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百鬼夜行抄 二次創作

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伶(蝸牛):絹の父・八重子の夫 覚:絹の兄・長男 斐:絹の姉・長女 洸:絹の兄・次男 環:絹の姉・次女 開:絹の兄・三男 律:絹の子 司:覚の子 晶:斐の子

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524

翌日。
仕事の後、先生のお宅で稽古が終わるまで家事をしていると斐さんが来た。
「おじゃまするわよ、あら、お稽古中?」
「こんにちは、どうされたんですか?」
「あぁ山沢さん。お母さんのことでね、一時退院」
「うーん、今日は私じゃお稽古変われないんで…お待ちいただけますか」
「夕飯は作ってきたから大丈夫よ」
「なんなら一緒に食べて行かれます?」
「あら、いいの?」
「先生も大勢がいいってよく言ってらっしゃいますし」
「じゃ遠慮なく」
「とりあえずお茶かコーヒーかどっちがいいですか?」
「コーヒーいただこうかしら」
「渋目かあっさり目かどちらがお好きでしたっけ」
「あっさりがいいかしらね」
「はーい」
戻ると斐さんがご自宅に電話されている。
軽いお菓子とコーヒーをお出しして、それから食事の支度を開始した。
しばらくして斐さんが覗きに来る。
「何作ってるの、手伝うわ」
「豚と水菜の炊いたのですよ。手伝ってくださるならちょっと鍋見ててください」
冷凍庫から味噌漬けを出す。
困ったときのストックだ。
それと万願寺を買ってあったのをじゃこと炊くことにした。
メインはそれで良いだろう。
先生もあまり好きじゃなかった銘柄の酒を沢山入れる。
「そんないいお酒、お料理に使うの?」
「いや私も先生もこの酒好きじゃないので…料理に使う方が良いじゃないですか」
「でもいっぱい入れるのねえ」
「あ、下がっててください、燃やしますから」
「えっ、きゃっ」
さっと青い火が上がり、すぐに赤い火になった。
日本酒はそこまでアルコールが高くない。
「乱暴ねえ、沸騰させるだけでいいのに」
「あれ、そうなんですか? 昔からずっと火を入れてました」
「危ないじゃない」
「まぁそうですけど」
苦笑しつつ料理を続ける。
「意外と手際いいわねえ」
「はは、八重子先生に仕込まれました」
もともと自炊できないわけでもなかったし。
そろそろ支度が終わりそうになったころ、玄関の音。
生徒さんが帰られたようだ。
ご飯が炊けて、食卓を拭いて用意をしていると先生が戻ってきた。
「あら、姉さん。いつの間に来たの」
「もうちょっと前よ、お稽古の邪魔になるから待ってたの」
食卓に配膳する。
「あ、おいしそう」
「山沢さんって結構上手ねえ」
「そうでしょ、おいしいのよ。助かってるわ」
「まぁとにかく食べましょうか、おなかすいてるでしょう?」
「わかっちゃう?」
「わかっちゃいました。どうぞ」
「いただきます」
食事を始めてから先生が斐さんに何で来たのか聞き始めた。
「あぁそうそう、お母さんね、外泊でGWの間どうかしらって先生がおっしゃってるの」
「良いですね、丁度練習になる」
「そうする?」
そうしよう、ということで食事が終わった後、斐さんが帰って行った。
「ごめんなさいね、GW遊ぶって言ってたのに」
「いやぁそんなことより戻ってきてもらうほうが良いでしょう、俺とはいつでも遊べる」
「うん、そうね。じゃあ明日、お母さんのところ行くわね」
「はい」
お風呂に入る前に今日は抱くことにして、先生は翌朝風呂に入られた。
「んー、気持ち良いわ」
「今日も暑くなりそうですね」
「じゃ早めに行こうかしら」
「そうしましょう、用意してきますね」
先生の身支度が整ってから八重子先生の下へ。
3日間の外泊、という形で帰宅してもらうことになった。

GWに入る前の夜。
律君が八重子先生を連れ帰ってきた。
普段通りの生活ができるか、試しにということだ。
それだからいつもの部屋に玄関から歩いて上がることになった。
少し大変そうではあるが危なげ、というほどでもない。
ゆっくりと杖を使って歩き、部屋に入られた。
「やっぱり落ち着くねえ」
「でしょうね、あ、今日は俺、隣の部屋で寝ますから」
「そうしてくれるかい?」
「もちろんです、たぶん大丈夫でしょうけど。見た感じ」
「そりゃあリハビリ頑張ったもの」
「長かったですよねえ」
「嫌になったこともあったけどお手水も自由にいけないのはごめんだからねぇ」
「男の人はそうじゃないらしいですけどね」
とりあえずはいったん居間に戻っていつもの場所へ。
やっぱり収まりが良い。
先生が水屋の片づけから戻ってきた。
「どう? 大丈夫そう?」
心配そうに覗き込んでいる。
「まぁなんとかなるだろ」
「とりあえず、ご飯にしましょうか」
夕飯を食べてゆっくりして。
「そろそろお風呂、どうする?」
「明日のお昼に入るよ」
じゃあと律君と先生が入った。
「あんたは?」
「俺は明日、八重子先生と入ります」
「そうしてくれるの?」
当然だろう。
退院後初めて一人で風呂に入るときは怖いもんだ。
いつものように火の元と施錠を確かめて、八重子先生の隣の部屋に布団を敷く。
先生は八重子先生の部屋に布団を敷いたり寝かせたりしているようだ。
寝る前にトイレに行こうと思うとちょうど先生も出てきたところだった。
「あ、お布団敷いた? じゃ寝ましょ」
俺の部屋に向かおうとするから止めて先生は自分の部屋で寝るよう伝える。
「どうして?」
「俺、横の部屋で寝てますから。ほら、なんとなく心細かったりしません?」
「あら、そうね。じゃそうしてくれる?」
「はいはい、じゃおやすみなさい」
「おやすみなさい」
っと寝る前のキスはしておきたい。
腕をつかんで振り向かせてキスをして、ちょっと胸を揉んだ。
「こら」
こつん、と額を叩かれて笑って離してあげて別れた。

翌朝。
早くに目が覚め、一つのびをして八重子先生の部屋を伺う。
もう起きてらして着替えておられた。
「朝ご飯、作ろうかねえ」
「俺、作りますからいいですよ」
「じゃ見てるだけ」
先生も起き出してきて台所はいっぱいいっぱいだ。
「暑い…」
「二人とも居間に行っててくださいよ、暑い」
狭い台所に三人はさすがにきつい。
先生たちが居間に行って多少気分的にも涼しくなった。
朝飯をとった後、八重子先生がお稽古を、という。
電熱で、ということで用意して先生に俺のお稽古をつけてもらった。
八重子先生が入院してからあまり稽古ができてなかったからずいぶんと直される事に。
少しへこみはしたものの、仕方がない。
それに退院されたら多少先生にも余裕が出て、もっとお稽古つけてくださるはずだ。
何度もお稽古をつけてもらううちにおなかがすいてきた。
八重子先生が気づいたらいなくて台所からおいしそうなにおいがする。
「久さん、よそ見しない」
「はい、すいません」
「まぁでもお昼過ぎちゃったわね…」
気を取り直して点前を終えた。
八重子先生がお昼を食べなさいと呼びに来てお昼ご飯をいただく。
「あぁおいしいわぁ、久しぶりね、お母さんのご飯」
「うん、うまいですよねえ」
「久しぶりに台所に立ったけどやっぱり疲れるね」
「じゃ食べたら寝てください」
「そうさせてもらうよ」
食後、先生が八重子先生を寝かせに行って俺が茶室の片付けをした。
居間へ戻って買い物に行くことを告げる。
「んー、アイス買ってきてくれる?」
「辻利? バニラ?」
「バニラが良いわ」
「了解、行ってきます」
夕飯の献立に従い買い物をして、最後に近所のコンビニでアイスを買って戻った。
「ただいま」
「おかえり、アイスは?」
どうぞ、と渡して台所へ。
ゆったりと休みの開放感を楽しんだ後夕飯を作って八重子先生を呼んでもらい。食事。
それからお風呂。
八重子先生と入った。
できるだけ手は貸さず、見守る。
浴槽へは試行錯誤。
事故もなく風呂から出て居間でくつろぐ。
先生のあくびを契機に寝ることにした。

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523

次の日、仕事が終わってから先生のお宅へ。
挨拶をすると少し照れくさい、と言った表情だ。
いつものように家事をして合間合間にお稽古の様子を伺う。
やはり稽古中は落ち着いて指導されているようだ。
買物へ行って夕飯の支度をする。
もうそろそろご飯が炊けるという頃生徒さん方が帰られた。
茶室へ入って片付けを手伝う。
「今日はなに作ってくれたの?」
「サワラの柚庵と菜の花のおひたしと、あとレンコンの金平。モズク好きですか?」
「もずく? 嫌いじゃないわ」
「それじゃそれもつけましょう。風呂は掃除しておきました」
「ありがと。お茶、飲みたい?」
「飲みたいです」
「薄?濃?」
「どちらでも」
黒楽を先生が取って点ててくれた。たっぷりと濃茶を練って。
「おいしいなぁ…」
俺がもうちょっと欲しい、と思ったのを先生が察してもう一服点ててくれた。
「眠れなくなっても知らないわよ?」
「あぁ、帰るときに安全運転できますね」
「……そうね」
「どうしました?」
「帰っちゃうんだったわね…」
「今日、平日なの忘れてましたか」
あ、顔が赤くなった。
うっかり屋さんめ。
「泊まるのは明日ですよ、明日。寂しい?」
「寂しいわよ。お父さんもいないもの」
「律君はいるでしょ」
「いるわ、でもねぇ…」
「ずっと4人だったから?」
「わかってるなら…ううん、だめね。お仕事だものね」
「俺も一緒に居たいんだけど」
「わがまま過ぎるわよね、ごめんなさい」
「いや、可愛いからいい。それよりGW、俺も3連休なんだけど」
「あ、お稽古は3日から10日までお休みよ」
「了解、じゃ週前半になるね、遊べるの」
「そうね」
暫くGWの予定など話して片づけを終わり、台所へ。
丁度炊けたところだ。
「ただいまー」
ナイスタイミングで律君も帰ってきた。
「手を洗ってらっしゃい、ご飯できてるわよ」
「はーい」
律君がいると一気にお母さんの顔になるな。
食卓に並べてご飯をよそいお味噌汁をつける。
「おいしそうだね、いただきます」
「いただきます」
「はい、どうぞ」
食べてる途中先生が俺のお茶を急いで飲んだ。
「どうしました?」
「鷹の爪噛んじゃったのよ」
「それは災難、熱いお茶じゃ辛いですよね」
空になった湯飲みに注いでまた冷めるのを待つ。
律君はそれを見て鷹の爪をよけて食べている。
「ねぇ、お父さんからいつ帰ってくるとか聞いてないの?」
「うーん。聞いてないけど大丈夫だと思うよ」
「そう…」
しょげているので可哀想になる。
どうしても空気が重くなってしまうなあ。
「きっと孝弘さんの事だからひょっこり何事もなかったかのように戻ってきますよ」
「うん、多分」
「喧嘩したわけじゃないんでしょう?」
「…んー、そうなんだけど。ちょっと怒っちゃったのよね、その前に」
「なにに?」
「ご飯前にお櫃の中身食べられちゃったのよ。時間がないのにって」
「あー…なるほど。でもそれが理由なら二日くらいで戻ってきてるんじゃないですかね」
「大丈夫だって、お母さんは心配しすぎだよ」
「そう?」
「疲れてるんですよ、ほら、さっさと飯食ってゆっくり寝ちゃいましょう」
「そうしたら?」
「なんだったらマッサージもしますよ?」
「今日はいいわよ」
あまり食欲のない先生もなんとか食べ終えて、風呂へ。
「洗ってあげますよ」
「山沢さんって本当にお母さんに甘いよね」
「そりゃあね」
にっと笑って先生を風呂に入れる。
肩が凝っているようだ。
洗うついでにゆっくりとほぐしすと先生はうっとりとしている。
「疲れが取れるわねえ」
「また温泉行きたいですね」
「そうね、お母さんが帰ってきてからね」
「沢山なかせてあげる」
「ば、ばか…」
「可愛いな、好きだよ」
「もぅ」
恥ずかしがっているが本当に可愛いんだから仕方ない。
のぼせないうちに風呂から出て律君が入った。
「アイス食べたいわ~」
「はいはい、バニラがいい?」
「買ってきてくれるの?」
「俺も食いたいから」
「じゃ律の分もお願いね」
近所のコンビニへちょいと行って、いくつか買って帰った。
「はい、どっちがいいですか?」
ソフトとカップアイスを出す。
先生はソフトを取った。律君はチョコ。
俺は抹茶。うまい。
「辻利?」
「いぇーす」
「明日買ってきて」
「なんだ、食います?」
「食べかけはいらないわよ」
「俺ちょっと先生のそれ食べたいなあ」
ひょいと一匙、俺の口へ入れてくれた。
「うん、あっさりしててうまい。あー、俺は明日はシャーベットにしよう」
くすくす笑っている。
「明日寒かったらどうするの」
「そりゃあ温かいココアでも作りますよ」
食べ終わって先生があくびをしている。
「もう寝ますか?」
「あなた帰るんだったわね。見送るわ」
「律君、先生の布団敷いといて」
「あ、はい。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
羽織を着て鞄を持って玄関へ。
「じゃあまた明日」
「待ってるわね」
「おやすみなさい」
「おやすみ。気をつけて」
別れて帰宅した。

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522

朝になって色々と支度をして。
結構大変だ。流石に一人で全部することは滅多になかったから。
炭も今一だが仕方ない。
朝食時、律君が驚いていたので夜中に戻ってきたことを話す。
ちょっと不審そうだ。
しょうがないじゃないか、俺は連絡ついて休めたけど先生はかわりがいないんだから。
朝イチの生徒さんが来る前に様子を見に行って、それからお稽古に入る。
先生は疲労がたまってお休み、と言うことにした。
お昼前、生徒さん達が帰られてもう一度様子を見に行く。
障子を空けたら先生が這っていた。
「…どうしました」
「あ。いたの…お手洗い、お願い」
「なるほど」
ひょいっと担ぎ上げてトイレへ連れて行く。
さっき目が覚めて尿意を覚えたものの、立てなくて這っていこうとしていたらしい。
おまるでも用意しようかな。今度から。
流石にそれは怒られてしまった。
お腹はすいてない、と言うので空いた時に食べられるようパンを枕元に用意して。
俺は朝の味噌汁で汁掛け飯でかっ込み、昼からのお稽古へ。
途中一度見に行ってトイレに連れて行き、お稽古が終った夕方。
やっと先生が居間へ出てきた。
「大丈夫ですか?」
「ちょっとまだ力はいらないけど…あなたねえ…」
「すいません」
「まぁ、いいわ。それでお夕飯どうするの?」
「いまから買物行くつもりです」
「じゃあ…」
春キャベツにアスパラ、新玉葱等々時期の野菜を頼まれた。豚肉と。
炒め物かな。
買物して帰ってくると先生がなにを買ってきたか確認、やはり炒め物だ。
副菜を指示して先生は居間へ、俺は台所。
献立を考える能力はやはり先生に劣る。
先生は主婦している年月が違うというが…。
作り終えて食卓へ持って出た。
「律、まだかしら」
先生のお腹がなっている。
「先食べて良いですよ」
「もうちょっと待つわ…」
「食べなさい。昨日の晩も今朝も食ってないだろ」
「お昼食べたわよ」
「パンだけだろ? 食え。冷めたらまずくなる」
ご飯とお味噌汁を渡して食べさせる。
「なんだか変な気分だわ」
「ん?」
「先に食べることって普段ないじゃない?」
あぁそうか、確かにいつもなら八重子先生か孝弘さんか律君か、揃って食うよな。
ちょっと頭をなでてみた。
「食べにくいわよ…」
照れてる照れてる、可愛いな。
そっと頬に手をやってこっちに向けた。
先生が目を瞑る。
キスしようと顔を近づけた。
「ただいまー」
うぉっと!
慌てて先生が離れて、湯飲みをひっくり返した。
「あっ」
「うわっ」
慌てて手ぬぐいで拭いてそれから先生が台布巾で拭いて。
「どうしたの?」
「お、おかえり、ちょっとね」
「袖で湯のみひっくり返しちゃってね」
「珍しいねー」
「そうだね、手を洗ってらっしゃい。ご飯食べよう」
「はい」
「ほら、先生。布巾下さい。洗ってくるから」
はい、と渡されて台所へ。
ぬるくて助かったな。
俺と律君の味噌汁を温めて出す。
先生は食卓の上を整理してごはんをよそってくれている。
「さてと、いただこうか」
「いただきます」
少なめに作ったはずだけどやっぱり残ってしまった。
「お弁当にするわね」
「はい。あ、風呂洗ってない。洗ってきます」
「シャワーで良いわよ、暖かいし」
「律君はそれで良い?」
「あっはい」
先に勧めて俺は洗い物。先生は茶室へ行った。
一応のため確認しに行ったのだろう。
洗い物がすんでも戻ってこないので様子を見に行くとぼんやりと座って外を見ている。
「どうしたの?」
「ん、ちょっと…」
「春宵一刻値千金。いい夜だね」
「そうね…」
「飲む?」
「いただこうかしら」
台所から徳利と猪口を持ってきた。
一口、二口。
「ねぇ、あなた朝からすべて用意したの初めてだったわよね。どうだったかしら」
「大変でした」
「でしょ? わかったら次からあんなのダメよ」
「はい、すいません」
だけどなぁしたいときがあるんだよな。
「それと…お母さん退院したらお部屋掃除してあげるわね」
「あー。見ちゃったんですね」
「見ちゃったのよ」
くすくす笑っている。
「じゃあお願いします」
「お願いされました」
先生が俺にもたれて外を見ている。
暫くゆったりとしていると律君がお風呂出たよ、と声を掛けてきた。
危ねえ。胸を触ってなくて正解。
「あなた先入りなさい。明日お仕事でしょ」
「はい、じゃすみませんがお先に」
徳利は私が片付けるから、と追い払われた。
シャワーを浴びてすっきりして出ると先生はまだお猪口片手に茶室にいた。
「出ましたよ?」
「あら、もう出たの? ちゃんと洗った?」
俺の頭を掴んで匂いをかいでいる。
「匂がなくても」
「におがないってなぁに?」
「へ? におぐがわからない? 嗅ぐことですけど」
「初めて聞くわね」
「えっ、言わないんですか? マジで?」
「言わないし聞かないわよ」
「え~」
「方…なんでもないわ、お風呂入ってくるわね」
「はい、いってらっしゃい」
多分方言って言おうとしたんだな。そんで俺が気を悪くすると考えたんだろう。
そそくさと風呂へ逃げていった。
やれやれ、と徳利に残った酒を飲み干して台所へ。
洗って片付けて。
居間でテレビを見て先生が出るのを待つ。
暫くすると先生が戻ってきて俺の頭を一発叩いた。
「ちょ、なんですか」
赤面して顔を背けている。
「あと……」
微かな声でそう言った。
なるほどね、昨日強くしてたから噛んだ痕か吸った痕か掴んだ痕があったと。
思い出して恥ずかしくなっちゃってるのかね、これは。
「昨日は楽しかったなぁ。またしたいな」
更に一発どつかれてしまった。
「叩かんでくださいよ」
「だって…」
気配を探って律君が近くにいないことを確認する。
先生の頤に手を掛けてキスをし、にっと笑うと先生は下向いてしまった。
「かわいいね」
「もう…。帰りなさいよ。ばか…」
そっと胸に指を這わす。
「だめよ…、こら、こんなところで」
「静かに。聞こえますよ?」
「だったら止めてちょうだい、ね、お願い、よして」
湿った肌を堪能し、乳首を軽くしごいて立たせた。
「じゃ、そろそろ俺は帰りますね」
「えっ」
「また明日」
「そんな」
「続き、して欲しいのかな?」
「あっ、その、ううん、しないで、下さい」
胸元をぎゅっと押さえ堪えてる風情が凄く色っぽくて。
「あさって、またしましょうね」
先生は頬を染めたまま、こくりと頷いた。
玄関まで見送ってくれて別れて今日は電車で帰宅した。
明日は電車でこっちへ来なくては。

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ある日

あるお稽古の日、飯島先生が山沢さんに強く叱った。
山沢さんは怒ったようで先生をにらんでいて室温が下がったような気がした。
こわい…。


なのに先生は顔を洗ってきなさい、と更に強く畳みかけた。
「失礼しました」
ふっと空気が変わり山沢さんが出て行く。
みんなで息をついた。


「先生、怖くないんですか?」
「言うべきことは言わなきゃだめなのよ。怒るのは修行が足りないの」
にこっとしておっしゃる。


先生は強いなぁ。
見習いたいな。




生徒さんたちが帰った。
そっと台所を覗くとふてくされた顔をして久さんがご飯を作っている。
「ねぇ…さっきはごめんなさい。怒ってるわよね」
「いや、いい」
ぴりぴりとした気配に怯えつつ背中に触れてみた。
「お稽古のときは俺はあんたに従います。でも腹が立つのは仕方ないだろ」
ぶっきらぼうにそう言いつつ、振り払わないでいてくれる。
「ごめんね」
「そろそろ孝弘さん呼んでください。もうできますよ」
少し気配が柔らかくなってほっとした。

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521

そして月曜も引き止められては諦めさせて火曜日になった。
今日は泊まっていくのよね、と何度も念を押されてしまって少し困惑する。
こんなに依存心高かったかな。
いつものようにお稽古に家事や掃除などをこなして寝床へ。
「ねぇ久さん」
「なんです?」
何か言いにくそうにしている。
「あの…。ええと…」
手拭を押し付けられた。
なんだ?
どうやら猿轡をご希望のようだ。なんだそりゃ。
今日は強めにして欲しくて、でも声を立てるのはいやだし。
かといって余り噛みすぎると俺にあざを作るしと。
「ん? あぁ、そうか、生理前か。違います?」
そういうことなら仕方ない。
襖と障子の家では筒抜けだもんね、律君には聞かせたくないよな。
と言うことでここは一つ。
起こしてコートを着せ、律君にちょっと飲みに行く、と声掛けをして外へ出た。
先生はほっとした顔で俺に着いてきた。
あちらの部屋に入ると流石に少し篭った空気だ。
最近来る暇がなかったから仕方ない。
風通しをする間、少し酒を飲んだ。
先生はとっても恥ずかしそうにしている。
そりゃそうだろう、あんなお願いを自分からするのは先生には恥ずかしくて当然だ。
そんな先生が可愛くてキスをした。
そのまま押し倒してと思ったら流石に押しのけられた。
ああ、うん。窓閉めないとね。
窓を締めて先生が寝巻きを脱いでベッドに入る。準備完了。
さてと久々の本気の一戦…ん?
「ちょっと待った。あなた明日お稽古に行くって言ってなかった?」
「いいの、そんなの」
いいのかそうか。
そんじゃまぁ、いただきまーすっ。
とはいえ、俺の方には明日お稽古に行くといってた事実は残っており、
体力を奪いすぎないよう気をつける必要はあった。
多分こんな理由でお稽古休ませちゃったら八重子先生から鉄拳飛んでくるよ。
翌朝、寝ている先生を置いて戻り、朝食の支度など家事をする。
そして適当な時間に先生を起こして軽く食事、着替えさせた。
後は車に乗せて、れっつらごー。
先生は後ろで寝息を立てているようだがまあ大丈夫だろう。
目的地に程近いところで一旦車を止めて先生を起こした。
「ん、あら? もうこんなところ?」
「うん、後15分ほどで時間ですよ。しゃんとしてください」
あふ、とあくび一つ。
人目のないのを確認してキスを落とした。
「こら」
「ふふ、目が覚めましたか?」
「覚めたわよ。もうっ」
恥ずかしがってて可愛いなー。
そんなわけでお稽古に先生が行ってしまい俺は少々手持ち無沙汰。
と言うか眠い。
なんせ昨日は遅くまで色々してたわけで。
先生の携帯にとりあえず一旦帰宅する旨をメールし、少し寝た。
終ったらメールくれるから迎えに行けばいい。
と思ってたのだが熟睡してしまったようだ。
目が覚めたら先生が横で寝てた。
うーん、いい匂い。甘くて苦味…あれ? いつもと違う匂いだぞ。
ハッと目が覚めて先生を揺り起こす。
「ちょっと、絹、おい」
「ん…? どうしたの…」
「誰の匂いだ? これは」
「どうだっていいじゃないの…」
また寝息を立て始めた。
どういうことだってばよ。どうだってよくねえよ。
まさかと思って脱がせて見たがキスマークはないようだ。
だが俺と同じように念を入れている奴ならつけるまい。
膝を開かせようとしたら目が覚めたようだ。
「んー…、するの? いいけど眠いわ…」
「じゃなくて。この匂いは何なんだって言ってるんだが?」
俺の雰囲気が剣呑なのに気づいて先生がやっと目を覚ましたようだ。
「匂い? あ…、これね? 送ってもらったのよ。ここまで」
「誰にだ?」
「お稽古で一緒になる方よ。月島へ行くんですって」
「それだけでこんなに匂いつくのか?」
「車の中、凄い強く香ってたから匂い移りしたのねぇ。あらやだ、嫉妬したの?」
「男?」
「女の人よ、大丈夫。それにそんなことになってたらここに来ると思うの?」
「だったらいいけど」
そう言って足を開かせ、舐める。
「ダメよ、長襦袢が…」
「じゃ脱いで」
つーかすでに皺がひどいんだが。
汚れるのはいやなんだそうだ。
ベッドの横に脱ぎ落として先生は俺を受け入れる。
昨日よりも激しく。
先生が声を立てることも出来なくなったころ、やりすぎたことに気づいた。
外も暗い。いったい何時だ。
23時半…しまった。どうしよう、無断外泊じゃないか。
律君、起きているんだろうか。
慌てて電話するとまだ起きていたようで俺の言い訳を信じてくれた。
しかし…まいったな。
多分明日の昼過ぎて回復するかしないか、だぞ。
八重子先生がいれば夕飯に間に合えばいい程度だがいないしお稽古はあるし。
困惑しつつ考える。解決策は…。
よし! 社長に電話して今から先生のお宅へ行こう。
明日の朝の支度は俺がすればいい。
確か生徒さんもまだ初級、俺でいけるはず。
そう決断して社長に電話した。
社長は俺の状況を知っていてくれたので簡単に許可が出た。
考えなしすぎたよ…。
ちょっと反省しつつ、寝ている先生に寝巻きを着せて担いで車に乗せる。
死体運びをしているようで人に見られては困る状況だ。
ちゃんと先生は暖かいんだけどね。
先生を物のように運ぶのは何度目だろう。
お宅に着いて運び込んで、布団に寝かせる。
寝息を立てていることに安心して俺は添い寝をした。

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