さて休み明けでお客は少なく荷物も普通だ。
早仕舞いにして帰宅する前にそのままジムへ行くか。
そう決めて、その足でジムで身体を動かした。
昼を過ぎ風呂に入って帰り、お昼寝。
夕方に起きて飯を食い、更に寝る。
あ、先生からメール。
うまそうなメシだなぁ。
新しい炊飯器で炊いたとの事、うまかったそうだ。
明日の夕飯はそれで炊いたご飯を食べさせてくれるらしい。
ちょっと楽しみだ。
おやすみの挨拶をして寝直した。
翌朝、出勤するがまぁいつもの通り暇だ。
お客さんも定休日だったりするから仕方ないね。
仕事を終えてシャワーを浴び、ゆったりと先生のお宅へ向かう。
涼しいような、暑いような。
電車などはクーラーがかかっていて少し冷える。
先生のお宅へ着く。
室内は良い感じの涼しさで気持ち良い。
「あら、いらっしゃい。早かったわね」
「こんにちは」
「いま生徒さん帰られたとこだから。ご飯これからなのよ」
「それは早すぎましたね。じゃ片付けて用意してから戻りますね」
茶室を軽く掃除して、水屋の片付けと次の生徒さん方の為の用意を整えた。
それから居間へ。早くも食べ終わったようで八重子先生がお茶を入れてくれた。
「お天気怪しいわねえ」
「あー降るって予報ですよね」
「生徒さん、キャンセルないと良いんだけど」
ま、そういう連絡は降り出してから入るものだ。
一服をして、お稽古にかかる。
生徒さんがいらして今日は5人そろってのスタートか。
暫くすると空気が重くなってきた。
そろそろ降るのか。
生徒さんの切れ目に空をうかがう。
あ、落ちてきた。
「降り出しましたね」
「あらそう?」
次の生徒さんが来られてお稽古。
暫くすると八重子先生から先生へ耳打ち。
やっぱりキャンセルが出たようだ。
「つぎ、山沢さん、清・薄で」
「はい」
貴人のお稽古か。
白い天目と貴人台を出す。
生徒さんがお稽古を終られて続きで私のお稽古。
久々の貴人のため、先生に叱られる。
前の生徒さんが見てくすくす笑っていてちょっと恥ずかしい。
キャンセルが出た時間を使ってもらったので今日のお稽古は早仕舞い。
「酷い雨ねぇ」
「本当に凄いな」
外は土砂降りだ。
夕飯のお手伝いをしていると先生が呼ぶ。
ニュースでは雹が降っているという。
暫くして雨がゆるくなってきた。
「あらもう止みそうね」
「律君帰ってこれるのかなぁ」
「お友達のおうちに泊めてもらうかもしれないわねぇ。電車動かなかったら」
ま、いざとなれば何がどうあっても帰るだろう。
配膳してると律君から電話があってやはり帰れそうにないとのことだ。
学校のあたりは酷いらしい。
「心配だわ…」
「ま、お友達も晶も一緒みたいだから大丈夫だろうよ。はい、お櫃」
「そうねぇ」
先生の座る横にお櫃を置いて、孝弘さんを呼ぶ。
メシ♪とうれしそうだ。
孝弘さんは先生が飯を作ってくれる限りはこの家にいるんだろうな。
ほほえましい。
そして新しい炊飯器で炊いたご飯がおいしい。
食事を終え後片付け。
おとなう声がし、先生が応対をしている。
片付け終るころ帰られたようだ。
そのままパタパタと台所に先生が来られた。
「あのね…その、あなたに縁談って…」
「はっ?」
袖をつかまれて居間に連れて行かれた。
「なんだったんだい?」
「山沢さんが独身だからってお見合いの写真持ってこられたの。どうしよう」
「その場で断ってくださいよ…」
「だってその、私がお断りするのはおかしいじゃない…」
「で、どう言ったの」
「いまいないから明日電話で聞くからって言っておいたわ」
「んん、参ったな」
「どう断ったら良いかしら…」
「山沢さん。あんた開と結婚しないかい?」
「えぇっ?」
「一番断りがきくのはそれだよ、婚約してるので結婚できません、だよ」
「でも先生が本人に聞かないとっていったんでしょう?」
「二人の仲がどれほど進展してるのか、なんてわからなくて、とか言えば良いんだから」
「うーん、婚約ですか」
「あぁ実際結婚しなくても良いけどね、そういうことにして置いたら?」
「先生はどうですか」
「それなら…良いと思うけど」
「わかりました、方便と言うことでそうしてください」
「じゃ明日私がそういうよ」
「お願いします」
「お母さん、お願いね」
ふぅ、と息をついて。
「コーヒー、いりますか?」
一昨日買ったマシンで入れてくることにしよう。
エスプレッソか通常かを聞きくと通常のものが良いとのことで三種類入れた。
味見をして先生はモカっぽい味のもの。
八重子先生は香りの良いコーヒーを取った。俺は苦目のもの。
「結構おいしいねえ」
「でしょう?」
「エスプレッソマシンなので本当はこんなカップ使って入れます」
カップを見せる。
「小さいねえ…」
「これに半分くらいですよ」
へー…、と覗き込んでるので実際どうなるか入れてくることにした。
抽出して手渡す。
「これだけ?」
「ま、どうぞ飲んで」
「うっ濃いわね」
「…濃いねぇ」
コーヒーで口直ししてる。
俺はダブルで入れてきたのだが二人とも飲めなさそうなのでそれもいただいた。
…甘い。
そういえばお二方のはお砂糖入れたんだった。
ぐいっと残った自分のエスプレッソを飲み干し、さっぱり。
先生はお風呂入ってくる、と言って部屋から出て行った。
八重子先生がカップを回収して台所へ。
「あ、洗いますよ」
一緒に台所に立つと機械の使い方を聞かれた。
水入れてカプセル入れてボタンを押せば出てくるので簡単。
味は色々ありますよ、と見せた。
居間へ戻り、色々おしゃべりをしてると先生が上がってきた。
八重子先生が交代ではいる。
「ねぇ」
「ん?」
キスされた。
「どうしたんです?」
「…凄くコーヒーの味するわね。漱いでらっしゃいよ」
思わず笑ってしまった。
はいはい、と洗面所へ立つ。
歯を磨いて戻れば先生はあくび。
「寝ますか?」
「お母さんが上がったら」
んじゃ戸締りと火の元を確かめよう。
玄関と勝手口、茶室の炭、ガス。確認して戻る。
「あぁ良いお湯だった」
八重子先生が上がってきた。またあくび。
「布団敷きますから、もう寝てください」
「んー」
畳に寝転がってる。
可愛いけどさ。
「こんなところで寝てないで。山沢さん、連れてってくれるかい」
「はい、じゃ私も先に休ませていただきます。戸締りはして有ります」
「はいはい、おやすみ」
「おやすみなさい」
先生を抱き上げて部屋に行く。
布団に寝転がらせて俺も着替える。
早くも寝息が聞こえてきて残念な気分だ。
ま、仕方ないか。
先生の横にもぐりこみ、ゆっくりなでているうち、いつしか眠りに落ちた。