忍者ブログ
百鬼夜行抄 二次創作

let

伶(蝸牛):絹の父・八重子の夫 覚:絹の兄・長男 斐:絹の姉・長女 洸:絹の兄・次男 環:絹の姉・次女 開:絹の兄・三男 律:絹の子 司:覚の子 晶:斐の子

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

h22

もう朝だ! 仕事だ…。
幸い今日は天気がよく、暖かい。
帰ったら布団を干したい。
仕事をしているとメールの着信音。
手が開いたときに見ると先生からで、昨日のちょっと痛いらしい。
気になるようなら病院行ってください、一人じゃちょっとと言うのなら一緒に行きます。
そう返事をして様子を見る。
9時半頃、メールが来た。一緒に行きたいと。
俺の行ってる病院が良いと言うことだ。
やっぱり自分のいく病院にそういう理由でいくのは気恥ずかしいのか。
俺の家に一旦寄って待っているとのことで仕事をさっさと片付けて特急で帰宅した。
「ただいま、どうですか具合。着替えるから待ってくださいね」
「おかえりなさい。うーん、ちょっと痛いのよ…」
「出血とかありませんか?」
「それはないんだけど」
手を洗ってさっと着替えて一緒に病院へ。
「どうします?カルテ残したくなければそのように出来ますが」
「えっそんなのできるの?」
「ええ、まぁ。そんなに通わなくてもいいとかなら」
「そうしてほしいわ、だってほら通知来るでしょ、保険証の。どこにかかったとか」
「ああ、来ます来ます。八重子先生に見られても問題はないでしょうけど」
「他の人はねぇ」
「ま、更年期でって人もいますけどね、早いと俺くらいの年からですし」
「でもねぇ」
「っとここです。便宜上…飯田春子でもしますか」
「なんでもいいわ」
受付に伝え問診票を貰う。
手が止まった。
痛みの場所とかは書けたがどうしてかが書けなかったようだ。
取り上げて書き込む。
受付に渡して暫くして呼ばれた。
一緒に入って問診を受けるのを横で。
「で、心当たりのところね。これ、んー」
頬を染めている。
「遊ばんで下さいよ。素人さんなんですよ、勘弁してくださいや」
「すまんすまん、じゃ内診しようか」
「ついでにがん検診もしといてください」
「勿論だ。こんなものは一度で済ますに限る」
手馴れた様子でさっさと終えて、ちょっとした打ち身のようなものと説明された。
「がんは問題ないね、検査には出しておくけど今見たところはね。だけど…」
乳がんの検診もそろそろ受けるように、と言う。
「うちは機械がないからね、かかりつけにマンモが有るならそこで受けると良い」
ふむふむ。
俺に上半身脱げという。
ぽいと脱ぐと乳がんの触診はこんな感じでやるから、と先生に見せる。
「ま、こんなカンジね。よし、どうせだからお前もマンモ受けとけ」
「あれ痛いって聞くから…やだなぁ」
「手術のほうが痛い。それに男が受けるのに比べればましらしいぞ」
ごそごそと服を着て先に会計へ。
支払いを終えしばらくしてから先生が出てきた。
少し恥ずかしげなのはどうしたことだ。
聞けば俺にへんなことをされてないか聞かれたらしい。
あ、DVね。
望まぬセックスとか。
医者には出来る相談ってのはあるもんなぁ。
部屋に戻って色々話していると、お尻を舐められるのが困る、と言ったとのこと。
うーん…。
次回の検査のときに何言われるか。
苦笑しつつ貰った抗炎剤を渡す。
痛むようだったら、とのこと。
「そういえばお昼食べました?」
「ううん、まだよ」
「じゃなんか食いにいきましょう。何か食いたいものあります?」
「……天麩羅たべたいわ」
「ああ、家だと揚げ物面倒ですもんね」
「油の匂いも凄いでしょ」
「ああ、そうか、結構匂うか。じゃ行きましょう行きましょう」
電話で席があいてるか確認して着替え、二人連れ立つ。
天麩羅久しぶりかも。
ほんの少しお酒を頼んでキスやあなご、メゴチ、エビ。
他色々、野菜も色々。結構しっかり食べて満腹に。
「あぁおいしかった!」
「うまかったですねー」
「でも胃もたれしないのよね」
「良い油使ってるんでしょうね。さてと、送りますよ」
「いいわよ、お昼間だしあなた明日もお仕事でしょ」
「あ、そうだ、思い出した。水曜日仕事あるんですよ、だから明日は帰りますから」
「あらそうなの? わかったわ」
なでなで、と俺の頭をなでてくる。
「なでるの、癖ですか?」
「つい撫でちゃうのよね、なんでかしらね」
「俺を下に扱いたい心の顕れ?」
「そうかも?」
「はいはい、いいですよ。夜以外は」
ぽっと頬を染めている。可愛い。
駅についてお見送り。
ばいばい、と車窓から手を振る先生。
さて。帰って寝るか。
帰宅してちょっとあれこれ家事をして、睡眠。
夕方腹が減って目覚める。
散歩がてらコンビニへ行き、帰って食べてまた寝る。
早朝出勤して仕事。
今日は暇そうだなぁ。
仕事中にメールを打つ。
春だから鯛を持っていこう。
あったかいなぁ。
途中で上着を一枚脱いで仕事する。
少し波が高いから入荷は少ないけれどどうせ火曜日だ。
そんなに買われないから良い。
ゆったりと仕事が終って帰宅する。
風呂に入り着替えて。さぁ稽古に行こうか。
電車に乗ってると先生からお電話。
見学者がくるの忘れて生菓子が足りない?
はいはい、と数を聞き途中下車して和菓子屋へ。
立ち寄った所は上生菓子が6種類。
足りないのは5個。
全種1個ずつお願いし、更にその他の菓子をいくつか買った。
ゆったり時間がある中到着して先生に菓子を渡す。
「あら、こんなに沢山?」
「孝弘さん、こういうのもお好きでしょ?」
「そうなのよねぇ」
水屋に入って支度をしよう。
あ。そうだ。
「先生、今日の見学の方はどうされます?」
「ああ別に用意は要らないわよ、椅子だけ出しといてくれるー?」
「ラジャー」
人数分椅子を出して置いた。
しばらくして生徒さんたち到着。
…たち?
「今日は花月よ。折据出して」
しまった、忘れてた。
俺を特訓するの先生も忘れてたよねっ。
まずは八畳平花月、とのことで。
正客と亭主を折据で決める。
折り紙の箱みたいなものの中に表側同じ模様で裏に数字札と月・花の札がある。
一番最初に月を引けば正客で花を引けば亭主だ。
ランダムに決まるため、引いた瞬間ゲッと思ったりもする。
やはり花を引いた人がげんなりした顔をした。
お菓子をいただいてからスタート。
先生にお願いします、と言ってからお正客がお先に、と席入りする。
そのまま続いて皆さん席入り。
八畳の席入りはまだいい。スムーズだ。
さて亭主はまずは迎えつけの挨拶で総礼。
客は全員袱紗をつける。
と言うのもこの後飲む人点てる人はまたもくじ引きだから。
4畳半の中へ移動したら亭主が折据を正客の前に。
一膝斜めに向いてから水屋へ戻り茶碗を持ち点前座へ。
茶碗を勝手側に1手で割付け棗を棚から下ろして茶碗を3手で置き合せる。
水屋に戻って建水を持ち出し踏み込み畳に置いて仮座へ。
正客から折据の中の札を取り伏せて置き、折据を回していく。
亭主も取ったら折据をおいて皆で開く。
花が名乗り、全員が札を折据に入れて返してゆくが、花は数字札と変えて戻し、
数字札を持って点前をしにゆく。
「今回は繰り上げなしで」
と声がかかり、空いた所に亭主が移動する。
茶杓を取れば折据を回し、お茶が点ち次第札を取る。
月・花・松!と札通りに言うが松は今点前した人が言うことになっている。
札を戻して月がお茶を飲み、茶碗を返したら移動。
花が点てに行き、さっき点ててた人が戻って空いた所に座る。
それを3服。
最後は斜めにして折据を回し、末客は茶碗が置かれる場所より下座に置く。
茶碗が出たら札を取り今度は月だけ名乗り取りに出る。
お点前して居る人は客の方を向き折据に札をしまって同じ場所に返す。
末客は折据を取りに行き、札を返してゆく。
お茶碗が帰ってきたら総礼してお点前して居る人は道具の片付け。
お客は元々いた場所に戻る。
その間に棚に柄杓と蓋置と棗を飾り、建水を持ってバックで戻り、
最初に建水を置いた位置に座って置く。
そして四畳半の元いた席へ戻り、亭主が建水を片付け、茶碗を下げる。
正客は折据を持って亭主の取るべき場所に置く。
亭主は水次を持ち出して置いたら客の方を向いて総礼をして折据を回収。
水指に水を足して水次を持って帰ると同時に全員席を立って八畳へ下がる。
亭主が戻ってきて斜めに座ったら総礼。
亭主が帰ったら皆で福佐を外して懐へ入れ、扇子を前に置いて次の人にお先に、と。
挨拶して順々に帰っていく。
皆で水屋で挨拶するところまでが花月である。
9割がた先生の指導が絶え間なく入る。
100回やっても何か良くわからないのがこれである。
なんでやるかって?
今どういう状況でなにをすべきか、というのがすぐにわかるようになるための稽古だ。
なれてきたらゲームではある。
飲む人が3回連続で当たったりする。
急に当たってお点前なんてのも良い鍛錬だとか。
俺は平花月は何とかなるけれどもっと上のほうになるとよくわからないものもある。
3回繰り返してなんとなく、という顔を皆さんしておられる。
最後の一回は見学の方が居られて、凄い凄いーなんて声が上がっていた。
一回目見せてたらダメだったかもしれない。
お稽古を終えて生徒さん方が帰られ、八重子先生と見学の方がお話されている。
今回は先生がお夕飯か。
水屋を片付けて台所の様子を伺う。
「あら終った?」
「はい、八重子先生はまだ話しておられますよ」
「あ、今日泊まらないのよね、ご飯どうするの。もう出来てるから食べて帰ったら?」
「いいんですか? じゃお相伴させていただきます」
「嬉しそうねえ」
「やー帰って作る気にはなれませんものですから」
お台所で一人分を分けてもらいそのまま食べる。
うまいなー。
「食卓で食べたらいいのに…」
「お客様いらっしゃるのではちょっと落ち着きませんし」
「おかわりあるわよ」
ほんの少しだけ貰って食べる。
「うーん帰りたくないなぁ」
「お仕事なんでしょ? だめよ」
先生は俺の頭をわしゃわしゃと混ぜて髪型を崩す。
「なにするんですか、もー」
ぺろりと食べ終えて洗い物を。
「いいわよ、置いといて。皆が食べたときに洗うから」
「すいません」
「じゃ気をつけて帰るのよ」
「はい、ではあさって…も花月ですか」
「そうよ、復習しておきなさいね」
「わかりました」
じゃ、と別れて帰宅して、そして寝ることにした。
花月は疲れる。
おやすみなさい。
翌朝出勤ってやっぱり水曜だなぁ。
お客さんが来ないし売れないし、本当に今日なんて休みにした方がいいね。
いつもなら先生といちゃいちゃ出来るのにな。
もっと忙しけりゃ仕方ない、と思うんだけれどこればっかりは。
稼がなきゃ会うこともできないからな。
仕事が終って、さぁ今日はどうしようか。
と、帰ったら先生が部屋にいた。
「…えーと、ただいま? なんでおられるんですか」
「おかえりなさい。さっきお友達と東京駅でお茶してきたのよ。
 ここまで出たついでだから、だめよ、お掃除ちゃんとしないと」
「う、一応先週掃除機はかけたんですが」
「戸棚の上とか拭いてないでしょ。あとお布団干しちゃったから後で取り込みなさいよ」
「はい。ありがとうございます」
「で。お昼は食べたの? まだなら何か作るわよ」
「あーまだです。何か食いに行きますか」
「ダメよ、お野菜食べないんだから。一緒にお買い物行きましょ」
「んー、いやメシ食いに行ってそのままホテルであなたを食べるほうが」
先生の拳骨が。
「せんせ、せめてパーでお願いします…痛いですってば」
そのままぐりぐりとこめかみを押されて諦めて買物に出ることにした。
「着替えるからちょっと待ってて下さい」
「あら、そのままでいいわよ。すぐそこでしょ」
「あーですがこの格好であなたと並ぶのは。匂い移りもしますし。すぐですから」
ささっとその辺にあったカーゴパンツとシャツを着て、パーカーを取る。
「そういう格好初めて見るわね」
「あなたに逢うときはいつもそれなりの格好してますからね」
お買物に一緒に出て、菜っ葉ものをメインに色々と先生が買う。
何を作る気だろう。
お肉は少し。
帰宅して手を洗って先生は割烹着をつける。
「お野菜洗って頂戴」
先生はフライパンを用意してごま油を落とし、どうやら野菜炒めを作るようだ。
同時進行で大根葉のお味噌汁。
人参葉の胡麻和え。
小松菜の煮浸し。
作ったものの半分は冷蔵庫へ。
「これはお夕飯に食べてね」
ご飯は買物前に先生が仕込んでいたので丁度炊けた。
いただきます。
あ、少し塩強めにしてくれてる。
たっぷりの野菜。少しの肉。
うまいなぁ。
「作るの面倒って思わないんですか?」
「思うときもあるわよー、でもおいしそうに食べてくれるから」
「あー孝弘さん、ほんとうまそうに食べますよね」
「あなたもね。ご飯粒ついてるわよ」
っと手を伸ばして唇の横についてるのを取られて、それを食べられてしまった。
そのしぐさにちょっとドキッとして。
「このまま泊まっていきませんか」
「明日も朝からお稽古よ。それに…明日うちに泊まるでしょ?」
「でもあなたのおうちではそんなに強いことは出来ないから」
「なにするつもりなのよ…」
にっこりと笑ってると怖がられた。なんでだ。
「ご飯食べたら帰るから。だめよ」
「仕方ないなぁ」
食べ終わって、ちょっとお腹が落ち着くまで抱っこして。
抱っこくらいさせろ、とごねたわけだけど。
懐に居るとやはり先生も少しはドキドキするらしくて肌がほんのり紅潮している。
それでも流石の精神力。
「もういいでしょ、帰るわ」
そういって帰っていってしまった。
残念。
やれなかった気持ちを落ち着けるためにと縫い物をする。
ちょっと疲れてきた頃、仕舞って布団を取り入れお昼寝を。
夜、目がさめて作り置きしてもらった野菜類で晩飯を済ませて寝なおした。
翌朝仕事をしてるとメール。
今朝からの雨で梅が散ってないか心配、と言う。
散ってたら散ってたでどこか食事でもしましょう、と返した。
一応休み前ってことでそれなりに荷物は動く。
仕事を終えて飯を食って帰宅。
ざっとシャワーを浴びて先生のお宅へ。
挨拶をして水屋へ。
湿度が高いなぁ、やっぱり。
玄関先の雑巾とタオルを取り替える。
「こんにちは、山沢さん。遅れたかしら」
「ああ、小野さん、こんにちは。まだ余裕ですよ。タオルどうぞ」
「ありがとう、酷い雨ねぇ」
雨ゴートを軽くはたいてハンガーに。
10分ほどの間に残りの4人が来た。
やった、俺抜きだ。
時間になり先生が来て先日の花月の復習。
水屋に篭っていたら引っ張り出された。くそう。
亭主を引いてしまった。
がっくりしつつ亭主を務める。
なんとか間違いもなく花月が終わった。
抜けて水屋にまた避難。
「次回のお稽古日は濃茶付をしますからね」
うーん、濃茶付は難しいんだよなぁ。
「じゃ今日はここまでにしましょう」
「ありがとうございました」
玄関先で皆さん雨ゴートをまとって足元をカバーし、雨の中帰って行かれる。
ん、台所からいい匂い。
「山沢さん、あなたこっちきて」
茶室に呼ばれた。
「二人だけど今から濃茶付花月するわよ。用意しなさい。あなた亭主ね」
うっ、と半歩引いたら睨まれた。
渋々座って挨拶をする。
月と花のみの札の折据を使って濃茶付の稽古。
札を引く意味はなく交互に花と月を繰り返して仕舞い花を先生がして、
そこから終るところまでを俺がした。
何度か叱られて。
「ダメよ、こんなので間違ってちゃ。あなた教える立場にこれからなるんだから」
「すいません」
「最低この二つは教えられるくらいちゃんと覚えなさい」
「はい」
人の気配。八重子先生が部屋に来ていた。
「絹も中々覚えれなかったものねえ、花月は。私だって且座なんかは悩むね」
「することが多くて。勉強会でお稽古するけど私もたまにわからなくなるわよ」
「基本だからね、八畳は。まずはこれちゃんとできるようにね」
「中々覚えられないです」
「花月百遍朧月ってね、5年10年かけてやっと身につくからね」
「聞香は茶碗と逆に回すくらいしか記憶にないです…且座は」
「あんまりやらないからねぇ、あんたが来る日は」
「今度上級の日に来なさい、混ぜてあげるわよ」
「い、いや他の方にご迷惑ですからっ」
「あら、他の生徒さんだって最初はそんなものよ」
「そうだね、来週の月曜、来なさい」
「うぅ…わかりました」
「見学だけにしてあげるから」
「あ、それなら」
ほっとして参加表明する。
「さてと、ご飯の支度、続きしてくるよ。山沢さんは水屋片付けとくれ」
「はい」
「絹は台所に来てくれるかねぇ」
「はいはい」
手早く水屋を片付けて茶室も片付けた。
「山沢さーん、そろそろご飯よー」
よし、こんなものかな。
今日は何だろう。
きっと美味しいものだろう。
食卓に着く。
生姜焼きと八宝菜、お味噌汁、ごはん。
付け合せはきのこのバター炒めか。
お味噌汁は大根だ。
きぬさやも入っている。
おいしいなぁ。
先生は俺の食べてるのをみてニコニコしている、が。あの笑い方は…。
「…先生何に何を入れました?」
「うふふ、わからないならそのまま食べちゃいなさいよ」
いいけどね、うまいし。
綺麗さっぱりすべて食べ終わる。
今日の隠してあるものは八宝菜にナスが入ってたらしい。
律君が首を捻る。
「紫色のものないよ?」
「皮剥いて入れたのよ。見えなきゃわかりにくいでしょ」
なるほどなぁ。
孝弘さんが食べ終わって台所へ食器を返し、洗い物を。
片付けて居ると先生が後ろに立つ。
「どうしたんですか?」
「さっきはごめんなさいね」
「なにがです?」
「お稽古。厳しくしちゃったから」
「普段がこうだから厳しくなるんでしょう。馴れ合っちゃいけない、と思って」
「わかってくれるの?」
そっと先生の手が背に触れる。
温かみを感じる。
「それくらいはわかってます。それに…。
 内弟子が花月で怒られてちゃ様になりませんもんね」
「そうよ、そうなのよ。だからつい」
洗い物が終って手を拭いて居間に戻る。先生も横に。
…お酒、持ってきてた。
「飲むでしょ?」
先生が八重子先生に、その瓶を引き取って俺が先生に注いでそのまま俺のぐい飲みにも。
一口いただく。
う、辛口かこれ。
「お酒、どうしたんです? これ300mlじゃないですか」
いつもこの家にあるのは一升瓶だ。
去年沢山買ったやつとか、料理用とか。
「昨日帰り道の酒屋さんでね、フェアしてたのよ。美味しかったから買っちゃったの」
「先生が飲むくらいならこっちのほうが味がへたれないんでいいんでしょうね」
先生の杯が空いたので注ぐ。
八重子先生も美味しそうに飲んでいる。
うん、やっぱり二人とも辛口がすきなんだよな、俺に比べりゃ。
「あぁ、おいしいわ」
「あんた飲まないのかい?」
「…取ってきていいですか、別の酒」
「あら、口に合わなかった?」
「辛くて。むせそうです」
律君が通りすがりに笑ってる。
しょうがないじゃないか。
台所から割りと甘口の酒をコップに注いで戻る。
「あら、コップ酒? 飲みすぎないでよ」
ゆっくり飲んでると八重子先生があくび。
「先に休ませてもらうよ」
そういってお部屋へ。
それじゃ俺らも呑み終わったら寝ようか、と話す。
ゆっくり飲みながらニュースを見る。
「あら、首都高で火事?怖いわねぇ…」
ゴツい火事だな、大丈夫だったのかな、あの辺の奴ら。
律君が顔を出して戸締りはしたから、と言う。
「そう、ありがと。おやすみなさい」
「おやすみ」
律君が部屋に戻るのを見て少し俺にもたれてきた。
「後二口ほどですね、飲んで寝ますか」
「そうね」
くいくいっとあけてしまわれて、先に洗顔してくるという。
火の始末をして俺も部屋へ入れば先生が着替えている。
化粧を落としてトイレも済ませたようだ。
俺も寝巻きに着替え、布団を敷いた。
上に座ればするり、と身を寄せてくる。
ふふ、可愛いな。
いい気分のまま抱いて寝入って朝が来る。
起き抜けにキスされて朝からしたくなって困らせ、一戦交わして起床する。
先生が朝風呂に入って俺が朝御飯の支度。
八重子先生も起きてきた。
「おはよう。絹は?」
「お風呂です、昨日入り損ねたからって」
「今日どうするんだい? 天候は回復したけど」
「散っちゃってませんかねえ…」
「あそこは期間長いから大丈夫だよ」
「じゃ行きましょう」
「それじゃお弁当の下拵えもするかね」
「はい、なに入れる予定ですか?」
「御節と似たようなもんだけどね、春らしくしようね」
ちらし寿司の稲荷とか桜でんぷで彩を添えていくようだ。
先生がお風呂から上がってきて、律君も起きてきた。
「おばあちゃん、ご飯できた?」
「はいはい、もうちょっとだよ。お父さん起こしといで」
下拵えをしてから朝御飯。
うん、おいしい。
「律、今日はどこ行くの?」
「晶ちゃんとフィールドワーク。三連休だから泊りがけ」
あ、そうか世間は三連休か。
「そう、私達は梅を見に行くからお昼間はいないから」
「結局行くんだ?」
「お天気よくなってるからね」
「お弁当作らなきゃね」
「もう下拵えはしてあるよ」
「あれ、お父さんも連れてくの?」
「どうして? 皆で行ったほうが楽しいじゃない」
食器を下げて洗い物をしたらお弁当の準備。
変な気分だ、食後に飯の支度。
雨が降ったらいけないから絹物はやめとこう、なんて話をされてる。
シルック小紋にしようと仰る。
「おばーちゃん、おかーさん、行ってくるから」
「ハイハイ、気をつけなさいよ」
「いってらっしゃい」
お弁当を作って、着替える。
さあ俺たちも行こうか。
現地へついてルートどおりに進む。
「綺麗ねえ」
「いいですねえ」
「あらこれまだつぼみだわ」
「遅咲きなんでしょうか」
「はらへった」
ハイ、とお饅頭を渡す。
ゆっくり観覧してそろそろお昼に、とござを敷いてお弁当を囲む。
自分も作ったとはいえ、やっぱり美味しい。
孝弘さんも美味しく食べてるので先生も嬉しげだ。
八重子先生がでんぷでピンクに色付けしたおにぎりをくれた。
甘い、うまい。
少しだけお酒もいただいてお重を空にする。
ゆったりと腹ごなしに歩いて残りの梅を観覧。
暖かくて雨も降らないうちに帰れた。
一度帰宅して先生とお買物に出る。
「明日もあなた来るんでしょ、お夕飯何が良いかしらね」
「あ、俺すき焼き食べたいです!」
「すき焼き?」
「鍋にしてもすき焼きにしても一人だとわびしいんでやらないんですよね」
「そうねぇ、そうかもしれないわね。でも律いないときにしたら恨まれるかしら」
「うーん、またしたらいいじゃないですか、居るときにも」
「じゃ明日、すき焼きにしましょ」
「それで今日は何作るんですか」
「今日はねぇ、なにしよう」
野菜の前で悩んでいる。
「あら先生、お夕飯の買物ですか?」
「吉崎さん。そうなのよ~何にしようかと思って」
「山沢さんもお買物?」
「先生の荷物もちで。その代わりお相伴させていただいてます」
「白菜なんか重いでしょ、助かるのよ」
「カサ高いものとかも一人じゃ大変ですしね」
「仲が良くてうらやましいですわ」
ホホホ、オホホと先生たちは会話をしている。
俺は青梗菜が食べたくなっていつ言い出そうかと思って悩む。
吉崎さんがそれでは、と言って肉屋の方へ行った。
「先生、俺、青梗菜の炒め物が食べたい」
「んー、そうねぇ。お肉が良い? 揚げが良い?」
「勿論肉です」
クスクス笑ってわかったわ、と仰って青梗菜を。
「後は何にしようかしら」
「治部煮」
「はいはい、決まりね」
お買物をして帰宅。
「お帰り、なに買って来たの?」
「治部煮と青梗菜の炒め物にするわ」
「あらそう、じゃ支度しようかね」
そしてご飯拵えにかかる。
八重子先生に指示を受けてかぶを適当に切り、椎茸等投入する。
青梗菜とホウレン草を洗って切った。
ホウレン草は湯がいておき、治部煮の皿に投入すべく置いておく。
青梗菜は先生の手により肉と炒めてあんかけに。
「あ。あんかけにしちゃった…」
「あんたばかだねぇ、治部煮をあんかけにしようと思ってたのに」
新たに片栗粉を八重子先生が溶いてるその横で伏見甘長をじゃこと炒めて。
丁度ご飯が炊けた頃全部が出来上がる。
食卓について食べ始めた。
「山沢さん、そんなに野菜嫌いじゃないわよねぇ。なのにどうして食べないの?」
「一人分、色々作るのが苦手なだけですよ」
「そうかねえ?」
「だってホウレン草1把で3食持ちますよ? 他の野菜も食べたいとかになると」
「あ、同じ食材暫く食べることになるのね」
孝弘さんが甘長のじゃこ炒めに手をつけない。
それは青唐辛子の辛くない奴、と言うと手をつけた。
「前に辛いの食べちゃって躊躇するようになっちゃったのよ」
「ししとうですか」
この間俺も当たったよな。
それでも好きなんだよなーじゃこ炒め。
うーん、全部美味しかった、満足満腹!
お夕飯の後お茶をいただいて。
「明日お仕事なかったらこのまま泊まりなさいって言うんだけどねぇ」
「ありますからねー…」
げんなりする
「でも市場の方がお仕事してくれるから私達は新鮮なもの食べれるのよね、仕方ないわ」
「ま、そう思わなきゃやってられませんね」
ふー、っと息をついて気合を入れて帰る用意。
「明日も花月だから。休んじゃダメよ」
「はい」
「休んだりしたら且座の亭主させるわよー」
げっ酷い脅し方だな。
孝弘さんも八重子先生もいないので軽くキスしてやった。
「そんな脅ししなくても…逢いたいから来ますよ」
一気に顔が赤くなった、可愛い、たまらん。
「じゃ、また明日」
「ばか、もうっ。また明日ね」
くすくす笑いながら別れて帰宅する。
すぐに寝ることにした。
朝起きて、また仕事か、と思う。
でもまぁ今日は。先生に逢いにいけるし。
忙しい思いをしつつも何とかこなしてると先生からメール。
いつもの肉屋が休みだからすき焼き食べたければ肉を買って来いとな?
了解していつも買ってる肉の量を聞き、自分の分も足して買って先生のお宅へ。
先にお勝手から入り冷蔵庫に入れて、居間へ。
「こんにちは。冷蔵庫に入れときましたんで、肉」
「あらありがと。今日も花月だけど人が足りないから。私も入るわよ」
「で、私が指導するからね」
「豪華ですね。今日の生徒さんはラッキーだ」
「用意してきて頂戴ね」
「はい」
茶室に行くと台子が出ている。
「先生、台子でされるんですか?」
「あ、仕舞っといて頂戴~、片付けるの忘れてただけよ」
「はーい」
「あ、ねぇねぇ山沢さん、勉強会一緒に行かない? 東貴人仙遊なんですって、次回」
「…絶対無理です」
「あら楽しいのにどうして?」
「短歌とか突発で詠めませんって。その上東が貴人なんて絶対無理」
「あら見学でもいいのよ、行きましょ、ね?」
「絶対に混ぜないと仰るならですよ! 混ざるのは無理ですから」
「うふふ、じゃ予約しておくから」
「っていつですか?」
「今度の火曜日のお昼からよ」
「ここのお稽古は?」
「お母さんが見てくれるわ」
「そうですか。場所はどちらで?」
「ええと、新宿のどこだったかしら。とりあえず駅で待ち合わせなのよ」
「新宿駅で待ち合わせというと。アルタ前?」
「そう、そこ」
八重子先生が戻ってきた。
「ああ、山沢さん来てたのかい」
「こんにちは、お邪魔してます」
「いま山沢さんに勉強会一緒にって言ってたのよ」
「濃茶付で大変なのに大丈夫かねえ」
「や、見学で」
「じゃないと無理だろ」
「だからお母さんお稽古お願いね」
「はいはい」
トイレを借りて、それから水屋に待機していると生徒さんが来始めた。
今日は3人しか集まらない。
やっぱり3連休だからね。
「八重子先生、絹先生、こんにちは」
と皆さんご挨拶。
「今日は他の方お休みだけど花月しますよ」
花月と聞いてみんな微妙な顔をする。
お菓子を運んで食べる。
「あれ、先生も?」
「そう、他の方お休みだから私も入るわよ」
「山沢さんは?」
「入りますよ」
食べ終わったのを見計らって折据をまわす。
月!花!一!二!三!と先生が次客、俺が四客。
八重子先生にお稽古お願いします、とご挨拶。
そして正客からお先にと挨拶を送って座に着く。
今回の亭主は中井さん。
迎えつけの挨拶。すんだら客は袱紗をつけ四畳半へ移動。
「今日は繰り上げするよ」
うっ、ややこしいな。
折据が正客に座った下西さんの前へ。
亭主が仮座に入ったので折据が回りだした。
さぁ初花は誰だ。
一斉に札を開ければ三客の堀田さん。
繰り上げて俺が三客の場所へ、四客の場所へ亭主が来る。
あとは普通に花月だ。
幸い私は何度かで平花月では怒られなくなっていたが、
後の3人は足がわからなくなったり、見とれて動きが遅くなったり。
優しく指導が入る。
俺以外にはすごく優しいよね…。
3回繰り返し、お稽古が終ってご挨拶。
生徒さん達が帰られてご飯の支度を。
「今日はすき焼きだからね、下拵え要らないから楽でいいよねぇ」
「お水屋よろしくね用意してくるから」
「はいっ」
すき焼き♪
にんまりして水屋を片付ける。
仕舞い終わったので食卓を片付けて拭く。
「できたわよ、これコンセント挿して頂戴」
IHのクッキングヒーターか。
1000Wか…ブレーカー大丈夫なのかな。
500Wに設定した上にすき焼きの鍋が載る。
「先生、一応お聞きしますがこの家のブレーカーはどこですか」
「大丈夫よ、この部屋は他よりかなり大きくしてもらったの」
「そうそう、前に何回か落ちちゃってね、それで変えてもらったんだよ」
「ならいいですけどメシ食ってる最中に落ちると大変ですから」
「なんだかんだこの部屋は結構電化製品あるからねえ」
はい、ごはん。と先生がお茶碗を渡してくれた。
「食べましょ」
先生も笑顔だ。
おにくおいしー。麩もよく味をすっている。
しいたけに人参、玉葱も入ってる。しらたきかな、これは。
春菊がうまい。
八重子先生はやっぱり肉少なめに野菜沢山食べている。
お豆腐♪
おいしーーく頂いて綺麗さっぱり。
「〆になにかいる?」
「いや、満腹です」
「お父さんだとこの後うどん入れるのよ」
「ああ、定番ですよね」
ご馳走様をして後片付けを手伝う。
「ご飯に卵とこの汁をかけて食べるのは好きですよ」
と言うと塩分取りすぎ、と背中をつねられた。
「イテテテ、ところで孝弘さんは?」
「律に呼ばれて開兄さんが送ってったのよ」
「あぁー…そうでしたか」
ヘルプだな、そして相変わらず電車に一人じゃ乗れないのな。
洗い物をしていると先生は俺の首を舐めてみたり胸をつついてみたりとじゃれてくる。
八重子先生に見られたら雷落ちるぞ。
「ダメですよ、俺がやったら怒るくせに」
「いいじゃない」
あれだな、律君も孝弘さんも居ないから気が緩んでるな。
「そんなことしてるとここで抱きますよ」
「いじわるねぇ」
きゅっと乳首に爪を立てられた。
地味に痛い。
片付け終わって居間に戻る。
温かいお茶を貰ってコタツで温まる。
ふー、と落ち着くと先生が俺の手を弄る。
それを八重子先生が見ていたようだ。
「さてと、私は寝るから。あんたらもさっさと寝なさいよ」
と席を立ってまだ早い時間なのに部屋へ帰っていかれた。
多分見てられないって奴だろう。
するっと先生が俺の懐に入ってくる。
うぅ、先生の匂い、体温。
「戸締り、しないと」
「あとでいいじゃない」
びくっとなった。先生の手が俺の股間に伸びている。
相変わらずぎこちなくて。
「ぐぅっ…」
そこに爪を立てるのはやめろ…。
「やっと声が出たわね」
「先生、それ、違う。メッチャ痛い…。痛めつけるの趣味ですか」
「あら?」
あいたたた、なんちゅうとこに爪を立てるんだ。
乳首ならまだしも。
「自分のそこ、同じ強さでやって御覧なさいよ。痛くてたまんないと思いますよ」
「そんなに痛かったの?」
「乳首噛まれたときくらいは痛かった」
「ふぅん…じゃ後で噛んであげるわ」
「勘弁してくださいよ…」
クスクス笑ってる。
「ほら、手を離して。部屋行きましょうよ」
カラカラカラ、と玄関の開く音に先生が慌てて飛びのいた。
「おーい、母さんいるかー?」
あの声は覚さんか。
先生をおいて玄関へ向かう。
「八重子先生ならお部屋ですよ、今晩は」
「ああ、こんばんは。もう寝てるのか」
「どうでしょうかねぇ」
そのまま覚さんが八重子先生の部屋に向かう。
居間に戻ると先生がコタツに入って頬を赤くしてる。
「あぁ驚いたわ~」
「こんなとこであんなことするからですよ。さてと」
「なぁに?」
「部屋に布団を敷いてきます。早いけど寝る用意しましょう」
「え、まだ兄さん居るからダメよ?」
「わかってますよ、用意だけ」
ついでに歯も磨いてこよう。
布団を敷いて寝間を整え、寝巻きに着替えて歯磨きし戻る。
居間では覚さんが先生と喋ってた。
先生がお茶を入れてくれる。
横に座ってコタツに足を入れる。温かい。
春とはいえ夜はまだ冷えるからなぁ。
会話を聞くのも楽しい。
先生の声をぼんやり聞いてるのがいい。
覚さんが煙草を吸ってるのを見て先生が一本頂戴、と言う。
「えっ吸うのか?」
「違うわよ、はい、どうぞ」
俺に渡してくれた。
「山沢さん煙草まだ買ってないでしょ?」
「良いんですか?」
「あ、ああ、どうぞ」
「じゃ失礼して」
と一服、久々の煙草がうまい。
しばらくして覚さんがそろそろ、と席を立った。
お見送りして戸締りをする、その玄関でキスした。
「だめよ…ほら、早く火の始末して部屋戻りましょ」
「さっき俺にあんなことした罰に…こういうところで抱かれる、とかどうですか」
「いや…勘弁して、ね、ほら、部屋…」
もう一度キスして引き寄せると先生は抵抗しつつあまり力が入ってない。
抱えあげて寝間へ。
「え?」
「火の始末してきます。今のうちに化粧も落としちゃっててくださいね」
「あ、うん」
お勝手へ行って火消壷とガスの元栓をチェック。
煙草の吸殻も湿してから始末する。
勝手口の鍵を確かめたら寝間へ。
寝巻きに着替えて化粧を落とした先生は…綺麗だ。
ちろり、と耳を舐めると少し声が出た。
「今日は声、出しちゃいますか?」
「いや、お母さんに聞こえちゃうのは」
「孝弘さんとしてたとき、声出してなかったのかな?」
「す、少しくらいは出てたかもしれないけど」
「だったら気にすることはない」
「いやよ…ゆるして、ね、いじめないで、お願い」
「可愛いな、本当に」
そのまま襲って声が出そうで出ない程度に抱いて。
疲れ果てた先生が眠りに落ちた。
可愛いなぁ。と撫でて。でもちょっとし足りなくって。
寝てるのに弄って起こしてしまって叱られた。
叱られてるのに手を動かしていたら反応してて。
「だめっていってるのに、もうっ…」
といいながら俺の腕を噛む。
「もう一度だけ、そうしたら終わりにするから」
最後は少し声が出てしまい、八重子先生に聞こえてないといいけど、と思う。
俺の気分も落ち着いて懐に抱いて寝かしつける。
荒い息が収まり、寝息。
おやすみなさい。
翌朝、中々起きない先生を置いて台所へ。
八重子先生が先に起きてきていて、昨日のことを揶揄された。
やっぱり聞こえてたようだ。
朝御飯はトーストとオレンジジュース、サラダにベーコンエッグ。
「珍しいですね」
「孝弘さんが居るとご飯炊かなきゃだけどね」
なるほどね、この家がパスタ・パン食じゃないのはそういうことか。
朝飯を食って一時間ほどして先生が起きてきた。
「あぁおなかすいた」
「はいはい」
台所に立ってトーストとベーコンエッグを用意する。
サラダとジュースは冷蔵庫から。
「旦那を尻に敷く妻、みたいだねえ」
先生がちょっとむせて、俺は笑ってしまった。
ゆったりとした休みの日を送り夕方、律君たちが帰ってきた。
「じゃ買物行って俺も帰るとしますかね」
「そう?食べて行ったら。お夕飯何にしようかしら」
「晶、何食べたい?」
「うーん、おばさんの肉じゃが好きだな。私」
「あんたは?」
「え、僕? 梅とシソがまいてある奴かな」
「中はささみが良い?お肉が良い?」
「私ささみがいいな」
「晶ちゃんがそれが良いなら僕もそれでいいよ」
「山沢さんは?」
「それでいいですがお野菜足りなくないですか?」
「そうねえ、胡麻和えでもしましょ」
お買物に二人で行って、戻って料理を手伝う。
「ゴマ当たってくれる?」
はいよ、と当たり鉢を取ってごりごりざりざりと。
お砂糖や醤油も入れて。
配膳して食べる。うまいなぁ。
ご馳走様をして食器を洗い、目を盗んで軽く先生にキス。
「さ、そろそろ失礼しますね」
居間へ戻って八重子先生にも挨拶をして、帰宅した。
さて明日は仕事か。
仕事はいいが帰って無人の家でただ寝るだけというのがつまらないじゃないか。
って着物縫わなきゃいけないな、途中にしていた。
あさってはお稽古はお稽古だが新宿か。
帰り、うちにつれて帰れるかな。
だったら明日は掃除もしよう。
布団へもぐり、そんなことを算段しつついつしか寝ていた。
翌朝仕事をこなして帰宅。
連休明けは暇だね。
さあ部屋の掃除と台所やトイレや風呂の掃除をしなければ。
昼を食べて汗だくになりつつ掃除を完了。
もう夕方か。
作業していると時間が経つのが早い。疲れた。
晩飯を買いに出てコンビニで真空の惣菜などを買い、帰宅。
ドアを開けると…先生がいた。
「お帰りなさい」
「……メシ食いました?」
「うぅん、まだよ」
「そうですか、じゃどこか行きましょうか」
「あのね、ここ行きたいの」
と冊子を見せられる。ステーキ特集?
「んー、いいですが予約とかしないと一杯のような気が」
「電話してくれる?」
「はいはい。第一候補はどこです?」
「ここ、赤坂のがいいわ」
電話を取って席があいてるか聞く。
OK、あいてた。
40分後、と予約を入れ電話を切る。
手を洗って着替えよう。
着替えつつ聞く。
「どうして急に?」
「明日、出稽古でしょ。こっちからが近いからいいかなって思ったのよ」
「それなら電話くださいよ。俺がメシ食っちゃってたらどうするんですか」
「あら、それなら何か買いに行って食べるわよ。その羽織よりこの羽織の方がいいわね」
「これのほうが合いますか。あなたは着替えなくても良さそうですね」
「明日着る物はそこに掛けてあるから。あなたはいつものお稽古のでいいわよ」
「はい、じゃトイレ行ったら行きましょうか」
「先に入るわ」
「鞄用意してきます」
玄関先に鞄を置いて先生と交代でトイレに。
「さてと。じゃ行きますか」
「うん」
先生から手を繋いできた。
タクシーに乗って赤坂へ移動。お店の前で降りた。
時計を見れば丁度かな。
入って予約した山沢、と告げると席に案内され、飲み物を聞かれる。
軽いものを選ばねば俺は明日仕事だし先生はお稽古だし。
お勧めのワインをハーフボトルにした。
先生が何を食べても美味しいというのが楽しい。
機嫌良いなぁ。
ご馳走様、と全部食べて幸せそうだ。
お会計をして出ると少し冷えてきている。
さっと羽織を着せると笑ってる。
「何度目かしら、ショールだけ持ってきちゃって寒くなるの」
「さぁ、3回目くらいですかね?」
車を拾って乗せ、家まで帰る。
「あぁおいしかった」
そう言って和室に入り着物を脱ぎ浴衣に着替える。
「あんたも着替えなさいよ」
はいはい。
「で、この後どうするんですか」
「んん? 寝るだけよ?」
「えっちは」
べしっと額を打たれた。
「明日お稽古よ」
「んじゃあ別に布団敷きます」
「どうして?」
「だって懐に居るのに抱けないのは切ない」
「そろそろ慣れて頂戴」
「無理。抱かせろー」
っと床に押し倒した。
「だめよー。あなたも明日お仕事でしょ。どいて頂戴よ」
ごろり、と先生を上にして転がる。
「しょうがないな。じゃ俺の腕から逃れられたら抱かないであげる」
「もうっ、そんなこと言って。あなたが本気出したらどうやっても逃げれないでしょ」
「あははは、確かにそうですね。逃がさないことは出来ますね」
「明日ならいいけど今日はダメよ」
「じゃ、キスして」
「しょうがないわねぇ」
深いキスをたっぷりとしてもらい、手を離す。
俺の胸に手をついて起きた。
「一緒の布団だと危ないから、お布団敷いて頂戴」
「はーい」
布団を敷いて枕を置く。
「お茶入れたけどいる?」
「あ、いただきます」
うーん、おいしい。
先に飲み終えた先生が俺の膝を枕にしてテレビを見ている。
30分ほど見ていまいち、と俺の股間を玩び始めた。
「明日仕事でしょとか断っといて人の、触るのかな?」
「あなたタフなんだからいいでしょ」
「それ以前の問題として触られても嬉しくないんですけどね」
「ふぅん」
そういってるのに触るのをやめない。
「そんなことしてると抱きますよ。それとも。お仕置きのほうがいいのかな」
あ、止まった。
「明日、立つのが辛いほどしちゃいましょうか?」
「…ずるいわ」
「ほら手を離して。シャワー浴びてきてくださいよ」
むくり、と起きて不機嫌そうに俺の手を引く。
「背中流して頂戴」
「はいはい、風呂行きましょ行きましょ」
苦笑して一緒に風呂場へ。
スポンジに泡を沢山作って背中をマッサージするかのように。
段々機嫌が良くなってきた。
そのまま泡を滑らせて胸もマッサージ。
「だめよ。前は自分で洗うから」
残念。
先生が洗い終えて濯ぐ。
髪はどうするかと聞けば明日朝洗うとのこと。
「先に出てるわよー」
と出られて俺はざっと頭も身体も洗う。短髪だからすぐ洗えてすぐ乾く。
浴衣を引っ掛けて居間へ行くと先生がプリン食べている。
「もらったわよ」
うーん、食われた。
いいけどさー。
「太りますよ?」
「やなこといわないでよ、折角美味しいのに」
「食べたら歯を磨いて寝ましょう。布団かベッドかどっちがいい?」
「どっちでもいいわ」
「じゃ客用布団でどうぞ、和室に敷いてありますから」
結局俺の胸にもたれて眠くなるまでテレビを見ていた。
あくびをして歯を磨きに立ち、それからおやすみなさい、と声を掛けられた。
「おやすみなさい」
俺も居間の電気を消して部屋に入り、ベッドへ。

拍手[0回]

PR

h21

翌朝出勤して、仕事をして終えて先生のお宅へ。
生徒さんのお稽古が終り次第、さっと用意される。
「じゃ山沢さん、律が帰るまでお留守番お願いね」
「はい、お気をつけて。楽しんできてください」
水屋を片付けて居間でくつろぐ。
しばらくして電話。
取ると律君。
『あれ?山沢さん? 母は?』
「お芝居行かれたよ」
『あ、そうか、今日だった…遅くなりそうなんですけど父の食事、何か聞いてます?』
「いや律君にまかせてあるからと。なんだったらピザか何かとろうか?」
『あー…お願いします』
「孝弘さん、ピザ何枚くらい食べるかな」
『えーと、3枚、いや4枚かな』
「わかった、5枚頼んでおくよ。私も食べるしね」
『お手数かけます』
どうせだからいろんな奴頼もう。
孝弘さんの部屋に顔を出して一応どれがいいか聞いてみた。
やっぱりどれでもいいらしい。
ピザをおかずにご飯とか言い出しそうだったがそれは大丈夫なようだ。
5枚注文して暫く待つ。
を、きたきた。
食卓に広げると匂いに釣られたか、孝弘さんも来た。
全種類から1カットずつ抜いて好きなようにどうぞ、と食べさせる。
しかし沢山食べるなぁ。
綺麗に食べ切ったようなので手拭きを出した。
ちゃんと手を拭いてから部屋に戻っていったところを見るに先生の躾の成果か。
箱を片付け、食卓を拭いて台所へ。
布巾を洗った。
さて。この静かな家で先生を待つのか。
多分9時半くらいに帰りの電車だろうし。
その頃には律君帰ってくるのかな。
先日途中にした繕い物をすることにして時間を潰す。
時計の音だけが聞こえる。
丁度の時に鳴る音に時折手を止めて。
まだこんな時間かと。
カラカラと玄関の音がする。
「ただいま」
律君か。
「おかえりなさい」
「すみません、遅くなっちゃって」
繕い物があと少しだからそれが終ったら帰ることにしよう。
ちくちくと縫う。
「ただいまぁ~あぁこれ、絹!」
あ、帰ってきた。っておい。
ふらふら~っと俺の前に来たと思ったら抱きついてキスしてきた。
「お母さん!?」
ああ、律君に見られたよどうしよう。
つーか痛い、針刺さった。
唇を離して肩に顔を埋めた、と思えば寝息。
「律君、ごめん、鞄とってくれる?」
鞄の中から10徳ナイフを出す。
ペンチにセットした。
「悪いけどこれで抜いてくれるかな、針」
手の甲貫通しちゃってるよ…。
律君がプルプルしながら抜いてくれた。
はい、と八重子先生が絆創膏を貼ってくれる。
「それで、これどういう状況ですか、酒臭いんですが」
「お芝居の帰りに食事に行ってそこでお茶頼んだらねぇ。
 店の人が間違って絹のグラスがウーロンハイだったみたいでねえ。知らずにぐーっと」
あー、泥酔ね泥酔。
「相変わらず酔っ払うとキスしてきますね」
「だからあんまり飲まないようにしてるのにねえ」
「こないだ開さんにしようとしてましたよ。面白かった」
「…お母さんキスする癖あったんだ?」
「結構キス魔だよ。寝ぼけてるときとか」
「山沢さん、あんた抱きつく癖あるだろ」
「あー、年末でしたっけ、八重子先生を布団に連れ込もうとしたらしいですね」
「絹に聞いたの?」
「いつだったか聞きました、凄く笑われましたよ」
「…僕に山沢さんを起こしに行かせないの、それでだったの?」
「前に環さんも引き寄せたことが…」
「ほんとあんたら二人は…律はそういう癖はないとは思うけど」
「うーん、そこまで飲んだことないから」
そんな話をしつつ先生の帯を解いて紐をほどき肌襦袢の紐まで全部抜く。
パジャマに着替えた八重子先生が絹先生の寝巻きを取ってきてくれた。
一気にまとめて全部脱がせ、寝巻きを着せる。
前をあわせるには…どうしよう。
背中にマジックベルトをあてがい、仰向けに寝かせて前をあわせてとめた。
これなら苦しくもないだろうしほどけないしいいかな?
「それでなんであんたここにいるんだい?」
「僕がさっき帰ってきたから。僕が帰るまでってお母さんが言ったんだって」
「で、これ縫い終えたら帰ろうと思ってたんですよね」
「もう泊まって行ったらいいよ」
八重子先生が絹先生の着物を片付けながらそう仰る。
甘えることにした。
片手で裁縫箱をしまい、繕い物を片付けた。
「律、あんた戸締り見てきてくれるかい、私ゃ火の始末見るから」
こっちを向いて、俺にはもう部屋に行って二人で寝とけと。
はいはい、と先生を担いで寝間に入る。
布団を敷いて寝かせた。
ったく気持ち良さそうに寝息を立てて。
吃驚したよ、本当に。
さて律君はあれで納得してくれたかなぁ。
トイレと歯磨きを済まし、寝巻きに着替えて布団にもぐりこむ。
先生がぬくくて気持ちいい。
もぞもぞと先生が動いた。
…俺の胸を触るの好きなのかな。寝てるとき割と触るよな。
ま、いいか。
おやすみなさい。
朝、起きてまだ先生は寝ている。
多分あれだけ酔ってたら起きてくるのは昼前かな?
台所に行って朝ごはんを作る。
八重子先生も起きてきて新聞を読んでいる。
お味噌汁が出来た頃律君も起きだしてきて孝弘さんを起こしに行った。
配膳をして、いただきます。
「お母さんは?」
「まだ寝てたよ。多分昼ごろには起きてくると思うけど」
「滅多に飲まないからねぇ」
「おかわり」
はいはい。
お櫃も空になってお片付け。
八重子先生も手伝ってくれて、手早く昼の下拵えもしておく。
居間に戻ってお茶をいただいた。
「頭いたーい…」
先生が起き出して来た。
「むかつきは?」
「それは大丈夫だけど…」
うー、と唸って私の横に座ってもたれてくる。
「あら?なんで山沢さん居るの? 泊まらないって言ってなかったかしら」
「昨日あの後律君のご帰宅が遅くなって、律君が帰ってきて30分くらいか、
 そのあたりで先生方が帰ってこられたんですよ。で、遅いからと」
「あー、そうだったのねー…」
「あんた山沢さんにキスしてそのまま寝ちゃったから大変だったんだよ。律の前で」
「ええっ?」
頭を押さえてうめきつつ。自分の声で頭が痛いとと言う奴だな。
「酔うとキスをするタイプと言うことにしておきましたけどね、焦りました」
「勢い良く抱きついたから山沢さんの手に針は刺さるし」
「ま、それはもうふさがりましたけどね」
「あらー…あいたたた、お母さん、痛み止め頂戴」
「はいはい、ちょっと待ってなさい」
暫くして戻ってきたが何も持ってない。
「切らしちゃってたよ」
「あ、じゃちょっと待っててください」
と先生の横から抜け出して部屋へ行き、鞄をあさって鎮痛剤を出す。
居間に戻ってハイ、と渡し飲ませた。
お白湯で薬を飲んだ後、お茶を飲んでいる。
意味ないよな、お白湯で飲む意味が。
「あんたなんでも持ってるんだねぇ…ペンチとか」
「胃腸薬・風邪薬・鎮痛剤・安定剤・ニトロ・気管支拡張剤くらいは持ち歩いてますよ」
「ニトロ?なんで?」
「むかし目の前で発作起こされて大変だったんでつい持ち歩くように…」
安定性の問題から定期的に更新してるけど。
まだなんか眠そうだな、先生。
いや薬が効いてきたのか?
「おなかすいた…」
八重子先生は呆れた顔をしてる。
お昼にはまだまだ時間が有るなぁ、かといってお櫃にご飯は残ってない。
「喫茶店、行きますか? それとも何か買ってきましょうか」
「着替えるの面倒よ…買ってきて」
「はいはい。何がいいですか?」
「ホットケーキ」
「…作ればいいんですね、わかりました」
冷蔵庫を見て卵と牛乳はあるか見る。
卵はあるけど牛乳がないな。
バターあったかな。
あるね。
じゃ買うものはホットケーキミックスと牛乳とシロップと。
外、寒いなあ。
と買物に行って、戻ってすぐに台所に入り、混ぜて混ぜて焼く。
「あ、いい匂いー。あれ、山沢さんが焼いてるの? おばさんは?」
「司さん。こんにちは。居間にいらっしゃいますよ」
「あ、そうなんだ。じゃぁ」
ん、焼けた。お皿に乗せて。バターとシロップ持って。
居間へ行こう。
「あれ、おばさん。珍しいですね、寝巻きのままって」
「あぁ司ちゃん…こんにちは」
先生の前にホットケーキを置いてシロップとバター、ナイフとフォークを置く。
「おいしそう」
先生が嬉しそうに食べている。
「おいしいわよー」
「山沢さん、まだあります?」
「ミックス? まだあるよ。卵もあったと思うけど」
「あんた作ってやってくれるかい?」
と八重子先生が言うので腰を上げて再度台所へ。
司ちゃんが着いてきた。
さっきと同じようにしてもう一度焼く。
出来たのを渡して洗い物。
台所から戻ると3枚焼いたのに先生は全部食べたようだ。
と思ったらお父さんに1枚食べられたという。
いつの間に。
「絹、あんたもうちょっと寝といで」
「うん、そうするわ」
「歯、磨いてからじゃないと虫歯なりますよ」
「あらそうね…昨日も磨いてないものね」
洗面所へ行って、それから寝間に行くのが見える。
「おばさん、具合でも悪いの?」
「二日酔いだよ」
「えぇー、珍しい。そんなになるまで飲むなんて」
「お茶だと思ったらお酒だったんでしたっけ?」
「あー、飲み会でウイスキーの水割りがウイスキーの焼酎割にされてたりするけど。
 そんな感じ?」
なにその濃いの。
「いやウーロン茶を頼んだらウーロンハイになってただけだよ。
 今の学生はそんなことしてるのかい? 危ないねえ」
うんうん、危険すぎる。
「あ、司ちゃん来てたんだ?」
「うん、これ晶ちゃんから律に渡しといてって頼まれてたんだけど」
「なんだろ」
ちら、と目をやる。
「……律君。それ円照寺向け案件だと思うな」
「…そうですね」
「司さんって本当、強いな」
「なんだい? それ。ただの箱だろ?」
「八重子先生、ご住職を呼んでいただけます?」
「持って歩かないほうがいいのかな」
「うん、司ちゃんか八重子先生なら大丈夫だと思うけど」
八重子先生が電話してくれて暫く。
住職が来た。
「うーむ、これは。また強烈な」
律君となにやら相談している。
今の内に先生の様子見てくるか。
寝間に入り、先生の寝顔を覗きこむ。
気持ち良さそうだな。
暫く見てたら目が覚めた。
「なぁにー?」
「んー、可愛いなって」
「ばかね。いま何時? お昼済んだ?」
「まだですよ、まだそんな時間経ってません」
「そう? ちょっとすっきりしたわ」
「あ、居間に行かれるんなら着替えて。円照寺さん来て貰ってるんで」
「あらどうして?」
「司ちゃん持込の物品がありまして、どうも律君に不向きみたいですよ」
ふーん、といって着替えだす。
「ちょっとここ押さえてて」
「はい」
帯を締めて鏡を見てちょいちょいっと整えて。
うん、綺麗だ。
後ろから抱きしめようとしたら叱られた。
折角きれいに着れたのにって。
じゃあ、とキスだけして一緒に居間へ行く。
「を、これはお邪魔しとります」
「律がお呼びしたようで…」
「いやいやこれはわしが持ち帰らねば律君にはちょっと」
「じゃお願いします」
「うむ。ではわしはこれで」
住職を見送って、さてお昼の支度をしようか。
下拵えはしてあるのでちょっと手を掛けてお昼ご飯になった。
孝弘さんを呼んできて皆で食べる。
流石に先生と司ちゃんは半分ほどだったけれど、その分は孝弘さんの胃袋におさまった。
いいよね、いつも何も残らないの。
洗い物を片付けて先生方とお茶をいただく。
なんてことのない日常。
日曜日の昼下がり。
「ああ、そうだ。明日のお稽古、山下さん以外お休みだから」
「えぇ?珍しいわねぇ」
「インフルエンザだってさ。だからあんた今から山沢さんと遊びに行ったらいいよ」
「あらそう? じゃどこ行こうかしら」
「うーん、根津は今は刀ですしねえ…畠山がまだ利休やってたような」
「三越は?」
タブレットを取ってきて検索。
「うーん…白金のほうでいいわ」
「ああ、じゃどこか山沢さんに食事つれてってもらって、山沢さんちに泊まっといで」
「それでいい?」
「あ、はい。んー食事、あの辺…懐石でいいですか?」
「うん、いいわよ。心当たりあるの?」
「一応ありますが現地行ってどれくらいかかるかで開始時間とか変わりますし…」
「断られたらどこでもいいわよ」
そんじゃまあ、着替えますか。
八重子先生が着物を選んでくれてそれを着た。
先生が着替えて出てくる。
あ、いいなぁ、美人さんだ。
どうせ司ちゃんを送るからと律君が駅まで車を出してくれた。
優しい息子さんだ。
そういうと先生はうふふ、と笑っている。
新宿まで出てタクシーに乗った。
電車だと乗換えが多くて面倒くさい。
20分ほどで着いた。
中に入ってざっと規模を確認し、受付に行って外で電話予約をする。
よし、予約確保。
中に入ると先生は掛け物を見てにこやかにしている。
綺麗だなぁ…。
先生のショールを預かり、バッグも邪魔そうなので預かる。
凄く嬉しそうに見ているのをみるともっと連れてこないとなぁと思う。
あ、お雛様。
時期は済んでるが会期の間出てるのか。
「ね、あなた飾った?」
「いや、うちはないんで…飾ってません」
「あらーじゃ来年はうちに来なさい」
「覚えてたらお邪魔します」
「お茶入れどこかしら」
「黒棗に濃茶じゃないですか? 棗が出てますし」
「あらほんとねぇ」
ゆっくりと展示を楽しんで、それから茶室を外から見て。
自分では気づかないようなところに先生は気づかれる。
茶人ならではの目の行き届き方だ。
その後、食事へ。
近くの懐石の店だ。
メニューはたった一つ。お酒は選べる。
すべて美味しくいただいた。
先生が嬉しそうで俺も嬉しい。
お店を出て、帰りましょ、といわれたが…。
ちょっと飲みに行きたいと誘ってみた。
タクシーを拾い恵比寿へ。
あのあたりならいくつか知ってる。
一応運ちゃんにお勧めを聞けばガーデンプレイスの店もいいとか。
前につけてもらって入った。
なるほどいいね。
ゆったりとお酒を頂き、楽しむ。
先生のは少し軽めのものを飲んでいる。
「ちょっと酔っちゃったわ。そろそろ帰りましょ」
俺が4杯目をあけた頃、そう仰った。
カードで会計を済ませてタクシーに乗り、帰宅する。
先生はタクシーの中で俺にずっともたれていてそういうところが可愛い、なんて。
家の中に入ると俺にしなだれかかってきた。
「脱がせて…」
はいはい。
綺麗さっぱり丸裸に剥いて、ベッドに放り込む。
布団をかけておいて着物を片付けた。
俺も寝巻きに着替えて。さてと、寝るかね。
先生の隣にもぐりこむ。
あったかい。
キスされた。
「ね、しないの?」
「今日はいいですよ、寝ましょ」
「だってもう一週間してないわ。大丈夫なの?」
「今日は別にそこまで飢えてないんですよね」
「…誰かとしたの?」
「今何想像しました?」
「ひどいことを他の人にしてきたのかしら」
「そんなことしてたらキスすらあなたとしてませんよ」
「じゃどうして?」
「というかしたいんですか?」
「…ばか、そんなこと言えると思ってるの?」
「いや、んー。したいんでしたらしますよ。したくないなら寝ますが」
手をつかまれて股間に持ってかれた。
「言えないの?」
こくり、とうなづく。可愛い。
「軽くがいい? 激しくがいい?」
「どっちでもいいわ…酷いのはいやだけど」
もう濡れ始めてる。いいねぇ。
「酷いの、ね」
ちょっとだけ突起を強く掴んだ。
「きゃっ」
そのまま扱く。
あっあっ、と制御できない声が出ている。
ひゅっと一瞬声が途切れ痙攣しだした。
まずは一回。
息がおさまるのを待つ。
「酷いの、だめって言ったのに…」
「おや、軽くしただけなんですけどね」
俺の頭に手。
押されて先生の乳首の辺りに唇が触れる。
「舐めてほしいの?」
これもうなづくだけ。
少し噛んでやった。
軽く悲鳴が心地よい。
「もっと優しくして、お願い…」
「わがままな人だな」
きゅっと股間の突起を軽く捻る。
「いやいやいや…」
ククッと笑ってゆっくりと優しく胸を愛撫する。
幸せそうな吐息に変わってきた。
どちらもいいね。
そのままゆっくりおへそを舐めたり、下の毛を触ったり。
それから、濡れそぼつそこを舐める。
気持ち良さそうで、いい。
俺の頭を掴みながら、喘いで。
中を指でかき回して楽しむ。
先生を楽しませて力尽きるところまでやりこんで、時計を見ればそろそろ俺は起床時間。
久々の完徹決定。
うつらうつらしてる先生を置いて洗面、着替え。
出勤だ。眠い!
入荷少な目、客普通。
仕事は早く終った。
さっさと帰宅して玄関を開ける。
あれ、静かだ。
トイレに行って手を洗い、寝巻きに着替えて寝室に入れば、やはりまだ寝てた。
そろり、と横に進入して抱っこして寝る。
幸せ。
先生の温かい滑らかな肌に触れて、深く眠りにつく。
つんつん、と頬をつつかれて目が覚めると美味しそうな匂い。
「お昼ご飯、食べる?」
ぽー…と先生に見とれてたら頭を撫でられた。
その手を取って引き寄せようとしたら鼻の頭にデコピンされて目が完全に覚めた。
「うー、ご飯ね、ご飯。食べます」
イテテテ。
ベッドから降りてトイレに行って食卓につく。
ご飯にお味噌汁、目玉焼きとベーコン。ほうれん草のおひたし。お漬物。
おいしそう。
「軽いものしか作れなかったけど」
「十分ですよ」
炊き立てご飯に作りたての味噌汁は幸せだ。
恋人が作ってくれたのは更に美味しい。
「何時ごろ起きたんです?」
「1時くらいかしら。あなたいつ帰ってきたの?」
「俺は10時かな。今日は早く終ったから」
「じゃ、まだ眠いんでしょ? ご飯食べたら寝る?」
「もうちょっといちゃいちゃさせてくださいよ。寝るのは夜寝ますから」
「あら」
少し頬染めて、こういうところ可愛いな。
「…あれ?白味噌落としました?」
「うん、あなた前そうしてたから。ちょっと入れてみたの」
「おいしいです。嬉しいな、覚えててくれたんだ」
「甘くて辛くて濃いの、好きよね。でも成人病になっちゃうわよ」
「ん、そうですね、事務職になったら考えないといけませんね」
「あなたも若くはないのよ? そろそろ控えないとダメよ」
「はい」
ご馳走様をして片付ける。
お茶を先生が煎れて、俺の分も煎れておいてくれる。
洗い物を終えて座ると、先生が膝の上に乗ってもたれてきた。
可愛いじゃないか。
「いい匂いする…」
「あぁ、お風呂いただいたから」
「気づかなかったなぁ」
「良く寝てたもの。昨日は寝てないんでしょ?ごめんね」
「徹夜くらい。あなたが気持ちよくなってるの沢山楽しめたしね」
「…私から誘うなんて。恥ずかしかったわ」
「嬉しいですけどね、求められるのも」
暫く会話しつつ、べったりとくっついたまま。
4時半ごろ、先生がそろそろ帰らないと、と言い出した。
「晩飯、食ってからにしたらどうです?」
「帰りたくなくなっちゃうから」
「うれしいこと言ってくれるじゃないですか」
そういいつつもまだ俺にもたれたままだ。
「帰したくないなぁ。けど明日お稽古朝からですもんねえ」
「そうなのよね…」
ふー、と耳元で溜息一つ。身を起こす。
なんとなく、急にしたくなってキスをした。
先生はふふっと笑って俺の頭を撫でる。
「また明日、うちに泊まって頂戴」
「はい、お邪魔しますね」
「着替えてくるわ」
「はい」
すっと立って和室へ。
俺はトイレへ。
先生の帰り支度を整え、俺も着替えた。
家まで送る、と言うと寝不足の人に運転させられない、駅までで良いという。
ほんと優しいなぁ。
羽織とショールで防備して二人でゆっくりと駅まで歩く。
「じゃあまた明日」
「待ってるわね」
「気をつけて帰ってくださいね」
「ええ、じゃ、また」
先生が改札をくぐって電車に吸い込まれる。
発車するのを見届けて帰途、寒いなぁ。うどんでも食うか。
近くの店に入り親子丼を頼んで食って帰宅。
トイレへ行って着替えておやすみなさい。
何度か目が覚めてトイレに行き、朝になった。
出勤し、物がない、寒いなど暇な火曜日。
早く仕事が終らないものか。
はぁっと息をついてふぐを何本かさばいてもらった。
先生のところに持っていこう。
メールを作成。今日はふぐ、と打ち込む。
返事は夕飯に鍋、だ。
寒いから丁度いい。水菜をちょっと買って持っていこう。
追加でメールが来た。
あなたは豚、とだけ。
…あぁ、豚肉で何かしてくれるんだろう。うん。
双方仕事中だと電報以下になってしまうなぁ。
客も早く引けた。
仕事を早めに終らせて、ふぐと水菜を積んで先生のお宅へ。
「こんにちはー」
「はい、こんにちは」
「いらっしゃい、ごめんね、さっき。充電がなくなっちゃって」
「ああ、そうだったんですか。何かと思いましたよ」
「なに送ったんだい?」
「あなたは豚、が本文のメールです」
「山沢さんそんなに太ってるように見えないけどねえ」
「先生より10キロほど重いですよ」
「へぇ意外だねえ」
「じゃなくて豚の炒め物かしゃぶしゃぶか何か、と書きたかったのよ」
「わかってますよ」
ふふっと笑って水屋へ入る。
朝の後始末とお稽古の準備をして、待機。
いつもの生徒さん、いつものお稽古。
今日は寒いといいつつ皆さんいらっしゃって生徒さん達が引けてから俺のお稽古。
「随分よくなってきたわねぇ。もうちょっとね」
「有難うございます、精進します」
お稽古を終えて水屋を片付ける。
夕飯に豚と水菜を炊いてくれるそうだ。
冷しゃぶでも良いんだけど。
「明日の朝御飯、一緒だけどいいわよね?」
なるほどそれは名案。
と言うことで水屋を八重子先生と交代されてお台所へ。
「そうそう。昨日の展覧会どうだった?」
「お雛様がありましたよ。節句が終ってから飾ってあるとは思いませんでした」
「へぇまだ飾ってるんだねえ」
「先生からお聞きじゃなかったんですか」
「バーに連れてってもらったのが印象的だったみたいでね」
「そりゃあんまり行くところじゃないでしょうけど。
 展覧会の後はそのまま帰るほうがいいのかな…」
「だけどそうそうあんたと出かけさせるのもねぇ、律に言いにくいし」
「そうなんですよねぇ。ほら、青梅の梅祭り、あんなのも行きたいんですけど」
「あんたあれ来年はないよ、行くなら早くいかないと」
「え、なんでですか?」
「梅の病気で全部切っちゃうらしいよ」
「ええー、あれをですか、勿体無い」
「感染る病気だからしかたないんだってさ」
「ありゃー…そんじゃ絶対今年行かないと見納めですねえ」
「来週の春分の日にでも行ったらどうだい?」
「あ、いいですねえ、次の日仕事ですけどまぁ一日だけですし」
「その日なら律も旅行に行くって言ってたからね」
「じゃ孝弘さんとお留守番ですか」
「そういうことになるね」
「いいんですか? みんなで一緒にでもいいですが」
「あたしらが一緒だと気を使うだろ」
「ああいうところで羽目を外したら後で噂になりますよ」
「だったら一緒に行ったほうがいいのかねえ」
「お暇でしたらお願いします」
水屋の片付けも終わり、台所に向かえば孝弘さんをそろそろ呼ぶようにと言われた。
離れへ行ってごはんできたそうですよ、と呼び一緒に食卓に着く。
「今日はふぐ鍋よ~」
お鍋から白菜や豆腐やしいたけを貰いつつ、豚水菜を食べる。
うまいなぁ。
「塩分取りすぎになるわよ」
汁まで全部飲んだら叱られた。
「鍋のあとのポン酢飲むのも好きです」
「も~だめよ~」
律君も笑ってる。
お鍋以外を片付けて、雑炊。
俺は雑炊は一杯だけいただいて後は孝弘さんがペロリだ。
お台所の片付けを済まし、先生方はお風呂。
俺は今日は遠慮して一緒に布団に入る。
先生は今日は疲れていたのかすぐに懐の中で寝息を立て始めた。
夜半、ふと違和感に目を覚ます。
「どうしたんです?」
「ん、起きちゃった?」
「今日は下はダメですよ」
「どうして?」
「生理中ですもん」
「そう…」
そのまま俺の身体のあちこちを気のすむまで触って、ふぅ、と息。
「おやすみなさい」
「うん」
ぺたり、と俺の胸に耳をつけてしばらくして寝息。
ま、そんな時もあるよな、と俺も寝なおした。
翌朝、豚水菜で朝食を済ませ掃除にとりかかる。
先生は洗濯物を干したり座敷を掃除したり。
お昼をいただいたあと縁側で日向ぼっこ。
「暖かくなりましたね」
「そうねえ、お洗濯が良く乾きそう」
手に触れてしばらくゆったり。
「あんたら年寄りみたいだよ」
後ろを振り向けば八重子先生だ。
庭掃除を指示されて庭に下り、先生は風呂掃除へ。
八重子先生は茶道具の手入れだ。
こればかりは俺ではなんともしようがない。
掃除を終えて手を洗って居間へ行くと先生がお茶を入れてくれた。
「おせんべいたべる?」
孝弘さんはその辺でごろ寝しておせんべいを食べている。
あー、折角さっき先生が掃除したのに。
と思ったらちゃんと広告を下に敷いてる。
先生の躾か!
おせんべいを貰って先に袋の中で砕いてから食べる。
「あら。ぼろぼろこぼして子供みたいって言おうと思ったのに」
「さすがにそこまでこぼしませんよ」
ぬるくなったお茶を頂きつつおせんべいを食べて。
「そろそろお夕飯のお買物行かなきゃねえ」
「今日は何されるんですか? 魚?」
「あなた食べて帰るならお肉にするわよ」
「いや今日は暖かいうちに帰ろうかと。明日もありますし」
「そう? お買物は付き合ってくれる?」
「重いものあるんでしょ、行きますよ」
よっこらしょと腰を上げて上着を羽織る。
「じゃ、ちょっと買物に出てきますから」
先生は孝弘さんに言い置いた。
「お母さーん? お買い物行くけど何か買うもの有ったかしら」
茶室にも声を掛ける。特にはないようだ。二人で買物へ。
大きいかぶと白菜など重量系を買って帰宅。
野菜を洗って下拵えまでお手伝い。
「さ、そろそろ帰ります」
「うん、じゃまた明日ねぇ」
久々に暖かいうちに帰宅だ。こんな日が続けばいいなぁ。
帰りがけにお惣菜を買って帰宅。
メシだ!
食ってしばらくしてから寝た。
縫い物しなきゃなぁ…。
朝、出勤、本日は雨の予報。
今日は先生のところへは車で行くべきかなぁ。
沢山降るなら。
大して客も来ないまま仕事が終る。
ま、明日も平日だし…雨だし仕方ないか。
気温も上がってきて予報を見れば戻る頃だけかな、酷いのも。
まぁ適当な駅からタクシーに乗るなり何なりすればいいだろう。
支度をして電車に乗る。
少し雨が落ちてきた。
あまり降るようなら生徒さんは少ないだろう。
晩御飯はどうするかメールが来た。
どうしよう…。
メニューは?と聞くと肉じゃが&白菜とかぶの炊いたもの。
うまそう。これは食いたい。
食べさせてください、とメールを返す。
晩飯という楽しみもあり、いそいそとお稽古にお邪魔する。
普段なりに生徒さんも来てお稽古が進む。
「今度花月してもいいわねぇ」
「ああ、最近してませんよね、私も足がわからなくなりそうです」
「足はこうよ」
と、歩いて見せてくださる。
「行きなのか帰りなのか、ちゃんと考えれば歩けるでしょ」
「うーん、そうなんですよね、考えればいいんですけど…つい」
「あなたは且座の正客をしないんだからそれくらい覚えて頂戴よ」
「はい」
お花が苦手すぎるのでいつも外してもらってるんだよね。
「土曜日に特訓しようかしら。夜は暇でしょ。日曜のお昼からと」
「う…わかりました」
「ほんと苦手なのねえ」
「や、その」
「なぁに?」
「いや、いいです」
「なんなのー?」
あ、八重子先生。
「ご飯もうすぐできるから早く片付けなさい」
「はい」
「はーい」
水屋を片付けてお台所へ。
「ほら、これ持って行って」
配膳をしてご飯の用意。
孝弘さんも出てきた。
「あら律は?」
「遅くなるんだってよ」
「じゃいただきましょうか」
「いただきます」
うーん、おいしい。幸せ。
ご飯が美味しいっていいなぁ、帰ると美味しいご飯が待ってるとか幸せだよなあ。
その上可愛い嫁が待ってるとかもっと最高だよな。
若い頃の孝弘さんって幸せ者だよな。
そのまま普通に先生と夫婦をしてたら俺なんて入り込む隙、針の穴程もなかっただろう。
うまそうに食ってる俺と孝弘さんを先生はニコニコと見ている。
食後、雑談しているときに最近の血液検査で中性脂肪が下がったなんて話をする。
TGは体脂肪率関係なく上がるらしく。
何かしてる?と医師に聞かれて最近の食生活を話すと続けるように言われたと。
「先生方の作ってくださる食事のおかげですねー」
「普段からお野菜食べないからよ~」
「あんたできるだけうちで食べなさいよ」
「はい、ありがとうございます」
「あ、そうそう。これ。ホワイトデーだから」
「嬉しいな。俺も後でお渡ししようかと。クッキーじゃないけど」
「あら。嬉しいわ」
一旦部屋に戻ってとってきた。
はい、とお渡しする。
風呂敷三段重。
「あら、なにかしら」
マールブランシュの茶の菓とマカロン&ムラング、生茶の菓だ。
うち二つが京都限定となっている。
取り寄せたった。
先生もよろこんでくれている。
でもこんなものより、先生がくれたクッキーのほうが価値がある。先生の自作だ。
にこにこしたまま今日も帰途につく。
帰ったら食べよう。
会社の奴らに自慢してやる。
雨降りの中帰宅、部屋で美味しくいただいた。
幸せなままおやすみなさい。
翌朝出勤し、貰った自慢をする。
バレンタインにも貰ったというと大変うらやましがられた。
仕事を終えて一服していると先生からメール。
八重子先生と広げて全種類ちょっとづつ食べたらしい。
太りますよ~、とメールすると太っちゃったら運動に付き合ってね、と帰ってきた。
可愛いなあ。
さって今日は身頃を縫おう。
先生は今頃お食事でその後はお花のお稽古だろう。
以前花を持って帰ってくるのを見かけたけど綺麗だったなぁ。
美人は花を持てばますます綺麗っていうね。
ちくちくと縫ってたまに針を指に刺したり折れたり。
なんで折れるんだろう。
握力?縫い方?
背縫いを終えてふと気づけば暗い。
え、もう夕方か?
なんだ、曇ってるだけだった。
でもそろそろ夕飯何か買ってこないとなあ。
先生は今日は何を食べるのだろう。
本当に主婦って大変だよなあ。
俺なら食いたいなと思うもの買ってきて食えばいいし、どこか食いに行けばいいが。
皆の分作って、これが嫌いとか今日は食べたくないとか。
先生のお宅で手伝うのは出来ても毎日のメニュー考えろって言われるとね。
……親子丼で良いか。
もうちょっとしたら食べに行こう。
畳んで片付けて。
そろそろしっかりと掃除しないとなぁ。
納戸に掃除機を取りに入ると、先生はここに入るのを嫌がってたのを思い出す。
掃除機をかけて、まぁこんなもんでいいか。
片付けて手を洗って着替えてメシ!
外寒いー。
ぶるり、として近所の定食屋へ。
親子丼一つ。
山椒たっぷりかけていただく。
あったかくてうまい。
腹に物が入るとやっぱり温まってよい。
帰宅して風呂に入って頭を乾かして。
さあ寝ようかな。
ベッドにもぐりこむとメール。
今晩のおかず、と先生から写メが来た。
やり方がやっとわかったとのことだ。
くっそめちゃくちゃうまそうなメシじゃないか。
ご飯はもう食べたけどもう一度食べたくなったとメールを返す。
暫くメールを交わしてからおやすみなさい、と打ち込み寝た。
翌日の仕事はまぁ土曜日だし、それなりに忙しい。
はっと気づけば昼前で慌てて帰宅し風呂に入ってお稽古に駆けつける。
電車の中で走っても意味はないのでちゃんと整ってるか確かめて。
駅からタクシーを使って駆けつける。
セーフ。
「こんにちはー」
「はい、いらっしゃい」
水屋の支度は…おや整ってる。
「朝の方が少なかったのよ~、だからしちゃったわ」
「あ、そうでしたか」
「あんたもお茶のみなさいよ。丁度ぬるいわよ」
「ありがとうございます」
一息つかせてもらってそれからお稽古。
とんとん、と間も良くお稽古は進み自分のお稽古も。
「この調子で続けたらなんとか夏前に出来そうねえ」
「そーなるといいですねー」
「そうなるようにするのよ。でなきゃもっと厳しくするわよ」
「うっ…頑張ります」
今日は先生も自分の稽古をしたいからとお付き合い。
八重子先生に指導してもらうのを横で見学。
台子だから碗建箸なのだが自分がすると悩むんだよね。
これは先生でも一瞬手が戸惑うらしい。
教える側に回るとちゃんと違うってわかるとか。
二度続けて。
さすが先生一度言われたことは次には全部直ってる。
「さてと。水屋は山沢さんに任せてご飯の支度、終らせないとねぇ」
「あら、まだできてなかったの?」
「そうだよ、あんたお稽古したいって言うから」
くすくす笑ってみてたらペシッとはたかれた。
「じゃれてないで」
八重子先生が呆れてる。
先生方が台所へ行って俺は水屋を片付ける。
もう少しで、と言うところで先生がご飯よー、と呼びに来た。
いま行きます、と答えて手早く片す。
手を拭きつつ食卓へ向かう、いい匂いだ。
「ろーるきゃべつ?」
「春キャベツの春巻きよ。中はパプリカとカニカマと菜の花と長芋なの」
「ヘルシーですね」
「ちゃんとお肉も有るわよ。はい」
野菜の肉巻きだ。
「今日はキャベツがいいのが安くてねぇ。だからキャベツ尽くしだよ」
と八重子先生から渡されたのはコールスロー。
「梅と大葉が入ってるの、おいしいわよ」
「明日の朝はホイコーローとかどうかねぇ」
「朝から多いんじゃない?」
「山沢さんなら食べれるでしょうけど私は朝からはちょっといやねぇ」
濃すぎるのか。
「スープ煮とかされたらどうです?ポトフとか」
「あ、それはいいねえ」
「サラダだったら汐昆布とごま油で和えるとかいいんじゃないですか」
「でもそんなんじゃあんた足んないだろ?」
「あら、ベーコン足したらいいわよね?」
「あー、はい、十分です」
八重子先生も何かとメシに気を使ってくださる。助かる。
おいしくいただいてると先生はこちらを見てうれしそうだ。
しっかり食って満腹。
孝弘さんが食べ終わって台所を片付ける。
先生が明日の朝御飯の仕込みをするというので手伝いつつ。
いろいろ剥いて鍋へ。
ベーコンとウインナーも投入して煮込む。
おでんと一緒で一度炊いて次の日が美味しいらしい。
いい匂いがするなぁ。
先生が作るのを眺めつつ、少し色気を感じる。
「居間にいたら? 立ってたら疲れるでしょ?」
「いや、ご飯拵えしてる姿って結構好きなんですよね」
「そう?」
「ええ、手をだしたくなる」
きゅっと口を捻られた。
「そういうこと言わないの」
じゃれてるうちにそろそろ火が通っただろう、と言うことで火を落として居間へ。
先生はそのままお風呂。
八重子先生はもうとっくに、と言うことで俺も先生と。
と思ったのだが断られた。
今更だが何か気恥ずかしいらしい。
お茶をいただいてゆっくりしていると先生が上がってきた。
「ごめんなさい、うっかりお湯落としちゃった」
ありゃ。
まぁいいけどね、風呂は一応入ってきてるし。
そんじゃ戸締りを確かめますか。
八重子先生が火の始末を確かめて居る。
お勝手も確認して、おやすみなさいと八重子先生と別れて先生と寝間へ。
さて、と。
布団を敷いて寝巻きに着替えた。
先生が髪を纏めているのを後ろから抱きしめる。
「もうちょっと待ってて」
「待たない」
もぞもぞと先生の胸やお腹をまさぐる。
「待って頂戴、ね、あの、お手水行ってから。ね?」
苦笑。
「はいはい、行ってらっしゃい」
パタパタとトイレへ走っていった。
戸締りしてる間に行っとけばいいのに。こうなるのわかってんだから。
少し待つ。戻ってきた。
「寒~い」
ぱっと俺に抱きついてくる。
…障子閉めようや。
布団に押し込んで障子を閉め、それからもぐりこむ。
「見られたかったんですか?」
「ち、違うわよ、寒かっただけよ」
「いいですよ、今日良い月ですから庭でも」
「違うって言ってるでしょ…ん、ぁ…」
いい感触だなぁ、胸。
身体を撫で回して堪能する。
沢山撫でた後、股間に手をやれば結構に濡れている。
中に入れず外側を玩びつつキスしてたら唇を噛まれた。
むっとしてたらそれがわかったのか身を縮こまらせて謝ってきた。
一瞬もうやめちまおうか、とも思ったが。
恐々と入れて欲しい、と言うのを見れば可哀想になってそのまま中を探って逝かせて。
二度、中で逝かせると眠たげだ。
そのまま始末もしてないのに寝息に変わった。
息をつき、股間を拭いて寝巻きを着せなおして手洗いに立つ。
そのまま庭へ出て暫く月を眺めた。
カタン、と音がして振り返れば八重子先生だ。
「寒いのに何してるんだい?」
「月が綺麗だと思いまして」
手が伸びて額に触れる。
「眉間にしわ寄せて綺麗もないだろ」
苦笑する。
暫く八重子先生に見つめられて。
ぽんぽんと頭を撫でられた。
「風邪引かないうちに寝なさいよ」
「はい」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
また月を見ながら自分の中を治める努力をして折り合いをつけて部屋に戻った。
先生は気持ち良さそうに寝ていて。可愛い。
そう思えるようになっていてほっとして布団にもぐりこんで寝た。
翌朝、起きると先生がいなくて外が明るい。
寝過ごしたようだ。
布団の中でぼんやりしてると先生が起こしに来た。
「あら起きてたの? ご飯食べるでしょ?」
早く着替えてきなさい、といわれて布団から這い出る。
身づくろいをして食卓につけばポトフ。
寝ぼけ半分に食べてもうまい。
…トマト。温かいトマトはいやだ。
手が止まっていると孝弘さんが食べてくれた。
「あっお父さんダメよ、人のおかず食べちゃ」
「いいんじゃないの? 山沢さん苦手っぽいし」
律君が笑って言ってくれて新たな温かいトマトを回避できた。
野菜を沢山食べて腹いっぱいになる。
「さてと、ちょっと手伝ってくれるかい」
八重子先生に呼ばれて茶道具の整理を助ける。
重い釜の移動に体力を使ってくたびれてしまった。
「お昼ご飯できたわよ」
その声に中断されご飯をいただく。
昼からはどうするのかな。
お昼ごはんは孝弘さんが居ないそうでスパゲティ。
くっ、辛っ!
にっこりと先生が笑う。
「しし唐、当たったの?」
涙目でうなづく。
「普段の行いかな」
と呟いたら八重子先生が笑っている。
「そうかもしれないわねー」
先生までもがのんびりとそんなことを言う。
俺の分は2人分だったらしく、八重子先生とは明らかに量が違う。
まぁその分当たりを引きやすい。
「暖かいわねぇ。あとでお昼寝したいわね」
「ですねぇ」
「年寄りみたいなこと言ってないで片付け手伝っとくれ」
「サー・イエッサー」
ぷっ、と先生が噴出した。
「映画、見た口ですか?」
「アメリカの映画でしょ?」
おしゃべりしながらお茶碗や水指などの入れ替え。
冬向きのものは奥へ、春夏のものを手前へ。
「ことしもお花見の茶会しようかねえ」
「そうねえ」
「去年は参加できなかったんですよね。今年されるなら参加したいです」
先生がにこっと笑って私をなでる。
「なんで撫でるんですか」
「ん、なにか可愛かったからよ」
ハイハイ。
「あらこれ…懐かしいわ」
「あ、綺麗ですね。夏向きですか?」
「どれどれ? そりゃ夏だね。盛夏に使ったらいいよ」
切子の水指はさぞや涼しげだろう。
「それとそろいのお茶碗もあるよ」
「棗はどういうのと合わします? 木地ですか? 黒棗?」
「それもいいけどちゃんと揃いであるんだよ、その水指。ただどこに仕舞ったかねえ」
「…来年夏までに見つけましょう」
「あんたが手伝ってくれたら見つかるかもしれないね」
出来るだけ道具が一具になるようにリストも作って行くことにした。
中身の写真を撮って箱につけていくのもいいな。
そんな相談もしつつおやつタイム。
今日はカステラだ。
「八重子先生ってよく太りませんね」
「あら。おばあちゃんお医者さんに甘いものは控えめにって言われてるわよ」
「え、でも結構」
「前はもっと食べてたからねぇ」
これで控えめだったのか。
カラカラと玄関の音。
「八重ちゃんいるかしら」
おっとご友人か。
お茶を出すと八重子先生から先生とあちらの家に居るようにと言われた。
内密のはなしかな。
ということで移動して鍵を開けて中に入る。
少し違和感。なんだろう。
ああ。シーツの色が変わってる。
カチャカチャと先生が鍵を閉め、後ろから抱き着いてきた。
ふっと笑っているとうなじをなめられた。
「何をしてんですか…」
そのまま右手が俺の懐へ…残念ながら晒越しである。
「したいのかな?」
「ううん、なんとなく」
「俺は…あなたを抱きたくなった」
「えっ、まだ明るいわよ」
「あなたが俺に触れるからですよ。さ、脱いで」
ちょっと引いてるようだ。
「もたもたしてるとそのままでやりますよ。俺はそれでもまったく…」
言ってるうちに脱ぎ始めた。
そのままは嫌なようだ。
着物を脱いで長襦袢を脱いでちゃんと衣桁にかけて帯も畳んで。
待ってるのがなんともね。手持ち無沙汰でいけない。
脱いでそのまま、と行きたいけれど。
肌襦袢姿の先生を膝の上に乗せて胸を弄る。
上がる声に煽られてもっと、と思う。
もっともっとなかせたい。
腰巻を脱がせて膝立ちにさせ股間に顔を埋める。
「こんな格好いや…」
「いやと言う割には…随分と。期待してるんでしょう? ほら」
突起を摘んで苛めながら中を抉るとお尻の穴までひくひくとしてて可愛い。
ちろり、とそこを舐めると悲鳴を上げて膝立ちが崩れてしまった。
はずみでぐりっと中を抉ってしまったようでちょっと痛かったようだ。
中を痛めつけるのは好みではない。
今日のところはこれまで、だな。
まだ逝けてないようなので突起を弄って逝かせて、仰向けにさせる。
涙目になってるのが可愛くて、まぶたにキスをしてみた。
するり、と先生の手が俺の背に回る。
唇を合わせていると先生の手が下りてきた。
そっと俺の股間を触る。
「……やっぱりやりたいの?」
「あ、違うの、ごめんなさい。なんとなく触っただけよ」
なんとなくねぇ。
先生を上にして転がると重みが心地よい。
「ねえ先生、今度21日、梅を見に行きましょう。八重子先生と孝弘さんも一緒に」
「いいわねえ。あ、お墓参りどうしよう…」
「お彼岸か。忘れてた。先生のお父さんがしてる最中に出てきちゃ困るな」
がつんっと殴られた。
いてててて。
「先生最近暴力的…」
「そういうことをあなたが言うからでしょ」
「ね、俺のこと好き?」
「何よ突然。好きよ。あなたは?」
「俺も好きですよ。愛してます」
「ふふっ」
さっき殴ったところを撫でられてキスされた。
たまに行動がつかめない。
先生の携帯がなる。
八重子先生からでそろそろ戻ってOKとのことだ。
さっとシャワーを浴びてもらって着物を着なおして戻る。
中でお茶をいただいて、さ、俺はそろそろ帰りましょうかね。
「じゃまた火曜ね」
「はい、ではまた」
別れて帰宅する。
メシを適当にとって布団にもぐる。
なんだかんだ疲れるわけで。
おやすみなさい。

拍手[0回]

h20

サイドテーブルにとりあえず置いといて、続き続き。
指を入れて中を探る。
声の沢山出るポイントを捕らえて責める。
お腹がひくひく動いて必死に息を吸って喘ぐ。
少し悲鳴のような、普段聞けないような声が出て逝った。
足首の縄を外す。
涙と少し鼻水。吸ってやろうとしたが足首に使った手拭を奪われた。
息が荒いのが落ち着くまで待つ。
っと、ティッシュ頂戴、と言うので渡した。
洟をかんで捨てて、少し咳をして、俺の飲み差しのペットボトルのお茶を飲む。
少しして落ち着いたようだ。
ベッドに伏せて大きく一息つき、こちらをちらっと見て手招きする。
横に行くと首を絞められた。
え…何を。
突然のことに身動きもとれず呆然としていると苦しくなってきて先生の手を掴む。
ほんの少し時間を置いて放してくれた。
「けほっ…なんで?」
「これくらい苦しかったんだから…。はい、お茶」
一口飲んで蓋を閉める。
「何をするのかと思った。殺したいくらいうらまれたかと」
「殺したりなんかしないわよ、ばかね」
息が落ち着くとそろそろ寝ましょ、といわれる。
先生は寝巻きを着てトイレに行った。
枕元にもう一本お茶を用意して先生が戻ったので俺もトイレに。
ふと洗面所の鏡を見ると首に指のあと。
明日残ってたら襟巻きするしかないなぁ。
ベッドに潜り込んで先生の背中を撫でると、あふ、とあくびが聞こえる。
「もう一度、って言ったらどうします?」
「え?」
目をあわせ見つめる。
先生は目をそらせて少し赤くなった。
「身体、持たないわ」
そういって俺の懐に顔を埋めた。
可愛いなぁ可愛い、やっぱりもう一度したくなる。
顔をあげさせてキス。
耳を舐め、齧る。
「だめ?」
そっと寝巻きの上から胸を揉む。
太腿の上から手を這わす。
手を潜り込ませて突起に少し指を掛けるといい声が出る。
ちょっと声が出る程度になぶって楽しむ。
暫く焦らせば諦めたのか、中に入れてとおねだりされ、中の良い所をなぶる。
今回はちゃんと息も出来るよう見図りつつ逝かせた。
汚れた股間を舐め取り、先生が落ち着いたので懐に寄せて寝た。
夜中目が覚めるとベッドの中にいない。
リビングに出てみるとテレビ見てた。
横に座るともたれられた。
ひんやりとしている。
「風邪引きますよ。あと電気つけたらどうです? 見るなら」
「ちょっと見たくなっただけだから」
「どうせ明日休みなんですし、ちゃんと見たらいいじゃないですか」
「そう?」
うん、といって羽織るものを取りに立つ。
電気をつけてヒーターの温度を上げた。
羽織らせてお茶を渡す。
ペットボトルだけど。
「すごいわねぇ」
「スキー行きましょうか。もう今年は遅いかな」
「私は滑れないからいいわ…あなたは滑れるの?」
「いや、俺も滑れませんけど」
「だったら温かいところで見てるだけがいいわよ」
フィギュアが終ったら寝る、と言ってそのまま俺にもたれてテレビを見ている。
「エキシビションは楽しそうよねえ」
「メダルや順位関係ないから表情も柔らかいし、自由でいいですよね」
…ちょっとまて、テレビ何時まで?
番組表を見ると朝4時まで。
俺が途中で寝てしまいそうだな。
先生は綺麗なものを見るのが好きだから、こういうものも好きなんだな。
俺はそういう先生を見ているのが好きだけど。
暫く見ているうちに腹が減る。
そういえば昨日は常備菜で軽く食っただけだったか。
冷蔵庫には何もない。
「先生、ちょっとコンビニ行ってきますが何か欲しいものあります?」
「どうしたの?」
「ちょっと腹減りました」
くすくす笑ってる。
「こんな時間に食べたら太るわよ?」
「いつもあと1時間ほどで朝食ってます」
「あら、そういえばそうね。じゃ…プリン食べたいわ」
「プリンですね」
ささっと着替えて買物に出ようとする。
呼び止められてマフラーを渡された。
「首、痕になってるわ」
ふっと笑って首に巻き、コンビニへ買いに出た。
なに買おうかな。
パンを2つ選んで缶コーヒーを取り、プリンを4種類選んで帰った。
戻って先生の前に出す。
「どれにします?」
「なぁに?こんなに買ってきたの?」
選ぶ楽しさってあるよね。
一つ選んで食べ始めた。
「おいし…」
横でパンを食べているとそんなに沢山食べるの?と仰る。
多いかな?
コーヒー飲みつつ食べ終わって、手を洗って歯を磨いて戻る。
先生はプリンを食べ終えてテレビに夢中だ。
「ねぇ、牛乳有る?」
「ありますよ」
「カフェオレ飲みたいわ」
はいはい、作ってきましょ。
牛乳を温め、コーヒーを淹れてカフェオレを作る。
しかし最近の牛乳ってロングライフなんだな。
昨日買ったこれなんて常温で5月18日までとかいてある。
「お砂糖は?」
「一つ入れて頂戴」
入れて混ぜてとかしてから渡す。
マグカップを両手でもって美味しそうに飲んでいて可愛いな。
あくびをしながらテレビを見ている。
眠いより見たい気持ちが勝ってるようだ。
「素敵よねえ」
よくわからんけどきれいは綺麗だな。
3時半ごろ、眠くて仕方がなくなったようで俺にもたれてあくびを連発している。
「もう寝たらどうですか」
「だってあとちょっとなのに」
しょうがないな、寝ちゃったらベッドまで連れて行こう。
うつらうつらとしだして、番組が終る。
「さ、寝ましょう」
「ん…お手水行ってから…」
ふらふらよろよろとトイレに行って…あれ?戻ってこない、寝てるんじゃないだろうな。
トイレの前まで行けば出てきた。
「あぁ、寝てるのかと思いましたよ」
「ごめんね、ちょっと大きいほう」
頬染めてそんなことを。
それが可愛くてふっと笑ったらぺち、と額を叩かれた。
抱えあげてベッドにつれて入る。
すぐに寝息。
さて、何時まで寝るつもりだろう。昼に起こせばいいのか?
俺ももう少し寝ようかな。
ならばとトイレに行って電気を消しストーブの温度を下げてからベッドへ戻った。
先生の寝息を聞いて一緒に寝る。
昼前、目が覚めて食事の買物に出た。
買物から戻っても先生は良く寝ている。
ハムエッグとトースト、サラダとコーヒーでいいかなぁ。
用意するのはもう少し待つか。
先生が起きてからにしよう。
小一時間ほど暇つぶしにテレビを見ていると起きてきた。
さて、用意しますかね。
「先生、ベーコンかハムかどっちがいいですか」
「ベーコンがいいわ。あら、お昼作るならするわよ?」
「あーじゃ俺サラダの野菜洗いますんでお願いしますね」
寝巻の上に割烹着を着て、ベーコンエッグとハムエッグを焼いてくれてる間に
野菜を洗って適当にちぎる。
人参は切った。
ドレッシングは…コールスローのがあったな。
食卓に出して、パンを焼く。
「先生、パンは食パンかフランスパンどっちがいいです?」
「んー?食パンでいいわよ」
食パンね。
ベーコンがいい匂いだ。
「あ、何枚?」
「薄いの?薄いなら2枚頂戴」
分厚いので先生は1枚、俺は3枚。
2枚ずつ焼いてバターを塗り、お皿に。
先生もハムエッグとベーコンエッグを食卓に出している。
コーヒーを入れて、お砂糖を用意した。
「いただきます」
おお、俺の分は卵が二つだ。
透明のボウルにぶっこんだサラダだが、先生がもっと食えもっと食えとせっつく。
サラダも沢山食べてごちそうさまをする。
ふと先生がこっちを見て笑う。
「どうしました?」
「髭そらないとダメよ? 生えてるわ」
洗面所の鏡で確認する。最近先生抱きたくて仕方なかったからか。
男性ホルモン優位になってるなぁ。
髭をそって戻るとゆっくりと先生がコーヒー飲んでる。
洗い物をしてお片付け。
先生はコーヒーを飲みきって普段着に着替えようとする。
その腕を取って抱きしめた。
「あら、まだしたいの?」
「昼間っからなんてうちじゃないと出来ないでしょ?」
「そうだけど」
「だから着替えないでそのまま、そのまま」
横に座らせる。
「あなたねぇ…私の年、わかってるの? 結構疲れるのよ?」
「でしょうね、あんなに暴れてちゃ」
「わかっててするの?」
「だめですか?」
「月に一度くらいにしてくれる? じゃないともたないわ」
「うーん、出来るだけ希望に沿いますが。たまに暴走しそうです」
「暴走する前に言って頂戴…」
「ってええと、うちでするのを月1ですよね?まさか普段を月1じゃないですよね」
ブッと先生がふきだしてお腹押さえて笑ってる。
「なんですか、もう」
「普段はいいわよ、普段は」
笑いすぎて喉を鳴らしながら言われた。
「良かった、あれもなしで月に一度だけとか無理です」
「あら、私がもっと年を取ったらそういうかもしれないわよ」
「その頃には私の性欲が落ち着いてるかもしれませんし…疲れない方法考えるかな」
「そうじゃないと二人ともが辛くなるわよー?」
「でももうちょっと俺はあなたを乱れさせたいな」
「あら…」
「刺したり叩いたり、とまではしませんが」
「え…」
先生がぶるっと震えた。
引き寄せて懐に。
「怖いですか?」
「…怖いわ」
「なに、外で縛ったりする程度ですよ」
「そんなの、無理よ…」
「あなたに危害は加えさせません」
「他の人に見られちゃうの?」
「見られたらどうしよう、くらいがいいと思いますが」
くちゅり、と先生の股間に手をやると濡れている。
「想像しちゃいましたね?」
あぁ、と喘ぐ。
昨日片付けようと思って忘れていた縄を取り手首を軽く。
そのまま胸縄をかけて行く。
「あっだめ、そんなの」
簡単な、相手がされてくれる気がなくてもかけられる程度の縄を。
「ほら…足開いて」
いやいやをしている。
「いつも俺がしていることしかしないから、安心したらいい」
「でも…」
くいっと顎に手を掛けてキスをする。
「それとも。もっとハードなのをご希望かな?」
「いや…怖い…」
寝巻の上から乳首を摘んで弄る。
「してみたい、の間違いでしょう?」
あそこがいつもより濡れている。
中に指を入れて楽しむ。
「いやよ、しない」
「こんなに濡らして…体は正直ですよ」
「だめ、だめだめ…」
中をゆっくり混ぜて少しずつあげてやる。
きゅっと腰が浮いて指を食い締める。
逝ったようだ。
そのまま続けて中を刺激する。
きゅっと突起を捻ると緩くなっていた中が締まる。
「ベランダに出てしようか」
お、もっと濡れた。
「あぅ、いやぁ…」
ククッ、と笑いながら言葉で弄り、身体のほうはゆっくりと逝かせた。
荒い息が整いだす。
縄をほどき、手の痺れはないか、ちゃんと動くか確かめた。
先生は私の懐にもたれて顔を赤く染めて何もいえないで居る。
息も落ち着いたみたいだ。
顔をあげさせてキスをする。
「もう無理…いわないで」
胡坐をかいた膝の上に乗せ、背中を撫でた。
「でも気持ちよかったでしょ?」
顔を俺の首筋に伏せて何もいわない。
でも耳まで赤いところからして恥ずかしがってるだけのようだ。
「本当ならこっちも」
とお尻の穴をつつく。きゃっと声を上げてその手を掴まれた。
「楽しみたいんですけどね、つつくだけにしてあげますよ」
「つつくのも嫌よ、恥ずかしいわよ」
恥ずかしいからやりたいわけで。
「アレを入れるのは許してあげる、と言ってるんですよ?ふふっ」
「入れるところじゃないでしょっ」
ちょいちょいっとビデオを操作してアナルファックのシーンを探す。
あったこれだ。
「先生、テレビ見て」
視線が動いた。再生する。
ガッツリ入って出し入れさてるのを見て、嘘…と呟いてる。
「最近は普通のカップルにもお尻でする人が結構居るんですよね」
「えぇ? 病気になったりしないの? 汚いわよ」
ビデオを止めてテレビを消す。
「男はちゃんとコンドームしてますから」
「でも」
「女は浣腸したりね」
「浣腸なんて酷い便秘のときにするものでしょ? お腹痛くなるじゃない」
「ぬるま湯使うんですよ。体温と同じくらいの。一時期コーヒー洗腸とかあったでしょ」
「ああ、なんか前にテレビでしてたわね」
「生理食塩水のぬるま湯なら痛くなく、酷い便秘の人もやわらかいのが出るというので、
 お年寄りとか、普通にお医者さんでもやったりするようですよ」
「そうなの?」
「何度かやればお湯だけ出ます。それからするんですよ。
 そういうシーンもありますが見ます? ってスカトロは苦手でしたっけね」
「見たくないわよ…」
「まぁ、指、入れるくらいなら浣腸しなくても別に。ちょっと汚れるけど」
「汚れるって…」
「手袋とか指サックとかしたりね。なければあそこを触る指とは別の指だけ使う」
あ、顔赤い。
前に入れたときのことを思い出しちゃったようだ。
「結構な性感帯なんですよ。排便すると気持ちいいでしょ? あれが続くわけで」
「でも嫌よ」
「はいはい、こればっかりは中々ね。入れないであげましょう」
可愛いなぁ、うんうん。
「あ、そういえば刺すって? なぁに?」
うん?
「ほら、刺すとか叩くとかって言ってたじゃない。私にはしないって」
ああそれか。
膝から先生をおろしベッドの下から雑誌を取り出す。
もう一度先生を膝に抱え上げ、雑誌を見せた。
「ほら、これ」
乳房に注射針が放射状に刺さっている写真や、乳首を貫通させている写真、
棒ほど太いものを左右の乳首に貫通させている写真。
それから陰唇を貫通させている写真などを見せる。
先生は酷く震えてる。
「怖いでしょ?」
「……こんなこと、したいの? 怖いわ。やめて」
「しませんよ。あなたの肌を傷つけるようなこと。勿体無い」
そういいながら乳首を玩ぶ。
「ここにね、針を。刺すんですけどね。
 注射針じゃなく待ち針なんかだと結構皮膚の弾力に負けてね」
「うぅ…怖いわ…」
「じりじりと刺していくとね、痛がる表情とか恐怖に震えるのとかが見れてね。
 すっごく楽しいんですよねえ」
「やだ…」
「針、指をついたことあるでしょ? あれってたまたまだから刺さるんですよ。
 刺そうと思うと中々針先が入らないんですよね。
 だから刺される人はじりじりと刺されるわけ。エイヤッと刺せば一瞬ですが」
「久さんって本当に酷いわよね…私いじめて楽しんでるでしょ…?」
「それが俺の性癖ですからね。諦めてください」
「ばか」
「あなたが怖がってるの、可愛くて好きだな」
本当に可愛くて。もう一度抱きたくなってきた。
「もう一度しても良い?」
そういいながら乳首を弄っていた手を股間に下ろしていく。
「もうっ、そんなの良いとか言う前にしてるくせに…。
 するならベッドでして。ここはいやよ」
「ここでされてたんだからいいじゃないか」
「やだ、だめよ…」
そのまま弄って更に一回逝かせた。
膝の上で啼かれると何度でもしたくなってしまう。
先生がそのまま寝られなくて俺にしがみつくしかないからどうしてもね。
でもこれ以上は流石に先生の体力がやばい。
ぐったりしてるのを抱えあげてベッドへ。
「お昼寝、一緒にしましょ」
と俺も引き込まれた。
「ちょっと待って、俺も脱ぐから」
部屋着とはいえ脱がねば寝にくい。
寝巻きを取ろうとしたがそのまま引っ張り込まれた。
下帯一つで先生を抱きしめてお昼寝だ。
夕方、目が覚めると先生が風呂から出たところだった。
「あら起きたの? お風呂借りたわよ。あなたも入ってきたら?」
「ん。メシどうします?」
「そうねえ」
「去年行ったあのホテルのフレンチとかどうですか」
「いいわね。お着物借りていいかしら」
「どうぞ、適当に漁ってください」
のそのそと風呂に入り、ざぶざぶと洗う。
拭いてタオルを頭にかぶって出てくると、はい、と下帯を渡された。
下帯をつけて浴衣を引っ掛けてぼんやり座り込む。
そのタオルで頭をわしゃわしゃと拭かれた。
「早く乾かさないと風邪引くわよ。ドライヤー終ったから早く乾かしてきなさい」
その前に、とフレンチの店に予約を入れる。
髪を乾かして暑い、と部屋に戻れば先生がお茶飲んでた。
飲みかけのぬるいのを貰って、それから着替える。
先生も着替えて化粧をしている。
パチン、と音が聞こえた。
「山沢さん、用意できた?」
「はい、いいですよ」
「お手水行った?」
「いやまだですけど」
「行かなきゃダメよ」
「子供じゃないんですから。先生、先どうぞ」
先を譲ってる間に先生が着てきた着物を畳んでバッグに。
車のトランクに入れた。
先生がトイレを出たので交代で入ってそれからホテルへ車で。
フレンチは流石にそれなりに美味しくて。
先生も満足そうだ。
食後、車に乗せてそのまま先生のお宅へ走らせる。
「あら? どうして?」
「うちに連れて帰ったらまたしたくなっちゃいますもん。もうしんどいでしょ?」
先生はくすくす笑ってる。
「やあねぇ、もう。本当に底なしなんだから」
「だってあなたを好きすぎて」
信号待ちでキスをした。
「このままどこかホテルに入りたいくらいにね」
「だめよ」
先生がくすくすと笑ってるのが耳に心地よい。
安全運転で先生のお宅まで。
トランクからバッグを出して渡す。
「上がってお茶飲んでいきなさいよ」
「帰りたくなくなっちゃいますよ」
「明日お仕事なのに?」
「ええ」
「おや、山沢さんじゃないの、こんばんは。絹、送ってきてもらったの?」
「お茶飲んでいきなさいって言ってるのに帰るって言うのよ」
「あんた、首、どうしたんだい?赤くなってるよ」
「あー、ははは…まぁちょっと。明日仕事ありますんでもう帰りますね」
「はいはい、気をつけてね」
「じゃ明後日ね」
「失礼します」
別れて帰宅。自分から帰らせてもさびしいものはさびしいなぁ。
戻って着替えてすぐに寝た。
翌日仕事をこなし昼寝。
先生もきっと今日は一日中あくびしているんだろう。
八重子先生にはばれてるだろうな。
夕方、買物に出て一人鍋。
一人暮らしには慣れているけど先生が帰ってしまった後は何かわびしい。
さて、久々に動画の整理をしないと。
DVDに動画を焼き、パソコンから消して行く。
ふと、こんなこともしてみたい、などと思いつつ見てしまう。
きっと嫌がるだろうけど。
結局ペニバンも使いたがらないし。
なんだかんだ意見通すよね。
そういえば乳首のリング、いつからつけてくれてないんだろう。
ある程度焼き終えて、一旦終了だ。
おやすみなさい。
火曜日、仕事を終えお稽古に行く。
そのまま水屋を手伝い、お稽古を終らせ夕飯をいただいた。
ゆったりと喋って風呂に入ったりでなんだかんだ寝る時間だ。
今日は別に抱かなくても大丈夫。
たっぷり抱いたから。
布団に入れて背を撫でる。
やわらかいなあ。
「ねぇ、今日はしないの?」
「ん?俺は別に今日は大丈夫ですよ」
「そう? 私は…してほしいわ」
え?
「なぁに?」
「や、あなたからそういうとか思ってなかったので」
「私だってそういうときくらいあるわよ?
 いつもはほら、言わなくてもあなたしてくれるから…」
あーたしかに。言わせる暇もなく抱いてるか。
「ね、いいでしょ?」
「勿論。だけどこの間、あれほどしたのに」
「だからよ…」
……ああ、なるほど、しばらくは感触残ってたりするもんなあ。
「どうしてほしい?」
「優しくに決まってるでしょ? うちなんだから」
「恥ずかしいからって怒らんで下さいよ。激しくとかするはずないでしょう、ここで」
真っ赤になって怒ったようなそぶりでその実、凄く恥ずかしがってるんだよね。
そうだ、あれだ。年をとったときのために考えてた遣り方で一丁行ってみようかな。
キスをして、なでて。ほのかにほのかに感じるように。
一気に、じゃなく。
あ、なんか幸せそうな顔してる。
ゆっくりゆっくりとなでて、先生のそろそろ、というタイミングを逃さず入れる。
中もゆっくりと、一気になんてせずにじっくり。
いつもの俺ならじれて一気に揚げてしまうけれど。
今日はまだ大丈夫。
先生が逝った。
気持ち良さそうだ。
これならどうだろうか。
時計を見れば2時間もたっていて、いつもに比べると時間を取ったなぁ。
結構俺が疲れる。
ま、それくらいのほうがいいのかな。
うつらうつらと先生がしだした。
俺の懐に顔を埋めて、すぐに寝息。
つられて寝てしまいそうになる。
よし、感想は明日だ、寝よう。
朝、起きる。
先生は布団にいない。
あれ?
寝過ごしたかな、と時計を見る。
そうでもない。
身づくろいして台所に行くと既にお味噌汁の匂い。
「おはようございます」
「おはよう」
「早かったですね」
「なんだか目覚めが良かったのよねーうふふ」
それはよかった。
「お手伝いすることありますか?」
「お膳拭いてお父さん起こしてきてくれる?」
「はい」
布巾を絞って食卓へ。拭いてお箸などを出す。
それから離れに行き、孝弘さんにそろそろ朝食と呼びかけた。
っと律君もいた。
「あれ?」
「司ちゃん遅くに来て僕の部屋で寝ちゃって」
「ああ、それでお父さんの部屋に避難?」
「他の部屋だと寒くて。夏はいいけど」
「八重子先生の部屋には行かないんだね、やっぱり男の子だなぁ」
「いやおばあちゃん朝早いですし」
そっちか。
居間に戻ると司ちゃんが配膳を手伝っている。
「おはよう、山沢さん」
「司さん、おはようございます」
「おばあちゃんも起こしてきてくれるー?」
台所から指示が飛ぶ。
はいはい、と。
珍しく遅いようだ。
八重子先生の部屋の前で声を掛けると良い所にきたと招じ入れられた。
どうやら髪とボタンが絡んで四苦八苦してたらしい。
ほどいてやっと八重子先生が着替えを再開できた。
帯をちょっと手伝って居間に連れ立つ。
「おはよう」
「ああ、おばぁちゃん、今日は遅かったわねえ」
「髪がねぇボタンに絡まってね。山沢さん来てくれて助かったよ」
「あらー」
座って先生にハイとご飯を渡されていただく。
今日は茗荷とナスの味噌汁、だ。
ちゃんと俺のは具なし。
と思ってたら麩が入ってた。嬉しいなあ。
にこにこと朝食をいただいて律君と司ちゃんは大学へ。
洗い物を片付けて戻ると孝弘さんも外出してしまったらしい。
八重子先生がトイレに立った。
「ねえ、昨日みたいなのだったらもっと年取っても大丈夫だと思うわ」
「え?ああ、昨夜のことですか」
「うん、あれなら。朝起きられるしいいわ」
「良かった、じゃ何年かたったら徐々に切り替えましょう」
「そうね」
ふふっと先生も笑って、俺も笑う。
いつまでこういう生活が出来るだろうか。
さてと、庭掃除でもしましょうか。
庭の枯葉や枝を始末して纏める。
先生が廊下の土埃を掃き落として、俺は靴脱ぎ石を掃く。
庭を掃き清め、居間に戻る。
八重子先生が丼物を作り、軽くお昼をいただいた。
お茶室の拭き掃除を手伝ってお買物へ。
「あなた何食べたい?」
「うーん。あ、昨日シャケ持ってきてますしチャンチャン焼きとかどうです?」
「あら、いいわね。じゃお野菜かいましょ。後は筑前煮作ろうかしら」
「あー筑前煮好きです」
にこっと先生が笑って野菜を選んで行く。
会計して店を出た。
「あっそうそう、トイレットペーパー忘れるところだったわ」
戻って二つ購入する。
「あら飯島さん。旦那さん? お元気そうじゃない」
「あ、いえこの方はお教室の生徒さんですの」
「あらあらそれは失礼しました、てっきり」
とトイレットペーパを見てる。
先生もそれに気づいた。
そりゃね、普通生徒さんとは買いに来ないよね。
生理用品入った袋も提げてるわけだけど。
携帯が鳴った、取ると客からだ。
書く物を、と手振りで示すとボールペンと懐紙を下さる。
ササッと控えてお返しした。
電話の間に適当にお知り合いと別れたようだ。
「また噂になっちゃうかしら」
「何度か立ち上がっては消えてますし。そろそろ噂する人も少ないとは思いますが」
「だといいわねえ」
パパッとクラクション。
「絹ー」
っと八重子先生だ。助手席に孝弘さん。どうしたんだろう。
なにやら孝弘さんを車で回収することになったそうで、その途中で俺らを見たと。
そういって後ろに乗せてくださった。
しかし運転席に八重子先生、助手席に孝弘さん、後部に先生と俺じゃ傍から見るとね。
まるで親世代と子世帯の夫婦が乗ってるようで何かおかしい。
かといって俺が運転して先生を助手席にするのも。
孝弘さんを助手席に座らせて俺が運転するのがいいのかなぁ。
そうこうしてる間に到着。
荷降ししてお夕飯の用意だ。
野菜を洗って先生に渡せばおかずになって行く。
ことことと良い匂い。
おいしそうだな、早く食べたい。
しばらくして食卓を片付けできたものから配膳する。
先生は律君の分を除けている。
「お父さん、お夕飯ですよ」
「ん」
ご飯をよそってもらってお夕飯をいただく。
やっぱりうまいなー。
食後、一服して先生と別れる。
「じゃまた次のお稽古日に」
「はい、いらっしゃいね」
にこっと笑って別れた。
さて翌日、仕事はやはり暇で。
時間も余るからと和菓子屋で羊羹2棹を購入する。
それから風呂に入ったり着替えたりして先生のお宅へ。
「こんにちは。早く終ったんでこれ、買ってきましたよ。孝弘さんお好きでしょ?」
と羊羹を八重子先生に渡す。
「あら、ここの結構美味しいのよね。三国屋さんのお菓子も美味しいけど」
先生が嬉しそうだ。
「ね、お昼の生徒さんにお出ししてもいいかしら」
「どうぞ。余って干からびるよりゃいいですもんね」
「うちは余らせたりしないわよ?全部お父さんが食べちゃうから」
そりゃそうだ。
お稽古のときに生徒さんにも出されて、残り1棹は孝弘さんのものに。
律君が勿体無いなんていってる。
笑って本日は辞去した。
翌日の仕事はちょっと忙しく疲れて帰宅。
昼と夜のお弁当を買って、昼を食べる。
明日のために昼寝をしておこう。
夕方起きて食事。
ちょっと散歩に出る。最近歩いてないからなあ。
ぶらぶらと銀座を歩く。
銀座の女たちの出勤時刻か。
最近の銀座の女の着付けが今一つなんだよな、ぐっとこない。
どうも自分で仕立てない、自分に合った着物を作ってない世代が増えたからだそうだが。
自分で仕立てられるとここは詰めてここは抜いてここを広く、なんて。
体をより美しく見せる仕立てをしたりしてたらしい。
自分で縫わないまでもそんな注文を出して作っていたとか。
今はと言うと標準割り出しで作っちゃうんだそうな。
っと良い着物に目が留まる。
うーん、こんなの欲しい。
って値段が凄いな、130万か。
苦笑してふとその横の太物に目移りする。
会津木綿か。
普段着を作るのにいいな。
いくつか見せてもらって3反購入した。
仕立てはどうされます?と言われたが木綿だし普段着だし。
自分で縫うからと引き取ってきた。
しかし安い。
良い練習になるな、特に裁ち方の。
帰って手を洗ってまずは1枚目を見積もって印をつけて裁つ。
袖を縫い終わって一旦終了。
先生のお宅のへら台は折りたたみ式だったな。
うちにあるのは1枚もの。
いわゆる裁ち台で、足が取り外せるものだ。
見た目ただの板だけど。
普段はナイロンをかけて納戸においてあるが、先生はあるのも知らなかったらしい。
納戸に入るの嫌がってたからだろう。
さてと、そろそろ寝ようか。
針の数を調べて、よし合った。
片付けておやすみなさい。
翌朝、出社。
忙しいというかややこしい半日を過ごし帰宅、すぐ風呂、着替えて先生のお宅へ。
慌しくお宅に飛び込めばぎりぎりセーフ。
先生がくすくす笑ってる。
落ち着いてからでいいわよ、と居間に残されて暫く深呼吸。
用意を整えて水屋に入る。
今の生徒さんの用意は先生がされてお稽古が始まってしまってた。
ギリアウトだったようだ。
失敗失敗。
次の方の用意をして客の席に控えることにした。
正客の稽古だ。
次の生徒さんが来られた。
先生に挨拶、今の生徒さんが終られればすぐにお点前に入れるよう支度なさっている。
お点前を終られたので正客の座を譲る。
次の方の用意、後は次客として。
そんな感じでお稽古は進み皆さん帰られてから俺のお稽古。
「そろそろ真の行、と思うけれど円草をちゃんと覚えたらね」
「はい」
中々スムーズに動かないんだよね。
「許状はもう来てるのよ。だから早く覚えなさいね」
「あ、来てるんですか」
「夏前に引次式したいからそれまでにね」
「うー、頑張ります」
お稽古が終わり水屋を片付ける。
今日の晩御飯は何かなー。
いーいにおいだ。
孝弘さんがメシに執着する理由のひとつは絶対うまいからだろう。
美味しくご飯をいただいて、ゆったりとした時間。
ふと気づくと先生がうつらうつらとしている。
俺にもたれて。
律君をちらりと見る。気にしてないようだ。
暫くこのままでいいか。
孝弘さんと律君が風呂から出て、八重子先生が風呂に。
良く寝てるなぁ。
しばらくして八重子先生が上がってきた。
そろそろ起こして寝かせたら、と言う。
呼んでも起きないので脱がして布団にと言うことに。
ごそごそと帯を解き、着物を脱がせて長襦袢にした。
「もうそのままでいいよ、布団入れてきてやってくれるかい。着物は畳んどくから」
部屋に抱えて入り、布団に押し込む。
居間に戻ると風呂入っといで、とのことで風呂をいただく。
すっかりあったまって出てきた。
「最近どうなんだい?」
「どう、といいますと?」
「絹にされたりしてないかい?」
「ああ、あの2回程度でその後は特には」
「それならいいけどねえ」
炬燵でお茶を頂きながら八重子先生とお話しする。
今週の土曜の夜は先生方はお芝居に行くので家にいない、とか。
んじゃ泊まらず帰りましょう。
「さてそろそろ寝ようかね。戸締りしてきてくれるかい?私は火の始末見てくるから」
雨戸を確認し玄関の戸締りを確かめ、お勝手へ。
八重子先生が火消しつぼの中身を確かめたりガスの元を閉めている。
よし、戸締りの確認完了。
「じゃおやすみなさい」
「おやすみなさい」
部屋に入って先生の寝ている布団にもぐりこむ。
今日は出来ないけど先生の甘い匂いに包まれて気分良く寝た。
朝、目が覚めると先生が先に起きてた。
俺の頭を撫でている。
「おはよう」
「おはよーございます」
まだねむい。
先生は昨日俺が布団入る前に一度トイレに行ったらしい。
眠かったのは生理だそう。
結局出来ないのは一緒だったようだ。
まだ起きる時間には間があると思っていると先生が俺の胸を舐めた。
「なんでなめる?」
「なんとなく?」
疑問符で返されてしまった。
ぺたぺたと身体を触られているが。まぁいいか。
そういう時だってあるよな。
ぴたっと手が止まった。
「そろそろ起きないといけないわねえ」
「ん、そんな時間ですか」
「寒くて。お布団から出たくないわ、でも起きないと」
「俺はお布団より…」
「だめよ」
「はーい」
仕方ないのではなれて布団から出る。
「あ、そうそう、土曜なんだけど」
「お芝居でしょ?昨日八重子先生に聞きましたよ」
「うん、悪いけど。一週間開いちゃうけど大丈夫?」
「火曜日にまぁちょっと我慢してもらうかも?」
「あら、あんまり無茶はしないで頂戴ね」
ふふっと笑いながら身支度をして台所へ。
先生は化粧をするから俺よりほんの少し遅れて。
手早く用意して食事、律君は大学へ。
八重子先生はお友達のところへ。
「お掃除手伝いましょうか?」
「あぁ…それよりお洗濯干してくれる? ちょっと軽い貧血みたい」
「了解、そこで寝といてください」
洗濯機から出して一度畳み、物干しに干して行く。
律君の下着や孝弘さんの下着、八重子先生の下着や先生方の腰巻なども。
はたはたと洗濯物がなびく。
先生は帯だけ解いて横になっている。
「茶室、掃除してきますね」
「ん、おねがい」
窓を開け放ち上から下へ掃除をする。
こんなものかな?と思って居間へ行くと斐さんがいた。
いつの間に。
「こんにちは」
「悪いわねぇ、絹のすることさせちゃって」
「姉さんは茶室はわからないもの、仕方ないわよ。ね、山沢さん」
「じゃなくて洗濯物よ」
「相身互いじゃないですか。具合が悪いときは」
「あら、今時聞かない言葉ねぇ」
「最近は個人主義ですもんね」
ぬるくなった先生のお茶を俺の湯飲みに移動して熱いお茶を煎れる。
「え? ぬるいの捨てたらいいのに」
斐さんは俺が猫舌と知らないんだった。
「この子凄い猫なのよね。濃茶のお正客すると口つけずに隣へ渡すのよ」
「あらあら、じゃお薄はどうしてるの?」
「点てる人がお湯をぬるくして点てるの、それもお稽古よ」
「そうなの?」
「熱いのが好き、濃い目が好きお客様は色々だからそれに合わせるのが本来だもの」
「へぇ。そんなものなのねえ」
「家にお客様きたらその人の好きなもの出すじゃない?」
「ああ、そういうこと」
「そうよー。呼ぶ人が決まってると合わせるの。
 あ、山沢さん。チョコあられ取ってきてくれる?」
ほいほい。
冷蔵庫に入った雛あられのチョコがけを取って居間に戻る。
「お皿」
はい。
気がつきませんでした。
お皿にあけて、お茶のお菓子に。
「やーねー、絹ちゃん。あんた」
「なぁに?」
「旦那を尻に敷いてる奥さんみたいに見えるわよ」
ぶっ。思わず笑ってしまったじゃないか。
「あらー、そう?」
「ただいまー、あぁ寒かった」
「おかえり」
「おかえりなさい」
外は昼前なのに寒いようだ。
「お母さん、おかえり、待ってたのよ」
「あら斐、どうしたんだい」
「それがねぇ…」
身内の話になりそうなので居間から自室へ。
半襟を付け替えたり足袋をつくろったり。
しばらくして先生が部屋に来た。
「布団敷いてくれる?」
「だるい?」
「うん、そうなの」
布団を敷いてる間に先生は寝巻きに着替えた。
敷き終わったところへ横になる。
「そろそろ更年期かしらねぇ…」
「ああ、早い人は35からって言いますしね。
 でもそれならあなたが良いようにしていかないといけませんねぇ、夜」
「夜って?」
「女性ホルモンの量が減るからですよね、更年期」
「そうよ」
「減ると分泌も減るんですよね。
 潤いがないのに無理にしたりして膣炎になったりしやすい。だから」
あ、顔赤くしてる。
「してる途中に乾くようならやり方改めないと辛いだけでしょ?」
「ばか…」
あー、枕に顔を伏せちゃった。
ふふっと笑いつつ、繕い物を続ける。
しばらくして寝息が聞こえ出した。
裁縫箱を片付けて居間へ。
お昼ごはんはどうしようかな。
「絹は?」
「お休み中です」
「お昼どうしようかねえ。あの子の分。ま、いいわ、おなかすいたらなんか作るでしょ。
 あんたら何食べたい?丼でいいのかい?」
「あー、はいなんでも」
「そうねぇ、お肉有るなら開化丼食べたいわ」
「…開化丼?」
「苦手?」
「いや聞きなれないので。何が入ってるんですか?」
「お肉と玉葱をとじたものよ」
「ああ、なんだ他人丼ですか、好物です」
「他人丼なんて初めて聞くわねえ」
「結構色々名前変わりますよね。中身とか。
 私はどこかでカツ丼頼んでソースカツ丼だったのはショックでした」
「それはショックかも」
なんて話しつつ八重子先生とお台所へ。
一緒に作って3人でいただく。
「孝弘さんはいいんですか?」
「私帰ってくるときに出かけてくるって出てっちゃったわよ」
ありゃ。
ふと外を見れば雨雲。
「洗濯物内干しにしましょうか、雨降りそうな気がします」
「ん?あー本当だね、取り込んでくれるかい?」
斐さんと八重子先生が内干しすべくロープなど用意してる。
大物から取っては渡し、取っては渡し。
部屋が多いっていいなぁ。
最後に下着類。
持って入った途端雨が落ちてきた。
セーーーフッ!
八重子先生が少し恥ずかしげなのはやはり下着は他人に触られるのは嫌なんだろう。
俺も先生に下着洗われたりとか嫌だからなあ。
おこたでゆっくりして、さてそろそろお暇しようか。
先生の様子を部屋に伺いに行く。
いい感じに寝息。
寝顔も気持ち良さそうな。
可愛いなぁ。
さてと。
先日お貸しした着物を持って帰ろうと思ってたがあいにくの天気だ。
置いて帰ろう。
手荷物だけ持って八重子先生と斐さんに辞去を伝える。
気をつけてお帰り、と見送られて帰宅した。
うちへ帰る頃には本降りで。八重子先生に持たされた傘が役に立った。
寒いなぁ。
帰宅してニュースや天気予報を見れば今週から来週は真冬の気温か。
また仕舞った服を出さねばならんのか。
面倒くさい。
明日着る物を用意して、軽く飯を食って寝た。
翌朝やっぱり寒い。
客も少なめ。そりゃ寒いしな、来たくないよな。
買う量は多目。明日絶対入荷がないとにらんでだろう。
配達の依頼は沢山ある。
っと先生からメール。
昨日寝たまま見送りもしなかったことの侘びが書いてある。
可愛いなー、ほんわかとなって気にしてないことを返事して仕事に励んだ。
さっさと終らせてお稽古行くぜ!
てきぱきと仕事を終えて先生のお宅へ。
「こんにちは、寒いですねー」
「寒いわよねぇ、いらっしゃい。ちょっとおこたに入ってからにしたら?」
「有難うございます。うぅ」
炬燵に入れてもらって少し温まる。
落ち着いてふっと息をついて水屋の支度を。
今日は…やっぱり何人か、キャンセルの連絡があるとか。
「山沢さんをしごくいい機会だわ」
なんて先生が楽しそうにしている。怖い。
指示をいただいて生徒さんの分と自分のお稽古の用意を整える。
生徒さんが居るときは中級までしか出来ないから。
復習セットだそうで5種目させられた。
忘れてるいろいろを叱られつつ。
生徒さん方が帰られたので続いては円草。
ちょっとは叱られる回数が減ってきた。
「さ、そろそろ片付けましょ」
「はい」
二人で水屋を片付けた。
「お夕飯食べて帰るわよね、あ、でも冷え込まないうちのほうがいいのかしら」
「それともこれからうち来ます?」
にやっと笑っていえばペシッとはたかれた。
「アレ、終ったんでしょ?」
「終ったけど…だめよ。あなたの家だと身体が持たないわよ」
可愛いねえ。
ふふっと笑って許してあげることにしたが。さて飯ねぇ。
空を見る。
雪雲は出てないな。
「お夕飯いただいて帰ろうかな」
「そうしなさいよ、どうせコンビニ弁当でしょ?」
台所へ行くと八重子先生いわく司ちゃんも来てるとのこと。
飯の用意を手伝って、一緒にいただく。
寒いから温かいものにした、と。
厚揚げうまいなー。
ご馳走様をして、片付けようとしたらあんたはもう帰りなさい、と言われた。
今日来たときの格好じゃ夜は寒いから、と。
「あっそうそう、駅まで一緒に行くわ。買い忘れたものがあるのよ」
「今日必要なのかい?」
「明日の朝、要るのよ。今の内に行かないと」
先生がぱたぱたとコートやショールをとってきて、一緒に駅へ。
「寒いですねえ」
「うん…あのね、明日朝から人が来るのよ。だから」
「あー、そりゃうちには来れませんね」
「じゃなくて、いやそうだけど。そのお客さんのために必要なものがあったの」
「ああ! そりゃ失礼しました」
思わず笑ってしまった。
「笑わないの」
きゅっと頬をつねられたが笑えてしまうものは仕方ない。
駅前について名残惜しいが…また明後日ね。と頭を撫でられて別れた。
帰宅してすぐに寝る。
家の中が寒い。布団最高…。
途中夢で目が覚めたりして朝。布団から出たくない。
寒い。
うへぇと思いつつ出勤すれば入荷少なく。
風が強いから仕方ないね。
こっちは雪にならないだけいい。
少し忙しく仕事をして、終って帰宅。
昼遊びに行こうじゃないか。
梅見だ。
亀戸から浅草へ抜けて戻るか、平日だからすいてるだろう。
そう決めてふらりと出る。
バスで亀戸まで。
うん、やっぱりすいている。
そして満開だ。
梅はやっぱりいいね。
東は亀戸湯島台っていうし。
それなりに満足してまたバスへ。浅草へ出る。
さてついでだから足袋を買って帰ることにしよう。
足袋と、ついでに羽織紐にいいのがあって買ってしまった。
衝動買いだ…。
どこかでお茶飲んで帰ろうかな。
っとスタバ発見。
さくらチョコラテwithストロベリーフレーバーとベーコンとほうれん草のキッシュ。
言うのに噛んだ…。
先生とこういう店入らないからなぁ。
うん、甘い。コーヒーベースじゃなかった。
なんとか飲みきって身体も温まったことだし、と帰宅。
ストーブをつけて暫く離れられん。
少し温まってから先日の着物を縫う作業をする。
夕飯をはさんで身頃を縫い終えた。
と言うことで片付けておやすみなさい。
明日は…お稽古だけか。さびしいな。
先生の泣き声聞きたいなぁ。
悲鳴とか。
八重子先生にはこんなこといえないぞ。いくらなんでも。
まさか相談とかしてないだろうな。先生。
などと思いつつ熟睡。

拍手[0回]

h19

さて。
まずは家に帰るか。
タクシーに乗り込み自宅へ。
家に入ってストーブをつけてあたたまる。
流石に火の気のない家は寒い。
少し温まったので昼寝。
やはり人の家というのは疲れる。
先生もうちに滞在すると疲れるのかな。いや体力と言う意味じゃなくて。
うとうとして夕方、腹が減って目が覚めた。
食事に出ようか。
電話。
先生からだ。
京都駅に着いたらしい。
迎えに行きます、と言ってストーブを消し着替えを持って駅に向かう。
駅近くの喫茶店を指定しておいたのでそこに向かい先生を確保する。
宿に連絡をする。一応のためだ。
ちゃんと予約は取れていて、二人で一緒に向かう。
「飯、食いました?」
「ううん、まだよ」
「じゃ、チェックインしたら食いに行きましょ」
今回取った宿はホテルだ。
普通のダブルの部屋。
衣桁を二つ、組み立ててセットし、その下に敷きたとうを置く。
先生の持ってきた、明日お稽古で使う紋付を掛けて広げた。
「ね、あなたは明日どうするの?」
「仕事終わったらすぐ着替えて向かいます。昼の最初に間に合えばいいとは思いますが」
「わかったわ、先に行ってるわね」
部屋を出て降りる。
レストランはどこが空いてるだろう。
日本料理にまずいってみよう。
幸い空いていて、二人お願いして席に着く。
懐石の一番高いの、と思ったらすっぽんが嫌だと仰る。
ワンランク落としたものを頼んだ。
酒は、と言うといらないと。
炊き合わせも焼き物も美味しくいただいて最後の水物まで綺麗さっぱりお腹におさまる。
「お昼もラーメンだったから幸せ~」
「ああ、まだあちら流通が?」
「そうなのよ、私が買物出た頃には早朝に入った分すべて売り切れちゃってたの」
「こっちはこれこのように、と言うようですがでも値上がりはしてますね」
ふうっと一息ついて部屋に戻る。
先生は沢山食べてお腹が苦しい、と敷きたとうの上で脱ぎ、衣桁にかける。
肌襦袢を脱いで寝巻に。
…おいしそう。
食欲を感じ取られたのか急に目をそらされた。
うん、まぁもう少しお腹がこなれたらね。
「意外と早く来ましたね、明日になるかと思ってましたよ」
「お母さんが、いけそうなら早く行ったらいいって言うから」
「まぁ明日の予定を考えればそのほうがいいでしょうね」
「それに、心配だったから」
「心配?」
「その…あなたこっちに馴染みの方とか…」
「あーそういう心配ね。昨日も大丈夫って言ったでしょう?」
「それでも気になるものなのよ」
「そうみたいですね」
「怖い空気出さないで頂戴よ」
ちょっと引いてる肩を掴んで強引にキスする。
「…もうっ」
ふふっと笑って抱きしめた。
「明日の夜、沢山啼かせてあげます」
ああ、みるみる頬から首から赤くなってる。
可愛いなぁ。
「…今日は、しないの?」
「したくないならば。前日に乱れるの、あなた好きじゃないでしょ?」
先生はほっとした表情だ。
「そろそろ風呂入ってきたらどうです?」
「そうさせてもらうわ」
シャワーと浴槽、と言うホテルには珍しい風呂でそれなりにゆっくり入れるはずだ。
俺はその間にビールを飲む。
半分ほど空けると先生が出てきた。
「あなたも入って」
はい、と続いて風呂に入る。
ざっくりあたたまる。
出ると先生が俺の飲みさしのビールを飲んでいる。
「新しいの開けたらよかったのに」
「そんなに飲まないもの、これくらいがいいわ」
「飲み終わったら寝ましょうかね。移動、疲れてるでしょう?」
「そうね、あなたも明日早いでしょうし」
とクイッと飲み切る。
さっさと寝巻に着替えられてベッドに入られた。
俺はもう少ししないと汗が引かない。
寝巻に着替えるだけは着替え、横に腰掛けた。
ぐいっと首に腕をかけられ引き寄せられる。
「なんです?」
がぶ、と胸を噛まれて驚くやら痛いやら。
なのにくすくすと笑い声。
「噛むの好きですね、ったく。痛いですよ」
先生はうふふ、と笑いながら俺をベッドの中に引き寄せる。
横にもぐりこんで懐に抱いて、寝る用意だ。
ぬくいなぁ。
「おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」
髪をなでて寝かせる。
暫く寝顔を見て、俺も寝る。
翌朝、先にホテルを出る。
京都の市場だ。
久々の京都の市場、だが時化の影響で荷物が少ない。
ゆっくりと東京の概況などを報告できた。
客も引けたので食事を取って古馴染みと別れ、自宅へ。
紋付を着て袱紗等用意して直接稽古場へ移動した。
事前に聞いていた場所へ行くと着物姿が数人。
この方たちもかな?
「あら、もう来たの?」
後ろから先生の声。
「はい、なんとか間に合いまして」
横から声がかかる。
「飯島さんのお弟子さん?」
「ええ、そうなんですの」
「男の方教えるのって難しいわよね、でもここの先生男性だからいいわよ」
「ええ、一度灰形のときにお目にかかりましたんですの」
「ああだからこちらにいらっしゃったのね」
「みなさん、そろそろどうぞー入ってくださいな」
後をついて入る。
良く判らないので他の人のやることに従って挨拶をした。
台子が3つ出ている。
奥は真か。
先生たちがあそこかな。
この稽古場の主の先生が割り振ってゆく。
「飯嶋さんは真之行しましょう。山沢さんは行之行。あちらに座って」
指示が飛びみな移動する。
幸い一昨日お稽古したところであまり忘れてはいない。
どれを使うか聞き、用意を整えてお稽古をお願いしてスタート。
微妙な角度などを直される。
いい感じで終わり、絹先生のお稽古を気配で感じつつ。
先生も微妙な点を直されている。
どうやら家元代替わりのときにほんの少し変わったらしい。
そのまま3時間ほどお稽古も済み、先生のお話があり。
散会後呼び止められて残る。
夜のお稽古も参加しないか、と言うお誘い。
私をちら、と見る。うなづく。
「よろしくお願いします」
と夜のお稽古にも参加決定だ。
「飯嶋さんは綺麗なお点前をするね」
「ありがとうございます」
「山沢さんはもう少し肘を張って大きくお点前をするといいよ」
「はい、わかりました」
「最近の男の子はお点前が小さくてね。もっとおおらかにしなきゃいかん」
「この子、女ですの…」
「えっ」
「昨年の勉強会にこの格好で行ったらあちらで受けてしまいまして。
 それから男の点前をやるようにと勉強会で教えていただいたんです」
「男前だからわからなかったわねー」
あっけらかんと補佐の先生が笑ってる。
「ええと、まぁそれでも男の点前をするならおおらかにね、うん」
「はい」
「じゃ晩御飯食べてからおいで、夜は6時からね」
さっと時計を見る。40分ほどか。
ご挨拶して一旦稽古場から出て晩飯を食いに近くの店へ。
「先生、別に女とわざわざ言わなくとも…」
「あらだって同じホテルの部屋なのよ、うっかり知られたときに困るじゃないの」
「まぁそう言われればそうですが」
軽く夕飯を取り、トイレに行き身づくろいを整えて時間を待つ。
お茶を買って先生に。
少し飲んで私にも飲めと。
新しいの買いますから、と買って飲む。
暫く待ち、夜のお稽古に。
客層と言うかやはり昼と夜は違うね。
私は円草、と指示を受けて…やっぱり苦手だ円草。
絹先生は円真を指示されている。
先生はやっぱり先生で流れるような手つき。
夜は奥の点前をやる人が少ないようだ。
綺麗な点前をされるよなぁうちの先生は。なんて目を細めてしまう。
お稽古が終わり、お話。
台子と言うものはどういうときに使うものか、
だから着物もちゃんと紋付を着てくるべきだとかのお話。
夜なので数人仕事帰りのカジュアルな人が居るから釘を差したって所か。
ご挨拶して辞去する。
またこちらに来るならいらっしゃいとのことだ。
「さて、戻りますか」
「そうね」
「どちらから来られたんですかー?」
若いお姉ちゃんから聞かれた。
「東京からなんですのよ」
「うっわ遠いですねーってゆーか雪大丈夫でしたー?」
「大変でしたけど何とかなりましたの」
「あのお点前難しそうでしたよねー」
「そう?」
先生が鞄を整えている間にロッカーからコートを出し、先生に着せ掛ける。
自分も纏いつけて先生の鞄を持った。
「じゃお先に失礼いたします」
「お先です」
二人で連れ立ってタクシーに乗りホテルへ向かう。
「あぁ疲れた…」
「でしょうね」
「ホテルついたらお風呂入ってすぐに寝ていいかしら」
「よっぽどですね、いいですよ」
ホテルに到着し、部屋に上がるとすぐ先生は帯を解いて脱ぎだした。
長襦袢を脱いでばたり、とベッドに転がる。
「寝るなら化粧落としてからですよ」
「ん~化粧落しのシート買ってきてくれない?」
「はいはい、眠いんですね」
普段着に着替え、ホテルから出て一番近いコンビニ…より薬局があった。
薬局でふき取り化粧水のお勧めを聞くとシートよりこれ、とオイデルミン。
懐かしい。
そういえば先生の部屋にもあった気がする。
コットンとともに買って戻ると既に寝息を立てて寝ている。
寝ている先生を起こさないようにコットンに沢山とってそっとふき取る。
スゲー取れる、楽しい。
とりきった後は俺の化粧水で満遍なく拭くといい、と聞いている。
なんでかって匂いが強いから。
強烈だよね、この匂い。
それでも熟睡する先生はよっぽどの疲れだな。
化粧を落としたら髪を解いてあげてベッドの中にちゃんと入れて寝かせた。
さてと。
俺も寝巻き着て寝よう。
おやすみなさい。
翌朝、目が覚めたが先生はまだ寝ている。
時計を見れば6時半、まだいいか。
うつらうつらと二度寝を楽しむ。
次に起きたときは先生は風呂に入っていて風呂場に近寄ると一緒に入ろうと仰る。
まぁどうせ洗顔しないといかんからと一緒に入り、ほんの少し胸など触って楽しんだ。
「昨日はごめんなさいね、眠くて」
「しょうがないですよ、別にね、どうしても昨日しなきゃいけないわけじゃないし」
「でもしたかったんでしょ?」
「まぁね、でも土曜日の夜でもいいですよ」
「今日はいいの?」
「明日朝に先生がお稽古できそうな気がしません」
「あら、それは困るわね」
くすくすと笑って着替えて朝ご飯を食べに出る。
「やっぱりご飯は二人で食べる方がいいわ」
「そうですね、昨日はお一人でしたし」
昨日の朝は一昨日の夜入った懐石の店で昼はカフェに行ったらしい。
朝起きて飯食ってそれから風呂入ってゆっくりして、着替えて飯食って行ったとか。
「一人でホテルにいても面白くないのねえ」
「でもここ色々ありますでしょ?龍村の古袱紗とか宝石とか」
「あ、お茶買ったわよ。お抹茶になるボトル」
「なんであれを。歌舞伎座に売ってましたよあれ」
「あら、そうなの?でも面白いわよね」
「ま、それなりに美味しいですしいいんですが。宝石いりません?」
「していくところがないわ」
「…指輪とか」
「買ってくれるなら古袱紗の方がいいわよ」
連泊、と言うことで朝食の中身が変更されて懐石の店で美味しい朝ごはんをいただいた。
その後、土産物ブースを物色する。
お母さんに、といくつかお菓子などを買って送ってもらう。
古袱紗をこれが良いと言うものを2枚購入した。
そろそろ帰りましょ、と言うので部屋に戻って帰り支度をする。
荷物を纏め、フロントから先生のお宅へ送ることにした。
俺の家では不在が多いからだ。
10時、まだ早いけれどチェックアウトして駅へと向かう。
指定席をとりたいと思ったが1時間ほど先の新幹線のようだ。
それでいいからと発券してもらい、駅の茶房でお抹茶とお菓子をいただいた。
そして改札をくぐり、中で駅弁を物色する。
これが良い、と二つ別のものを買い込みホームへ。
5分ほどで来て、乗り込んだ。
さすがに平日の昼間、すいてる。
自由席でも良かったかもしれない。
「ねぇ、俺の部屋来ますか?それともそのまま帰ります?」
「部屋行ったら明日の朝までに帰してくれないんでしょ?ダメよ」
「そいつは残念」
そんな話をしつつお弁当をいただいて、時間が過ぎる。
後もう少しで東京駅だ。
惜しい。
もっと二人でいたい。
先生はそうでもないようで、明日も逢えるじゃないと仰る。
ここは我慢のしどころなのか。
頭を撫でてもらって土曜日までお預け、と言われた。
頑張ろう。
東京駅に着き、先生は一人で帰れるからと私を置いて帰宅の途につかれた。
いつまでも見送っていても仕方ないので自宅に帰る。寒い。
部屋が暖まると眠気。
もうフテ寝しよう。
小一時間してメールが鳴る。
先生から無事家に着いたとのお知らせ。
よしよし。
ちゃんと着替えて布団にもぐりこむ。
まだ時間は早いけれどおやすみなさい。
夜中二度三度と目が覚める。
先生としている夢。
そんなにやりたいか、俺。
苦笑して仕事に行く用意をして出勤。
やっと入荷もそろってきたそうだがまだやはり時化の影響は有る。
高値で取引されて荷物がなくなって終了。
京都への出張の報告。
あくび、暇だ。
そろそろ終了して帰宅。
飯を食って風呂に入って着替え、お稽古へ。
かったるい、と思いつつだからか乗り換えを少し失敗。
到着して水屋の支度をする。
よどみなく生徒さん方のお稽古がすすむ
つい先生の手や動きに目が動き、これはいけないと思っているうちにお稽古が終わる。
「じゃ山沢さん、お稽古しましょうか」
「いや、今日はやめておきます」
「あらどうして?」
「集中力がなくてどうもできそうにありません」
「そういう時こそしないと」
「いや、ほんと今日は勘弁してください」
「仕方ないわねえ」
じゃあ片付けて、と言うので水屋を仕舞う。
「お夕飯何が良い?」
「いや、も、このまま帰ります」
「…なにか拗ねてたりするのかしら」
「いや、その。違います」
「じゃどうして?」
「んー…その、あなたに触れたくてたまらなくて。だから今日は帰ります」
「あら」
ぽっと頬を染めて可愛い、くそう抱きたい。
「あの、もしよければ今からうちにこれませんか」
「無理よ。土曜ね?」
「そんなあっさりと…」
「明日、出稽古なのよ。だから無理なの」
「あー…それじゃ仕方ないですね」
がっくりきてると頭を撫でられた。
「土曜日、いらっしゃい。夜あちらの部屋でもいいわよ」
「いいんですか?」
「いいわ、だってあそこならあなた道具使わないでしょ?」
「持ち込んでもいいんですけどね」
「あなたに使っちゃうわよ」
それは遠慮する。
「じゃ俺、帰ります。また明後日来ますから」
「気をつけてね」
と頭をもうひとなでされて帰宅の途についた。
参ったなぁ…。
早めに寝るがまた先生の夢で目が覚めた。
仕事中もあまり忙しくないこともあり、どうしてもちらつく。
困ったものだ。
昼からどうしようか。
家にいても先生のことしか考えられないが外に出たら事故に遭いそうな。
溜息。
道具の手入れでもしよう。
納戸に入り、ドライシート片手に掃除をかねて。
いくつか劣化している道具を捨てたり。
ん?携帯が鳴ってる。
取ると先生、どうした?
「ね、暇かしら? お稽古早く終ったの、ご飯食べましょ。近くに居るのよ」
今銀座に居るらしい。
場所を聞いてそこまで行き、一緒に飯を食う。
そのまま先生を俺の家に回収した。
「どうしても抱きたいの?」
「ええ、抱きたいです」
「軽くにできる?」
「わかりません」
「それじゃ困るわ、明日お稽古だもの」
「八重子先生に」
「だめよいつもいつも」
むっとしたのがわかったらしい。
「…明日朝一番で帰れるようにして頂戴。それならいいわ」
先生が妥協してくれた。
「すいません」
恐縮しつつも脱がせて行く。
すべて脱がせて首筋に舌を這わせる。
先生は全くもって気が乗ってないようだ。
仕方ないから、と言う気分がありありと見えてちょっと悲しい。
「先生…土曜なら気が乗りますか?
 も、いいです、こうやってくっついてるだけで今日は」
「しないの?」
「全然やる気ないですよね?」
「したくてしょうがないんじゃなかったの?」
「反応薄いときにしても面白くもなんとも。男なら射精したいからするんでしょうけど」
「困ったわねぇ」
「したくないの我慢してされてもね」
「あらいつもしたくないことさせるくせに」
「あれは恥ずかしくてしたくないことでしょう? 今日のは気分が乗らないんでしょ」
「しないんなら帰ろうかしら」
「それは駄目です。気が乗らないならってだけで俺はあなたに飢えてるんですから」
「あなたってよくわからないわ…」
「する気がないあなたのテンションをあげれるほどの自信はないってことです」
何か言いたそうだけど一つ溜息を落とされた。
「じゃ、こうして一緒に寝てたらいいのかしら?」
「ええはい、それで結構です」
思い通りにならず少しいらつきつつも、先生に触れて。
先生もこちらへの感情はすっきりしないようだ。
触れても嬉しそうでもない。
時計を見る。そんなに遅くはない、往復しても少しは寝れる。
「着物、着て下さい。うちまで送りますから」
「そうね」
ささっと身づくろいをしてすぐ車に乗り込まれる。
先生のお宅まで無言のドライブ。
おうちの前につけてそのまま別れた。
帰宅してすぐに寝る。
翌朝、仕事。
寝不足だ。
少し考えて八重子先生が電話に出そうな時間を選び、電話した。
お稽古を今日は休みたいと。
疲れが出たと言うことにして。
許可を得て電話を切る。
仕事が終わり、帰宅して昼も食べずに寝た。
夕方目が覚めたがメールも着信もなし、ふーん…。
所詮は。
と、良くない方へ考えが向く。
起きているのはよくない。何か食ってもう一度、寝よう。
冷蔵庫から常備菜を出して軽くお腹に入れ、それから寝る。
夜、また目が覚めた。
メールは、なし。着信、なし。
先生のことだから疲れが出たと言うのを信じ込んでいる可能性も有るのか?
鬱々としていると突然玄関が開いた。
ぎょっとすると先生だ。
「こんばんは。具合大丈夫?」
「え。来るなら来るで電話とかメールとか…下さらないと」
「どうして? 浮気してるんじゃなければ突然来ても問題ないでしょ?」
「うちにいないかもしれないでしょうが」
「具合悪いのに?」
「仮病で遊びにいってるとか考えませんか」
「あら、そんなことするの?」
「昔はそれなりに」
「駄目よ、そんなことしちゃ。それよりご飯は食べたの?」
「えっあぁ、はい、食いました」
「それなら良いのよ。まだだったら作ろうと思ってたけど。それで具合は?」
「…なんでもありませんよ」
「そう?」
くしゃり、と頭を撫でられる。
「寝癖、酷いわよ」
そのまま引き寄せるとダメよ、という。
「脱がないと皺になっちゃうわ。ちょっと待ってて」
なんだ、そっちか。
その間に手を洗って口をすすいで戻れば先生が寝巻きを羽織って戻ってきた。
「その前にお茶いただいていい?」
「どうぞ。あ、でもお湯沸かさないと。ペットボトルでよければありますが」
先生はケトルに浄水器の水をとり、沸かして急須にお茶葉をいれた。
「ペットボトルよりは温かいお茶がいいわ」
お湯が沸いて、急須に注いで湯のみを二つもって台所から戻ってきた。
「二つ?」
「あなたも飲むでしょ?」
「いただきます」
温かいお茶をすすってなんとなくささくれた心が落ち着く。
見計らったのか、すっと先生がもたれかかってきた。
キスして抱き寄せる。
温かい。
「おうちの方、いいんですか」
「お母さんが…様子見てきなさいって。だからいいのよ」
「あなたはどうなんです?」
「逢いたくなければわざわざここまで来ないわよ」
「本当に? だとしたら嬉しいな」
先生はふふっと笑って俺の手を先生の胸へ。
やわやわと揉めばゆったりと体重をもたせ掛けてくる。
そのままお茶を飲み終えて、お手水、とトイレに行ってしまった。
うーん。
急須を片付けてるとベッド行きましょ、と誘われた。
今日はする気あったのか。
ベッドの横で先生が寝巻きを脱いで畳んでる。
俺は脱ぎ捨てて先生をベッドに引き込んだ。
「もう、まだ紐…」
「そんなのいいじゃないですか」
しっかりとむさぼるかのようにキスをする。
肌をまさぐり、乳房を掴む。
唇から離し、首筋をなめ、乳首まで来ると先生の息が漏れた。
少しがっつき気味に、それでも先生に傷をつけないように抱く。
二度ほど逝かせて一旦落ち着く。
先生にもそれなりに気持ちよくなってもらえたようだ。
少し経って落ち着いて、顔洗ってくる、と先生が洗面所へ。
それでもちゃんと寝巻きを羽織っていくのは女らしいと言うか。
俺なら面倒くさくて。
しばらくたって戻ってきた。
するり、とベッドの中に入り込んでくる。
「ねぇ?一昨日の化粧落とし。なに使ったの?」
「痒くなった?」
「ううん、化粧のノリがよかったから」
「あなたの部屋に有るのと同じの」
「あら? あれでそんなに落ちるの?知らなかったわ」
「意外ですよね、あれ。安いのに」
そんなことを言いつつ胸を触る。さわり心地良いなぁ。
やわやわと揉んでたのしむ。
「胸、すきねえ」
「感触もいいし、あなたが感じてるのもすぐわかるし、好きですよ」
ぽっと少し頬染めて可愛らしい。
「まぁ、こっちのほうがいい声は聞けますが」
と先生の股間をなぶる。
鼻にかかった甘い声。
潜り込んで舐めつつ中を弄る。
思わず先生は俺の頭に手を掛けて足をじたばたとし、ちょっと蹴られてしまったり。
いてててて。
「ごめんなさ、あ、きゃ、そこ。ん…」
謝る声も中途に喘ぐのが可愛いね。
もう二回ほど蹴られた後、言った。
「ちょっと足縛らせてください、いいですよね?」
縄を取ってきて足首を縛り、ベッドの下をくぐらせてもう片方を縛った。
先生は嫌がりつつも、蹴ってしまった自覚があるから断りきれず。
一応手拭越しにはしてある。
「手は縛らないであげますね」
縄をかけている間ずっと手で隠し、俺が縄を引くたび足を縮めようとしていた。
恥ずかしがってるさまは中々にいいものだ。
その足の間に入り込んで手をどけさせて眺める。
触りもしないのに先生の目が潤み、肌が紅潮して美しい。
膝を折らせて腰を引き寄せ、膝を開かせた。
陰部がはっきりと見える。
「やだ、見ないで…」
「今さらでしょう? おいしそうだ」
ちゅっと濡れているものをすする。
そのまましっかりと舐め、舌をねじ込む。
音を立てて舐めれば恥ずかしげで、膝を閉じようとする。
両手で私の頭を押さえつけて逝った。
あ、白髪。ぷつっと抜く。
「痛っ」
「痛かった?」
「何したの、今…痛かったわ」
「一本頂きました。ここの」
ふさふさした毛を指で触る。
「やだ、そんなのなにするのよ」
「お守りかな」
「やだわ、もう。捨てて頂戴よ」
「大事に仕舞っておきます、ふふふ」

拍手[1回]

h18

朝、仕事を終えていつものように先生のお宅へ向かえば、メールが来ていた。
お宅ではなくあの部屋に直接と言うことだ。
どうしたのだろう。
到着し玄関を開ける。既に先生が居た。
「どうしたんです?こっちって」
「お母さんには台所用品の手入れがしたいって言ってきてあるの。だから」
「だから?」
キスをされて懐にくっついてきた。
「抱いていいわよ」
「抱かれたい?」
ピシャリと額を打たれた。
「私はどっちでもいいのよ? あなた物足りなさそうだから」
「そういうことか。じゃ、有り難く」
着物を脱がす。
「あ、衣桁がないな。着物ハンガーでも買っとくべきでしたね」
「そうねえ」
とりあえず敷きたとうの上に皺にならないように置いて、布団に入る。
「あら、これ寝心地いいわね」
「ほんとだ。こりゃいいや。でもずっと寝てみないと寝具ってわかりませんからね」
「そう?」
「沈みすぎたりね。硬すぎて痛かったりとか」
「山沢さんのおうちのベッドも結構好きよ」
「おや、ベッドの加減を見るほどゆっくり寝たことあったんですか」
「朝、あなたが行った後はお昼近くまで、なんてこともあったでしょ」
「ああ、なるほど」
やわやわと胸を揉み、徐々に手を下げていく。
熱い息が漏れ出す。
こりっと下の突起を指で押さえれば、んっと言う声が出た。
耳を舐めるとくすぐったそうにしている。
「あそこ、舐めてあげよう」
そういってそのまま股の間にもぐりこんで舐める。
「あっだめ、もう」
ぴちゃぴちゃと音を立てて舐めると我慢している風だったが突起に吸い付くと声が出た。
暫く舐めて、軽く逝かせてから指を入れる。
最初は緩やかになぶる。
少しずつ中がほぐれだすと先生の緊張も緩まり声も少し出る。
中を楽しみつつ、徐々に先生のいいところを刺激してゆく。
一旦緩んだ体がまた力が入ってきて抱きしめさせて、とお願いされた。
シーツ掴んでるより俺の背を引っかくほうがいいらしい。
仕方がない人だな、と抱き締めて手を伸ばして中を弄れば背に爪が立つ。
結構に声が出て気持ち良さそうだ。
激しく中を弄れば泣き声に近く喘ぐ。
先生の家ではやらないようにしていることだ。
傷はつけないように、丁寧に。しかし激しく玩弄する。
沢山に声を出させ、何度も逝かせる。
息の荒さからしてそろそろ限界か?
それなりに満足できたからいいけれど。
背を撫でて落ち着かせる。
「もう、いいの?」
「限界でしょ?」
「しばらくしてからなら…」
「そうするには勢いが足らない。ある程度満足したからいいですよ」
「もっと体力つけなくちゃいけないわね」
「俺とするためだけに? 体力の維持だけでいいですよ」
「だって物足りなさに他の人とされたらいやだわ」
「他の人としても楽しくない。あなただからだ。だから。体力の維持は頼みます」
「そう?」
「もしかしてそれで今日呼んだのかな」
「違うわよ」
そういって先生は俺の胸を掴む。
「…まさか抱きたいとかいうんじゃないでしょうね」
「だめなの?」
「そういうことは先言ってください。手をださずに帰りますから」
むっとした顔で乳首を捻られた。
「いやなの?」
「いや、あの…本気ですか」
「冗談で言うと思う?」
「俺は冗談だったほうが嬉しいんですけどね」
にーっこりと笑って俺の乳首を弄りだした。
最初に比べればぎこちなさは少し薄れて。
ちろり、と首筋を舐められた。
……ぞくっとくるものの少しまどろっこしい。
普段自分でするときはとっとと終らせているからだな。
かりっと耳を噛まれる。
いつも俺がしてるのをなぞろうとしているのだろう。
でも齧ったりなめたりすると手がお留守になる。
どうしようか、と迷ってしまう。
このまま抱かれるには煽られようが足りない。
突き放せば拗ねるだろうし…。
遊んでいる手を玩ぶと、胸に置いた手を動かしてないことを思い出したようだ。
俺も昔はそうだったな。
先生はいつそういう余裕が出来るだろう。
いや、そうなったら逆転しそうだからなぁ。このままでいい。
っとキスされた。
指が動けば舌が止まる。初々しくて可愛い。
そろりと下腹部に指がすべる。
焦らしたいというよりはまだどうするのが良いのかわかりかねているんだろう。
翳りに先生の指が侵入する。
突起に指が触れ、俺は少し身じろぎした。
先生は俺の顔を見つつゆっくりと中に指を入れる。
暫く中を探り探り、俺の反応を見ていたようだが…少し俺が反応したものだから、
そこを刺激し始めた。
先生のやりようは茶器を扱うように丁寧で、俺にとってはもどかしい。
まぁそれでも少しずつ追い詰められて、逝ってしまう。
先生は俺が無言なのが気に入らないようでまだ責めてくる。
3度ほど逝かされたが俺の反応が薄いとぼやく。
「そろそろ諦めて下さいよ。やっても面白くないでしょうが」
「…どうしたら声を出してくれるのかしら」
「さあ…とにかく風呂入りましょうよ」
「そうねえ」
やっと諦めがついたようだ。
よっこらしょ、と布団から出て風呂に行く。
バスタオルやタオルは有るが、まだ浴衣を持ってきてないことを思い出した。
まぁいいか、二人だし。
二人でシャワーを浴びて先生の身体に泡立てたソープを撫で付ける。
先生も俺に同じようにしてきた。
「くすぐったいな」
股間も洗ってあげると声が聞こえる。
キス。濯いでタオルで出来るだけ拭いてバスタオルで覆う。
「ああ、そうか。着替えもいくつか置かなきゃいけませんね」
「そうね。折角御風呂入ったんだものねえ。私はいいけどあなたは、ねえ」
「ま、手拭かさらしでもあれば何とかなりますから。持ってる手拭今日は潰します」
「あら、うちまで別にいいじゃないの。穿かなくても」
「…心もとないですよ」
「長襦袢も着てるんだから見えないわよ。すぐそこなんだし」
まぁなぁ。
しばらくしてあらかた汗も引いて着替える。
その後先生は少し台所のものを片付けて、それから一緒にお宅へ。
八重子先生には先生が、片付けてたら俺が来た、と話している。
俺はそそくさと部屋に入り下帯を締めた。
やっぱなんとなく落ち着かん。
居間に戻って先生の横に座ると八重子先生がお茶を入れてくれる。
ちゃんと最近はぬるい。
「お夕飯のお買物、そろそろ行かなきゃねえ」
「なんにしようかねえ」
「山沢さん、泊まってくでしょ?」
「よろしければ」
「ね、そういえば何でいつも白ばかりなの?柄物売ってるでしょ?」
「え?」
「下帯」
「ああ、売ってますね。ただ古い晒の在庫が沢山ありすぎるので、今。消費中です」
「もっと可愛いのにすればいいのに」
「豆絞りとか手拭の古いので作ることもありますよ」
「そういえば昔は皆六尺や越中だったけどねえ。物がない時代は古い浴衣解いたりね」
「六尺はちょっと面倒で。たしかに針も糸もいらないから急のときにはいいんですが」
「そうなのねえ」
「今は褌だとズボン穿いててもすべて脱がずに穿きかえられると言うので自衛隊とか、
 暫く風呂に入れない状況が続く人にも人気だそうですよ」
「へぇ。意外だねえ」
「ああいう人たちはズボンの上からブーツも履いてるでしょう、
 脱がないでいいのは凄いメリットらしいです」
「確かにそうねえ」
「それより何にする?ご飯」
「山沢さん何食べたい?」
「ん、そうですね」
「何でもとかじゃダメよ」
「…ほうれん草の胡麻和えとか、白和えとかどうでしょう」
「メインは?」
「メイン、って俺に聞いたら肉しか言いませんよ」
「ほんっと毎日考えるのが邪魔臭いのよね」
「でしょうね。青椒肉絲とかどうですか」
「ピーマン沢山だからいいねえ」
「じゃあ買う物は…」
とメモに書き出していく。
「俺、行ってきましょう」
「一緒がいいわ、他にも買いたいものあるし」
二人で買物に出る。外は相変わらずの寒さだ。
あれやこれや買って戻って、夕飯を作る。
ご飯が炊けた頃、律君が帰ってきた。
「あれ?今日月曜日だよね」
「こんばんは、律君。そう、月曜日。休み前だからね。
 先生がご飯食べさせてくれるって言うから来たんだよ」
「山沢さんほっとくと野菜食べないから」
「青汁じゃだめですかねえ」
「ちゃんと食べた方が良いに決まってるじゃないの」
律君が笑っている。
「環姉さんも昔よくおばあちゃんに言われてたわよ」
「今は言われないんですか?」
「会社に住んでるくらい家に帰らないのよね。開兄さんが作ってるみたいよ」
「へぇ開さん料理できるんですね」
「一人暮らししていたのよ、だから出来るんじゃないかしら」
もしかして三食カップめんとかじゃなかろうな。
律君が手を洗ってきて、孝弘さんを呼びに行く間に配膳する。
うまそうだな。
先生は胡麻和えを俺の分だけ先に小鉢にとってくれる。
最低これだけは食え、と言うことだ。
小鉢から先に頂き、青椒肉絲を食べる。合間に更に胡麻和えを。
美味しくいただいてご馳走様を言い片付ける。
洗い物を終えて居間に戻り団欒に混ぜてもらった。
テレビを見ているうちに先生が思い出した。
「ねえ山沢さん、明日浴衣縫わない?寝るときの」
「あ、いいですね。でも反物がないですよ」
「買いに行きましょうよ。律もいる?」
「えっいらない、僕はパジャマでいいよ」
「そう?」
お風呂を沸かして順番に入り、各々部屋へ。
先生方と一緒にしばしおしゃべりをして、そろそろ寝る時間だ。
昼、楽しんだのでスキンシップの範囲でいい。
懐に抱いて、キスして撫でる。
先生もそれくらいで良いようだ。
息も穏やかだし、鼓動も早くはない。
先生がうつらうつらして、そのまま一緒に寝た。
翌朝、すっきりと目が覚めるもやはり寒い。
布団から出たくない。
と言えば私も、と先生が言い顔を見合わせて笑う。
時間も時間、あきらめて布団から出た。
最近先生は俺の部屋である程度身づくろいをする。
暖房を入れてない部屋で着替える気にはなれないよね。
俺の支度は手早いのでとっとと台所へ行き、朝食の支度にかかる。
というか寒いのには慣れている。
八重子先生も出てきて、お味噌汁や玉子巻を作ってもらった。
先生は居間に暖房を入れ、食卓を拭いたりお茶碗をだしたりしている。
律君が起きてきて、孝弘さんを呼びに行った。
てきぱきと配膳されている。
「お父さん、部屋で食べるって」
「じゃ持ってって頂戴ね」
お盆に孝弘さんの分載せて、渡す。
「あ、先生、味噌汁」
「あら、そうそう、やあね」
先生の分を孝弘さんに回されて、律君が運んでゆく。
俺は台所へ行き、孝弘さんの汁碗に味噌汁をついで先生の前へ置いた。
お二人とも変な顔をされる。
「なにか?」
「いやなんでもないよ」
律君が戻ってきて朝食を取る。
やっぱりうまいな。
和食の朝食はなんかいいよね。
お漬物で〆て洗い物に立つ。
洗い終わって戻るとお買物行きましょ、と先生が仰る。
「近くだからそのままでいいわよ、コート着てらっしゃい」
上着を羽織って玄関へ。先生もコートをきてショールもして完全防備だ。
先生に連れられて近所の呉服屋に行く。
「浴衣地をいくつか見せていただけますかしら」
「こんな季節にですか?」
「ええ、この子が襦袢代わりにいくつか作りたいと言うので」
「じゃ採寸などは」
「自分で縫うと言いますから」
そう先生が言うと奥からいくつか浴衣地が出てきた。
藍染のものばかりだ。
襦袢地にするならそれがいい。
いくつか見て5反ほどこれがほしいと言うものがあった。
先生もいいと思うものがあったようだ。
あわせて6反を購入し支払う。
帰宅すると針箱を八重子先生が出してきた。
「裁ちあわせ出来たかねえ?」
「どうでしょう、ま、失敗したところで寝巻ですし」
「それもそうだね、じゃどれからする?」
んー、まずはこれかな。立湧。
「私はこれがいいわ、桜」
決まったので裁ち落とす為に物差で計りつつしるしをつけつつ。
着物と同じ、と言うわけではなく対丈だから寸に悩む。
「3尺半くらいでいいんじゃないかねぇ」
「まだ若いから胸の分1寸取った方がいいわよ」
褄下の寸のとり方などを教えてもらいメモに控えつつ裁断。
裁断が一番難しい。
なんせ後は8割はまっすぐ縫うだけだ。
八重子先生はおこたに入ってしまわれた。
先生とちくちくと縫う。
時たま俺が針を指に刺し、先生が心配そうな顔をする。
先生は流石に突いたりしない。
お昼の時間になり八重子先生が簡単なものを作ってくださる。
三人でいただいた。
食後、縫い物を再開。
ひたすら直線縫いである。
「うっ」
「あら、大変」
親指の爪に刺さってしまった。
と言うか爪を貫通して身までいった。
「大丈夫です、これくらい」
と針を縫い、針先をぬぐってまた縫い進める。
「私もうすぐ衿だから手伝いましょうか?」
「いや、一つの着物を二人で縫うのはいけないと言うじゃないですか」
「そうだねぇ、昔はそんなこと言ったねえ」
黙々と縫い先に縫い終えた先生が炬燵に入る。
八重子先生がお茶を入れて、先生がお茶請けを出して居る。
「あなたもちょっと一息入れたら?」
「後もう少し、ここ縫えたら頂きます」
ちくちくちく…。
よし、後は衿だ!一休みだ。
伸びをし立とうとしたらよろけて先生に笑われた。
へへ、と笑って炬燵に入る。
ううー、あたたかい。ぬるめのお茶と、お干菓子をいただいて暫く休憩。
しばし談笑し、先生方は夕飯作るわ、と台所へ。
私は衿付けをする。
半分ほどつけた頃、先生がそろそろご飯にするわよ、とおっしゃった。
切りの良いところで針を止め、少し片す。
待ち針の数を数え、ちゃんと有ることを確かめてから食卓についた。
孝弘さんも美味しそうにご飯を食べている。
律君はもう食べ終わったようだ。
俺と孝弘さんが食べてる姿を見て、先生はにこにこしている。
律君は課題残ってるからと部屋に戻ってしまった。
食後片付けに立とうとしたらとどめられて残りを縫う。
やっと縫えた頃には夜も10時。
寝ましょ、と誘われた。
針を数えてちゃんと有ることを確認して針箱を仕舞う。
身体がきしむなぁ、流石に。
「随分手が早くなったわよね」
「そうですかねぇ」
「最初の頃は背縫いだけで半日つぶれてたじゃない」
「もう少し早くなりたいですね。先生は早い、うらやましいです」
「お母さんはもっと早かったわよ」
そんな会話をして寝間に入る。
着替えて布団を敷き先生が髪を解くのを待つ。
後ろからそっと胸に触れる。
くすっと先生が笑う。
「昨日したのにまたしたいの?」
「明日の朝からあちらでたっぷりのほうがいいですか?」
「疲れてるくせに」
「疲れてるから、ですよ」
「今日は寝なさい。明日お昼からならいいわよ」
では、と布団の中へもぐりこむ。
頭を撫でられてキスされて。
たまに子ども扱いをしたくなるらしい。
今日のところはいいとするか。
キスのお返し。
「すっかり冷えちゃってるわね」
「あなたを抱いたら温まりますけどね」
「ばかね」
そういって私の胸に頬を寄せる。
かわいいなぁ。
だけどやっぱり眠くなった。
先生もうつらうつらとして寝息に変わり、つられるように自分も寝てしまった。
翌朝、起きると先生はもう部屋にはいなくて時計を見ればいつもより1時間遅い。
台所に顔を出せば孝弘さんを呼ぶように指示を受けた。
ほんっと先生そういうところ気になんないんだなぁ。
孝弘さんを連れて居間に戻ると配膳はすんで律君も座っている。
朝御飯をいただいた後、昨日縫った浴衣を八重子先生が点検してくれる。
ここの仕上げが甘いとか、縫えてないとか。
そのあたりを直して着てみる。
いい感じだ。
OKが出て普段着に着替えた。
さて。
あちらの片付け名目で先生を連れ出そうか。
そろそろ、と先生に言うとお昼からに、と仰る。
少しむっとした。
「じゃ先に行ってます、昼は適当に食うからいいです」
と先生のお宅を出た。
先に入ってベッドの位置を少し調整したり、戸棚の中身を整えたり。
冷蔵庫、必要だな。
時計を見れば10時。よし、ちょっと電気屋に行こう。
バス通りに出れば先生に遇った。
「あら?」
「どこ行くんですか」
「あなたこそ」
「俺はちょっと冷蔵庫、買おうかと」
「いるかしら?」
「電子レンジとトースターも欲しいかなと。でどこに行かれるんです?」
「髪結さん。そろそろカットしてもらおうと思って」
「へぇ、楽しみにしてます。じゃバスきたようですのでまた」
バスに乗ると窓の外で先生が小手を振っている。
暫くバスに乗り、降りて電気屋へ向かう。
量販店だからそれなり。
そんなに食品を入れはしないから、いわゆる一人暮らし用程度の、と思っていると
フレッシャーズセールをしていたようだ。
だが洗濯機は別段必要ではない。
まぁ構成的には似たようなものなので店員を捕まえて洗濯機を抜いた交渉をする。
10万と言うところに落ち着いて、配達はと聞けば今からなら1時間後にOKとのこと。
配送をお願いし、食事を買って戻った。
中でもそもそと食べてごみをひとところに纏めた。
しばらくして配達員が来た。
中に入れて設置してもらった。
うん、いい感じだ。
先生の希望する部屋の色彩感覚から大きくは逸脱してないだろう。
小一時間ほどして先生が来た。
「…変わってなくないですか」
「ほどいたらわかるわ」
「ほどいていい?」
「いいわよ」
先生の髪を解いて。
「ねぇ?さっき苛々してたでしょ?」
「わかりますか」
「生理前なんじゃない?」
「それは…わかりませんね」
ほどきおわったのを見計らって先生が俺の胸を押す。
「やっぱりそうよ、胸張ってるじゃないの」
そんな気はしてた。
「マッサージしてあげるわ」
「却下、いらついてるの知ってていいますか、それ」
「だってした方が楽なのは知ってるでしょ」
「知ってますけどね、そんなことより抱かれて欲しいです、俺は」
ぱっと先生の頬に朱が差す。
そうっと頬に手をやりキスした。
そのまま舌を絡め、抱きしめて背を撫でる。
唇を離すと頬を染めたまま、脱ぐから待って、と言った。
「嫌ですね、そのまま抱かせてくださいよ」
「…ベッドにも連れて行ってくれないのね?」
「勿論」
「じゃあさせないわ」
手が止まった。させてもらえないのは困る。
うぅ、だったら脱がしてしまえ。
帯締めを解いてお太鼓を崩し、先生が脱ぐ手伝いをする。
肌襦袢まで全部脱がせ、ベッドに押し倒した。
しっとりと汗で湿っている肌を舐める。
どこを舐めてもいい反応で気を良くして乳首を舐めて、軽く歯を当てる。
あぁ、と少し高い声。
虐めたくなる。
腹をなめてひっくり返して背も舐める。
足も。
先生はされるがままになってくれている。
尻を舐めて、軽く開いてあわいを舐めるとほんの少し抵抗が有る。
手を差し込み尻を突き出させて尻穴を舐めると、そこは違う、やめてと仰る。
少し舌を押し付けると身体が逃げる。
暫くなぶって楽しみ、それからそっと突起を舐める。
気持ち良さそうな声が出てやはり尻穴よりはこっちのほうがいいようだ。
目を瞑って喘ぎ声を上げている。
指を入り口のあたりで入れたり出したりしていると押し付けて自分で入れようとする。
それでも入れずになぶってるとお願いされた。
可愛いね、可愛い。
そっと指を入れて中を楽しむ。
中のいいところを探って刺激を与えると尻やおなかの筋肉がぴくぴく動く。
指を増やし更に強く刺激すると喘ぎ声も高くシーツを握り締めて逝った。
脱力してつぶれそうになってるのでひっくり返して仰向けに。
手が伸びて抱き寄せられた。
「後ろから、いやって言ってるのに」
まだ何か言いたそうな唇にキスをして封じる。
そのまま中をまさぐると苦しそうだ。
ンー、ンンと鼻から声が漏れていて流石に辛そうなので唇を離す。
離した途端大きく声が出て、我慢してたのが可愛くて。
思わずなぶる手に力が入る。
沢山なぶって啼かせて楽しみ、先生も何度も逝って満足そうだ。
抱え上げてお風呂に連れて行く。
よだれと汗にまみれた身体をソープで優しく洗い、ふき取る。
風呂でも一度逝かせてしまった。
ついつい楽しんでしまう。
なじられつつ浴衣を着せてリビングにつれて出た。
まだ腰が立たないようで俺にもたれている。
「髪、確かに短くなりましたね」
「でしょ」
「でもセットするとよくわからないな」
「あなたもそろそろ切らなきゃだめよ? ほら、目に入りそうよ」
「あー、後ろに流してるとわからないんですよね」
つんつんと前髪を引っ張られる。
確かに長くなってた。
「今度切ってきます」
くしゃくしゃっと頭を撫でられてキスされた。
「もう一度したくなったな」
「ダメよ、そろそろ戻らなきゃ」
「いやだ」
「お夕飯のお買物行かなきゃいけないもの」
「あー…」
「あなたも食べてから帰る?」
「八重子先生にお願いしてもうちょっと抱かれてくれません?」
「外寒いんだから風邪引いちゃうわよ、お母さんが。
 そうなったら暫くこんなこと出来なくなるわよ?それでもいいの?」
「うぅ…仕方ないな」
「もうちょっとしたら戻りましょ」
あきらめて暫く先生の立てるまで寄りかからせたまま話す。
「そろそろ立てそうだから着替えるわ」
そろっと私の肩に手をかけて立ち、襦袢とって頂戴、と仰る。
肌襦袢や襦袢、長着を着るのを手伝い、帯を締める。
先生が髪を直す間に俺も着替えて。
ベッドを整えて、シーツを回収する。
明日洗うわ、と仰るが洗濯乾燥機も買ってきておけば良かっただろうか。
一旦お宅に戻り、夕飯の買出しに行く。
今日は肉じゃがだ。
…なるほど、肉じゃがも豚肉なのか。
切り干し大根と五目豆と肉じゃがとかぶの炊いたん。
こういうメニューはすきだな。
帰宅すると既に八重子先生が切干と五目豆を作っている。
かぶと肉じゃがを作るだけである。
ジャガイモの皮をむいて、玉葱を切って。
かぶの皮もむいて葉は刻んだ。
それを先生が煮炊きする。
美味しそうな匂いが段々してきて孝弘さんが台所に来た。
先生が戸棚から饅頭を出して渡し、居間で待っててと言っている。
さすがに長年の付き合いで操縦に長けている。
肉じゃがが煮えて、ご飯が炊けた。
そろそろ律君も帰ってくるかな。
「ただいまー、あー寒かったー」
丁度良く帰ってきたようだ。
「律ー、手洗ってきなさい、もうご飯できてるから」
配膳を終えて八重子先生も座り、後はご飯を入れてもらうだけだ。
いつだったろう、お茶碗とお箸が客用じゃなくなったのは。
などと思いつつごはんがうまい。
食後一服してから帰る支度をした。
「明日お稽古だからちゃんと来てね」
「はい、ではまた明日」
別れて帰宅。
寝る準備をしていたら、来た。
ピルはなぁ…面倒くさいんだよな。
などと思いつつセットして寝る。
翌朝出勤し、仕事をこなす。
明日は稽古がないから今日チョコを持っていかねば。
なんて思いつつ仕事をこなして帰宅し着替えてチョコを持って出発。
どんよりとした空だ。
先生のお宅へ着き、部屋に荷物を置く。
渡すのは帰りでいいだろう。
居間に顔を出し今日来られる方の用意について聞き水屋の支度をする。
最初のお弟子さんが来られて、先生が戻ってきて時間だ。
今日はその後もすいすいといい感じでお稽古がすすむ。
最後に私の稽古をつけてもらって水屋を片付ける。
「あなたご飯食べてくでしょ?」
と言っていただいて食事をいただく。
おいしいなぁ、相変わらず。
その後、先生に台所でチョコをお渡しした。
頬を染めて嬉しい、と言ってくださって俺も嬉しい。
あのね、と仰って冷蔵庫から。
俺にも下さるそうだ。
本気で嬉しくて、そのままさらいたくなる。
先生から軽くキスだけ。
後は土曜日に、と。
別れ難いが明日も仕事、と送り出されて駅へ。
電車が来ない。
聞けば事故でいつ回復するかの見通しが立たないようだ。
タクシー呼ぶか、と電話するもどこも捕まらず配車できるのは夜中になるとのこと。
社長に電話し、明日遅れる可能性を連絡する。
『明日、雪酷いらしいぞ。お前こっちに辿り着けないんじゃないか?
 道で動けなくなったら俺ら男ならいいがお前はなぁ。
 もし稽古場に泊めてもらえるなら泊めて貰え。心配するよりはいい。
 どうせ雪なら客も来ないしな』
社長がそういってくれたので駅前の薬局で生理用品を買い込み、戻ることにした。
お宅まで戻って先生にお願いした。
「すみません、泊めてください」
「あらどうしたの?」
手短に理由を告げるとじゃお風呂、いま入っちゃいなさい、と仰る。
ありがたく風呂をいただく。冷えた身体に気持ちがいい。
ほかほかになって出てすぐショーツと生理用品を身につけて、それから浴衣をまとう。
俺の寝間に暖房を入れておいたから、と言っていただいた。
暫く居間で歓談し、そろそろ寝ましょうか、と部屋に連れ込む。
先生は抱かれる、と思って頬を染めて部屋に居る。
可愛らしいな、そういうところが好ましい。
おいで、と膝の上に先生を乗せる。
後ろからふわっと抱く。
「今日、抱いて欲しい? 別に、と言うのなら今日はいいですよ」
「どうして?」
「明日積もるんでしょう? 男手必要じゃないですか? 男じゃないけど」
「私を抱いたら疲れちゃうかしら?」
「そんなには疲れませんが…」
「だったら…」
と、先生は俺の手を懐に自分から持っていった。
「ね?」
抱かれたかったようだ。
ふふっと笑って少し胸を触って楽しむ。
「布団、入りましょうか」
中に入って先生を下に、キスして胸を揉む。
やわらかくて、乳首はピンと立って。
ふっふっと弄るたびに息が漏れる。
「先生、可愛い」
「やだ…ばか」
乳首を舐めて軽く歯を当てて先生の息の乱れを楽しむ。
手をあちこちに這わせば先生の腰もうねる。
そろそろいいか、と股間に指を差込みなぶるとキスして、と言われた。
キスしながら突起をしごいたり中に指を入れたりして楽しむ。
二度、逝かせて今日は終了。
懐に抱いて背中を撫でながら明日の雪は深刻だろうか、など話して、そして寝た。
翌朝、居間のテレビを先生がつけた。
なにこれ、雪こんなに酷いのか。
「あなた泊まって正解だったわねぇ」
「ですねぇ」
台所に入り朝食の支度を整えた。
「後で保存食系、買ったほうがいいかもしれませんね」
「そうね、お父さんのお米だけでも買わないと」
ラーメンだと3,4箱くらい買ったほうが無難だが、この天気図。
カップラーメンなんて食うのだろうか、先生が。
いまいち想像できない。
「あと灯油、どれくらいありましたっけ」
「今のところは10日分は有るわよ」
「あ、じゃ大丈夫ですね」
「そんなに降ると思うの?」
「ま、一応ですよ。雪国の友人がね、東京はすぐ雪で基幹が止まるから備蓄しろと」
「おはよう」
「あ、おはようございます」
「凄い雪だねぇ都心の方も」
「そろそろ律起こしてくるわ」
八重子先生と支度を続ける。
「八重子先生、カップラーメンって食べます?」
「何度か食べたことは有るけどね。チキンラーメンは一人のときに食べたりするよ」
「あぁやっぱりチキンラーメンですか。脂っこくないです?」
「ちょっともたれるねぇ、だからあんまり食べないんだけどたまにね」
「この雪、もしかしたらラーメンのお世話になるかもしれませんよ」
「そんなに降るかねぇ」
「雪国に住んでる友人がそれくらいのつもりで居るほうがいいとメール寄越しました」
先生が戻ってきて配膳する。
皆そろって食事を取り、片付けを終えて外を見る。
「積もってきましたね」
「そうね。今日のお稽古の生徒さん、来れるかしら」
「ああ、今日は上級でしたっけ。若い方少ないですもんねえ」
「律、今日帰ってこれるかしらね」
「無理かもしれませんねえ、こないだのように積もったら」
「そうなったらお友達のおうちに泊めてもらわなきゃいけないわねえ」
「とりあえずまだ降りの少ないうちに買物出ましょうか」
「そうね」
冷蔵庫を漁って見積もると3日分は有る。
であれば6パックほど買えばいいか。
先生が雨ゴートを着て出てきた。
傘を差してゆっくり滑らないように気をつけて歩く。
スーパーはまだ商品豊富だ。
6種類にわけて袋麺を取り生鮮食品を買いまわり支払い。
米屋に立ち寄り30キロを購入して帰宅する。
先生が滑ったのを転ばないうちに支えたり、自分が転ばないように歩いたり。
帰宅して片付け、水屋の準備にかかる。
炭をおこしたり台子を用意したり。
会社から電話がかかってきた。
『今日出勤しなくてお前正解。いつもの2割だ、客自体来なかったぞ。
 それからこのまま降り続くなら暫くこっち戻れないだろうと思うが、
 どうせ時化と道が通れなければ魚も来ないからな、除雪されてからでいいぞ』
「あー了解、そんなに客いないの?」
『客先もキャンセルばかりだからな。ピザ屋ははやってるらしいぞ』
だろうなぁ
雪が終了するまでこの家か。
まぁしんどければあっちへ逃げればいいし。
11時、一人目の生徒さん到来。
ちゃんと紋付色無地だ。
先生もいつものクラスの生徒さん相手とは少し違い、ほんの少し厳しい。
俺相手のときよりはかなり優しいけれど。
二人目の生徒さんを終えて先生と食事に立つ。
八重子先生が夕方の生徒さんは無理だと電話があったと言う。
やっぱりなぁ。
お昼からの生徒さんお二方は俺の臨席を禁止され、水屋のみお手伝い。
3時半、次の生徒さんから電話。
立ち往生して引き返すしかない模様。
先生にそう伝えると吃驚されて、お稽古の終ったところの生徒さんも慌てて帰宅された。
外を見れば結構に積もっていて、先生にスコップが有るか聞けば蔵に有るはずという。
借りてとりあえず家から道路まで少し雪をよけておく。
滑ったらやだしね。
この降り方なら4時間に一度くらいしておくべきかな?
屋根を振り仰げばまだ大丈夫そうか。
明日の雪かきのときは屋根雪を下ろすほうがよかろう。
安全帯はさすがにないだろうが縄かロープは有るかなぁ。
八重子先生に聞けば庭木用の縄が有るとのこと。
命綱になる。
屋根から落ちるとかイヤ過ぎるし。
どうしてもとなれば青嵐に乗せてもらう手が有るがそれはさすがに夜中だけにしたい。
夕飯をいただいた後、仕事着に着替えた。
ある程度除雪し、部屋に戻り濡れた服を乾かす。
「あとは寝る前にもしておくほうがいいでしょうね」
「そうね、助かるわ」
ゆっくりとお茶を飲みあたたまる。
いい感じで外は更に降っている。
「外、凄いわね…律から電話あったのよ、さっき。帰れないって」
「そりゃそうでしょう」
先生の体温で暖を取るかのように手に触れたりして時を過ごす。
そろそろいつもなら寝る時間が来て、再度防備を固める。
スコップでがんがん道を掘って広げておく、せめて外の道路へ。
その後塩をかけておいた。
戻って服を吊って寝間にもぐりこむ。
先生は起きて待っていてくれたようだ。
一緒に布団に入れば俺の身体が冷えてる、と抱きしめてくれる。
あったかいなー気持ちいい。
柔らかい肌。
暖かい肌。
いい匂いがする。
疲れもあり、すぐに寝てしまう。
翌朝起きると銀世界、どんだけ積もってんだこの野郎!
とりあえず身支度整えて雪かきだ。
道路までの道をつけ、うちから雑木林の太い木までの道をつけた。
一旦火に当たって朝飯をいただく。
そして一服して気を入れなおし、屋根の雪下ろしをする。
まずは腰にロープを結わえて2階の柱に括りつける。
窓から足場を作りつつ出て雪を落とす。
まずはロープの範囲を落とした。
そして先生に新たにロープを投げ勾配と反対側の雑木に端を結んでもらう。
OKが出て八重子先生に柱につけたロープを緩めてもらった。
そうやって雪をあらかた落とし、2階のロープを引いてもらいつつ戻った。
先生はおやつを餌に孝弘さんが縁側近くの雪を蹴散らしているようだ。
上手だよな。
テレビでは都心部のことしかやってないようだ。
7時ごろ律君から様子伺いの電話があったそうだがこちらの状況を伝えたところで、
この雪では律君もこちらへは戻れないだろう。
お昼ごはんをいただいて、うつらうつらとしてしまった。
ふと気づくと先生の膝枕に毛布がかけられていて少し気恥ずかしい。
頭を撫でられて、もう少し寝てたら?と仰るがまた強く降ってる様だ。
後でもう一度、とお願いして身支度を整えて雪の中へ突撃する。
道を作ってついでに八重子先生の車から雪を落とす。
車輪幅をとって外の道路までの道も作った。
これで何とか出られるかもしれんし。
道路さえ除雪されれば。
しかしカーポートなくてよかった。
近所の家はカーポートがぽっきり逝ってるらしい。
さて余力はまだ有るか。有る。
道路に突撃だ。両隣の家までの歩く道!
えっさほいえっさほいと雪をどかし、排水溝を探してそこもあけておく。
これがあいてると凍結しにくくなるはずだ。
ふーっと身体から湯気を発しながら戻り、上着とズボンを脱ぐ。
先生がいそいそと干してくれて、八重子先生が着替えを出してくれた。
座布団を枕に先生の尻に背をくっつけるようにして少し寝る。
ふと温かみが消えた頃、お夕飯と起こされた。
買い置きのものばかりだから、と言うが十分美味しくて。
幸せな気分。
頼られて、甘やかされる。幸せだな。
さて、雪は止んで居るらしい。
そんじゃまあ本日ラストの雪かきしましょうかね。
あの後そう降らなかったようでササッと道路まで除雪。
隣の家までだった道を更に幹線道路へ向けて掘り行くことにした。
いけるところまで掘り進む。
有る程度踏み後が有るので随分楽だ。
汗でぼとぼとになる頃、道路に辿り着いた。
これでいいだろう。
疲れた、ととぼとぼと帰る。
ただいま、と入って服を脱ぐ。
「お風呂沸いてるわよ、入って」
と風呂に入れてもらった。
冷え切った身体にお湯が気持ちいい。
風呂から出てショーツに生理用品をセットして寝巻に着替える。
居間に戻るとテレビでは山梨の話が出ている。
あちらも凄いようだ。
あったまってるうちに寝るよう言われて、先生と寝間に入る。
懐に先生を抱いて、先生の温かさ、匂い、肌を楽しむ。
胸を舐めたら、そんなことしてないで早く寝なさい、と仰るが。
「だってこうしてたいんですもん」
そういうと仕方ない子ね、と仰って頭を撫でてくださる。
暫く先生の柔らかい胸を楽しんでると先生の寝息が聞こえ出した。
先に寝ちゃったか、先生も今日は孝弘さん操るのに疲れたのかもな。
綺麗だよなぁ、先生。
くっ寝息に引き込まれる。
おやすみなさい。
翌朝、警察の救助隊や自衛隊が各地に派遣され始めたと聞き、
ようやく落ち着きを取り戻す。
ただやはり今朝はラーメンになってしまった。
定番の醤油ラーメンから。
孝弘さんが更にご飯を食べている。
さてさて今日はどんなものだろうね。
先生と二人偵察に出る。
他の家の前は積もった雪で歩きにくそうだがうちは綺麗さっぱり除雪、道は乾いてる。
幹線道路への道も乾いていて、俺が昨日やったのは正解だったようだ。
道路は機材が入ったり人海戦術で少しは道になっていた。
スーパーまで行ってみるが、ろくなものがない。
やはり入荷できてないとのこと。
明日、もしかしたら入荷できるかもしれないようだ。
電車は、と思えば線路がまだ雪山らしい。
「こりゃあ…律君帰って来れませんね」
「あなたも帰れないわねぇ」
「帰らなくていいなら帰らないでいいんですけどねえ」
「そういうわけにいかないものね」
さくさくとおうちまで戻る。
途中ご近所の方と立ち話。
「飯島さんのところはいいわねぇ、うち屋根壊れちゃったのよ…雪で」
「あらぁ、大変ですわねぇ」
「車も屋根がへこんじゃってねぇ」
「あらあら…」
などと会話をしてお気をつけて、と別れて戻った。
「ただいまぁ」
「お帰り、どうだった?」
「道は有るけど大通りはダメねぇ、やっと今ショベルカーだったかしら、
 そんなのが来てたわ。スーパーは何も棚にないんですって」
洋服から着物に着替える。
先生はやっぱり着物のほうが楽みたいだ。
「横田さんとこ屋根が壊れたんですってよ。
 雪下ろししてもらわなきゃうちも壊れてたかしら」
「かもしれないねえ。それにしても。暇だねえ」
「ご飯作れないものね、暇よねぇ」
「ですね」
「そうだわ、山沢さん。お稽古してあげましょうか」
「あ、そりゃいいね、そうしようか」
「そういえば明日から京都、と言ってましたけど。どうでしょうね、雪」
「そうねえ。たしか明後日よね、お稽古。
 いけるのかしら、明日の様子見てお断りしなきゃいけないかもしれないわねぇ」
心配、と言いつつお稽古の用意をして、何度かお稽古してもらったり、
先生自身のお稽古をされたり。真之行のお稽古を見せてもらった。
お稽古にも先生が飽きてきた夕方、俺の筋肉痛が来た。
片付けはいいから、と許してもらって軽くストレッチをする。
血行を良くするほうが早く治るからね。
湿布貼ってあげるからおいで、と八重子先生に呼ばれてあちこち貼ってもらった。
水屋の始末が済んだ様で、お夕飯の時間になるからと先生がご飯を炊いている。
孝弘さんへはラーメンライス作戦だ。
今夜は味噌ラーメン。
先生はこんなの食べるの久しぶりだわぁ、最近のは美味しいのね、なんて仰ってる。
玄関に物音。
「ただいま」
「あら、律。良く帰って来れたわねぇ」
「うん、送ってもらって何とか。いつもの3倍くらい時間かかったんだけど」
「おかえりなさい、律君」
「あ、山沢さん。こんばんは。
 家が気になるからって環伯母さんに言われて帰ってきたんだよね」
「うちの雪かきは山沢さんがしてくれてねぇ、助かるよ、本当に」
「あ、そうなんだ。ところで何食べてるの?僕もおなかすいた」
「ラーメンよ、作ってあげるわ。一つでいいの?」
「なんでまたラーメン? ああ、うん、一つでいいよ」
「だってスーパーに何もないんだもの。お漬物も昨日で終わっちゃったし」
手早く作って先生が戻ってきた。
律君は熱いラーメンをすする。俺はぬるいラーメンを。
お風呂を立てて食事が済んだ律君を風呂へ。
順次入り先生が仕舞い風呂となった。
布団に入る。
身じろぐと痛む。筋肉痛め…。
先生が懐の中でくすくす笑っている。
キスするのに首を動かしても痛い、と思っていると先生からキスしてくれた。
「明日は痛くないといいわね」
「本当に」
「明日、行っちゃうの?何時から?」
「夕方からのつもりでしたがこれではね、昼ごろから出ようと思います」
「そう…。私も行けそうなら明後日のお昼までには行くから」
「だめでもこれそうでも連絡くださいね。迎えにいけたら行きたいですし」
キスされた。
「行けなくても浮気、しないでね」
「しませんよ。大丈夫」
「本当?」
「あなたほど可愛いと思う人はいません。だから大丈夫ですよ」
頬を染めて大変に可愛らしい。
背を撫でようと思ったけど痛い。痛いけど頑張って背を撫でた。
「そろそろ寝ましょう」
「そうね、おやすみなさい」
寝る前にもう一度、とお願いしてキスしてもらう。
今日はしたくとも何も出来ない。
懐に抱いて、温かさと匂いを楽しめるだけでもまあ幸せだからいい。
おやすみなさい。
月曜の朝、起きてテレビを見ると山梨が凄いことになってるとか。
タブレットで電車の状態を確かめる。
うん、動き始めている。
会社に連絡を取り、出張はそのまま行くことにした。
どのみち東京駅まで行かなければ新幹線に乗れないので一旦会社に寄り、
書類などを受け取る手はずを整える。
朝は今度は塩ラーメン。
いろんなのを買っておいて良かった。やっぱり同じのは飽きるからな。
脱出する準備を整えお暇を告げた。
「あら、もう行っちゃうの?」
「ええ。そろそろ行ったほうがいいでしょう、きっと遅延しますでしょうから」
「私もそこまで行くわ、スーパーになにか入荷してるかもしれないし」
「じゃ八重子先生。お邪魔しました。また木曜に参ります」
「気をつけてお帰り」
外は重機が入り流石に除けられては居るが日当たりの悪い所は雪が沢山に残っている。
「俺が戻る頃にはこの雪もないんでしょうね」
「そうねえ、そうなって欲しいわ」
バスも復旧し、間引き運転だが動いている。
乗って駅前まで二人で。
先生は俺の手を握っている。それを袂で隠して。
駅に着き、先生と別れる。
「気をつけてね、本当によ」
「先生も帰り道、気をつけてくださいね」
そういって別れて電車に乗る。
やはり延着、遅延。
なんとか会社に戻ればやっと帰れたか、とほっとした表情。
出張に必要なものを受け取り、一度帰宅。
鞄などを整え、着替えて一路京都へ。
腹は減るものの、駅弁は途中の駅で買うしか有るまい。
静岡で買い、食べる。
米原、そろそろ降りる用意をするか。
京都に到着して下車。

拍手[0回]