そして結局今週の水曜日にはお稽古してもらうことになったわけだが。
朝の9時から夕方の6時まで、食事とトイレの休憩を入れてずっと稽古をした。
流石に疲れたが先生はいつもの事だからまったくお疲れではなく。
稽古の後、片付けているとお疲れ様と甘いものをくれた。
「ありがとうございます。嬉しいけどもうメシですよ?」
「あら。じゃ一つにして後は持って帰ると良いわ」
「そうします」
片付け終えて軽く茶室を掃く。
「ご飯よー」
「あっ、はい」
手早く済ませて手を洗い、食卓に着いた。
「あれ、孝弘さんは?」
「でかけちゃったのよ。困るわ。ご飯炊いたのに」
「それはすごく困りますね」
「同じものでよかったら明日の朝食べない?」
「ありがたくいただきます。お弁当嬉しいです」
「助かるわ~」
どうせ明日も仕事は暇に決まってる。
愛妻弁当を見せ付けるオヤジになってやろう。
飯を食って先生にお弁当をつめてもらった。
翌朝出勤し、一仕事してから弁当を食う。うまい。
寒いから傷む心配がない。
料理屋の客に一口食われてしまったがイケる、と言われた。
何か嬉しい。
仕事を終えた後お稽古へ向かい、先生にそう伝えると先生も嬉しそうだ
「今日もじゃあ作ってあげるわね」
「をっ、いいんですか。嬉しいなあ」
笑って頭を撫でて行かれた。
それからお稽古をこなし済んで夕飯をいただく。
お弁当を渡されて帰宅。
翌朝、弁当を使っているとまたも味見をされ、褒められた。
仕事が終わるころ事務と社長が呼ぶ。
「はい?」
「お前、お稽古の先生と行かないか? 芝居」
「何やんの?」
聞くと先生も好きそうだ。
チケットではなく、料理屋が取ってくれる席なので受付に名前を言うだけ。
行けるか先生に電話した。OKだ。
夜はどこ行こうかなー。
忘れちゃいけないのでメモを携帯で撮って先生にメールをしておいた。
帰りにジムへ寄り、一汗流して帰宅すると眠くなりそのまま朝まで寝てしまった。
翌日は土曜とはいえ、流石に二月で暇である。
お稽古にも悠々と間に合い、先生と芝居の後どこへいこうかと言う話で団欒を過ごし。
風呂に入るときに生理がきたことに気づいた。
浴衣を引っ掛けて先にパンツを取りに戻ると怪訝な顔の先生。
「あぁ。そろそろって言ってたわね。汚れ物は?」
「自分で洗います」
「するわよ」
「いや、こういうのはいかんです」
「そう? いいのに」
「じゃ風呂入ってきますね」
昼に洗ってきているが念入りに洗いなおし、下帯の汚れも洗う。
当てるものを当て寝巻を着て、下洗いした下帯を洗濯機に入れると先生が来た。
「一緒に洗うわ」
「いまから? 1時間でしょう? 眠いんじゃ」
「そんなにかかんないから大丈夫よ」
お急ぎモードに設定して回し始めた。
「ほら、体冷えるわよ。来なさい」
「はい」
腕を取られて居間に連れて帰られ、炬燵で温まる。
「眠そうだねぇ。もう寝たら? 絹、布団敷いてきてあげなさいよ」
「そうね、そうするわ」
「すいません」
先生がパタパタと寝間へ消えて、八重子先生がお茶を入れてくれる。
「女は面倒くさいねぇ」
「男が羨ましいですよ。ほんと」
「けどあんた男だったら、ねぇ。同じ布団というわけに行かないからねぇ」
「それはそうですね、無理ですよね」
ははは、と笑って暫くすると先生が戻ってきた。
「布団敷いたから温かいうちに早く寝なさい。ほらほら」
引き起こされ背中を押されて部屋に入り、布団に有無を言わせず押し込まれた。
寝るまで俺の手を取っていてくれてたようだ。
夜半、起きると横でぐっすり寝ている。
起こさないようそっと布団を抜け出したのだが、トイレに行って戻ると起きてた。
「お手水?」
「うん。起こしちゃったね、ごめん」
「いいの。一緒に寝ましょ」
横に潜り込み軽くキスをして先生を寝かしつける。
寝息が心地良く、よく寝れた。
朝、目が覚めると先生が居なくて外では鳥が鳴いている。
どうやら寝過ごしたようだ。
お味噌汁の匂い。
急に空腹を覚えそのまま台所に行くと叱られた。
「こら、もうっ、胸を仕舞いなさい、胸を」
「腹減りました」
「もうすぐ出来るから着替えて待っててちょうだい」
「うっす」
洗顔、トイレを済ませ戻ると食卓にはすっかり用意が整っている。
「お、うまそう」
「言葉が汚くなってるわよ」
「と。失礼、おいしそうです」
座ってご飯をよそってもらい皆で朝飯を食う。
久々の先生の朝ご飯はやはり美味い。
満足していると先生が薬をくれた。
「何です?」
「痛み止め。先に飲んでおきなさい」
「あー…はい」
飲むと眠くなるんだけどな。
「どこか痛いの?」
「あ、まだ痛くないんだけどね、予防だよ」
「ふーん」
何で飲んだか、はわかってないようだ。
恋人が出来たら変わるだろうか。
痛くも眠くもないうちに布団を干したり、洗濯物を畳んだり。
部屋の掃除を終えて先生と買物に出る。
「なんにしようかしら」
先生の視線の先にはレバー。
「俺、レバー食えません」
「あらそう? どうしよう…」
「鉄分なら味噌汁で具を油揚げと卵ってのどうですか。あと意外とお抹茶、多いですよね」
「お抹茶、そんなに多いの?」
「確か60gで一日所要量クリアです」
「……お濃茶15杯も飲むつもり?」
「それはさすがに無理ですが。まあレバー以外でも取れますしね」
「ホウレン草のおひたしもどうかしら」
「この間見たんですが意外と少ないんで小松菜かつまみ菜がいいそうです」
「ええ?」
「あとは大根葉がいいそうですよ。あ、とうがらしの葉が売ってますね」
「どうするの? まさか唐辛子って鉄分多いの?」
「そのまさかですね」
しかしながら何を作ろう、とは思いつかないようだ。
「あ、でも俺、今日は肉じゃが食いたいです」
「そうね、そうしましょ」
先生は決まったとばかりにジャガイモなどを買っている。
「しかし。暗算早いですね」
「なにが?」
「お抹茶のグラム換算」
「あぁ。簡単じゃないの」
「俺、計算苦手だから」
くすっと笑っている。
「お昼は律もお父さんもいないから…丼物するけどいいかしら」
「他人丼を希望します」
「…中身なに入ってるの?」
「牛肉ですよ」
「あ、いつだったか作ってくれたわね」
「どうでしよう」
「うーん」
「…俺が出しますから」
「だったらいいわよ」
昼飯にするには値段が、と言うことだったようだ。
卵と牛スライスを買い足して買物終了。
お昼ご飯を作ってもらっておいしく頂いた。
その後もそう痛みはしなかったので他の部屋を掃除。
先生がお夕飯を作るというので手伝おうとしたら追い払われた
炬燵に押し込まれると眠くなってしまい、少し転寝しているうちにいい匂い。
「あら起きたの? もうできるわよ」
「ん」
食卓の上を片付けて背を丸めていたらおいしそうなおかずが並ぶ。
やっぱり豚肉か。肉じゃが。
今度うちで牛で作ってやろう。そうしよう。
味はちゃんとおいしくて、先生が小皿にとって押し付けてくる野菜などを食べつつ完食。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様。さてと、あんた今日は早く帰りなさいよ」
「はい」
「なんなら一緒に」
「いいですよ。一人で帰れます」
また火曜日にと別れを告げて帰宅した。