってるのか。可愛いじゃないか、おい。
退館してタクシーを待つが触れると手を振り払われる。
ムカっとしてきた。
タクシーに乗車し、先生が駅までというのをとどめ、あるホテルを指定した。
いわゆるラブホだ。
下車し、腕をしっかり掴み引きずるように部屋に入れる。
「いや…怖い…」
少し涙声だ。知るか、犯してやる。
「脱ぎなさい」
恐々と脱ごうとしている。
「早くしないか!」
ヒッと息を呑んで慌てて脱いで行く。
湯文字一つになった先生の腕を掴み、ベッドに投げ出した。
「胸に歯型でも付けてやろうか?コラァッ!」
私の迫力に押され、本気で泣いてしまった。
「ごめんなさい、ごめんなさい…」
泣く様子に我に帰る。まずいな、ブチ切れてた。
そっと手を取ると震えている。
「芸妓と会ってたくらいで嫉妬しないでください。
 その人とはそういう関係じゃないんですから。私はあなただけなんです。
 乱暴にしてすみません。」
そういって先生の涙を拭き、唇にキスを落とす。
まだ怖いみたいだがゆっくり優しく愛撫するうちに震えも落ち着いてきたようだ。
耳朶を甘噛みし、好きです、と囁いて力を入れず抱きしめる。
「ん…」
青かった顔色にも赤みがさしてきた。
このまま抱いてしまおうか。
逡巡、時計を見る。駄目だ時間ががが…。
ふうっと息を吐いて身を離す。
「帰りましょう。着物、着て下さい」
いいの?と言うが時間がなあ。
フロントに頼んでタクシーを呼んでもらった。
先ほど乱暴に脱がせた着物を着てゆくのを見る。
さすがに本職、着るのは早い。そして美しい。好い女だなあ。
タクシーに乗り駅ではなく直接先生のおうちへ向かってもらう。
ここからなら時間は変わらない。
だったら余人を交えず一緒に居たいじゃないか。
タクシーの中で先生の髪の乱れを整髪剤で撫で付ける。
うん、こんなもんだろう。
「うちへ帰ったら洗髪して下さいね」
手拭きを3枚くらい使ってやっと拭取れたほどの強い整髪剤だからね。
「今度、うちに来ませんか」
返答できないようだ。
手を握って無言のうちについてしまった。
先生を降ろして私は最寄の駅で下車し電車で帰宅した。


---絹

「どうしたんだい?なにかあったのかい」
食後、居間でお茶を飲んでいると母に見咎められた。
「山沢さんに何か言われたのかい」
「その、山沢さんをちょっと怒らせちゃって……怖かっただけで…」
思い出したら涙が…。
「お風呂、入ってくるわ」
慌てて居間から出てお風呂へ。
お母さんが呼んでるけど理由を聞かれても困るから。


---山沢

うーん、やはり怖かったまま帰してしまったかな。
八重子先生にバレるの覚悟で抱くべきだったか。
取敢えず明後日になるまではわからない。
ああ。…明日熊野神社に行って誓紙を貰って来よう。
信じられぬというならば起請すればよかろう。
ああいや待て、起請誓紙を遊女のものだと思われていたら怒るか。
参ったな…。


稽古日。
一応熊野誓紙を鞄に入れて来た。
先生は…出てこられない。
動揺してしまった。八重子先生の指導だが簡単な点前を間違う始末だ。
稽古が終わり居間へ呼ばれた。
「山沢さん…この間いったい何があったんだい。絹は何も言わないんだよ。」
「すみません、カッとして怒鳴りつけてしまって。あの、絹先生にお会いできますか」
表から一番遠い奥の部屋にいるという。
そんなに怖かったのか。フォローが足りてなかったか。
八重子先生に断って奥へ行く。
襖を開けると驚いた顔をされた。入って閉めると後ずさり。
「…私が怖くなりましたか」
「あ…」
無意識の行動だったようだ。
「この間は乱暴にしてすいませんでした。
 二度とああいうことはしませんから、どうか嫌いにはならないでもらえませんか」
「嫌いじゃないわ!…怖くて」
私が一膝進むと、一膝下がられる。
「うぅん…それは…。あなたからなら近づけますか?」
先生は少しずつ、近寄ってくる。
私はできるだけ動かないようにしている。
手を動かせば捉えられるほどに近くまで来た。
「私はあなた以外誰も欲しくはない。あなただけが好きです」
懐から熊野誓紙と筆ペンを出し、誓文を書き、小刀で親指を切り血判する。
それを先生に渡した。
「これを、持っていてください。私の思いです」
それから…。
「あなたがお嫌なら、芸妓と手を切りましょう。二度と会いません。
 もう一枚誓紙を書いたって良い」
「山沢さん…」
「それでも信じられぬというのならこの指落としましょう」
左手の小指に小刀を当てる。
先生がその小刀を慌てて取り上げた。
「信じる、信じるわ、だからやめて」
鞘を、というので渡すと収めて遠いところに滑らされた。
先生は私の手を取り親指の傷を舐めてくれた。
血の赤さで彩られた唇は扇情的で、思わずキスをしてしまった。
「駄目…ここじゃ…」
「今なら誰も来ませんよ」
それでもやはり気になるようだ。
「やっぱりうちに来ませんか…あなたを抱きたい」
懐に引き寄せてそういったがお稽古日だから途中で生徒さんに会うと気まずいという。
困ったなぁ。
そのまま懐に抱いたまま小半刻。日が暮れてきた。
ほぅ、と先生の息が聞こえた。
「まだ、怖いですか?」
そう聞くと、もう大丈夫という。でもあんな風にされるのは怖い。
「私が嫉妬したからだけど…」
まあ悋気を起こさせた原因は私だからなあ。
「まったく嫉妬されないのもそれはそれで微妙ですけどね。気をつけます」
ん?そろそろ夕飯の支度しないで良いのかな。
そういうと慌てた顔をして支度しないとっていうので手伝うことにした。
台所でパタパタと立ち働き、夕飯を作る。
生徒さんたちも引けたようだ。作るだけ作って今日は帰ることにした。


---絹

母が台所に来た。
「お母さん。明日山沢さんのところ行ってくるわ」
「ああ、話、ついたのかい?」
「ええ」
支度ができて食卓へ。
今日は私と母の分だけと甘鯛の酒蒸しを山沢さんが作ってくれた。
お父さんと律にはサワラの西京焼、これも山沢さんがたまに持ってきてくれる。
甘鯛があっさりしているのに甘くておいしい。
「そういえば山沢さんって煮物はしないよね」
あらそういえば焼いたりお刺身はしてくれるけど煮物は手伝ってくれないわね。
「苦手なんだってさ。それに家によって味が違うからって言ってたよ」
そうなのねえ…。


---山沢

帰り際、先生が明日うちに来るといってくれた。
部屋を掃除せねば!
勢いで連れ込むなら少々アレでもいいが半日あるんだから目に付くところだけでも。
明日は駅まで迎えに行けばいいことになっている。
帰宅後すぐ玄関から片付け始める。夜2時、なんとかなった。
翌日10時過ぎ、風呂に入って身支度して先生を迎えに行く。
1番出口を指定しておいた。エレベーターであがれるから。
先生が出てきた。私の姿に驚いている。
ポロシャツにチノパン姿はそういえば初めてかもしれない。
先生は紬の普段着姿…いつもはしない口紅が良い。
拾って連れ帰る。
玄関の鍵を閉めてすぐ、抱きしめてキスをした。
たまらん、もう無理だ…。
「今すぐ抱きたい…」
そう言うと先生は頬を染めて体を預けてくれた。
ベッドのある部屋に連れて行き、帯締めを解くと背の太鼓がほどける。
それだけで色気を感じ、また先生も恥ずかしくなるらしい。
帯・着物を脱がせて衣桁にかける。
長襦袢姿もやはり好い。
襲い掛かりたくなるのをぐっと我慢しながら優しく緩やかに、と心がけて。
長襦袢、肌襦袢を脱がせて後は湯文字一つ。
上気した柔肌をそっとなで、キスを落としてゆく。
腕に青あざ、先日掴んだときにできたようだ。
くっきり手の形になっている。申し訳ない。自己嫌悪。
今日は特に丁寧に、嫌がったらできるだけやめて意思を尊重しよう。
壊れ物のように大切に。
二度ほど逝かせた後、先生のおなかが鳴った。
ああ、もう昼すんでるじゃないか。
「メシ、どこか食いに行きます?それとも何か取りましょうか?」
動けなさそうなので鮨を取った。
届いた後先生を呼ぶと素肌に長襦袢をまとっている。
もう一戦やりたくなった。
まあでも取敢えずメシ食うか。
ちゃんとした鮨屋の桶なので結構良いネタを使っているのだ。
やっぱりウマイなあ…と食べているのは実は卵だったりするが。
食後、酒を出して先生に飲ませると少し酔ったようだ。色っぽいぜ…。
襲い掛かりたくなる。
そういう思いが伝わってしまったようで照れて背を向けてしまわれた。
そっと後ろから抱きしめる。
何度しても恥ずかしがるその姿がぐっとくるんだよなあ。
ベッドに連れ戻して再戦3度。
疲れて寝てしまわれた。
手を洗って長襦袢を着物ハンガーにかける。
この手触りはポリではないなあ。半襟も白じゃなく刺繍半襟か。
長襦袢の柄行も普段には着てこないような柄で…。
私に会うためなのに、手の込んだものを…嬉しいじゃないか。
寝顔を眺めているうちに私も眠りに引き込まれた。
夕方、目が覚めた。先生はまだ眠っている。
疲れさせてしまったようだ。
先生のお宅に電話するか。晩飯一緒に食ってから帰らせると。
電話を取り八重子先生に連絡する。
絹は?と聞かれたが今コンビニに、とごまかした。
食事の件は普通にOKが出た。
電話を切って、どこに食いに行こうか考える。
いつもいく割烹で良いかなあ。
ああ、起きたみたいだ。
シャワーを浴びるようにすすめる。
風呂場の外から晩飯の希望を聞くと、任せるといわれた。
割烹で良いかと聞くとそれで言いという。
席が空いてるか電話で確かめ予約する。
風呂から出て肌着を着け、長襦袢をまとい、長着を着る。
美しい。
ドキドキするじゃあないか。
私も身づくろいをして格を合わせる。
外を二人並んで歩き、割烹に着く。
大将が目を細めている。どうだ、好い女だろう!
食事を美味しくいただいて、先生を駅まで送って行く。
別れ難いが明日お稽古だからまた会える。
手の甲に軽くキスして別れた。

翌日のお稽古。
早くつきすぎてしまった。
まだ午前の生徒さんが稽古している。
朝の生徒さんはレベル高い人多いんだよな。
先生との会話聞いててもさっぱりわからん悔しいな。
早く自分も余裕かませるくらいになれれば、なあ。
八重子先生がおいで、という。真之行を見学せよということだ。
今日とってもカジュアルな格好なのですが…。
皆さんちゃんと五つ紋、その中にこの格好はちょっとまずくないですか、
そう聞くと今日は偶発的な見学だから、と正客に。
うーわー…見てるだけでこれ次覚えるのかと。
落ち着いて、すべてを丁寧にやればいいお点前だから出来る様になる、という。
先に見せた理由は心構えだと。
なるほどつまり必要な知識は自習して来いと。
陰陽五行八卦、皆具の違い、まあ色々今は自力である程度はわかるな。
精進します。
でもそれより前回みたいな心の乱れを点前に出さないようにしないと駄目だな。
午前の部はそれでお開き、皆具を片付けて昼の部の用意を手伝う。
用意が終わったところで先生方はお昼ご飯。
私は庭先を借りて喫煙。
外で吸わないと折角の炭に仕込んだ香が煙草の匂いに負けてしまう。
口と手を清めてから先に茶室に戻った。
本日は四ヶ伝の日。
上の方のお点前をするための割り稽古だ。
点前手順は入ってて当然にならないと上に進んではいけない。
道具を見ながら頭の中でざっとさらう。
おおよその流れは思い出したぞ。イメトレイメトレ。
30分前になって絹先生が稽古場に戻ってきた。
すでに先生モードだ、というか今日は厳しい稽古になる予感。
相違せず微妙な角度、持ち方、細かく指導を受けた。
そして今日は私の後に来る生徒さんのお稽古を指導する稽古だ。
人に教えるほど難しいものは無く、自分の中で消化できてないと出来ない事はなはだしい。
結果惨敗、先生からツッコミがすごく来た。
教えてもらったとおりに教える、それが難しい。
結局夕方までみっちり教える稽古や他の方のお稽古の客をして終了。
今日は仕事の都合のため、夜はこちらに居れない。
なぜ居れないかは八重子先生のみぞ知る。
絹先生には絶対知られてはならないのだ…。

まぁつまり、あんなことのあったあとでのお座敷遊びなのである。
同業の集まりでメシと芸者、半玉を呼んで騒ごうというもの。
たとえエロ要素皆無でもまた嫉妬されてああなるのは避けたいものだ。
直接指定の料亭へ移動する。
すでに何人かは来ているそうだ。
今日のお姐さんは誰が来るのか聞くと、大きいお姐さんばかり、ホッとする。
あいてるところへ適当に、というのでいつもの人の横へ座る。
同業としては仲の良い人で、そろそろ80が近い婆さんだ。
火種を借りて一服つけるとぞろぞろと他の連中が到着した。
乾杯して芸者衆の歌舞を楽しむ。
若い連中はトラトラや金比羅で遊んでいる。
宗直姐さんがこちらに来た。
「今日はなにお稽古したんです?」
四ヶ伝、怒られ通しだというと怒られるうちが花、と慰められた。
この方芸者だが同門茶名もち、お茶の話題で盛り上がる。
まあ盛会のうちにお開き、明日も仕事だから皆よそへ行かず帰宅となった。

翌朝ちょっと二日酔い、仕事が捗らねえな。
グダグダしつつ仕事を終え、帰ってひたすら寝たが、体調は今ひとつだ。
次の日の午前中盛り返しはするが気が乗らない。
お稽古へ行くと快晴好日、人が多い。
水屋要員をすることにしてサボる。
人に使われていることの気楽さを満喫。
なぜか最近入会された若い生徒さんに手を握られ名刺を渡された。
ご連絡お待ちしてますって…これはナンパなのか?
取敢えず後で八重子先生にご報告だな、注意しとかないと。
しかし最近の女性だなあ、電話とメールとLINEのアカウントだけ書いてある。
お稽古が終わり、絹先生が山沢さん泊まっていくでしょ?と仰る。
かったるさも吹き飛ぶお誘いだ。
とはいえ、別に何も出来ないわけだが。
夜、絹先生が風呂に入ってる間に八重子先生に申し上げる。
しばらく様子見と決定した。
八重子先生に気取られぬようしつつ風呂から上がる絹先生に目を細め、
それなりの時間になったので寝間へ。
夜半、絹先生の部屋に忍ぶ。
誰かが来ても按摩と言い抜けられる程度にボディタッチ。
声が出そうになって、我慢する姿はなんとも色っぽい。
煽るだけ煽って逝かさず、部屋に戻って寝た。
自分でしただろうか、できるようには思えないが…(笑)
翌朝、絹先生に会うと恨めしげだ。
可愛いな。
昼から律君は大学の友人と約束があると出て行き、
八重子先生も所用で二・三時間戻ってこないという。
昨日仕立てが終わった袷を絹先生に見せていたら着付けてあげる、と仰る。
脱いで真新しい袷を羽織る。
前合せを正しくしてもらい、帯を締めてもらう。
先生の頬に手をやると、じっとして、と言われてしまった。
いやだって膝を突いて上目遣いって何というかエロいんだよ。
立って襟などを少し整えられる。
「昨日はひどいわ…」
「なにがです?」
わかってるけど聞いてみた。頬を染めて何も仰らない(笑)
軽くキスする。そっと着物の上から太腿をなでると色っぽい声が聞けた。
続きをして欲しそうだが、身を離す。
口には出さないが恨めしそうにしてる。
「二階、上がりませんか?」
あそこならわざわざ孝弘さんが来ることもないだろう。
絹先生は頬を染めてうなづいた。
上にあがり襖を閉めるとしなだれかかってきた。
「ねぇ、おねがい…」
「なんでしょう?」
あえて何もしないでいると困った顔をしている。
ああもう駄目だ、いじめるのはヤメだ、抱いちまえ!
裾を割り、まさぐる。
先生はぎゅっと私にしかみつき、押し付け、声が漏れないようにしている。
「んんっあ、はぁっ、もう駄目…」
逝ったようだ、ガクガクしている。
事後の顔も色っぽくてもう一発やりたくなる。
が、まあなんだ、邪魔が入ると非常にまずいことになるからなあ。
手拭で後始末をしてさしあげていると、上気していた頬が一気に青ざめた。
どうやら孝弘さんは在宅だったことを思い出したらしい。
「もう一度、しましょうか」
わざとそう言うと「ひどいわ、わかってる癖に」と詰られた。
しばらく抱きしめて落ち着ついたところで喉が渇いたからと居間に戻ることにした。
お茶をいただいて一服、先生は眠そうだ。
「ちょっと寝ますか?」
お座布を枕に先ほど脱いだ長着をタオルケット代わりに掛けて寝かす。
気持ち良さそうな寝息が聞こえてきた。
昨日煽ったから寝れなかったのかな…可愛いな。
ゆったりした時間が流れる。
あ、八重子先生戻ってきたかな、玄関の開く音だ。
「おや、寝てるのかい?」
「ええ」
起こしますかと聞くといいと仰る。
お茶を勧められて、頂く。
「山沢さん、あんた、…」
え、なんだろ。
「……この間の休んだ日、踊り見てきたんだって?どういう演目だったんだい?」
そ、そっちか、はははは…。
「一つはお茶に関する曲ですよ。歌の中に茶壷やら竹台子やら出てきます。
 前半お茶、後半お香で全体的に恋愛の曲ですね。
 二つ目は重陽、三つ目は楠公、四つ目は確か秋の曲で虫の音や雨音、恋。
 それと棒縛りです。」
「そんな曲があるんだねえ、お茶のかい」
「一説には二代目川上不白の作詞とも」
「江戸千家のかい?」
「ええと…四代目のお家元ですか」
「そんな曲なら寂びた感じなのかねえ?」
「江戸らしくてそういう感じじゃありませんねえ。出は良いんですけど」
おやどこぞで七つの鐘をついている。もうそんな時間か。
絹先生が起きた。
ぼんやりしている。まだ頭の中は寝てるようだ。
「お茶のむかい?」
という八重子先生の問いかけにうん、とだけ答えて。
珍しく寝起きが悪い。
「さて、そろそろ…」
帰らなくてはならない。
「うわっ」
先生に抱きつかれた。だー、寝ボケだ!
「もう夜まで寝かしちゃったらどうですか?部屋お連れしますよ?」
八重子先生にそういうと苦笑いしている。
抱え上げて絹先生の部屋まで連れて行くと八重子先生が布団を敷いてくれた。
布団に転がして寝かしつける。
私の長着はしっかり握ったままだから置いていくしかないな。
部屋を出て居間に向かう。
八重子先生は何か言いたそうだが言わない。
また明後日のお稽古にうかがうといい、辞した。

翌日。
仕事の後、一人展覧会へ行く。
台風が来るらしく暑い。長袖なんて着なきゃよかった。
そう思いつつ観覧していると宗直姐さんに会った。
さすが茶名持ち、こういうのも見に来るのだな。
展覧は時期的に名残の揃え。
でも10月半ばでこうも暑くては名残といってもなあ。
などと話しつつ、品々を楽しむ。
ついでに先日のおどりの会の話を振る。
立方・地方も茶名持ちでやると面白いのではないか?
茶人なら茶人の歌いよう・舞いようがあるだろう。
やるんなら客も茶人をそろえればどうだろうね。
そんなお堅い宴席はいやだそうだ(笑)
近くの喫茶店でお茶を飲んで別れた。

お稽古日。
さて今日はなんだろうなあ。
人数によっては花月かな。
ありゃ、誰もまだ来てない…。
「あ、山沢さん。あんた台子でしないかい?」
どうやら朝の人・乱れ、夜の人・台子らしい。
つまり出して仕舞うのが面倒(ry
他の方が来るまでは乱れをやろうという話になった。
紋付じゃないけど心構えをすればよい、口と手を清める。
正客に八重子先生、次客に絹先生。
二人から指導が入る入る入る。
結局午後の稽古の終わるまで誰も来なかった。
早めに切り上げてお夕飯の支度を手伝う。
「山沢さん、煮物苦手なの?」
と絹先生。そうだと答えると教えてあげるから作るように仰る。
いや、出来ないというわけでは。
自分が作ったものの味が気に入らない。
「うちの味でよければ同じ分量で作れば良いじゃないの」
いやいやこちらは4人分、うちは1人分。
分量そのまま割ったらいいというわけにはいかんのです。
濃茶を一人分練るのが難しいようなもので…というと納得された。
「それでも結局慣れよ?」
うう、まあたしかにそーですが。
たまには作るという約束をさせられてしまった。
手早く夕飯を頂き夜のお稽古の準備。
私は初心の方への割り稽古の指導をする稽古をつけてもらう予定だ。
水屋や釜を整えていると夜の生徒さんたちが来た。
と思ったら数奇屋袋を投げつけられた。
「ひどいわ!連絡待ってたのに!他の女とデートするなんて!」
ええっ?なんの話だ!?
投げつけてきた人は先日私に名刺を渡してきた女だ。
周囲がざわつく、絹先生をチラッと見ると額に青筋が。やべぇぇぇぇっ!
「ええと、あのう、何のお話で…?」
「ふざっけんじゃないわよ!昨日根津で女と!一緒にいたくせに!」
あ…あれか…宗直さん。たしかに女だ。古いけど。
「話を整理しましょう。
 まず私は女ですので女とどこで遊んでいても問題はないはずです。
 それに私はあなたに連絡を差し上げるとは一言も言っていません。」
「嘘つくんじゃないわよ!どこが女なのよ!」
周囲がとりなしてくれない、仕方ない、脱ぐか。
袴の紐を解き、着物の帯を解き、長襦袢の紐をはずそうとする。
八重子先生が騒ぎに気づいて止めてくれた。
ほっとする。
さすがに大人数に裸身をさらしたくはない。
誤解から生じたものとして処理され、名刺の女は取敢えず今日は帰ってもらうことに。
そして私は稽古場を騒がせたので一ヶ月稽古差し止め。
すごくショックだ。
来るなら来ても良いが水屋か見取りのみしかさせないという。
取敢えず今日のところは水屋要員するしかない。
場の重さに引きづられたまま皆さん黙々とお稽古され、本日の稽古終了。
絹先生に呼ばれる。二階に。
「デートってどういうことなの?」
うっわそっちか、怒ってる。
「た、たまたまですよ、たまたま、知り合いに会っただけです」
「どういうお知り合いなのかしら」
「同門!同門です!」
「あらそお?」
だめだ、信じてもらえてない気がする。
「70代の方ですよ、勘弁してくださいよ…」
「えぇ?あらぁ…いやねえ」
あ、よかった納得してもらえたかな。
「ね、さっきの方だけど…連絡って?」
「ええと先日のお稽古のときにですね…」
かくかくしかじか、と説明する。
「何で言ってくれなかったの?」
「あなたに嫉妬させたくなかったから…」
抱きしめてキスしたその時、絹ー?と八重子先生が呼んでいる声が聞こえた。
くっそう。
絹先生が降りて行き、時を置いて私も降りた。
居間に行くと八重子先生に座ってと言われ、絹先生の横に座る。
昨日の出かけた先と相手の確認をされた。
「絹を誘って行けばよかったじゃないか」
「朝思いついたものですから…それにまさかこうなるとは」
「とにかく、差し止めといったからには私は稽古をつけないよ。
 稽古の時以外で絹が稽古をつける分にはかまわないけどね」
「いいんですか!?」
[絹がいいならね」
さっと座布団から降りて、絹先生にお願いする。
いいわよって仰ってくださった。良かった。
もう時間も遅いことだし、と八重子先生は部屋に戻って行かれた。
絹先生は火の始末などをしてから話があると私の寝間へ。
部屋の奥の机のところに二人で座る。
話ってなんだろう。
「あの…さっき、嫉妬してごめんなさい…」
「話ってそれですか。何かと思いましたよ」
可愛いなあ。ついなでなでしてしまう。
「私、こんなに嫉妬がきついなんて思わなかったわ」
「んー私よりはましではないかと思いますが。
 私なんぞ律君と先生が一緒に歩いてるだけで…」
「ええっ!」
ちょ声が高い声が!
「お母さん、どうしたの?」
うぉわっ、律君だ!
「なんでもないわ、大丈夫だから」
先生も声が慌ててる。
間の悪い奴め…。
そう?といって廊下を歩いていく音がした。
ハーーー、と息を吐く。
ああ焦った。
そっとキスをする。
「律が戻ってきたら困るわ」
「目の前に居るのに出来ないのは辛いな…。明日、どこか行きませんか」
なんなら昨日の根津でもいい。
デートして連れ帰って食べてやる。
先生は頬を染めてこくり、とうなづいた。
たしか諏訪で展覧会が有ったな…八重子先生に泊りがけを許可してもらおう。
時計を見る。まだいけるか。携帯をとり、ホテルに空きがあるか確認する。
取敢えず確保を依頼し、八重子先生の部屋へ行く。
起きて居られるか声をかけると、まだ大丈夫だった。
明日、諏訪の美術館へ行きたい旨申しあげる。遠方ゆえ泊りがけにしたいと。
名物裂の展覧と言うと構わないといっていただいた。
部屋に戻る。
「明日、展覧会へ行きましょう。泊りがけで。いいのあるんですよ」
「お母さん、いいって?お稽古日なのに…」
「名物裂の展覧といったらすぐOK出ましたよ」
「あなた色々知ってるのねえ…」
そりゃまあデートのネタになるのでチェックしてるのですな。
明日の用意もあるからと先生は部屋に戻っていった。
私も用意しないとな。会社に休むとのメールを出す。
鞄の隠しに縄を入れておこうか…。

続きはこちら

拍手[1回]

PR

h

「こんばんわ」
先生のお宅の玄関を開け、声をかける。
今日は土曜日。稽古日だったが、所用で間に合わずすでに終了時刻より
1時間ほどたっていた。
飯時も済んでいるはずだ。
「はい」
先生がおられた。
「あらぁ?あらー、どうしたの?男振りが良いわねぇ、その格好」
そう、本日は着流しに絽羽織である。男の。
先生は浴衣だ。お稽古も終わったから早々に着替えられたのかな。
「いやぁ、本日稽古に来られなかった所用の都合でこのような格好でして。
それで、これ、そのお土産といいますか。お持ちしました。」
京生菓子と伏見の酒である。一升ずつ違う酒にした。
「どうぞ上がって?」
いつもの小上がりではなく奥の部屋に通された。
妙に静かだ。
「あら、良いお酒ねぇ。
ね、山沢さん、この後用事ある?なければお持たせだけど少しどう?」
余裕。超暇。明日は休みだし酒飲んで寝るだけの予定。
「今日はうちのみんな旅行行っちゃっていないの。一人だと時間が過ぎなくて…。」
そういうことか。珍しい。
「ちょっと待っててね」
先生がお盆に冷酒器と杯とアテ、燗鍋を持ってきた。
「燗鍋ですか?朱盃?」
「あまり飲む人がいないからこんなのしかないのよ。」
でも茶事用の朱盃ではないんだな。
「あの朱盃飲みにくいでしょう?お茶事にはあの方が余り飲まされなくて良いのだけど」
茶事のは浅くて両手で持たないとこぼれるんだよな。
そして熾っている炭を持ってきて火鉢につぎ、酒を入れた燗鍋を火鉢に乗せる。
夏の火鉢の利用法のひとつ。
普通一般の人には夏の炭火とかなんで熾きてんだよ、と思うだろうがお茶のお稽古の後だ。
お稽古で使った炭がまだ熾きてたのだろう。
冷酒器はガラス製の氷を入れて使うタイプ、2合くらい入りそうだ。
外が暑いからこれは涼しげ良い。
まずは冷酒で一献。
「あら、さすがに京酒ねえ、甘いわぁ」
そして飲みすぎるんだよな。
ついついとおかわりを奨めて冷酒器が空になった。
燗もついたので杯を奨めてつぐ。
「燗にしてもおいしいわね。」
先生、実はいける口か。
燗鍋が軽くなってきたので瓶から継ぎ足す。
なんだかんだすでに二人で5合は飲んでいるが実は私はあまり飲んでいない。
自力で帰らにゃならんからね。飲みすぎてはいかん。
先生がお手水に、というがふらついている。
手を引いてお連れする。
「やだわぁ、恥ずかしい。飲みすぎちゃった」
何度か燗鍋に継ぎ足しているのだが…瓶の感じだと7合は飲んでいるか。
私に寄りかかって部屋へ戻った。
「まぁまぁ、もう少し」と酒を注いだ。
座ったけど軽く寄りかかったままである。
なんとなく肩を抱いたがあらがう様子もない。
火鉢の火も落ちたようだ。
盆などを除けて押し倒したが、先生はぼんやりとしている。
男着物だから旦那さんと間違えてるのかもしれない。
そして、先生の体を頂いた。
浴衣の下の熟れた体は…ごちそうさまでした。
押入れに布団があったので敷布団を敷き、裸にした先生を転がした。
上掛けはタオルケットか肌掛けがあるかと思ったが冬布団だったのでやめておき、
私の長着をかけておいた。
もはや深更、このまま泊まっちまうしかない。
縁側に出て煙管で一服付け、手水に行って先生の隣へもぐりこむ。
目が覚めた。八つ半頃か。
手水に立ち、戻って少し燗酒の残りを飲む。
私の着物を素肌にまとって寝ている先生を眺めつつ。
「うぅん…」
目が覚めたか?
何で裸なんだろう、みたいな顔をしている。
彷徨った視線が酒を片胡坐で飲む私にぶつかる。
長着と私を交互に見て何があったのか気づかれたようだ。
ちなみに私は今、総柄の長襦袢姿である。
先生は青ざめたり、赤くなったりされている(笑)
私の着物で胸を隠すようにしているその素肌の背中に手を触れ、
起きたことは仕方がないですよ、もう少し寝ては、と声を掛ける。
諦めがついたのか、寝巻きがわりに昼の浴衣を羽織られた。
「ねぇ、山沢さん…」
はい?
「今日の事、お母さんには言わないで、お願い」
いや言ったら俺がヤバいでしょそれ。
言いませんよ、と答えると安心したようで布団に戻られた。
「旦那さんと間違えたんでしょう?
ああ、でも私チンコないから指しか入れてませんよ」
あ、真っ赤になった。
「やだ、もう」
あちらを向いてしまわれた。
私も横に転がり、先生の腕に軽く触れる。
少し身じろぎされたが、しばらくして寝息が聞こえ出した。
私も眠った。
朝、目が覚めたが先生はまだ寝ている。
寝過ごしたようだ。7時半か。
顔を洗って手水を済まし、部屋に戻った。
先生も目が覚められて、寝過ごしたことに気づかれた。
先生の身づくろいの間に私は長着をまとい、布団を上げる。
そして昨日使った酒器などを持ち台所に向かう。
しばらくして台所に先生が来られた。昨夜の浴衣をキリっと着ている。
指示を受けて酒器を片付け、朝食の用意を手伝った。


-大先生-
「ただいま」
(おや、なんで男物の草履があるんだろうね?)
台所に声がする。
絹と男の人が何か話しているようだ。

「痛っ」
焦ったあまり先生が指を切った。
つい覗き込んでしまう。
そこへ…

「絹!あんた何してんだい!」
おおっと大先生だ。吃驚した。腕をとられて引っ叩かれた。
「人がいないと思って男を引っ張り込んで何をしてるんだい!」
あ、男ね、格好で判断してるね、これは。
「お母さん、やめて!違うの」
違うとも言い切れないけどね、昨日やっちゃったし。
大先生は私を生徒の一人だということにまだ気づいてない。
結構服装が違うってイメージ変わるしね。
「お母さん!山沢さんよ!お茶の生徒さんの、ほら!」
その説明だと男を引っ張り込んで、のイメージから抜けれないと思いまーす。
私はおもむろに大先生の手をとりわが懐へ。
「八重子せんせー、女の生徒の山沢ですよー」
生乳を触らせ、あえてのんびりした声を作る。
大先生はぎょっとしている。
と思ったら先生もぎょっとしている。
「山沢さん…?え、あのいつもワイシャツにスラックスで来る山沢さん?」
そーですよー。
「なんでそんな格好してるんだい、間違えちゃったよ」
まちがうよねー。
「昨日の所用の都合で、その足でこちらに来たものですから」
泊まるとは思ってなかったけどね。
叩いたことをわびられ、朝食の用意を続ける。
「あれ?そういえば旅行って聞いたんですけどお戻りが早いですね」
「9時から用があってね、だから早く帰ってきたんだよ」
なるほろ。
もうちょっと寝過ごしてたらヤバかったな、これは。
「絹、あんた酒臭いよ」
そりゃま、ほぼ5合くらい一人で飲んでたもんね。
朝御飯を頂いたあと、私は茶の間でお茶を頂いていると、
先生が着替えてこられた。
今日は濃藍の浴衣。いい女だなあ。
大先生も用を済まされ戻ってこられた。

「昨日山沢さんがお土産にって生菓子とお酒を頂いたの。
それでちょっと飲んじゃって」
「私が奨め過ぎてしまって飲みすごされたんですよ。
 伏見の酒は気づかないうちに飲みすぎるんですよね。
 うっかりしてました。すいません。
 時間も遅かったので泊めていただきました。」
納得されたようだ。
しばし談笑。
明後日のお稽古にまた参ることを約束し、羽織を着て整える。
先生がほぅっと息をつかれる。
「良い男振りだねぇ」
と大先生に言われて送り出された。

翌々日昼。火曜日。
「こんちはー」
「こんにちわー」
お昼組のお稽古に集まる。
「八重子先生、絹先生、今日は。お稽古お願いします」
みなで声をそろえ、挨拶。
今日は貴人清次のお稽古だそうだ。
結構難しく、正客や次客、東や半東など覚えることがいっぱいある。
3時間はあっという間に過ぎる。
隅で見取りをしていると、大先生に残れるか聞かれた。
水屋当番に当たってた人がお休みらしい。
お稽古終了したので、皆でお稽古ありがとうございましたと挨拶し、
一人居残り水屋仕舞いを手伝う。
先生と喋りながら釜や炭の始末をする。
昨日のお八つに土産の上生菓子を食べたそうでおいしかったそうだ。
二日酔いはそんなでもなかったとか。
ふと手と手が触れた。
気づけば大先生は晩御飯の支度に行かれたので水屋に二人だ。
「絹、電話だよ」
うわぁっ!びびった!
代わりに水屋仕舞の手伝いを大先生がしてくださる。
「山沢さん、あんた今日も着物着てきたらよかったのに。」
「いやぁ、暑くて。ついついこの格好できてしまいますね」
「昨日の着物、よく似合ってたよ」
男装が似合うといわれても微妙なものはある。
後始末も終わったので、辞去しようとすると晩飯に誘われた。
一度お断りしたが更にすすめられたので頂く事にした。

「お母さん、司ちゃんも泊まるんですって」
司ちゃん来てるのか。…も、ってなんだ。ほかにも誰かいるのか。
「山沢さんもたしか明日休みだろ?泊まっていきな」
私か!
司ちゃんや律君、旦那さんたちと共に晩御飯を頂いた後、
先日の酒をみんなで飲むことに。
八重子先生も少し飲んでおいしいといっている。
今日は絹先生もたしなむ程度しか飲んでおられない。
旦那さんは私を見てニヤっと笑った。
バレているのか…。
司ちゃんと律君、旦那さんが寝てしまって散会、泊まる部屋に案内してもらう。
先日と同じ奥の部屋だ。
先生を見るとやや頬を染めている。
引き寄せて抱きとめると少し抵抗された。
「だめよ、お母さんも司ちゃんもいるのよ…
一昨日のことは間違いってことにして…ね?」
「酒の上での過ち、ですか」
「お願い…そういうことにして…」
だがキスして胸を揉んでやった。ひどいな私。
抵抗しているので今日のところは我慢しておこう。
「今度外で会えませんか?」
先生は、だめ、とかなんか呟いてるが、益々ヤりたくなってしまう。
くぅー可愛い!くそう!
「じゃないと今ここでしますよ?」
脅してみちゃおう。
真っ赤になってる。うん、楽しい。
ついに諦めたようだ。
解放してあげたら顔を赤らめたまま戻られた。
さて、今度はいつあるのだろうなぁ…。

5時半。目が覚めた。良い天気だ。
二度寝を楽しもう。ごろごろ。
7時、朝飯の匂いに耐え切れない(笑)
身支度して台所の先生たちに挨拶をした。
もうそろそろ起こそうと思ってたと言われる。
朝食の後、司ちゃんと律君は大学へ行った。
茶の間で歓談していると八重子先生が男着物を持ってきた。
これに着替えろということだ。
少し長いが、絹先生がうまく着せ付けてくれた。
「似合うわねぇ」
だから男物が似合うといわれても(笑)
「ああ、そうだ。諸津さんとこの展覧会、今日までだろ。
あんたら行ってきたらどうだい?」
「良いですが、この格好だと絹先生が男と二人で歩いてるとか言う
うわさになりませんか?」
「そうかねえ?堂々としてれば噂になんかなんないだろ」
私は別に噂になっても困らないけどな。
「行きましょ、山沢さん」
昨日は外で会おうと言ったら嫌がってたのに展覧会は良いのか。
ちなみに諸津というのはこのあたりでは有名な呉服屋だ。
無理に売りつけたりしないから安心して良いものを見せてもらえる。
9時半、絹先生の支度も整ったので二人で家を出た。
バス停通りを通って会場へ向かう。
平日の昼に外を歩くのは久しぶりだ。良い女が横にいるから尚更嬉しい。
会場についた。
さすがに着物姿の女性が多い。
見たことのある顔も何人か。数名はお茶関係だな、多分。

色々と良いものが出てきて、絹先生の手荷物を預かった。
肩から掛けるのを見ていると、似合う色柄だなあって思うものや、
反物だと良いのに当ててみると今一つのものがある。
意見を求められたが私の好みでは、先ほどの大島が良いと思うといった。
納得した顔をされている。
ということは先生もあれが良かったのか。
価格を聞いて交渉する。
先生は言い値で買うつもりだったようだが、このマルキでこの値は、と
担当に交渉した。手織りじゃないし。
先生はすでに別のエリアに行ってしまったことだし。
折角男に見えるんだ。強気で行こう。
うまくいって、この着物に合う正絹・国産の帯揚・帯締を3種つけてもらう。
先生はといえばすでに決まったので後は楽しむモードのようだ。
打掛を見てうっとりされている。
「こういうもの、着たいですか?」
「やぁねぇ、今更よぉ」
お昼を過ぎ、そろそろ出て食事をどこかでという話になる。
そういや前食ってうまかったとこのホテルがこの辺だ。
昨日の飯のお礼におごるということで連れて行った。
和食のランチだ。ここはランチでも懐石を出せる。もちろん懐石を頼んだ。
好きな女と美味しい飯。
気分はすっかりデートだ。八重子先生お墨付きの堂々デート。
もうこのまま部屋を取ってしまいたい気分だ。
ま、さすがにこの状況でやると噂が怖い。
何もない実績を積み重ねれば、簡単に外で会えるかもしれないしな。
さすがにお茶の先生だ、食べ方が美しい。私も見習わねば。
食事も終わり、先生が化粧直しに立たれている間に清算を済ます。
二人で2万いかないからランチは気軽だ。
そういえば今日は普段されてない口紅してて綺麗だったなー。
お茶のとき口紅されないもんなー。
カップについた口紅拭う動作すら綺麗だと思った。
マナー的にはNGだけど、癖で拭ってしまうのはわかる。
私もやってしまうことがある。
まぁ、拭うのは男性に対して云々という裏の意味をご存知ではあるまい。
戻ってこられたので席を立つ。レストランを出て、
「帰りますか?それとも部屋、取りましょうか」
というとバッグで殴られた(笑)

帰り道、普段の薄化粧も素敵だけどしっかり化粧をしている先生も綺麗だ、
と褒めると照れていた。寝化粧はするのかな。
お宅に着くと大先生はお客様の様子、早速のご注進が来ている模様。
「絹さんが男とホテルに…」とか聞こえる(笑)
絹先生と顔を見合わせて笑う。部屋をとらなくて良かった。
部屋の外からそっと声を掛ける。
「八重子先生、ただいま戻りました。」
「ああ、おかえり、どうだった?」
「いやぁさすがに諸津さんですね、すごく良かったです。」
お客様にも軽く挨拶したところ、目を白黒されている。
そりゃホテルに連れ込んだ男本人が八重子先生と話しているんだから。
「絹は?」
絹先生は普段着に着替えに行ってしまっている。
お客様はそそくさと帰ってしまった。ああ、誤解を解いてないのにまだ。
打掛けが素敵でしたよ、などと話していたら絹先生戻って来た。早いな。
「ところでホテルって?」
「ああ、お昼の時間だったんでランチを食べに入ったんですよ、
前に行ってうまかったんで。八重子先生も今度一緒に行きますか?」
「おいしかったわよ。山沢さんにおごってもらったのよ」
デートだし。
「そうそう、今度京都で1日講習会があるんだけどね
日程がうちのお稽古日にぶつかるから絹しか行けないけど
あそこは一人だと不安になるからあんたらで行ってこないかい?
山沢さんもそろそろいいだろ?」
いつだか伺うと、うん、仕事には影響はない。しかも連休だ。
「ほかの方はどうなんですか?」
「みんな家庭があるからね、泊りがけは難しいよ。」
絹先生は微妙な顔をしている。多分泊りがけに引っかかってる。
日程をメモる振りして懐紙に"前日にHなことはしません"と書いて見せた。
それで決まったようだ。
書いただけかもしれないのにやはり素直な人だ。
「定宿はありますか?ないなら手配します。」
例のホテルを取れたら良いな。会場までちょっとあるけどタクシー使えば問題ない。
タブレットからささっと調べると空きがあるので手配を掛ける。
夕食はつけてもらおう。食べに出るのは面倒だろう。
朝御飯は…
「講習会は何時からでしょう?」
ゆったり食ってたら間に合わないとか可能性もある。
どうやら朝食は時間が無理そうだ。
初日夕・当日無・出立日朝で手配をかけた。
実はその部屋は茶室付きの和室だ。
茶道具もセッティングされているので気になっていた。
講習の後、実践するにも良い環境だろう。
連休だが、まったく予約が入ってないところを見るとあまり知られてないのだろうか。
「当日ですが宿から会場までのルート確認とかするのなら早めに行きますか?」
3時にチェックインなら昼前に乗れば十分につく。
昼は駅弁かな。新幹線や駅弁の手配なども引き受けた。
茶懐石のあの店のお弁当にしてやろう。駅弁じゃないけど。
あ。
「当日私も着物のほうが良いのでしょうか」
「そのほうが良いね。ああ、この間の着物でどうだい」
男着物で出席ですか、そうですか。家元臨席講習会なのに良いのか。
もういっそお茶は男着物で通してやろうかしらん。
後は待ち合わせ時間や場所など細々と決めて夕方になったので辞去した。

4回ほどお稽古日が過ぎ、いよいよ旅行日だ。
1時間ほど前に駅につき、手配していたお弁当や切符などを受け取る。
待ち合わせ場所に20分前に着き、眠気覚ましに缶コーヒーを飲む。
飲み終わったころ、絹先生が来た。やはり着物姿でお美しいな。
私は荷物の半分以上を宅配便で送っているので身軽だが先生は荷物が多い。
荷物を持って差し上げ、切符を渡し改札を抜け新幹線のホームへ行く。
まだ新幹線はきていないので指定席の乗降口まで行くことにした。
定刻に新幹線が到着した。乗車する。2席+2席、座席が広目のタイプだ。
先生を窓側にして私は通路側に。荷物は棚へ。
早速だがお弁当を広げることにした。
籠弁当は見た目にも美しいので先生も嬉しそうだ。
味は…やはり美味。京都の茶懐石の店の弁当だからハズレはない。
食後、少しく話しているうちに反応がなくなった。
眠くなってしまったようで、まあ一駅前くらいに起こせば良いか。
寝ている先生も写真にとってしまえ(笑)
寝顔を眺めているうちに米原駅に到着した。そろそろ起こそう。
せーんせー、そろそろですよー。
おきたおきた。荷物も下ろして降車の用意をする。
八条口に降り立ち、タクシーで宿へ行く。
チェックインの手続きをして案内された先は、茶室。
ちゃんと露地がある茶室(笑)
先生が驚いている。
茶室の8畳+水屋+6畳+小間だ。露天風呂も実はある。
荷物は届いていた。驚いたままの先生と荷物をなおし、
少し落ち着かれたので宿から会場までタクシーで移動してみることにした。
15分程度と予想しているが、そんなところで着くことがわかり、
余裕を持って30分前という話になった。
当日の朝食については先に宿と話してあり、朝6時半におにぎりを
差し入れてもらうことになっている。
宿に戻ってきて、明日やるだろうことの予習をする。
茶室があるので予習も簡単だ。
夕食の時間になり、食事を取る。部屋食だ。
聞いていた通り美味。少しだけお酒も頂いた。
その後更に予習。その間に机を片付けてもらい布団が敷かれる。
私は水屋の始末をし、先生にお風呂へ先に入っていただくことにした。
目の前で脱がれるというのは理性的になれないものがある。
だったら別の場所にいるほうが良い。
始末が終わり、茶室から外を眺めていると声がかかった。
湯上りの浴衣姿だ。
理性理性理性理性……風呂に入ろう。
風呂から上がると先生がノートをまた見ている。
勉強熱心だなあ。まじめだ。
でも今日はそろそろ寝たほうが良い。そういうと何か言いたそうにこちらを見る。
ん?と思ったら布団が1組だ(笑)
押入れを探るとちゃんともう1組あったので出した。
先生は明らかにホッとしている。
「寝ましょう?」
「そうね」
布団に入りしばらくすると寝息が聞こえてきた。
寝息が聞こえると安心するんだよな。よし寝よう。

翌朝5時半。起床。
二人とも朝が早いのは慣れている。
小一時間で身づくろいを済ませているとおにぎりの差し入れがあった。
いただいて、落ち着かせ気合を入れる。
さて出陣だ。
私は紋付きの男着物に袴、先生は紋付鮫小紋。
タクシーに乗り、角一つ前で乗り捨てて会場に行く。
講習会はほぼ茶名持ち~準教授の錚々たるメンバーだ。
場違い感はあるが、仕方あるまい。
家元からのお言葉、実技講習、セッションなど濃い時間が過ぎる。
食事休憩以外お茶尽くしで12時間、疲れきって戻ってきた。
紋服を脱ぐのを手伝った。先生は長襦袢のまま布団に倒れこんでいる。
私は先生の着物を衣桁に掛け、自分の着物を片付けた。
確かに疲れはしたが私にはプレッシャーがない。
茶名すら持たない以上知らなくても仕方がないとして扱われるからだ。
先生は違う。セッションは大変そうだった。
しかしまた布団が一組しか敷かれてないよ…。
しばらくすると宿の人が来た。
どうやら台風が来ていて明日の交通がどうなるかわからないらしい。
もし交通がストップなら、この部屋に明日も泊まれるとのことだ。
もちろん金はかかるが、駅でいつ動くかわからないことを思えばマシだ。
キャンセルでもキャンセル料はつかないというので宿泊のお願いをしておくことにした。
部屋に戻ると先生が起きていて、長襦袢を脱いでいる。
私がいるのに構う気力もないようだ。
風呂は明日朝にするという。
浴衣に着替えている間にもう1組を敷く。
見ないようにしないとやっぱり疲れててもやばい、とっとと寝ちまおう。

空けて翌朝4時半。
外は雨風がきつい。
テレビを見ると新幹線運休の情報が出ている。
先生がどうしよう、という。ああ、昨日の話してなかった。
今日一晩泊まれることを話す。
明日になったら台風はどっか行ってるでしょう。
安心されたか、朝風呂に入られる。
私はまだ時間が早いのもあり、布団にもぐっている。
朝っぱらからなんだが風呂覗きたい…
出てきたら、襲うか。
浴衣を軽くまとい、先生が出てきた。
後ろから抱きしめる。
「えっ…山沢さん…Hなことはしないって…言ってたのに…」
前日にはしないと書いた。
寝巻きの浴衣なので簡単に胸も裾もくつろげられる。
荒々しく抱き、欲望のまま楽しんだ。
終わった後、折角お風呂入ったのにと詰られた。
二人で入りましょ、と持ちかける。
朝御飯にはまだ時間がある、もう一度入れる。
寝が足りなければ昼寝すれば良い。
一緒に入り、やわやわと先生の肌を泡でなでる。
感じているようだが二回戦する時間はない。
すすいで自分の汗も流して風呂から出た。
布団を軽くなおし、サッと身支度をして朝食のレストランへ向かう。
朝食も美味しかった。
部屋へ戻るとすでに布団はしまわれて机が出ている。
上座に先生を座らせた。
宿の人がきて、茶菓子を出してお茶を入れてくれた。
お昼ごはんについて、この天気では食べに出られないだろうから
簡単なものならできるとのこと。
外を見ると豪雨の様相を呈している。
頼むことにした。
先生のお宅に連絡して今日は帰れそうにないことを告げる。
フと見ると少し眠そうだ。
「ちょっと寝ますか?疲れてるんでしょう」
先生は恨めしげにこちらを見る。

机を端によけて布団を敷くと、あなたは?と聞かれる。
私はもともと5時間半寝れば何とかなるタイプだ。
気づいたら横で寝てるかもしれないが今は眠気は降りてこない。
そういって先生を寝かせた。
寝顔も可愛いなあ。
……落ち着こう。
テレビをつけ、音量を絞り台風情報を見る。
今晩遅くまでは無理そうだ。
今夜も抱けるかな…。
いやいやいや、そういう意図で旅行に来たわけじゃないんだから落ち着けよ自分。
昼前になったら下火を熾して昨日のおさらいをしよう。
雑念消えろ!
お稽古したいが私では炭をつげないからなあ。
寝言が。ぃゃって聞こえる。
茶室に移ろう…。
座禅でも…無理だな、妄念の塊だ。
タブレットでなんぞ読むか。あ、会社にも帰れない旨メールしよう。
昼前になって先生が起きてきた。常着に着替えている。
先生の身づくろいの間に下火を熾すことにする。
熾きたところでお昼ご飯を食べに行く。
有りものでしている割にはしっかりしたご飯だった。

午後、先生に炭を次いでもらってお稽古をする。
昨日のおさらい。
雨音が強い中、みっちりと4時間ほどやった。
稽古中は妄想も浮かばん。
水屋の始末をする頃、腹が減った。そろそろメシか。
宿の人が晩御飯を持ってきた。
始末を終えて部屋に戻り、酒を頼んだ。
英勲の大鷹があった。これは少し辛口でうまい。
それでも先生には甘口のようだ。これだから関東人は…。
食事も終わり、お酒だけ置いていってもらう。
布団も敷かれている。一つしか敷いていないのに先生は何も言わない。
…いいのか。それとも俺が敷くから良いのか。
ザッピングしているとドラマっぽいものがあった。
それを見ていると、和服の女性が縄目を受けているシーンが。
ああいうの、したいんですよねぇと呟くと不思議そうだ。
「どうして?」
「逃げたいのに逃げられなくて、良いでしょう?
今朝みたいな腕力でするのも良いんですが、縄のほうが逃げれなさがあって良いですよ」
そっち目的とは思っていなかったようだ。顔を赤くされている。
「ああ、縄は持ってきてないんでご安心を。
それに連休初日ならまだしも今日縛ったら明日帰ったあとも縄の跡残りますよ」
先生は残るタイプと踏んでいる。八重子先生にばれるじゃないか。
ほっとした顔だ。
酒を注ぎ、飲ませる。
「そろそろ脱いで…」
「えっ!?」
あ、言い間違えた。
「もとい、寝巻きに着替えてください」
つい本心が出ちまったじゃないか。
先生は頬を染めて、見られてたら脱げないという。
可愛いなぁうん。そういう恥じらいって大事だよね。
「脱がしてあげましょうか?」
なーんてからかいながら茶室へ移動してあげた。
衣擦れの音がして、しばらく待つと入って良いと声がかかった。
寝巻きの浴衣姿になっている横に座って酒を注ぐ。
「布団、一組でいいんですか」
を、一気に赤くなった。
「だって…したいんでしょう…?」
わかってるじゃないか。
ってか結構酔っ払ってるな、これは。
そっと手を差し入れ、胸を触る。
「もう少し飲みますか?」
こくりとうなづいた。もうちょっと酒の助けが必要か。
胸を揉んだまま何度かついで飲ませた後、口移しに飲ませてみた。
そろそろいい頃合だろう。
寝巻きの帯を解くと湯文字をつけていなかった。
先ほど一緒に脱いだようだ。
恥ずかしがっているのが大変に良い。
まだまだ女ざかり、きれいな体だ。
いつか縛ってみたいなぁ。
どこまで受け入れられるだろう。
声も抑えて、快感を我慢する姿は美しい。
離れなんだから大声出しても良いのに。
良いスポットもわかってきたが責めると腰が逃げる。
どうやらいろいろと未開発だなぁ。勿体無い。
先生もぐったりしてきたことだしここらでやめておくか。
やわらかく抱きしめて寝かしつける。
しばらくして荒い息が寝息に変わった。
ちょっとシャワー浴びてこよう。汗かいた。
風呂で一発抜いて自分も治まったので寝巻きを着て先生の横で寝た。

翌朝6時半。
外は良い天気だ、台風一過、だな。
先生が風呂に入っている間に関東方面の状況を確認する。
新幹線も動いてるようだ。
帰りの切符の手続きをする。早朝から昼までは混雑している。
1時半ごろ乗車の切符が取れた。
ここのチェックアウトは11時半、2時間ほど、どう時間をつぶすべきか。
茶道具の展覧会か何かあったかな。
ちょうど国立で良いものがあるようだ。このへんでいいか。
先生が風呂から出たので聞いてみる。展示内容から行きたくなったようだ。
帰りの格好はワイシャツにスラックスのつもりだったが、
先生が羽織に着流しが良いという。確かに先生の格好と釣り合いが取れる。
身づくろいをし朝食を取る。
戻ってきて荷物をまとめ、あらかた宅配便に任せることにした。
常着を脱ぎ、着替える。その脱いだものも荷物に入れる。
これで手荷物のみだ。
地元の人くらいに身軽である。
先生はゆっくり観覧したいというので早めにチェックアウトすることにした。
タクシーを呼んでもらい、チェックアウトの手続きをし、カードで支払う。
支払いも終わった頃タクシーが来た。
国立へやってもらう。
台風の後の国立はさすがに人が少ない。
しかしさすがに良い展示物。
講習会に来ていた人にも再会した。同じく帰宅困難で連泊したそうだ。
観覧を楽しみ、向かいのハイアットでランチをとった。
そろそろ駅へ行かねばならない。
タクシーで八条口まで行く。ちょうど1時だ。
チケットの発券を受けて改札を通る。
ロビー階で土産を買い、ホームに上がった。
自由席はすごい人のようだ。私たちは指定席なので割と空いていた。
東京へ行くまでに満席になるのだろうけれど。
ちゃんと二人席が取れていて、やはり先生を窓側へ。
和服だとやっぱりそれなりに注目されるね。
どう見えているのだろうか。夫婦?コスプレ?
先生は乗車直後から寝てしまった。昨日やりすぎたかな。
寝顔を眺めたり、車窓を眺めたりしているうちに一駅手前だ。
先生を起こして降車する。
行きは駅で待ち合わせたが帰りは先生のお宅までご一緒する。
八重子先生に報告だ。
最寄り駅まで乗り継いでいく。
駅からタクシーを使った。快晴で暑いが京都よりはましだな。
「ただいまぁ」
「お邪魔します」
中は涼しいなークーラー入れてないのに。
「おかえり。台風大丈夫だったかい?」
「ええ。」
あれ、今日稽古日じゃなかったか?
先生は着替えてくるわ、と部屋に行ってしまった。
「幸い講習日は宿に戻るまで持ちましたし、その後は中でしたし。
キャンセルが出て部屋もそのまま泊まれました。」
「そりゃよかったねえ、こっちは今日は台風の後始末があるからって
 人が多くてね、お稽古はお休みにしたんだよ」
絹先生が戻ってきた。相変わらず着替えるの早い。
講習会の様子を話したり、今日行った国立の展示物について話したり。
泊まった部屋が茶室だって言うのに八重子先生が驚いている。
さすが京都、というが結構その辺にもあるんだな、これが。
私は東海で温泉探してるときに見つけてスゲーって思ったのが最初だ。
「山沢さん、実技で男点前教えてもらってたのよぉ。男装するならって」
「折衷案といいますか、蓋は袱紗でもほかは男のやり方でと。」
「じゃあ次からのお稽古は男の点前を教えようか。両方覚えると良いよ」
両方かぁ、覚えられるかな…。
そうこうしているうちに夕方だ。辞去することにした。

翌々日。
お稽古に伺った。
今日から男の点前もするのだが、紫の袱紗と大きい懐紙もいるかと聞いたら
着物を着てるときは必要だけど今はいらないとのこと。
いつもの袱紗で男の点前でお稽古していただく。
お稽古の後、八重子先生からお呼び出し。
バレたような感じはない。なんじゃらほい。
小間に行くとこないだの人だ。絹先生と男がホテルに行ったと注進しに来た人。
どうやら旅行帰りのときも見たらしい。
そういやぁ手を握ってしまってた気もしなくもない。
「悪いけどシャツ脱いでくれないかい?」
はいはい、信じてくれないってやつですね。
ひょいひょいとワイシャツを脱ぎ、インナーのシャツを脱ぎ、さらしをはずす。
「と、いうわけで、なんなら下も脱ぎましょうか?」
納得してもらえたらしい、下は脱がなくて良さそうだ。
何でそんなややこしいとかぶつくさ聞こえる。
「私は女性の服装が苦手なので男性の格好をしているのです。
まあ、結婚式なんかだと色無地も着ますよ。男着物は一種の洒落ですね」
帯結びも楽だし。
多分この人スピーカーだろうなあ。
「有名ホテルのランチってあまりハズレがないんで結構利用するんですよね。
 それに気分が悪くなっても部屋取れたりできるんで具合が悪いままに
 無理して帰宅しなくて良いので使い勝手が良くて。」
よしこれでどうだ。
「そういうこと、あるのかい?」
「昔はよく疝気やら貧血で気分悪くなってたんでそういう使い方してましたよ。
 今もたまに疝気はありますけどね」
これで"ご休憩"くらいの申し訳が立つかな。
新しいネタ獲ったどー!みたいな顔してるぜ、スピーカー。
ところでいい加減服着て良いだろうか。
「お母さん、ちょっと…あら。」
だあぁ、絹先生に乳見られたじゃないかっ。
八重子先生に来客とのことだ。
じゃあこのへんで、とかなんとかいってスピーカー帰ってっちゃったよ。
その間にササッとさらし巻いてシャツを着た。
「意外と大きいのね」
しっかり見られていた。
「ははは…私もそろそろ帰りますね…」
先生は、ふふって笑っている。

それから何回か稽古日が過ぎていった。
男の点前と女の点前がごっちゃになりそうだが、なんとかついていっている。
どうせなので男の単衣を何枚か作ろう。
八重子先生に相談したら、自分で着る分くらいは縫えるようになると良いと言われた。
お稽古のない水曜日に教えてくださるというので通うことにした。
売り物のような手の込んだことは教えられないけど、と。
まずは単衣から。
水曜が会社休みのときはお茶のお稽古の後泊り込むことが出てきた。
お茶の稽古に男着物を着て行くことも増え、
絹先生が男を引っ張りこんでいるなんて野暮な噂は消えたようだ。
あの旅行の後、二人になったときにキスくらいはするが手を出していない。
そんなとき、八重子先生がチケットをくれた。
熱海で開催される茶道具展だ。絹先生といって来いという。
一泊でも二泊でも良い、と。
ゆっくり見るんなら二泊だろうという話になった。
ちょうど暇な時期、会社も休みを取れるはずだ。
一応会社に確認したがかまわないと言われた。有休は売るほど残っている。
宿は熱海だし温泉宿だよな、やっぱり。
ここはやはり部屋露天のある離れだろう。たしかあそこ…。
ササッと調べると平日ということもあり空室、ラッキー。
稽古の後そのまま行けば良い。
絹先生が買い物から戻ってきたので告げると、身を堅くしている。
可愛いなぁちくしょう。
「楽しみですね」
と微笑んだところ、ぺちっと叩かれた。
「展示物が、ですよ」
頬を染めて、知らない、と庭に行ってしまった。
しかし八重子先生はどういうつもりなのだろう。
絹先生と年の近い気の合う弟子扱いなのか、はたまた知ってて知らぬ振りか。
前者のつもりで気をつけないとな。

旅行当日。
稽古終了直後、荷物を持って移動を開始した。
ついたらすぐ食事の予定だ。
せわしく乗車したが、熱海は乗ってしまえばたいした距離ではない。
温泉か。久しぶりだ。
宿に着いた。部屋はちゃんと離れになっていて、これならば、と思う。
和室と、寝室、露天、シャワーブースがあるのがいいね。
荷物を置いてそのままとりあえず食事。お酒も少々。
最近はどこも食事処が別だな。
熱海は海が近いから魚がうまい。
二人とも満腹になった。
デザートを持ってきた時に部屋へ酒を頼んでおく。
旦那さんも着物というのは珍しいですね、と言われた。
先生はオホホと笑ってごまかしている。
ここで旦那じゃないというと不倫旅行になるからな。
部屋へ戻る途次、絹さん、と呼んでみた。
「…なぁに?」
「私のこと宿の人が来るときだけ下の名前か、あなたって呼びますか?」
「そうねぇ、そのほうが良いかしら。じゃあ…久さん?」
なんか、いいなあ。
先生も何か照れくさそうだ。
部屋へ戻って荷物を広げていると酒が届いた。
若竹ってのを選んだのだが…瓶には"おんな泣かせ"って書いてある。
くっそ、こんなところで(笑)
「どうしたの?」
笑いすぎた。
荷物を片付け明日の用意をし、浴衣に着替えて酒の用意をする。
それと、手拭と縄を寝室に。
瓶を見て、先生がこっちを見ている。
「わざとじゃないですよ?たまたまです。泣かせたいですけどね」
もうすでにそれなりに顔が赤い。
「この間から、ずっとまたあなたを抱きたいと思っていたんですよ。
 こんな機会でもないとできませんからねぇ」
あ、先生、グラス一気に飲んじゃった。
新たについであげたが更に一気に。よっぽど恥ずかしいらしい。
「そんな飲み方はいけませんよ。ほら、これで」
とグイノミを手にとらせ酒を注いだ。
照れてるのも可愛いなぁ。
そっと胸を触るとすでに反応している。随分慣れてきたか。
声を我慢しているようだ。
「我慢しなくて良いんですよ?そのために離れを選んだんですから。
それに夫婦者と思われてるんです、聞こえたって良いじゃないですか」
首を振って身もだえする。
あれ?もしかして声を出すことになれていないのか?親と同居だもんなぁ。
しばらく弄りながら飲む。
そろそろいいか。
寝室につれて行くと見せかけ、柱に固定する。
手首など着物から見えるところは手拭を巻いてから軽く縄をかけた。
「何をするの…?」
先生は震えているが目は潤んでいる。
触れてみるといつもより濡れている。ゆっくり楽しむように触ってから、
足は閉じれないように固定する。
腰をきっちり固定して、逃げられないようにした。
良いところに触れるたび、声が漏れる。
今回は前回探したスポットを重点的に責める。
腰が逃げる余裕がないから、強制的に揚げてやることができる。
普段は出ないような声が出だした。もう少しだ。
叫び声が出て痙攣しはじめた。いつもより強くいけたようだ。
縄を解き、布団におろす。息が荒い。
落ち着くのを待って更に責める。
いったん堰を切ったからか声が出ている。
何度もいかせ、もうそろそろ無理そうなのでやめることにした。
私も腕が攣りそうだ。
先生がうとうとしはじめたので腕を取る。
跡が残りそうなところをクリームでマッサージしてから、寝た。

翌朝。6時半。
先に起きたので風呂に入り、和室でくつろいでいると先生が起きた。
「おはようございます。もう少し寝てても良いんじゃないですか?」
「んん、おはよう…あ…」
寝起きのキスいただき♪
「もぅ…お風呂はいってくるから」
その前に一戦…というのは断られてしまった(笑)
一緒に露天風呂に入って、先生の腕や足を確認する。
そう縄の跡は残ってないようだ。
昨日の痴態が気に入らないらしく、縄はいやよといわれた。
まぁ昨日のは腰が逃げないようにしたかっただけだしね。
一回堰を切ったからにはなくても何とかなるさ。
でもいつか自分から縛ってとか言わせて見たくはある(笑)
風呂から出て身づくろいをして朝食を頂きに行く。
朝は軽め。洋食の朝御飯だ。
部屋に戻って展覧会へ行く支度をする。
茶人らしく装う先生と、絽の長羽織に絽の長着の私。
つろくするかな?
二人連れ立って観覧に行った。
館内にはいろいろな茶道具が展示されている。
面白いな、と思ったのは玳玻釉だ。
曜変よりは好きだ。というか曜変も油滴もキモい。
そう先生に言ったら近くにいたおじいさんが滅茶笑ってた。
「あなたにはまだ使わせてなかったものねえ。でも禾目はどう?」
「ああ、あれは綺麗です。清水焼のですよね」
あ、じいさん驚いた顔しとる。
「昔、油滴のマグカップもらったんですけどもう使うに使えなくて(笑)」
「じゃ今度のお稽古は油滴ね。台天目して曜変で貴人しましょ」
うわぁ薮蛇った…。
がっくりしたまま色々見ていると、仁清の茶壷もあった。
これが有名な、偽者がそこらに山のように売られてる「仁清」の壷かぁ…。
昼を過ぎたので近くで食事を取ることにした。
午後からは起雲閣を回ると良いといわれていた。
敷地3000坪・建物1000坪とか。
ここから車で10分程度らしいというのでタクシーで移動する。
中を見学。すごく広い。
目の覚めるような群青色の和室。色彩センスが…。
和風建築のみかと思っていたが洋館がある。
天井は何かどこかで見たような・・・あ。歌舞練場の天井だ。
格子天井だな。なんというか和洋折衷。
一部、七条新地を思い出してしまった。すいませんごめんなさい。
しかし建築の手の込みようはすばらしい。
色々と建物を経巡り、庭を歩く。
喫茶室で一服。お抹茶をいただく。
洋風の重厚な喫茶室で、抹茶のミスマッチが楽しい。
先生はロシアンティ。なぜだ。
私はクッキーを、先生は和菓子を頼んでいたのだがやはり逆におかれていた(笑)
「普通は洋菓子と抹茶で頼まないですよねー」
「ほんとあなた和菓子苦手なんだから困るわぁ」
はは、お稽古のとき干菓子しか回せないですしね…。
ここから宿へは地図を見るまで気づかなかったのだがすぐそこだ。
時間はまだあるのでどうしようかと聞くと、海岸へ行ってみたいという。
ムーンテラスとかサンビーチとか書いてある。

なるほど親水公園か。
…恋人の聖地、だと?先生それわかってるのか?
いやきっとわかってないな。
手形スルーして海見てるしなっ。
近くによると砂浜で遊ぶ恋人達の多さよ。
そっと手を取り、降りますか?と聞く。
「この格好じゃ…無理ねぇ」
常着じゃないもんなあー今日は。
「若い人は良いわよねぇ」
「なにがです?」
「もう水着なんて着られないわよ、この年になると」
そっちか!
「イマドキはラッシュガードってもんがありましてですね…
下はパレオ巻くとかすれば良いじゃないですか。それとも日焼けが気になる?」
「ラッシュガード?」
「サーファーなんかが着てるシャツみたいなもんです
 パーカータイプもありますよ。長袖が多いです。
 紫外線と怪我防止に着るものですけどね。
 だけどあなたのビキニ姿も見てみたいな」
「やだもぅ」
照れておられる。かわいい。
「キスしたくなった」
「駄目よ」
ふふって笑っている。くっ、余裕だなっ。
夜は見てろよ…。
そろそろ戻ろうかということになって、宿への道を歩む。
「宿、ついたら大浴場行ってみてはどうです?」
露天風呂もあるし、広いお風呂は気持ち良いと思うんだ。
「そうねえ、あなたも入るんでしょ?」
「入りませんよ。この格好で夫婦者装ってるのに女湯はまずいでしょう」
めっちゃウケてる。
それに一緒に風呂に入るのは何かとしたくなって困るというのはある。
部屋に戻り、先生は着物を脱ぎ浴衣に着替え大浴場へ、私はここの風呂。
汗かいたなあ。しかも結構歩いた。
下帯と胸押さえに使っているさらしもざっと洗って干しておいた。すぐ乾くだろ。
浴衣を羽織ってぼんやりしていると先生が戻ってきた。
湯上り美人。見るたびに綺麗だなあと思ってしまう。
洗い髪を櫛巻きにしている。
髪を乾かしたら常着に着替えて晩飯だな。
その後はもちろん…ニヤリ。

食事処に行く。
今日は料理を量より質に変更してもらった。
地魚うまいなあ。こりゃコチか。夫婦仲良く釣れる魚だな。
ムーンテラスといい、コチといい、なんかついてるなぁ。
今日の酒は初亀の純米吟醸を一合ずつ。
部屋にはまだ昨日の酒があるので注文はしない。
飯も酒もうまかった。
部屋に戻って昨日の酒を出す。
今日はグイノミだけ。あまり酔わさずに食ってやろ。
横に座り、先生のグイノミにつぐと、くいっとあけられた。
もうひとつ勧め、口をつけられた時点で先生の胸をなぶりはじめた。
「あっ…だ、だめ…」
「酔わないとできないって言うんでしょう?」
大胆になりにくいよね。でも今日はほぼ素面で大胆になってもらうんだよ。
じゃないと日帰りでできないしね。
頬染めてすんごく我慢してる。それなのに漏れる声が可愛い。
大事に、丁寧に快感を追う。
昨日責めたところや、新たに見つけたポイント。
我慢が崩壊して、声が出てきた。よしよし、良い感じだ。
腰が動いてる。エロいな。次の機会があればディルドぶち込んでやろう。
いった後、一瞬現実に帰るらしくすごく恥ずかしそうだ。
素面の時にある、この抵抗感もすばらしい。
今日は疲れて寝ちゃうところまではやらない。
素面で現実に帰った後の会話を楽しみたいが…。
を、戻ってきた戻ってきた。
軽くキスをする。
「ひどいわ…」
なじられた。
「でも声、結構出てましたよ」
「ばか」
「戻ったらしばらくできませんね…もっとあなたを抱きたいのに」
恥ずかしがってるが、体は逃げてないからな。
もっと開発していつかはおねだりされてみたい(野望)
「展覧会…」
「そうですね、展覧会、もっと調べて行きましょうか。2泊3日くらいで」
「そ、そんなつもりでいったんじゃないのよ」
おー焦ってる焦ってる。
「ふふ、日帰りでも沢山行けば泊りがけも行きやすくなりますね」
恥ずかしがっているが、どんどん連れ出そうと思ってる。
「そのうち日帰りでしましょうね」
「そんなの、ばれちゃうわ…」
「バレたら八重子先生にどつかれるかな…でも私はあなたが好きだから」
どつかれても嫌われてなければ忍んででも逢いに行くさ。
不倫、か…。
「本当は、独り占めしたいんですよ?このままどこかに攫って行きたい」
「だめ…」
「わかってますよ、あなたには家族がある」
その後しばらく話しているうちに眠くなったようだ。
「そろそろ寝ます?寝不足で帰るわけに行かないでしょう?」
「そうねえ、寝ましょうか」

続きはこちら

拍手[0回]