一服をしてから掃除。平日だからね、先生も主婦業をしないといけない。
俺も指示を貰いつつお手伝い。
廊下を拭いたり、庭の雑草を取ったり。
3時になっておやつをいただいたらお買物。
トイレットペーパーなどかさばるものも買って、焼酎も買う。
司ちゃん用のを切らしてたらしい。
「ほんと助かるわぁ…律もほら、大学あるから遅いでしょ」
「お夕飯の買物には間に合いませんよね」
「あなた力持ちだし」
「ま、仕事が仕事ですからね」
帰宅して先生の決めたメニューに従って下拵え。
今日はメイン肉じゃが。
と言うことでジャガイモの皮を剥く。
…肉じゃがなのに豚肉なのはいまだに違和感があるが仕方ない。
後は色々副菜を用意してお夕飯をいただいた。
食後お茶をいただいたら日のあるうちに帰宅の途へ。
ま、明日も会えるから。
しかしお稽古、明日からは真の行か。大変そうだなぁ。
頑張るしかないな。
帰宅して、布団に入って寝る。
朝、起床して出勤し仕事をして帰宅。
すぐに先生のお宅へお稽古に。
「いらっしゃい。今日からあなた真の行よ」
「はい、お願いします。他の方はどうなさいます?」
「平点前にしようと思ってるの。今月で炉も終りだもの」
「じゃ用意してきます」
教えてもらったように真の台子を組み立てて端に置いて、あとは普段の用意を。
生徒さんが来られてお稽古スタート。
平点前のお稽古に皆さん慌てておられる。
意外と普段やらない上に少し上の点前をすると混ざるからわからなくも無い。
先生はそれでも優しく指摘されたりしていて、焦れた風を見せない。
人に教えるにはこうでなきゃいけないのか…俺できるかなぁ。
今日は俺がいてもいなくても大して意味はないな。
ゆったりとお稽古時間が過ぎて、ずっと次客。
皆さんが帰られるころ、着替えて口を清めるよう言われた。
昨日教えていただいた真の行のお稽古だ。
最初だからと先生もやさしく次はこう、それをこうしてと教えてくださる。
2回やってみて覚えられそうにない、と言えば半年はかかるわね、と仰った。
半年で覚えられるかなぁ。
「月曜日もいらっしゃいよ、見てあげるわよ」
「うーん来たいんですが流石に時間が…」
「そうよねえ…遠いものね」
「こういうときは普通の仕事がうらやましいとは思いますけど。
だけど普通の時間の仕事じゃ昼からここに、なんて真似できませんからねー」
片付けつつ、おしゃべりを楽しむ。
普通のサラリーマンならやっと仕事が終る時間だろう。残業なしで。
「時間の都合つくときにはいらっしゃい」
「はい」
「さ、もうそろそろお夕飯できたかしらね」
と台所へ。
今日はメインは炒め物。と、カツだ。
「あれ? 揚げ鍋ありましたっけ?」
「ああ、揚げ物は買ってくるんだよ。危ないからねぇ」
「確かに天麩羅火災多いですしね」
配膳して夕飯をいただいて、帰宅。
職場が先生のお宅に近ければなぁ、って無理だけど。
先生も職場が家だからこればかりはどうにもならない。
いつか定年退職したら先生の近くのあの家に住みたいな。
そう思って就寝。
翌朝出勤すると結構に忙しい。
桜終ったんじゃないのかよ。
ばたばたと仕事をして、少し終るのが遅くなった。
だけど本日はお稽古はないからいい。
帰宅後いい天気なので散歩することにした。
ゆったりと散歩を終え、掃除し洗濯物を取り入れる。
いい感じにパリッとした。
やっぱり乾燥機にかけるより日干しが良い。
面倒くさいから滅多にしないけれど。
お昼寝をして、夕飯。何食おうかなー…。
あ、春キャベツとじゃこと桜海老のパスタが食べたい。
どこで見たっけ。
思い出して調べる。夜もやってた。
よし行こう。
軽めの夕食を食べて帰宅。
もうちょっとにんにく利かせて家でつくってもいいな。
お稽古の前は絶対出来ないけれど。
先生から夕飯のメール。
じゃこと春キャベツの卵チャーハンだった。
俺の食ったものをメールするとすぐに返事が返ってきた。
何たる同調か。
明日は蛍烏賊を持っていこうかな。時期だから。
酢味噌だから味噌を買っていかねば。
とメールに買いたら酢もないから買ってきて欲しいそうだ。
千鳥酢にしようかな。
チロリアンではない。
いやチロリアン買って行ってもいいけどさ。
そろそろあくびも出てきて寝る時間だ。
おやすみなさいのメールをしてベッドにもぐった。
寝酒にウイスキーを煽っておやすみなさい。
翌朝、腹が減って目が覚めた。
苦笑して出勤、朝飯を食いつつ仕事をこなして仕事終了。
面白い土産とともに先生のお宅へ。
「こんにちは」
「あら、なぁに沢山」
「天ハマチと蛍烏賊、それとこれ!」
とロマネスコを見せたら先生が後ずさりした。
「なんなのこれ…」
「それと酢と味噌とおやつ。それはロマネスコといいまして。
ブロッコリーとカリフラワーの合の子みたいなもんです。両方の食感と味ですよ」
「そ、そうなの?」
「使い方もブロッコリーと同じで湯がいてもいいですし炒めてもいいですし」
「……どうしようかしら」
「とりあえずお台所置いてきますね」
台所にアレやこれやを仕舞って手を洗って水屋の用意を整える。
お台子も出してと。
生徒さん達が来てお稽古開始。
土曜の生徒さんは若い方でも割りと気がゆっくりされてる方が多い。
それはまあ、明日が休みの日だからと言う気楽さからくるのかもしれないけれど。
点前中にお喋りする方がいらっしゃる。
まぁ所詮趣味だから仕方ないかな。
先生も優しくお相手されてることだし。
「優しい先生が教えてくれるお教室」が人気の秘訣かな。
にこにことみなさんを見送られて、さて俺のお稽古。
…既に厳しいじゃないか。
「一昨日言ったでしょ。考えて」
しばし悩んでこうか、とやってみると正解だった。
ほっとしつつ流れだけは教えていただけて進んで行く。
だが詰まっても中々教えてはいただけない。
上級に進んだ人は皆こうなのだろうか。
「お稽古に真剣さが足りないから忘れるのよ」
それはその通りです…。
とりあえず最後まで通したら、もう一度、と言われた。
茶碗を仕込みなおして建水を清めて再度点前に立つ。
「さっき言ったのができてないわよ」
ぴしゃり、と叱られた。
慌ててやり直す。
「落ち着いてもう一度やりなさい」
「はい」
きちり、きちりと真剣にお稽古をして、やっと水屋へ下がった。
「今日はこれくらいで」
と先生から声が掛かり、ほっとした。
やれやれ、と片付けに入る。
頭を撫でられた。突然。
「お稽古厳しくて驚いちゃったかしら」
「あ、はい」
「早く覚えて欲しいの。だから暫く厳しいと思うわよ。ついて来れる?」
「頑張ります」
「普段はそんなに畏まらなくていいわよ。これのお稽古のときだけ」
ほっとしてしまった。
普段のお稽古もこの調子だと流石にきつい。
台子を仕舞って釜なども片付けて着替えてお台所へ。
「ああ、終った? じゃお刺身してくれる?」
「はいはい」
「酢味噌もよろしく」
「はい」
はまちをさばいてお造りにして、わさびを練る。
八重子先生が微妙な顔で見ているのはロマネスコだな。湯がいたらしい。
酢味噌を作って味見をしてもらう。
「あら? あまりツンとしないのね」
「酢が違いますからね。もう少し甘いほうがお好きですか?」
「んー、こんなものだと思うわよ」
「じゃそろそろ孝弘さんたちお呼びしましょうか」
「そうしてくれる?」
はい、と答えて律君を呼びに行き、孝弘さんを離れから拾ってくる。
「うわ、なにこれ」
どん引きの律君に先生が苦笑する。
「山沢さんのお土産よ」
「なんでフラクタル? うーん…」
「…おいしいのかしらねえ」
「ま、食ってみて下さい」
八重子先生が好奇心に負け手を伸ばした。
結構新しいもの好きだよね。
俺は普通にマヨネーズでぱくつく。見た目が駄目なだけで美味しいから。
「なんだカリフラワーじゃないの」
「でしょう?」
律君が動揺のあまり蛍烏賊にマヨネーズつけた。
美味しいような気もしなくもない。
アタリメにマヨネーズつけるし。
一度食べたら別に変なものではないとわかったようで律君も食べだした。
孝弘さんは最初から何も気にしてない。
ハマチは今日は天然が安かったので、と言うと先生は嬉しそうだ。
俺の為にちゃんと肉のたたきを買ってきてくれてあって美味しくいただく。
満腹。ご馳走様。
ロマネスコも全部売り切れた。
よしよし。
洗い物を片付けて戻ると八重子先生はお風呂に。
律君は勉強かな。レポートだそうだ。
「ね、先生。あっちの家行きませんか」
「えっ…」
「だって多分今晩は律君夜更かしですよ」
「あ、そう、そ。そうよね。でもお母さんに言うの恥ずかしいわ…」
「風呂入ったら先行ってますか? 俺から言います」
「そうしてくれる?」
頬染めてて可愛い。
はい、とチロリアンを渡して二人で食べる。
「あら、おいしいわね」
「千鳥酢を見た瞬間にチロリアンが浮かんだものですから買ってきちゃいました」
「どうして?」
「チロリアンは千鳥屋」
「あら、やだ。ほんとね」
などとなごんでいると八重子先生が風呂から出てきた。
代わりに先生が風呂に立つ。
八重子先生にも差し上げてお願いした。
「あー…いいけどね。ちゃんと明日のうちに帰してやっとくれよ」
「いや築地のじゃなくてですね、近くの部屋のほうです」
「それならいいよ。じゃあんたも一緒に入ってきたらどうだい」
「来る前に入ってますからいいですよ」
「そうかい?」
お茶いれて、ゆったりとした時間。
暫く喋ってたら先生が風呂から上がってきたので支度してつれて出る。
冬に比べれば暖かいから湯冷めの心配がそんなにない。
先生はちょっと恥ずかしそうだ。
鍵を開けて暖房をつける。
火の気がないから中は冷え込んでいた。
ストーブの前で先生を膝に乗せて座り込み、キスした。
暫くキスしてると暑くなってきて、先生もそう思ったようで膝から降りた。
ベッドを見るとオレンジのシーツに変わっている。
「また変えたんですか?」
「だって寒色はやっぱり寒々しいもの。夏はいいけど」
「抱かれるときは暗くするからわからないでしょうに…それとも電気つけてしたい?」
「いやよ…」
「そういわれるとしたくなるな。脱いで」
「やだわ」
「そのまま抱かれたい?」
うっ、という顔をしてあきらめて帯を解いた。
貝ノ口に〆ていた半幅をほどいて、しゅるり、しゅっ、と紐を抜いていく。
鎖骨が見えて、そっと指でなぞるとびくっとして可愛い。
「ほら、手が止まってる」
「だって…」
「なに? 早くしないとそのまま抱いちゃうよ?」
「やだ…」
顎に手を当ててキス。
そのまま抱かれると思ったようで焦って脱ごうとしている。
くくっと笑ってしまった。
脱ぎ終えて、裸身をさらす。
恥ずかしげで美しい。
俺が触れる指、一手一手に反応が返る。
「ベッド…お願い…床じゃいや」
はいはい。
ベッドに手を引いて連れて行くと自分で布団めくって入った。
照明を半分くらいに暗くして俺も入る。
「あ、カーテン」
「開けたままでいい」
「でも…」
「月、綺麗ですよ。ほら」
「本当…あっ」
乳首を舐めつつ股間をまさぐる。
暫く弄ってると喘ぎ声が結構出ていて楽しい。
丁度月明かりと照明で表情もよく見える。
我を忘れて喘いで呻く姿も綺麗で、もっと腰が抜けるほどしたくなる。
何度か逝かせ、うつ伏せにして腰を持ち上げて舐める。
「こんな格好いや…」
なんていいつつも気持ち良さそうで。楽しい。
息が切れ始めたのを見て逝かせて一旦終了。
苦しそうで可哀想にも思うけど。
暫くなでていると息が整って落ち着き始めた。
ベッドの上に座り、膝の上に抱き上げ窓を向かせる。
「えっ…」
足を開かせて外を股間を見せ付ける格好でまさぐっていく。
「やだやだいやよ…お願い」
「だーめ」
ちゃんと感じてるしね。
きっちり逝かせてから布団の中に戻した。
少し涙目になっていて可愛くて目尻に舌を這わせる。
「いじめるなんてひどいわ」
「嬉しいの間違いでしょ? 気持ち良さそうでしたよ」
「…ばか」
可愛いなー可愛いよー。
キスをせがまれてたっぷりキスして。
背中をなでていると徐々に寝息に変わっていく。
お疲れ様でした。
寝てるところも可愛いんだよなー、とにんまりして眺める。
こんないい女を自分の恋人にしているなんて去年の俺には想像できなかっただろう。
そうなりたいとは思っていたけど。
たたまあ性癖からするともうちょっとM寄りだったら助かるが。
それはしょうがない。
普段の先生では考えられないようなことをさせてるだけで満足とすべきだ。
寝ている先生に軽くキスして、俺も寝ることにした。
お休みなさい。
翌朝目覚めると先生がシャワーを使っているようで湯音がする。
時計を見れば6時半。
意外と早く目覚めたらしい。
風呂場を覗くと身体を洗っているようだ。
昨日舐めまくったからな、うん。
洗顔して着替えていると風呂から出てきた。
まじまじと見ると恥ずかしがる。
「そんなに見ないで頂戴」
「いやキスマークとか残ってないかと」
「ないわよ」
そういって着替えだした。
「早くしなさい。戻るわよ。まだ律起きてないでしょ」
ああ、そういうことね。
「はいはい、昼寝したらいいですもんね」
「そういうこと」
着替えてベッドを直し、ストーブを消した。
「忘れ物、ないわね」
「はい」
「じゃ戻りましょ」
早朝の綺麗な空気に晒され静かに帰宅して、台所へ。
八重子先生が支度している。
「あらおはよう。早かったね」
「律君が起きない内に、と仰ったので」
先生が昨日着てた着物などを起きに行って戻ってきた。
俺は冷蔵庫から日本酒をちょっと取って先生に渡す。
「なぁに?」
「昨晩飲んで騒ぐかも、とあちらに行ったんですから。
ちょっとくらい酒の匂いがありませんとね」
「あぁ、そういうこと。じゃ頂きます」
とクイッと飲んで杯を返して、それから食卓を整えに居間に行かれた。
なんだかんだ酒つよいよね。
お味噌汁の味見をさせてもらって今日は麩の味噌汁だ。
おいしい。
ごはんにお味噌汁。お漬物、焼き魚、納豆。
日本の朝飯だね。
おいしいなぁ、お味噌汁。
お漬物は昨日八重子先生がキャベツを塩漬けしてたもの。
「お母さんお酒臭い」
「あらそう? そんなに匂うかしら」
「レポートできたのかな、律君。遅くまで頑張ってたみたいだけど」
「ええ、なんとか目処がつきそうです」
「この後も書くのかな」
「うーん、今日中に書き上げたいんで」
「じゃ煩くしないよう気をつけるよ」
魚の半分を孝弘さんのお皿にこっそり移動させつつ食事。
ごはんがうまい。幸せだ。
食べ終わって洗い物を片付けて居間に戻れば早くも先生が眠そうだ。
「布団敷きますから部屋で寝てたらどうですか?」
「そういってるんだけどねぇ」
横に座ったら膝を枕にされてしまった。
「それじゃ山沢さんがお手洗いにいけなくなるだろ」
と言うのも聞こえてないらしく早くも寝息だ。
「いいですよ、寝入ったら座布団とチェンジしますから」
寝息が気持ち良さそうでいいなぁ。
八重子先生が溜息ついてお茶を入れている。
「はい、お茶」
「あ、有難うございます」
「昼から私ちょっとお茶仲間の家に行ってくるから。
あんたらで適当にお昼作って食べなさい」
「はい。あ、ランチされるんですか」
「そうなんだよ、古い馴染みでね。たまにはお昼でも一緒にってね」
「そりゃいいですねぇ」
「あんた、昔の友達と呑みに行ったりするの?」
「ここ半年はないですが前はたまに休みに戻ってましたから。
居酒屋で出くわしたりしてましたね。そのあと飲みに行ったり」
「帰らなくてもいいのかい?」
「たまには空気入れ替えては貰ってますから、家は」
このまま10年とかだと引き上げてきてもいいな。
「今は…この生活が楽しいですね」
「そう。ならいいんだけど」
テレビを見て八重子先生とお喋りしてゆったりとした日曜の朝。
10時半ごろそろそろ用意を、と八重子先生は部屋に着替えに行った。
先生はまだすやすやとおやすみだ。
髪が唇にかかっているのをちょいと除ける。
ふと人の気配に後ろを見たら晶ちゃんがいた。
「こんにちは、晶さん」
「あ、こんにちは。え、と律は…」
「部屋でレポート書いてるようだよ」
そうですかとそそくさと行ってしまった。
ぼんやりと先生のお顔を見ていると…耳掻きないかな。
朝あわてて出てきたからチェック忘れたんだろう。
きょろっとしたらピンセットを見つけた。
そぅっと掴んで取る。
見えてるところにはもうないね。
ルーテェ型のピンセットなら奥のほうまでやれるが。
ピンセットを片付け、紙に包んで懐へ。後で捨てよう。
「さて、行ってくるよ」
「いま晶さんいらっしゃいましたよ」
「晶が? ん、じゃ悪いけどお昼あの子の分も頼むよ」
「はい。行ってらっしゃい。お気をつけて」
お早うお帰り、とは流石にこちらの人には通じないのは慣れている。
八重子先生が外出した気配…車、ではないな、良かった。
やはり車を使われるのは不安だからね。
小一時間ほどそのまま膝に乗せて寝かしていたが流石に起きてきた。
「ん…何時?」
「そろそろ11時半ですかね」
「あぁ…お昼の用意しないと…」
「何食べたいですか、俺作りますよ」
気だるげな先生もいいなぁ、うん。
「ピラフ食べたいわ」
「具は何がいいですか」
「カレーピラフ食べたい…」
「あ、やっぱり。においに釣られましたね」
ご近所がカレーを仕込んでいるようでカレーの匂いがさっきからしている。
「カレー粉あるから。よろしくね」
「はいはい、じゃ付け合せはサラダとスープかな」
頭を軽くなでて台所へ。
ピラフと言うかチャーハンと言うかどっちでもいいんだけどカレー粉を捜索しよう。
見つからん。もしかしてルーか。ルーはあるな。
細かく具材を刻んで炒める。
同じく微塵にしたルーを入れて香ばしくなってきたらご飯投入。
炒める。やっぱりガスは良いなぁ。
というかこういう大きいフライパンをちゃんと手入れしてあるのが不思議だ。
八重子先生が振ってたのか? この重いフライパンを。
まずは4人前、横でコンソメでスープを。
冷蔵庫に4半玉残ってたキャベツを具にした。
春キャベツは美味しいし、色が綺麗だ。
芯に近い方は刻んでサラダに。
人参とピーマンも。
「何かお手伝いすることあります?」
晶ちゃんが台所に来た。
「あ、じゃあピラフお皿に取り分けてもらえるかな。孝弘さんの分作るから」
「おじさんさっきお昼要らないってどこか行かれましたよ」
えー…。みじん切りした具をどうしよう。
卵あったっけ?
3つ。オムレツ作ろう。うん。
鮭フレークもあったはず、冷凍庫を探して発見。
炒めて混ぜてオムレツにしてしまった。
サラダの1人前残ってるのは俺が食うか…。
とりあえず配膳するために居間に行くとまた寝息立ててる。
「先生、カレーピラフできましたよ。起きてください」
「んー…」
律君が部屋から出てきた。
「あれ、お母さんまた寝てるの?」
「昨日遅くまで飲ませてたから眠いんだよ」
ピラフもスープも配膳して整ったころやっと目が覚めたようだ。
「あぁよく寝た。あら晶ちゃん。いつきたの?」
「おばあちゃんが出て行く前だから10時半ごろじゃない?」
「あら、そうなの。いらっしゃい」
「あはは、お邪魔してます」
「律、お父さんは?」
「お昼要らないってどっかいった」
「ということでオムレツに化けました。サラダ食っちゃっていいですか?」
「それは食べなさい」
「あ、結構美味しい。ドライカレー?」
「うーん、どうなんだろ。チャーハンとピラフの違いがよくわからないから」
そんな会話をしつつ食べ終わって洗い物に立つ。
台所から戻ればまだ先生はあくびをしてる。
「お母さん、布団で寝なよ」
「本格的に寝ちゃうもの、いいわよ」
「おこたじゃ風邪引きますよ」
「あなた眠くないの?」
「私こそ今寝たら夜中に起きてそのまま出勤ですよ…」
「いいじゃない、そうしなさいよ」
ちょっと迷ったがそういうのも一度くらいはいいか。
「じゃ布団敷きますから。律君、夕方起こしてくれるかな」
「あ、はい」
「晶ちゃん、悪いけどおばさんちょっと寝ちゃうから」
「おやすみなさい」
微妙な顔してるなぁ…。
だけどこうでもしなきゃ布団で寝てくれそうにない。
布団を敷いて着替えて、昼の暖かい日差しの中先生を懐に昼寝。
うん、これも中々にいいな。
気持ち良さそうな寝息。
先生の甘い匂い。カレー臭…は邪魔だけれど。
あ、ダメだ、俺も寝ちゃうなこれは。
ふっと意識が落ちて次に気づけば夜で。先生は懐にいない。
居間に出て行けば先生方がお茶を飲んでた。
「あぁ起きたの? お腹すいてないかい?」
「すいません、夕飯作るつもりだったんですけど」
「いいわよ、お昼作ってもらったもの」
「よく寝てたねぇ。律が呼んでも起きなかったって言ってたよ」
「晶さんは」
「お夕飯食べて帰ったわよ。はい、こんなものしかないけど」
「あ、いただきます」
軽く食事をいただいて食器を洗いに立ち、片付けて戻る。
「ねぇ、もう帰るの? 夜中?」
「どちらでも」
「明日きてくれる?」
ふっと笑ってしまった。なんか可愛い。
「これそうなら」
「来てね」
ふふっと先生も笑って。
「しごいてあげる」
うっ…。
「…来れないかも」
くすくすと先生が笑う。
遊ばれてるなぁ。
八重子先生は微笑んでこちらを見守っている。
先生に頭を撫でられた。
「月曜、来るならあなたのお稽古の時間だけでもいいわ。水屋しなくていいから」
「わかりました」
キスしたいな。無理だけど。
だから、帰ることにした。
「じゃそろそろ帰ります」
「どうして?」
八重子先生がいるのに言える訳がない。
苦笑しつつ玄関まで送っていただく。
八重子先生はついてこない。
「このままいたらあなたを抱きたくなるから」
耳元に囁いて掠めるようなキスをした。
ぽっと頬染めて可愛らしい。
「じゃ、また来ます」
「待ってるわ…」
別れて車を運転して帰宅。
結構しっかり寝たから食後でもそう眠気は来ない。
急ぐこともなし、ゆっくりと注意して運転して帰宅する。
さてと。
束の間だけれど寝るとしよう。
おやすみなさい。
翌日は月曜とはいえど暇で。
これはお稽古行ってもよさそうな気がする。
やはり早い目に仕事が終わり帰宅できた。
風呂に入って着替え、移動する。
「こんにちは」
勝手知ったる、で部屋に鞄を置き支度して茶室へ行く。
「あらいらっしゃい。とりあえずお客さましてて頂戴」
4客で真の行を見せていただく。
優しく八重子先生がお稽古されていてうらやましいの半分。
「じゃ山沢さん。支度して。次あんただよ」
「あっはい」
水屋で息を整えて返ってきた道具を整え、さあ行くぞ。
何度も詰る毎に叱責を受けつつ厳しいお稽古を先生から受ける。
「次の方まだいらっしゃってないから…もう一度やりなさい」
「はい」
水屋に戻ると姉弟子さん方に心配された。
絹先生のあんなに厳しいのは初めて見たとか。
だろうなぁ。
でも何かお考えのあってのことだろうから、と再度点前へ立つ。
やはり何度か叱られて終了。
水屋へ戻って次の方のために調えて客の席に戻る。
正客に座らされ拝見の稽古。
間違って叱られた。
他の生徒さんがそわそわしてる。
点前の方が水屋に戻られたのでこの辺で失礼します、と挨拶した。
「はい、また明日ね」
茶室から出て部屋に戻り鞄に道具をしまい、帰宅した。
夕方前に帰宅するのは久しぶりだ。
部屋着に着替えて途中で購入した弁当を食べる。
おいしくないなぁ。
少し気落ちしたまま食べ終わり、寝る用意をした。
ベッドに入って暫くすると先生からメールだ。
美味しそうな夕飯。
食べ物もメールで転送できたらいいのに。
いやこの場合ほしいのはどこでもドアだな。
返事を半分ほど書いているうちに寝てしまったようだ。
夜中だが続きを打って送った。
きっと朝に見るだろう。
もう少し寝て出勤。
…暇だ。
火曜日は仕方ないなぁ。
仕事を終えて帰宅。シャワーを浴び着替えて先生のお宅へ。
少し早いから寄り道して羊羹買って行こうかな。
ああ暖かいなぁ乗り過ごしそうだ。
ゆったりした気分で先生のお宅に着いた。
「こんにちは」
「いらっしゃい」
「これお土産です、羊羹」
「あらありがと。後でいただくわね」
「いい匂いですね、何食べてるんですか?」
「焼きそばよ~」
「お稽古前にしっかり歯を磨かないといけませんね。青海苔」
「そうなのよねぇ、お好み焼きも焼きそばもついちゃうのよね」
軽く歯磨きするだけじゃたまに残ってるんだよな。
ま、とりあえず水屋の準備をしてこようか。
今日は天気も上々で暖かくゆったりと楽しげに皆さんお稽古されている。
ほほえましい。
俺も自分の稽古がなければそういう気分だ。
皆さん帰られたので手・口を清めて俺のお稽古。
先生が怖い…。厳しいし。
涙目になる程度にきつくお稽古されて八重子先生が見かねてストップかけてくれた。
先日いじめたから仕返しかな…。
「半年で仕上げたいのよ? 今厳しくしないとだめよ」
「そんなこと言ったってあんまりにもかわいそうだろ。手加減してやんなさいよ」
「仕方ないわねぇ…その代わり明日もお稽古しますからね!」
「うぅ…はい」
まったりした春の日差しの中でゆったり二人で、とか思ってたのになぁ。
台子などを片付けて、水屋をしまう。
八重子先生が入ってくれた。
頭をなでられて、悪気はないんだよとなぐさめてくれた。
悪気があるんなら夜に声ださせてしまいそうだ。
夕飯をいただく。
既にお稽古モードから切り替えできている先生が優しい。
ほっとして、ご飯の後の食器を洗う。
居間で先生と八重子先生が何か話しているのがかすかに聞こえる。
片付け終わって戻る。
「ね、山沢さん。明日もお稽古するけど…今日ほどは厳しくしないから」
「お稽古するの嫌になるだろ、流石にあれじゃ」
「えぇと、あー…はい」
昨日とかその前くらいのなら耐えれる、かな。
その後は普通に会話して、今日は早めに寝ようということになった。
先生と布団に入る。
するりと俺の懐に先生がきたが…なんとなく気が乗らない。
先生からキスされて、胸に手を持っていかれた。
「どうしたの?」
なんとなく先生の乳首を弄って立たせてみる。
…気が乗らない。
先生の寝巻をひんむいて伏せさせた。
「え、ちょっと…」
マッサージに変更しよう。
黙々と先生の背中を揉み解す。
結構凝ってるなぁ…。
少し声が出てるが構わずに揉んでいると部屋の外に人の気配。
…律君かな。
背中から尻へと揉み進めて太股はリンパを流すように。
足首まで終えて先生に仰向けになるように言う。
少し恥ずかしそうに寝返りを打ったところで部屋の外の人影に気づいたようだ。
焦った顔でこれまでに変な事言ってないか考え出してる先生を楽しむ。
さっと立ち、障子を開けた。
「律君、どうしたのかな? 眠れない? 寝かしつけてあげようか?」
「い、いや結構です。って何してたんですか?」
「マッサージ。結構肩こり酷いね。君は…凝ってなさそうだけど」
「あぁ気持ちよかった。律、あんたもしてもらう?」
あ、先生が復活した。
「いいよ凝ってないし!」
反応がうぶで可愛いね。
「あらそう?」
「じゃ続きしましょうかね。おやすみ、律君」
にっこり笑って追い払って横に戻る。
先生と顔見合わせて笑った。
「あぁ吃驚したわぁ…いつからかしら」
「腰の辺りかな。くすぐったがってた頃」
そのまま胸に手を這わせる。
「こうしてる時じゃなくてよかったですね」
「ばか…」
「もう少し、マッサージしましょうね」
愛撫込みのマッサージをして行く。
足の指の先までして、あとは中のマッサージ。
つぷり、と中指を入れてゆっくりほぐして行く。
気持ちよさげだ。
先生を楽しませて俺も楽しんで夜が更けた。
翌朝食事を取り、律君を送り出してからのことだ。
昨日は危ないところだったのよ、と八重子先生に話を先生が振った。
「やっぱり家でするのはよした方がいいんでしょうけど、その、つい」
あんまり八重子先生にこういうこと言わないでほしいなぁ…。
「あんたら夜はあっちの家行ったらいいじゃないか」
「毎回ってわけには…どうかと思いますし…」
それに歯止めが利かなくなるから壊しちゃいそうで。
「ま、その辺は適当にしなさいよ」
「はあ…」
「さてと、そろそろお稽古の準備するよ」
炭の用意や釜のかけ方なども一緒に教えていただきながらの準備。
これもいい勉強だ。
八重子先生は俺のギリギリを見ているようで、嫌にならないところまで詰めて下さる。
先生は多少俺に対する甘えも有るとかでギリギリアウトまで責めてこられる。
俺がMならば先生のやり方でも嬉しいんだろうけれど。
一旦お昼ご飯の休憩を挟み、午後もお稽古。
おおよその流れはつかめそうだ。
3時半過ぎ、大学から律君が帰ってきた。早いな。
「じゃそろそろ終ろうかね」
と八重子先生が仰って片付けへ。
「あんたも羊羹食べる? 山沢さんにいただいたんだけど」
「うん、あ、お父さんの分もある?」
「あるわよー」
律君と先生の会話がほほえましい。
俺も心を切り替えないといけないなぁ。
すっかり落ち込んでいるから。
ん?甘い匂い。
水屋を片付け終えて居間へ行くと台所から先生に呼び止められた。
「これ、あなたの分」
ホットケーキだ。なんでだ?
首を捻ってると頭を撫でられた。
「羊羹食べないんでしょ? 甘いものこれしかないのよね、今」
「食べた後のあなたの口は甘いんじゃないですかね」
ついニヤッと笑って言ってしまったらつねられた。
「さっきまで涙目になってたくせに…そういうこと言うのね。
明日もっと厳しくしちゃおうかしら」
「勘弁してくださいよ」
ホットケーキと切り分けられた羊羹を持って居間に行く。
八重子先生がお茶を入れてくれていて、俺はぬるいお茶にありつけた。
メープルシロップは切らしていて蜂蜜とバターでいただく。
コーヒーや紅茶ではなく緑茶なのが難だがおいしい。
「ん? この渋味は?」
「あぁ蜂蜜、こしあぶらなのよ」
「それでですか。道理で」
あ、孝弘さんに狙われてる。
それに気づいた先生が笑って更にもう2枚焼きに立った。
が、焼いてる間に1枚は孝弘さんのお腹に納まってしまった。
「あらあら、お父さん、山沢さんの食べちゃったんですか?」
じゃあ、と一枚ずつ配分してくださった。
んーうまい。
孝弘さんもおいしそうに食べていて、それも見ている先生も幸せそう。
律君だけが微妙な顔をしている。
昨日のマッサージ、と言うのが納得いかないのかなあ。
虫やしないに美味しく食べ終わって少しゆったり。
「そろそろお買物行きましょ」
「あ、はい」
「律ー、あんた何か食べたいものある?」
「…冷しゃぶかな。この間テレビでしてた奴」
「春キャベツのかしら、わかったわ」
キャベツうまいよな、この時期。
お買い物についていって先生の荷物もち。
豚のスライスとキャベツを2玉と卵を買った。
それ以外に人参葉、かぶ、ウインナー。
何作るんだろう。
台所に入り指示通り下拵え。
人参葉はおひたしに。
かぶとウインナーでスープ。
それから湯通ししたキャベツのざく切りを下にして上に冷しゃぶを乗せ、
更に温泉卵のようにしたものを乗せてある。
うーん、うまそう。
そしてやっぱりセンスがいい。
盛り付けで結構変わるよな。
お夕飯をしっかりいただいて明日の仕事、頑張って来てね、と見送られて帰る。
帰宅したらすぐに寝て明日に備えた。
木曜日。やはり仕事は暇だ。
桜も終った。
暇していると社長からお話が。
来月営業強化で木曜の昼2時まで営業かけろと。
こりゃ水屋が出来ないな。先生に言わなきゃいかん。
変わりにやっぱり月曜行こうかな。
でもそうすると木金と逢えなくなる。悩ましい。
仕事が終って帰宅し、身を清めてお稽古へ。
いつものように生徒さん達のお稽古を見守り、帰られてからが俺のお稽古。
涙目直前程度が先生もわかってきたようだ。
少しの手加減を加えてもらえてる。
お稽古が終わり、夕飯をいただいた。
その後先生方にご相談。
来月までに対応策を考えてくださるそうだ。
とりあえず今日のところは帰宅して、土日かな。
本日は雨。
花粉があまり飛んでないから会社の人もくしゃみをしていない。
仕事もやっぱり雨だから暇で。
バカ話をしつつ仕事の時間は過ぎて行く。
今日の昼は何を食べようかなぁ。
チャーハンと餃子でいいや。
帰り道で食べて帰宅。
少し昼寝をしよう、とベッドにもぐりこんでいると先生からメール。
お昼ごはんの写真。
すっかり使いこなしているようだ。
食後なのに美味しそうに感じる。
食べたい、とメールして昼寝。
ふと物音で目が覚めた。
ベッドから這い出してみると居間で先生が新聞読んでた。
「あら起きたの?」
「なんで?」
「食べたいってメールしたじゃない。持ってきたわよ。今食べるわよね」
マジか。
ちょっと待ってて、と鍋を温めて食卓に並べてくれた。
ちょうどお八つ時でおいしくいただいて。
汁まで飲んだら笑われた。
「他所ではしませんよ? でもあなたの味付け美味しいから」
「あらあら」
にこにこと笑っている先生は綺麗で可愛い。
「それよりこれ食べさせるためだけにうちに来たんですか?」
「そうよ?」
「俺はあなたも食べたいな」
「えっ…そんなつもりで来てないわよ、ちょっとストップ、だめ!」
抱きしめてキスしたら抵抗された。どうしたんだろう。
「お風呂入ってきてないのよ。昨日も入れてないし」
ぶふっと笑ってしまった。
「はいはい、俺がいいって言ってもイヤなんですね? 風呂入ってらっしゃいよ」
くっくっと笑ってると怒ったようなそぶりでお風呂に行った。
可愛いなー。
台所に行ってタッパーと鍋とお皿を洗ってしばし待つと先生が出てきた。
抱かれるために風呂に入る、と言うのはやっぱり恥ずかしいようだ。
ソファからおいでおいでと手招きして膝の上に横座りに乗せた。
浴衣の合わせから太腿がのぞいて、慌てて直している。
可愛いし色っぽいしで。
「向かい合わせのほうがいいのかな…足、開いて?」
頬染めてそのまま固まっている先生が本当に可愛くて手荒くしたくなって困る。
「別にひどいことはしないよ? キスしにくいでしょう? この格好」
「あ、うん、そうね」
両腿をきっちりくっつけたまま俺の膝に座りなおした。
「がばっと開けて密着したらいいのに」
「恥ずかしいわよ」
「今さらでしょ? ほら」
手で割り開いて引き寄せた。
力をこめて抵抗していたが流石に俺の力にはかなわないようだ。
「もうっ、ばか、こんな格好させないで」
「もっとえっちな格好がいい? そうだな、ペニバン使って立ったままするとか」
赤くなったり青くなったり。
「ってのは冗談ですよ」
ぺちっと額を叩かれた。
キスして暫くゆっくりと腕を擦る。
徐々に肩の力が抜けていって俺にもたれかかってきた。
「ね、するならベッドでお願い…」
「ここじゃいや?」
「うん…」
言うことを聞く振りしてソファの上で組み敷く。
実際抱くとなると落ちるから戯れだ。
抵抗。
「可愛いなぁ」
笑って引き起こしてあげてベッドへ連れて行き、抱いた。
終った後少し愚痴を言われたが。
「で、晩飯どこか行きますか?」
「そうねぇ…お鮨食べたいわ」
「ああ、いいですね、久しぶりに。待っててください、席あいてるか聞きます」
「着替えてくるわ」
問い合わせればあいてるとのこと、カウンターをお願いして俺も着替え。
先生は少しけだるげで綺麗で。
ん、もう一度したくなる。
キスだけにしてお鮨屋さんへ行くことにした。
戸締り戸締り。
先生は家から出たらしゃっきりして、崩れた雰囲気など毛ほども出さない。
それに釣られて俺も背筋が伸びる。
でも、俺の手にそっと手を重ねてくるところは可愛い。
お鮨屋さんはおまかせで頼み、先生のおいしそうに食べてるのを楽しむ。
俺のはちゃんと白身の魚や胡瓜やおこうこや梅や卵など食えるものだけが出てくる。
先生のはイクラや中トロも出てきて美味いところを少しずつ沢山の種類出してくれた。
「幸せ~♪」
やっぱり年々量が食べられなくなってる、と言う。
まだそんな年じゃないでしょ、と答えた。
「あなたもこの年になったらわかる…その食欲じゃわからないかもしれないわねぇ」
「ははは、これでも懐石なら満腹になってますよ?」
一気食いはどうしても量食べるけど。
お茶をいただいてお会計。
先生は先に店から出て待っている。
「ご馳走様、美味しかったわぁ」
つれて歩く途中も先生はニコニコしている。
さて、車に乗せておうちまで行こうかな。
「電車で一人で帰るわよ」
「もうちょっと一緒に居たいんですけど」
「明日も来るでしょ?」
「行きますけど…べたべたできないし」
「ばかねぇ…あちらの部屋に行けばできるじゃないの」
「いいんですかね?」
「いいわよ、お母さんもそうしなさいって言ってたわよ~。
律に気づかれるよりいいじゃないって」
「八重子先生、何でそうまでしてくださるのか…」
「聞いてみたら?」
「そうします」
駅について、お別れだ。
ちょっと切ない。
「じゃまた明日いらっしゃい」
「はい、参ります」
手を振ってくださって振り返す。
見えなくなるまで見送って、帰宅した。
着替えてベッドにもぐりこんですぐに寝る。
翌朝。
それなりに荷物も動いて疲れて帰宅。
ほんの少し一服してから移動する。
ちょっと電車の中で寝て、先生のお宅へ。
「こんにちはー」
「はい、いらっしゃい」
「これお土産。晩飯にどうぞ」
「あらっ なあに?」
「鯛の子の炊いたんと飯蛸の炊いたんです」
「あらーいいわねぇ、おいしそう」
「冷蔵庫入れときますから」
「うん、お願いね」
タッパーを冷蔵庫に入れて水屋の支度。
「あ、山沢さーん、今日は小習もちょっとするから。荘物の用意しといてくれる?」
「はい」
今日やったものを風炉一回目にもする、という中々生徒さんには大変な。
用意を済ませて茶室で待つ。
……先生も来たけど生徒さんが来ないぞ。
電話が鳴る。
八重子先生が受けているようだ。
「絹ー? 生徒さん電車乗り過ごしちゃって遅れるんだって」
「あらそうなんですか。どれくらい?」
「30分か1時間ってさ。山沢さんのお稽古しちゃったらどうだい」
「そうねえ、そうしましょうか。山沢さん、入って」
「はい」
真の行のお稽古を一度終って落ち込んでいると次の生徒さん。
「あら? 山沢さん、どうしたの? 何か落ち込んでるみたいだけど」
「いやぁ覚えが悪くて叱られてるだけです」
「やーねーそんなに簡単に覚えられたらお稽古する必要ないじゃないの~」
ばっしばっし背中を叩かれる。
おばちゃんは強い。
ほほほ、と先生も笑っているが、先生が怖いのはこの生徒さんは知らないからなぁ。
その後は遅れた生徒さんが来たりおやすみの生徒さんもいたり。
うまく時間を都合してお稽古が進む。
みなさん荘り物は苦手かな。
先生はうまく生徒さんを誘導したり世間話にも少しは付き合ったり。
上手だよなぁ人あしらい。
皆さん帰られて、更にもう一度俺へのお稽古。
先ほどまでの和やかムード一転、だ。
怖い。
やっぱり厳しい。
「今日はこれまで。片付けておいてね」
「…はい」
台子や釜、水屋をしまい、火の気を確認して戻る。
ん、いい匂い。なんだろう。
八重子先生がお大根を炊いたらしい。
今日は煮炊物だな。
俺の分に、とハムステーキ。
ソースは八重子先生が作っていてレモンバターにパセリかと思ったら大葉だった。
レモンが強めで美味しい。
苦味が出てないのは八重子先生の握力のなさだろう。
しかし律君。
大学生の男の子が土曜の夜に家で晩飯を食うんじゃない。
合コンとかデートとか友達と遊びに行くとかないのか。
先生たちは律君の一人暮らしは否定的だ。
男の子が外泊するのに家に電話している姿と言うのもなんだかなぁ、と思うんだが。
どうしても食事が心配、と仰る。
確かに毎日作る習慣がないから大変だろうが…開さんだってしてたし。
なんとかなんじゃないか?
「山沢さんの食事見てるとねぇ…」
「それを言われると。
だけど家に女の子を連れ込んだりとか親のいる家にはしにくいでしょう?」
「連れ込むなんてそんなの許しません!」
「へ?」
「責任取れないでしょ!」
「あ、そっち? 責任って結婚すればいいと思いますけど」
「それにそんな…男の家に上がりこんで泊まるような子いやだわ」
「あ、たしかにそれはちょっと。結婚するつもりならわかりますが」
「でしょ?」
「できたらお茶お花、出来る方がお嫁さんだといいですね」
「そうねぇ。お教室続けやすくなるものね」
「でもお嫁さんに俺にしてるようなお稽古はやめたほうがいいですよ」
「どうして?」
「嫁いびりと間違えられますから」
「あらあら」
先生がぷっと笑って思わず俺も笑う。八重子先生も笑ってる。
「晶さんならそんなこと考えずに済みますけどね。
おばあちゃんはおばあちゃんのままですし。おばさんがお義母さんになるだけで」
「あら。晶ちゃん?」
「晶さんにいい縁が来なければ考えてもいいんじゃないですか?」
「…そうだねえ」
などとしゃべっているうちに夜が更けて冷えてきた。
八重子先生が冷えてきたから寝る、と言い出し、じゃ私たちもと思ったが…。
「あんたらはあっちの家行っといで。律まだ起きてるから。お酒持っていきなさい」
「はい、そうさせていただきます」
「お母さん、もう…」
先生が恥ずかしがってて可愛い。
八重子先生が部屋に行ったので戸締りや火の元を確かめてお酒を持って外へ。
玄関の鍵を締めて先生と二人歩く。
先生の羽織っているショールはすべすべと月光をはじく。
「シルク?」
「ん? これ? そうよ」
「綺麗だな」
「これお気に入りなの」
「じゃなくて、あなたが」
頬を染めて黙ってしまった。
手を引いて部屋に入る。
「何黙ってるんですか? 怒った?」
「そうじゃないわ」
「じゃあどうしたんです?」
「なんでもないわよ、飲みましょ」
グラスを出してきて俺のに注いでくれた。
俺も先生のグラスに注ぐ。
くいっとグラスを開けてもう一杯注ぎ、半分ほど呷って先生にキス。
口移しに飲ませた。
そのままキスして胸をまさぐる。
息が荒くなって少し首筋もほの赤い。
「もうちょっと、飲んでから…ね、そうしましょ」
お願いする先生が可愛くてつい聞いてしまう。
最近甘いなー。
恋人だからしょうがない。
いける口だからとおいしそうに飲んでいる。
美味しいから沢山いただくのは好きだけど沢山飲んで酔うと正体をなくすから。
だから飲みたくないらしい。
「たしかにいつだったか間違って飲んで律君の前で俺にキスしちゃってましたね」
「それ、困るでしょ。だからあまり飲まないのよ」
おいしー♪とご機嫌さんだ。
つまみはさっきの夕飯の残った飯蛸や鯛の子。
「律君公認になれたらいいんですけどね、男の子は母親に幻想持つから無理かな」
「律には言わないで…」
「言いませんよ。ばれたときの話」
頭をなでる。
「あなたを律君の前で抱いたりとか…」
びくっとしてる。
「しませんから大丈夫」
「ばか、驚いちゃったわよ」
「そういうとこ可愛いなあって思ってるわけですが」
「もうっ」
ちょっと怒りつつお酒を飲んでる。
何杯か飲んでるうちに先生がうとうとしてきた。
ヤらせず寝る気か。
いいけどさ、たまには。
すっかり寝息に変わった。
脱がせてベッドに放り込み、食べたものを片付けた。
今度からあまり飲ませないようにしないとなぁ。
自分も着替えて先生の横にもぐりこむ。
先生のいい匂い。
抱き込んでおやすみなさい。